(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アシストトルク決定部は、前記実回転数から前記目標回転数を減算した値である前記回転数偏差がゼロ以上の場合に前記アシストトルクをゼロとし、前記回転数偏差がゼロ未満の場合に前記アシストトルクを予め設定されたトルク値とするようになっている、請求項1に記載の液圧ポンプの駆動システム。
前記アシストトルク決定部において前記予め設定されたトルク値は、前記電動機が80%以上95%以下の効率で出力できるトルクである、請求項2に記載の液圧ポンプの駆動システム。
前記トルク変化推定部は、時定数を変えられる一次遅れ要素を含む疑似微分演算部と、前記回転数センサによって検出される前記実回転数に応じて前記一次遅れ要素の時定数を変える時定数演算部とを有し、疑似微分を用いて前記エンジンの単位回転数当たりにおけ
る前記実燃料噴射量の変化率を算出し、前記実燃料噴射量の変化率に基づいて前記エンジンの単位回転数当たりにおける前記出力トルクの変化を推定する、請求項1乃至5の何れか1つに記載の液圧ポンプの駆動システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の建設機械では、電動機の駆動制御が回転数と回転数指令値との偏差に基づいて行われている。そのため、エンジンの燃焼状態に関係なく回転数の偏差が大きくなると、電動機によってエンジンのアシストが行われる。それ故、エンジンの出力トルクの低下が小さく、燃料噴射量の増加が比較的小さい場合でも電動機によってエンジンがアシストされる。燃料噴射量の増加が比較的小さい場合は、エンジンの燃焼状態が安定している。それ故、電動機によってエンジンをアシストしても燃焼状態の改善をあまり期待することができず、燃焼状態の改善による燃費向上を図ることができなかった。にもかかわらず、電動機によるアシストが強制的に行われており、無駄に電力が消費されている。
【0006】
そこで本発明は、消費電力を低減することができる液圧ポンプの駆動システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液圧ポンプの駆動システムは、液圧ポンプの回転軸を回転駆動するエンジンと、電力供給を受けて前記回転軸を回転駆動し、前記エンジンをアシストする電動機と、前記回転軸の実回転数を検出するための回転数センサと、前記エンジンの燃料噴射量を決定し、且つ前記電動機の動きを制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、トルク指令演算部と、燃料噴射量演算部と、トルク変化推定部と、アシストトルク決定部と、アシスト判定部と、駆動制御部とを有し、前記トルク指令演算部は、前記実回転数を予め定められる目標回転数に戻すべく前記実回転数と前記目標回転数との偏差である回転数偏差に基づいて前記エンジンに出力させるエンジントルクであるエンジントルク指令を演算し、前記燃料噴射量演算部は、前記トルク指令演算部で演算されるエンジントルク指令と前記実回転数とに基づいて前記エンジンで噴射すべき実燃料噴射量を演算し、前記トルク変化推定部は、前記燃料噴射量演算部で演算される実燃料噴射量と前記実回転数とに基づいて前記エンジンの出力トルクの変化値を推定し、前記アシストトルク決定部は、前記回転数偏差に基づいて前記電動機に出力させるアシストトルクを決定し、前記アシスト判定部は、前記トルク変化推定部で推定される出力トルクの変化値が予め定められた閾値未満であるときにアシストトルク指令をゼロとし、前記出力トルクの変化値が予め定められた閾値以上であるときに前記アシストトルクに応じたトルクをアシストトルク指令とし、前記駆動制御部は、前記アシスト出力判定部で決定されたアシストトルク指令を前記電動機から出力させるものである。
【0008】
本発明に従えば、推定される出力トルクの変化値に基づいてアシストトルク指令をゼロとするかアシストトルクとするかを決定している。それ故、出力トルクの変化値に応じて電動機の動きを制御することができる。即ち、出力トルクの変化値が閾値未満である場合に電動機の動きを止め、また出力トルクの変化値が閾値以上である場合に電動機にエンジンをアシストさせることができる。出力トルクの変化値が小さい場合は、燃料噴射量の変化が小さく、エンジンの燃焼状態が比較的安定している。このような安定的な状態では、電動機による出力トルクの変化に対する抑制効果が小さいので、電動機を停止することによって蓄電器に蓄えられる電力を無駄に消費することを抑えることができる。即ち、電動機で消費される消費電力を低減することができる。他方、出力トルクの変化値が大きい場合には、燃料噴射量の変化が大きくなってエンジンの燃焼状態が不安定になっている。このような不安定な状態において電動機によってエンジンをアシストすることによって燃焼状態の安定化を図ることができ、燃費向上を図ることができる。
【0009】
上記発明において、前記アシストトルク決定部は、前記実回転数から前記目標回転数を減算した値である前記回転数偏差がゼロ以上の場合に前記アシストトルクをゼロとし、前記回転数偏差がゼロ未満の場合に前記アシストトルクを予め設定されたトルク値とするようになっていてもよい。
【0010】
