特許第6336905号(P6336905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6336905フィルム状接着剤、半導体接合用接着シート、および半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336905
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】フィルム状接着剤、半導体接合用接着シート、および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20180528BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20180528BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180528BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20180528BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20180528BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20180528BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20180528BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   C09J163/00
   C09J201/00
   C09J11/06
   C09J11/04
   C09J133/14
   C09J7/02 Z
   H01L21/78 M
   H01L21/60 311S
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-528238(P2014-528238)
(86)(22)【出願日】2013年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2013070990
(87)【国際公開番号】WO2014021450
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2016年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-172290(P2012-172290)
(32)【優先日】2012年8月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】若山 洋司
(72)【発明者】
【氏名】市川 功
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 高志
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−074144(JP,A)
【文献】 特開2008−260908(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040064(WO,A1)
【文献】 特開2003−171475(JP,A)
【文献】 特開平09−253964(JP,A)
【文献】 特開2008−63551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
H01L 21/301,21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、熱硬化剤(C)及びフィラー(D)を含むフィルム状接着剤であって、
エポキシ樹脂(B)の含有量が、バインダー樹脂(A)100質量部に対して、100〜1000質量部であり、
フィラー(D)の平均粒子径が50nm以下であり、
D65標準光源における全光線透過率が70%以上であり、
ヘイズ値が50%以下であるフィルム状接着剤。
【請求項2】
フィラー(D)を5質量%以上含む請求項1に記載のフィルム状接着剤。
【請求項3】
バインダー樹脂(A)が、エポキシ基含有モノマーに由来する構成単位を5〜30質量%含有するアクリル重合体である請求項1または2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
支持シート上に請求項1〜のいずれかに記載のフィルム状接着剤が接着剤層として剥離可能に形成された半導体接合用接着シート。
【請求項5】
支持シートがウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムまたはウレタンアクリレート硬化物フィルムを構成層として含む請求項に記載の半導体接合用接着シート。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載のフィルム状接着剤または請求項もしくはに記載の半導体接合用接着シートを用いる半導体装置の製造方法であって、
ウエハにフィルム状接着剤または半導体接合用接着シートの接着剤層を貼付する工程、ウエハを個片化しチップを得る工程、及びフィルム状接着剤または接着剤層を介してチップを固定する工程を含む半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップを有機基板やリードフレームあるいは他の半導体チップに接着(ダイボンディング)する工程で使用するのに特に適したフィルム状接着剤、半導体接合用接着シート、ならびに該フィルム状接着剤や該接着シートを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハは大径の状態で製造され、このウエハは素子小片(半導体チップ)に切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるマウント工程に移されている。この際、半導体ウエハは裏面研削工程により薄化され、その後、接着シートに貼着されてダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップの各工程が加えられた後、次工程のボンディング工程に移送される。
【0003】
ボンディング工程において、半導体チップをプリント配線基板に実装する場合には、半導体チップの回路面側の接続パッド部に共晶ハンダ、高温ハンダ、金等からなる導通用突起物(バンプ電極)を形成し、所謂フェースダウン方式により、それらのバンプ電極をチップ搭載用基板上の相対応する端子部に対面、接触させ、溶融/拡散接合するフリップチップ実装方法が採用されることがある。このような実装方法に、近年普及したダイアタッチメントフィルムと呼ばれる、ウエハに貼付したままウエハを個片化してチップを得、ダイボンド時にチップとチップ搭載用基板を接着する用に供される接着フィルムを用いれば、他の形態のアンダーフィル材を用いるよりも簡便である。
