特許第6336811号(P6336811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336811
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】人工膝関節設置用ジグ
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20180528BHJP
   A61F 2/46 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   A61B17/56
   A61F2/46
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-84677(P2014-84677)
(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-202336(P2015-202336A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】517104080
【氏名又は名称】ジンマー・バイオメット合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123607
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智行
(72)【発明者】
【氏名】金粕 浩一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】格谷 義徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和昭
【審査官】 近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0046685(US,A1)
【文献】 特開2007−075517(JP,A)
【文献】 特開2012−040150(JP,A)
【文献】 米国特許第05611802(US,A)
【文献】 特開平11−164845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 13/00 − 18/28
A61F 2/00 − 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝が屈曲位にあるときに用いる人工膝関節設置用ジグであって、
大腿骨に取付けられる大腿骨取付け部と、
切除することにより形成された脛骨の近位端面に当接するジグ本体と、を有し、
前記大腿骨取付け部及び前記ジグ本体は、脛骨と大腿骨とを連結する靭帯に所定の緊張状態を生じさせるために、脛骨の近位端面と垂直の方向に相対移動可能に且つ任意の相対位置で係止可能に互いに連結され、
前記大腿骨取付け部は、切除することにより形成された大腿骨の遠位端面に取付けられるプレート部材を含み、前記プレート部材は、大腿骨の遠位端面に当接する第1の当接面と、前記第1の当接面と平行な反対側の第2の当接面とを有し、前記ジグ本体は、前記第2の当接面に当接し、
前記プレート部材は、前記第1の当接面から後方に延び且つ大腿骨の2つの後顆部の間において大腿骨に当接する当接突出部と、前記第1の当接面から後方に延び且つ大腿骨の遠位端面に押込まれる押込み突出部を有することを特徴とする人工膝関節設置用ジグ。
【請求項2】
前記大腿骨取付け部は、更に、前記プレート部材に取外し可能に連結されるフック部材を有し、前記ジグ本体は、脛骨の近位端面と垂直の方向に相対移動可能に且つ任意の相対位置で係止可能に前記フック部材に連結される、請求項に記載の人工膝関節設置用ジグ。
【請求項3】
前記フック部材は、前後方向に延びる連結軸部を有し、前記プレート部材は、前記連結軸部を受入れる長孔を有し、前記フック部材は、前記連結軸部が前記長孔の上端部に当接した状態で、前記連結軸部を中心に回転可能である、請求項に記載の人工膝関節設置用ジグ。
【請求項4】
