【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る密封装置を備えた車輪用軸受の第1の実施形態を示す縦断面図、
図2は、
図1の一方の密封装置を示す断面図、
図3(a)は、
図2の密封装置の変形例を示す縦断面図、(b)は、(a)の要部拡大図、
図4(a)は、
図3の密封装置の変形例を示す縦断面図、(b)は、(a)の要部拡大図、
図5(a)は、
図3の密封装置の他の変形例を示す縦断面図、(b)は、(a)の要部拡大図、
図6(a)は、
図3の密封装置の他の変形例を示す縦断面図、(b)は、(a)の要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図1の左側)、中央寄り側をインナー側(
図1の右側)という。
【0025】
この車輪用軸受1は車輪用軸受装置に用いられる第1世代と称されるもので、内周に複列の外側転走面2a、2aが一体に形成された外方部材(外輪)2と、外周に前記複列の外側転走面2a、2aに対向する内側転走面3aが一体に形成された一対の内輪3、3と、両転走面間に収容された複列の転動体(ボール)4、4と、これらの転動体4、4を転動自在に保持する保持器5、5と、外方部材2と一対の内輪3、3との間に形成された環状空間の開口部に装着された密封装置6、7とを備えている。
【0026】
外方部材2はSUJ2(JIS G 4805)等の高炭素クロム軸受鋼、あるいは浸炭鋼からなる。高炭素クロム軸受鋼の場合は820〜860℃でズブ焼入れされた後、160〜200℃で焼戻しされ、58〜64HRCの範囲に芯部まで硬化処理されている。また、浸炭鋼の場合は、表面が58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。一方、内輪3も外方部材2と同様、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼、あるいは浸炭鋼からなり、高炭素クロム軸受鋼の場合は58〜64HRCの範囲に芯部まで硬化処理され、浸炭鋼の場合は、表面が58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、転動体4はSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで62〜67HRCの範囲に硬化処理されている。
【0027】
この車輪用軸受1は、一対の内輪3、3の小端面3b、3b同士が突き合された状態でセットされ、複列のアンギュラ玉軸受を構成している。また、密封装置6、7によって、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0028】
なお、ここでは、車輪用軸受1として転動体4にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成されたものを例示したが、これに限らず転動体4に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成されていても良い。
【0029】
密封装置6、7のうちアウター側の密封装置6は、固定側部材となる外方部材2のアウター側端部の内周に所定のシメシロを介して圧入された芯金8と、この芯金8に加硫接着により一体に接合され、合成ゴム等で形成されたシール部材9とからなる一体型のシールで構成されている。
【0030】
また、インナー側の密封装置7は、
図2に拡大して示すように、互いに対向配置され、断面が略L字状に形成された環状のシール板10と、断面が略コの字状に形成されたスリンガ11とからなる複合型のシール、所謂パックシールで構成されている。シール板10は外方部材2に装着される芯金12と、この芯金12に加硫接着により一体に接合されたシール部材13とからなる。
【0031】
芯金12は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)や防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)等の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて断面略L字状に形成されている。この芯金12は、外方部材2に圧入され、端部が僅かに縮径されて薄肉に形成された円筒状の嵌合部12aと、この嵌合部12aから径方向内方に延びる内径部12bとを備えている。そして、嵌合部12aの先端部を覆うようにシール部材13が回り込んで接合され、ハーフメタル構造をなしている。これにより、適切な嵌合力を確保することができると共に、シール部材13の圧着により嵌合面から泥水等が浸入するのを防止して気密性を高めることができる。
【0032】
シール部材13は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ13aと、このサイドリップ13aの内径側に二股状に形成されたダストリップ13bとグリースリップ13c、およびサイドリップ13aの外径側に径方向外方に傾斜して延びる補助リップ13dとを有している。そして、シール部材13は芯金12の嵌合部12aの端部外表面から内径部12bの内縁まで回り込んで固着されている。なお、シール部材13の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、EPM、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0033】
