特許第6336869号(P6336869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6336869機械部品、機械部品の製造方法および時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336869
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】機械部品、機械部品の製造方法および時計
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/17 20060101AFI20180528BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20180528BHJP
   G04B 13/02 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   F16H55/17 A
   F16H55/06
   G04B13/02 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-195697(P2014-195697)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-65624(P2016-65624A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 未英
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 正洋
(72)【発明者】
【氏名】新輪 隆
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−121693(JP,A)
【文献】 特開2014−163737(JP,A)
【文献】 特開2012−215183(JP,A)
【文献】 特開2007−146968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/17
F16H 55/06
G04B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち込みによって打ち込み部品が取り付けられる機械部品であって、
貫通孔を有し脆性材料からなる基部品と、
前記基部品の一方の面に固定され、前記貫通孔と同軸で前記貫通孔よりも径の小さい、前記打ち込み部品が打ち込まれる保持孔を有する電鋳部品と、を備えたことを特徴とする機械部品。
【請求項2】
請求項1に記載の機械部品と、前記保持孔に打ち込まれて取り付けられた打ち込み部品と、を備えたことを特徴とする機械部品。
【請求項3】
前記打ち込み部品が、軸部材であることを特徴とする請求項2に記載の機械部品。
【請求項4】
前記打ち込み部品が、軸部材を保持するブッシュであることを特徴とする請求項2に記載の機械部品。
【請求項5】
打ち込みによって打ち込み部品が取り付けられる機械部品の製造方法であって、
脆性材料基板上に前記打ち込み部品が打ち込まれる保持孔を有してなる電鋳部品を形成する工程と、
前記脆性材料基板に前記保持孔と同軸の貫通孔を形成して基部品を形成する工程と、を有することを特徴とする機械部品の製造方法。
【請求項6】
前記電鋳部品の保持孔に打ち込み部品を打ち込んで取り付ける工程を、有することを特徴とする請求項5に記載の機械部品の製造方法。
【請求項7】
前記打ち込み部品が、軸部材であることを特徴とする請求項6に記載の機械部品の製造方法。
【請求項8】
前記打ち込み部品が、軸部材を保持するブッシュであることを特徴とする請求項6に記載の機械部品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の機械部品が、時計の組立て部品に用いられることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品、機械部品の製造方法および時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、時計などの小型の精密機械に用いられる機械部品として、歯車が多用されている。歯車は、一般に回転軸としての軸部材が嵌合されて用いられるが、このような軸部材の嵌合には、特に小型で高精密な機械部品の場合、打ち込み方法が多く採用されている。
【0003】