【0004】
ところが、かかる実装方法へのダイアタッチメントフィルムの適用において、次のような問題が明らかになった。すなわち、フリップチップ実装方法においては、半導体チップの回路面に形成されたアライメントマークを光学的に読み取ることで、所定の位置に正確にダイボンドすることが可能となる。そのため、接着フィルムが十分な透明性を有していない場合、アライメントマークの読み取りが困難になるという問題が生じる。
【0005】
特許文献1には、波長440nm〜770nmの光の透過率が74%以上である接着フィルム付き電子部品が開示されている。ここに開示される接着フィルムは充填材を含むものでないが、接着フィルムの線膨張係数の調整や、吸湿性の抑制などを目的として、充填材を添加することがある。フリップチップ実装方法において接着フィルムをダイアタッチメントフィルムとして用いる場合は、ウエハの表面側に接着フィルムが貼付されるために、接着フィルムがダイシングシートに覆われずに、露出した状態でダイシングが行われることがあり、この場合、露出した接着フィルムはダイシング時の洗浄水に晒される。したがって、吸湿性の制御を目的として接着フィルムに充填材を添加することが要望される。吸湿性を制御することで、ダイシング時における接着フィルムの耐水性や、得られる半導体装置のパッケージ信頼性を向上させることができる。しかしながら、接着フィルムを構成する他の成分と充填材との光学特性の相違により、接着フィルムの透明性が低下する可能性がある。そのため、半導体チップの回路面に貼付される接着フィルムにより、アライメントマーク読み取り性が不十分となることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−171688
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、フリップ実装方法において所定位置に正確に半導体チップをダイボンドすることができると共に、高いパッケージ信頼性を有する半導体装置を製造できるフィルム状接着剤およびこれを用いた半導体接合用接着シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、以下の要旨を含む。
〔1〕バインダー樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、熱硬化剤(C)及びフィラー(D)を含むフィルム状接着剤であって、
D65標準光源における全光線透過率が70%以上であり、
ヘイズ値が50%以下であるフィルム状接着剤。
【0009】
〔2〕フィラー(D)を5質量%以上含む〔1〕に記載のフィルム状接着剤。
【0010】
〔3〕フィラー(D)の平均粒子径が50nm以下である〔1〕または〔2〕に記載のフィルム状接着剤。
【0011】
〔4〕バインダー樹脂(A)が、エポキシ基含有モノマーに由来する構成単位を5〜30質量%含有するアクリル重合体である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフィルム状接着剤。
【0012】
〔5〕エポキシ樹脂(B)の含有量が、バインダー樹脂(A)100質量部に対して、50〜1000質量部である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフィルム状接着剤。
【0013】
〔6〕支持シート上に〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のフィルム状接着剤が接着剤層として剥離可能に形成された半導体接合用接着シート。
【0014】
〔7〕支持シートがウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムまたはウレタンアクリレート硬化物フィルムを構成層として含む〔6〕に記載の半導体接合用接着シート。
【0015】
〔8〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のフィルム状接着剤または〔6〕もしくは〔7〕に記載の半導体接合用接着シートを用いる半導体装置の製造方法であって、
ウエハにフィルム状接着剤または半導体接合用接着シートの接着剤層を貼付する工程、ウエハを個片化しチップを得る工程、及びフィルム状接着剤または接着剤層を介してチップを固定する工程を含む半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィルム状接着剤およびこれを用いた半導体接合用接着シートによれば、フリップチップ実装方法に適用でき、正確に位置決めしてチップ同士あるいはチップと基板とを相互に接着することができる。また、過酷な環境下においても、高いパッケージ信頼性を示す半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るフィルム状接着剤についてまず説明する。
【0018】
(フィルム状接着剤)
本発明のフィルム状接着剤は、バインダー樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、熱硬化剤(C)及びフィラー(D)を必須成分として含み、各種物性を改良するため、必要に応じ他の成分を含んでいてもよい。以下、これらの各成分について具体的に説明する。
【0019】
バインダー樹脂(A)
バインダー樹脂は、フィルム状接着剤に造膜性と可とう性を与える重合体成分であれば限定されないが、たとえばアクリル重合体、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、セルロース、ポリエチレン、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリイミド樹脂、フェノキシ樹脂、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、異種のバインダー樹脂同士の相溶性が低いことに起因したフィルム状接着剤の透明性の低下を避ける観点からは、単独で用いることが好ましく、2種以上を組み合わせる場合は、組成が似通ったものを選択するなど、相溶性を低下させないように選択することが好ましい。上記に挙げたものの中でも、フィルム状接着剤の種々の特性、特にバインダー樹脂と他の成分の相溶性を調整しやすいアクリル重合体を用いることが好ましい。
【0020】
