特許第6336817号(P6336817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336817
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】弾性波デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/08 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   H03H3/08
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-98665(P2014-98665)
(22)【出願日】2014年5月12日
(65)【公開番号】特開2015-216525(P2015-216525A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】清水 洋平
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−138362(JP,A)
【文献】 特開2012−000636(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029735(WO,A1)
【文献】 特開2014−022966(JP,A)
【文献】 特開2014−011568(JP,A)
【文献】 特開2007−165850(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098186(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/007−9/76
B23K 26/00−26/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IDTが形成され且つ第1方向の線膨張係数が前記第1方向に交差する第2方向の線膨張係数よりも大きい圧電基板を含む基板に前記第1方向と前記第2方向とで異なる条件でレーザ光を照射することにより、前記基板内に前記第1方向及び前記第2方向に沿って改質領域を形成する工程と、
前記基板を前記改質領域において前記第1方向及び前記第2方向に切断する工程と、を備え、
前記改質領域を形成する工程は、前記基板の厚さ方向に複数の前記改質領域を形成し、前記第1方向に沿って形成される前記改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域が前記第2方向に沿って形成される前記改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域よりも前記基板の上面及び下面から離れて位置し、且つ、前記第2方向に沿って形成される前記改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔が前記第1方向に沿って形成される前記改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔よりも広くなるように前記改質領域を形成する工程を含むことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記改質領域を形成する工程は、前記第1方向に沿って形成される前記改質領域と前記第2方向に沿って形成される前記改質領域とが前記基板の厚さ方向で異なる高さに位置するように前記改質領域を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記基板を切断する工程は、前記第2方向で前記基板を切断した後に、前記第1方向で前記基板を切断する工程を含むことを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記基板を切断する工程は、前記基板にブレードを押し当てることにより、前記基板をブレイクする工程を含むことを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記圧電基板は、回転YカットX伝搬のタンタル酸リチウム基板又はニオブ酸リチウム基板であり、
前記第1方向は、前記タンタル酸リチウム基板又は前記ニオブ酸リチウム基板の結晶方位のX軸方向であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記基板は、前記圧電基板の単体基板又は支持基板の上面に前記圧電基板の下面が接合された接合基板であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記支持基板は、サファイア基板、スピネル基板、又はシリコン基板であることを特徴とする請求項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項8】
IDTが形成され且つ第1方向の線膨張係数が前記第1方向に交差する第2方向の線膨張係数よりも大きい圧電基板を含む基板と、
前記第1方向及び前記第2方向に沿った前記基板の側面にレーザ光が照射されたことにより形成され、前記基板の厚さ方向に並んで設けられた複数の改質領域と、を備え、