前記ジグ本体は、脛骨の近位端面に配置されるスペーサと、前記スペーサに取外し可能に連結され且つ前記プレート部材の第2の当接面に当接する可動ブロックと、を有し、
前記大腿骨取付け部と前記可動ブロックとが、脛骨の近位端面と垂直の方向に相対移動可能に且つ任意の相対位置で係止可能に互いに連結されることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の人工膝関節設置用ジグ。
【請求項5】
前記スペーサは、前記可動ブロックに当接する上面を含むスペーサ本体と、前記スペーサ本体から上方に延びるサポート部と、前記サポート部から前記上面と平行に且つ前後方向に延びるピンと、を有し、前記可動ブロックは、前記スペーサ本体の上面に当接する下面と、前記下面と前記スペーサ本体の上面とが当接した状態で前記ピンが嵌合状態で挿入される挿入孔と、を有することを特徴とする請求項に記載の人工膝関節設置用ジグ。
【請求項6】
前記可動ブロックに、大腿骨コンポーネントのサイズを決定するためのオプションジグが取付けられることを特徴とする請求項4又は5に記載の人工膝関節設置用ジグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラント設置用ジグに関し、更に詳細には、人工膝関節設置用ジグに関する。
【背景技術】
【0002】
膝の軟骨がすり切れることにより変形性関節症又は慢性リウマチ等になった患者の治療に人工膝関節が使用されることがある。図8は、人工膝関節を設置した大腿骨及び脛骨を示す概略的な側面断面図である。図8に示すように、人工膝関節100は、脛骨Tの近位端部Taに固定される脛骨トレイ102及びサーフェスライナ104と、大腿骨Fの遠位端部Faを覆うように大腿骨Fに固定される大腿骨コンポーネント106とを有している。場合によって、脛骨トレイ102と脛骨Tの間にスペーサ(図示せず)が挿入される。大腿骨Fと脛骨Tとは、その左右両側に配置された靭帯(図示せず)によって連結され且つ互いに引っ張られており、それにより、大腿骨コンポーネント106は、サーフェスライナ104に押付けられている。このような人工膝関節100では、膝を、曲げた位置(屈曲位)と伸ばした位置(伸展位)との間で動かすと、大腿骨コンポーネント106がサーフェスライナ104に沿って摺動する。大腿骨Fの大きさが患者によって異なるため、いくつかの異なるサイズの人工膝関節100が準備されている。
【0003】
図9は、人工膝関節を設置するために一部分が切除された脛骨及び大腿骨を示す概略的な側面図である。図9に示すように、脛骨Tの近位端部Taは、すり切れた軟骨を除去するために、且つ、脛骨トレイ102を脛骨Tに固定するための設置面、即ち、近位端面Tbを形成するために切除されている。同様に、大腿骨Fの遠位端部Faは、すり切れた軟骨を除去するために、且つ、大腿骨コンポーネント106を大腿骨Fに固定するための5つの設置面Fb1〜Fb5を形成するために切除されている。5つの設置面は、遠位端面Fb1と、遠位端面Fb1に対して垂直な前設置面Fb2及び後設置面Fb3と、遠位端面Fb1と前設置面Fb2及び後設置面Fb3との間の2つの傾斜設置面Fb4、Fb5である。一般的には、脛骨Tの近位端面Tb及び大腿骨Fの遠位端面Fb1はそれぞれ、脛骨Tの近位端及び大腿骨の遠位端から予め決められた距離LT、LFのところに形成される。これに対して、大腿骨Fの設置面Fb2〜Fb5の位置は、人工膝関節100のサイズに応じて変化する。
【0004】
近年、人工膝関節の設置において、適切な靭帯バランスを確保するために、人工膝関節設置用ジグ(バランサー装置)が一般的に使用されている。それにより、人工膝関節100の適切な設置位置が決定され、具体的には、大腿骨コンポーネント106を取付けるための大腿骨Fの前設置面Fb2、後設置面Fb3及び傾斜設置面Fb4、Fb5の位置が決定される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載されている人工膝関節用設置ジグは、大腿骨における回旋の基軸として大腿骨の髄腔に挿入される髄内ロッドを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−075517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大腿骨の湾曲が大きい症例や、人工股関節ステムが入っている症例では、髄内ロッドを髄腔に挿入することができない場合がある。