特許第6336781号(P6336781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336781
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】新規ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20180528BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   C07K19/00
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-39367(P2014-39367)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-208607(P2014-208607A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2017年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-67353(P2013-67353)
(32)【優先日】2013年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 益徳
(72)【発明者】
【氏名】池山 芳史
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 沙予
(72)【発明者】
【氏名】中田 温子
(72)【発明者】
【氏名】本多 裕之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 竜司
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−222300(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/071132(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/062977(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/140331(WO,A1)
【文献】 特表2010−524920(JP,A)
【文献】 PEPTIDES, 2007年,Vol.28,p.485-495, Supporting information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I):
Gly−Arg−Ile−Arg−Val−Leu(配列番号:1)
で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、はその塩。
【請求項2】
請求項1記載のペプチド、又はその塩を含む、組成物。
【請求項3】
コラーゲン、インテグリン、及びフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するために用いられる、請求項記載の組成物。
【請求項4】
細胞接着因子、細胞外マトリクス中のタンパク質又はその形成に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させる、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
成長因子、ホルモン、アンタゴニスト、アゴニスト、及びそれらの一部からなる群から選択される1種以上である、細胞に対して機能する機能性ペプチドと、請求項記載のペプチドとを融合させた融合ペプチド、又はその塩。
【請求項6】
機能性ペプチドが、トランスフォーミング成長因子(TGF)由来の断片ペプチド又はメラノサイト刺激ホルモン(MSH)由来の断片ペプチドである、請求項記載の融合ペプチド、又はその塩。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の融合ペプチド、又はその塩を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内におけるインテグリンやコラーゲン等の発現を促進させる効果を有する新規物質を提供することを目的とする。更に本発明は、インテグリン等の細胞接着因子を介した細胞接着を利用して、成長因子やホルモン等の機能性ペプチドの活性を高める手法等にも関する。
【背景技術】
【0002】
生体の組織内では、細胞と細胞外マトリクスが接着して相互作用し、細胞内部にシグナルが伝達されることで、遺伝子やタンパク質といった種々の因子が誘導又は抑制され、それにより細胞の分化や増殖といった細胞形質の制御や代謝産物の分泌等が行われている。また、コラーゲン等の細胞外マトリクス自体も、細胞と接着することで、コラーゲン線維束の格子状の立体構造を強化・安定化させ、肌のハリや弾性を保たせている。従って、紫外線等の外的因子や加齢等の原因によって、細胞と細胞外マトリクスとの間の接着が弱まると、細胞へのシグナル伝達が上手くいかず細胞の働き(種々の因子の産生等)が弱まるだけでなく、マトリクス構造の変化から肌のハリや弾力の低下を引き起こし、シワやタルミなどの皮膚の老化症状等を招くこととなる。更に、皮膚組織で表皮と真皮の間に存在する細胞外マトリクスである基底膜を構成する主要タンパク質のラミニンは、細胞表面にあるインテグリンと相互作用して細胞接着に関与することが知られている。そして、そのようなラミニンとインテグリンとの間の結合を介して、基底膜と細胞とがしっかりと接着することで、基底膜の重要な役割である真皮から表皮への栄養因子や増殖因子の移動がスムーズになり、健康な皮膚状態が維持されることに繋がり得る。従って、基底膜と細胞との間の接着能力が弱まると、皮膚全体の健康状態が不良となって、表皮の菲薄化等を招く恐れがあるほか、基底膜を介した種々の因子の移動が阻害されてターンオーバー不良を招き、それに付随してシミ(メラニンの蓄積)やくすみ等も引き起こし易くなる。従って、細胞と細胞外マトリクスとを接着させる因子の働きを高めることは非常に重要である。
【0003】
細胞と細胞外マトリクスとの間の接着因子としては、細胞膜上に存在するインテグリンが良く知られている。また、細胞外マトリクスにおいてインテグリンとの接着に関与するフィブロネクチンやラミニン等の因子も広義で細胞接着因子と呼ばれている。従って、これらの因子の発現量を増大させ得る物質は有用である。
【0004】
ところで、成長因子やホルモン、アンタゴニスト、アゴニストといった細胞に対して生理活性を有する機能性因子を生体に対して作用させる場合にも、細胞接着促進因子の利用は有益であると考えられる。つまり、細胞に作用させることを意図した機能性ペプチドと共に、細胞接着促進因子を用いることで、当該機能性因子が細胞と相互作用する確率が高められ、高い効果が発揮されることが期待できる。
【0005】
以上のような観点から、細胞接着因子の発現を促進させて細胞への接着を促進させることができる物質の探索が求められている。
【0006】
これまでにも、細胞とコラーゲンとの間の接着を促進させる物質として、特定配列を有するペプチド(特許文献1、2)が知られている。また、機能性ペプチドであるTGF-β由来の特定アミノ酸配列と細胞付着アミノ酸配列とを含むTGFP-CAPペプチドも提案されている(特許文献3)。しかしながら、細胞接着因子の発現量を高めて細胞への接着を促進させ得る、更なる有用な新規物質の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0141939号明細書
【特許文献2】国際公開第2012/144546号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/130082号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、インテグリン等の細胞接着因子の発現量を増大させることができ、またコラーゲン等の産生促進にも有用な新規物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のアミノ酸配列を有する短鎖ペプチドが、インテグリン、フィブロネクチン又はラミニンといった細胞接着因子や、コラーゲン、エミリン(EMILIN)、ヒアルロン酸合成酵素(hyaluronan synthase)、エラスチン、TIMPメタロペプチダーゼインヒビターといった細胞外マトリクス中に存在する成分又はその形成に関与する成分の発現量を増大させることができ、加えて該ペプチドを用いることで実際にコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチン産生促進活性をも発揮し得ることを見出した。更に、本発明者らは検討を重ね、当該ペプチドを、細胞に対して作用する機能性ペプチドと融合させた融合ペプチドとすることで、当該機能性ペプチドの細胞への作用を発揮させ易くするために用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1] 下記の式(I):
Gly−Arg−Ile−Arg−Val−Leu(配列番号:1)
で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、若しくは前記式(I)で示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の付加、欠失及び/又は保存的置換を有するアミノ酸配列からなるペプチド、又はそれらのペプチドの誘導体、或いはそれらの塩。
[2] Gly−Arg−Ile−Arg−Val−Leu(配列番号:1)、Gly−Arg−Ile−Arg−Val(配列番号:4)、Arg−Ile−Arg−Val−Leu(配列番号:5)、Gly−Arg−Ile−Arg(配列番号:6)、Gln−Tyr−Gly−Arg−Ile−Arg(配列番号:8)、Tyr−Gly−Arg−Ile−Arg−Val(配列番号:9)、Arg−Ile−Arg−Val−Leu−Gln(配列番号:10)、Ile−Arg−Val−Leu−Gln−Arg(配列番号:7)、Arg−Val−Leu−Gln−Arg−Phe(配列番号:11)、Tyr−Gly−Arg−Ile−Arg−Val−Leu(配列番号:3)、又はGly−Arg−Ile−Arg−Val−Leu−Gln(配列番号:2)である、[1]のペプチド、又はそのペプチドの誘導体、或いはそれらの塩。