一方、スリンガ11はオーステナイト系ステンレス鋼板や防錆処理された冷間圧延鋼板等の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて断面略コの字状に形成され、内輪3の外径面3cに圧入される円筒部11aと、この円筒部11aから径方向外方に延びる立板部11bと、この立板部11bの外縁部からアウター側(軸受内方側)に延びる円筒状の鍔部11cとを備えている。そして、シール部材13のサイドリップ13aが立板部11bのアウター側(軸受内方側)の側面に所定の軸方向シメシロを介して摺接されると共に、ダストリップ13bとグリースリップ13cが円筒部11aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。また、スリンガ11における鍔部11cは、シール板10と僅かな径方向すきまを介して対峙され、ラビリンスシール14が形成されている。
【0034】
本実施形態では、シール板10のインナー側(軸受外方側)の端面とスリンガ11の立板部11bのインナー側の側面が略面一に設定されると共に、これらの面が外方部材2の端面2bおよび内輪3の大径側端面(大端面)3dとそれぞれ面一に設定されている。これにより、密封装置7を外方部材2と内輪3との間に装着して位置決め固定する際、簡単な圧入治具で対応することができ、組立性を向上させることができると共に、位置決め精度を高めることができ、所望の密封性を確保することができる。なお、ここでいう「略面一」の略とは、例えば、設計の狙い値であって実質的に段差がない状態、すなわち、加工誤差等によって生じる段差は当然許容されるべきものである。
【0035】
ここで、シール部材13の補助リップ13dの先端部がスリンガ11の鍔部11cの端面と僅かな軸方向すきまを介して対峙され、ラビリンスシール15が形成されている。この軸方向すきまδは0.2〜0.8mmの範囲に設定されている。なお、軸方向すきまδが0.2mm未満では、各部品の寸法バラツキや組立誤差等によって両者が接触して補助リップ13dが摩耗する恐れがあり、また、0.8mmを超えるとラビリンスシールとしての効果が半減して好ましくない。この種のラビリンスタイプでは、耐泥水性よりも低トルクが重視されるような場合に適用される。これらの適用は、使用環境下や求められる特性、ラビリンスシール14との関係等で適宜選択される。例えば、ラビリンスシール14との関係においては、耐泥水性を向上させるためには、このラビリンスシール14を小さくすることで対応することができる。
【0036】
このように、スリンガ11の鍔部11cとシール板10との間にラビリンスシール14が形成され、そのラビリンス長さがスリンガ11の板厚分に止まらず、鍔部11cの長さ分だけ幅広い環状領域に亙って形成されているので、強固なラビリンス効果を発揮することができると共に、補助リップ13dの先端部とスリンガ11の鍔部11cの端面との間にラビリンスシール15が形成されているので、シール部材13の製造を困難にすることなく、組立時のリップ捲れ込みを防止し、外部から泥水等が軸受内部に浸入するのを効果的に防止することができ、耐泥水性を高めて密封性能を向上させた密封装置7を提供することができる。なお、外部からラビリンスシール14を通過して泥水が浸入したとしても、さらなるラビリンスシール15によって内部への浸入を抑え、サイドリップ13aの摩耗を防止することができると共に、例え内部に泥水が浸入したとしても、補助リップ13dが径方向外方に傾斜して形成されているため、遠心力によって泥水が容易に外部に排出させることができ、長期間に亘って当初の密封性を確保することができる。
【0037】
なお、ここでは、シール部材13の複数のシールリップが、サイドリップ13aとダストリップ13bおよびグリースリップ13cで構成されたものを例示したが、これに限らず複数のシールリップで構成されていれば良く、例えば、図示はしないが、一対のサイドリップとグリースリップで構成されたものであっても良い。
【0038】
図3(a)に示す密封装置16は、前述した密封装置7(
図2)の変形例である。この密封装置16は、基本的には前述した密封装置7と補助リップ13dの構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0039】
密封装置16は、互いに対向配置され、断面が略L字状に形成された環状のシール板17と、断面略コの字状に形成されたスリンガ11とからなるパックシールで構成されている。シール板17は、芯金12と、この芯金12に加硫接着により一体に接合されたシール部材18とからなる。シール部材18は、NBR等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ13aと、このサイドリップ13aの内径側に二股状に形成されたダストリップ13bとグリースリップ13c、およびサイドリップ13aの外径側に径方向外方に傾斜して延びる補助リップ18aとを有している。そして、シール部材17のサイドリップ13aが立板部11bのアウター側の側面に所定の軸方向シメシロを介して摺接されると共に、ダストリップ13bとグリースリップ13cが円筒部11aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
【0040】
ここで、本実施形態では、前述した実施形態と同様、スリンガ11の鍔部11cとシール板17との間に環状のラビリンスシール14が形成されると共に、補助リップ18aの先端部がスリンガ11の鍔部11cの端面19に所定のシメシロを介して摺接されている。低トルクよりも耐泥水性が重視されるような場合に適用されるものにおいては、補助リップ18aは、従来のように、円筒部(鍔部)の内側面に摺接されているのではなく、鍔部11cの端面19、具体的には、
図3(b)に拡大して示すように、端面19の外径側の角部に摺接されている。これにより、前述した実施形態と同様、組立時のリップ捲れ込みを防止しつつ、補助リップ18aによって内部への泥水の浸入を抑え、サイドリップ13aの摩耗を防止することができると共に、泥水が内部に浸入した場合でも容易に排出させることができる。