アクリル重合体としては、従来より公知のアクリル重合体を用いることができる。アクリル重合体の重量平均分子量は1万〜200万であることが好ましく、10万〜150万であることがより好ましい。アクリル重合体の重量平均分子量が低すぎると、後述する半導体接合用接着シートに用いる支持シートとの剥離力が高くなってフィルム状接着剤からなる接着剤層と支持シートの層間剥離不良が起こることがある。また、アクリル重合体の重量平均分子量が高すぎると基板の凹凸にフィルム状接着剤が追従できないことがありボイドなどの発生要因になることがある。
【0021】
アクリル重合体のガラス転移温度は、好ましくは−30〜50℃、より好ましくは−10〜40℃、特に好ましくは0〜30℃の範囲である。ガラス転移温度が低すぎるとフィルム状接着剤からなる接着剤層と支持シートとの剥離力が大きくなって、接着剤層と支持シートの層間剥離の不良が起こることがあり、高すぎるとウエハを固定するための接着力が不十分となるおそれがある。
【0022】
アクリル重合体を構成するモノマー(原料モノマー)は、必須の成分として、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含む。(メタ)アクリル酸エステルモノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、へプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートなどのアルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどの環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;モノメチルアミノ(メタ)アクリレート、モノエチルアミノ(メタ)アクリレート、ジエチルアミノ(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレートなどのカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル;が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、アクリル重合体の原料モノマーとして、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとともに(メタ)アクリル酸、イタコン酸等の(メタ)アクリル酸エステル以外のカルボキシル基を有するモノマー、ビニルアルコール、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸エステル以外の水酸基を有するモノマー、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどを用いてもよい。
【0024】
また、アクリル重合体を構成するモノマーとして、エポキシ樹脂(B)との相溶性が良いアクリル重合体が得られることから、少なくともエポキシ基含有モノマーを用いることが好ましい。この場合、アクリル重合体において、エポキシ基含有モノマーに由来する構成単位は、5〜30質量%の範囲で含まれることが好ましく、10〜25質量%の範囲で含まれることがより好ましい。アクリル重合体が構成単位としてエポキシ基含有モノマーをこのような範囲で含むことで、アクリル重合体とエポキシ樹脂(B)との相溶性の低下に起因したフィルム状接着剤の透明性の低下を避けることが容易となる。エポキシ基含有モノマーとしては、上記に挙げたエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルのほか、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテルなどが挙げられる。
【0025】
また、アクリル重合体は、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸等の活性水素基を有するモノマーに由来する構成単位を含有していてもよい。これにより、フィルム状接着剤に後述する架橋剤(I)を配合することによって、アクリル重合体を架橋せしめることが可能となり、フィルム状接着剤の初期接着力および凝集性を制御することができる。この場合、アクリル重合体において、活性水素基を有するモノマーに由来する構成単位は、1〜30質量%程度の範囲で含まれることが好ましい。
【0026】
アクリル重合体は、上記原料モノマーを用いて、従来公知の方法に従って製造することができる。
【0027】
エポキシ樹脂(B)
エポキシ樹脂(B)としては、従来公知の種々のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素変性エポキシ樹脂や、これらのハロゲン化物などの構造単位中に2つ以上の官能基が含まれるエポキシ樹脂が挙げられる。また、不飽和炭化水素基を有するものを用いてもよい。このようなエポキシ樹脂は、たとえば特開2008−133330に開示されている。エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に限定されないが、150〜250(g/eq)であることが好ましい。エポキシ当量は、JIS K7236;2001に準じて測定される値である。これらのエポキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
本発明のフィルム状接着剤において、エポキシ樹脂(B)の含有量は、バインダー樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは50〜1000質量部、より好ましくは100〜600質量部、さらに好ましくは150〜400質量部である。エポキシ樹脂(B)の含有量が上記範囲にあることにより、フリップチップを基板に実装する工程におけるはんだ加熱時の熱によりエポキシ樹脂(B)が一部硬化してフィルム状接着剤がBステージ状態となり、はんだが流出することを防止することが容易となる。また、エポキシ樹脂(B)の含有量が上記範囲より上回ると、フィルム状接着剤と支持シートとの剥離力が高くなり過ぎ、フィルム状接着剤からなる接着剤層と支持シートの層間剥離の不良が起こることがある。
【0029】
熱硬化剤(C)
熱硬化剤(C)は、エポキシ樹脂(B)に対する熱硬化剤として機能する。熱硬化剤(C)としては、エポキシ基と反応しうる官能基を分子中に2個以上有する化合物が挙げられる。エポキシ基と反応しうる官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物に由来する官能基などが挙げられ、これらの中では、フェノール性水酸基、アミノ基および酸無水物に由来する官能基が好ましく、フェノール性水酸基およびアミノ基がより好ましい。
【0030】