[3] 4〜8残基のアミノ酸長を有する、[1]又は[2]に記載のペプチド、又はそのペプチドの誘導体、或いはそれらの塩。
[4] [1]〜[3]のいずれかのペプチド、又はそのペプチドの誘導体、或いはそれらの塩を含む、組成物。
[5] 美容のために用いられる、[4]の組成物。
[6] 皮膚のシワ、タルミ、ハリ低下、弾力性低下、ターンオーバー不良、シミ、くすみ、又は表皮菲薄化の改善又は予防のために用いられる、[4]又は[5]の組成物。
[7] 肌の引き締めのために用いられる、[4]〜[6]のいずれかの組成物。
[8] コラーゲン、インテグリン、及びフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するために用いられる、[4]〜[7]のいずれかの組成物。
[9] 細胞接着因子、細胞外マトリクス中のタンパク質又はその形成に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させる、[4]〜[8]のいずれかの組成物。
[10] 細胞に対して機能する機能性ペプチドと、[1]〜[3]のいずれかのペプチドとを融合させた融合ペプチド、又はその融合ペプチドの誘導体、或いはそれらの塩。
[11] 機能性ペプチドが、成長因子、ホルモン、アンタゴニスト、アゴニスト、及びそれらの一部からなる群から選択される1種以上である、[10]の融合ペプチド、又はその融合ペプチドの誘導体、或いはそれらの塩。
[12] 機能性ペプチドが、トランスフォーミング成長因子(TGF)由来の断片ペプチド又はメラノサイト刺激ホルモン(MSH)由来の断片ペプチドである、[10]又は[11]の融合ペプチド、又はその融合ペプチドの誘導体、或いはそれらの塩。
[13] 機能性ペプチドと[1]〜[3]のいずれかのペプチドとが、リンカーを介して融合されている、[10]〜[12]のいずれかの融合ペプチド、又はその融合ペプチドの誘導体、或いはそれらの塩。
[14] [1]〜[3]のいずれかのペプチドが細胞に接着する、[10]〜[13]のいずれかの融合ペプチド、又はその融合ペプチドの誘導体、或いはそれらの塩。
[15] [10]〜[14]のいずれかの融合ペプチド、又はそれらの融合ペプチドの誘導体、或いはそれらの塩を含む、組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペプチド若しくはその誘導体、又はそれらの塩は、インテグリン等の細胞接着因子や、コラーゲン等の細胞外マトリクス中の成分又はその形成に関与する成分の発現量を増大させる活性を有する。従って、本発明により、細胞と細胞外マトリクスとの間の接着を促進させ、またコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチンの産生を促進させ得る新規物質が提供される。この新規物質を利用することで、細胞と細胞外マトリクスとの間の接着が促進され、ひいては皮膚のシワやタルミ、ハリ低下、弾力性低下、ターンオーバー不良やそれに付随するシミ、くすみ、表皮菲薄化等を有効に改善でき、肌の引き締め等に役立ち、美容のために有用な組成物を調製することができる。
【0012】
更に、細胞接着効果を高める上記新規物質を利用することで、細胞に対して機能する機能性ペプチド(例えば、成長因子、ホルモン、アンタゴニスト、アゴニスト)の細胞への活性を向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例3のコラーゲン産生促進効果の評価結果を示すグラフである。
図2】実施例4の細胞接着試験の評価結果を示すグラフである。
図3】実施例6の本発明のペプチドによるインテグリンα3の発現促進を示す図である。
図4】実施例6の本発明のペプチドによるフィブロネクチンの発現促進を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたって、単数形の表現は、特に他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書中において使用される用語は、特に他に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられていることが理解されるべきである。また本明細書では、アミノ酸を、周知の三文字略記又は一文字略記で表すことがある。
【0015】
<インテグリンやコラーゲン等の発現を促進し得るペプチド>
本発明は、下記の式(I):
Gly−Arg−Ile−Arg−Val−Leu(一文字略記:GRIRVL、配列番号:1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、若しくは前記式(I)で示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の付加、欠失及び/又は保存的置換を有するアミノ酸配列からなるペプチド、又はそれらのペプチドの誘導体、或いはそれらの塩を提供する。
【0016】
本発明に用いるペプチドは、上記式(I)で表されるGRIRVLペプチドであってもよく、或いは該アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、及び/又は保存的置換を有するアミノ酸配列からなるペプチド(以下、ペプチド改変体ともいう)であってもよい。好ましくは、GRIRVLペプチド、GRIRVペプチド又はRIRVLペプチドであり、より好ましくは、GRIRVLペプチドである。
【0017】
ここで、アミノ酸の保存的置換とは、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸とが共通の性質を有するアミノ酸同士の置換をいう。より具体的には、疎水性アミノ酸として、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M)、プロリン(P)、及びアラニン(A)の中のアミノ酸間での置換;塩基性アミノ酸として、アルギニン(R)、リジン(K)、及びヒスチジン(H)の中のアミノ酸間での置換;小型アミノ酸として、グリシン(G)、アラニン(A)、セリン(S)、メチオニン(M)、トレオニン(T)の中のアミノ酸間での置換;等を挙げることができる。
【0018】
本発明に用いるペプチド改変体は、本発明の効果を発揮し得る限り、式(I)で表されるアミノ酸配列において付加、欠失、又は保存的置換のいずれかを有する改変体であってもよく、或いは、前記アミノ酸配列において付加及び欠失、付加及び保存的置換、又は欠失及び保存的置換等のように2以上の改変を有するものであってもよい。より確実に高い本発明の効果を得るために、好ましくは、式(I)で表されるアミノ酸配列において付加及び/又は欠失を有するペプチド改変体が用いられ、より好ましくは、式(I)で表されるアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端において付加及び/又は欠失を有するペプチド改変体が用いられる。
【0019】
更に本発明のペプチド改変体は、式(I)で表されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、及び/又は保存的置換を有する任意のアミノ酸配列からなるペプチド改変体であり得るが、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個のアミノ酸の付加、欠失及び/又は保存的置換を有するアミノ酸配列からなるペプチド改変体である。
【0020】
また、本発明に用いるペプチド改変体のアミノ酸残基の長さは、本発明の効果を奏し得る限り特に制限されないが、好ましくは4〜8残基、より好ましくは5〜7残基である。
【0021】
より具体的に、本発明に用いられるペプチド改変体の例として、式(I)で表されるアミノ酸配列のN末端又はC末端に付加を有するもの(例えば、GRIRVLQ(配列番号2)、YGRIRVL(配列番号3))、式(I)で表されるアミノ酸配列のN末端又はC末端に欠失を有するもの(例えば、GRIRV(配列番号4)、RIRVL(配列番号5)、GRIR(配列番号6))、式(I)で表されるアミノ酸配列のN末端及びC末端において欠失及び付加を有するもの(例えば、IRVLQR(配列番号7)、QYGRIR(配列番号8)、YGRIRV(配列番号9)、RIRVLQ(配列番号10)、RVLQRF(配列番号11))等を挙げることができる。より確実に高い効果を発揮できることが期待できるという観点から、好ましくは、GRIRVLQ(配列番号2)、YGRIRVL(配列番号3)、GRIRV(配列番号4)、RIRVL(配列番号5)、IRVLQR(配列番号7)であり、より好ましくはGRIRVLQ(配列番号2)、YGRIRVL(配列番号3)、GRIRV(配列番号4)、RIRVL(配列番号5)である。
【0022】
本明細書中において、「ペプチドの誘導体」とは、例えば、ペプチド(ペプチド改変体や、後述の融合ペプチドを含む)をアセチル化、パルミトイル化、ミリスチル化、アミド化、アクリル化、ダンシル化、ビオチン化、リン酸化、サクシニル化、アニリド化、ベンジルオキシカルボニル化、ホルミル化、ニトロ化、スルフォン化、アルデヒド化、環状化、グリコシル化、モノメチル化、ジメチル化、トリメチル化、グアニジル化、アミジン化、マレイル化、トリフルオロアセチル化、カルバミル化、トリニトロフェニル化、ニトロトロポニル化、又はアセトアセチル化した誘導体等をいう。
【0023】
本明細書中において、「塩」とは、ペプチド(ペプチド改変体や、後述の融合ペプチドを含む)又はその誘導体の薬理学的に許容される任意の塩(無機塩及び有機塩を含む)をいい、例えば、ペプチド又はその誘導体のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、ピクリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等)等が挙げられ、好ましくは、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩又はトリフルオロ酢酸塩であり、より好ましくはアンモニウム塩、酢酸塩又はトリフルオロ酢酸塩である。