上記構成に従えば、実回転数が目標回転数より大きくなった場合には、出力トルクの変化値が大きくなってもエンジンの実回転数を目標回転数まで低下させるために電動機に動作させないようになっている。即ち、低下させるべく電動機を回生動作させることがないので、エンジンで余分な燃料を消費しつつ電動機で回生動作を行うというエネルギー効率が低い状況を避けることができ、燃費向上を図ることができる。
【0011】
上記発明において、前記アシストトルク決定部において前記予め設定されたトルク値は、前記電動機が80%以上95%以下の効率で出力できるトルクであってもよい。
【0012】
上記構成に従えば、電動機を高効率で駆動させることができるので、蓄電器に蓄電されている電力の消費を抑えることができる。
【0013】
上記発明において、前記アシスト判定部は、補正係数演算部と、アシストトルク補正部と、を有し、前記補正係数演算部は、前記トルク変化推定部で推定される出力トルクの変化値が前記予め定められた閾値未満の場合に補正係数をゼロとし、前記出力トルクの変化値が前記閾値以上の場合に予め定められた正の値とし、前記アシストトルク補正部は、前記補正係数演算部で演算される補正係数によって前記アシストトルクを補正して前記アシストトルク指令を演算してもよい。
【0014】
上記構成に従えば、補正係数によってアシストトルクを補正してアシストトルク指令を演算することで、電動機を動かしたり止めたりすることができる。
【0015】
上記発明において、前記電動機に電力を供給する蓄電器の蓄電量を検出する蓄電量センサを備え、前記アシスト判定部は、前記蓄電量センサで検出される蓄電量の減少に伴って前記補正係数を小さくするようになっていてもよい。
【0016】
上記構成に従えば、蓄電器の蓄電量が減少して電動機の駆動系に大きな電流が流れることを防ぐことができる。
【0017】
上記発明において、前記トルク変化推定部は、時定数を変えられる一次遅れ要素を含む疑似微分演算部と、前記回転数センサによって検出される前記回転軸の回転数に応じて前記一次遅れ要素の時定数を変える時定数演算部とを有し、疑似微分を用いて前記エンジンの単位回転数当たりにおける前記実燃料噴射量の変化率を算出し、前記実燃料噴射量の変化率に基づいて前記エンジンの単位回転数当たりにおける前記出力トルクの変化値を推定してもよい。
【0018】
上記構成に従えば、一次遅れ要素を含む疑似微分を用い、且つその一次遅れ要素を実回転数に応じて変えることにより、単位回転数毎の出力トルクの変化値を実用的に演算することができる。
【0019】
上記発明において、前記燃料噴射量演算部は、目標燃料噴射量演算部分と、噴射量制限部分とを有し、前記目標燃料噴射量演算部分は、前記トルク指令演算部で演算されるエンジントルク指令と前記実回転数とに基づいて目標となる目標燃料噴射量を演算し、前記噴射量制限部分は、前記目標燃料噴射量演算部分で演算される目標燃料噴射量に基づいて前記実燃料噴射量を演算する際に前記目標燃料噴射量まで段階的に前記実燃料噴射量を増加させる機能を有し、増加させる際の前記実燃料噴射量の時間変化率が所定値以下となるように前記実燃料噴射量を決定し、前記制御装置は、実トルク演算部と、目標トルク演算部と、差分トルク演算部と、を有し、前記実トルク演算部は、前記回転数センサで検出される実回転数と前記噴射量制限部分で決定される実燃料噴射量とに基づいて前記エンジンで出力される実トルクを演算し、前記目標トルク演算部は、前記回転数センサで検出される実回転数と前記目標燃料噴射量演算部分で演算される前記目標燃料噴射量とに基づいて前記エンジンに出力させる目標のトルクである目標トルクを演算し、前記差分トルク演算部は、前記目標トルク演算部で演算される目標トルクに対して前記実トルク演算部で演算される前記実トルクで不足する差分トルクを演算し、前記駆動制御部は、前記差分トルク演算部で演算された差分トルクを前記アシストトルク指令に加えたトルクを前記電動機に出力させてもよい。
【0020】
上記構成に従えば、目標燃料噴射量が急激に増加したときに実燃料噴射量の増加率を制限するようになっている。このように増加率を制限することによって、目標燃料噴射量の急激な増加に起因するエンジンの燃焼状態の不安定化を防ぐことができ、燃費向上を図ることができる。他方、制限されることで実際に出力される実トルクが目標トルクより小さくなる、即ち不足するトルクが生じるので、不足分を電動機に出力させることができる。これにより、トルク不足に伴うエンジンEの回転数が過度に低下することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、消費電力を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態の油圧ポンプ駆動システム1について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等をその方向に限定するものではない。また、以下に説明する油圧ポンプ駆動システム1は、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0024】
建設機械は、バケット、ローダ、ブレード、巻上機等の種々のアタッチメントを備え、油圧シリンダや油圧モータ(電油モータ)等の油圧アクチュエータによって動かすようになっている。例えば、建設機械の1種である油圧ショベルは、バケット、アーム及びブームを備えており、これら3つの部材を動かしながら掘削等の作業を行うことができるようになっている。バケット、アーム、及びブームの各々には油圧シリンダ11〜13が設けられており、各シリンダ11〜13に圧油を供給することでバケット、アーム、及びブームが動くようになっている。