熱硬化剤(C)の具体例としては、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、多官能系フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂などのフェノール系熱硬化剤;DICY(ジシアンジアミド)などのアミン系熱硬化剤が挙げられる。また、不飽和炭化水素基を有する熱硬化剤を用いてもよい。たとえば、特開2008−248129に開示されている、エポキシ基と反応し得る官能基および不飽和炭化水素基を1分子中に有する樹脂は不飽和炭化水素基を有する熱硬化剤として用いることができる。熱硬化剤(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明のフィルム状接着剤において、熱硬化剤(C)の含有量は、エポキシ樹脂(B)100質量部に対して、通常は0.1〜500質量部、好ましくは1〜200質量部、さらに好ましくは10〜100質量部である。熱硬化剤(C)の含有量が上記範囲より下回ると、硬化性が不足して充分な接着力を有するフィルム状接着剤が得られないことがある。
【0032】
フィラー(D)
フィルム状接着剤にフィラー(D)を配合することにより、フィルム状接着剤の線膨張係数を調整できる場合がある。また、フィルム状接着剤の硬化後の吸湿率をより低減することも可能となる。吸湿率を低減することにより、半導体パッケージの信頼性を向上できる。フィラーは、いわゆる無機充填剤、有機充填剤のいずれであってもよいが、耐熱性の観点から無機充填剤が好ましく用いられる。
【0033】
フィラーの材質として、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、カーボンブラック、タルク、マイカ又はクレー等が挙げられる。中でも、透明性、分散性が良好であり、平均粒子径の小さなものが得られやすいシリカが好ましい。フィラーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。フィラーとしてのシリカは有機化合物により表面修飾されたものであってもよい。フィラー(例えばシリカ)の表面修飾に用いられる有機化合物としては、(メタ)アクリロイル基等の不飽和炭化水素基を有するものが挙げられる。表面修飾に用いられる有機化合物が不飽和炭化水素基を有することで、フィルム状接着剤中に不飽和炭化水素基を有する他の成分を含有する場合、フィラーと他の成分の間に結合を形成することができ、フィラーと他の成分との相溶性が向上する。その結果、フィルム状接着剤の全光線透過率やヘイズ値の制御が容易になると共に、フィルム状接着剤を介して、優れた接着強度で半導体チップを他の半導体チップや基板に接合することができる。
【0034】
フィルム状接着剤中のフィラー(D)の含有割合は、フィルム状接着剤を構成する全固形分に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5〜50質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。フィラー(D)の含有割合を上記範囲とすることで、フィルム状接着剤の硬化後の吸湿をさらに低減させることができ、かつフィルム状接着剤におけるフィラーの比率が過度に大きくならず、接着性を損なうことが少ない。
【0035】
フィラー(D)の平均粒子径は、好ましくは50nm以下である。フィラー(D)の平均粒子径を上記範囲とすることで、フィルム状接着剤が、ウエハ等の被着体との貼付性を損なわずに接着性を発揮することができる。また、後述するフィルム状接着剤のヘイズ値や全光線透過率を所望の範囲に調整することが容易になる。かかる効果が得られる理由は以下のとおりと推察する。可視光の波長(360nm程度を下限とする)よりも小さい平均粒子径のフィラーを用いても、かかる粒子によるレイリー散乱と呼ばれる可視光の散乱を回避することができない。しかしながら、フィラー(D)の平均粒子径を上記範囲とすることで、レイリー散乱を低い程度に抑制することができ、ヘイズ値を低く抑え、全光線透過率を高く維持することが可能となる。
フィラー(D)の平均粒子径は、より好ましくは1〜40nm、特に好ましくは10〜30nmである。フィラー(D)の平均粒子径がこのような範囲にあることで、フィルム状接着剤の厚みが厚い場合であっても、ヘイズ値を低く抑え、全光線透過率を高く維持することが可能となる。
フィラー(D)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって測定される体積平均粒子径を示す。
【0036】
他の成分
他の成分としては、下記成分が挙げられる。
【0037】
(E)硬化促進剤
硬化促進剤(E)は、フィルム状接着剤の硬化速度を調整するために用いられる。好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0038】
硬化促進剤(E)を用いる場合、硬化促進剤(E)は、エポキシ樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部の量で含まれる。硬化促進剤(E)を上記範囲の量で含有することにより、高温度高湿度下に曝されても優れた接着性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高いパッケージ信頼性を達成することができる。硬化促進剤(E)の含有量が少ないと硬化不足で十分な接着性が得られず、過剰であると高い極性をもつ硬化促進剤は高温度高湿度下で硬化後のフィルム状接着剤中を接着界面側に移動し、偏析することによりパッケージの信頼性を低下させる。
【0039】
(F)カップリング剤
半導体ウエハやチップ等の無機物と反応する官能基及びバインダー樹脂(A)やエポキシ樹脂(B)等が有する有機官能基と反応する官能基を有するカップリング剤(F)を用いることで、フィルム状接着剤の被着体に対する接着力を向上させることができる。また、フィルム状接着剤を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上させることができる。カップリング剤(F)としては、シランカップリング剤が好ましい。
【0040】
シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。シランカップリング剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
カップリング剤(F)の含有量は、バインダー樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対して、通常は0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部である。カップリング剤(F)の含有量が0.1質量部未満であると、上記効果が得られないことがあり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となることがある。