しかしながら、かかる症例に対しても、適切な靭帯バランスを確保するために、人工膝関節設置用ジグを使用する要望がある。また近年、合併症(脂肪摘・骨髄片が肺に遊走することにより発生する可能性のある脂肪塞栓症候群や出血)のリスクの軽減するために、髄腔に髄内ロッド等のジグを挿入しない手技が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、髄腔に髄内ロッドを挿入することなしに使用可能な人工膝関節設置用ジグを提供することを目的としている。
【0009】
また、本発明は、髄腔に髄内ロッドを挿入することなしに使用可能であり且つ術者に使い易い人工膝関節設置用ジグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明による人工膝関節設置用ジグは、膝が屈曲位にあるときに用いる人工膝関節設置用ジグであって、大腿骨に取付けられる大腿骨取付け部と、切除することにより形成された脛骨の近位端面に当接するジグ本体と、を有し、大腿骨取付け部及びジグ本体は、脛骨と大腿骨とを連結する靭帯に所定の緊張状態を生じさせるために、脛骨の近位端面と垂直の方向に相対移動可能に且つ任意の相対位置で係止可能に互いに連結され、大腿骨取付け部は、切除することにより形成された大腿骨の遠位端面に取付けられるプレート部材を含み、プレート部材は、大腿骨の遠位端面に当接する第1の当接面と、第1の当接面と平行な反対側の第2の当接面とを有し、ジグ本体は、第2の当接面に当接することを特徴としている。
【0011】
このように構成された人工膝関節設置用ジグによれば、プレート部材が大腿骨の遠位端面に取付けられる。プレート部材の第1の当接面が大腿骨の遠位端面に当接することにより、プレート部材の第2の当接面が、大腿骨の遠位端面と平行に配置される。ジグ本体が第2の当接面に当接することにより、大腿骨取り付け部及びジグ本体は、大腿骨の遠位端面と平行な第2の当接面に沿って、脛骨の近位端面と垂直な方向に相対移動可能である。かくして、髄腔に髄内ロッドを挿入することなしに、人工膝関節設置用ジグを使用して、適切な靭帯バランスを確保することが可能になる。
【0012】
本発明による人工膝関節設置用ジグの実施形態において、好ましくは、プレート部材は、第1の当接面から後方に延び且つ大腿骨の2つの後顆部の間において大腿骨に当接する当接突出部と、第1の当接面から後方に延び且つ大腿骨の遠位端面に押込まれる押込み突出部を有する。
【0013】
このように構成された人工膝関節設置用ジグでは、大腿骨の2つの後顆部の間の位置が、プレート部材を大腿骨に取付ける基準位置となる。それにより、大腿骨に対するプレート部材の取付け位置が、症例ごとにほぼ同じ位置になり、適切な靭帯バランスを症例に係わらず確保することが可能になる。
【0014】
本発明による人工膝関節設置用ジグの実施形態において、好ましくは、大腿骨取付け部は、更に、プレート部材に取外し可能に連結されるフック部材を有し、ジグ本体は、脛骨の近位端面と垂直の方向に相対移動可能に且つ任意の相対位置で係止可能にフック部材に連結される。
【0015】
このように構成された人工膝関節設置用ジグでは、プレート部材を大腿骨に取付けた後、ジグ本体をフック部材に連結させた状態でフック部材をプレート部材に連結させることにより、ジグ本体をプレート部材に取付けることができる。かくして、術者に使い易い人工膝関節ジグが提供される。
【0016】
本発明による人工膝関節設置用ジグの実施形態において、好ましくは、フック部材は、前後方向に延びる連結軸部を有し、プレート部材は、連結軸部を受入れる長孔を有し、フック部材は、連結軸部が長孔の上端部に当接した状態で、連結軸部を中心に回転可能である。
【0017】