【0024】
本発明のペプチド(ペプチド改変体や、後述の融合ペプチドを含む)若しくはその誘導体、又はそれらの塩は、水和物又は無水和物であってもよい。また、本発明のペプチド若しくはその誘導体、又はそれらの塩は、溶媒和物又は無溶媒和物であってもよい。
【0025】
本発明のペプチドは、当該分野で公知の方法により作製され得る。例えば、本発明のペプチドは、化学合成方法(例えば、固相法(例えば、Fmoc法)、液相法等)により合成されてもよく、また遺伝子組換え発現等の方法により作製されてもよい。なお本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、L−体であってもD−体であってもよいが、好ましくはL−体である。
【0026】
さらに本発明のペプチドは、目的のアミノ酸配列を含むタンパク質のアミノ酸配列中から、目的のアミノ酸配列からなるペプチドをプロテアーゼ処理等の公知の手段によって切り出すことによって調製してもよい。
【0027】
当業者は、プロテアーゼの配列特異性等を考慮して、目的のアミノ酸配列を含むタンパク質のアミノ酸配列中から、目的のアミノ酸配列からなるペプチドを切り出すために適切なプロテアーゼを適宜選択し得る。またタンパク質をプロテアーゼで加水分解する場合に用いられる反応条件は、特に制限されず、技術常識に従って当業者により適宜選択され得る。プロテアーゼによる加水分解処理後には、必要に応じ、当該分野で公知の手段によって精製することにより、目的のペプチドを精製することができる。
【0028】
このように、天然のタンパク質をプロテアーゼで加水分解して得られるペプチドは、化学合成方法で製造する場合よりもコスト面から有利となる。さらに、天然のタンパク質をプロテアーゼで加水分解して得られるペプチドは、生体に対してより安全であると考えられる。従って、このようにして得られたペプチドは、生体への適用に対しより高い安全性が求められる内服剤、食品、敏感肌用化粧料、飼料などに好適に使用され得る。ここで、食品とは飲料品を含むすべての飲食物を含む。
【0029】
本発明のペプチドの誘導体は、当該分野で公知の任意の方法により、当業者によって容易に作製され得る。
【0030】
本発明のペプチドの塩もまた、当該分野で公知の任意の方法により、当業者によって容易に作製され得る。
【0031】
本発明には、上記の特定配列を有するペプチド若しくはその誘導体、又はそれらの塩のいずれもが用いられ得るが、より確実に高い本願効果を得るためには、好ましくはペプチド又はその塩が用いられ、特に好ましくはペプチドが用いられる。
【0032】
本発明のペプチド若しくはその改変体、又はそれらのペプチドの誘導体、或いはそれらの塩は、インテグリン等の細胞接着因子やコラーゲン等の細胞外マトリクス中のタンパク質又はその形成に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させ得る。以下、本発明のペプチド若しくはその改変体、又はそれらのペプチドの誘導体、或いはそれらの塩を本発明のペプチド類と呼ぶ。本発明のペプチド類により発現が増大される細胞接着因子や細胞外マトリクス中のタンパク質又はその形成に関与するタンパク質として、具体的には、インテグリン(integrin)、フィブロネクチン(fibronectin)、ラミニン(laminin)、コラーゲン(collagen)、エラスチン(elastin)、TIMPメタロペプチダーゼインヒビター(TIMP metallopeptidase inhibitor)、エラスチン線維関連タンパク質(elastin microfibril interfacer)(エミリンともいう)、ヒアルロン酸合成酵素(hyaluronan synthase)等が挙げられる。
【0033】
インテグリンは、細胞表面タンパク質の1つで、細胞外マトリクスへの接着、細胞外マトリクスからのシグナル伝達に関与している。フィブロネクチンは、細胞外マトリクスの1つで、インテグリンとの接着に関与している。またフィブロネクチンは、コラーゲン等の細胞外マトリクス成分とも接着し、細胞と細胞外マトリクスを接着させる役割を果たす。ラミニンは、基底膜(細胞外マトリクスの一種)の主要タンパク質であり、インテグリンと相互作用し、細胞接着等に関与することが知られている。コラーゲンは、細胞外マトリクスの主要タンパク質であり、各種細胞の接着、細胞の分化や増殖に特異的に作用し、細胞機能の調節因子としての役割も持っている。コラーゲンの減少は、角膜潰瘍等の角膜障害、リューマチ、関節炎、変形性関節炎、骨関節炎等の関節障害、炎症性疾患等の様々な疾患を引き起こすことがある。また、皮膚真皮の細胞外マトリクスでは、コラーゲン線維が網目状の束を形成することにより適度なハリを与えている。コラーゲンにはI〜XIX型等の各種タイプのコラーゲンがあるが、本発明のペプチド類は特に、I型コラーゲン(コラーゲンタイプI)やIV型コラーゲン(コラーゲンタイプIV)やXVIII型コラーゲン(コラーゲンタイプXVIII)の発現を増大させ得る。エラスチンは、細胞外マトリクスを構成する弾性繊維の構成成分である。TIMPメタロペプチダーゼインヒビターは、細胞外マトリクスの分解に関与するペプチダーゼの活性を阻害する作用を有し、その結果、TIMPは、細胞外マトリクスの過剰な分解を抑制し、組織のホメオスタシスに重要な役割を担っている。エミリンは、細胞外マトリクスを構成する多量体糖タンパク質の1つであり、エラスチンと微小線維との間に存在して、弾性繊維形成やその構造安定化等に関与していると考えられている。ヒアルロン酸合成酵素は、細胞膜に局在する酵素で、細胞外マトリクスの主要成分の1つであるヒアルロン酸の合成を行う。ヒアルロン酸は、細胞外空間の構造を支え、栄養因子や老廃物の物質輸送に関与する他、強力な保水作用を有することから、皮膚の弾力やハリに影響することが知られている。
【0034】
上記の各種タンパク質は細胞外マトリクスと細胞との接着に直接的又は間接的に関与するので、これらのタンパク質の産生量が増大すると、例えば、細胞接着因子が増え、さらに細胞外マトリクスが増えるので、線維芽細胞や角化細胞等の皮膚細胞と細胞外マトリックスとの間の接着が促進される。
【0035】
さらに、本発明のペプチド類は、直接的には細胞と細胞外マトリクスの接着に関与しないが皮膚に対して作用を及ぼし得るタンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させあるいは減少させ得る。ここで、皮膚に対して作用を及ぼすとは、例えば、皮膚のシワやタルミ、ハリ低下、弾力性低下、ターンオーバー不良やそれに付随するシミ、くすみ、表皮菲薄化等を有効に改善でき、肌の引き締め等に役立つ等の皮膚に対する良い作用を及ぼすことの他、皮膚の炎症やメラニン産生を誘導する等の皮膚に対する良くない作用を及ぼすことをいう。本発明のペプチド類は、皮膚に良い作用を及ぼす遺伝子の発現を増大させる一方で、皮膚に良くない作用を及ぼす遺伝子の発現を減少させ得る。
【0036】
皮膚に良い作用を及ぼし得るタンパク質であって、本発明のペプチド類により遺伝子発現が増大するタンパク質として、カタラーゼ(catalase)、アンフィレギュリン(amphiregulin)、サーチュイン(sirtuin)、テロメラーゼ(telomerase)等が挙げられる。
【0037】
カタラーゼは、過酸化水素分解酵素であり、紫外線照射等で生じる皮膚に有害な過酸化水素を分解するので、その発現量増大は皮膚に対して良い効果が期待できる。アンフィレギュリンは、EGFファミリーの遺伝子の1つであり、細胞の増殖・分化を制御し、表皮のターンオーバー促進や抗シワ効果が期待できる。サーチュインは、抗老化遺伝子とも呼ばれている。このサーチュイン遺伝子が活性化されることで、細胞寿命延長効果が期待できる。テロメラーゼは、テロメア伸長酵素であり、これもまた細胞寿命延長効果が期待できる。
【0038】
例えば、正常ヒト真皮線維芽細胞を本発明のペプチド類の存在下、例えば、本発明のペプチド類が0.5mg/ml又は1mg/mlの濃度で含まれている培地で培養した場合に、上記のインテグリン等の細胞接着因子やコラーゲン等の細胞外マトリクス中のタンパク質又はその形成に関与するタンパク質、並びに皮膚に良い作用を及ぼし得るタンパク質をコードする遺伝子のmRNA産生量が、約10%以上、好ましくは約15%以上、さらに好ましくは約20%以上、さらに好ましくは約25%以上、特に好ましくは約30%以上増大する。
【0039】
また、皮膚に良くない作用を及ぼし得るタンパク質であって、本発明のペプチド類により遺伝子発現が減少するタンパク質として、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ(プロスタグランジン合成酵素)(prostaglandin-endoperoxide synthase)、インターロイキン-6(IL-6: interleukin 6)等が挙げられる。
【0040】
プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ(プロスタグランジン合成酵素)及びインターロイキン−6(IL−6)は、それぞれ、炎症系で作用する酵素及びサイトカインである。これらの遺伝子の発現量を低下させることで、炎症の抑制に役立つことが期待される。また、これらの遺伝子発現産物は、直接又は間接的にメラニン産生を促進するので、その発現量を低下させてメラニン産生を抑制することで、美白効果が期待できる。
【0041】
例えば、正常ヒト真皮線維芽細胞を本発明のペプチド類の存在下、例えば、本発明のペプチド類が0.5mg/ml又は1mg/mlの濃度で含まれている培地で培養した場合に、上記の皮膚に良くない作用を及ぼし得るタンパク質をコードする遺伝子のmRNA産生量が、約20%以上、好ましくは約30%以上、さらに好ましくは約40%以上、さらに好ましくは約70%以上、特に好ましくは約80%以上減少する。
【0042】
