(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態にかかるインクジェット記録装置1について
図1乃至
図11を参照して説明する。各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、同じ構造または類似する構造には同じ番号を付している。
【0008】
図1はインクジェット記録装置1の側面図であり、
図2はインクジェット記録装置1の平面図である。
図1および
図2に示すように、液体吐出装置であるインクジェット記録装置1は、画像形成部6、搬送部である記録媒体移動部7、およびメンテナンスユニット310を備える。
【0009】
画像形成部6は、インクジェット記録部4、インクジェット記録部4を支持するキャリッジ100、キャリッジ100を矢印A方向に往復移動させる搬送ベルト101、搬送ベルト101を駆動するキャリッジモータ102を備える。
【0010】
インクジェット記録部4は、液体吐出部であるインクジェットヘッド2と、循環部であるインク循環装置3と、圧力調整部5と、を備える。
【0011】
インク循環装置3は、インクジェットヘッド2の上方にあって、インクジェットヘッド2と一体に形成される。インクジェット記録部4は、記録媒体Sにインクを吐出して、所望の画像を形成する。
【0012】
インクジェット記録部4は、例えばシアンインク、マゼンダインク、イエロインク、ブラックインク、ホワイトインクをそれぞれ吐出するインクジェット記録部4a、4b、4c、4d、4eを備える。インクジェット記録部4a、4b、4c、4d、4eがそれぞれ使用するインクの色あるいは特性は限定されない。たとえばインクジェット記録部4eは、ホワイトインクに換えて、透明光沢インク、赤外線または紫外線を照射したときに発色する特殊インク等を吐出可能である。インクジェット記録部4a、4b、4c、4d、4eは、それぞれ使用するインクが異なるものの同じ構成である。したがって共通の符号を用いて説明する。
【0013】
インクジェット記録部4は、インク循環部3をインクジェットヘッド2の上方に積載することにより幅を狭められる。従って複数のインクジェット記録部4a〜4eを並列に支持するキャリッジ100の幅を狭めることができる。画像形成部6は、キャリッジ100の幅を狭めることにより、キャリッジ100の搬送距離を減少でき、インクジェット記録装置1の小型化を得られ且つ印字速度を高めることができる。
【0014】
画像形成部6は、インク循環装置3に新しいインクを補充するためのインクカートリッジ81を備える。インクカートリッジ81の81a、81b、81c、81d、81eは、それぞれシアンインク、マゼンダインク、イエロインク、ブラックインクインク、ホワイトインクを保有する。インクカートリッジ81a、81b、81c、81d、81eは、それぞれ保有するインクが異なるものの同じ構成である。したがって共通の符号を用いて説明する。インクカートリッジ81は、チューブ82を介してインクジェット記録部4のインク循環装置3に連通する。インクカートリッジ81は、重力方向においてインク循環装置3より相対的に下方に配置されている。
【0015】
記録媒体移動部7は、記録媒体Sを吸着固定するテーブル103を備える。テーブル103は、スライドレール装置105上に取り付けられて矢印B方向に往復移動する。テーブル103は、ポンプ104で内部を負圧にして上面の小径の穴から記録媒体Sを吸着して固定する。インクジェット記録部4が搬送ベルト101に沿って矢印A方向に往復移動する間、インクジェットヘッド2のノズルプレート52と記録媒体Sとの距離hは一定に維持される。インクジェットヘッド2は、ノズルプレート52の長手方向に300個の液体吐出部であるノズル51を備える。ノズルプレート52の長手方向は、記録媒体Sの搬送方向と同じとなる。
【0016】
画像形成部6は、記録媒体Sの搬送方向に対してインクジェットヘッド2を直交する方向に往復移動しながら、記録媒体Sに画像を形成する。インクジェットヘッド2は、画像形成信号に合わせてノズルプレート52に設けたノズル51からインクIを吐出して、記録媒体Sに画像を形成する。インクジェット記録部4は、記録媒体S上に例えば300のノズル51の幅で画像を形成する。
【0017】
メンテナンスユニット310は、インクジェット記録部4の矢印A方向の走査範囲であって、テーブル103の移動範囲より外側の位置に配置される。インクジェットヘッド2は、待機位置Qでメンテナンスユニット310に対峙する。メンテナンスユニット310は上方が開放したケースであって、上下(
図1矢印C、D方向)に移動可能に設けられる。
【0018】
画像をプリントするためにキャリッジ100が矢印A方向に移動している場合、メンテナンスユニット310は下方(矢印C方向)に移動してノズルプレート52から離間する。プリント動作が終了した場合にメンテナンスユニット310は上方(矢印D方向)に移動する。プリント動作が終了してインクジェットヘッド2が待機位置Qに戻ると、メンテナンスユニット310は上方に移動して、インクジェットヘッド2のノズルプレート52を覆う。メンテナンスユニット310は、ノズルプレート52からのインクの蒸発を防止し、ノズルプレート52にほこりや紙粉が付着するのを防止する。メンテナンスユニット310は、ノズルプレート52のキャップ機能を備える。
【0019】
メンテナンスユニット310は、ゴム製のブレード120及び廃インク受け部130を備える。ゴム製のブレード120は、インクジェットヘッド2のノズルプレート52に付着したインク、ほこり、紙粉などを除去する。廃インク受け部130は、メンテナンス動作を行う間に発生する廃インク、ほこり、紙粉などを受ける。メンテナンスユニット310は、ブレード120を矢印B方向へ移動させる機構を備え、ブレード120でノズルプレート52表面を払拭する。
【0020】
インクジェットヘッド2は、ノズル近傍で劣化したインクを除去するため、ノズル51からインクを強制的に吐出させるメンテナンス(スピット機能)を行う。インクジェットヘッド2は、インクをノズル51から少し流出させてインクジェットヘッド2の表面に付着した紙粉やほこりを流出したインク膜内に取り込み、ブレード120で拭取るメンテナンス(パージ機能)を行う。廃インク受け部130はスピット機能あるいはパージ機能により発生した廃インクを回収する。
【0021】
インクジェット記録装置1は、記録媒体移動部7による記録媒体Sの搬送方向に対して、インクジェットヘッド2を直交する方向に往復移動しながら、ノズル51からインクを吐出して、記録媒体Sに画像を形成する、いわゆるシリアル型のインクジェット記録装置である。
【0022】
インクジェットヘッド2は、例えば
図6および
図7に示すように、ノズル51を備えるノズルプレート52と、アクチュエータ54を備える基板60と、基板60に接続されるマニフォルド61と、を備える。基板60は、ノズル51とアクチュエータ54の間に、インクを流すインク流路180を備える。アクチュエータ54はインク流路180に面し、かつ各ノズル51に対応してそれぞれ備えられる。
【0023】