【0025】
また、油圧ショベルは、走行装置を有しており、更に走行装置の上には、旋回体が旋回可能に取り付けられている。旋回体には、ブームが上下方向に揺動可能に取り付けられている。旋回体には、油圧式の旋回用モータ14が取り付けられており、旋回用モータ14に圧油を供給することで旋回体が旋回するようになっている。また、走行装置には、油圧式の走行用モータ15が取り付けられており、走行用モータ15に圧油を供給することで前進又は後退するようになっている。油圧アクチュエータ11〜15(即ち、油圧シリンダ11〜13及び油圧モータ14,15)は、油圧供給装置16に接続されており、油圧供給装置16から圧油の供給を受けて作動するようになっている。
【0026】
油圧供給装置16は、油圧ポンプ17と、コントロールバルブ18とを有している。油圧ポンプ17は、例えば斜板ポンプであって回転軸17aを有しており、回転軸17aを回転させることで圧油を吐出するようになっている。吐出された圧油は、コントロールバルブ18に導かれるようになっており、コントロールバルブ18は、吐出された圧油の流れを制御するようになっている。
【0027】
また、油圧ショベルには、複数の操作具(例えば、操作レバーや操作ボタン等)が油圧アクチュエータ11〜15の各々に対応付けて設けられており、コントロールバルブ18は、操作具が操作されると操作具に対応する油圧アクチュエータ11〜15に圧油を流すようになっている。このようにして圧油を流すことで、操作具の操作に応じて油圧アクチュエータ11〜15が作動し、バケット、アーム、及びブーム等が動くようになっている。また、油圧ポンプ17の回転軸17aは、油圧ポンプ駆動システム1と連結されており、油圧ポンプ駆動システム1によって回転軸17aが回転駆動されるようになっている。
【0028】
油圧ポンプ駆動システム1は、エンジンE及び電動機20を備えるハイブリッド式の駆動システムであり、エンジンE及び電動機20が共に油圧ポンプ17の回転軸17aに連結されている。エンジンEは、例えば複数の気筒を有するディーゼルエンジンであり、気筒毎に燃料噴射装置21が対応付けて設けられている。燃料噴射装置21は、例えば燃料ポンプと電磁制御弁とによって構成されており、入力される噴射指令に応じた量の燃料を対応する気筒の燃焼室に噴射するようになっている。エンジンEは、燃料噴射装置21から噴射された燃料を燃焼させて図示しないピストンを往復運動させることで回転軸17aを回転させ、油圧ポンプ17から圧油を吐出させるようになっている。なお、本実施形態では、エンジンEがディーゼルエンジンであるが、ガソリンエンジンであってもよい。また、回転軸17aには、エンジンEの駆動をアシストするために電動機20が設けられている。
【0029】
電動機20は、例えばACモータであって、インバータ22に接続されている。インバータ22は、バッテリ24と繋がっており、バッテリ24から供給される直流電流を交流に変換して電動機20に供給するようになっている。バッテリ24(蓄電器)には、バッテリ24の蓄電量を検出するための電圧センサ25(蓄電量センサ)が接続されている。電圧センサ25は、後述する制御装置30に接続されており、バッテリ24の出力電圧に応じた信号を制御装置30に出力するようになっている。
【0030】
また、インバータ22は、入力されるアシストトルク指令に応じた周波数及び電圧の交流電流を電動機20に供給し、アシストトルク指令に応じたトルクを電動機20から回転軸17aに出力させるようになっている。回転軸17aには、回転数センサ23が取り付けられており、回転数センサ23は、回転軸17aの回転数に応じた信号を出力するようになっている。回転数センサ23は、電圧センサ25、インバータ22、及び燃料噴射装置21の電磁制御弁と共に制御装置30に電気的に接続されている。
【0031】
制御装置30は、
図2に示すような各種値を演算する機能部分を有しており、以下では、各種値を演算したり、前述する構成の動きを制御したりする機能部分毎にブロックに分けて説明する。制御装置30は、目標回転数決定部31と、回転数差演算部32と、トルク指令演算部33、燃料噴射量演算部34と、燃料噴射駆動部35とを有している。なお、各機能部は、各種値を所定の間隔で演算し、又は構成の動きを所定の間隔で制御するようになっている。
【0032】
目標回転数決定部31は、入力手段(ダイヤル、ボタン、及びタッチパネル等)から入力された又は予め設定された回転数に基づいてエンジンの目標回転数を決定する。回転数差演算部32は、回転数センサ23から入力される信号に基づいて回転軸17aの実回転数を算出し、算出された実回転数と目標回転数決定部31で決定された目標回転数との差である回転数偏差を演算する。本実施形態において、回転数偏差は、実回転数から目標回転数を減算した値である。トルク指令演算部33は、回転数差演算部32で演算された回転数偏差に基づいてエンジントルク指令を演算する。エンジントルク指令は、エンジンEの実回転数を目標回転数に戻すために出力すべきエンジンEのトルクを示す指令である。燃料噴射量演算部34は、トルク指令演算部33で演算されたエンジントルク指令と実回転数とに基づいて燃料噴射装置21から噴射すべき実燃料噴射量を演算する。燃料噴射駆動部35は、燃料噴射量演算部34で演算された実燃料噴射量に基づいて燃料噴射装置21の動きを制御し、燃料噴射装置21から実燃料噴射量の燃料を噴射させるようになっている。