これらの遺伝子の発現が増大するか否か及びその増大量、あるいは減少するか否か及びその減少量は、例えば、本発明のペプチド類の存在下及び非存在下で正常ヒト真皮線維芽細胞を培養し、該細胞からRNAを抽出し、皮膚に作用し得ると思われる遺伝子又はその断片を固定化したDNAチップを用いてRNA量を測定し、本発明のペプチド類の存在下で培養した細胞中のRNA量と非存在下で培養した細胞中のRNA量を比較すればよい。皮膚に作用し得ると思われる遺伝子又はその断片を固定化したDNAチップとしては、例えば、ヒト版皮膚チップ(SKNH-LX)ジェノパール(登録商標)(三菱レイヨン(株))を用いることができる。遺伝子の発現が増大するか否か及びその増大量、あるいは減少するか否か及びその減少量はまた、例えば、上記と同様に処理して抽出されたRNAに対して定量PCR(qPCR)を行うことによっても評価することができる。
【0043】
本発明のペプチド類により、細胞と細胞外マトリクスの接着に関与するタンパク質の産生量が増大すると、生体の真皮又は表皮内で線維芽細胞や角化細胞等の細胞が細胞外マトリクスと接着し、細胞と細胞外マトリクスの結合を強化する。特に、生体の真皮内で線維芽細胞表面のインテグリンが細胞外マトリクスと接着し、線維芽細胞と細胞外マトリクスの結合を強化する。また、生体の真皮内で線維芽細胞が細胞外マトリクス中のコラーゲンと接着し、コラーゲンが線維束構造をしっかりと形成することにより、線維芽細胞と細胞外マトリクスの結合を強化する。この結果、細胞と細胞外マトリクスの引っ張り強度を増加させて真皮を引き締め、肌のハリや弾性が保持される。従って、本発明のペプチド類は、細胞と細胞外マトリクスとの間の接着能力低下に起因する皮膚のシワやタルミを改善するため、或いは肌のハリや弾性を回復させるために用いることができる。さらに、表皮角化細胞が基底膜の細胞外マトリクスと接着し、しっかりと表皮と基底膜とを固着させることにより、たるみ(例えば、毛穴のたるみ)やシワが抑制され、また角化細胞の増殖が促進されるのでターンオーバー促進とそれによるシミ、くすみの改善にも用いることができる。ここで、ターンオーバーとは、皮膚において、表皮の角化細胞が、皮膚の基底層で産生されてから角層を形成し、最終的に脱落することをいう。ターンオーバーにより表皮の細胞が新しい細胞に入れ変わる。ターンオーバー促進によりターンオーバーにかかる時間が短縮される。また、真皮又は表皮と基底膜との接着を促進することにより、表皮への栄養供給や転写因子の移動等がスムーズになり、より健康的な皮膚状態(例えば、表皮の菲薄化が生じていない状態)へと近づけることができる。従って、本発明のペプチド類は、線維芽細胞又は角化細胞と細胞外マトリクス(特に基底膜)との間の接着能力低下に起因するタルミやシワ、ターンオーバー低下、シミ、くすみ、表皮の菲薄化を改善するためにも用いることができる。
【0044】
さらに、本発明のペプチド類は、皮膚に良い作用を及ぼし得る遺伝子の発現を増大させ、その一方で、皮膚に良くない作用を及ぼし得る遺伝子の発現を減少させる。その結果、皮膚の状態を健康的なより良い状態にすることができる。
【0045】
本発明は上記のペプチド類を有効成分として含む組成物も包含する。該組成物は例えば、医薬組成物、化粧料組成物、食品組成物又は飼料組成物として、さらには細胞と細胞外マトリクスとの間の接着性に関連する生理状態の解明のため、或いは皮膚状態の解明のための研究試薬として好適に使用され得る。好ましくは、美容のために用いられる医薬組成物、化粧料組成物、食品組成物又は飼料組成物である。本発明において、美容のために用いられる組成物(即ち、美容組成物)とは、顔や体つきを美しくすること(例えば、皮膚に対する美肌効果等の美容)を目的として用いる組成物のことをいう。
【0046】
医薬組成物としては、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物における細胞と細胞外マトリクスとの間の接着能力低下に起因する疾患の予防剤及び/又は治療剤等が挙げられる。具体的には、本発明の医薬組成物は、例えば、加齢等により生じる線維芽細胞又は角化細胞と細胞外マトリクスとの間の接着能力低下に起因する皮膚のシワ若しくはタルミの予防剤及び/又は治療剤として、前記接着能力低下に起因する皮膚のハリ若しくは弾力性の低下に対する予防剤及び/又は治療剤として、或いは肌の引き締め剤として、前記接着能力低下に起因する皮膚のターンオーバー不良やそれに付随するシミ若しくはくすみの予防剤及び/又は治療剤として、或いは前記接着能力低下に起因する表皮菲薄化の予防剤及び/又は治療剤等として使用され得る。本発明のペプチド類を含む医薬組成物が、上記のようなシワ、タルミ、ハリや弾力性の低下の予防及び/又は治療、肌の引き締め等に対して有益であることは、後述の実施例3又は6に示されるコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチン産生促進効果の結果からも明らかである。
【0047】
化粧料組成物としては、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物における細胞と細胞外マトリクスとの間の接着能力低下に起因する状態の予防及び/又は改善のための化粧料としても用いられ得る。具体的には、本発明の化粧料組成物は、例えば、加齢等により生じる線維芽細胞又は角化細胞と細胞外マトリクスとの間の接着能力低下に起因する皮膚のシワ若しくはタルミの予防及び/又は改善のための化粧料として、前記接着能力低下に起因する皮膚のハリ若しくは弾力性の低下に対する予防及び/又は改善のための化粧料として、或いは肌の引き締めのための化粧料として、前記接着能力低下に起因する皮膚のターンオーバー不良やそれに付随するシミ若しくはくすみの予防及び/又は改善のための化粧料として、或いは前記接着能力低下に起因する表皮菲薄化の予防及び/又は改善のための化粧料等として使用され得る。本発明のペプチド類を含む化粧料組成物が、上記のようなシワ、タルミ、ハリや弾力性の低下の予防及び/又は改善、肌の引き締め等に対して有益であることは、後述の実施例3又は6に示されるコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチン産生促進効果の結果からも明らかである。
【0048】
食品組成物としては、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物における細胞と細胞外マトリクスとの間の接着能力低下に起因する状態の予防及び/又は改善のための食品としても用いられ得る。具体的には、本発明の食品組成物は、例えば、加齢等により生じる線維芽細胞又は角化細胞と細胞外マトリクスとの間の接着能力低下に起因する皮膚のシワ若しくはタルミの予防及び/又は改善のための食品として、前記接着能力低下に起因する皮膚のハリ若しくは弾力性の低下に対する予防及び/又は改善のための食品として、或いは肌の引き締めのための食品として、前記接着能力低下に起因する皮膚のターンオーバー不良やそれに付随するシミ若しくはくすみの予防及び/又は改善のための食品として、或いは前記接着能力低下に起因する表皮菲薄化の予防及び/又は改善のための食品等として使用され得る。本発明のペプチド類を含む食品組成物が、上記のようなシワ、タルミ、ハリや弾力性の低下の予防及び/又は改善、肌の引き締め等に対して有益であることは、後述の実施例3又は6に示されるコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチン産生促進効果の結果からも明らかである。
【0049】
本発明の食品組成物は、健康食品、特定保健用食品、栄養機能食品、健康補助食品等を含む。これらの組成物は美容健康食品を含む。特定保健用食品とは、食生活において特定の保健の目的で摂取をし、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品をいう。これらの食品には、特定の実施形態において、上記のような用途に用いられるものである旨の表示を付した食品として提供され得る。すなわち、美容のために用いられるものである旨の表示、美肌作用を有する旨の表示、肌質改善のために用いられるものである旨の表示、皮膚のハリや弾性を回復させるために用いられるものである旨の表示、皮膚のシワやタルミの予防又は改善のために用いられるものである旨の表示、肌の引き締めのために用いられるものである旨の表示、皮膚のターンオーバー不良やそれに付随するシミ若しくはくすみの予防又は改善のために用いられるものである旨の表示、表皮菲薄化の予防又は改善のために用いられるものである旨の表示を付した食品として提供され得る。
【0050】
飼料としては、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ、ウマ等の家畜や、イヌ、ネコ等のペット動物における細胞と細胞外マトリクスとの間の接着能力低下に起因する状態の予防用及び/又は改善用の飼料、生体内におけるコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチン量の減少に起因する状態の予防用及び/又は改善用の飼料等が挙げられる。
【0051】
本組成物中における本発明のペプチド類の含有量は、組成物の剤型等によっても異なるが、一般には、高い細胞と細胞外マトリクスとの間の接着促進効果、又はコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチン産生促進効果を得る観点から、好ましくは0.0001〜100重量%、より好ましくは0.001〜95重量%、さらに好ましくは0.01〜90重量%、特に好ましくは0.1〜80重量%である。
【0052】
本発明の組成物は、本発明のペプチド類の他に製剤分野や食品分野等の分野において通常使用される担体、基剤、及び/又は添加剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合して調製することができる。
【0053】
担体としては、例えば、糖類、セルロース類、水難溶性ガム類、架橋ビニル重合体、脂質類等が1種又は2種以上組み合わせて用いられ得る。基剤としては、例えば、水、油脂類、鉱物油類、ロウ類、脂肪酸類、シリコーン油類、ステロール類、エステル類、金属石鹸類、アルコール等が1種又は2種以上組み合わせて用いられ得る。添加剤としては、例えば、界面活性剤、可溶化成分、乳化剤、油分、安定化剤、増粘剤、防腐剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、pH調整剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、経皮吸収促進剤、抗酸化剤、崩壊剤、可塑剤、緩衝剤、ビタミン類、アミノ酸類、着色剤、香料等が1種又は2種以上組み合わせて用いられ得る。