ところで、このような歯車等の高精密な機械部品としては、近年ではより高い加工精度が要求されるに伴い、シリコンを用いるようになっている(例えば、特許文献1参照)。また、シリコンはルビー等の結晶性材料に比べると摩耗し易いものの、金属に比べると摩耗しにくいことから耐久性に優れ、したがって歯車等の機械部品に多く用いられている。さらに、シリコンは金属材料に比べて軽いことから、慣性力を小さくした部品の材料に適しており、この点からも歯車等の機械部品に多く用いられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002―276771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、シリコンは脆性が高いといった欠点があることから、シリコンからなる歯車等の部品は、特に軸部材などを打ち込み方法で嵌合させ、取り付けようとすると、打ち込み時にシリコンに割れが発生し易いといった問題がある。このような割れに対処するため従来では、例えば軸の打ち込み部分をバネにするといった手法も一部に採られている。しかし、このような手法を採用しても、シリコンの割れを確実に防止するには至っていないのが現状である。
【0006】
また、打ち込み時の割れを防止するため、嵌合孔(打ち込み孔)となる貫通孔に対して軸部材の径を小さくしておき、嵌合後(打ち込み後)、接着等によって軸部材をシリコン部品に固定することも考えられる。しかし、その場合には、シリコン部品の貫通孔に対する軸部材の軸合わせが難しく、偏心し易いことから、歯車等の回転部材に適用した場合に、円滑に回転がなされなくなるといった問題を生じる。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的はシリコンなどの脆性材料製の部品に対し、割れを発生することなく打ち込み部品を良好に打ち込むことを可能にした機械部品と、この機械部品の製造方法および時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る機械部品は、打ち込みによって打ち込み部品が取り付けられる機械部品であって、貫通孔を有し脆性材料からなる基部品と、前記基部品の少なくともどちらか一方の平面上に固定され、前記基部品の前記貫通孔と同軸で貫通孔よりも径の小さい、前記打ち込み部品が打ち込まれる保持孔を有する電鋳部品と、を備えたことを特徴としている。
この機械部品によれば、脆性材料製の基部品の少なくともどちらか一方の平面上に、貫通孔と同軸で貫通孔よりも径の小さい保持孔を有した電鋳部品が取り付けられているので、基部品の貫通孔と電鋳部品の保持孔に向けて打ち込み部品が打ち込まれた際、電鋳部品の保持孔によって打ち込み部品が支えられ、基部品に割れが生じるのが防止される。また、基部品の貫通孔と電鋳部品の保持孔は同軸で、打ち込みによって打ち込み部品が取り付けられるので、打ち込み部品の軸合わせが容易になり、偏心する不都合が防止される。
【0009】
また、本発明の機械部品は、前記の機械部品と、前記保持孔に打ち込まれて取り付けられた打ち込み部品と、を備えていてもよい。
その場合に、前記打ち込み部品は軸部材であってもよく、また、軸部材を保持するブッシュであってもよい。
このようにすれば、基部品に割れがなく、しかも打ち込み部品が打ち込まれてこれが一体化された良好な機械部品となる。
【0010】
また、本発明の機械部品の製造方法は、打ち込みによって打ち込み部品が取り付けられる機械部品の製造方法であって、脆性材料基板上に前記打ち込み部品が打ち込まれる保持孔を有してなる電鋳部品を形成する工程と、前記脆性材料基板に前記保持孔と同軸の貫通孔を形成して基部品を形成する工程と、を有することを特徴としている。
この機械部品の製造方法によれば、脆性材料基板上に保持孔を有してなる電鋳部品を電鋳加工で形成し、脆性材料基板に保持孔と同軸の貫通孔を形成するので、例えば保持孔を有した部品を貼り合わせで形成するのと異なり、貫通孔と保持孔の中心ずれを抑えることができるため、打ち込み部品との偏心が防止される。また、この方法で得られた機械部品にあっては、前記したように貫通孔と保持孔に打ち込み部品が打ち込まれた際、電鋳部品によって打ち込み時の負荷が吸収され、基部品に割れが生じるのが防止される。
【0011】
また、前記機械部品の製造方法においては、前記電鋳部品の保持孔に打ち込み部品を打ち込んで取り付ける工程を有するのが好ましい。
その場合に、前記打ち込み部品は軸部材であってもよく、また、軸部材を保持するブッシュであってもよい。
このようにすれば、基部品に割れがなく、しかも打ち込み部品が打ち込まれてこれが一体化された良好な機械部品を製造することができる。
【0012】
本発明の時計は、前記の機械部品が、時計の組立部品に用いられていることを特徴としている。
この時計によれば、割れがない良好な機械部品がその組み立て部品として用いられているので、時計自体の精度向上や、生産性の向上が図られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の機械部品によれば、打ち込み部品が打ち込まれた際に、シリコンなどの脆性材料からなる基部品に割れが生じるのが防止されているので、生産性が高く、したがって製造コストの低減化が図られた良好なものとなる。