【0041】
図4(a)に示す密封装置20は、前述した密封装置16(
図3)の変形例である。この密封装置20は、基本的には前述した密封装置16と補助リップ18aの構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0042】
密封装置20は、互いに対向配置され、断面が略L字状に形成された環状のシール板17と、断面略コの字状に形成されたスリンガ11とからなるパックシールで構成されている。前述した密封装置16において、運転中のスリンガ11の回転により、補助リップ18aの側面が鍔部11cの端面19の角部によって削られ、
図4(b)に示すように、補助リップ18a’と鍔部11cの端部との間に略L字状のラビリンスすきま21が形成されている。これにより、耐泥水性を確保することができると共に、密封装置20の回転トルクが低減できる。
【0043】
本実施形態のように、補助リップ18aの側面がスリンガ11の鍔部11cの端面19に初期の段階では摺接する構造であっても、運転中のスリンガ11の回転により補助リップ18aが摩耗し、その側面と鍔部11cの端面19との間に僅かな軸方向すきまを有するラビリンスシールが形成されるため、前述した実施形態(
図2)と同様、ラビリンスシールによって内部への浸入を抑え、サイドリップ13aの摩耗を防止して耐泥水性を向上させることができる。
【0044】
図5(a)に示す密封装置22は、前述した密封装置16(
図3)の他の変形例である。この密封装置22は、基本的には前述した密封装置16とスリンガ11の形状が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0045】
密封装置22は、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板17とスリンガ23とからなるパックシールで構成されている。スリンガ23はオーステナイト系ステンレス鋼板や防錆処理された冷間圧延鋼板等の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて断面略コの字状に形成され、円筒部11aと、この円筒部11aから径方向外方に延びる立板部11bと、この立板部11bの外縁部からアウター側に延びる円筒状の鍔部23aを備えている。
【0046】
ここで、本実施形態では、
図5(b)に拡大して示すように、スリンガ23の鍔部23aの端面の外径側に面取り部24が形成されている。そして、補助リップ18aの先端部の側面がこの面取り部24に摺接されている。これにより、補助リップ18aの側面に摺接する鍔部23aの端面19の角部が鈍角となり、リップ面圧が低下すると共に、補助リップ18aの側面が過度に削られて密封性が低下するのを防止することができる。
【0047】
図6(a)に示す密封装置25は、前述した密封装置16(
図3)の他の変形例である。この密封装置25は、基本的には前述した密封装置16と補助リップ18aの構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0048】
密封装置25は、互いに対向配置され、断面が略L字状に形成された環状のシール板26と、断面略コの字状に形成されたスリンガ11とからなるパックシールで構成されている。シール板26は、芯金12と、この芯金12に加硫接着により一体に接合されたシール部材27とからなる。シール部材27は、NBR等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ13aと、このサイドリップ13aの内径側に二股状に形成されたダストリップ13bとグリースリップ13c、およびサイドリップ13aの外径側に径方向外方に傾斜して延びる補助リップ27aとを有している。この補助リップ27aは、前述した実施形態の補助リップ18aに比べて短く形成され、スリンガ11の鍔部11cの端面19にその先端部が所定の軸方向シメシロを介して摺接されている。
【0049】
ここで、鍔部11cの端面19が研削仕上げされている。これにより、鍔部11cの端面19の表面粗さ、振れ、平面度等の精度が向上し、補助リップ27aの摩耗を抑えて耐泥水性が向上する。さらに、
図6(b)に拡大して示すように、補助リップ27aの接触点からシール板26の内径までの寸法をa、スリンガ11の鍔部11cの厚さをb、鍔部11cとシール板26の内径までの寸法をc(ラビリンスシール14の環状すきま)とした時、a<bになるように設定されている。これにより、寸法をcの大小に関わりなく、補助リップ27aの接触点は常に鍔部11cの端面19上、あるいは鍔部11cの外径側にあり、組立時や搬送時等にスリンガ11の鍔部11cの内径面に捲れ込んで密封性を阻害するのを防止することができる。なお、c<a<bの関係になるように設定すれば、補助リップ27aの接触点を常に鍔部11cの端面19上に配置することができる。
【0050】
一般的に、スリンガ11の位置は、組立時に径方向にずれる恐れがあるため、このずれ量を考慮する必要がある。この時、径方向のずれ量が最大、つまり密封装置25の外方部材側に固定されるシール板26とスリンガ11とが接触した場合を考慮してa<bとすれば、スリンガ11がシール板26内に入り込むことはない。したがって、a<bの関係を満たせば、寸法cに関係なくリップ捲れ込みを防止することができる。然しながら、実際は寸法c自体がゼロになることはないため、スリンガ11の鍔部の厚さbと中心位置からのスリンガ11の径方向のずれ量を考慮して、その範囲で補助リップ27aの接触点からシール板26の内径までの寸法aをスリンガ11の鍔部11cの端面19と接触する寸法とすれば良い。
【実施例2】
【0051】
