特許第6336737号(P6336737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336737
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】水晶振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   H03H9/19 F
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-237379(P2013-237379)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-89093(P2015-89093A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植田 敏嗣
(72)【発明者】
【氏名】大井川 寛
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−260692(JP,A)
【文献】 特開2000−295065(JP,A)
【文献】 国際公開第98/038736(WO,A1)
【文献】 特開平02−260910(JP,A)
【文献】 実開昭61−075629(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶素板の主面に励振用の電極を持った厚み滑り水晶振動子において、前記主面の一主面あるいは両主面の励振用電極上に、外周から中心に向かって徐々に間隔 が狭くなるように、複数の凸型電極が形成されていることを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
凸型電極は、水晶素板の厚みの2〜10%に相当する厚さに対して凸型電極と水晶の密度の比を掛けた一定の厚さである請求項1記載の水晶振動子。
【請求項3】
凸型電極の形状を、外周から中心に向かって徐々に幅が広くなる同心円または同心楕円のリング状とした請求項1記載の水晶振動子。
【請求項4】
凸型電極の形状を、厚み滑り振動の変位方向と直交する方向に一次元的に周囲から中央に向かって幅が徐々に広くなる複数の帯状とした請求項1記載の水晶振動子。
【請求項5】
リング状あるいは帯状の凸型電極において、夫々の幅を一定とし、隣り合う凸型電極間の隙間を外周から中心に向かって徐々に狭めた請求項1記載の水晶振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水晶振動子に関し、特にATカットの水晶振動子に関するもので、簡単な構成で誘導性リアクタンスと抵抗の比(以下「Q」と書く)の高い水晶振動子を得る事を図るものである。ATカットの水晶振動子はBTカットの水晶振動子と比較して、共振周波数の温度依存性が低く、多方面で使用されている。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子を用いた発振回路は、水晶発振子の共振周波数によって定められた周波数で発振を行うため、上記のように温度依存性の低い水晶発振子は発振回路の周波数安定に寄与する。そして水晶発振子の厚みによって決定され、結晶の質量の大きな部分に振動エネルギーが集中する。
【0003】
つまり水晶振動子の結晶に電極を構成した場合、その電極部分の質量が大きいため、この部分にエネルギーが集中する。従って水晶振動子の中心部分にエネルギーを集中させる事によってエネルギーの無駄を排除し、もってQ値を高くすることができる。このような技術として、特許文献1に開示されたものがある。
【0004】
特許文献1に開示されたものは、円形の水晶の結晶の両面に多層の円形の電極を設け、多層の電極は上層のに行くに従って直径が小さくなっている。これによって、中心部の厚さが厚くなり、電極下に振動エネルギーを閉じ込め、結果としてQ値を高くするようにしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、生産に際して電極を多層に形成する必要があり、生産に際しては薄膜を形成する工程すなわちスパッタリングやを蒸着などを複数回行う必要がある。このため生産性が低く、コストも高くなるという問題がある。特許文献2に開示された技術は、電極が1層のみであり、上記のような問題がない。しかしながら、特許文献2に開示された技術では、水晶表面を直接加工する必要があった。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−308645号公報
【特許文献2】特開2013−070351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の説明のとおり特許文献1に開示された従来の水晶振動子は、Qを高くする効果はあるものの、生産性が低いという問題があった。
【0008】
また特許文献2に開示された従来の水晶振動子は、Qを高くするとともに、生産性が高いものであるが、さらに高い生産性が求められている。
【0009】
本発明は以上の点に着目し、Qを高くするとともに、電極形成の工数が少なく、生産性の高い水晶振動子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するため、本発明の水晶振動子は、水晶素板の主面に励振用の電極を持った厚み滑り水晶振動子において、前記主面の一主面あるいは両主面の励振用電極上に、外周から中心に向かって徐々に間隔 が狭くなるように、複数の凸型電極が形成されていることを特徴とする。また、凸型電極は、水晶素板の厚みの2〜10%に相当する厚さに対して凸型電極と水晶の密度の比を掛けた一定の厚さとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水晶振動子は、水晶振動子の中心部分にエネルギーを集中させる事によってエネルギーの無駄を排除し、もってQ値を高くすることができ、さらに水晶振動子の中心部分にエネルギーを集中させる手段として、特定の厚さの電極を外周から中心に向かって徐々に幅が狭くなるようにしたため、電極形成が容易となる。
【0012】
つまり本発明の水晶振動子は、特定の厚みの電極を形成すれば良い為、生産性が高い。また電極の幅を変えるためには、半導体製造において従来から利用されているフォトレジストを用いたウェットエッチングまたはリフトオフプロセスによって形成することが可能で、従来よりある設備をそのまま使用することができる。
【0013】
電極の加工は、上記のように励振電極上にメッキまたはスパッタリング、蒸着等で金属を成膜し、その後、半導体製造において従来から利用されているフォトレジストを用いたウェットエッチングまたはリフトオフプロセスによって形成することが可能であり、これらの生産方法は既に高い生産性が確立しており、生産が容易である。
