【実施例1】
【0019】
図1(a)から
図2(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図1(a)のように、支持基板10の上面に圧電基板12の下面が接合された接合基板14と、圧電基板12上に形成されたIDT(Interdigital Transducer)16と、を含むウエハ50を準備する。接合基板14は、支持基板10と圧電基板12との境界18において、支持基板10を構成する原子と圧電基板12を構成する原子とがアモルファス層を形成することにより、支持基板10と圧電基板12とが強固に接合されている。支持基板10は、例えばサファイア基板等の絶縁基板である。圧電基板12は、例えば回転YカットX伝搬のタンタル酸リチウム(LT)基板である。圧電基板12は、弾性波デバイスの性能の観点から、36°〜48°YカットX伝搬のLT基板の場合が好ましい。IDT16は、例えばアルミニウム(Al)膜等の金属膜である。支持基板10の厚さは、例えば100μm〜300μmである。圧電基板12の厚さは、例えば20μm〜100μmである。
【0020】
図1(b)のように、ウエハ50の下面をダイシングテープ30に貼り付ける。ダイシングテープ30は、ダイシングリング32に固定されている。
【0021】
図1(c)のように、レーザ照射装置34を用い、圧電基板12を介して支持基板10内にレーザ光36を照射する。レーザ光36の熱により、支持基板10内に支持基板10の材料が改質した改質領域20が形成される。改質領域20は、支持基板10の厚さ方向に1又は複数形成される。改質領域20は、圧電基板12内に形成されてもよい。改質領域20は、ウエハ50を切断する切断領域(スクライブライン)に形成される。切断領域は、ウエハ50を上から見て、第1方向と第1方向に交差する方向(例えば、直交する方向)である第2方向とに形成される。なお、実施例1においては、第1方向を回転YカットX伝搬のLT基板からなる圧電基板12の結晶方位のX軸方向とし、第2方向をX軸方向に交差する方向(例えば、直交する方向)とする。したがって、第1方向と第2方向とでは、圧電基板12の線膨張係数が異なり、第1方向における圧電基板12の線膨張係数は、第2方向における線膨張係数よりも大きい。
【0022】
レーザ光36は、例えばグリーンレーザ光であり、例えばNd:YAGレーザの第2高調波である。波長が500nm程度のレーザ光を用いることにより、支持基板10内に効率よく改質領域20を形成することができる。なお、レーザ光36の波長は、支持基板10及び圧電基板12の材料に応じ適宜設定することができる。
【0023】
ここで、
図3を用いて、改質領域について説明する。
図3(a)は、実施例1における改質領域を形成した直後のウエハの上面図、
図3(b)は、
図3(a)のA−A間の断面図、
図3(c)は、
図3(a)のB−B間の断面図である。なお、
図3(a)においては、図の簡略化のために、IDT16の図示は省略している。
図3(a)から
図3(c)のように、第1方向と第2方向とのそれぞれに沿ってレーザ光36を照射して改質領域20を形成する際、第1方向と第2方向とで条件を異ならせてレーザ光36を照射する。例えば、レーザ光の出力パワー、焦点位置、移動速度、照射周波数の少なくとも1つを第1方向と第2方向とで異ならせてレーザ光36を照射する。出力パワーによって改質領域の大きさが変わり、焦点位置によって高さ方向における改質領域の形成位置が変わり、移動速度及び/又は照射周波数によって隣接する改質領域の間隔が変わる。
【0024】
第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光36を照射することで、例えば、第1方向に沿って形成される改質領域20aと第2方向に沿って形成される改質領域20bとが、接合基板14の厚さ方向で異なる高さに位置して形成される。例えば、第1方向に沿って形成される改質領域20aが第2方向に沿って形成される改質領域20bよりも接合基板14の上面及び下面から離れて形成される。例えば、第2方向に沿って形成される改質領域20bのうち接合基板14の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔が、第1方向に沿って形成される改質領域20aにおける間隔よりも広く形成される。
【0025】
図2(a)のように、ウエハ50の上下を反転させる。支持ステージ40上に保護シート42を介してウエハ50を配置する。ウエハ50の圧電基板12側の面が保護シート42で保護される。改質領域20下の支持ステージ40には溝44が設けられている。ダイシングテープ30の上から、ブレード38をウエハ50に押し当て、改質領域20と重なる領域において接合基板14に切断面22を形成して、ウエハ50を第1方向及び第2方向にブレイクする。例えば、第2方向にブレイクしてウエハ50を複数の短冊とした後、第1方向にブレイクして個片化する。なお、溝44の位置はブレード38の位置と連動する。