基板60は、アクチュエータ54によってインク流路180内のインクに発生した圧力がノズル51に集中するように、隣接するノズル51間に境界壁190を備える。インク流路180の、ノズルプレート52、アクチュエータ54、および境界壁190で囲まれた部分がインク圧力室150となる。インク圧力室150は、第1ノズル列57aの各ノズル51a、及び第2ノズル列57bの各ノズル51bに対応して複数設けられる。第1ノズル列57a及び第2ノズル列57bはそれぞれノズル51a、51bを300個ずつ備える。
【0024】
基板60は複数の圧力室150にインクを供給する共通インク供給室58、複数のインク圧力室150からのインクを回収する共通インク室59を第1ノズル列57a側と第2ノズル列57b側にそれぞれ備える。
【0025】
マニフォルド61は、矢印F方向へインクを流入させる液体供給口であるインク供給口160と、インクを矢印G方向へ排出する液体排出口であるインク排出口170と、を備える。インク循環装置3からインク供給口160にインクIが供給され、インク排出口170からインク循環装置3にインクが還流する。マニフォルド61は、インク供給口160から共通インク供給室58に連通するインク分配通路62を有している。マニフォルド61は、共通インク室59からインク排出口170に連通するインク環流通路63を有している。
【0026】
すなわち、基板60、マニフォルド61、およびノズルプレート52によって、インクジェットヘッド2の内部に、インク流路180が形成される。インク流路180は、ノズル51a、51bに連通する複数のインク圧力室150と、マニフォルド61に形成されたインク供給口160aおよびインク排出口170と、複数のインク圧力室150に連通される共通インク供給室58と、複数のインク圧力室150からのインクを回収する共通インク室59と、インク供給口160から共通インク供給室58に連通するインク分配通路62と、共通インク室59からインク排出口170に連通するインク環流通路63と、を有する。
【0027】
インク分配通路62を矢印F方向に流れるインクIは、共通インク供給室58から複数のインク圧力室150に流入する。ノズル分岐部53は、矢印E方向に流れているインクが、ノズル51から吐出させるインクと、そのままインクジェットヘッド2内を流れてインク循環装置3に戻るインクに分岐する部分である。インクIは、インク圧力室150に一方の端部から流入し、インク分岐部53を通り、他方の端部から流出する。すなわち、インク圧力室150内のインク分岐部53でインクの一部はノズル51から吐出され、残りは他方の端部から流出する。インク圧力室150でノズル51から吐出されなかったインクIは、共通インク室59に流入し、インク環流通路63に還流する。
【0028】
インクジェットヘッド2のアクチュエータ54は、例えば圧電素子55と振動板56を積層したユニモルフ式の圧電振動板で構成される。圧電素子55は例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電セラミック材料等で構成される。振動板56は例えばSiN(窒化ケイ素)等で形成される。
【0029】
図7に示すように圧電素子55は上下に電極55a、55bを備える。電極55a、55bに電圧がかからない場合は、圧電素子55が変形しないことから、アクチュエータ54は変形しない。アクチュエータ54が変形しない場合、インクの表面張力によって、ノズル51内にはインクIと空気の界面であるメニスカス290が形成される。メニスカス290によりインク圧力室150内のインクIは、ノズル51内に留まる。
【0030】
電極55a、55bに電圧(V)がかかると、圧電素子55が変形して、アクチュエータ54が変形する。アクチュエータ54の変形により、メニスカス290にかかる圧力が空気圧より高くなり(陽圧)、インクIはメニスカス290を破ってインク滴IDとなりノズル51から吐出する。
【0031】
インクジェットヘッドは、インク圧力室内のインクに圧力変動を生じるものであるが、構造は限定されない。インクジェットヘッドは、例えば静電気で振動板を変形してインク滴を吐出する構造、あるいはヒータ等の熱エネルギーを利用してノズルからインク滴を吐出する構造等でもよい。またインクは温度により粘性が変わり、ノズルからの吐出特性が変わることから、インク吐出を良好に制御するために、インクジェットヘッドに温度センサを備えても良い。
【0032】
インク分配流路62には、インクジェットヘッド2へ供給するインク温度を検出するためにヘッド内温度センサ(上流)280が取り付けられている。インク環流通路63には、インクジェットヘッド2から排出されるインク温度を検出するヘッド内温度センサ(下流)281が取り付けられている。ヘッド内温度センサ280、281で、インクジェットヘッド2内へ供給またはインクジェットヘッド2から排出されるインク温度を検出する。インクジェットヘッド2内のインク温度によるインク粘度の変化を考慮してインク循環装置3を制御する。
【0033】
インク供給口160、インク分配通路62、共通インク供給室58、インク圧力室150、共通インク室59、インク環流通路63、インク排出口170の順に、インクIはインクジェットヘッド2内を移動する。このインクIの一部は画像信号に従いノズル51から吐出され、残ったインクIは移動してインク排出口170からインク循環装置3へ環流する。
【0034】
図3乃至
図5に示すように、インク循環装置3は、インクケーシング200と、インクを循環させるインク循環ポンプ201と、インクカートリッジ81からインクケーシング200にインクを補給するインク供給ポンプ202と、を備えている。
【0035】
インクケーシング200は、アルミニウムで成形され、空室を形成する枠部に、ポリイミド樹脂で構成される樹脂プレート300、301が接着剤で固定されて構成される。インクケーシング200は、インク供給管208を介してインクジェットヘッド2内に連通する供給側インク室210と、インク戻し管209を介してインクジェットヘッド2内に連通する回収側インク室211とが、共通壁245を介して隣接して一体的に形成されている。インクケーシング200は、回収側インク室211からインクを吸引するための吸引孔212と、供給側インク室210にインクを送液するための排出孔213を備えている。インクケーシング200の上部には2つの凹部353、363が形成されている。この凹部353,363に、
図9に示される圧力調整部5の凸部372、凸部370がそれぞれ係合するようになっている。
【0036】
回収側インク室211と供給側インク室210の並び方向は、インクジェットヘッド2のノズル配列方向(インクジェットヘッド2の長手方向(B方向))と同じである。すなわち、回収側インク室211と供給側インク室210の並び方向はキャリッジ100の走査方向と略直交する方向になっている。回収側インク室211のインク液面bの上側は圧力調整部5を構成する第1気体室350になっている。供給側インク室210のインク液面aの上側は圧力調整部5を構成する第2気体室360になっている。
【0037】
インク循環ポンプ201は、
