(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336773
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】山留めH形鋼杭の接合構造および建込み方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
E02D5/20
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-27627(P2014-27627)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-151796(P2015-151796A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000179915
【氏名又は名称】ジェコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 正貴
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−060741(JP,A)
【文献】
特開2003−342948(JP,A)
【文献】
特開2013−144876(JP,A)
【文献】
特開2008−175025(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0071725(US,A1)
【文献】
道路橋示方書(1共通編・2鋼橋編)・同解説,社団法人日本道路協会,2012年 6月11日,第2刷,頁第251〜252、図−解7.3.8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00〜 5/20
E02D 17/00〜 17/20
E02D 29/00〜 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的にウェブ高さが大きく断面の大きいH形鋼からなる第1の鋼材と、前記第1の鋼材よりウェブ高さが小さく相対的に断面の小さいH形鋼からなる第2の鋼材を突き合わせて連結した山留めH形鋼杭の接合構造であって、
前記第2の鋼材の片方のフランジを前記第1の鋼材の片方のフランジに突き合わせて接合する第1の接合部は、前記第2の鋼材のフランジの表面に前記第1の鋼材のフランジとの板厚差に応じた鋼板からなる第1のフィラープレートを添わせ、前記第1の鋼材のフランジと第1のフィラープレートを添わせた前記第2の鋼材のフランジとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合したものであり、
前記第2の鋼材の他方のフランジを前記第1の鋼材に突き合わせて接合する第2の接合部は、前記第1の鋼材のフランジ間に、前記第1の鋼材および前記第2の鋼材の各フランジと平行に、かつ前記第2の鋼材の前記他方のフランジと軸方向に突き合わさるように追加プレートを設け、前記追加プレートと前記第2の鋼材の前記他方のフランジとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合するか、または前記第2の鋼材の前記他方のフランジの表面に前記追加プレートとの板厚差に応じた鋼板からなる第2のフィラープレートを添わせ、前記追加プレートと前記第2のフィラープレートを添わせた前記第2の鋼材の前記他方のフランジとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合したものであり、
前記第2の鋼材のウェブを前記第1の鋼材のウェブに突き合わせて接合する第3の接合部は、前記第1の鋼材のウェブと前記第2の鋼材のウェブとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合するか、または前記第2の鋼材のウェブの両側表面に前記第1の鋼材のウェブとの板厚差に応じた鋼板からなる第3のフィラープレートを添わせ、前記第1の鋼材のウェブと前記第3のフィラープレートを添わせた前記第2の鋼材のウェブとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合したものであることを特徴とする山留めH形鋼杭の接合構造。
