【実施例】
【0051】
(実施例1)
0.3PaのAr雰囲気中で、スパッタ法(装置名:R&D向けインライン型スパッタ装置、(株)神戸製鋼所製)により、ターゲット材(スパッタ成膜する皮膜の原料)を用いて、PENフィルム(帝人デュポン社製、Q65FA(製品名)、厚み100μm)上に3nmの厚みでNi−P(P含有量5%)皮膜の被覆を行った。ターゲット材としては、銅板に無電解のNi−Pめっきを施したターゲット材を使用し、特に皮膜中に水素の添加は行っていない。成膜前のチャンバー内圧力は2×10−4Pa水準であった。
【0052】
なお、膜厚は、約200nmの被覆を事前に行って成膜速度を算出しておき、その成膜速度からの計算値により求めた。以下の実施例および比較例における膜厚はこの方法で算出している。
【0053】
実施例1で得られた抗菌性部材において、皮膜の水素含有量は約0.001%であった。水素含有量は、同一条件で成膜したガラス基板上の200nmの厚みの皮膜を大気圧イオン化質量分析計(API−MS、岩田らによる文献:神戸製鋼技報/vol.47、No.1、p.24、Apr.1997に従って分析)による水素の定量分析結果とGDOESによる水素の分析結果を用いて、双方の検量線を作成し、さらに、後述の比較例1の皮膜のGDOED分析結果との比較により、約0.001%と推定した。以下の実施例および比較例における水素含有量も同様にして計測している。なお、水素含有量測定において皮膜厚みを200nmとしたのは、3nmの膜厚では膜厚が薄く有効な分析ができなかったためである。
【0054】
(実施例2)
0.3PaのArに0.1PaのH2を添加した以外は、実施例1と同様の方法で、スパッタ法により、ターゲット材を用いて、PENフィルム上に3nmのNi−P(P含有量5%)皮膜の被覆を行い、抗菌性部材を得た。
【0055】
得られた皮膜の水素含有量は約0.001%であった。雰囲気中に多くのH2を添加したが、結果として得られた皮膜に含まれる水素量には変化はないことがわかった。
【0056】
(実施例3)
ターゲット材として、水素を0.001%含むNi−P(P含有量2%)を用いて、Ni−P(P含有量2%)皮膜の被覆を行った以外は、実施例1と同様にして抗菌性部材を得た。
【0057】
(実施例4)
ターゲット材として、Ni−Cr(20%)合金を用いて、Ni−Cr(20%)合金皮膜の被覆を行った以外は、実施例1と同様にして抗菌性部材を得た。得られた皮膜の水素含有量は約0.001%であった。
【0058】
(実施例5)
ターゲット材として、Niを用いて、Ni皮膜の被覆を行った以外は、実施例1と同様にして抗菌性部材を得た。
【0059】
(実施例6)
透明基材を、ガラス基板(松浪硝子社製「MICRO SLIDE GLASS S9111」、厚み0.8〜1.0mm)に変更した以外は、実施例1と同様にして抗菌性部材を得た。
【0060】
(実施例7)
ガラス基材および装置のチャンバー内の脱ガス処理を1〜2時間行い、10−5Pa台のチャンバー雰囲気(高真空状態)で皮膜を形成した以外は、実施例6と同様にして抗菌性部材を得た。得られた皮膜の水素含有量は約0.0005%であった。
【0061】
(実施例8)
ロールコータを用いてPENフィルム上に連続的に成膜した以外は、実施例1と同様にして抗菌性部材を得た。ロールコータを用いることにより、成膜領域に連続的にフィルムが供給されるため水蒸気の持込があり、成膜前のチャンバー雰囲気は10−3Pa台(低真空状態)であった。フィルム搬送速度の調整によって3nmの皮膜を形成した。得られた皮膜の水素含有量は約0.007%であった。皮膜にクラック等の発生は無かった。
【0062】
(実施例9)
ターゲット材として、Ni−P(P含有量2%)を用いて、Ni−P(P含有量2%)皮膜の被覆を行った以外は、実施例8と同様にして抗菌性部材を得た。
【0063】
(実施例10)
ターゲット材として、Ni−Cr(20%)合金を用いて、Ni−Cr(20%)合金皮膜の被覆を行った以外は、実施例8と同様にして抗菌性部材を得た。
【0064】
(実施例11〜13)