図3に示すように、第1プレート300および第2プレート301とは反対側の面において、隣接している回収側インク室211と供給側インク室210に跨って設けられている。インク循環ポンプ201は吸引孔212からインクを吸引し、排出孔213を通して供給側インク室210へインクを送液する。インク循環ポンプ201は、インク供給ポンプ202と同様な圧電ポンプであり、圧電素子と金属板を貼り合わせた圧電振動板がたわむことでポンプ内の容積(ポンプ室)を周期的に変化させてインクを送液し、2つの逆止弁によってインク送液方向を一方向にさせている。インク循環ポンプ201の一方の逆止弁は吸引孔212とポンプ室との間に設けられ、他方の逆止弁はポンプ室と排出孔213との間に設けられている。ポンプ室にインクが流入するときは一方の逆止弁が開き、他方の逆止弁が閉じる。ポンプ室からインクが流出するときは一方の逆止弁が閉じ、他方の逆止弁が開く。これを繰り返して回収側インク室から供給側インク室へインクを送液する。
【0038】
インク供給ポンプ202は、インクケーシング200の外壁面に設けられている。供給ポンプ202は圧電ポンプであり、印刷やメンテナンス動作等で消費した量のインクをインク補給口221からインク循環装置3内の回収側インク室211へ供給する。インク供給ポンプ202へインクを流入させるインクの流入口であるインク補給口221には、インクカートリッジ81からインク循環装置3へインクを送液するチューブ82が接続されている。
【0039】
インク供給ポンプ202は、圧電素子と金属板を貼り合わせた圧電振動板がたわむことでポンプ内の容積(ポンプ室240)を周期的に変化させてインクを搬送し、2つの逆止弁によってインク搬送方向を一方向にさせている。インク供給ポンプ202の一方の逆止弁242はインク補給口221とポンプ室240との間に設けられ、他方の逆止弁243はポンプ室240とインクの出口241との間に設けられている。圧電振動板がたわみポンプ室240が拡張すると、逆止弁242が開きポンプ室240にインクが流入し、逆止弁243が閉じる。圧電振動板が逆方向にたわみポンプ室240が収縮すると、逆止弁242が閉じ逆止弁243が開きポンプ室240からインクが流出する。これを繰り返してインクを送液する。
【0040】
制御基板500はインク循環ポンプ201を覆うようにインクジェット記録部4に保持されている。制御基板500は、インク循環ポンプ201、インク供給ポンプ202、圧力調整部5を制御するようになっている。
【0041】
第1プレート300にはインクケーシング200内のインク量を計測するインク量計測センサ205Aが取り付けられている。第2プレート301にはインク量計測センサ205Bが取り付けられている。インク量計測センサ205Cは、圧電振動板がインクケーシング200に貼り付けられて構成され、圧電振動板を交流電圧で振動させインクケーシング200内のインクを振動させる。インク量計測センサ205Cによるインクケーシング200内を伝わるインクの振動をインク量計測センサ205A、205Bで検出し、インク量を計測している。
【0042】
インクケーシング200の外部には、インクケーシング200内のインク粘度を調整するためにインクを加熱するヒータ207が備えられている。ヒータ207はインクケーシング200に熱伝導性の高い接着剤で貼り付けられている。インクケーシング200のヒータ207近傍にインク温度センサ282が取り付けられている。インク温度センサ282およびヒータ207は後述する制御基板500に接続され、印刷時に所望のインク粘度になるようにヒータ207が制御されている。
【0043】
インク循環ポンプ201を動作させると、インクは回収側インク室211から吸引孔212を通して吸い込まれ、インク循環ポンプ201、排出孔213を通って供給側インク室210に搬送される。密閉されている供給側インク室210の内圧はインク量の増加で高くなり、インク供給管208を通ってインクジェットヘッド2にインクが流入する。
【0044】
回収側インク室211へインクを供給するインクカートリッジ81は、インク循環装置3より重力方向(C方向)において相対的に下方に配置されている。カートリッジ81を下方に配置することで、カートリッジ81内のインクの水頭圧が、回収側インク室211の設定圧力より低く保たれる。この構成により、インク供給ポンプ202が駆動している時だけ回収側インク室211へインクIを供給するようになっている。
【0045】
インク循環装置3は、インクジェットヘッド2へインクIを供給し、ノズル51から吐出せずに残ったインクIを回収し、再度インクジェットヘッド2へ回収したインクを供給してインクを循環させる。インク循環装置3はインク供給管208を通して下方へ(重力方向である矢印C)インクを送液し、インクジェットヘッド2はさらに下方へインクを吐出する。
【0046】
インクジェットヘッド2のノズル51にはメニスカス290が形成される。ノズル51からインクが吐出する場合、インクと空気の界面であるメニスカス290を破って、インク滴となり吐出する。メニスカス290にかかる圧力が空気圧より高ければ(陽圧)、インクはノズル51から漏れ出る。メニスカス290にかかる圧力が空気圧より低ければ(負圧)、インクはメニスカス290を維持しノズル51内に留まっている。そのため、インク吐出をしない場合、インク圧力室150内のインクの圧力は−0.5〜−4.0kPa(ゲージ圧)に調整され、メニスカス290を維持している。ノズル51はインクが重力方向下向きに吐出するように配置されているので、この範囲より大きい(陽圧側)場合、わずかな振動などでインクがノズルから漏れ出してしまう。また、より小さい(負圧側)場合、ノズルから空気を吸引してしまい、吐出不良が発生する。通常インク圧力室150内は負圧に保たれていて、アクチュエータ54を動作させるとインク圧力室内のインクは陽圧になり、ノズル51からインクが吐出する。それぞれの供給側インク室210および回収側インク室211からインクジェットヘッド2のノズル51までのインク流路抵抗はほぼ同じになっている。インク流路抵抗がほぼ同じなので、第2気体室360の圧力と第1気体室350の圧力の平均値にノズル面と両インク室のインク面の水頭差による圧力の平均値を加えたものがノズル51の圧力となる。圧力調整部5においてノズル51の圧力が所定の圧力になるように圧力を調整することで良好なインク吐出を維持する。
【0047】
圧力調整部5について、
図8乃至
図10に基づいて説明する。
図8は圧力調整部5の分解斜視図、
図9は圧力調整部5の側面図、
図10は圧力調整部5の説明図である。
【0048】
圧力調整部5は、循環装置3のインクケーシング200上に設けられている。圧力調整部5は、インクジェットヘッド2のノズル51内のインク圧力を適正に保つためにインクケーシング200の内部の圧力を調整する。圧力調整部5は、2つの圧力調整室261、262を備えている。
【0049】
圧力調整室261は、第4気体室270を形成するシリンダ250と、シリンダ250内部に収納された第1の可動体であるピストン252と、ピストン252をたとえばH方向に進退動させることでシリンダ250の容積を変化させる第1の容積可変部であるパルスモータ254を備えている。
【0050】