【請求項2】
請求項1記載の山留めH形鋼杭の接合構造において、前記第1、第2および第3の各接合部について、前記第1の鋼材の各板厚と、前記第2の鋼材の前記フィラープレートの板厚を加えた板厚との差を1mm以下とすることを特徴とする山留めH形鋼杭の接合構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の山留めH形鋼杭の接合構造において、前記第1、第2および第3の各フィラープレートの板厚を2mm以上とすることを特徴とする山留めH形鋼杭の接合構造。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の山留めH形鋼杭の接合構造において、前記第1の鋼材が下側に位置する下部鋼材であり、前記第2の鋼材が上側に位置する上部鋼材であることを特徴とする山留めH形鋼杭の接合構造。
【請求項5】
請求項1、2または3記載の山留めH形鋼杭の接合構造において、前記第1の鋼材が上側に位置する上部鋼材であり、前記第2の鋼材が下側に位置する下部鋼材であることを特徴とする山留めH形鋼杭の接合構造。
【請求項6】
請求項1、2、3または4記載の山留めH形鋼杭の接合構造を用いた山留めH形鋼杭の建込み方法において、前記第2の鋼材に重心ずれ調整用の吊りピースを取り付け、前記吊りピースに吊り点を設定し、前記第1の鋼材および第2の鋼材の長手方向の重心軸が鉛直方向となるようにして建て込むことを特徴とする山留めH形鋼杭の建込み方法。
【請求項7】
請求項6記載の山留めH形鋼杭の建込み方法において、前記吊りピースは吊り点位置に吊り孔を設けた鋼材からなり、前記第2の鋼材の他方のフランジに対し、着脱自在に取り付けられるようにしたものであることを特徴とする山留めH形鋼杭の建込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面の異なる山留めH形鋼杭どうしの接合構造およびその建込み方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物その他の構造物の構築における根切り、山留め工事において、H形鋼杭が用いられることが多いが、通常、山留めの地表面付近の土圧は床付け付近より小さく、また、床付け以深についても応力が小さい場合がある。土圧あるいは応力が大きい部分で決定した山留めH形鋼杭をそのまま使用するのは不経済である他、施工性や敷地境界との関係などから、山留めH形鋼杭として、下部と上部でサイズの異なるH形鋼を用いることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、長さ方向に断面性能を変化させた山留めH形鋼杭を敷地境界線近くに建込み、断面性能の小さな上杭を利用して根入れより上部の建造物を大きくして敷地面積を有効に利用できるようにした土留工法が記載されている。
【0004】
その場合の上下のH形鋼杭の接合については、下杭の上端付近におけるウェブを上杭のウェブ高さに相当するウェブ高さまで斜めに加工して接合する構造や、上下のH形鋼杭の断面に合わせて加工したジョイント部材を介在させ、添接板を介してボルト接合する構造等が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、深さ方向に山留めH形鋼杭の断面性能を変化させることを可能とする接合構造として、長さ方向に配置するH形鋼杭のうち、一方の杭のウェブ高さを他方の杭のウェブ高さに対して変化させない寸法とし、一方の杭のフランジの幅に対して他方の杭のフランジの幅を変化させた寸法とし、かつ長さ方向における両杭の各片側のフランジどうしを面位置に合わせ両杭の端面どうしをジョイント部材で連結固定した山留めH形鋼杭の接合構造が記載されている。
【0006】