【0033】
また、制御装置30は、電動機20を駆動するために、アシストトルク決定部36、トルク変化推定部37、補正係数演算部38、アシストトルク補正部39、及び駆動制御部40を有している。なお、前述する各機能部もまた、各種値を所定の間隔で演算し、又は構成の動きを所定の間隔で制御するようになっている。
【0034】
アシストトルク決定部36は、回転数差演算部32で演算された回転数偏差に基づいて電動機20からアシストトルクの値を決定する。具体的に説明すると、アシストトルク決定部36は、回転数偏差(実回転数から目標回転数を減算した値)がゼロ以上である場合、アシストトルクをゼロとする。他方、回転数偏差がゼロ未満の場合、アシストトルク決定部36は、アシストトルクを予め設定された正のトルク値とする。本実施形態において、前記設定される正のトルク値は、使用される電動機20で出力可能な最大トルクであって、最も高い効率で出力可能なトルクである。なお、前記設定されるトルク値は、必ずしも最大トルクである必要はなく、80%以上95%以下の高い効率で電動機20が出力可能なトルクに設定される。このようにして決定されるアシストトルクは、エンジンEの出力トルクの変化値に応じて補正されるようになっており、トルク変化推定部37でエンジンEの出力トルクの変化値が推定される。
【0035】
トルク変化推定部37は、燃料噴射量演算部34で演算された実燃料噴射量と実回転数とに基づいてエンジンEの出力トルクの変化値、即ち低下係数を推定するようになっている。エンジンEは、実燃料噴射量の変化により燃焼状態が不安定となり、出力トルクに応答遅れが生じる。また、エンジンEの燃焼状態は、一回転数毎(4ストロークエンジンの場合、吸気−圧縮−膨張−排気の一サイクル毎)に変化し、燃焼の不安定状態は、燃焼回数を経るにつれて改善される。従って、実回転数が大きければ大きい程、単位時間当たりの燃焼回数が多くなるので、エンジンEの燃焼状態の不安定化がより早く改善し、エンジンEのトルクの低下が小さくなる。
【0036】
燃焼状態が一回転毎に変化するというエンジンEの出力トルクの特性を鑑みて、トルク変化推定部37は、エンジンEの単位回転数毎(好ましくは、一回転毎)に出力トルクの低下を演算するようになっている。本実施形態において、トルク変化推定部37では、後述する疑似微分を含む伝達関数によってエンジンEを数値モデル化してエンジンEの出力トルクの変化を推定し、更に疑似微分に含まれる一次遅れ要素の時定数を実回転数に応じて変化させる。これにより、単位回転数毎の出力トルク低下を疑似的に演算することができる。そうすると、実回転数が大きい程エンジンEの燃焼状態がより早く改善してトルク低下が抑えられ、且つ実回転数が小さい程エンジンEの燃焼状態の改善が遅くなってトルク低下が大きくなることが考慮される。即ち、実回転数に応じてトルクの応答遅れが変化するエンジンEの出力トルク特性が前述する伝達関数によって推定できる。なお、トルク変化推定部37の演算は、予め定められた間隔で行われる。このように出力トルクの変化を推定するトルク変化推定部37について、
図3を参照しながら更に詳細に説明する。
【0037】
トルク変化推定部37は、出力トルクの変化を推定する機能部分として、時定数演算部41と、疑似微分演算部42と、トルク低下係数演算部43とを有している。時定数演算部41は、時定数マップを用いて実回転数から時定数を演算する。本実施形態において、時定数マップは、時定数と実回転とが対応付けられているマップである。時定数マップの時定数と実回転との対応関係は、実験等から得られたデータに基づいて設定されており、エンジンEの排気量、付属品(過給機やEGR等)、及び構造(配管の径や長さ等)等によって異なる。即ち、前記対応関係は、エンジンEの機種毎に異なっており、エンジンEの機種毎に実験結果を参考にして設定される。なお、前記対応関係は、機種毎だけでなく個体毎に設定されてもよい。時定数演算部41で演算される時定数は、実燃料噴射量の微分値を演算するために疑似微分演算部42で実燃料噴射量と共に用いられる。
【0038】
疑似微分演算部42は、エンジンEを数値モデル化した伝達関数によって実燃料噴射量の微分値を演算する。なお、エンジンEでは、燃料噴射量とトルクとが対応しており、実燃料噴射量の微分値(実燃料噴射量の単位回転数当たりの変化率に相当)は、トルクの変化率に対応している。疑似微分演算部42について更に詳細に説明すると、疑似微分演算部42の伝達関数には、一次遅れ要素を含む疑似微分(不完全微分ともいう)が含まれており、疑似微分演算部42は、この伝達関数を用いて実燃料噴射量の微分値を演算するようになっている。本実施形態において、疑似微分は、ラプラス変数をsとし、微分ゲインをT
Dとし、時定数をTとすると、下記の式(1)で表される。
【0040】
このように一次遅れ要素を含む疑似微分によって実燃料噴射量の微分値を演算することで、燃焼状態の悪化による応答遅れが考慮された出力トルクの変化率に対応する値(即ち、実燃料噴射量の微分値)が演算される。また、疑似微分に含まれる一次遅れ要素の時定数Tは、時定数演算部41で演算された時定数を用いる。即ち、疑似微分演算部42は、演算する度に時定数を変化させて実燃料噴射量の微分値を演算する。このように時定数を実回転数に基づいて演算して、それを演算する度に変更することで、単位回転数毎(好ましくは、一回転数毎)の出力トルクの変化率を疑似的に演算することができる。このようにして演算される実燃料噴射量の微分値は、エンジンEの出力トルクの単位回転数当たりの変化率に対応しており、後述するトルク低下係数をトルク低下係数演算部43で演算するために用いられる。