【0054】
さらに本発明の組成物には、必要に応じて他の有用な作用を付加するために、美白成分、抗炎症成分、抗菌成分、細胞賦活化成分、収斂成分、抗酸化成分、ニキビ改善成分、コラーゲン等の生体成分合成促進成分、血行促進成分、保湿成分、老化防止成分等の各種成分を1種又は2種以上組み合わせて配合されてもよい。
【0055】
本発明の組成物は、内服剤(食品及び飼料を含む)又は外用剤(化粧料を含む)等の任意の剤型であり得る。内服剤(食品及び飼料を含む)としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゲル剤、リポソーム剤、エキス剤、チンキ剤、レモネード剤、ゼリー剤等の任意の形態で使用され得る。
【0056】
また食品とする場合には、パン、麺、惣菜、食肉加工食品(例えば、ハム、ソーセージなど)、水産加工食品、調味料(例えば、ドレッシングなど)、乳製品、菓子(例えば、ビスケット、キャンディー、ゼリー、アイスクリームなど)、スープ、ジュースなどの任意の一般の食品に含有させた食品形態としても提供され得る。このような形態にする場合、前記の加水分解物は、目的とする食品の性質等に依存して、当業者に公知の方法により適宜配合され得る。
【0057】
外用剤としては、例えば、液状、乳液状、クリーム状、ローション状、ペースト状、ムース状、ジェル状、シート状(基材担持)、エアゾール状、スプレー状等の任意の形態で使用され得る。
【0058】
化粧料としては、例えば、ローション、乳液、クリーム、オイル、パック等の基礎化粧料、またファンデーション、頬紅、口紅等のメーキャップ化粧料、さらに洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等の洗浄料、入浴剤等の任意の形態で使用され得る。
飼料としては、任意の形態で使用され得るため、特に限定は無い。
【0059】
本発明はさらに、前記ペプチド類を用いることを特徴とする、細胞と細胞外マトリクスとの間の接着を促進する方法、及びコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチンの産生促進方法を包含する。本発明の方法においては、前記ペプチド類を、細胞と細胞外マトリクスとの間の接着促進効果が得られる有効量以上、或いはコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチンの産生促進効果が得られる有効量以上の量で用いればよい。すなわち、本発明の方法における前記ペプチド類の使用量は通常、内服剤の場合には、成人1人体重約50kgあたり好ましくは約0.001〜10000mg/日、より好ましくは約1〜1000mg/日、さらに好ましくは約1〜100mg/日である。外用剤の場合における当該使用量は通常、成人1人体重約50kgあたり好ましくは約0.1μg〜2g/日である。さらに外用剤として用いる場合、前記ペプチド類の皮膚への適用量は、好ましくは約1ng〜500μg/cm2、より好ましくは約0.01〜50μg/cm2、さらに好ましくは約0.1〜10μg/cm2である。
【0060】
本発明はさらに、細胞と細胞外マトリクスとの間の接着を促進するための組成物の製造のための、前記ペプチド類の使用を提供する。更に本発明は、コラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチン産生促進用組成物の製造のための、前記ペプチド類の使用をも提供する。
前記ペプチド類の使用量は、前記組成物中の含有量となるように使用すればよい。
【0061】
<機能性ペプチドとの融合ペプチド>
後述の実施例の結果に示されるように、式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はそのペプチド改変体は、細胞におけるインテグリンの発現量を増大させ得ることが明らかとなっている。更に、式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はそのペプチド改変体が、実際に細胞に接着し得ることも確認できている。従って、本発明のペプチド又はそのペプチド改変体を用いることにより、細胞に対して作用させることを意図した機能性ペプチドの細胞への活性を増強し得ることが期待される。
【0062】
従って、本発明は更に別の観点から、(A)細胞に対して機能する機能性ペプチド(以下、(A)要素ともいう)と、(B)式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド或いは当該アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、及び/又は保存的置換を有するアミノ酸配列からなるペプチド(以下、(B)要素ともいう)とを含む、融合ペプチドをも提供する。このような融合ペプチドは、(B)要素がインテグリン等を介した細胞接着を促進し、細胞接着促進効果を発揮し得るので、(A)要素が細胞に接触する確率を高めることができ、より一層効果的に(A)要素の細胞への作用を発揮させやすくなる。すなわち、本発明の式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はそのペプチド改変体と機能性ペプチドの融合ペプチドが細胞に作用して、本発明のペプチド又はペプチド改変体の作用により、細胞において、前記融合タンパク質が細胞の近傍に存在しているときにインテグリンの発現が増大する。更に、本発明の式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はそのペプチド改変体が直接的に細胞に接着する。それらの結果、前記融合タンパク質は細胞接着効果により、細胞と接触する確率が高まり、その結果、機能性ペプチドが細胞に取り込まれ、あるいは細胞表面の受容体に結合し、細胞に対してその機能を発揮し得る。
【0063】
本発明の融合ペプチドの構成要素となる(A)機能性ペプチドとしては、細胞に対して機能を発揮させることが意図される任意のペプチドであってよく、具体的には、成長因子、ホルモン、アンタゴニスト、アゴニスト、又はそれらの一部等であり得る。
【0064】
成長因子(growth factor)とは、増殖因子や細胞増殖因子とも呼ばれ、特定の細胞の増殖や分化に影響するタンパク質の総称である。具体的には、トランスフォーミング成長因子(TGF)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、肝細胞増殖因子(HGF)等を挙げることができる。好ましくは、トランスフォーミング成長因子、上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子、肝細胞増殖因子である。本発明の融合ペプチドには、上記成長因子の一部であるペプチドを用いてもよい。このような一部のペプチドとしては、国際公開第2008/130082号パンフレットに記載のようなTGF-β由来の断片ペプチド(例えば、Ile-Trp-Ser-Leu-Asp-Thr-Gln-Tyr配列(配列番号12)を有するペプチド)等を用いることができる。
【0065】
ホルモンとは、細胞に作用して細胞の活性を調節する生理活性物質である。本発明の融合タンパク質において機能性因子として用いるホルモンは、ペプチドホルモンであることが好ましい。ペプチドホルモンとして、具体的には、メラノサイト刺激ホルモン(MSH)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、心房性ナトリウム利尿因子(ANF)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、オキシトシン、バソプレッシン等を挙げることができる。好ましくは、メラノサイト刺激ホルモンである。本発明の融合ペプチドには、上記ペプチドホルモンの一部であるペプチドを用いてもよく、このような一部のペプチドとしては、米国特許第6245342号、米国特許第7737119号に記載のようなα-MSHの断片ペプチド(例えば、Glu-His-Phe-Arg-Trp-Gly配列(配列番号13)を有するペプチド)等を用いることができる。
【0066】
アンタゴニストとは、細胞の受容体に働いて、該受容体へのリガンドの結合を阻害する作用を有する物質の総称である。具体的には、RAGEアンタゴニスト等を挙げることができる。RAGEアンタゴニストとは、老化現象の1つと考えられているタンパク質の糖化により生じる終末糖化産物(AGEsとも呼ばれる)の受容体(RAGE:Receptor for AGE)に対して拮抗的に働き、リガンドの結合を阻害する物質である。本発明の融合ペプチドには、RAGEアンタゴニストの一部を用いることもでき、このような一部のペプチドとしては、米国特許出願公開第2010/0249038号に記載のようなRAGEアンタゴニストの一部等を用いることができる。
【0067】
アゴニストとは、細胞の受容体に働いて、該受容体に作用するリガンドと同様の作用を発揮する物質の総称である。本発明の融合ペプチドには、このようなアゴニストの一部であるペプチドを用いることもできる。
【0068】
なお、本発明の融合ペプチドにおいて、(A)要素である機能性ペプチドと、(B)要素である式(I)で表されるペプチド若しくはそのペプチド改変体との融合の順序は特に限定されず、(A)要素がN末端側で(B)要素がC末端側であっても、その逆であってもよい。なお、融合ペプチドにおいて、N末端側のペプチドを頭部ペプチド、C末端側のペプチドを尾部ペプチドと呼ぶことがある。
【0069】