前記第1方向に沿った前記側面に形成された前記複数の改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域は前記第2方向に沿った前記側面に形成された前記複数の改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域よりも前記基板の上面及び下面から離れて位置し、且つ、前記第2方向に沿った前記側面に形成された前記複数の改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔が前記第1方向に沿った前記側面に形成された前記複数の改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔よりも広いことを特徴とする弾性波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波デバイスの切断にレーザ光を用いることが知られている。例えば、ベース基板とリッド基板とが接合された接合基板に対し、リッド基板にレーザ光を照射することで切り目を形成した後、ベース基板側から押圧することで、接合基板を切断する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。例えば、支持基板と圧電基板とが接合された接合基板に対し、支持基板にレーザ光を照射することにより改質領域を形成した後、改質領域において接合基板を切断する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−209617号公報
【特許文献2】特開2014−22966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のように、基板にレーザ光を照射することにより改質領域を形成し、改質領域において基板を切断することで、チッピング及びクラックの発生を抑制することができる。しかしながら、未だ改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、チッピング及びクラックの発生を抑制することが可能な弾性波デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、IDTが形成され且つ第1方向の線膨張係数が前記第1方向に交差する第2方向の線膨張係数よりも大きい圧電基板を含む基板に前記第1方向と前記第2方向とで異なる条件でレーザ光を照射することにより、前記基板内に前記第1方向及び前記第2方向に沿って改質領域を形成する工程と、前記基板を前記改質領域において前記第1方向及び前記第2方向に切断する工程と、を備え、前記改質領域を形成する工程は、前記基板の厚さ方向に複数の前記改質領域を形成し、前記第1方向に沿って形成される前記改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域が前記第2方向に沿って形成される前記改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域よりも前記基板の上面及び下面から離れて位置し、且つ、前記第2方向に沿って形成される前記改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔が前記第1方向に沿って形成される前記改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔よりも広くなるように前記改質領域を形成する工程を含むことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法である
【0007】
上記構成において、前記改質領域を形成する工程は、前記第1方向に沿って形成される前記改質領域と前記第2方向に沿って形成される前記改質領域とが前記基板の厚さ方向で異なる高さに位置するように前記改質領域を形成する工程を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記基板を切断する工程は、前記第2方向で前記基板を切断した後に、前記第1方向で前記基板を切断する工程を含む構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記基板を切断する工程は、前記基板にブレードを押し当てることにより、前記基板をブレイクする工程を含む構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電基板は、回転YカットX伝搬のタンタル酸リチウム基板又はニオブ酸リチウム基板であり、前記第1方向は、前記タンタル酸リチウム基板又は前記ニオブ酸リチウム基板の結晶方位のX軸方向である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記基板は、前記圧電基板の単体基板又は支持基板の上面に前記圧電基板の下面が接合された接合基板である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記支持基板は、サファイア基板、スピネル基板、又はシリコン基板である構成とすることができる。
【0015】