このように構成された人工膝関節設置用ジグでは、フック部材が連結軸部を中心に回転可能であることにより、靭帯の緊張状態に応じて、ジグ本体が連結軸部を中心に回旋可能である。このときの連結軸部の位置は、大腿骨の髄腔の位置であることが好ましい。
【0018】
本発明による人工膝関節設置用ジグの実施形態において、好ましくは、前記ジグ本体は、脛骨の近位端面に配置されるスペーサと、前記スペーサに取外し可能に連結され且つ前記プレート部材の第2の当接面に当接する可動ブロックと、を有し、前記大腿骨取付け部と前記可動ブロックとが、脛骨の近位端面と垂直の方向に相対移動可能に且つ任意の相対位置で係止可能に互いに連結される。
【0019】
このように構成された人工膝関節設置用ジグでは、ジグ本体をスペーサと可動ブロックとに分離することができるので、人工膝関節を設置するために患者の膝を切開する部分が小さくても、最初に可動ブロックを大腿骨に取付け、引続いてスペーサを挿入することによって、人工膝関節設置用ジグを患者の膝に設置することができる。それにより、術者に使い易い軸項膝関節設置ジグが提供される。
【0020】
本発明による人工膝関節設置用ジグの実施形態において、好ましくは、スペーサは、可動ブロックに当接する上面を含むスペーサ本体と、スペーサ本体から上方に延びるブラケットと、サポート部から上面と平行に且つ前後方向に延びるピンと、を有し、可動ブロックは、スペーサ本体の上面に当接する下面と、下面とスペーサ本体の上面とが当接した状態で前記ピンが嵌合状態で挿入される挿入孔と、を有する。
【0021】
このように構成された人工膝関節設置用ジグでは、最初に可動ブロックを大腿骨に設置した後、可動ブロックの下面とスペーサの上面とが当接した状態でスペーサを前後方向に移動させてスペーサのピンを可動ブロックの挿入孔に挿入することによって、可動ブロックとスペーサとの間の上下方向及び左右方向の相対運動を阻止する。また、スペーサと脛骨及び可動ブロックとの間に摩擦により、可動ブロックとスペーサとの間の前後方向の相対移動も制限される。かくして、スペーサを可動ブロックに容易に固定することができ、術者に使い易い人工膝関節が提供される。なお、上下方向は、脛骨が延びる方向であり、前後方向及び左右方向はそれぞれ、脛骨における患者の前後方向及び左右方向である。
【0022】
本発明による人工膝関節設置用ジグの実施形態において、好ましくは、可動ブロックに、大腿骨コンポーネントのサイズを決定するためのオプションジグが取付けられる。
【0023】
このように構成された人工膝関節設置用ジグでは、適切な靭帯バランスを確保した後、術者が使い易いオプションジグを用いて、人工膝関節のサイズを決定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、髄腔に髄内ロッドを挿入することなしに使用可能である人工膝関節設置用ジグを提供することができる。また、本発明により、髄腔に髄内ロッドを挿入することなしに使用可能であると共に術者に使い易い人工膝関節設置用ジグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】屈曲位にある膝に取付けられた本発明による人工膝関節用ジグの斜視図である。
図2】本発明による人工関節用ジグの部分的な分解斜視図である。
図3】可動ブロック及び大腿骨取付け部の断面図である。
図4】可動ブロックの平面図である。
図5】大腿骨に取付けられたプレート部材の斜視図である。
図6】種々のオプションジグの斜視図である。
図7】プレート部材を把持する取付けツールの斜視図である。
図8】人工膝関節を設置した大腿骨及び脛骨を示す概略的な側面断面図である。
図9】一部分が切除された脛骨及び大腿骨を示す概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明による人工膝関節設置用ジグの実施形態を説明する。図1は、屈曲位にある膝に取付けられた本発明の実施形態である人工膝関節設置用ジグの斜視図である。図2は、本発明による人工膝関節設置用ジグの部分的な分解斜視図である。以下の人工膝関節設置用ジグ自体の説明において、脛骨Tが延びる方向を上下方向Aと称し、脛骨Tにおける患者の前後方向及び左右方向をそれぞれ、前後方向B及び左右方向Cと称する。従って、屈曲位において、脛骨Tに対する大腿骨F側は後側になる。