その他、特許文献3にもソイルセメント地中連続壁の内部に鉛直方向に配置する芯材として、山留めH形鋼杭を用い、芯材構造の重心を偏心させないために、上部芯材のフランジの幅を下部芯材の複数のフランジの幅より小さい寸法とし、上部芯材と下部芯材のフランジの外面が同一平面を形成する状態で接合する構造等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−342948号公報
【特許文献2】特許第4450240号公報
【特許文献3】特開2010−196441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上杭(上部鋼材)に断面の小さいH形鋼を用いることは、上述した先行技術においても行われており、異なるサイズのH形鋼どうしを接合するための種々の工夫がなされている。
【0009】
しかしながら、経済性の面からは、実際には任意の断面のH形鋼を用いることは現実的でなく、規格化されたH形鋼の製品寸法の制約を受ける。すなわち、特注のH形鋼はコスト的に現実性がなく、規格化された特定寸法のH形鋼の中から選択したものを使用しなければ、経済性のメリットはない。このことは、後述するフィラープレートや追加プレートなどに用いる鋼板についても同様である。
【0010】
また、接合部について鋼材の断面を切断したり、複雑な加工を行う場合もコストの増加につながる。
【0011】
本発明は、経済性の面から、原則的に規格化された市販のH形鋼や鋼板を用いることを前提とした上で、接合部における加工を最小限に抑えつつ、強度および応力の伝達に優れた山留めH形鋼杭の接合構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の山留めH形鋼杭の接合構造は、相対的にウェブ高さが大きく断面の大きいH形鋼からなる第1の鋼材と、前記第1の鋼材よ
りウェブ高さが小さく相対的に断面の小さいH形鋼からなる第2の鋼材を突き合わせて連結した山留めH形鋼杭の接合構造であって、
前記第2の鋼材の片方のフランジを前記第1の鋼材の片方のフランジに突き合わせて接合する第1の接合部は、前記第2の鋼材のフランジの表面に前記第1の鋼材のフランジとの板厚差に応じた鋼板からなる第1のフィラープレートを添わせ、前記第1の鋼材のフランジと第1のフィラープレートを添わせた前記第2の鋼材のフランジとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合したものであり、前記第2の鋼材の他方のフランジを前記第1の鋼材に突き合わせて接合する第2の接合部は、前記第1の鋼材のフランジ間に
、前記第1の鋼材および前記第2の鋼材の各フランジと平行に
、かつ前記第2の鋼材の前記他方のフランジと軸方向に突き合わさるように追加プレートを設け、前記追加プレートと前記第2の鋼材の前記他方のフランジとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合するか、または前記第2の鋼材の前記他方のフランジの表面に前記追加プレートとの板厚差に応じた鋼板からなる第2のフィラープレートを添わせ、前記追加プレートと前記第2のフィラープレートを添わせた前記第2の鋼材の前記他方のフランジとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合したものであり、前記第2の鋼材のウェブを前記第1の鋼材のウェブに突き合わせて接合する第3の接合部は、前記第1の鋼材のウェブと前記第2の鋼材のウェブとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合するか、または前記第2の鋼材のウェブの両側表面に前記第1の鋼材のウェブとの板厚差に応じた鋼板からなる第3のフィラープレートを添わせ、前記第1の鋼材のウェブと前記第3のフィラープレートを添わせた前記第2の鋼材のウェブとを両側から挟み込む添接板を介してボルト接合により接合したものであることを特徴とする。
【0013】
本発明は主として市販のH形鋼、特に根切り、山留め工事等に用いられるサイズの圧延H形鋼を用いることを前提としており、第1の鋼材(通常、下部鋼材)については例えばウェブ高さが300〜900mm程度、第2の鋼材(通常、上部鋼材)については第1の鋼材(通常、下部鋼材)のサイズに応じ、例えば100〜600mm程度を想定しているが、状況に応じてこれ以外の場合もあり得る。