図7は、本発明に係る密封装置を備えた車輪用軸受の第2の実施形態を示す縦断面図、
図8は、
図7の一方の密封装置を示す縦断面図である。なお、この車輪用軸受は、前述した車輪用軸受1(
図1)と基本的には軸受部の構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0052】
この車輪用軸受は駆動輪側の第3世代と称され、内方部材28と外方部材29、および両部材28、29間に転動自在に収容された複列の転動体4、4とを備えている。内方部材28は、ハブ輪30と、このハブ輪30に圧入固定された内輪3とからなる。
【0053】
ハブ輪30は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ31を一体に有し、この車輪取付フランジ31の円周等配位置に車輪を固定するためのハブボルト31aが植設されている。また、ハブ輪30の外周には一方(アウター側)の内側転走面30aと、この内側転走面30aから軸方向に延びる円筒状の小径段部30bが形成され、内周にはセレーション(またはスプライン)30cが形成されている。内輪3は外周に他方(インナー側)の内側転走面3aが形成され、ハブ輪30の小径段部30bに所定のシメシロを介して圧入固定されている。
【0054】
ハブ輪30は、S53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、アウター側の内側転走面30aをはじめ、後述するシール32のシールランド部となる車輪取付フランジ31のインナー側の基部31bから小径段部30bに亙り高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。これにより、車輪取付フランジ31の基部31bの耐摩耗性が向上するばかりでなく、車輪取付フランジ31に負荷される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有することになり、ハブ輪30の強度・耐久性が向上する。
【0055】
外方部材29は、外周に車体(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ29bを一体に有し、内周に前記内方部材28の内側転走面30a、3aに対向する複列の外側転走面29a、29aが一体に形成されている。この外方部材29は、ハブ輪30と同様、S53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面29a、29aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。そして、それぞれの転走面29a、30aと29a、3a間に複列の転動体4、4が収容され、保持器5、5によりこれら複列の転動体4、4が転動自在に保持されている。また、外方部材29と内方部材28との間に形成される環状空間の開口部には密封装置32、33が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0056】
なお、ここでは、転動体4にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成された車輪用軸受装置を例示したが、これに限らず、転動体4に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成されていても良い。また、ここでは、ハブ輪30の外周に直接内側転走面30aが形成された第3世代構造を例示したが、図示はしないが、ハブ輪の小径段部に一対の内輪が圧入固定された第2世代構造であっても良い。
【0057】
本実施形態では、アウター側の密封装置32は、芯金34と、この芯金34に一体に加硫接着されたシール部材35とからなる一体型の密封装置で構成され、車輪取付フランジ31のインナー側の基部31bに摺接するサイドリップ35aとダストリップ35bおよびグリースリップ35cを備えている。
【0058】
一方、インナー側の密封装置33は、
図8に拡大して示すように、互いに対向配置され、断面が略L字状に形成された環状のシール板26と、断面略コの字状に形成されたスリンガ11とからなるパックシールで構成されている。シール板26は、芯金12と、この芯金12に加硫接着により一体に接合されたシール部材27とからなる。
【0059】
ここで、本実施形態では、スリンガ11の立板部11bのインナー側の側面から鍔部11cの外周面に亙って磁気エンコーダ36が加硫接着等で一体に接合されている。磁気エンコーダ36はゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向に交互に磁極N、Sが着磁されて車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。そして、この磁気エンコーダ36はシール板26と僅かな径方向すきまを介して対峙され、ラビリンスシール37が形成されている。
【0060】
補助リップ27aは、スリンガ11の鍔部11cに接合された磁気エンコーダ36の端面36aにその先端部が所定の軸方向シメシロを介して摺接されている。これにより、前述した実施形態のように、鍔部11cの端面19を研削仕上げして精度を向上させなくても所望の精度が得られ、補助リップ27aの摩耗を防止することができると共に、例え、補助リップ27aまたは端面36aが摩耗してシメシロがなくなってもラビリンスすきまが形成される。これにより、外部からラビリンスシール37を通過して泥水が浸入したとしても、さらなるこのラビリンスシールによって内部への浸入を抑えることができ、サイドリップ13aの摩耗を防止して耐泥水性を高めることができる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。