シリンダ250内に形成される第4気体室270は、連通管路256を介して供給側インク室210に連通するとともに、連通管路400を通じて大気に対して開閉可能になっている。連通管路256の内部には、ばねと、第2開閉部としての第2開閉部材257が取り付けられている。第2開閉部材257は、ばねの付勢によりシリンダ250と供給側インク室210内の第2気体室360との連通管路256(通路)を閉じ、ピストン252で付勢されることによってこの連通管路256を開く。
【0051】
連通管路400の内部には、ばねと、第3開閉部としての開閉部材401が取り付けられている。開閉部材401はばねの付勢により大気との連通管路400(通路)を閉じ、ピストン252で付勢されることにより大気との連通管路400を開く。連通管路400への大気取り入れ口にはフィルタFが設けられている。ピストン252にはゴム製のシール材314が装着されており、シリンダ250内を気密に保っている。
【0052】
パルスモータ254の回転軸には雄ねじが固定され、ピストン252が嵌合する部分には雌ねじが形成されている。ピストン252は、中心部の軸316は外周に平面部をもつ突起である。軸316はシリンダ250に設けられている外周に平面を持つ筒形状の軸穴318に摺動可能に嵌合し、ピストン252の回転を防止している。ピストン252はパルスモータ254の回転によって、シリンダ250内を上下に摺動し、シリンダ250とピストン252によって囲まれた第4気体室270の容積を変化させ圧力を変化させる。
【0053】
圧力調整室262は、回収側インク室211と連通しているシリンダ251と、シリンダ251内部に収納された第2の可動体であるピストン253と、ピストン253をたとえばH方向に進退動させることでシリンダ251の容積を変化させる第2の容積可変部であるパルスモータ255と、を備えている。
【0054】
シリンダ251とピストン253によって囲まれた第3気体室272の容積を変化させ、圧力を変化させる。シリンダ251、ピストン253、パルスモータ255の構成は圧力調整室261と同じ構成になっている。
【0055】
シリンダ251は、回収側インク室211と連通する連通管路258を有している。連通管路258の内部には、ばねと、ばねの付勢によりシリンダ251と回収側インク室211内の第1気体室350を連通させる連通孔を閉じ、ピストン253で付勢されると開く第1開閉部である開閉部材259が取り付けられている。ピストン253はパルスモータ255の回転によって、シリンダ251内を上下に摺動し、シリンダ251とピストン253によって囲まれた第3気体室270の容積を変化させ圧力を変化させる。
【0056】
第1気体室350は凸部372に設けられた通路と開口351を通して第1気体室350より上部にある第5気体室352に連通している。第5気体室352には、圧力センサ204の検出部に繋がる連通路223が設けられている。供給側インク室210の液面aに接する空気を含む第2気体室360は、凸部370に設けられた通路と開口361を通して、第6気体室362に連通している。第6気体室362には、圧力センサ204の検出部に繋がる連通路222が設けられている。
【0057】
圧力センサ204は供給側インク室210内の第2気体室360、回収側インク室211内の第1気体室350それぞれの圧力を検出している。圧力センサ204は1チップで2つの圧力検知ポートを有し、第1気体室350と第2気体室360に連通し、二つの第1気体室350、360内の圧力を計測するようになっている。圧力センサ204は、制御基板500に接続され、供給側インク室210上部と回収側インク室211上部の空気圧を電気信号として出力する。
【0058】
圧力調整室261のシリンダ250と圧力調整室262のシリンダ251の間には両者を常時連通させる連通経路260が設けられている。
【0059】
すなわち、圧力調整部5は、第3気体室272と、第1開閉部である開閉部材259と、第4気体室270と、第2開閉部である開閉部材257と、連通経路260と、第3開閉部である開閉部材401と、第1の容積可変部であるピストン253と、第2の容積可変部であるピストン252と、を備えている。
【0060】
圧力調整部5は、ピストン252と、ピストン253をそれぞれ上下移動させて、シリンダ250、251の空気の容積を変化させることと、開閉部材を切り替えて流路を開閉することで、インクケーシング200内部の圧力を調整し、インクジェットヘッド2のメニスカス290の圧力を適正な範囲に維持する。
【0061】
図10を参照して、圧力調整部5の動作について説明する。x1,y1はピストン252と、ピストン253のホーム位置である。ホーム位置x1はピストン253が開閉部材259の先端306に当接せず、連通管路258は閉状態となる位置に設定されている。また、ホーム位置y1は、ピストン252が開閉部材257の先端305を押圧せず、連通管路258が閉状態となる位置に設定されている。
【0062】
位置x2は、ピストン253が開閉部材259の先端306を押圧し、開閉部材259を開く位置である。x1からx2まではストロークh1だけ離れており、ピストン253が開閉部材259に当接してその後押圧できる距離に設定されている。
【0063】
ピストン252がホーム位置y1の時に、第3気体室272と第4気体室270の容積の和を一定に保つようH方向の上にh2動かした位置をy1’とする。ピストン253をストロークh1だけ動かした容積V1とピストン252をストロークh2だけ動かした容積V2が等しくなるように設定している。シリンダ251とシリンダ250の断面積が等しい場合はh1=h2となる。
【0064】
位置y2’は圧力調整を行うことによってピストン252が動ける上限の位置である。ピストン252の位置が上限y2’にあるときに、第3気体室272と第4気体室270の容積の和を一定に保つようH方向の下にh2動かした位置をy2とする。
【0065】
位置y3’は圧力調整を行うことによってピストン252が動ける下限の位置である。ピストン252の位置が下限の位置y3’にあるときに、第3気体室272と第4気体室270の容積の和を一定に保つようH方向の下にh2動かした位置をy3とする。y3にピストン252があるとき、開閉部材401の先端307に当接しないように距離を開けて設定される。位置y4はピストン252が開閉部材401を開く位置であり、位置y5はピストン252が開閉部材257を開く位置である。
【0066】
第1気体室350を大気開放する際の手順を示す。まずピストン253が開閉部材259を開く位置x2にある場合には、それぞれ、開閉部材259を閉じる位置x1の状態とし、第1気体室350に圧力調整部5の圧力変動が及ばないようにする。
【0067】
次に、ピストン252を位置y4まで移動し、開閉部材401を開ける。この時第4気体室270の容積は圧縮され、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272内の圧力は上昇するが、開閉部材259を閉じているので、第1気体室350には圧力変動は及ばない。ピストン252が開閉部材401を開くと、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272内の圧力は大気圧となる。