【0014】
山留め工事においては、通常、山留めの地表面付近の土圧は床付け付近より小さく、本発明においては、主として下杭(下部鋼材)に断面の大きいH形鋼を用い、上杭(上部鋼材)に断面の小さいH形鋼を用いる場合が多いが、床付け以深についても応力が小さい場合があり、その場合、下杭(下部鋼材)に断面の小さいH形鋼を用い、上杭(上部鋼材)に断面の大きいH形鋼を用いることもある。
【0015】
また、H形鋼杭が長い場合は、土圧や応力に応じ、これらを併用し、例えば断面の小さいH形鋼を用いた下杭の上に、断面の大きいH形鋼を用い、さらにその上に断面の小さいH形鋼を用いた上杭を接続することもできる。中間の杭は下杭との関係では上杭、上杭との関係では下杭となる。
【0016】
以下、説明を簡略化するため、下杭(下部鋼材)に断面の大きいH形鋼を用い、上杭(上部鋼材)に断面の小さいH形鋼を用いる場合(第1の鋼材が下部鋼材で、第2の鋼材が上部鋼材の場合)を前提のとして説明するが、逆の場合(第1の鋼材が上部鋼材で、第2の鋼材が下部鋼材の場合)も基本的な接合手段は同じであり、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0017】
市販のH形鋼からなるウェブ高さの異なる下部鋼材と上部鋼材の接合においては、一般的にはウェブ厚やフランジ厚どうしが異なる場合が多く、本発明では上記第1の接合部に第1のフィラープレート、第2の接合部に必要に応じ第2のフィラープレート、第3の接合部に第3のフィラープレートを用いている。
【0018】
本発明の山留めH形鋼杭の接合構造においては、第1、第2および第3の各接合部について、下部鋼材の各板厚と、上部鋼材のフィラープレートの板厚を加えた板厚との差を1mm以下とすることが望ましい。
【0019】
下部鋼材、上部鋼材、さらにフィラープレートとして市販の安価なH形鋼や鋼板を用いる場合、完全に板厚差をなくすことができないケースが多いが、その場合でも1mmを超える板厚差は応力伝達性能の面で好ましくない。
【0020】
また、第1、第2および第3の各フィラープレートの板厚は2mm以上とし、できればフィラープレートどうしは重ね合わせて用いないことが望ましい。また、各フィラープレートの板厚を厚い側の母材、すなわち下部鋼材側の板厚の1/2以下とすることが望ましい。
【0021】
各フィラープレートの板厚を2mm以上とするのは、フィラープレートの板厚が2mm未満の場合、フィラープレートとしての曲げ剛性が小さく、変形の恐れが大きくなることと、応力伝達上、問題となる恐れがあるためである。
【0022】
また、フィラープレートを複数枚重ねて用いた場合、ボルト接合における接合面が増え、十分な応力伝達が図れない場合も考えられる。一般に、土木構造の場合、フィラープレートは2枚以上重ねて用いないこととされ、建築構造の場合、フィラープレートは4枚以上重ねて用いないこととされている。
【0023】
なお、接合の対象となるH形鋼の母材の板厚に対し、大きな板厚のフィラープレートを用いる場合、応力伝達上、長尺のフィラープレートを必要とし、ボルト本数の増加につながる。
【0024】
そのため、フィラープレートはできるだけ下部鋼材側の板厚の1/2以下程度のものを使用することが望ましく、例えば厚さ6mm以上のフィラープレートを用いる場合、通常、フィラープレートの長さを延長し、ボルトを増やすといった対処が必要となる場合が多い。
【0025】
本発明の接合構造においては、サイズが異なる下部鋼材(下杭)と上部鋼材(上杭)を接合するにあたり、山留め背面側(山留めの内側を掘削する際、土圧を受ける側)のフランジどうしを突き合わせて接合する場合が多く(ただし、その逆の場合もあり得る)、下部鋼材と上部鋼材のサイズが大きく異なる場合には、重心のずれによる建込み精度の低下が考えられる。
【0026】
その場合には、上部鋼材に重心ずれ調整用の吊りピースを取り付け、この吊りピースに吊り点を設定し、下部鋼材および上部鋼材の長手方向の重心軸が鉛直方向となるようにして建て込むことで、建込み精度の低下を防ぐことができる。