本発明は、IDTが形成され且つ第1方向の線膨張係数が前記第1方向に交差する第2方向の線膨張係数よりも大きい圧電基板を含む基板と、前記第1方向及び前記第2方向に沿った前記基板の側面にレーザ光が照射されたことにより形成され、前記基板の厚さ方向に並んで設けられた複数の改質領域と、を備え、前記第1方向に沿った前記側面に形成された前記複数の改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域は前記第2方向に沿った前記側面に形成された前記複数の改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域よりも前記基板の上面及び下面から離れて位置し、且つ、前記第2方向に沿った前記側面に形成された前記複数の改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔が前記第1方向に沿った前記側面に形成された前記複数の改質領域のうち前記基板の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔よりも広いことを特徴とする弾性波デバイスである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、チッピング及びクラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)から図1(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
図2図2(a)及び図2(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
図3図3(a)は、実施例1における改質領域を形成した直後のウエハの上面図、図3(b)は、図3(a)のA−A間の断面図、図3(c)は、図3(a)のB−B間の断面図である。
図4図4(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスを示す斜視図、図4(b)は、図4(a)のA−A間の断面図である。
図5図5(a)は、比較例1における改質領域を形成した直後のウエハの上面図、図5(b)は、図5(a)のA−A間の断面図、図5(c)は、図5(a)のB−B間の断面図である。
図6図6は、クラックを説明するためのチップの斜視図である。
図7図7は、チッピングを説明するためのチップの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1(a)から図2(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。図1(a)のように、支持基板10の上面に圧電基板12の下面が接合された接合基板14と、圧電基板12上に形成されたIDT(Interdigital Transducer)16と、を含むウエハ50を準備する。接合基板14は、支持基板10と圧電基板12との境界18において、支持基板10を構成する原子と圧電基板12を構成する原子とがアモルファス層を形成することにより、支持基板10と圧電基板12とが強固に接合されている。支持基板10は、例えばサファイア基板等の絶縁基板である。圧電基板12は、例えば回転YカットX伝搬のタンタル酸リチウム(LT)基板である。圧電基板12は、弾性波デバイスの性能の観点から、36°〜48°YカットX伝搬のLT基板の場合が好ましい。IDT16は、例えばアルミニウム(Al)膜等の金属膜である。支持基板10の厚さは、例えば100μm〜300μmである。圧電基板12の厚さは、例えば20μm〜100μmである。
【0020】
図1(b)のように、ウエハ50の下面をダイシングテープ30に貼り付ける。ダイシングテープ30は、ダイシングリング32に固定されている。
【0021】
図1(c)のように、レーザ照射装置34を用い、圧電基板12を介して支持基板10内にレーザ光36を照射する。レーザ光36の熱により、支持基板10内に支持基板10の材料が改質した改質領域20が形成される。改質領域20は、支持基板10の厚さ方向に1又は複数形成される。改質領域20は、圧電基板12内に形成されてもよい。改質領域20は、ウエハ50を切断する切断領域(スクライブライン)に形成される。切断領域は、ウエハ50を上から見て、第1方向と第1方向に交差する方向(例えば、直交する方向)である第2方向とに形成される。なお、実施例1においては、第1方向を回転YカットX伝搬のLT基板からなる圧電基板12の結晶方位のX軸方向とし、第2方向をX軸方向に交差する方向(例えば、直交する方向)とする。したがって、第1方向と第2方向とでは、圧電基板12の線膨張係数が異なり、第1方向における圧電基板12の線膨張係数は、第2方向における線膨張係数よりも大きい。
【0022】
レーザ光36は、例えばグリーンレーザ光であり、例えばNd:YAGレーザの第2高調波である。波長が500nm程度のレーザ光を用いることにより、支持基板10内に効率よく改質領域20を形成することができる。なお、レーザ光36の波長は、支持基板10及び圧電基板12の材料に応じ適宜設定することができる。
【0023】