【0068】
次に、開閉部材259を開く位置x2までピストン253を移動する。この時、開閉部材259の先端306に接するまで、第3気体室272の容積は圧縮されるが、開閉部材401が開となっており、大気開放状態のため圧力は大気圧のままである。開閉部材259の先端306に接し押圧する位置x2まで移動すると、第1気体室350は、第3気体室272、それに連通する第4気体室270を経て、大気開放状態となる。
【0069】
第2気体室360を大気開放する手順を示す。ピストン253が開閉部材259を開く位置x2にある場合には、それぞれに示すように、開閉部材259を閉じる位置x1の状態とし、第1気体室350に圧力調整部5の圧力変動が及ばないようにする。
【0070】
次に開閉部材257を押圧して開ける位置y5までピストン252を移動する。この時、開閉部材401の先端307に接するまで、第4気体室270の容積は圧縮され、第4気体室とそれに連通する第3気体室272内の圧力は上昇する。しかしながら、開閉部材259を閉じているので、第1気体室350には圧力変動は及ばない。
【0071】
ピストン252に押されて開閉部材401が開くと、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272内の圧力は大気圧となる。この時、先に開閉部材257の先端305を押圧した後に、開閉部材401の先端307を押圧するような位置関係にすると、圧縮された空気が第2気体室360に流れ込み圧力変動を及ぼしてしまうので、ピストン252と開閉部材401の先端307が先に当接し、その後開閉部材257の先端305に当接するように、距離Gを設定している。
【0072】
開閉部材257の先端305に接し押圧する位置y5まで移動すると、第2気体室360は第4気体室270を経て、大気開放状態となる。開閉部材259を閉としているので、第1気体室350は大気開放されない。
【0073】
第1気体室350と第2気体室360を大気開放する手順を示す。上記、第2気体室360を大気開放した状態で開閉部材259を押圧して開く位置x2までピストン253を移動する。この時、開閉部材259の先端306に接するまで、第3気体室272の容積は圧縮されるが、開閉部材401が開いており大気開放状態であるため圧力は大気圧のままである。開閉部材259の先端306を押圧して開ける位置x2までピストン253が移動すると、第1気体室350、は第3気体室272、それに連通する第4気体室270を経て、大気開放状態となる。第2気体室360も第4気体室270を経て、大気開放状態となる。
【0074】
次に、ピストン252が開閉部材401を開く位置y4から、開閉部材401を閉じて、ピストン252をホーム位置y1に戻す手順を示す。
【0075】
第1気体室350を大気開放している状態においては、ピストン252の位置は位置y4としたまま、ピストン253の位置を位置x1まで移動する。
【0076】
第2気体室360を大気開放している状態においては、ピストン252の位置を位置y4まで移動する。
【0077】
第1気体室350と第2気体室360を大気開放している状態においては、ピストン253の位置を位置x1まで移動したのち、ピストン252の位置をy4まで移動する。その後、ピストン252を開閉部材401の先端307に接する位置y6まで移動すると、開閉部材401は閉じる。
【0078】
開閉部材401が閉じると、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272は密閉状態となるため、y6からホームポジションであるy1までのストロークh3だけ動かした容積V3分だけ、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272は減圧される。よって、このままピストン253の位置を位置x1から位置x2に移動すると、減圧された空気が第1気体室350に供給されるため、急激な圧力変動を及ぼしてしまう可能性がある。この急激な圧力変動を回避するため、ピストン252が位置y4にある時、つまり第4気体室270とそれに連通する第3気体室272を大気開放している時に、ピストン253の位置を位置x1から位置x3まで距離h4移動する。
【0079】
その後、ピストン252の位置を位置y4から位置y6を経て位置y1まで移動する。この時、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272は位置y6から位置y1までの移動距離h3だけ動かした容積V3分だけ減圧される。
【0080】
その後、ピストン253の位置を位置x3から位置x1まで移動する。この時、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272は位置x3から位置x1までの移動距離h4だけ動かした容積V4分だけ加圧される。
【0081】
V3=V4とした場合は、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272の容積の和はピストン253が位置x3の位置、ピストン252が位置y6の位置にある時と、ピストン253が位置x1の位置、ピストン252が位置y1の位置にある時では同じである。
【0082】
ピストン252がy6の位置にある時、つまり開閉部材401を閉じたときは、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272の圧力は大気圧であるため、ピストン253、ピストン252がそれぞれ位置x1,位置y1の位置にあっても大気圧となる。
【0083】
V3>V4とした場合は、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272の容積の和はピストン253が位置x3で、ピストン252が位置y6の位置にある時より、ピストン253が位置x1、ピストン252が位置y1の位置にある時の方が大きい。つまりは(V3−V4)の体積分だけ減圧されることとなる。この量を調節することによって、第1気体室350の圧力を大気開放する前の圧力に揃えてから圧力調整を再開することもできる。
【0084】
V3<V4とした場合は、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272の容積の和はピストン253がx3の位置で、ピストン252が位置y6の位置にある時より、ピストン253がx1の位置、ピストン252が位置y1の位置にある時の方が小さい。つまりは(V4−V3)の体積分だけ加圧されることとなる。
【0085】
ピストン252の位置が圧力調整を行うことによって、ピストン252が動ける上限位置y2’、下限位置y3’に至った場合においては、ピストン252は圧力調整のために動くことはできない。
【0086】