【0027】
吊りピースは例えば鋼材等に吊り孔を設けて吊り点としたものを用いることができる。吊りピースの上部鋼材への取り付け手段は特に限定されないが、例えば上部鋼材のフランジ(山留め内側)に対し、ボルトあるいはクランプ等で着脱自在に取り付けられるようにしたものを用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の山留めH形鋼杭の接合構造および建込み方法は、上述の構成からなり、以下の効果が得られる。
【0029】
(1) 本発明によれば、ウェブ高さを、あるいはウェブ高さとフランジ幅を同時に、変化させることができ、上杭となる上部鋼材に断面の小さいH形鋼を用い、あるいは逆に下杭となる下部鋼材に断面の小さいH形鋼を用いたり、両者を併用するなどして、経済性・施工性の向上を図る上で規格化された市販のH形鋼の使用が可能であり、実質的には接合部における鋼材断面の複雑な加工を必要としないため、現実的かつ実用的な経済効果が得られる。
【0030】
(2) 上杭となる上部鋼材に断面の小さいH形鋼を用いる場合、接合構造上、上杭が下杭に対して外側(山留め背面側)に偏芯しており、杭頭が外側(山留め背面側)に傾く方向なので躯体構築に有利となる。
【0031】
(3)上杭(上部鋼材)と下杭(下部鋼材)のサイズが異なることに起因する重心のずれに対しては、その重心ずれが大きい場合、上部鋼材に重心ずれ調整用の吊りピースを取り付け、吊りピースに吊り点を設定し、下部鋼材および上部鋼材の長手方向の重心軸が鉛直方向となるようにして建て込むことで、建込み精度の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の山留めH形鋼杭の接合構造の基本形態を原理的に示したもの(接合ボルトの図示は省略)で、(a)は接合部の立面図、(b)は水平断面図である。
【
図2】本発明の接合構造の一実施例として、下部鋼材と上部鋼材の重心のずれが比較的小さい場合を示したもので、(a)は接合部の立面図、(b)はそのB−B断面図、(c)はC−C断面図、(d)はD−D断面図、(e)はE−E断面図である。
【
図3】本発明の接合構造の他の実施例として、下部鋼材と上部鋼材の重心のずれが大きい場合を示したもので、(a)は接合部の立面図、(b)はそのB−B断面図、(c)はC−C断面図である。
【
図4】本発明の山留めH形鋼杭の建込み方法における施工手順の一実施形態を示す鉛直断面図である。
【
図5】本発明の山留めH形鋼杭の建込みについて、吊りピースを用いない場合の施工手順の一例を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0034】
図1は本発明の山留めH形鋼杭の接合構造の基本形態を原理的に示したもので、理解のため板厚を誇張し、接合ボルトの図示を省略している。
【0035】
図中、符号1は下部鋼材(H形鋼)、2は上部鋼材(H形鋼)を示し、経済性および施工性を考慮して、相対的にウェブ高さが大きい下部鋼材1の上部にウェブ高さの小さい上部鋼材2を接合する構造において、下部鋼材1と上部鋼材2どうしの接合部は、大きく分けて3つの接合部からなる。
【0036】
第1の接合部は山留め背面側において、上部鋼材2のフランジ2aを下部鋼材1のフランジ1aに突き合わせて接合するものであり、上部鋼材2のフランジ2aの表面に下部鋼材1のフランジ1aとの板厚差に応じた鋼板からなる第1のフィラープレート11を添わせ、これらを両側から添接板31で挟み込み、ボルト接合により接合する。
【0037】
上部鋼材2のフランジ2aのフランジ厚に第1のフィラープレート11の板厚を加えた厚さが下部鋼材1のフランジ1aの板厚に一致するのが好ましいが、市販のH形鋼や鋼板の組み合わせにおいては、用いるH形鋼の寸法によって完全に一致させることができないケースが多い。そのため、原則として、板厚の差が1mm以下となるように、下部鋼材1、上部鋼材2、第1のフィラープレート11の組み合わせを選択することが望ましい。
【0038】
また、接合部の強度およびボルト接合における応力伝達を考慮し、原則として第1のフィラープレート11の板厚を2mm以上とし、かつフィラープレートどうしは重ね合わせて用いないようにすることが望ましい。