本発明の機械部品の製造方法によれば、シリコンなどの脆性材料基板に割れが生じるのを防止することができ、したがって生産性を向上し、製造コストの低減化を図ることができる。
本発明の時計によれば、前記機械部品が用いられたことにより、時計自体の精度向上や、生産性の向上が図られたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る機械式時計の、ムーブメント表側の平面図である(一部の部品を省略し、受部材は仮想線で示している)。
図2】本発明に係る機械式時計の、香箱からがんぎ車の部分を示す概略部分断面図である。
図3】本発明に係る機械式時計の、がんぎ車からてんぷの部分を示す概略部分断面図である。
図4】本発明の機械部品の一実施形態としての、三番車の概略構成を示す平面図である。
図5図4に示した三番車の側断面図である。
図6図4に示した三番車における、歯車部の概略構成を示す平面図である。
図7図6に示した歯車部の側断面図である。
図8】(A)〜(E)は図6に示した歯車部の製造方法を工程順に説明するための模式図である。
図9】(F)〜(J)は図6に示した歯車部の製造方法を工程順に説明するための模式図であって、図8に続く工程を説明するための図である。
図10】(a)、(b)は本発明に係る製造方法の電鋳工程を説明するための模式図である。
図11】本発明の機械部品の他の実施形態を模式的に示す側断面図である。
図12】本発明の機械部品の他の実施形態を模式的に示す側断面図である。
図13】本発明の機械部品の他の実施形態を模式的に示す側断面図である。
図14】本発明の機械部品における電鋳部品の他の実施形態を模式的に示す平面図である。
図15】本発明の機械部品における電鋳部品の他の実施形態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
(機械式時計)
まず、本発明の機械部品が組立部品として用いられた、時計の一実施形態について説明する。なお、この実施形態では、時計が機械式時計である場合について説明する。
この機械式時計の概略構成について説明すると、図1図3に示すように、機械式時計のムーブメント100は、ムーブメント100の基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。文字板104(図2参照)は、ムーブメント100に取り付けられる。一般に、地板102の両側のうち、文字板104が配される側をムーブメント100の裏側と称し、文字板104が配される側の反対側をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント100の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
【0016】
図1に示すように、おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194、裏押さえ196を含む切換装置により、巻真110の軸線方向の位置が決められている。きち車112は巻真110の案内軸部に回転可能に設けられている。巻真110が、回転軸線方向に沿ってムーブメント100の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真110を回転させると、つづみ車の回転を介してきち車112が回転する。丸穴車114は、きち車112の回転により回転する。また、角穴車116は、丸穴車114の回転により回転する。角穴車116が回転することにより、香箱車120に収容されたぜんまい122(図2参照)を巻き上げる。
【0017】
二番車124は、香箱車120の回転により回転する。がんぎ車130は、四番車128、三番車126、二番車124の回転を介して回転する。香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128は表輪列を構成する。
【0018】
表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、てんぷ140と、がんぎ車130と、アンクル142とを含む。てんぷ140は、図3に示すようにてん真140aと、ひげぜんまい140cとを含む。図2に示すように二番車124の回転に基づいて、筒かな150が同時に回転する。筒かな150に取り付けられた分針152が「分」を表示する。筒かな150には、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かな150の回転に基づいて、日の裏車の回転を介して、筒車154が回転する。筒車154に取り付けられた時針156が「時」を表示する。
【0019】