【0027】
図1に示すように、ジグ1は、大腿骨Fに取付けられる大腿骨取付け部2と、切除することにより形成された脛骨Tの近位端面Tbに当接するジグ本体4とを有している。大腿骨取付け部2及びジグ本体4は、後述するように、脛骨Tと大腿骨Fとを連結する靭帯に所定の緊張状態を生じさせるために、脛骨Tの近位端面Tbと垂直の方向(上下方向)Aに相対移動可能に且つ任意の相対位置で係止可能に互いに連結されている。
【0028】
図2に示すように、大腿骨取付け部2は、プレート部材6と、プレート部材6に取外し可能に連結されるフック部材8を有している。プレート部材6は、切除することにより形成された大腿骨Fの遠位端面Fb1に当接する第1の当接面6aと、第1の当接面6aと平行な反対側の第2の当接面6bを有している。フック部材8は、円筒形部分8aを有し、円筒形部分8aにおいて、プレート部材6の反対側の部分に、ねじ山10が形成されている。プレート部材6とフック部材8のその他の構造については、後で詳細に説明する。
【0029】
ジグ本体4は、脛骨Tの近位端面Tbに配置されるスペーサ12と、スペーサ12に取外し可能に連結され且つプレート部材6の第2の当接面6bに当接する可動ブロック14を有している。
【0030】
スペーサ12は、スペーサ本体18と、スペーサ本体18と重ね合わることができるようにスペーサ本体18に回動可能に取付けられた複数の追加スペーサ20(図1参照)を有している。
【0031】
スペーサ本体18は、脛骨Tの近位端面Tbに当接する下面18aと、可動ブロック14に当接する上面18bと、取っ手部22を有している。下面18aと上面18bとは、所定の距離だけ離れて互いに平行に配置されている。下面18aは、脛骨Tとジグ本体4との安定性を確保するために比較的大きいことが好ましいが、上面18bは、可動ブロック14との連結が確保されれば、手術中の視界を確保するために比較的小さいことが好ましい。そのため、本実施形態では、スペーサ本体18の上面側の部分は、大部分除去されている(図2参照)。
【0032】
追加スペーサ20は、ピン20aを介して取っ手部22に回動可能に取付けられている。追加スペーサ20の厚さは、脛骨トレイ102と脛骨Tの間に選択的に挿入されるスペーサ(図示せず)と同じ厚さであることが好ましい。
【0033】
スペーサ12は、更に、スペーサ12と可動ブロック14を連結する連結部24を有している。連結部24は、スペーサ本体18から上方に延びるサポート部26と、サポート部26からスペーサ本体18の上面18bと平行に且つ互いに平行に前後方向Bに延びる2本のピン28を有している。ハンドル16が、スペーサ12の連結部24に取外し可能に取付けられる。
【0034】
可動ブロック14は、スペーサ本体18の上面18bと当接する下面14aと、プレート部材6の第2の当接面6bと当接する後面14bと、後面と反対側の前面14cとを有している。下面14aと後面14b及び前面14cとは、互いに垂直であり、後面14bと前面14cとは、互いに平行である。可動ブロック14の下面14aは、大腿骨の後設置面Fb3と整列していることが好ましい。前面14cには、スペーサ本体18のサポート部26が当接可能であり、可動ブロック14の下面14aとスペーサ本体18の上面18bとが当接した状態で2本のピン28が嵌合状態で挿入される2つの挿入孔30が設けられ、その結果、ピン28が挿入孔30に挿入されたとき、可動ブロック14とスペーサ本体18との間の上下方向A及び左右方向Cが阻止され、前後方向Bの相対移動が、スペーサ本体18と脛骨T及び可動ブロック14との間の摩擦により制限される。その意味で、スペーサ本体18は可動ブロック14に対して固定状態にある。
【0035】