しかしながら、ピストン252が位置y2’、位置y3’の位置にある場合においても、第1気体室の圧力変動を及ぼさないように、ピストン253を位置x2から位置x1の位置に動かすことができる。したがって、まずピストン253を位置x2から位置x1の位置に動かし、同時にピストン252をそれぞれ位置y2’から位置y2へ、位置y3’から位置y3へ移動し、この状態からピストン252をy4の位置に移動し、開閉部材401を開き、大気開放状態とする。その後、ピストン252が開閉部材401を押圧して開く位置y4から、開閉部材401を閉じて、ピストン252をホーム位置y1に戻す手順を行うことで、圧力調整を行う前の圧力にした状態で、ピストン252の位置をy1に戻すことができる。
【0087】
図11はインクジェット記録装置1の動作を制御する制御基板500のブロック図である。制御基板500には、電源550と、インクジェット記録装置1の状況を表示する表示装置560と、入力装置としてキーボード570が接続されている。制御基板500は、動作を制御する制御部であるマイコン510と、プログラムを格納するメモリ520と、圧力センサ204やヒータ温度センサ280,281,282の出力電圧を取り込むAD変換部530を備える。さらに、制御基板500は駆動回路540を有し、インクジェット記録部4、インクジェット記録部4を記録媒体Sに対して相対移動させるキャリッジモータ102、ピストン252,253を動作させるパルスモータ254、255、スライドレール105、ポンプ104、201、202、ヒータ207などを動作させている。
【0088】
<印刷動作>
インクジェット記録装置1の印刷動作について説明する。インクジェット記録装置1を最初に印刷動作させる場合には、インクカートリッジ81からインク循環装置3とインクジェットヘッド2にインクを充填する。マイコン510は、キーボードから初期充填動作が指示されると、インクジェット記録部4を待機位置に戻し、メンテナンスユニット310を上昇させてノズルプレート52を覆う。
【0089】
マイコン510は、圧力調整部5を制御し
図10に示すようにピストン252,253をホーム位置X1,Y1に位置させる。インク供給ポンプ202を駆動させ、チューブ82内の空気とともにインクカートリッジ81からインクケーシング200の回収側インク室211にインクを送液する。このとき、インクジェットヘッド2の内部の流路抵抗が大きいので、インクジェットヘッド2、および、供給側インク室210へは、短時間ではインクは流れ込まない。
【0090】
回収側インク室211のインク量センサ205Bが吸引孔212までインクが流入したことを検知すると、マイコン510は、圧力調整部5を制御してインクケーシング200内の圧力の調整を開始すると同時にインク循環ポンプ201を所定時間駆動する。インクは回収側インク室211からインク循環ポンプ201を経て供給側インク室210に送液される。圧電センサ205A、205Bによる回収側インク室211と供給側インク室212の液量検出結果が、それぞれ循環ポンプ201の吸引孔212と排出孔213に到達していればインクの充填は終了である。回収側インク室211のインク量が未達の場合は、インク供給ポンプ202を駆動させ、インクカートリッジ81からインクケーシング200の回収側インク室211にインクを送液する。
【0091】
この動作を繰り返すことで、回収側インク室211、供給側インク室210のインク量を適正になり、初期充填動作が完了する。なお、圧力調整部5が動作し、インクケーシング200は密閉状態なので、電源が切れてもノズル51のメニスカス290の圧力は負圧に維持され、インクが漏れることはない。
【0092】
なお、圧力センサ204は、圧力を電圧として出力する。圧力センサ204を長期間使用する、または環境(温度)条件が変化すると、圧力と出力電圧に差異が発生する。そこで、大気圧の出力電圧値を保存しておき、圧力検知時の出力電圧値との差分で圧力(ゲージ圧)を求めることで、圧力を正確に検知することができる。大気圧の出力電圧を保存するタイミングになると、圧力調整室261,262を大気に連通させる。回収側インク室211の圧力は大気圧になるので、その時の出力電圧値を制御基板500のメモリ520に格納する。インクケーシング200内の圧力が大気圧になると、インクジェットヘッド2のノズル51のメニスカスは正圧になりインクがノズル51から漏れる可能性が有る。しかし、インクケーシング200内の圧力を大気圧にする動作は短時間で終了するので、大気圧の出力電圧値を保存後、回収側インク室211を所定の圧力に調整すれば、ノズル51からインクが漏れ出ることはない。大気圧の出力電圧値をメモリ520に格納するタイミングは、装置の電源を入れた時に行っている。なお、大気圧の出力電圧値をメモリに保存する他のタイミングとして、装置が内蔵しているタイマーで一定時間ごとに行うこともできる。一定時間ごとに出力電圧値をメモリ520に保存する場合、インクジェットヘッド記録部4で印刷している間にそのタイミングが発生すると、印刷動作を停止することになる。印刷動作を停止させないために、タイマーで一定時間が経過しても大気圧の出力電圧値を保存するタイミングをずらして印刷終了後に、出力電圧値をメモリ520に保存する。
【0093】
プリントを開始すると、マイコン510は、メンテナンスユニット310を制御してノズルプレート52から離間させる。マイコン510は圧力調整部5を制御し、ピストン253を位置x2,ピストン252を位置y1’に位置させ、回収側インク室211内の圧力を調整する。マイコン510は、インク循環ポンプ201を駆動し、回収側インク室211からインク循環ポンプ201、供給側インク室210、インクジェットヘッド2、回収側インク室211、の順にインクを循環させる。供給側インク室210と回収側インク室211のインク量センサ205A,205Bが検知したインク液面a、の高さが所望のインク液面高さでない場合は、マイコン510は、インク供給ポンプ202を駆動し、所望のインク液面高さになるまでインクカートリッジ81から回収側インク室211にインクを供給する。マイコン510は、インクケーシング200に貼り付けられたヒータ207に通電し、インクが所望の温度になるまで加熱を行う。所望の温度に到達すると、インク温度が一定の範囲に収まるようにヒータの通電を制御する。
【0094】
次に、マイコン510は、インクジェットヘッド2を制御し、キャリッジ100の走査に同期して印刷する画像データに応じたインクを記録媒体Sに対して吐出する。マイコン510は、記録体移動部7を制御して、記録媒体Sをスライドレール105で所定距離移動させ、キャリッジ100の走査に同期させインクを吐出する動作を繰り返して、記録媒体Sに画像を形成する。インクジェットヘッド2からインクを吐出するとインクケーシング200内のインクの量が瞬間的に減少し、回収側インク室211内の圧力が低下する。圧力センサ204が回収側インク室211内の圧力が低下したことを検知すると、マイコン510は圧力調整部5を制御し、ピストン253を位置X2,ピストン252をY1’に位置させ、回収側インク室211内の圧力を調整するとともに、インク供給ポンプ202を駆動して吐出したインク量相当のインクを回収側インク室211へ送液する。
【0095】