【0039】
第2の接合部は山留め内側において、上部鋼材2のもう一方のフランジ2bを下部鋼材1に突き合わせて接合するものであり、この突き合わせ部分の下部鋼材1側上部に、下部鋼材1のフランジ1a、1bと平行になるように追加プレート3を溶接などで設け、上部鋼材2のフランジ2bと下部鋼材1に設けた追加プレート3を突き合わせ、必要に応じ第2のフィラープレート12を添わせ、これらを両側から添接板32で挟み込み、ボルト接合により接合する。
【0040】
すなわち、追加プレート3と上部鋼材2のフランジ2bの板厚が等しいかほぼ等しい場合には、これらを直接、添接板32で両側から挟み込み、ボルト接合により接合する。
【0041】
追加プレート3と上部鋼材2のフランジ2bの板厚が例えば1mmを超える場合には、上部鋼材2のフランジ2bの表面に追加プレート3との板厚差に応じた鋼板からなる第2のフィラープレート12を添わせ、これらを両側から添接板32で挟み込み、ボルト接合により接合する。
【0042】
第2の接合部についても、原則として、添接板32で挟み込まれる部分の板厚の差が1mm以下となるように、下部鋼材1、上部鋼材2、必要に応じ第2のフィラープレート12の組み合わせを選択することが望ましい。
【0043】
また、接合部の強度およびボルト接合における応力伝達を考慮し、原則として第2のフィラープレート12の板厚を2mm以上とし、かつフィラープレートどうしは重ね合わせて用いないようにすることが望ましい。ただし、建築構造では重ね合わせて用いることも許容されている。
【0044】
第3の接合部は、上部鋼材2のウェブ2cを下部鋼材1のウェブ1cに突き合わせて接合するものであり、必要に応じ第3のフィラープレート13を添わせ、これらを両側から添接板33で挟み込み、ボルト接合により接合する。
【0045】
すなわち、下部鋼材1のウェブ1cと上部鋼材2のウェブ2cの板厚が等しいかほぼ等しい場合には、これらを直接、添接板33で両側から挟み込み、ボルト接合により接合する。
【0046】
下部鋼材1のウェブ1cと上部鋼材2のウェブ2cの板厚が例えば1mmを超える場合には、上部鋼材2のウェブ2cの両側表面に下部鋼材1のウェブ1cとの板厚差に応じた鋼板からなる第3のフィラープレート13、13を添わせ、これらを両側から添接板33で挟み込み、ボルト接合により接合する。
【0047】
第3の接合部についても、原則として、添接板33で挟み込まれる部分の板厚の差が1mm以下となるように、下部鋼材1、上部鋼材2、必要に応じ第3のフィラープレート13の組み合わせを選択することが望ましい。
【0048】
また、接合部の強度およびボルト接合における応力伝達を考慮し、原則として第3のフィラープレート13の板厚を2mm以上とし、かつフィラープレートどうしは重ね合わせて用いないようにすることが望ましい。
【0049】
図2は本発明の接合構造の一実施例として、下部鋼材と上部鋼材の重心のずれが比較的小さい場合を示したもので、(a)は接合部の立面図、(b)はそのB−B断面図、(c)はC−C断面図、(d)はD−D断面図、(e)はE−E断面図である。なお、この
図2の実施例は後の表6の下部鋼材1としてH−650×300(ウェブ高さ650mm、フランジ幅300)、ウェブ厚w=12mm、フランジ厚f=25mm、上部鋼材2としてH−450×200(ウェブ高さ450mm、フランジ幅200)、ウェブ厚w=9mm、フランジ厚f=14mmを用いた場合に相当する。
【0050】
基本的な構造は、
図1に基づいて説明した通りであり、上部鋼材2の片方のフランジ2a(フランジ厚14mm)を下部鋼材1の片方のフランジ1a(フランジ厚25mm)に突き合わせて接合する第1の接合部は、上部鋼材2のフランジ2aの表面に下部鋼材1のフランジ1aとの板厚差11mmに応じた鋼板からなる第1のフィラープレート11(板厚12mm)を添わせ、下部鋼材1のフランジ2aと第1のフィラープレート11を添わせた上部鋼材2のフランジ2aとを両側から挟み込む添接板31を介して、これらをボルト4で締め付け、ボルト接合により接合している。