また、本発明の融合ペプチドは、(A)要素及び(B)要素のみから構成される融合ペプチドであってもよく、(A)要素及び(B)要素以外の更なるアミノ酸配列を含む融合ペプチドであってもよい。更に、本発明の融合ペプチドは、(A)要素と(B)要素とを直接連結した融合ペプチドであってもよいし、(A)要素と(B)要素との間にリンカーとなるアミノ酸配列を含んだ融合ペプチドであってもよい。リンカーを介して(A)要素と(B)要素を融合させた場合、(A)要素及び(B)要素のそれぞれの構造安定性が高くなり、より高い効果を発揮させ易くなることが期待できる。従って、本発明の融合ペプチドは、(A)要素と(B)要素との間にリンカーを含むものであることが好ましい。また、本発明の融合ペプチドが(A)要素として複数の機能性ペプチドを含む場合、各機能性ペプチド間にもリンカーを含むように構成することが好ましい。
【0070】
本発明の融合ペプチド中に含まれるリンカーは、(A)要素と(B)要素のそれぞれの機能発揮に影響が無い限り、任意のリンカー配列であり得る。一例として、リンカーとしては、アミノ酸により構成されるリンカーを挙げることができる。ここで、リンカーに用いられ得るアミノ酸としては、同一分子内にアミノ基(-NH2基)とカルボキシル基(-COOH基)の両方を有する有機化合物であり、アミノ基とカルボキシル基が同一炭素に結合しているα−アミノ酸(例えば、グリシン、セリン、アラニン(α-アラニン)、トレオニン、メチオニン)であってもよいし、β-アラニン、アミノ酪酸(例えば、4-アミノ酪酸)、アミノ吉草酸(例えば、5-アミノ吉草酸)、アミノヘキサン酸(例えば、6-アミノヘキサン酸)、アミノヘプタン酸(例えば、7-アミノヘプタン酸)、アミノオクタン酸(例えば、8-アミノオクタン酸)、アミノノナン酸(9-アミノノナン酸)、アミノデカン酸(例えば、10-アミノデカン酸)、アミノウンデカン酸(例えば、11-アミノウンデカン酸)、アミノラウリン酸(例えば、12-アミノラウリン酸)、アミノトリデカン酸(例えば、13-アミノトリデカン酸)、アミノミリスチン酸(例えば、14-アミノミリスチン酸)、アミノペンタデカン酸(例えば、15-アミノペンタデカン酸)、アミノパルミチン酸(例えば、16-アミノパルミチン酸)等の炭素数2〜50程度、好ましくは炭素数2〜30程度、より好ましくは炭素数2〜20程度、更に好ましくは炭素数2〜15程度のアミノカルボン酸であってもよい。好ましくは、グリシン、セリン、及び/又は炭素数2〜20のアミノカルボン酸により構成されるリンカーを挙げることができ、より好ましくはグリシン及び/又は炭素数2〜15のアミノカルボン酸で構成されるリンカーを挙げることができ、更に好ましくはグリシンのみで構成されるリンカーを挙げることができる。
【0071】
リンカーのアミノ酸長は特に限定されないが、一般的には1〜20残基であり、好ましくは1〜15残基であり、より好ましくは1〜10残基であり、更に好ましくは1〜5残基であり、より更に好ましくは1〜3残基である。
【0072】
本発明の融合ペプチドは、より簡便には、当該分野で公知の化学合成方法(例えば、固相法(例えば、Fmoc法)、液相法等)で調製され得る。融合ペプチドを化学合成する場合、(A)要素、(B)要素、及び必要に応じてリンカー等の他のペプチドを個別に用意してからそれらを融合させてもよく、或いは(A)要素及び(B)要素、並びに必要に応じてリンカー等を含む融合ペプチドの一連のアミノ酸配列を予め設計し、そのように設計された融合ペプチドのアミノ酸配列を、N末端又はC末端から逐次合成していく形で調製してもよい。
【0073】
また、本発明の融合ペプチドは、(A)要素である機能性ペプチドをコードするDNAと(B)要素である式(I)で表されるペプチド若しくはそのペプチド改変体をコードするDNAをインフレームで機能し得る形で連結し、該融合DNAを発現ベクターに導入し、適当な宿主細胞に該ベクターを導入して発現させることにより遺伝子工学的にリコンビナントペプチドとして作製することができる。この際、プロモーターやターミネーター等の要素を機能し得る形で連結してもよい。また、遺伝的にコードされるアミノ酸のみから構成されるリンカーを配置する場合には、(A)要素である機能性ペプチドをコードするDNAと(B)要素である式(I)で表されるペプチド若しくはそのペプチド改変体をコードするDNAの間に上記のリンカーペプチドをコードするDNAを介在させてもよい。
【0074】
また、本発明の融合ペプチドを誘導体化したもの、又は本発明の融合ペプチド若しくはその誘導体を塩の形態にしたものも、上記と同じ目的で使用することができる。融合ペプチドの誘導体、又は融合ペプチド若しくはその誘導体の塩は、前述の本発明のペプチド類と同様の誘導体又は塩の形態であり得る。
【0075】
本発明は、上記融合ペプチドを含む組成物も包含する。該組成物は、機能性ペプチドを細胞に作用させるための組成物として用いることができる。該組成物における融合ペプチド類の配合量や、その他に配合し得る成分(担体、基剤又は添加剤等)の種類や配合量、又は組成物の形態等は、前述の本発明のペプチド類を含む組成物と同様である。また該組成物の用途は、前述の本発明のペプチド類を含む組成物と同様であってもよいし、該機能性ペプチドの効果に応じて、更に別の用途に用いられるものであってもよい。例えば、皮膚に対して良い作用(例えば、皮膚のシワ、タルミ、ハリ低下、弾力性低下、ターンオーバー不良、シミ、くすみ、又は表皮菲薄化の予防及び/又は改善;肌の引き締め及び/又は美白;皮膚における炎症の予防及び/又は改善;皮膚におけるタンパク質の糖化(AGEs生成)等の皮膚老化症状の予防及び/又は改善等)の発揮が期待される機能性ペプチドと融合させた場合には、本発明のペプチド類自体による作用に加えて、該機能性ペプチドによる作用に基づく効果を得るためにも有益に用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0077】
実施例1:GRIRVL (Gly−Arg−Ile−Arg−Val−Leu)ペプチドの調製
(1) ペプチドの合成:
GRIRVLペプチドを、ペプチド自動合成装置(島津製作所社製:PSSM8)を用いて、Fmoc法による固相合成法により合成した。具体的な手順は以下の通りである:まず固相合成用樹脂にFmoc-Leu-OHのC末端を結合させてから、保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、次いでこの樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Val-OHをLeuのN末端に導入した。次いで保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、再度この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Arg(Pmc)-OHをValのN末端に導入した。次いで保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、再度この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Ile-OHをArgのN末端に導入した。次いで保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、再度この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Arg(Pmc)-OHをIleのN末端に導入した。次いで保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、再度この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Gly-OHをArgのN末端に導入した。次いで、保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、この樹脂からペプチド鎖の切り出しを行った。TFA(トリフルオロ酢酸)により、ArgのPmc基を切断することにより脱保護した。最後に、分取HPLCで未反応物を除去して精製することによりGRIRVLを得た。
【0078】
(2) ペプチドの純度検定:
得られた精製物を分析用逆相高速液体クロマトグラフィー[カラム:Inertsil ODS―3 (内径: 4.6mm、長さ: 250mm) 、GL Sciences社製、;移動相:溶媒A(0.05%トリフルオロ酢酸)および溶媒B(0.05%トリフルオロ酢酸、100%アセトニトリル)のグラジエント(0分(溶媒B=0%)〜30分(溶媒B=11%));流速:1 ml/分;検出法:波長 220nmにおける吸光度]に付したところ、5.5分に単一の鋭いピークが示され、純度は99.9%であった。
【0079】
実施例2:マイクロアレイによる遺伝子発現の測定
正常ヒト真皮線維芽細胞(KF-4009;クラボウ)を、10 %仔牛血清 (FBS)含有ダルベッコ変法MEM (DMEM) (GIBCO)を用いて12穴マイクロプレートに、3.0×104 cells/cm2の細胞密度にて播種した。播種24時間後、上記実施例1で調製したGRIRVLペプチドを所定の濃度(0.5mg/ml又は1mg/ml)で含有するDMEMと交換し48時間培養した。別途、コントロール(無処理群)として、被験ペプチドを含有しないDMEMで交換したウェルを用意し、同様に48時間培養した。次いで、RNeasy Mini Kit(QIAGEN製)とQIA shredder(QIAGEN製)を用いて、GRIRVLペプチド処理群及び無処理群の線維芽細胞から各々RNAを抽出した。抽出した各RNAに対して、ヒト版皮膚チップ(SKNH-LX)ジェノパール(登録商標)(三菱レイヨン(株)製)を用いて、GRIRVLペプチド処理群と無処理群との遺伝子発現パターンを比較した。該ヒト版皮膚チップには、肌の形成や新陳代謝に関連する遺伝子及び炎症や毒性に関連する139個の皮膚に作用する可能性がある遺伝子が固定化されている。139個の遺伝子のうち、GRIRVLペプチド処理により発現の増減が認められた遺伝子について、無処理群における発現量を100とした場合の、GRIRVLペプチド処理群における発現量の比として算出した結果を、下記の表1〜4に示す。表1及び表2に示す遺伝子は、細胞と細胞外マトリクスとの接着に直接的又は間接的に関与し得る遺伝子であり、表3及び表4に示す遺伝子は、細胞と細胞外マトリクスとの接着に直接は関与しないが、皮膚に対して良い作用又は良くない作用を及ぼし得る遺伝子である。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