図3は、可動ブロック及び大腿骨取付け部の断面図である。図4は、可動ブロックの平面図である。図3及び図4に示すように、可動ブロック14は、上下方向Aに延び且つ前後方向Bに並んで配置された2つの孔、即ち、前孔32及び後孔34を有している。前孔32と後孔34とは一部分重なり合い、それらの間に、前スロット36が形成されている。また、後孔34は、後面14bを越えるように位置し、後スロット38が形成されている。前孔32及び後孔34の内径は等しく、後孔34は、フック部材8の円筒形部分8aを嵌合可能に且つ上下方向Aに摺動可能に受入れている。
【0036】
可動ブロック14は、更に、大腿骨取付け部2と可動ブロック14とを互いに相対移動させるための駆動ねじ40と、駆動ねじ40を回転可能に支持する支持ピン42(図2参照)とを有している。駆動ねじ40は、前孔32に摺動可能に且つ回転可能に嵌合し、環状凹部40aを有している。また、支持ピン42は、前孔32と芯をずらしてそれを貫通するように可動ブロック14に設けられた支持ピン用孔44に挿入されている。前孔32に挿入された駆動ねじ40の環状凹部40aと、支持ピン用孔44に挿入された支持ピン42とは係合し、駆動ねじ40は、前孔32内に回転可能に支持されている。
【0037】
駆動ねじ40の外径及びそのピッチはそれぞれ、円筒形部分8aの外径及びそれに形成されたねじ山10のピッチと等しい。かくして、駆動ねじ40と円筒形部分8aとは、前スロット36を介して互いに係合し、支持ピン42に支持された駆動ねじ40が回転するとき、円筒形部分8aが駆動ねじ40に対して上下方向Aに移動するように構成されている。駆動ねじは、それを回転させる六角レンチを受入れる六角孔40bを有している。
【0038】
可動ブロック14は、更に、サイズの異なる人工膝関節に共通する設置基準孔を大腿骨Fの遠位端面Fb1に形成するための基準ガイド孔46と、種々のオプションジグを取付けるためのねじ山付きの孔48を有している。基準ガイド孔46は、左右に3つずつ設けられている。プレート部材6は、基準ガイド孔46の後側に配置されないように構成されている。
【0039】
図3及び図5に示すように、プレート部材6は、第1の当接面6aから後方に延び且つ大腿骨Fの2つの後顆部Fcの間において大腿骨Fに当接する当接突出部51と、第1の当接面6aから後方に延び且つ大腿骨Fの遠位端面Fb1に押込まれる押込み突出部52、53と、フック部材8が取外し可能に取付けられる長孔54を有している。当接突出部51は、大腿骨Fの後顆部Fcの間に位置決めされるように湾曲した上面51aと、平らな下面51bを有している。好ましくは、当接突出部51を大腿骨Fに固定するためのピンを挿入するための貫通孔51c(図3参照)が斜め方向に設けられる。大腿骨Fの前顆部Fdに位置するように両側に設けられた押込み突出部52は、大腿骨Fの遠位端面Fbに挿入されるように細長いピンの形状を有している。大腿骨Fの遠位端面Fbの左右方向Cの中央に設けられている押込み突出部53は、縦長のプレート形状を有している。押込み突出部52、53は、大腿骨の髄腔には到達していない。
【0040】
図3に示すように、フック部材8は、円筒形部分8aから後スロット38(図4参照)を越えて後方に延びる連結部56を有し、連結部56は、前後方向Bに延びる円筒形状の連結軸部56aと、連結軸部56aから上方に延びる抜け防止部56bを有している。プレート部材6の長孔54は、連結部56を受入れるように上下方向Aに細長く、円筒面の一部分をなす上端部54aを有している。また、抜け防止部56がプレート部材6の第1の当接面6aよりも後方に突出しないように、プレート部材6の第1の当接面6aに段部6cが設けられている。可動ブロック14に取付けられたフック部材8をプレート部材6に取付けたときに、可動ブロック14の後面14bがプレート部材6の第2の当接面6bに当接し且つフック部材8の抜け防止部56bがプレート部材6の段部6cに当接するように、プレート部材6及びフック部材8が構成されている。また、連結軸部56aは、長孔54の上端部54aに当接した状態で回転可能であり、かくして、フック部材8及び可動ブロック14(ジグ本体4)は、連結軸部56aを中心に回転可能であるように構成されている。長孔54は、その上端部54aに当接した連結軸部の位置が大腿骨Fの髄腔の位置になるようにプレート部材6に配置されることが好ましい。