【0051】
この場合の第1の接合部における板厚の差は−1mm(表6参照)である。
【0052】
上部鋼材2の他方のフランジ2b(フランジ厚14mm)を下部鋼材1に突き合わせて接合する第2の接合部は、下部鋼材1のフランジ1a、1b間にフランジ1a、1bと平行になるように追加プレート3(板厚19mm)を設け、上部鋼材2のフランジ2bの表面に追加プレート3との板厚差5mmに応じた鋼板からなる第2のフィラープレート12(板厚4.5mm)を添わせ、追加プレート3と第2のフィラープレート12を添わせた上部鋼材2のフランジ2bとを両側から挟み込む添接板32を介してボルト4で締め付け、ボルト接合により接合している。
【0053】
この場合の第2の接合部における板厚の差は0.5mm(表6参照)である。
【0054】
上部鋼材2のウェブ2c(ウェブ厚9mm)を下部鋼材1のウェブ1c(ウェブ厚12mm)に突き合わせて接合する第3の接合部は、上部鋼材2のウェブ2cの両側表面に下部鋼材1のウェブ1cとの板厚差3mmに応じた鋼板からなる第3のフィラープレート13、13(板厚各2.3mm)を添わせ、下部鋼材1のウェブ1cと前記第3のフィラープレート13、13を添わせた上部鋼材2のウェブ2cとを両側から挟み込む添接板33を介してボルト4で締め付け、ボルト接合により接合している。
【0055】
この場合の第2の接合部における板厚の差は、それぞれの面について−0.8mm(表6参照)である。
【0056】
図3は本発明の接合構造の他の実施例として、下部鋼材と上部鋼材の重心のずれが大きい場合を示したもので、(a)は接合部の立面図、(b)はそのB−B断面図、(c)はC−C断面図である。なお、この
図3の実施例は後の表1の下部鋼材1としてH−650×300(ウェブ高さ650mm、フランジ幅300)、ウェブ厚w=12mm、フランジ厚f=25mm、上部鋼材2としてH−200×200(ウェブ高さ200mm、フランジ幅200)、ウェブ厚w=8mm、フランジ厚f=12mmを用いた場合に相当する。
【0057】
基本的な構造は、
図1に基づいて説明した通りであり、上部鋼材2の片方のフランジ2a(フランジ厚12mm)を下部鋼材1の片方のフランジ1a(フランジ厚25mm)に突き合わせて接合する第1の接合部は、上部鋼材2のフランジ2aの表面に下部鋼材1のフランジ1aとの板厚差13mmに応じた鋼板からなる第1のフィラープレート11(板厚12mm)を添わせ、下部鋼材1のフランジ2aと第1のフィラープレート11を添わせた上部鋼材2のフランジ2aとを両側から挟み込む添接板31を介して、これらをボルト4で締め付け、ボルト接合により接合している。
【0058】
この場合の第1の接合部における板厚の差は1mm(表1参照)である。
【0059】
上部鋼材2の他方のフランジ2b(フランジ厚12mm)を下部鋼材1に突き合わせて接合する第2の接合部は、下部鋼材1のフランジ1a、1b間にフランジ1a、1bと平行になるように追加プレート3(板厚12mm)を設けている。
【0060】
この実施例では、第2の接合部における板厚差がない(表1参照)ため、フィラープレートが不要であり、追加プレート3と上部鋼材2のフランジ1bとを両側から挟み込む添接板を介して、ボルト4で締め付け、ボルト接合により接合している。
【0061】
上部鋼材2のウェブ2c(ウェブ厚8mm)を下部鋼材1のウェブ1c(ウェブ厚12mm)に突き合わせて接合する第3の接合部は、上部鋼材2のウェブ2cの両側表面に下部鋼材1のウェブ1cとの板厚差4mmに応じた鋼板からなる第3のフィラープレート13、13(板厚各2.3mm)を添わせ、下部鋼材1のウェブ1cと前記第3のフィラープレート13、13を添わせた上部鋼材2のウェブ2cとを両側から挟み込む添接板33を介してボルト4で締め付け、ボルト接合により接合している。
【0062】
この場合の第2の接合部における板厚の差は、それぞれの面について−0.3mm(表1参照)である。
【0063】
下に示す表1〜表8は、本発明において、市販の鋼材を用いた代表的な寸法例を示したもので、各表の左端に下側鋼材の寸法、上端に上側鋼材の寸法を示し、それぞれの組み合わせについて、第3の接合部、第1の接合部、第2の接合部の順で板厚の関係を表示している。判定の欄における○は接合部における板厚差が1mm以内(ウェブについては片面)であることを示している。