【0014】
さらに本発明の水晶振動子は、電極を形成する材料として、アルミニウムやニッケル、クロム、金などの多様な金属を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】 本発明の水晶振動子実施例1の断面図である。
図2】 本発明の水晶振動子実施例1の平面図である。
図3】 本発明の水晶振動子実施例2の平面図である。
図4】 本発明の水晶振動子実施例3の平面図である。
図5】 本発明の水晶振動子実施例4の断面図である。
図6】 本発明の水晶振動子実施例5の断面図である。
図7】 本発明の水晶振動子実施例6の断面図である。
図8】 本発明の水晶振動子の共振周波数の調整を示す断面図である。
図9】 本発明の水晶振動子の凸型電極の幅と共振周波数との関係を示すグラフである。
図10】 従来の水晶振動子のマルチチャンネル化を示す断面図である。
図11】 従来の水晶振動子のマルチチャンネル化を示す断面図である。
図12】 本発明の水晶振動子のマルチチャンネル化を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の請求項1に記載の発明は、水晶素板の主面に励振用の電極を持った厚み滑り水晶振動子において、一主面あるいは両主面の励振用電極上に、水晶素板の厚みの2〜10%に相当する厚さに対して凸型電極と水晶の密度の比を掛けた一定の厚さで、尚且つ外周から中心に向かって徐々に幅が狭くなる複数の凸型電極が形成され、これによって水晶振動子の中心部分にエネルギーを集中させ、Qの高い水晶振動子を得ることができる。
【実施例1】
【0017】
以下本発明の水晶振動子の実施例について図に沿って詳細に説明する。図1は本発明の水晶振動子の実施例1を示す断面図である。ここで1は水晶素板であり、この両面に励振電極2が形成されている。この励振電極2はスパッタリングや蒸着などの薄膜形成技術によって形成される。
【0018】
3は凸型電極であり、この凸型電極3は、励振電極2上に半導体製造において従来から利用されているフォトレジストを用いたウェットエッチングまたはリフトオフプロセスなどの圧膜技術によって形成することが可能である。
【0019】
凸型電極3の厚さは、励振電極3下の水晶素板1の2〜10%程度に相当する厚さに、凸型電極3と水晶素板1の密度比を掛けた厚さ、すなわち数1で示す厚さが適している。また図1に示すように凸型電極3のピッチPは幅Wにかかわらず一定である。
【数1】
【0020】
凸部電極3は材料となる金属はアルミニウムやニッケル、クロムなど特に制限は無いが、化学的安定性の観点から金が良い。励振電極2の材料は、従来から用いられている金またはアルミニウムを用いる。金を用いる場合、バッファー層としてクロムやチタン等を使用する必要がある。凸部電極3は単純に錘として機能するため導体である必要が無く、金属酸化物、窒化物、あるいは有機物で構成することも可能である。
【0021】
図2に示すように、方形の水晶素板1の上に楕円形の励振電極2を形成し、その上に同心楕円の凸部電極3を形成する。水晶素板1は、この例では方形であるが、楕円や円でも実現可能である。
【0022】
図3は実施例2を示す。図3に示すように、方形の水晶素板1の上に楕円形の励振電極2を形成し、その上に縞状の凸部電極3を形成することも可能である。
【0023】
図4は実施例3を示す。図4に示すように、方形の水晶素板1の上に方形の励振電極2を形成し、その上に縞状の凸部電極3を形成することも可能である。
【0024】
図1の実施例1の断面では、水晶素板1の両面に励振電極2を形成し、その上に凸部電極3を形成する例を示した。それ以外に、実施例4として図5を示す。この実施例4のものは、水晶素板1の両面に励振電極2を形成し、その片面に凸部電極3を形成している。この実施例4のものは、凸部電極3の形成が片面のみでよいため、生産性が高い。しかし、温度変化によって水晶振動子が反る可能性があり、これによって温度特性が実施例1のものよりも悪くなる。よってこの実施例4のものは、温度特性がやや劣っても安価なものが求められる場合に適している。
【0025】
図6は実施例5を示す。図6に示すように、水晶素板1の両面に励振電極2を形成し、その上すなわち水晶素板1の両面に凸部電極3を形成しているが、実施例1との相違点は凸型電極3のピッチPが一定でなく連続的に変化し、凸部電極3の幅Wが一定である点である。
【0026】
図7は実施例6を示す。図7に示すように、水晶素板1の両面に励振電極2が形成され、この上に凸部電極3が形成されているのであるが、形成された励振電極2が分割されている。この分割部分を適切にすることによって、奇数次のインハーモニックオーバトーンのレスポンスが抑制でき、効率が良くなる。
【0027】
以上の実施例すべてにおいて、図8に示すように凸型電極3のそれぞれの幅Wを一定の割合で細くすることで,電極の厚さを変化させること無く共振周波数を変化させることができる。この周波数の変化量は凸型電極3の縮小比と線形の関係となる。約18MHzの共振周波数を持った振動子を例とした解析結果では,縮小比を1から0.5まで変えることで共振周波数を2%以上変化することができた。この様子を図9に示す。
【0028】
水晶振動子を一枚の水晶板に複数の励振電極組を設けてマルチチャンネル化する場合は、図10に示すように十分に間隔を開けてチャンネルごとの影響を少なくするか、図11に示すように各電極毎に例えばチャンネル2の電極の厚さをチャンネル1の電極の厚さより薄くして共振周波数を微妙にずらす必要がある。前者の方法では小型化に向かない。後者の方法、全電極を個別に成膜する必要があるため生産性が低い。
【0029】
本発明の水晶振動子では、高いエネルギー閉じ込め効果が期待できるため、チャンネル間の距離を近づけることができる。加えて、各凸型電極3幅を数%ずつ細くしたパターンにすることで凸型電極3の厚さを変えること無く共振周波数をシフトすることができるため、図10及び図11に示す従来例のものより接近させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の水晶振動子は、以上のように水晶素板1の上に設けた凸型電極の形状を種々調整することによって、所望の共振周波数でQの高い水晶発振子を得ることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 水晶素板
2 励振電極
3 凸型電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12