【0026】
図2(b)のように、ウエハ50を支持ステージ40から離脱させる。ウエハ50の上下を反転させる。ウエハ50には切断面22が形成され、ウエハ50は複数のチップ52に個片化されている。チップ52をダイシングテープ30からピックアップする。
【0027】
図4(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスを示す斜視図、
図4(b)は、
図4(a)のA−A間の断面図である。なお、
図4(a)においては、図の簡略化のために、IDT16の図示は省略している。
図4(a)及び
図4(b)のように、弾性波デバイスチップ100は、接合基板14の第1方向及び第2方向に沿った側面にレーザ光の照射により改質領域20が形成されている。接合基板14の第1方向に沿った側面に形成された改質領域20aと第2方向に沿った側面に形成された改質領域20bとは、接合基板14の厚さ方向で異なる高さに位置して形成されている。例えば、第1方向に沿った側面に形成された改質領域20aは第2方向に沿った側面に形成された改質領域20bよりも接合基板14の上面及び下面から離れて形成されている。
【0028】
次に、実施例1の弾性波デバイスの効果を説明するに当たり、比較対象となる比較例1の弾性波デバイスについて説明する。
図5(a)は、比較例1における改質領域を形成した直後のウエハの上面図、
図5(b)は、
図5(a)のA−A間の断面図、
図5(c)は、
図5(a)のB−B間の断面図である。
図5(a)から
図5(c)のように、比較例1においても、実施例1と同様に、支持基板10内に改質領域20を形成する。この際、実施例1とは異なり、第1方向と第2方向とで条件を変えずにレーザ光36を照射する。このため、第1方向に沿って形成される改質領域20aと第2方向に沿って形成される改質領域20bとは、接合基板14の厚さ方向で同じ高さに形成される。その後、実施例1の
図2(a)及び
図2(b)と同じ方法で個片化する。
【0029】
ここで、発明者が行った実験について説明する。発明者は、実施例1及び比較例1について、ウエハ50を切断してチップ52にした後のチッピング及びクラックの発生状況を調べた。実験には、実施例1及び比較例1共に、厚さ110μmのサファイア基板からなる支持基板10と厚さ40μmの42°YカットX伝搬のLT基板からなる圧電基板12とが接合された接合基板14を用いた。また、接合基板14の厚さ方向に3つの改質領域20を形成した。3つの改質領域20を、圧電基板12に近い方から順に、第1改質領域、第2改質領域、第3改質領域と称すこととする。また、チップ52への個片化は、第2方向にウエハ50をブレイクして複数の短冊にした後、第1方向にブレイクしてチップ52に個片化した。個片化した後のチップ52の第1方向に沿った側面の長さは0.75mm、第2方向に沿った側面の長さは1.0mmであった。なお、第1方向は42°YカットX伝搬のLT基板の結晶方位のX軸方向で、第2方向はX軸方向に直交する方向である。
【0030】
実施例1及び比較例1(サンプル1及びサンプル2)の改質領域の形成条件及び形成位置を表1〜表3に示す。
【表1】
表1のように、実施例1では、第1方向(X軸方向)において、180mm/secで移動させつつ0.1Wの出力パワーでレーザ光を照射して第1改質領域を形成した。360mm/secで移動させつつ0.14Wの出力パワーでレーザ光を第1改質領域よりも深い位置に照射して第2改質領域を形成した。360mm/secで移動させつつ0.16Wの出力パワーでレーザ光を第2改質領域よりも深い位置に照射して第3改質領域を形成した。なお、レーザ光の照射周波数は50Hzとした。これにより、第1改質領域は、圧電基板12の上面からの深さが90μmで、互いの間隔が3.6mmで形成された。第2改質領域は、圧電基板12の上面からの深さが105μmで、互いの間隔が7.2mmで形成された。第3改質領域は、圧電基板12の上面からの深さが120μmで、互いの間隔が7.2mmで形成された。
【0031】
第2方向(X軸方向に直交する方向)においても、第1方向と同じ移動速度及び出力パワーでレーザ光を照射させて第1改質領域〜第3改質領域を形成したが、レーザ光の焦点位置を第1方向とは異ならせた。このため、第2方向においては、第1改質領域は圧電基板12の上面から70μmの深さに形成され、第2改質領域は圧電基板12の上面から100μmの深さに形成され、第3改質領域は圧電基板12の上面から130μmの深さに形成された。
【0032】