【0042】
(G)エネルギー線重合性化合物
フィルム状接着剤は、エネルギー線重合性化合物(G)を含有してもよい。エネルギー線重合性化合物(G)は、不飽和炭化水素基を含み、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する。エネルギー線重合性化合物(G)をエネルギー線照射によって重合させることで、フィルム状接着剤の接着力を低下させることができる。このため、支持シートとフィルム状接着剤との層間剥離を容易に行えるようになる。
【0043】
このようなエネルギー線重合性化合物(G)として具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびイタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が挙げられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、重量平均分子量が100〜30000、好ましくは300〜10000程度である。エネルギー線重合性化合物(G)を用いる場合、その配合量は、特に限定はされないが、フィルム状接着剤を構成する全固形分に対して、1〜50質量%程度の割合で用いることが好ましい。
【0044】
(H)光重合開始剤
フィルム状接着剤にエネルギー線重合性化合物(G)を配合する場合、紫外線などのエネルギー線を照射して、フィルム状接着剤からなる接着剤層の支持シートからの剥離性を向上させることができる。フィルム状接着剤中に光重合開始剤(H)を含有させることで、重合・硬化時間および光線照射量を少なくすることができる。
【0045】
光重合開始剤(H)として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2−ジフェニルメタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドおよびβ−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤(H)は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
光重合開始剤(H)の含有量は、エネルギー線重合性化合物(G)100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。光重合開始剤(H)の含有量が前記範囲を下回ると光重合の不足で満足な層間剥離性が得られないことがあり、前記範囲を上回ると光重合に寄与しない残留物が生成し、フィルム状接着剤の硬化性が不充分となることがある。
【0047】
(I)架橋剤
フィルム状接着剤には、その初期接着力及び凝集力を調節するために、架橋剤(I)を添加することもできる。架橋剤(I)としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0048】
有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0049】
有機多価イソシアネート化合物のさらに具体的な例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、トリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネートおよびリジンイソシアネートが挙げられる。
【0050】
有機多価イミン化合物の具体的な例としては、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートおよびN,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0051】
架橋剤(I)はバインダー樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは8〜35質量部、特に好ましくは12〜30質量部の比率で用いられる。
【0052】
(J)汎用添加剤
フィルム状接着剤には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、ゲッタリング剤や連鎖移動剤などが挙げられる。
【0053】
上記の各成分からなるフィルム状接着剤のD65標準光源における全光線透過率は70%以上であり、ヘイズ値は50%以下である。
全光線透過率が70%未満であったり、ヘイズ値が50%を超えると、半導体装置の製造工程において、フィルム状接着剤付チップを基板や他のチップ等に固定(ダイボンド)する際、あるいは、フィルム状接着剤付基板に半導体チップ等を固定する際に、アライメント(位置決め)マークを読み取ることが困難になり、正確にダイボンドすることができない。
フィルム状接着剤のD65標準光源における全光線透過率は、好ましくは75〜100%であり、ヘイズ値は、好ましくは1〜40%である。
フィルム状接着剤の全光線透過率やヘイズ値は、フィラー(D)の平均粒子径や、フィラー(D)以外の各成分の相溶性を調整することにより制御できる。
【0054】
また、フィルム状接着剤の硬化後の吸湿率は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは0〜2%である。フィルム状接着剤の硬化後の吸湿率を上記範囲とすることで、半導体パッケージの信頼性を向上させることができる。なお、吸湿率は後述する実施例における条件および方法により測定される168時間後の吸湿率である。
【0055】
(半導体接合用接着シート)
本発明に係る半導体接合用接着シートは、上記の各成分からなるフィルム状接着剤からなる接着剤層を、支持シート上に積層して製造される。接着剤層は、感圧接着性または熱接着性と加熱硬化性とを有する。接着剤層が感圧接着性を有する場合には、未硬化状態で被着体に押圧して貼付することができる。また、接着剤層が熱接着性を有する場合には、被着体に押圧する際に、接着剤層を加熱して貼付することができる。本発明における熱接着性とは、常温では感圧接着性がないが、熱により軟化して被着体に接着可能となることをいう。したがって、本発明の半導体接合用接着シートにおける接着剤層は、未硬化状態では各種被着体を一時的に保持する機能を有する。そのため、半導体接合用接着シートにより被着体を保持した状態で被着体のシートの貼付されていない面(裏面)の加工、たとえば研削加工を行うことができる。そして、熱硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い硬化物を与えることができ、接着強度にも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な接着性を保持しうる。フィルム状接着剤を構成する接着剤組成物は、上記の各成分を適宜の割合で混合して得られる。混合に際しては、各成分を予め溶媒で希釈しておいてもよく、また混合時に溶媒に加えてもよい。