ここで、図3を用いて、改質領域について説明する。図3(a)は、実施例1における改質領域を形成した直後のウエハの上面図、図3(b)は、図3(a)のA−A間の断面図、図3(c)は、図3(a)のB−B間の断面図である。なお、図3(a)においては、図の簡略化のために、IDT16の図示は省略している。図3(a)から図3(c)のように、第1方向と第2方向とのそれぞれに沿ってレーザ光36を照射して改質領域20を形成する際、第1方向と第2方向とで条件を異ならせてレーザ光36を照射する。例えば、レーザ光の出力パワー、焦点位置、移動速度、照射周波数の少なくとも1つを第1方向と第2方向とで異ならせてレーザ光36を照射する。出力パワーによって改質領域の大きさが変わり、焦点位置によって高さ方向における改質領域の形成位置が変わり、移動速度及び/又は照射周波数によって隣接する改質領域の間隔が変わる。
【0024】
第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光36を照射することで、例えば、第1方向に沿って形成される改質領域20aと第2方向に沿って形成される改質領域20bとが、接合基板14の厚さ方向で異なる高さに位置して形成される。例えば、第1方向に沿って形成される改質領域20aが第2方向に沿って形成される改質領域20bよりも接合基板14の上面及び下面から離れて形成される。例えば、第2方向に沿って形成される改質領域20bのうち接合基板14の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔が、第1方向に沿って形成される改質領域20aにおける間隔よりも広く形成される。
【0025】
図2(a)のように、ウエハ50の上下を反転させる。支持ステージ40上に保護シート42を介してウエハ50を配置する。ウエハ50の圧電基板12側の面が保護シート42で保護される。改質領域20下の支持ステージ40には溝44が設けられている。ダイシングテープ30の上から、ブレード38をウエハ50に押し当て、改質領域20と重なる領域において接合基板14に切断面22を形成して、ウエハ50を第1方向及び第2方向にブレイクする。例えば、第2方向にブレイクしてウエハ50を複数の短冊とした後、第1方向にブレイクして個片化する。なお、溝44の位置はブレード38の位置と連動する。
【0026】
図2(b)のように、ウエハ50を支持ステージ40から離脱させる。ウエハ50の上下を反転させる。ウエハ50には切断面22が形成され、ウエハ50は複数のチップ52に個片化されている。チップ52をダイシングテープ30からピックアップする。
【0027】
図4(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスを示す斜視図、図4(b)は、図4(a)のA−A間の断面図である。なお、図4(a)においては、図の簡略化のために、IDT16の図示は省略している。図4(a)及び図4(b)のように、弾性波デバイスチップ100は、接合基板14の第1方向及び第2方向に沿った側面にレーザ光の照射により改質領域20が形成されている。接合基板14の第1方向に沿った側面に形成された改質領域20aと第2方向に沿った側面に形成された改質領域20bとは、接合基板14の厚さ方向で異なる高さに位置して形成されている。例えば、第1方向に沿った側面に形成された改質領域20aは第2方向に沿った側面に形成された改質領域20bよりも接合基板14の上面及び下面から離れて形成されている。
【0028】
次に、実施例1の弾性波デバイスの効果を説明するに当たり、比較対象となる比較例1の弾性波デバイスについて説明する。図5(a)は、比較例1における改質領域を形成した直後のウエハの上面図、図5(b)は、図5(a)のA−A間の断面図、図5(c)は、図5(a)のB−B間の断面図である。図5(a)から図5(c)のように、比較例1においても、実施例1と同様に、支持基板10内に改質領域20を形成する。この際、実施例1とは異なり、第1方向と第2方向とで条件を変えずにレーザ光36を照射する。このため、第1方向に沿って形成される改質領域20aと第2方向に沿って形成される改質領域20bとは、接合基板14の厚さ方向で同じ高さに形成される。その後、実施例1の図2(a)及び図2(b)と同じ方法で個片化する。
【0029】
ここで、発明者が行った実験について説明する。発明者は、実施例1及び比較例1について、ウエハ50を切断してチップ52にした後のチッピング及びクラックの発生状況を調べた。実験には、実施例1及び比較例1共に、厚さ110μmのサファイア基板からなる支持基板10と厚さ40μmの42°YカットX伝搬のLT基板からなる圧電基板12とが接合された接合基板14を用いた。また、接合基板14の厚さ方向に3つの改質領域20を形成した。3つの改質領域20を、圧電基板12に近い方から順に、第1改質領域、第2改質領域、第3改質領域と称すこととする。また、チップ52への個片化は、第2方向にウエハ50をブレイクして複数の短冊にした後、第1方向にブレイクしてチップ52に個片化した。個片化した後のチップ52の第1方向に沿った側面の長さは0.75mm、第2方向に沿った側面の長さは1.0mmであった。なお、第1方向は42°YカットX伝搬のLT基板の結晶方位のX軸方向で、第2方向はX軸方向に直交する方向である。
【0030】
実施例1及び比較例1(サンプル1及びサンプル2)の改質領域の形成条件及び形成位置を表1〜表3に示す。
【表1】