図3に示すようにひげぜんまい140cは、複数の巻き数をもったうずまき状(螺旋状)の形態の薄板ばねである。ひげぜんまい140cの内端部は、てん真140aに固定されたひげ玉140dに固定され、ひげぜんまい140cの外端部は、てんぷ受166(図1参照)に固定されたひげ持受170に取り付けたひげ持170aを介してねじ締めにより固定されている。緩急針168は、てんぷ受166に回転可能に取り付けられている。また、てんぷ140は、地板102およびてんぷ受166に対して回転可能に支持されている。
【0020】
図2に示すように香箱車120は、香箱歯車120dと、香箱真120fと、ぜんまい122とを備えている。香箱真120fは、上軸部120aと、下軸部120bとを含む。香箱真120fは、炭素鋼などの金属で形成されている。香箱歯車120dは黄銅などの金属で形成されている。
【0021】
二番車124は、上軸部124aと、下軸部124bと、かな部124cと、歯車部124dと、そろばん玉部124hとを含む。二番車124のかな部124cは香箱歯車120dと噛み合うように構成されている。上軸部124aと、下軸部124bと、そろばん玉部124hは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部124dはニッケルなどの金属で形成されている。
【0022】
三番車126は、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cと、歯車部126dとを含む。三番車126のかな部126cは歯車部124dと噛み合うように構成されている。
【0023】
四番車128は、上軸部128aと、下軸部128bと、かな部128cと、歯車部128dとを含む。四番車128のかな部128cは歯車部126dと噛み合うように構成されている。上軸部128aと、下軸部128bは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部128dはニッケルなどの金属で形成されている。
【0024】
がんぎ車130は、上軸部130aと、下軸部130bと、かな部130cと、歯車部130dとを含む。がんぎ車130のかな部130cは歯車部128dと噛み合うように構成されている。図3に示すようにアンクル142は、アンクル体142dと、アンクル真142fとを備えている。アンクル真142fは、上軸部142aと、下軸部142bとを含む。
【0025】
香箱車120は、図2に示すように地板102および香箱受160に対して回転可能に支持されている。すなわち、香箱真120fの上軸部120aは、香箱受160に対して回転可能に支持される。香箱真120fの下軸部120bは、地板102に対して、回転可能に支持される。二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130は、地板102および輪列受162に対して回転可能に支持されている。すなわち、二番車124の上軸部124a、三番車126の上軸部126a、四番車128の上軸部128a、がんぎ車130の上軸部130aは、輪列受162に対して回転可能に支持される。また、二番車124の下軸部124b、三番車126の下軸部126b、四番車128の下軸部128b、がんぎ車130の下軸部130bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0026】
図3に示すようにアンクル142は、地板102およびアンクル受164に対して回転可能に支持されている。すなわち、アンクル142の上軸部142aは、アンクル受164に対して回転可能に支持される。アンクル142の下軸部142bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0027】
香箱真120fの上軸部120aを回転可能に支持する香箱受160の軸受部と、二番車124の上軸部124aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、三番車126の上軸部126aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、四番車128の上軸部128aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、がんぎ車130の上軸部130aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、アンクル142の上軸部142aを回転可能に支持するアンクル受164の軸受部には、潤滑油が注油される。また、香箱真120fの下軸部120bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、二番車124の下軸部124bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、三番車126の下軸部126bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、四番車128の下軸部128bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、がんぎ車130の下軸部130bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、アンクル142の下軸部142bを回転可能に支持する地板102の軸受部には、潤滑油が注油される。この潤滑油は、精密機械用油であるのが好ましく、いわゆる時計油であるのが特に好ましい。