【0056】
以下、半導体接合用接着シートの好適態様および使用態様について説明する。接着剤層が支持シート上に剥離可能に形成されてなる半導体接合用接着シートの使用に際して、接着剤層をウエハや基板等の被着体に接着し、支持シートを剥離して、接着剤層を被着体に転写する。本発明に係る半導体接合用接着シートの形状は、テープ状、ラベル状などあらゆる形状をとり得る。
【0057】
支持シートは、表面にタックを有しない樹脂フィルムのみからなるもの、もしくは樹脂フィルムに適宜に表面処理等を行ったものであってもよく、または樹脂フィルム上に粘着剤層を備える粘着シートであってもよい。また、樹脂フィルム上に凹凸吸収層を設けてもよい。
【0058】
支持シートとして用いられる樹脂フィルムとしては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルム、ウレタンアクリレート硬化物フィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどのフィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルムなどを用いることができる。接着剤層がエネルギー線硬化性を有する場合には、エネルギー線の透過性があるものが好ましい。また、支持シートと接着剤層の層間剥離を行う前にも被着体の表面を視認できることが要求される場合には、可視光の透過性がある(透明または半透明である)ことが好ましい。
これらの中でも、樹脂フィルムとしては、23℃における貯蔵弾性率が、好ましくは1×10Pa以上、より好ましくは1×10〜1×10Paである樹脂フィルムを用いることが好ましい。また、引張試験に基づく23℃における応力緩和率が、好ましくは40%以上、より好ましくは70〜90%である樹脂フィルムを用いることが好ましい。貯蔵弾性率や応力緩和率が上記範囲の樹脂フィルムを用いることで、ウエハの裏面研削工程において、ウエハの反りやディンプルの発生を抑制できる。
ここで、引張試験に基づく23℃における応力緩和率は、以下の方法により測定される。樹脂フィルムを15mm×140mmにカットしてサンプルを形成する。23℃、相対湿度50%の環境下で、万能引張試験機(SHIMADZU社製オートグラフAG−10kNIS)を用いて、このサンプルの両端20mmを掴み、毎分200mmの速度で引っ張り、10%伸張したときの応力A(N/m)と、テープの伸張停止から1分後の応力B(N/m)とを測定する。これらの応力A、Bの値から、(A−B)/A×100(%)を応力緩和率として算出する。
このようなフィルムの特性は、ウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムや、ウレタンアクリレート硬化物フィルムで得られやすい。ウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムとしては、たとえば特開2007−84722に開示されているものを用いることができる。ウレタンアクリレート硬化物フィルムとしては、たとえば特開平11−343469に開示されているものを用いることができる。
【0059】
本発明に係る半導体接合用接着シートは、各種の被着体に貼付され、被着体に所要の加工を施した後、接着剤層は、被着体に固着残存した状態で支持シートから剥離される。すなわち、接着剤層を、支持シートから被着体に転写する工程を含むプロセスに使用される。このため、支持シートの接着剤層に接する面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下である。下限値は通常25mN/m程度である。このような表面張力が低い支持シートは、樹脂フィルムの材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また樹脂フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0060】
樹脂フィルムの剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0061】
上記の剥離剤を用いて樹脂フィルムの表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーターなどにより塗布して、剥離剤が塗布された支持シートを常温下もしくは加熱下に供するか、または電子線により硬化させて剥離剤層を形成すればよい。
【0062】
また、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などによりフィルムの積層を行うことにより支持シートの表面張力を調整してもよい。すなわち、少なくとも一方の面の表面張力が、上述した支持シートの接着剤層と接する面のものとして好ましい範囲内にあるフィルムを、当該面が接着剤層と接する面となるように、他のフィルムと積層した積層体を製造し、支持シートとしてもよい。
【0063】
支持シートは、上記のような樹脂フィルム上に粘着剤層を備える粘着シートであってもよい。接着剤層を粘着剤層から剥離可能とすることを目的として、粘着剤層は、再剥離性を有する公知の粘着剤から構成することができ、紫外線硬化型、加熱発泡型、水膨潤型、弱粘型等の粘着剤を選択することで、接着剤層の剥離を容易とすることができる。特に、ウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムまたはウレタンアクリレート硬化物フィルムを樹脂フィルムの構成層として用いる場合、これらのフィルムは通常柔軟であり自着性を有していることから、これらが接着剤層と直接接触した構成であると層間剥離が困難となることがある。そこで、このような事態を避けるために支持シートを粘着シートとすることが好ましい。
粘着シートの粘着力は、好ましくは10〜10000mN/25mm、より好ましくは50〜2000mN/25mmである。粘着力は、JIS Z 0237;2009に準拠して、被着体(SUS)に貼付して30分経過後における粘着シートの180°引き剥がし法による粘着力である。粘着シートの粘着力を上記範囲とすることで、粘着剤層から接着剤層を剥離することが容易になる。
また、粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率は、好ましくは1×10Pa以上、より好ましくは1×10〜1×10Paである。貯蔵弾性率が上記範囲の粘着剤層を用いることで、ウエハの裏面研削工程において、ウエハの反りやディンプルの発生を抑制できる。
また、樹脂フィルムの上面、すなわち粘着剤層が設けられる側の樹脂フィルム表面には粘着剤層との密着性を向上させるために、コロナ処理を施したり、プライマー層を設けてもよい。また、粘着剤層とは反対面に各種の塗膜を塗工してもよい。