ここで、インクジェットヘッド2から吐出されるインク滴の体積は一定であり、画像データから吐出したインク滴の個数も算出できるので、それらの積でインクの使用量を見積もっている。このため、印刷動作中のインクケーシング200内のインク量はすぐに所定の量に戻る。
【0096】
インクカートリッジ81内のインクが無くなった場合、インク供給ポンプ202を所定時間駆動しても、回収側インク室211のインク液面が所望の高さにならない。回収側インク室211のインク液面が所望の高さにならない場合、インクカートリッジ81が空になったことを示す表示を表示装置560に実行させる。
【0097】
ノズル51の圧力が所定の圧力になるように第1気体室350と連通した圧力調整室261のピストン252を移動させることで良好なインク吐出が維持できる。
【0098】
インクジェット記録装置1はインクジェット記録部4a〜4bを記録媒体Sの搬送方向に対して直交するように往復移動させながら、画像を形成する。なお、ノズル配列された長手方向と記録媒体Sの搬送方向が同じとなり、インクジェット記録装置1は記録媒体S上に300個のノズルの幅で画像を形成する。
【0099】
<圧力調整動作>
以下、
図12乃至
図14を参照して、圧力調整手順を説明する。
【0100】
圧力調整部5において、電源投入前にピストン252、253がシリンダ250、251内のどのような位置で終了したかによって、電源が投入された時点でのピストン252、253の位置は変化する。したがって、電源投入時にシリンダ250、251内でのピストン252,253の位置は不定である。このため、ユーザーが電源をONにすると(A501)、マイコン510は原点復帰を行う(A502)。一旦ピストン252、253を上方に移動させてピストンを移動させる時間は、ピストン252、253がシリンダ250、251内の最も下方の位置から、原点センサ402、403に至るまでに要する時間(初期移動時間)となる。
【0101】
原点復帰の手順について、
図13のフローチャートに示す。マイコン510は、ピストン253が原点センサ403に向かう方向にパルスモータ255を回転させる(A601)。原点センサ403に向かう方向とは、パルスモータ255の回転軸に固定された雄ねじ、ピストン253に設けられた雌ねじが右ねじの場合、時計回り方向となる。
【0102】
マイコン510はA602で原点センサ403がONであるかを判断する。センサがONの場合(A602YES)はA603に進む。センサがONでない場合(A602NO)は、マイコン510はA601に戻りパルスモータ255を回転させる。
【0103】
ピストン253が位置x0に設けられた原点センサ403に至り、センサがON(A602YES)となると、マイコン510はパルスモータ255のパルスカウントをリセットする(A603)。
【0104】
マイコン510はピストン253をホーム位置であるx1まで移動する(A604)。
【0105】
マイコン510はピストン252が原点センサ402に向かう方向にパルスモータ254を回転させる(A605)。パルスモータ254の回転軸に固定された雄ねじ、ピストン252に設けられた雌ねじが右ねじの場合は時計回り方向である。
【0106】
A606でマイコン510は原点センサ402がONであるかを判断する。センサがONの場合(A606YES)はA607に進む。センサがONでない場合(A602NO)は、A605に戻りパルスモータ254を回転させる。
【0107】
ピストン252が位置y0に設けられた原点センサ402に至り、センサがON(A606YES)となると、マイコン510は、パルスモータ254のパルスカウントをリセットする(A607)。
【0108】
なお、原点センサ402、403が無い場合においては、シリンダ250、251の最上部(天井)まで移動させ、パルスモータ254,255を脱調させてパルスカウントをリセットしてもよい。
【0109】
次に、原点センサ402、403から、所定の位置までピストン252,253を下方に移動させ、その位置をホーム位置として記録する。ピストン253はx1、ピストン252はy1をホーム位置として記録する。この後、ピストン252、253が移動した場合には、移動したパルス数をカウントして上下方向の位置を認識する。
【0110】
マイコン510はピストン252をy4まで移動して開閉部材401を開にし、大気開放する。(A608)。
【0111】
そして、マイコン510はピストン253を位置x3まで移動し、移動量h4を確保する(A609)。そしてピストン252をy1まで移動する(A610)。この時、ピストン252は位置y6から位置y1までの移動距離h3だけ動かした容積V3分だけ、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272を減圧する。
【0112】
次に、ピストン253をx1まで移動する(A611)。この時、ピストン253は位置x3からx1までの移動距離h4だけ動かした容積V4分だけ、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272を加圧する。
【0113】
以上で原点復帰が完了する(エンド)。なお、V3=V4としたときは、最終的には第4気体室270とそれに連通する第3気体室272内の圧力は大気圧となる。電源が投入された時点でのピストン253とピストン252の位置は不定であり、圧力調整部5内の圧力も不定であるが、このような原点復帰を行うことにより、圧力も初期化することができる。
【0114】
ピストン253、ピストン252の原点復帰が終了するとマイコン510は圧力調整を開始するかを判断する(A503)。圧力調整を行わない場合(A503NO)は終了(エンド)に進む。
【0115】
圧力調整を行う場合(A503YES)はピストン253をx2に移動し(A504)、開閉部材259を開く。この時、ピストン253はx1からx2までの下方への移動距離h1だけ動かした容積V1分だけ、第3気体室272を加圧しながら開くことになるので、第1気体室350に影響を及ぼさないように、ピストン252を現在位置よりh2の上方へ移動させる(A505)。移動距離h2だけ動かした容積V2は容積V1に等しい。
【0116】
次に、マイコン510はその時点での圧力調整要否を判断する(A506)。圧力調整を行わない場合(A506NO)はA512に移動する。
【0117】
その時点で圧力調整が必要と判断した場合(A506YES)、マイコン510はパルスモータ254を時計回りに回転する(YES)か、反時計回りに回転する(NO)か、を判断する(A507)。A507YESの場合は、パルスモータ254を時計回りに回転する(A508)。A507NOの場合は、パルスモータ254を反時計回りに回転する(A509)。
【0118】
パルスモータ254の回転軸に固定された雄ねじ、ピストン252に設けられた雌ねじが右ねじの場合、時計回りに回転するとピストン252は上方に動き減圧され、反時計回りに回転するとピストン252は下方に動き加圧される。
【0119】
次にピストン252が可動範囲外にいるか否かを判断する(A510)。ピストン252が可動範囲外にいない場合、すなわち可動範囲内にいる場合(A510NO)は、A512に進む。
【0120】