【0041】
トルク低下係数演算部43は、疑似微分演算部42で演算された実燃料噴射量の微分値に基づいてトルク低下係数を演算するようになっている。出力トルクの変化値であるトルク低下係数は、エンジントルク指令(実トルク)に対してどの程度トルクが変化するかを示す係数である。トルク低下係数演算部43は、まず実燃料噴射量の微分値の絶対値を演算し、次にトルク低下係数マップ43aを用いて実燃料噴射量の微分値の絶対値からトルク低下係数を演算する。トルク低下係数マップ43aは、実燃料噴射量の微分値の絶対値とトルク低下係数とが対応付けられているマップであり、例えば微分値の絶対値が大きくなるとトルク低下係数が大きくなるように設定されている。本実施形態において、トルク低下係数マップ43aの実燃料噴射量の微分値の絶対値とトルク低下係数との対応関係は、実験等から得られたデータに基づいて設定されており、時定数マップと同様にエンジンEの機種毎に設定されている。なお、実燃料噴射量の微分値の絶対値とトルク低下係数との対応関係は、必ずしも
図3に示されるような対応関係である必要はない。なお、エンジンEの出力トルクの変化値として演算される値は、必ずしもトルク低下係数でなくてもよく、トルクの変化量を直接演算してもよい。演算されたトルク低下係数は、補正係数演算部38で用いられる。
【0042】
アシスト判定部44では、補正係数演算部38が、トルク低下係数演算部43で演算されたトルク低下係数に基づいて補正係数を演算するようになっている。補正係数は、アシストトルク決定部36で決定されたアシストトルクをエンジンEの出力トルクの変化値に応じて補正するための係数であり、アシスト判定部44はトルク低下係数が小さい場合にアシストトルクを出力させないように設定されている。
【0043】
補正係数演算部38は、補正係数マップ38aを用いてトルク低下係数から補正係数を算出する。補正係数マップ38aは、トルク低下係数と補正係数とが対応付けられているマップである。本実施形態において、補正係数マップ38aは、トルク低下係数が予め定められた閾値未満において補正係数がゼロとなり、トルク低下係数が前記閾値以上において補正係数が予め定められた値(=1)となるように設定されている。このようにして演算される補正係数は、
図2に示すアシストトルク補正部39で用いられる。
【0044】
アシストトルク補正部39は、アシストトルク決定部36で決定されたアシストトルクを補正係数演算部38で演算された補正係数によって補正するようになっている。具体的に説明すると、アシストトルク補正部39は、決定されたアシストトルクに補正係数を乗算することでアシストトルクを補正し、補正されたアシストトルクであるアシストトルク指令を演算する。演算されたアシストトルク指令は、駆動制御部40で用いられ、駆動制御部40は、アシストトルク指令を電動機20から出力させるべくインバータ22の動きを制御して電動機20を駆動するようになっている。なお、本実施形態では、補正係数演算部38とアシストトルク補正部39とによってアシスト判定部44が構成されている。
【0045】
このように構成されている制御装置30は、油圧ポンプ17の負荷が大きくなってエンジンEの回転数が低下した際に、低下した回転数を補うべくエンジンEの実燃料噴射量を増加させると共に、必要に応じて電動機20を駆動してエンジンEをアシストするようになっている。以下では、まず、油圧アクチュエータ11〜15の何れかを作動させて油圧ポンプ17の負荷が増大した場合(即ち、負荷入り時)の油圧ポンプ駆動システム1の動きを
図4のグラフを参照しながら説明する。なお、
図4には、紙面の上から順にポンプ負荷(油圧ポンプ17の負荷)、エンジン回転数(実回転数)エンジントルク指令、アシストトルク、トルク低下係数、及びアシストトルク指令の経時変化を示している。
図4では、横軸が時間であり、縦軸が各種値を示している。なお、後述する
図5においても同様である。
【0046】
操作具が操作されてコントロールバルブ18が作動すると、油圧ポンプ17は、アンロード状態からオンロード状態に切替り、油圧ポンプ17に大きな負荷が作用する(
図4のポンプ負荷のグラフの時刻t1〜t4参照)。油圧ポンプ17の負荷が大きくなるとエンジンEの実回転数が低下し(
図4のエンジン回転数のグラフの時刻t1〜t2参照)、実回転数が目標回転数より小さくなる。これにより、エンジンEの実回転数と目標回転数とに差が生じ、回転数差演算部32で演算される回転数偏差が負の値となる。トルク指令演算部33は、この回転数偏差に基づいてエンジントルク指令を演算し、ポンプ負荷の増加に対応させて増加するようなエンジントルク指令がトルク指令演算部33で演算される(
図4のエンジントルク指令のグラフの時刻t1〜t4参照)。燃料噴射量演算部34は、演算されたエンジントルク指令と実回転数とに基づいて実燃料噴射量を演算し、燃料噴射駆動部35は、更に演算された実燃料噴射量に基づいて燃料噴射装置21の動きを制御する。これより、演算された実燃料噴射量の燃料が燃料噴射装置21から噴射される。
【0047】