【0041】
図6に示すように、可動ブロック4に取付けられるオプションジグ60には複数の種類があり、例えば、サイジングブレード62、サイジングスタイラス64、サイジングブロック66がある。サイジングブレード62及びサイジングスタイラス64は、ガイド68を介して可動ブロック4に取付けられ、サイジングブロックは、可動ブロック4に直接とりつけられる。
【0042】
ガイド68は、可動ブロック4のねじ山付き孔48に締結されるねじ部68aと、ねじ部68aの横側において上下方向Aに延びるガイドシャフト部68bを有している。
【0043】
サイジングブレード62は、ガイドシャフト部68bに嵌合可能な筒部分62aと、筒部分62aから屈曲位にある大腿骨の上に延びるブレード62bと、筒部分62aからブレード62bとほぼ反対側に延びるつまみ部62cを有している。サイジングブレードは、複数用意され、それぞれ、筒部分62aの下端からブレード62bまでの距離が異なっている。すなわち、複数のサイジングブレード62は、それをガイドシャフト部68bに取付けたとき、可動ブロック4に対するブレード62bの高さがそれぞれ異なっている。
【0044】
サイジングスタイラス64は、二重筒構造であり、外側筒64aに対して内側筒64bが上下方向に摺動可能である。内側筒64bには、スタイラス64cが取付けられ、外側筒64aには、それに対する内側筒64bの高さを指示する目盛64dが設けられている。内側筒64bはまた、ガイドシャフト部68bに嵌合可能な取付け孔(図示せず)を有している。
【0045】
サイジングブロック66は、可動ブロック4のねじ山付き孔48に締結されるねじ部66aと、人工膝関節のサイズに合わせて設けられた複数のスロット66bを有している。スロット66bには、サイズ決定用のフィラーブレード(図示せず)が挿入される。
【0046】
次に、本発明による人工膝関節設置ジグの使用方法を説明する。
【0047】
まず、大腿骨取付け部2のフック部材8と可動ブロック14を組み立てておく。詳細には、駆動ねじ40を前孔32に挿入し、支持ピン42を支持ピン用孔44及び駆動ねじ40の環状凹部40aに挿入し、駆動ねじ40を前孔32内に回転可能に支持する。次いで、フック部材8の円筒形部分8aを後孔34に挿入し、円筒形部分8aのねじ山10と駆動ねじ40とを係合させたら、駆動ねじ40を六角レンチ等により回転させて、フック部材8及び可動ブロック14を上下方向に相対的に移動させる。
【0048】
膝を90度屈曲位にして、大腿骨取付け部2のプレート部材6を大腿骨Fの遠位端面Fb1に取付ける。具体的には、図7に示す取付けツール70を使用する。取付けツール70は、プレート部材6を把持可能なクランプ部70aと、クランプ部70aから前方に延びる剛性の軸70bと、軸70bの後端に取付けられた板状部分70cを有している。プレート部材6をクランプ部70aで把持して、プレート部材6の当接突出部51を大腿骨Fの後顆部Fcの間に位置決めしたら、板状部分70cを後方に向ってハンマー等でたたくことにより、プレート部材6の押込み突出部52、53を大腿骨Fの遠位端面Fb1に押入れる。必要であれば、プレート部材6の貫通孔51cに固定ピンを挿入する。
【0049】
次いで、フック部材8の連結部56をプレート部材6の長孔54に取付けることによって、可動ブロック14の後面14bをプレート部材6の第2の当接面6bに当接させる。次いで、膝が伸展位にあるときに計測した大腿骨Fと脛骨Tとの間の所定の隙間と同じ厚さになるようにスペーサ本体18と補助スペーサ20とを組合せて、スペーサ12(18、20)を形成し、このスペーサ12を可動ブロック14と脛骨Tの近位端面Tbとの間に挿入する。使用しない補助スペーサ20は、ピン20aを中心に回動させて、スペーサ本体18から離しておく。スペーサ12を挿入する際、スペーサ12のピン28と可動ブロック14の挿入孔30とを整列させ、ピン28を挿入孔30に挿入することにより、可動ブロック14とスペーサ12とを連結させ、固定させる。また、ハンドル16をスペーサ12の連結部24に取付ける。