ここで、パルスモータ254のパルス数をカウントすることによってピストン252の位置を把握することができるため、ピストンB252があらかじめ設定した上限位置y2’から下限位置y3’の範囲から外れていないかを判断する。
【0121】
上限位置y2’から下限位置y3’の範囲から外れている場合(A510YES)は、
図14のフローチャートに示すストローク復帰(A511)を行う。まず、ピストン253をx1に移動する。つまりは開閉部材259を閉じる(A701)。この時、ピストン253はx2からx1までの上方への移動距離h1だけ動かした容積V1分だけ、第3気体室272を減圧しながら閉じることになるので、第1気体室350に影響を及ぼさないように、ピストン252に現在位置よりh2の下方への移動を行う(A702)。移動距離h2だけ動かした容積V2は容積V1に等しい。
【0122】
次にピストン252をy4まで移動し、開閉部材401を開け、大気開放する。(A703)。
【0123】
次にピストン253をx3まで移動し、移動量h4を確保する(A704)。
【0124】
次にピストン252を位置y1まで移動する(A705)。この時、ピストン252は位置y6から位置y1までの移動距離h3だけ動かした容積V3分だけ、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272を減圧する。
【0125】
次に、ピストン253を位置x1まで移動する(A706)。この時、ピストン253は位置x3からx1までの移動距離h4だけ動かした容積V4分だけ、第4気体室270とそれに連通する第3気体室272を加圧する。
【0126】
次に、ピストン253をx2に移動し(A707)、開閉部材259を開く。この時、ピストン253はx1からx2までの下方への移動距離h1だけ動かした容積V1分だけ、第3気体室272を加圧しながら開くことになるので、第1気体室350に影響を及ぼさないように、ピストン252は現在位置よりh2の上方へ移動させる(A708)。移動距離h2だけ動かした容積V2は容積V1に等しい。以上でストローク復帰が完了する(エンド)。
【0127】
次に圧力調整を終了するかを判断する(A512)。終了しない場合(A512NO)は506に移動し、圧力調整を継続する。終了する場合(A512YES)は、ピストン253をx1に移動し、開閉部材259を閉じる(A513)。この時、ピストン253はx2からx1までの上方への移動距離h1だけ動かした容積V1分だけ、第3気体室272を減圧しながらとじることになるので、第1気体室350に影響を及ぼさないように、ピストン252は現在位置よりh2下方へ移動させる(A514)。移動距離h2だけ動かした容積V2は容積V1に等しい。エンドに移動し圧力調整を終了する(エンド)。以上のシーケンスを繰り返すことで、ピストン252が動ける上限y2’、下限y3’に至っても、ストロークを復帰することができる。
【0128】
本実施形態の循環装置3およびインクジェット記録装置1によれば、ノズル51の圧力が所定の圧力になるように第1気体室350と連通した圧力調整室261のピストン252を移動させることで良好なインク吐出が維持できる。
【0129】
また、ピストン252のストロークが上限または下限の位置に至った場合に複数の開閉部材257,259,401やピストン252の動作を制御することにより、実質的に長いストロークを確保できる。したがって、たとえば数ミリ単位の短い稼働範囲のピストンでも圧力調整が可能となる。また、ピストン252,253を用いた上記構成により、パルスモータ、センサといった少数の能動素子でインク循環の制御が可能となる。したがって、インクジェット記録装置1の小型化が可能である。また、循環装置および圧力調整部を小型することでインクジェットヘッド2の上部に一体に設けることができる。
【0130】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態にかかるインクジェット記録装置1の圧力調整部600について、
図15を参照して説明する。なお、第1実施形態の圧力調整室261は第4気体室270と供給側インク室210の上部の第2気体室360とを連通させる連通管路256を有しているのに対して、第2実施形態の圧力調整部600は、第1実施形態における連通管路256および開閉部材257に相当する構成を有していないが、これら以外の構成は第1実施形態にかかる圧力調整部5の構成と同じである。
【0131】
第2実施形態の圧力調整部600の圧力調整室261は、シリンダ250と、シリンダ250内部に収納されたピストン252と、ピストン252を上下(H方向)に移動させシリンダ250の容積を変化させるパルスモータ254を備えている。シリンダ250とピストン252によって囲まれた第4気体室270の容積を変化させることで圧力を変化させる。
【0132】
ピストン252はパルスモータ254の回転によって、シリンダ250内を上下に摺動する。シリンダ250はシリンダ250内を大気に連通させる連通管路400を有している。連通管路400の内部には、ばねと、ばねの付勢により大気との連通孔を閉じピストン252で付勢されると開く第3開閉部である開閉部材401が取り付けられている。大気取り入れ口にはフィルタFが設けられている。
【0133】
圧力調整室262は、回収側インク室211と連通しているシリンダ251と、シリンダ251内部に収納されたピストン253と、ピストン253を上下(H方向)に移動させシリンダ251の容積を変化させるパルスモータ255で構成されている。シリンダ251とピストン253によって囲まれた第3気体室272の容積を変化させて圧力を変化させる。シリンダ251、ピストン253、パルスモータ255の構成は前述の圧力調整室261と同じである。シリンダ251は、回収側インク室211と連通する連通管路258を有している。連通管路258の内部には、ばねと、ばねの付勢によりシリンダ251と回収側インク室211内の第1気体室350を連通させる連通孔を閉じ、ピストン253で付勢されると開く第1開閉部である開閉部材259が取り付けられている。
【0134】
さらに、圧力調整室261のシリンダ250と圧力調整室262のシリンダ251の間には両者を連通させる連通経路260を備えている。
【0135】
ピストン252,253の上下移動(H方向)と、開閉部材259,401の開閉を制御することで、インクケーシング200内部の圧力を調整する。
【0136】
本実施形態にかかるインクジェット記録装置1においても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、部品を少なくすることで、より小型にすることが可能である、
なお、液体吐出装置は、上記説明した実施形態の構成に限定されない。例えば液体吐出装置はインク以外の液体を吐出することもできる。インク以外を吐出する液体吐出装置としては、例えばプリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出する装置等であっても良い。
【0137】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。