【0072】
図4は本発明の山留めH形鋼杭の建込み方法の一実施例を示したもので、(a)は建て込みの概要を示す鉛直断面図、(b)はその要部の拡大図である。
【0073】
図4は本発明の山留めH形鋼杭の建込み方法における施工手順の一実施形態を示したものである。
【0074】
本発明の接合構造においては、サイズが異なる下部鋼材1(下杭)と上部鋼材2(上杭)を接合するにあたり、山留め背面側のフランジ1a、2aどうしを突き合わせて接合する構造(第1の接合部)であるため、下部鋼材1と上部鋼材2のサイズが大きく異なる場合には、重心のずれにより、接続した山留めH形鋼杭を鉛直に吊ることができず、建込み精度の低下が考えられる。
【0075】
それに対し、
図4(c)〜(e)に示すように、上部鋼材1の上部に重心ずれ調整用の吊りピース41を取り付け、この吊りピース41に吊り点となる吊り孔を設け、下部鋼材1および上部鋼材2の長手方向の重心軸が鉛直方向となるようにして建て込むことで、建込み精度の低下を防ぐことができる。
【0076】
図4の実施例では、吊りピース41としてフランジを有する鋼材に吊り孔を穿設し、そのフランジ部分を上部鋼材1の山留め内側のフランジ2aに重ね合わせ、ボルトで取り付ける構造としている。
【0077】
吊りピース41の材質、形状、取付け手段は限定されないが、上部鋼材2のフランジ2aに対し、吊りピース41が山留め内側に所定寸法突出するようにし、あらかじめ重心計算で求めた位置に吊り孔を設けることで、下部鋼材1および上部鋼材2の長手方向の重心軸が鉛直方向となるようにし、その状態で山留めH形鋼杭としての建て込みを精度よく行うことができる。
【0078】
なお、図示の例では、2点吊りとし、吊りピース41と上部鋼材2のウェブ2cにも吊り孔を設けている。
【0079】
この場合の施工手順は以下の通りである。
【0080】
(1) 下部鋼材1(下杭)を芯吊りで建て込み、案内治具42に対し、固定治具43で固定する(
図4(a)参照)。図中、51は建て込みを行う掘削溝内のソイルセメントを示す。
(2) 芯吊りワイヤーを外し、添接板等を設置する(
図4(b)参照)。
(3) 上部鋼材2(上杭)を2点吊りで吊り降ろす(
図4(c)参照)。
(4) 上部鋼材2(上杭)と下部鋼材1(下杭)をボルトで接合する(
図4(d)参照)。
(5) 固定治具43を外し、垂直精度を確認後、所定のレベルまで建て込む(
図4(e)参照)。
【0081】
図5は本発明の山留めH形鋼杭の建込みについて、吊りピースを用いない場合であって、かつ遠隔操作方式治具61を用いて建て込みを行う場合の例を示したものであり、施工手順は以下の通りである。
【0082】
(1) 下部鋼材1(下杭)を芯吊りで建て込み、案内治具42に対し、固定治具43で固定する(
図5(a)参照)。
(2) 芯吊りワイヤーを外し、添接板等を設置する(
図5(b)参照)。
(3) 偏心吊り孔に少し弛ましたワイヤー62を設置した状態で、遠隔操作方式治具61で芯吊りし上部鋼材2(上杭)を吊り降ろす(
図5(c)参照)。
(4) 上部鋼材2(上杭)と下部鋼材1(下杭)をボルトで接合した後、遠隔操作方式治具61を外し、偏心吊りワイヤー62で吊り直す(
図5(d)参照)。
(5) 固定治具43を外し、垂直精度を確認後、所定のレベルまで建て込む(
図5(e)参照)。
【符号の説明】
【0083】
1…下部鋼材、1a…フランジ(山留め背面側)、1b…フランジ(山留め内側)、1c…ウェブ、
2…上部鋼材、2a…フランジ(山留め背面側)、2b…フランジ(山留め内側)、2c…ウェブ、
3…追加プレート、4…ボルト、
11…フィラープレート(第1の接合部)、12…フィラープレート(第2の接合部)、13…フィラープレート(第3の接合部)、
31…添接板(第1の接合部)、32…添接板(第2の接合部)、33…添接板(第3の接合部)、
41…吊りピース、42…案内治具、43…固定治具、
51…ソイルセメント、
61…遠隔操作方式治具