表1のように、実施例1では、第1方向(X軸方向)において、180mm/secで移動させつつ0.1Wの出力パワーでレーザ光を照射して第1改質領域を形成した。360mm/secで移動させつつ0.14Wの出力パワーでレーザ光を第1改質領域よりも深い位置に照射して第2改質領域を形成した。360mm/secで移動させつつ0.16Wの出力パワーでレーザ光を第2改質領域よりも深い位置に照射して第3改質領域を形成した。なお、レーザ光の照射周波数は50Hzとした。これにより、第1改質領域は、圧電基板12の上面からの深さが90μmで、互いの間隔が3.6mmで形成された。第2改質領域は、圧電基板12の上面からの深さが105μmで、互いの間隔が7.2mmで形成された。第3改質領域は、圧電基板12の上面からの深さが120μmで、互いの間隔が7.2mmで形成された。
【0031】
第2方向(X軸方向に直交する方向)においても、第1方向と同じ移動速度及び出力パワーでレーザ光を照射させて第1改質領域〜第3改質領域を形成したが、レーザ光の焦点位置を第1方向とは異ならせた。このため、第2方向においては、第1改質領域は圧電基板12の上面から70μmの深さに形成され、第2改質領域は圧電基板12の上面から100μmの深さに形成され、第3改質領域は圧電基板12の上面から130μmの深さに形成された。
【0032】
したがって、第1方向に沿って形成された改質領域は、第2方向に沿って形成された改質領域よりも、接合基板14の上面及び下面から離れている。また、第2方向に沿って形成された改質領域のうち接合基板14の厚さ方向で両端に位置する第1改質領域と第3改質領域との間隔は、第1方向に沿って形成された改質領域のうちの第1改質領域と第3改質領域との間隔よりも広くなっている。
【0033】
【表2】
比較例1のサンプル1では、実施例1と同じ移動速度及び出力パワーでレーザ光を照射させて第1改質領域〜第3改質領域を形成したが、実施例1と異なり、レーザ光の焦点位置を第1方向と第2方向とで同じにした。このため、第1方向及び第2方向共に、第1改質領域は圧電基板12の上面から70μmの深さに形成され、第2改質領域は圧電基板12の上面から100μmの深さに形成され、第3改質領域は圧電基板12の上面から130μmの深さに形成された。
【0034】
【表3】
比較例1のサンプル2では、比較例1のサンプル1と同様に、レーザ光の焦点位置を第1方向と第2方向とで同じにしたが、焦点位置を比較例1のサンプル1とは異ならせた。このため、第1方向及び第2方向共に、第1改質領域は圧電基板12の上面から90μmの深さに形成され、第2改質領域は圧電基板12の上面から105μmの深さに形成され、第3改質領域は圧電基板12の上面から120μmの深さに形成された。
【0035】
実施例1及び比較例1のサンプル1、サンプル2のチッピング発生率及びクラック発生率は以下であった。なお、チッピング発生率及びクラック発生率は、作製した7000個のチップの中でチッピング及びクラックの発生しているチップの割合を示す。
比較例1のサンプル1:チッピング発生率0.1%、クラック発生率8%
比較例1のサンプル2:チッピング発生率3%、クラック発生率0.1%
実施例1 :チッピング発生率0.2%、クラック発生率0.1%
【0036】
比較例1のサンプル1では、チッピング発生率は低かったが、クラック発生率が高かった。図6は、クラックを説明するためのチップの斜視図である。図6のように、クラック60は、チップの第1方向(X軸方向)に沿った側面から第2方向(X軸方向に直交する方向)に伸びて発生する。これは、LT基板においては、X軸方向の線膨張係数はX軸に直交する方向よりも大きいため、X軸方向(第1方向)に沿った側面には歪みによる応力がかかる。第1改質領域及び第3改質領域が接合基板14の上面及び下面の近くに設けられていることで、歪みによる応力によって、第1改質領域及び第3改質領域を起点とするクラックが発生したものと考えられる。このことから、クラックの発生を抑制するには、改質領域は接合基板14の上面及び下面から離れて、接合基板14の厚さ方向の中心側に寄せて設けられることが好ましいことが言える。なお、このような歪みによる応力は、第1方向の線膨張係数が第2方向よりも大きい場合に限らず、第1方向と第2方向とで線膨張係数が異なる場合に発生し、この場合に、クラックが発生すると考えられる。
【0037】
比較例1のサンプル2では、第1改質領域〜第3改質領域が接合基板14の上面及び下面から離れて設けられているためにクラック発生率は低かったが、チッピング発生率が高かった。図7は、チッピングを説明するためのチップの斜視図である。図7のように、チッピング62は、チップの第2方向に沿った側面に発生する。これは、第1改質領域〜第3改質領域が接合基板14の上面及び下面から離れて、接合基板14の厚さ方向の中心側に寄せて設けられているため、分割性が悪くなってチッピング62が発生したものと考えられる。また、第1方向に沿った側面でチッピング62が発生していないのは、第2方向に切断して短冊化した後に、第1方向に沿って切断したことによるものと考えられる。このことから、チッピングの発生を抑制するには、改質領域は接合基板14の厚さ方向で広範囲に設けられることが好ましいことが言える。
【0038】
そこで、実施例1では、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光を照射することで、第1方向に沿って形成される第1改質領域〜第3改質領域が接合基板14の上面及び下面から離れるようにした。第2方向に沿って形成される第1改質領域〜第3改質領域が接合基板14の厚さ方向で広範囲に形成されるようにした。この結果、チッピング発生率、クラック発生率共に低くなった。