【0028】
地板102のそれぞれの軸受部、香箱受160の軸受部、輪列受162のそれぞれの軸受部には、潤滑油の保持性能を高めるために、円錐状、円筒状、または円錐台状の油溜め部を設けるのが好ましい。油溜め部を設けると、潤滑油の表面張力により油が拡散するのを効果的に阻止することができる。地板102、香箱受160、輪列受162、アンクル受164は、黄銅などの金属で形成してもよいし、ポリカーボネートなどの樹脂で形成してもよい。
【0029】
(番車の構造)
次に、本発明の機械部品の一実施形態としての、番車の構造について説明する。なお、番車の構造は略同一であるため、三番車126を用いて説明する。
三番車126は、図4図5に示すように、歯車部126dと、歯車部126dに打ち込みによって取り付けられた軸部材126f(打ち込み部品)とからなるものである。
【0030】
歯車部126dは、図6図7に示すようにその中心部に貫通孔126kが形成されてなる基部品126gと、この基部品126gの少なくともどちらか一方の平面に一体に形成された電鋳部品126hとからなるものである。基部品126gは、本実施形態ではシリコンからなっているが、シリコンに限定されることなく、炭化ケイ素、酸化アルミニウム等のセラミックスや、ガラスなどの脆性材料が使用可能である。電鋳部品126hは、図4図5では歯車部126dに対して軸部材126fが打ち込まれる側に形成されている。
【0031】
電鋳部品126hは、後述するように、基部品126gの少なくともどちらか一方の平面に、電鋳加工によって形成されたもので、本実施形態ではNiからなっている。なお、この電鋳部品126hとしては、Niに限定されることなく、電鋳加工で形成可能な材料であれば種々のものが使用可能である。例えば、Cu、Co、Au等の金属や、Ni−W、Ni−B等の合金、あるいはNi−Al2O3、Ni−SiC等の複合物などが使用可能である。また、この電鋳部品126hは、基部品126gに対して回動不能になっている。
【0032】
また、この電鋳部品126hは、その中心部に保持孔126jが形成されている。この保持孔126jは、その開口形状および横断面形状が円形に形成されたもので、基部品126gの貫通孔126kと同一の中心軸を有し、かつその内径が貫通孔126kよりも小さく形成されたものである。この保持孔126jには、図4図5に示したように中心軸に沿って軸部材126fが打ち込まれ、取り付けられている。
【0033】
軸部材126fは、前述したように上軸部126aと、下軸部126bと、かな部(三番かな)126cとを有し、さらに保持孔126jに打ち込まれる打ち込み部126eと、大径部126iとからなるものである。かな部126cは、図2に示したように二番車124の歯車部124dに歯合し、これによってこの二番車124の回転力を軸部材126fに伝達し、歯車部126dを回転させるものである。
【0034】
打ち込み部126eは、下軸部126bより大径の円柱状のもので、その外形が、電鋳部品126hの保持孔126jの内径にほぼ一致して形成されたものである。また、大径部126iは、打ち込み部126eの上側(下軸部126bと反対の側)に設けられたもので、打ち込み部126eよりさらに大径に形成されたものである。このような構成によって打ち込み部126eは、後述するように電鋳部品126hの保持孔126jに打ち込まれたことにより、該保持孔126jに保持固定されたものとなっている。また、この打ち込み部126eの上側に大径部126iが設けられていることにより、この大径部126iが歯車部126dの上面に当接することで、軸部材126fの打ち込みが完了するようになっている。
【0035】
(番車の製造方法)
次に、このような三番車126の製造方法に基づき、本発明の機械部品の製造方法の一実施形態を、図8図10を参照して説明する。なお、図8図10では、各部材を分かり易くするため、図4、5に示した三番車126とはその大きさや形状を変えて示している。
【0036】
まず、図8(A) に示すように、シリコン基板10を用意する。