上記表1及び2の結果に示されるように、GRIRVLペプチドで処理した線維芽細胞において、インテグリンやフィブロネクチン、ラミニン等の細胞接着因子に加え、コラーゲンやその分解酵素を抑制するTIMPメタロペプチダーゼインヒビター、エラスチン、エミリン、ヒアルロン酸合成酵素などの細胞外マトリクス中に存在する成分又はその形成に関与する成分の発現量が増加していた。中でも、タイプIコラーゲンについて高い発現量が認められた。
【0085】
以上の結果から、本発明のペプチドが、インテグリン等の細胞接着因子及び細胞外マトリクス中の成分又はその形成に関与する成分の発現量を増大させ、細胞と細胞外マトリクスとの間の相互作用を良好なものとし、細胞接着を促進させるために有益に用いられ得ることが明らかとなった。
【0086】
また、上記表3及び4の結果に示されるように、GRIRVLペプチドで処理した線維芽細胞において、カタラーゼ、アンフィレギュリン、サーチュイン、テロメラーゼ等の皮膚に良い作用を及ぼし得る遺伝子の発現量が増加していた。一方、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ(プロスタグランジン合成酵素)、インターロイキン-6(IL-6)等の皮膚に良くない作用を及ぼし得る遺伝子の発現量が減少していた。
【0087】
以上の結果から、本発明のペプチドが、皮膚に良い作用を及ぼし得る遺伝子の発現量を増大させるとともに皮膚に良くない作用を及ぼし得る遺伝子の発現量を減少させ、結果的に皮膚により良い作用をもたらして、皮膚の老化症状の改善等に役立ち得ることが明らかとなった。
【0088】
実施例3:コラーゲン産生促進効果の評価
正常ヒト真皮線維芽細胞(KF-4009;クラボウ)を、10 %仔牛血清 (FBS)含有ダルベッコ変法MEM (DMEM) (GIBCO)を用いて96穴マイクロプレートに、6.25×104 cells/cm2の細胞密度にて播種した。播種24時間後、実施例1で調製したGRIRVLペプチドを所定の濃度で含有するDMEMと交換した。別途、コントロール(無処理群)として、被験ペプチドを含有しないDMEMで交換したウェルも用意した。GRIRVLペプチド含有群及び無処理群を約48時間培養した後、培地上清を回収してCollagen Type I ELISAに供した。一次抗体反応はAffinity Purified Anti-Collagen Type I (Rabbit)(ROCKLAND社製)、二次抗体反応はヒストファインシンプルステインMAX-PO(R) (Rabbit)(ニチレイ製)を使用し、培地上清のタイプIコラーゲン濃度を測定した。細胞は0.5 % Triton X-100溶液にて溶解し、BCA Protein Assay Reagent Kit(Thermo Scientific)を用いて総タンパク量を定量し、細胞タンパク量あたりのタイプIコラーゲン産生量を無処理群と比較した。
【0089】
この結果を、図1に示す。図1の結果から明らかなように、GRIRVLペプチド処理群ではタイプIコラーゲン産生が増加しており、特に200μg/ml処理群では無処理群の約1.5倍の有意な増加が見られた。以上の結果から、本発明のペプチドが、高いコラーゲン産生促進効果を発揮でき、皮膚のシワやタルミ、ハリや弾力性の低下等に対する予防及び/又は改善のために有益に用いられ得ることが明らかとなった。
【0090】
また、この試験結果から、実施例2で確認された遺伝子発現量の増減が、実際にタンパク質量の増減に関連付けられることが理解できる。
【0091】
実施例4:ペプチドチップを用いた細胞接着評価
本発明のペプチドの細胞接着効果について評価するために、以下の試験を行った。
(1)ペプチドチップの作製:
ペプチド自動合成装置(ASP222, IntavisAG, Koeln, Germaniy)を用いて、Fmoc固相合成法による定法により、ペプチドチップの作製を行った。まず、セルロースメンブレンにFmoc-β-Alanin-OHのC末端をエステル結合させてから、保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、次いでこの樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-11-Aminoundecanoic acidのC末端と結合させた。続いて、保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Leu-OHのC末端を結合させた。続いて、保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、次いでこの樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Val-OHをLeuのN末端に導入した。次いで保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、再度この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Arg(Pmc)-OHをValのN末端に導入した。次いで保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、再度この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Ile-OHをArgのN末端に導入した。次いで保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、再度この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Arg(Pmc)-OHをIleのN末端に導入した。次いで保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去し、再度この樹脂を中和・洗浄後、Fmoc-Gly-OHをArgのN末端に導入した。次いで、保護基(Fmoc)をピペリジン処理で除去した。更に、TFA(トリフルオロ酢酸)により、ArgのPmc基を切断することにより脱保護した。GRIRVLペプチドのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の付加及び/又は欠失を有するペプチド改変体として、GRIRVLQ(配列番号2)、YGRIRVL(配列番号3)、GRIRV(配列番号4)、RIRVL(配列番号5)、GRIR(配列番号6)、IRVLQR(配列番号7)、QYGRIR(配列番号8)、YGRIRV(配列番号9)、RIRVLQ(配列番号10)、RVLQRF(配列番号11)のペプチドについても同様の手順でペプチドチップを作製した。最後に、メタノールによる簡易殺菌処理を行い、その後、細胞アッセイに用いた。
【0092】
(2)細胞接着評価:
上記のようにして作製したペプチドチップをBIOPSY PUNCH(KAI medical, Gifu, Japan)を用いて刳り貫き、96穴マイクロプレートに移した。ペプチドチップ上に正常ヒト真皮線維芽細胞(KF-4009;クラボウ)を、10 %仔牛血清 (FBS)含有ダルベッコ変法MEM (DMEM) (SIGMA)を用いて2.0×104 cells/wellの細胞密度にて播種し、37℃、5% CO2の条件下で3時間培養を行った。その後、生理食塩水による洗浄を行うことで非接着細胞を取り除いた。接着細胞数の評価は、蛍光色素calcein AM(Molecular Probes, Leiden, Netherland)を用いて行った(Ex : 485nm, Em: 538nm)。具体的には、細胞播種後、セルロースメンブレンの蛍光強度を測定し、検量線から接着細胞数を算出した。なお、2.0×104 cells/wellの密度で細胞を播種したメンブランの蛍光強度を100とし、それに対する接着細胞数(残存細胞数)の比率を求めた。
【0093】
この結果を、図2に示す。図2の結果から明らかなように、GRIRVLペプチド(配列番号1)、及び配列番号1のアミノ酸配列に基づいて1又は数個のアミノ酸を付加及び/又は欠失させた配列番号2〜11のペプチド改変体を用いた場合に、高い細胞接着効果が認められた。従って、本発明のペプチド類を用いることにより、細胞に対して効果を発揮させたい機能性ペプチドの細胞への活性を高めることができることも分かる。
【0094】
実施例5:定量PCRによる遺伝子発現の測定
上記実施例1で調製したGRIRVLペプチド(配列番号1)、並びに、実施例1と同様の手順でFmoc法の固相合成法により調製したGRIRV(配列番号4)ペプチド及びRIRVLペプチド(配列番号5)を用いて、定量PCR(qPCR)法により、これらのペプチドを正常ヒト真皮線維芽細胞に作用させた場合の遺伝子発現量の変化について評価を行った。
【0095】
先ず、正常ヒト真皮線維芽細胞(KF-4009;クラボウ)を10%Fatal bovine serum(FBS)含有ダルベッコ変法MEM(DMEM)(GIBCO)を用いて、96穴マイクロプレートに、1×104cells/wellの細胞密度にて播種し、37℃、5%CO2の条件下で約24時間培養を行い、0.5%FBS含有DMEM(GIBCO)と交換した。4時間後に0.5%FBS含有DMEM(GIBCO)を用いて上記3種の被験ペプチドを所定濃度(0.5mg/ml)に溶解したものと交換した。別途、コントロール(無処理群)として、被験ペプチドを含有しない0.5%FBS含有DMEMで交換したウェルも用意した。24時間後にRNAサンプルを回収し、qRT-PCRに用いた。サンプルの回収及びqRT-PCR用調製液はCells Direct One Step qRT-PCR Kit(Life Technologies)を使用した。各遺伝子から発現したmRNAの検出には、それぞれ以下のTaqman(登録商標)Gene Expression Assays(Life Technologies)のプライマー及びプローブセットを使用した[Fn1遺伝子:Hs00365058_m1、Timp2遺伝子:Hs00234278_m1、Cat遺伝子:Hs00156308_m1、18s rRNA(Reference gene):Hs99999901_s1]。qRT-PCR機器はApplied Biosystems社のABI PRISM 7000 Sequence Detection Systemを用いて、50℃15分(1サイクル)、95℃2分(1サイクル)、95℃15秒、60℃40秒(50サイクル)で行った。Crossing point法で得たCT値を用いてΔΔCT法で相対定量を行い、コントロール群と被験ペプチド処理群とを比較した。コントロール群(無処理群)を100とした場合の、各被験ペプチド処理群の細胞における各遺伝子発現量の比率を算出した結果を、以下の表5に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