【0064】
樹脂フィルム上に設けられる凹凸吸収層は、たとえば従来より公知の種々の粘着剤により形成され、凹凸吸収層と粘着剤層を兼ねる層であってもよい。粘着剤としては、何ら限定されるものではないが、例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の粘着剤が用いられる。また、エネルギー線硬化型や加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤も用いることができる。また、ウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムまたはウレタンアクリレート硬化物フィルムを凹凸吸収層として用いてもよい。さらに、ウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムまたはウレタンアクリレート硬化物フィルムからなる凹凸吸収層上にさらに粘着剤層が設けられていてもよい。なお、支持シートがウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムまたはウレタンアクリレート硬化物フィルムを複数有する場合は、粘着剤層から最も遠い位置にあるものを除いて、ウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムまたはウレタンアクリレート硬化物フィルムは、凹凸吸収層とみなす。
ウレタンポリマーとビニル系ポリマーとからなる複合フィルムまたはウレタンアクリレート硬化物フィルムとしては、上述したものを用いることができるほか、ウレタンアクリレート硬化物フィルムとして、特開2011−068727に開示されている、ウレタンアクリレート系オリゴマーと、分子内にチオール基を有する化合物とを含有するエネルギー線硬化型組成物を硬化してなるシートを樹脂フィルムに積層させて凹凸吸収層としてもよい。
凹凸吸収層の23℃における貯蔵弾性率は、好ましくは1×10Pa以上、より好ましくは3×10〜3×10Paである。また、凹凸吸収層の20%捻り応力付加の10秒後における応力緩和率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80〜99.9%である。貯蔵弾性率や応力緩和率が上記範囲の凹凸吸収層を用いることで、ウエハの半導体接合用接着シートが貼付される面に数十μm程度の高さを有する突起が形成されていても、突起を凹凸吸収層が吸収し、半導体接合用接着シートの表面を平坦に保つことができる。また、このような突起の高さよりも接着剤層の厚さが薄い場合であっても、凹凸吸収層が、接着剤層を貫通した突起を吸収することで接着剤層がウエハ表面に接近・到達し、接着剤層をウエハ表面に接着させることができる。
【0065】
また、半導体接合用接着シートは、支持シート及び接着剤層が、予め被着体(半導体ウエハ等)と同形状に型抜きされてなる形状であってもよい。特に、支持シート及び接着剤層からなる積層体が、長尺の工程フィルム上に連続的に保持された形態であってもよい。工程フィルムとしては、上記支持シートとして例示した樹脂フィルムを用いることができる。
【0066】
支持シートの厚さは、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μm程度である。支持シートが粘着シートである場合には、通常支持シートの厚さにおいて1〜50μm程度の厚さを粘着剤からなる層が占める。また、凹凸吸収層が設けられている場合には、通常支持シートの厚さにおいて10〜450μm程度の厚さを凹凸吸収層が占める。また、接着剤層の厚みは、通常は2〜500μm、好ましくは6〜300μm、特に好ましくは10〜150μm程度である。接着剤層の厚みは、貼付されるウエハに形成されている凸部の高さと略同一であることが好ましい。
【0067】
半導体接合用接着シートには、使用前に接着剤層を保護するために、接着剤層の上面に剥離フィルムを積層しておいてもよい。該剥離フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルムなどのプラスチック材料にシリコーン樹脂などの剥離剤が塗布されているものが使用される。
【0068】
半導体接合用接着シートの製造方法は、特に限定はされず、支持シートが樹脂フィルムである場合には、樹脂フィルム上に、接着剤組成物を塗布乾燥し、接着剤層を形成することで製造してもよい。また接着剤層を剥離フィルム上に設け、これを上記樹脂フィルムまたは粘着シートに転写することで製造してもよい。また、半導体接合用接着シートは、接着剤層に貼付されるウエハの形状と同一形状またはウエハよりも大きい同心円の形状等となるように、打ち抜き加工等により切断されてもよい。
【0069】
次に本発明に係る半導体接合用接着シートの利用方法について、該接着シートをウエハに貼付して半導体装置の製造に適用した場合を例にとって説明する。
【0070】
(半導体装置の製造方法)
本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記半導体接合用接着シートの接着剤層をウエハに貼付する工程、ウエハを個片化しチップを得る工程、及び接着剤層を介してチップを固定する工程を含む。
【0071】
以下、本発明に係る半導体装置の製造方法の一部の例について詳述する。
本発明に係る半導体装置の第1の製造方法においては、まず、表面に回路が形成された半導体ウエハの回路面に半導体接合用接着シートを貼付する。貼付する際には、半導体ウエハの回路面を半導体接合用接着シートの接着剤層上に載置し、軽く押圧し、場合によって熱を加えて接着剤層を軟化させながら半導体ウエハを固定してもよい。次いで必要に応じ、半導体接合用接着シートにより半導体ウエハの回路面が保護された状態で、ウエハの裏面を研削し、所定厚みのウエハとする。
【0072】
半導体ウエハはシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。半導体ウエハの回路形成工程において、所定の回路が形成される。このようなウエハの研削前の厚みは特に限定はされないが、通常は500〜1000μm程度である。また、半導体ウエハの表面形状は特に限定はされないが、突起状電極が形成されていてもよい。突起状電極としては、円柱型電極、球状電極等が挙げられる。また、貫通電極を有する半導体ウエハであってもよい。半導体ウエハへの半導体接合用接着シートの貼付方法は特に限定されない。
【0073】