また、制御装置30では、アシストトルク決定部36が電動機20から出力すべきアシストトルクを決定すると共に、出力トルクの変化値を推定すべくトルク変化推定部37がトルク低下係数を演算する。即ち、アシストトルク決定部36は、回転数差演算部32で演算された回転数偏差に基づいてアシストトルクを決定する。本実施形態では、時刻t1〜t2において実回転数が目標回転数より小さく回転数偏差がゼロ未満であるので、アシストトルク決定部36がアシストトルクを予め設定されたトルク値とする(
図4のアシストトルクのグラフの時刻t1〜t2参照)。
【0048】
他方、
図3に示すように、トルク変化推定部37では、時定数演算部41が時定数マップを用いて実回転数から時定数を演算する。次に、疑似微分演算部42は、算出された時定数を用いて、燃料噴射量演算部34で演算される実燃料噴射量から実燃料噴射量の微分値を演算する。トルク低下係数演算部43は、実燃料噴射量の微分値の絶対値を演算し、更にトルク低下係数演算部43がトルク低下係数マップ43aを用いて実燃料噴射量の微分値の絶対値からトルク低下係数を演算する。演算されたトルク低下係数は、疑似微分演算部42によって演算された一次遅れの要素を含む値に基づいて演算されているため、
図4のトルク低下係数のグラフに示されているように一次遅れの応答性をもって増減する(
図4のトルク低下係数のグラフの時刻t1〜t3参照)。なお、演算されたトルク低下係数は、正の値として表される。
【0049】
このように疑似微分演算部42は、演算の度に時定数を変更することによって、単位回転数毎の実燃料噴射量の変化率を演算し、トルク低下係数演算部43は、この変化率に基づいて単位回転数毎の出力トルクの低下係数(即ち、低下率)を演算している。というのも、実燃料噴射量の変化は、供給直後の燃焼時だけでなくその後の数回の燃焼にわたってエンジンEの燃焼状態に影響を与える。即ち、時間ではなく燃焼回数を経ることによって、実燃料噴射量の変化による燃焼状態への影響が小さくなる。従って、実回転数が目標回転数に達して実燃料噴射量が一定になった後も燃焼状態の悪化が止まらずにトルクが低下し、エンジンEにて所定回数の燃焼(即ち、所定回数の回転)が行われた後、燃焼状態が改善される。このように、エンジンEの燃焼状態は、時間よりも燃焼回数(即ち、回転数)に応じて変化している。これを鑑みて、疑似微分演算部42は、単位回転数毎の実燃料噴射量の変化率を演算している。また、実燃料噴射量の変化率を演算する際に疑似微分が用いられることによって、エンジン回転数が目標回転数に到達した後も、トルク低下係数もゼロより大きい値となる。その後トルク低下係数がゼロに向かって減少している(
図4のトルク低下係数のグラフの時刻t2〜t3参照)。つまり、トルク変化推定部37は、エンジン回転数が目標回転数に到達した後のトルク低下係数まで考慮している。このように時間単位ではなく回転数単位で出力トルクの変化率を演算するので、時間単位で演算する場合に比べてトルク低下係数をより正確に推定することができる。
【0050】
補正係数演算部38は、補正係数マップ38aを用いてトルク変化推定部37で推定されたトルク低下係数から補正係数を演算する。本実施形態では、トルク低下係数が予め定められる閾値未満となっている時刻t1〜t11及び時刻t2〜t3において、補正係数演算部38は、補正係数をゼロとする。他方、トルク低下係数が前記閾値以上になっている時刻t11〜t2において、補正係数演算部38は、補正係数を予め定められた値(=1)とする。アシストトルク補正部39は、このようにして演算された補正係数に基づいてアシストトルクを補正し、アシストトルク指令を演算する。即ち、アシストトルク補正部39は、アシストトルクに補正係数を乗算してアシストトルク指令値を演算する。その結果、
図4のアシストトルク指令のグラフに示すように、時刻t11〜時刻t2においてアシストトルク指令がゼロ以上の値として演算され、演算されたアシストトルク指令に基づいて駆動制御部40がインバータ22の動きを制御する。これにより、時刻t11〜時刻t2において、アシストトルク指令に相当するトルクが電動機20から出力され、エンジンEがアシストされる。
【0051】
このように、油圧ポンプ駆動システム1は、推定されるトルク低下係数に基づいて補正係数を演算し、この補正係数によってアシストトルクを補正してアシストトルク指令を演算している。それ故、トルク低下係数に応じたアシストトルク指令が演算され、エンジンEのトルクの低下に応じて電動機20の動きを制御することができる。即ち、本実施形態のようにトルク低下係数が小さい場合に電動機20の動きを止め(時刻t1〜t11参照)、またトルク低下係数が大きい場合に電動機20によってエンジンEをアシストさせることができる(時刻t11〜t2参照)。トルク低下係数が小さい場合は、燃料噴射量の変化が小さく、エンジンEの燃焼状態が比較的安定している。このような安定的な状態では、電動機20によるエンジンEのトルク変化抑制効果が小さいので、電動機20を停止することによってバッテリ24に蓄えられる電力が無駄に消費されることを抑えることができる。即ち、電動機20で消費される消費電力を低減することができる。他方、トルク低下係数が大きい場合は、燃料噴射量の変化が大きくなってエンジンEの燃焼状態が不安定になっている。このような不安定な状態において、電動機20によってエンジンEをアシストすることで燃焼状態の安定化を図ることができ、燃費向上を改善することができる。
【0052】