上記表5に示す各標的遺伝子はいずれも、上記実施例2のマイクロアレイを用いた評価において本発明のGRIRVLペプチドで処理することにより線維芽細胞で発現量増加が認められた遺伝子である。本結果から明らかなように、定量PCR法を用いた本評価において、GRIRVLペプチドのみならず、そのペプチド改変体であるGRIRVペプチド及びRIRVLペプチドを用いた場合にもこれらの遺伝子発現量が増加することが確認された。
【0098】
実施例6:インテグリン及びフィブロネクチン産生促進効果の評価
正常ヒト真皮線維芽細胞 (クラボウ)を、10 %仔牛血清 (DSファーマ)含有ダルベッコ変法MEM (DMEM) (GIBCO)を用いて8wellカルチャースライド(Thermo)に、3.0×104 cells/cm2の細胞密度にて播種した。播種24時間後、血清を含まないDMEM培地に交換し更に24時間後に、上記実施例1で調製したGRIRVLペプチドを1mg/mlで含有するDMEMと交換し48時間培養した。別途、コントロール(無処理群)として、被験ペプチドを含有しないDMEMで交換したウェルを用意し、同様に48時間培養した。-20℃に冷やしたメタノールを20分間処理して固定し、2%のBSAを含有するPBSで室温、90分間のブロッキング処理を行い、抗インテグリンα3抗体(AB1920:Millipore)又は抗フィブロネクチン抗体(ab23750:abcam)を用いて1次抗体反応を行った。各抗体は2%BSA含有PBSを用いて200倍に希釈し、4℃で一晩静置により反応を進行させた。その後、alexa488標識を付加したヤギ産生抗ウサギ抗体(Molecular Probe)を用いて2次抗体反応を行った。2次抗体は2%BSA含有PBSを用いて200倍に希釈し、室温で90分間静置により反応を進行させた。その後1ug/mlの核染色色素(Hoechst33258)で室温5分間処理し、市販の封入剤(Aqua Poly / Mount(Polysciences))で封入し、蛍光顕微鏡を用いて観察した。なお、液交換の際にはそれぞれPBSを用いて2回洗浄の後、次の反応液を添加した。
【0099】
この結果の免疫染色画像(蛍光顕微鏡:100倍率)を図3及び図4に示す。図3がインテグリンα3の発現を見た免疫染色画像である。図3より明らかなように、コントロール(図3A)では、ヘキスト(Hoechst33258)で染色された青色の細胞核が認められるが、緑色に発色するインテグリンα3の存在は殆んど認められない。一方、本発明のGRIRVLペプチドで処理した場合には(図3B)、青色に発色する細胞核と共に、緑色に発色するインテグリンα3の像が明確に確認できる。即ち、GRIRVLペプチドを用いて処理することにより、インテグリンα3タンパク質の発現が促進されていることが分かる。同様に、フィブロネクチンの発現を確認した免疫染色画像においても、緑色に発色するフィブロネクチンの像が認められ、本発明のペプチドを用いることによりフィブロネクチンタンパク質の発現が実際に促進されることが確認された(図4)。
【0100】
実施例7:αMSH由来の断片ペプチドとの融合ペプチドの評価
GRIRVLペプチドと機能性ペプチドとを融合させた融合ペプチドについて評価するために、機能性ペプチドとしてメラニン産生促進効果を有することが知られているαMSH由来の断片ペプチド(Glu-His-Phe-Arg-Trp-Gly:EHFRWG、配列番号13)を用いて試験を行った。被験ペプチドとしては、αMSH由来の断片ペプチドに何も融合していないペプチド(EHFRWG)、細胞接着モチーフ配列として公知のRGD配列をN末端に融合させたペプチド(RGD-EHFRWG)、及び本発明のGRIRVLペプチドをN末端に融合させたペプチド(GRIRVL-EHFRWG)の3種類のペプチドを用意した。
【0101】
先ず、マウス由来のB16メラノーマ細胞を、6ウェルカルチャープレート中で培養した。より詳細には、7,000細胞/1cm2密度でプレートに播種し、37℃で、5%炭酸ガスおよび95%空気の環境下で24時間培養を行った。培養液は、ダルベッコ変法MEM(DMEM)に牛胎仔血清(FBS)を10重量%の濃度で含有した培地を各ウェル500μlずつ使用した。細胞がコンフルエントになった時点で、培養液を除去し、DMEMに上記3種類の被験ペプチドを1μg/ml濃度添加した培地を3mlずつ添加した。なお、ペプチドを添加しない培地を3ml添加したものをコントロールとして用いた。48 時間培養した後、PBSで2回洗し、次いでDMEM で100倍に希釈したWST-8試薬を3mlずつ添加し、37℃で、5%炭酸ガスおよび95%空気の環境下で2時間培養を行った。各上清を96ウェルカルチャープレートに移し、450nmにて吸光度を測定して細胞数を測定した。6ウェルカルチャープレートに残った細胞をPBSで2回洗浄後、20%NaOHを含む10%DMSO溶液280μlで溶解し、1.5mlチューブに移し、プレートヒーターにて60℃、2時間反応させてメラニンの抽出を行った。これを96ウェルカルチャープレートに移し、475nmにて吸光度を測定してメラニン量を測定した。この測定値に基づき、コントロールでのメラニン量を100%とした場合の、各被験ペプチド処理群におけるメラニン量の比を算出した。この結果を以下の表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
上記表6に示されるように、αMSH由来の断片ペプチド自体(EHFRWG)でも、コントロールに比べてメラニン産生量が増加している。そして、これに細胞接着作用を有することが公知のモチーフ配列(RGD)を融合させたペプチド(RGD-EHFRWG)を用いることにより、メラニン産生量が更に増加していることが分かる。更に、本発明のペプチドであるGRIRVLをN末端に融合させた融合ペプチド(GRIRVL-EHFRWG)では、RGDモチーフ配列を融合させた場合よりも多くのメラニン産生量が認められた。即ち、本結果より、本発明のペプチドを融合させた融合ペプチドは、機能性ペプチドの細胞への作用を向上させる効果に優れていることが分かる。
【0104】
実施例8:TGF-β由来の断片ペプチドとの融合ペプチドの評価
GRIRVLペプチドと機能性ペプチドとを融合させた融合ペプチドについて更に評価するために、機能性ペプチドとしてコラーゲン産生促進効果を有することが知られているTGF-β由来の断片ペプチド(Ile-Trp-Ser-Leu-Asp-Thr-Gln-Tyr:IWSLDTQY、配列番号12)を用いて試験を行った。被験ペプチドとしては、TGF-β由来の断片ペプチドに何も融合していないペプチド(IWSLDTQY)、及びリンカー(グリシンで構成される3残基のリンカー)を挟んで本発明のGRIRVLペプチドをC末端に融合させたペプチド(IWSLDTQY-GGG-GRIRVL)の2種類のペプチドを用いた。
【0105】
先ず、正常ヒト真皮線維芽細胞(KF-4009;クラボウ)を、10 %仔牛血清 (FBS)含有ダルベッコ変法MEM (DMEM) (GIBCO)を用いて96穴マイクロプレートに、6.25×104 cells/cm2の細胞密度にて播種した。播種24時間後、DMEMと交換した。さらに24時間培養後、上記2種類の被験ペプチドを4μM濃度で含有するDMEMと交換した。別途、コントロール(無処理群)として、被験ペプチドを含有しないDMEMで交換したウェルも用意した。被験ペプチド含有群及び無処理群を約48時間培養した後、培地上清を回収してProcollagen type I C-peptide (PIP) EIA Kit (TakaRa) に供し、培地上清中のヒト・プロコラーゲンI型C末端ペプチド(PIP)濃度を測定した。細胞は0.5 % Triton X-100溶液にて溶解し、BCA Protein Assay Reagent Kit(Thermo Scientific)を用いて総タンパク量を定量した。次いで、これらの定量結果から、細胞タンパク量あたりのPIP産生量を算出した。算出された値に基づき、コントロールにおける細胞タンパク量あたりのPIP量を100%とした場合の、各被験ペプチド処理群における細胞タンパク量あたりのPIP量産生量の比を求めた。この結果を以下の表7に示す。
【0106】
【表7】
【0107】
上記表7に示されるように、TGF-β由来ペプチド自体(IWSLDTQY)でも、コントロールに比べて細胞あたりのPIP産生量が増加している。そして、本発明のペプチドであるGRIRVLを3残基のグリシンリンカーを介してC末端に融合させた融合ペプチド(IWSLDTQY-GGG-GRIRVL)では、細胞あたりのPIP産生量が更に高められることが認められた。本結果から、機能性ペプチドとGRIRVLペプチドとをリンカーを介して融合させた融合ペプチドを用いても、該機能性ペプチドの細胞への作用を向上させ得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のペプチド若しくはその誘導体、又はそれらの塩は、細胞の接着を促進させるために、またコラーゲン、インテグリン及び/又はフィブロネクチンの産生促進効果等に基づいて美容効果を発揮させるために、用いることができる。更に、本発明のペプチド類を利用して、細胞へ作用させることを意図した機能性ペプチドの細胞への活性を高めることができる。
【0109】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0110】
配列番号1〜13 合成
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]