成膜時間を調整し、皮膜の厚みを下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして抗菌性部材を得た。
【0065】
(実施例14〜18)
成膜時間を調整し、皮膜の厚みを下記表1に示すように変更した以外は、実施例4と同様にして抗菌性部材を得た。
【0066】
(比較例1)
抗菌性の基準として、上記特許文献8(特許第3902329号公報)記載の方法によってサンプルを作成した。具体的には、SUS304ステンレス基材上に約3μmのNi−P(2%)の電気めっきを付与することによって抗菌性部材を得た。得られためっき皮膜の水素含有量は0.001%であった。
【0067】
(比較例2)
比較例1と同じ方法を用いて、透明なPENフィルムへ皮膜を形成しようとしたが、良好な被覆ができなかった。
【0068】
(比較例3)
比較例1と同じ方法を用いて、透明なガラス基板へ皮膜を形成しようとしたが、良好な被覆ができなかった。
【0069】
(比較例4)
抗菌性の基準として、皮膜なしのプラスチックフィルムとして、実施例1で透明基材として用いた0.1mm厚みのPEN基材を評価した。
【0070】
(比較例5〜7)
成膜時間を調整し、皮膜の厚みを下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして抗菌性部材を得た。
【0071】
(比較例8)
成膜時間を調整し、皮膜の厚みを下記表1に示すように変更した以外は、実施例4と同様にして抗菌性部材を得た。
【0072】
【表1】
(評価)
上記実施例および比較例で得られたサンプルに対し、以下の評価を行った。
【0073】
(抗菌性評価)
抗菌性の評価は、JISZ2801法に基づいて、黄色ぶどう球菌を1.8〜2.8×10E5個植菌し、24時間経過後の生菌数を計数して以下の基準で評価した。
×生菌数が増加、
▲生菌数が10%〜100%
△生菌数が1−10%
○生菌数が0.1%−1%
◎生菌数が0.1%未満
【0074】
(透明性評価)
透明性の評価は、被覆を行った基材を被覆なしの透明性基材と並べ、文字を印字した白い紙面上において、目視での透明性の判断と背景の文字の視認性により評価した。評価の基準は以下の通りである:
◎透明性基材と目視上区別がつかない透明性を有する。
○透明と認識できるが、未処理の基板と並べ比較すると若干の着色が見られる。
△明らかな着色が見られるが、背景の文字は視認できる。
×背景の文字が視認できない。
【0075】
(考察)
表1の結果から、本発明に関する実施例1〜18の抗菌性部材は、透明性と抗菌性の両方において優れていることが示された。
【0076】
これに対し、電気めっきにより成膜を行った比較例1〜3では、透明性が確保できなかったり、被覆もできない結果も見受けられた。また、気相法を用いて皮膜を形成した比較例5〜8においても、皮膜の厚みが薄すぎると抗菌性が得られず(比較例5)、逆に厚すぎると透明性が得られないこと(比較例6〜8)も確認された。
【0077】
また、実施例1〜3、7および8の結果によれば、本発明では、従来のNi系合金皮膜を用いた抗菌性部材のように、意図的に水素量を制御しなくとも優れた抗菌性を示すことがわかった。水素の含有量が、従来技術(上記特許文献8)と同等である皮膜(実施例1、3−7)も、従来より水素含有量が多い皮膜(実施例8)も同様の透明性と抗菌性を示すが、実施例8では実施例1、3−7のような長時間の真空排気が必要でないため、0.005%を超える水素を含有する抗菌性部材の方が、抗菌性と生産性の観点からより好適である。なお、実施例8の抗菌性部材では、従来技術(上記特許文献8)の知見では、皮膜が脆くなるとの指摘があったが、本試験では特に皮膜のクラック等の問題は無かった。
【0078】
なお、皮膜を形成する金属原子サイズ(半径が約0.3nmほど)から考えると、0.5nm程度の膜では、平均的に原子1個か2個程度となり、確率的な成膜現象において、均一に連続的な膜を形成するには薄すぎるため、透明性は良好だが、抗菌性を十分に発揮できない可能性が高いため望ましくない。したがって、皮膜の厚みは1nm以上であることが必要と考えられる。