【0039】
実施例1によれば、第1方向と第2方向とで線膨張係数が異なる圧電基板12を含む接合基板14に、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光36を照射して改質領域20を形成する。例えば、図3(a)から図3(c)のように、第1方向に沿って形成される改質領域20aと第2方向に沿って形成される改質領域20bとが接合基板14の厚さ方向で異なる高さに位置するように形成する。その後、接合基板14を改質領域20において第1方向及び第2方向に切断する。これにより、チッピング及びクラックの発生を抑制することができる。
【0040】
なお、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光を照射して形成する改質領域は、第1方向と第2方向とで異なる高さに位置するように形成する場合に限られるものではない。例えば、第1方向と第2方向とで接合基板の厚さ方向の改質領域の個数を異ならせる場合でもよい。例えば、第1方向と第2方向とで改質領域の大きさを異ならせる場合でもよい。例えば、第1方向と第2方向とで接合基板の上面に平行な方向で隣接する改質領域の間隔を異ならせる場合でもよい。
【0041】
図6で説明したように、圧電基板12の第1方向の線膨張係数が第2方向よりも大きい場合、第1方向に沿った側面から第2方向に伸びるクラックが発生する。クラックの発生を抑制するには、図3(a)から図3(c)のように、第1方向に沿って形成される改質領域20aが第2方向に沿って形成される改質領域20bよりも接合基板14の上面及び下面から離れて位置するように形成することが好ましい。
【0042】
図7で説明したように、チッピング62はウエハ50を短冊に切断する際に発生し、チッピング62を抑えるには、短冊に切断する切断面における改質領域を接合基板の厚さ方向で広範囲に設けることが有効である。例えば、線膨張係数の大きい第1方向にウエハ50を切断して短冊化する場合、チッピング62を抑えるには、第1方向に沿って形成される改質領域20aを接合基板14の厚さ方向で広範囲に設けることが好ましい。しかしながら、これでは、第1方向に沿った側面にクラック60が発生してしまう。一方、線膨張係数の小さい第2方向に沿った側面からはクラック60が発生し難いため、第2方向に沿って形成される改質領域20bを接合基板14の厚さ方向で広範囲に設けることができる。このようなことから、第1方向の線膨張係数が第2方向の線膨張係数よりも大きい場合、第2方向に沿って形成される改質領域20bのうち接合基板14の厚さ方向で両端に位置する改質領域の間隔が第1方向に沿って形成される改質領域20aのそれよりも広くなるように形成することが好ましい。また、ウエハ50の切断は、第2方向に切断して短冊にした後、第1方向に切断して個片化することが好ましい。
【0043】
図2(a)のように、接合基板14にブレード38を押し当てることにより、接合基板14をブレイクする場合、チッピング及びクラックが発生し易い。したがって、この場合に、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光36を照射して改質領域20を形成することが有効である。また、他の方法で基板を切断する場合であっても、チッピング及びクラックの発生が起こり得るので、他の方法の場合でも、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光36を照射して改質領域20を形成することが好ましい。
【0044】
支持基板10が圧電基板12よりも硬い場合、圧電基板12にチッピング及びクラックが発生し易い。例えば、支持基板10がサファイア基板、スピネル基板、又はシリコン基板である場合、圧電基板12にチッピング及びクラックが発生し易い。したがって、この場合に、第1方向と第2方向とで異なる条件でレーザ光を照射して改質領域20を形成することが有効である。
【0045】
実施例1では、圧電基板12が回転YカットX伝搬のLT基板で、第1方向がLT基板の結晶方位のX軸方向、第2方向がX軸方向に交差する方向である場合を例に示した。しかしながら、圧電基板12の線膨張係数が第1方向と第2方向とで異なる場合にクラックが発生し易くなることから、圧電基板12は線膨張係数が第1方向と第2方向とで異なる基板であればよい。例えば、圧電基板12は回転YカットX伝搬のニオブ酸リチウム(LN)基板で、第1方向はLN基板の結晶方位のX軸方向の場合でもよい。また、支持基板10の上面に圧電基板12の下面が接合された接合基板14を用いた場合を例に示したが、圧電基板12の単体基板を用いた場合でもよい。この場合は、当然ではあるが、改質領域20は圧電基板12内に形成される。
【0046】
弾性波デバイスとしては、例えば弾性表面波デバイス、弾性境界波デバイス、ラブ波デバイス等を用いることができる。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 支持基板
12 圧電基板
14 接合基板
16 IDT
18 境界
20〜20b 改質領域
36 レーザ光
38 ブレード
60 クラック
62 チッピング
100 弾性波デバイスチップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7