したがって、第1方向に沿って形成された改質領域は、第2方向に沿って形成された改質領域よりも、接合基板14の上面及び下面から離れている。また、第2方向に沿って形成された改質領域のうち接合基板14の厚さ方向で両端に位置する第1改質領域と第3改質領域との間隔は、第1方向に沿って形成された改質領域のうちの第1改質領域と第3改質領域との間隔よりも広くなっている。
【0033】
【表2】
比較例1のサンプル1では、実施例1と同じ移動速度及び出力パワーでレーザ光を照射させて第1改質領域〜第3改質領域を形成したが、実施例1と異なり、レーザ光の焦点位置を第1方向と第2方向とで同じにした。このため、第1方向及び第2方向共に、第1改質領域は圧電基板12の上面から70μmの深さに形成され、第2改質領域は圧電基板12の上面から100μmの深さに形成され、第3改質領域は圧電基板12の上面から130μmの深さに形成された。
【0034】
【表3】
比較例1のサンプル2では、比較例1のサンプル1と同様に、レーザ光の焦点位置を第1方向と第2方向とで同じにしたが、焦点位置を比較例1のサンプル1とは異ならせた。このため、第1方向及び第2方向共に、第1改質領域は圧電基板12の上面から90μmの深さに形成され、第2改質領域は圧電基板12の上面から105μmの深さに形成され、第3改質領域は圧電基板12の上面から120μmの深さに形成された。
【0035】
実施例1及び比較例1のサンプル1、サンプル2のチッピング発生率及びクラック発生率は以下であった。なお、チッピング発生率及びクラック発生率は、作製した7000個のチップの中でチッピング及びクラックの発生しているチップの割合を示す。
比較例1のサンプル1:チッピング発生率0.1%、クラック発生率8%
比較例1のサンプル2:チッピング発生率3%、クラック発生率0.1%
実施例1 :チッピング発生率0.2%、クラック発生率0.1%
【0036】
比較例1のサンプル1では、チッピング発生率は低かったが、クラック発生率が高かった。
図6は、クラックを説明するためのチップの斜視図である。
図6のように、クラック60は、チップの第1方向(X軸方向)に沿った側面から第2方向(X軸方向に直交する方向)に伸びて発生する。これは、LT基板においては、X軸方向の線膨張係数はX軸に直交する方向よりも大きいため、X軸方向(第1方向)に沿った側面には歪みによる応力がかかる。第1改質領域及び第3改質領域が接合基板14の上面及び下面の近くに設けられていることで、歪みによる応力によって、第1改質領域及び第3改質領域を起点とするクラックが発生したものと考えられる。このことから、クラックの発生を抑制するには、改質領域は接合基板14の上面及び下面から離れて、接合基板14の厚さ方向の中心側に寄せて設けられることが好ましいことが言える。なお、このような歪みによる応力は、第1方向の線膨張係数が第2方向よりも大きい場合に限らず、第1方向と第2方向とで線膨張係数が異なる場合に発生し、この場合に、クラックが発生すると考えられる。
【0037】
比較例1のサンプル2では、第1改質領域〜第3改質領域が接合基板14の上面及び下面から離れて設けられているためにクラック発生率は低かったが、チッピング発生率が高かった。
図7は、チッピングを説明するためのチップの斜視図である。
図7のように、チッピング62は、チップの第2方向に沿った側面に発生する。これは、第1改質領域〜第3改質領域が接合基板14の上面及び下面から離れて、接合基板14の厚さ方向の中心側に寄せて設けられているため、分割性が悪くなってチッピング62が発生したものと考えられる。また、第1方向に沿った側面でチッピング62が発生していないのは、第2方向に切断して短冊化した後に、第1方向に沿って切断したことによるものと考えられる。このことから、チッピングの発生を抑制するには、改質領域は接合基板14の厚さ方向で広範囲に設けられることが好ましいことが言える。
【0038】
そこで、実施例1では、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光を照射することで、第1方向に沿って形成される第1改質領域〜第3改質領域が接合基板14の上面及び下面から離れるようにした。第2方向に沿って形成される第1改質領域〜第3改質領域が接合基板14の厚さ方向で広範囲に形成されるようにした。この結果、チッピング発生率、クラック発生率共に低くなった。
【0039】
実施例1によれば、第1方向と第2方向とで線膨張係数が異なる圧電基板12を含む接合基板14に、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光36を照射して改質領域20を形成する。例えば、
図3(a)から