【0050】
次いで、駆動ねじ40を六角レンチ等により回転させ、可動ブロック14を大腿骨取付け部2に対して下降させ、即ち、大腿骨Fと脛骨Tとの距離が広げ、屈曲位における靭帯の緊張状態を、伸展位における靭帯の緊張状態と一致させる。屈曲位における靭帯の緊張状態を、伸展位における靭帯の緊張状態と一致しているかどうかを確認する方法には、六角レンチのトルクが所定の値になるまで駆動ねじ40を回転させる方法、及び、スペーサ12に取付けたハンドル16を手で持って揺り動かし、大腿骨Fと脛骨Tとの間に取付けられたジグ本体4の安定性、又は、ガタツキを確認する方法等がある。後者の方法は、術者の経験に依存する方法であるが、術者によっては、非常に有効な方法の1つである。従来のジグでは、靭帯の緊張状態に応じて、ジグ本体が髄内ロッドを中心に回旋可能であったのに対し、本実施形態のジグ1では、靭帯の緊張状態に応じて、ジグ本体4がフック部材8の連結部54の連結軸部54aを中心に回旋可能である。
【0051】
靭帯の所望の緊張状態が得られたら、可動ブロック14の左右に3つずつ設けられた基準ガイド孔46の真ん中の孔にドリルを挿入して、大腿骨Fの遠位端面Fb1に設置基準孔を形成する。設置基準孔をあけ直すとき、他の基準ガイド孔46を使用するのがよい。
【0052】
次いで、人工膝関節のサイズを決定する。
【0053】
サイジングブレード62を使用する場合には、ねじ部68aを用いて、ガイド68を可動ブロック4に取付ける。サイジングブレード62の筒部分62aをガイド68のガイドシャフト部68bに挿入する。つまみ部62cを用いて、サイジングブレード62をガイドシャフト部68bを中心に回転させ、ブレード62bが大腿骨に触れるようなサイズを有するサイジングブレード62を選択する。選択されたサイジングブレード62のサイズによって、人工膝関節のサイズが決定される。
【0054】
サイジングスタイラス64を使用する場合には、ねじ部68aを用いて、ガイド68を可動ブロック4に取付ける。サイジングスタイラス64の取付け孔(図示せず)に、ガイド68のガイドシャフトを挿入する。スタイラス64cの先端を大腿骨の上に配置したときの目盛64dが指示するサイズによって、人工膝関節のサイズが決定される。
【0055】
サイジングブロック66を使用する場合には、ねじ部66aを用いて、サイジングブロック66を可動ブロック4に取付ける。フィラーブレードをスロット66bに挿入し、フィラーブレードが最も適した大腿骨の位置を示すように挿入されたスロット66bにより、人工膝関節のサイズが決定される。その後、スロット66bに、骨を切除するブレードを挿入して、大腿骨Fの前設置面Fb2を形成してもよい。
【0056】
次いで、人工膝関節設置用ジグ1を取外す。プレート部材6を取外すとき、プレート部材6を取付けツール70のクランプ部70aで把持して、板状部分70cを前方に向ってハンマー等でたたくことにより、プレート部材6の押込み突出部52、53を大腿骨Fの遠位端面Fb1から引抜く。
【0057】
最後に、大腿骨Fに形成された設置基準孔を利用して、例えば、骨切除用ジグを大腿骨Fの遠位端面Fb1に固定し、大腿骨の設置面Fb2〜Fb5を形成する。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0059】
1 人工膝関節設置用ジグ
2 大腿骨取付け部
4 ジグ本体
6 プレート部材
6a 第1の当接面
6b 第2の当接面
6c 段部
8 フック部材
12 スペーサ
14 可動ブロック
18 スペーサ本体
18b スペーサ本体の上面
26 サポート部
28 ピン
14a 可動ブロックの下面
30 挿入孔
51 当接突出部
52、53 押込み突出部
54 長孔
54a 上端部
56a 連結軸部
70 オプションジグ
A 上下方向
F 大腿骨
Fb1 大腿骨の遠位端面
Fc 大腿骨の後顆部
T 脛骨
Tb 脛骨の近位端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9