そして、図8(B)に示すように、このシリコン基板10の一方の面上に導電膜11を形成する。この導電膜11については、例えば、金、銀、銅、ニッケルなどを用いて形成することができる。導電膜11の成膜については、スパッタリング、蒸着、無電解めっきなどの成膜法を用いることができる。また、導電膜11の膜厚については、数nm(不連続膜)〜数μmの範囲であるのが好ましい。
【0037】
続いて、この導電膜11上にフォトレジストをスピンコート法等によって塗布し、図8(C)に示すように第1のレジスト層12を形成する。そして、第1の露光マスク13を用いてこの第1のレジスト層12を露光する。
【0038】
続いて、現像液によって現像することにより、図8(D)に示すように開口14を形成したレジスト型12aを形成する。そして、このように開口14を形成することで、開口14の底部に導電膜11が露出する。
【0039】
次いで、開口14を形成した基板10を、図10(a)、(b)に示すように電鋳液に浸漬させ、導電膜11を電極として用いることにより、電鋳加工を行う。この電鋳加工では、まず、電鋳すべき金属材料によって電鋳液を選択する。例えば、ニッケル電鋳加工ではスルファミン酸浴、ワット浴、硫酸浴などが用いられる。
【0040】
スルファミン酸浴を用いてニッケル電鋳を行う場合には、図10(a)に示すように、電鋳加工用の処理槽30の中にスルファミン酸ニッケル水和塩を主成分とするスルファミン酸浴31を入れる。また、電鋳すべき金属材料もしくは不溶性の金属材料からなる陽極電極32をスルファミン酸浴31の中に浸漬させる。陽極電極32の金属材料は、電鋳すべき金属材料とするとスルファミン酸浴31の金属イオン濃度が安定する。陽極電極32としては、例えば電鋳すべき金属材料からなるボールを複数用意し、この金属ボールをチタン等で作った金属製のかごの中に入れることで構成する。
【0041】
そして、電鋳加工を行うシリコン基板10をスルファミン酸浴31の中に浸漬し、図10(b)に示すようにシリコン基板10に形成した導電膜11を電源33の陰極に接続し、陽極電極32を電源33の陽極に接続する。
【0042】
すると、スルファミン酸浴31に含まれる金属イオンがシリコン基板10に形成された開口部14の底部に露出する導電膜11上に金属として析出し、図8(E)に示すように開口部14内に電鋳部19が形成される。また、陽極電極32の金属材料を電鋳すべき金属材料とした場合、陽極電極32を構成する金属が、導電膜11上に金属として析出した金属イオンとほぼ同量、イオン化してスルファミン酸浴31に溶け込むので、スルファミン酸浴31の金属イオン濃度を一定に保つことができる。
【0043】
なお、処理槽30に配管(図示せず)を介して弁(図示せず)を接続し、さらにこの配管に濾過用フィルタ(図示せず)を設けることにより、処理槽30から排出されるスルファミン酸浴31を濾過するのが好ましい。そして、このように濾過されたスルファミン酸浴31を、注入用配管(図示せず)によって処理槽30内に返送し、スルファミン酸浴31を循環させるのが好ましい。
【0044】
続いて、処理槽30からシリコン基板10を引き上げ、純水等で洗浄した後、必要に応じて電鋳物19を研磨し、第1のレジスト層12から突出した電鋳部19の突出部分を除去する。
【0045】
次いで、シリコン基板10の電鋳部19を形成した面とは他方の面にフォトレジストをスピンコート法等によって塗布し、図9(F)に示すように第2のレジスト層15を形成する。そして、第2の露光マスク16を用いてこの第2のレジスト層を露光する。
続いて、現像液によって現像することにより、図9(G)に示すように開口17を形成したレジストマスク15aを形成する。
【0046】
次いで、レジストマスク15aを用いてシリコン基板10をエッチングし、図9(H)に示すようにシリコン基板10をパターニングする。このパターニングでは、図6に示した基部品126gに対応する形状を、シリコン基板10に形成する。エッチングについては、RIE(反応性イオンエッチング)等のドライエッチングが用いられる。
【0047】
次いで、図9(I)に示すようにレジスト型12a(第1のレジスト層12)とレジストマスク15a(第2のレジスト層15)をアッシング処理や剥離液等によって除去する。
【0048】
次いで、導電膜11をウエットエッチング等によって除去する。なお、導電膜11は薄いため、シリコン基板10と電鋳部19の間の導電膜11は除去されない。このようにして、図9(J)に示すように本発明にかかる機械部品となる三番車126の歯車部126d、すなわちシリコン基板10からなる基部品126gと、電鋳部19からなる電鋳部品126hを形成する。
【0049】
また、このようにして歯車部126dを形成したら、別に用意した図5に示す軸部材126f(打ち込み部品)を、電鋳部品126hの保持孔126jに打ち込み、貫通孔126kを貫通させる。すなわち、図5に示すように下軸部126b側を保持孔126j内に挿入し、その状態で打ち込みを行うことにより、打ち込み部126eを保持孔126jに嵌合させる。また、このような打ち込みは、大径部126iを電鋳部品126hの上面に当接させることにより、完了させることができる。