次に、操作具の操作が止まって(即ち、操作具が中立位置まで戻されて)油圧ポンプ17がオンロード状態からアンロード状態に切替わり、油圧ポンプ17の負荷が小さくなる場合(即ち、負荷抜け時)について説明する。油圧ポンプ17では、いわゆる負荷抜けが生じる(
図4のポンプ負荷のグラフの時刻t4参照)。負荷抜けが生じた際、エンジンEの実回転数が増加し(
図4のエンジン回転数のグラフの時刻t4〜t5参照)、実回転数が目標回転数より大きくなる。これにより、エンジンEの実回転数と目標回転数とに差が生じ、回転数差演算部32で演算される回転数偏差が正の値となる。トルク指令演算部33は、演算される回転数偏差に基づいてエンジントルク指令を演算する。そうすると、ポンプ負荷の減少に対応させて減少させるようなエンジントルク指令がトルク指令演算部33で演算される(
図4のエンジントルク指令のグラフの時刻t4〜t5参照)。燃料噴射量演算部34は、演算されたエンジントルク指令と実回転数とに基づいて実燃料噴射量を演算する。燃料噴射駆動部35は、燃料噴射量演算部34で演算された実燃料噴射量に基づいて燃料噴射装置21の動きを制御する。これにより、演算された実燃料噴射量の燃料が燃料噴射装置21から噴射される。
【0053】
また、制御装置30では、アシストトルク決定部36が回転数差演算部32で演算された回転数偏差に基づいてアシストトルクを決定する。本実施形態では、時刻t4〜t5において実回転数が目標回転数より大きく回転数偏差がゼロ以上であるので、アシストトルク決定部36がアシストトルクをゼロとする(
図4のアシストトルクのグラフの時刻t4〜t5参照)。そのため、トルク変化推定部37で推定されるトルク低下係数に関わらずアシストトルク補正部39で演算されるアシストトルク指令がゼロとなる。即ち、油圧ポンプ駆動システム1では、負荷抜け時にエンジンEの実回転数を目標回転数まで低下させるために電動機20に動作させる、具体的には回生動作させることがない。負荷抜け時に電動機20を回生動作させることがないので、エンジンEで余分な燃料を消費しつつ電動機20で回生動作を行うというエネルギー効率が低い状況を避けることができ、燃費向上を図ることができる。
【0054】
なお、制御装置30のアシストトルク決定部36では、必ずしも回転数偏差がゼロ以上である場合にアシストトルクをゼロとする必要はない。例えば、アシストトルク決定部36は、回転数偏差がゼロ以上になると、アシストトルクとして予め定められた回生制動トルク、即ち予め定められた負のトルク値を設定する。そうすると、
図5のアシストトルクのグラフの時刻t6〜t7に示すように負荷抜け時において、アシストトルク決定部36がアシストトルクを負のトルク値とする。このアシストトルクは、アシストトルク補正部39で補正係数によって補正される。補正係数は、トルク低下係数が閾値未満となる時刻t6〜t61においてゼロとなり、トルク低下係数が閾値以上となる時刻t61〜t7において予め定められた値(=1)となる(
図5のトルク低下係数のグラフ参照)。それ故、アシストトルク補正部39で演算されるアシストトルク指令は、時刻t6〜t61においてゼロとなり、時刻t61〜t7において負の値(即ち、回生制動トルク指令)となる。これによって、電動機20が回生動作をするようになり、負荷抜け時に大きくなった実回転数を目標回転数へと素早く低下させることができる。
【0055】
<第2実施形態>
第2実施形態の油圧ポンプ駆動システム1Aは、第1実施形態の油圧ポンプ駆動システム1と構成が類似している。以下では、油圧ポンプ駆動システム1Aについて、第1実施形態の油圧ポンプ駆動システム1の構成と異なる構成についてだけ説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0056】
油圧ポンプ駆動システム1Aでは、
図6に示す制御装置30Aの燃料噴射量演算部34Aが実燃料噴射量の変化率を制限しながら増減するようになっている。更に詳細に説明すると、
図7に示すように、燃料噴射量演算部34Aは、目標燃料噴射量演算部分51と、噴射量制限部分52とを有している。目標燃料噴射量演算部分51は、トルク指令演算部33で演算されたエンジントルク指令と実回転数とに基づいて燃料噴射装置21から噴射すべき目標の燃料噴射量である目標燃料噴射量を演算する。この目標燃料噴射量は噴射量制限部分52で用いられる。
【0057】
噴射量制限部分52は、増加率制限あり且つ減少率制限なしのレートリミット機能を有しており、このレートリミット機能により目標燃料噴射量に基づいて実燃料噴射量を演算するようになっている。即ち、噴射量制限部分52は、目標燃料噴射量を増加させる際に目標燃料噴射量の増加率が所定値を超えると、予め定められる変化規則に基づいて変化率又は変化量を制限しながら実燃料噴射量を前記目標燃料噴射量まで段階的に変化させるようになっている。他方、目標燃料噴射量が減少する場合、噴射量制限部分52は、減少率を制限せずに目標燃料噴射量を実燃料噴射量とするようになっている。
【0058】