図3(c)のように、第1方向に沿って形成される改質領域20aと第2方向に沿って形成される改質領域20bとが接合基板14の厚さ方向で異なる高さに位置するように形成する。その後、接合基板14を改質領域20において第1方向及び第2方向に切断する。これにより、チッピング及びクラックの発生を抑制することができる。
【0040】
なお、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光を照射して形成する改質領域は、第1方向と第2方向とで異なる高さに位置するように形成する場合に限られるものではない。例えば、第1方向と第2方向とで接合基板の厚さ方向の改質領域の個数を異ならせる場合でもよい。例えば、第1方向と第2方向とで改質領域の大きさを異ならせる場合でもよい。例えば、第1方向と第2方向とで接合基板の上面に平行な方向で隣接する改質領域の間隔を異ならせる場合でもよい。
【0041】
図6で説明したように、圧電基板12の第1方向の線膨張係数が第2方向よりも大きい場合、第1方向に沿った側面から第2方向に伸びるクラックが発生する。クラックの発生を抑制するには、
図3(a)から
図3(c)のように、第1方向に沿って形成される改質領域20aが第2方向に沿って形成される改質領域20bよりも接合基板14の上面及び下面から離れて位置するように形成することが好ましい。
【0042】
図7で説明したように、チッピング62はウエハ50を短冊に切断する際に発生し、チッピング62を抑えるには、短冊に切断する切断面における改質領域を接合基板の厚さ方向で広範囲に設けることが有効である。例えば、線膨張係数の大きい第1方向にウエハ50を切断して短冊化する場合、チッピング62を抑えるには、第1方向に沿って形成される改質領域20aを接合基板14の厚さ方向で広範囲に設けることが好ましい。しかしながら、これでは、第1方向に沿った側面にクラック60が発生してしまう。一方、線膨張係数の小さい第2方向に沿った側面からはクラック60が発生し難いため、第2方向に沿って形成される改質領域20bを接合基板14の厚さ方向で広範囲に設けることができる。このようなことから、第1方向の線膨張係数が第2方向の線膨張係数よりも大きい場合、第2方向に沿って形成される改質領域20bのうち接合基板14の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔が第1方向に沿って形成される改質領域20aのそれよりも広くなるように形成することが好ましい。また、ウエハ50の切断は、第2方向に切断して短冊にした後、第1方向に切断して個片化することが好ましい。
【0043】
図2(a)のように、接合基板14にブレード38を押し当てることにより、接合基板14をブレイクする場合、チッピング及びクラックが発生し易い。したがって、この場合に、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光36を照射して改質領域20を形成することが有効である。また、他の方法で基板を切断する場合であっても、チッピング及びクラックの発生が起こり得るので、他の方法の場合でも、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光36を照射して改質領域20を形成することが好ましい。
【0044】
支持基板10が圧電基板12よりも硬い場合、圧電基板12にチッピング及びクラックが発生し易い。例えば、支持基板10がサファイア基板、スピネル基板、又はシリコン基板である場合、圧電基板12にチッピング及びクラックが発生し易い。したがって、この場合に、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光を照射して改質領域20を形成することが有効である。
【0045】
実施例1では、圧電基板12が回転YカットX伝搬のLT基板で、第1方向がLT基板の結晶方位のX軸方向、第2方向がX軸方向に交差する方向である場合を例に示した。しかしながら、圧電基板12の線膨張係数が第1方向と第2方向とで異なる場合にクラックが発生し易くなることから、圧電基板12は線膨張係数が第1方向と第2方向とで異なる基板であればよい。例えば、圧電基板12は回転YカットX伝搬のニオブ酸リチウム(LN)基板で、第1方向はLN基板の結晶方位のX軸方向の場合でもよい。また、支持基板10の上面に圧電基板12の下面が接合された接合基板14を用いた場合を例に示したが、圧電基板12の単体基板を用いた場合でもよい。この場合は、当然ではあるが、改質領域20は圧電基板12内に形成される。
【0046】
弾性波デバイスとしては、例えば弾性表面波デバイス、弾性境界波デバイス、ラブ波デバイス等を用いることができる。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。