【0050】
このようにして軸部材126fを打ち込むことにより、この軸部材126fは保持孔126j内に強固に嵌合し、ここに固定されるようになる。また、軸部材126fを打ち込んだ際には、電鋳部品126hにのみ打ち込み時の負荷がかかるので、歯車部126dには割れが生じるのが防止される。また、打ち込みによって軸部材126fが取り付けられるので、打ち込み部品の軸合わせが容易になり、偏心してしまう不都合が防止される。
【0051】
さらに保持孔126jと貫通孔126kをフォトリソグラフィーにより精度よく形成するので、例えば保持孔を有する金属部品を貼り合わせて保持孔126jを形成するのと異なり、保持孔126jと貫通孔126kの中心ずれを抑えることができ、軸部材126fを保持孔126jで保持しても三番車126が偏心してしまう不都合が防止される。
【0052】
また、電鋳部品126hが貫通孔126kに対して回動不能になっているので、軸部材126fと歯車部126dとの間で回転力が良好に伝達されなくなるといった不都合が確実に防止される。
【0053】
このようにして得られた歯車部126d、あるいはこれに軸部材126fを打ち込んでなる三番車126にあっては、軸部材126fが打ち込まれた際に、シリコンからなる基部品126gに割れが生じるのが防止されているので、生産性が高く、したがって製造コストの低減化が図られた良好なものとなる。
【0054】
また、これら歯車部126dや三番車126の製造方法にあっては、シリコン基板10に割れが生じるのを防止することができ、したがって生産性を向上し、製造コストの低減化を図ることができる。
さらに、これら歯車部126dや三番車126を機械部品として用いた時計にあっては、時計自体の精度向上や、生産性の向上が図られたものとなる。
【0055】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では本発明の機械部品を三番車126やその歯車部126dに適用したが、これ以外の各種の歯車、例えば二番車124や四番車128、がんぎ車130等にも、本発明を適用することができる。
【0056】
また、前記実施形態では、電鋳部品の保持孔内に打ち込む部品として、軸部材を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば打ち込み部品として、軸部材を保持するためのブッシュを用いることもできる。具体的には、図11に示すようにシリコンからなる基部品26gの少なくとも一方の平面に、基部品26gの貫通孔26kと同軸の、保持孔26jを有した電鋳部品26hを形成し、さらにこの電鋳部品26hの保持孔26j内に、打ち込み部品としてのブッシュ27を打ち込みにより取り付けてもよい。
【0057】
ブッシュ27としては、例えばルビー等の結晶性材料が用いられる。そして、このようなブッシュ27を電鋳部品26hの保持孔26j内に打ち込んだ後、さらにこのブッシュ27の内部孔27aに、軸部材26fを打ち込みによって固定する。すると、ブッシュ27を打ち込んだ際には、電鋳部品26hによって打ち込み時の負荷が吸収されるため、基部品26gに割れが生じるのが防止される。また、軸部材26fを打ち込んだ際にも、やはり電鋳部品26hによって打ち込み時の負荷が吸収されるため、基部品26gに割れが生じるのが防止される。
【0058】
したがって、このようにブッシュ27を介して軸部材26fを固定しても、シリコン製の基部品26gに割れを生じさせることなく、軸部材26fを打ち込みによって一体的に取り付け固定することができる。なお、このようなブッシュ27を用いた機械部品としては、特に機械式時計において、時計の姿勢差を克服するために発明された特殊な脱進器であるトゥールビヨンなどに好適に用いられている。
【0059】
また、前記実施形態では、図5に示すように電鋳部品126hの側から軸部材126fを打ち込んで三番車126を形成したが、図12に示すように基部品226gの側から軸部材226fを打ち込んでもよい。また、図13に示すように基部品326gの両面に電鋳部品326hを形成してもよい。
【0060】
また、前記実施形態では、図6に示すように保持孔126jは横断面が円形状となるよう形成したが、図14に示すように角形状の保持孔426jや、図15に示すような複数の円弧からなる保持孔526jなど、種々の形状を採用することができる。
【符号の説明】
【0061】
126 三番車
126d 歯車部
126f 軸部材
126g 基部品
126h 電鋳部品
126j 保持孔
126k 貫通孔
図1
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