更に具体的に説明すると、噴射量制限部分52は、目標燃料噴射量演算部分51で演算された目標燃料噴射量を内部に保持(即ち、記憶)し、保持している目標燃料噴射量と直後に演算された目標燃料噴射量とを比較するようになっている。保持している目標燃料噴射量より直後の目標燃料噴射量が小さい、即ち目標燃料噴射量が減少している場合、目標燃料噴射量を実燃料噴射量として算出する。他方、保持している目標燃料噴射量より直後の目標燃料噴射量が大きい、即ち目標燃料噴射量が増加している場合、増加率(本実施形態では、2つの目標燃料噴射量の差)が所定値を超えているか否かを判定する。所定値以下の場合は、標燃料噴射量を実燃料噴射量として算出する。他方、所定値を超えている場合、増加率を所定値又はそれ以下とする変化規則に基づいて増加率を制限しながら実燃料噴射量を目標燃料噴射量まで段階的に増加させる。即ち、所定値を超えている場合、所定値又はそれ以下の比例定数に基づいて時間に比例させて実燃料噴射量を目標燃料噴射量まで段階的に増加させる。なお、噴射量制限部分52は、フィルターであってもよく、例えば一次遅れ要素(即ち、遅れ要素)を有する伝達関数に基づいて目標燃料噴射量を増加させるようにしてもよい。燃料噴射駆動部35及びトルク変化推定部37では、このようにして演算された実燃料噴射量が用いられる。
【0059】
また、制御装置30Aは、目標トルク演算部53と、実トルク演算部54と、差分トルク演算部55を更に有している。目標トルク演算部53は、燃料噴射量演算部34Aの目標燃料噴射量演算部分51で演算される目標燃料噴射量と実回転数とに基づいて目標トルクを演算するようになっている。目標トルクとは、目標燃料噴射量を噴射した際にエンジンEから出力されるトルクである。目標トルク演算部53について更に詳細に説明すると、目標トルク演算部53は、目標トルクマップを有しており、目標トルクマップは、目標トルクが目標燃料噴射量及び実回転数に対応付けられているマップである。目標トルク演算部53は、演算された目標燃料噴射量及び実回転数に基づいて目標トルクマップから目標トルクを算出するようになっている。
【0060】
また、実トルク演算部54は、燃料噴射量演算部34Aの噴射量制限部分52で演算される実燃料噴射量と実回転数とに基づいて実トルクを演算するようになっている。実トルクとは、実燃料噴射量を噴射した際にエンジンEから出力されるトルクである。具体的に説明すると実トルク演算部54は、実トルクマップを有しており、実トルクマップは、実トルクが実燃料噴射量及び実回転数に対応付けられているマップである。実トルク演算部54は、演算された実燃料噴射量及び実回転数に基づいて実トルクマップから実トルクを算出するようになっている。このようにして演算された実トルクは、目標トルクと共に差分トルク演算部55で用いられる。
【0061】
差分トルク演算部55は、目標トルクから実トルクを差し引いた不足分のトルクである差分トルクを演算するようになっている。演算された差分トルクは、駆動制御部40Aでアシストトルク指令に加算される。駆動制御部40Aは、アシストトルク指令に差分トルクを加算したトルクを電動機20から出力させるようにインバータ22の動きを制御するようになっている。
【0062】
このように、油圧ポンプ駆動システム1Aでは、目標燃料噴射量が急激に増加したときに実燃料噴射量の増加率を制限するようになっている。このように増加率を制限することによって、目標燃料噴射量の急激な増加に起因するエンジンEの燃焼状態の不安定化を防ぐことができ、燃費向上を図ることができる。他方、制限されることで実際に出力される実トルクが目標トルクより小さくなる、即ち不足する差分トルクが生じるので、不足分を電動機20に出力させることができる。これにより、トルク不足に伴うエンジンEの回転数が過度に低下することを防ぐことができる。
【0063】
その他、油圧ポンプ駆動システム1Aは、第1実施形態の油圧ポンプ駆動システム1と同様の作用効果を奏する。
【0064】
<その他の実施形態>
本実施形態の油圧ポンプ駆動システム1,1Aでは、補正係数演算部38で演算される補正係数がゼロか予め定められた値(=1)の2つの値から選択されるようになっているが、必ずしもこのような構成である必要はない。例えば、アシスト判定部44では、トルク変化推定部37で推定されるトルク低下係数が閾値以上である場合に、補正係数をトルク低下係数に応じて変化させるようにしてもよい。また、補正係数演算部38が補正係数を演算する際、電圧センサ25からの出力される信号に基づいて検出されるバッテリ24の充電量に応じて予め定められた値を変更するようにしてもよい。例えば、バッテリ24の充電量が減少すると、予め定められた値を1より小さくする。これにより、インバータ22内で大きな電流が流れることを防ぐことができる。
【0065】
本実施形態の油圧ポンプ駆動システム1,1Aでは、実回転数に基づいて疑似微分の時定数を変化させることで単位回転数当たりのエンジンEのトルク(例えば、1回転数当たりのトルク)の変化率を疑似的に演算している。この方法以外に、実際に単位回転数毎に疑似微分の演算を行って、実際に単位回転毎のトルクの変化率を求めるようにしてもよい。即ち、実回転数が大きくなればなるほどトルクの変化率を演算する間隔が短くなり、実回転数が小さくなればなるほどトルクの変化率を演算する間隔が長くなる。これにより、単位回転数当たりのトルクの変化率を推定することができる。また、トルク変化推定部37は、前述のような推定方法に限らず、実燃料噴射量の変化によるエンジンEの出力トルクの低下係数を推定できる方法であればよい。
【0066】
また、油圧ポンプ駆動システム1,1Aが実装される建設機械は、油圧ショベルに限定されず、クレーンやドーザ等の他の建設機械であってもよく、油圧アクチュエータを備えている建設機械であればよい。また、油圧ポンプ駆動システム1,1Aでは、液圧ポンプの例として油圧ポンプを挙げたが、液圧ポンプは、油圧ポンプに限定されず水等の液体を吐出するポンプであればよい。