裏面研削は、半導体接合用接着シートが貼付されたままグラインダー及びウエハ工程のための吸着テーブル等を用いた公知の手法により行われる。裏面研削工程の後、研削によって生成した破砕層を除去する処理が行われてもよい。裏面研削後の半導体ウエハの厚みは、特に限定されないが、好ましくは10〜400μm、特に好ましくは25〜300μm程度である。本発明の半導体接合用接着シートによれば、ウエハの裏面研削時にはウエハを確実に保持し、また切削水の回路面への侵入を防止できると共に、ウエハ反りやディンプルの発生を防止できる。
【0074】
裏面研削工程後、ウエハの裏面に、いわゆるダイシングシートと呼ばれる粘着シートを貼付する。ダイシングシートの貼付はマウンターと呼ばれる装置により行われるのが一般的だが特に限定はされない。次いで、ウエハの回路面に接着剤層を残留させて、支持シートのみを剥離する。支持シートを剥離する方法は特に限定されない。
【0075】
その後、ダイシングシートに貼付されたウエハのダイシングを行い、ウエハを個片化しチップを得る。
【0076】
半導体ウエハの切断手段は特に限定されない。一例としてウエハの切断時にはダイシングシートの周辺部をリングフレームにより固定した後、ダイサーなどの回転丸刃を用いるなどの公知の手法によりウエハのチップ化を行う方法などが挙げられる。この際の切断深さは、接着剤層の厚みと半導体ウエハの厚みとの合計およびダイシングソーの磨耗分を加味した深さにする。また、レーザー光により接着剤層とウエハを切断してもよい。
【0077】
次いで必要に応じ、ダイシングシートのエキスパンドを行うと、半導体チップ間隔が拡張し、半導体チップのピックアップをさらに容易に行えるようになる。この際、チップとダイシングシートとの間にずれが発生することになり、チップとダイシングシートとの間の接着力が減少し、半導体チップのピックアップ性が向上する。このようにして半導体チップのピックアップを行うと、切断された接着剤層を半導体チップ回路面に固着残存させてダイシングシートから剥離することができる。
【0078】
次いで、半導体チップのボンディング工程(ダイボンド)が行われる。ボンディング工程では、接着剤層を介して半導体チップを、リードフレームのダイパッド上または別の半導体チップ(下段チップ)表面に載置する(以下、チップが搭載されるダイパッドまたは下段チップ表面を「チップ搭載部」と記載する)。本発明においては、半導体チップの表面に固着した接着剤層の全光線透過率やヘイズ値が所定の範囲であるために、ダイボンド時にチップ表面のアライメントマークを容易に読み取ることができる。その結果、半導体チップをチップ搭載部に正確にダイボンドすることができる。チップ搭載部は、半導体チップを載置する前に加熱してもよく、また、チップの載置直後に加熱してもよい。加熱温度は、通常は80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、加熱時間は、通常は0.1秒〜5分、好ましくは0.5秒〜3分であり、載置するときの圧力は、通常1kPa〜200MPaである。
【0079】
半導体チップをチップ搭載部に載置した後、必要に応じ下記の樹脂封止での加熱を利用した接着剤層の硬化とは別に接着剤層の硬化のための加熱を行ってもよい。この際の加熱条件は、上記加熱温度の範囲であって、加熱時間は通常1〜180分、好ましくは10〜120分である。
【0080】
また、載置後の加熱処理は行わずに仮接着状態としておき、パッケージ製造において通常行われる樹脂封止での加熱を利用して接着剤層を硬化させてもよい。このような工程を経ることで、接着剤層が硬化し、半導体チップとチップ搭載部とを強固に接着し、チップを固定することができる。接着剤層はダイボンド条件下では流動化しているため、チップ搭載部の凹凸にも十分に埋め込まれ、ボイドの発生を防止できパッケージの信頼性が高くなる。
【0081】
本発明に係る半導体装置の第2の製造方法においては、上記第1の製造方法と同様に、半導体ウエハの回路面に半導体接合用接着シートを貼付し、ウエハの裏面を研削する。裏面研削工程の後、研削によって生成した破砕層を除去する処理が行われてもよい。
【0082】
裏面研削後、ウエハの裏面側からウエハ内部にレーザー光を照射する。レーザー光はレーザー光源より照射される。レーザー光源は、波長及び位相が揃った光を発生させる装置であり、レーザー光の種類としては、パルスレーザー光を発生するNd−YAGレーザー、Nd−YVOレーザー、Nd−YLFレーザー、チタンサファイアレーザーなど多光子吸収を起こすものを挙げることができる。レーザー光の波長は、800〜1100nmが好ましく、1064nmがさらに好ましい。
【0083】
レーザー光はウエハ内部に照射され、切断予定ラインに沿ってウエハ内部に改質部が形成される。ひとつの切断予定ラインをレーザー光が走査する回数は1回であっても複数回であってもよい。好ましくは、レーザー光の照射位置と、回路間の切断予定ラインの位置をモニターし、レーザー光の位置合わせを行いながら、レーザー光の照射を行う。なお、切断予定ラインは、ウエハ表面に形成された各回路間を区画する仮想的なラインである。
【0084】
改質部形成後、ウエハ裏面にダイシングシートを貼付する。次いで、ウエハの回路面に接着剤層を残留させて、支持シートのみを剥離する。
【0085】
次いで、ダイシングシートに貼付されたウエハのダイシングを行い、ウエハを個片化しチップを得る。半導体ウエハは、ダイシングシートをエキスパンドすることによりチップ化される。つまり、レーザー光照射によりウエハ内部に改質部を形成した後、エキスパンドを行うと、ダイシングシートは伸長し、半導体ウエハは、ウエハ内部の改質部を起点として個々のチップに切断分離される。この際には、個々のチップサイズに接着剤層も切断分離する。また、エキスパンドと同時にダイシングシートを治具等を用いてひっかくようにして、ダイシングシートを伸長し接着剤層とウエハをチップ毎に切断分離することもできる。エキスパンドは、−20〜40℃の環境下、5〜600mm/分の速度で行うことが好ましい。また、エキスパンド工程後、エキスパンドされたダイシングシートのたるみを解消するためにヒートシュリンクを行うこともできる。その後、表面に接着剤層を有するチップはピックアップされ、ボンディング工程を経て半導体装置が製造される。ボンディング工程は、上記第1の製造方法と同様である。
【0086】
以上詳述した第1の製造方法および第2の製造方法は、あくまでも本発明の製造方法の一部の例を示したにすぎず、本発明の製造方法は他の態様もとりうる。たとえば、半導体接合用シートを用いず、ウエハにはフィルム状接着剤を単独で貼付し、ウエハの裏面研削のための保護シートを別途フィルム状接着剤上に貼付してもよい。
また、フィルム状接着剤または半導体接合用接着シートをウエハに貼付する前の段階でウエハの裏面研削が終了しており、フィルム状接着剤または半導体接合用接着シートの貼付後はウエハの裏面研削を行わない製造方法であってもよい。
また、ウエハの個片化方法は、ウエハの表面側からウエハの厚さよりも小さい深さの溝を形成し、ウエハの裏面を溝に達するまで研削することにより個片化を行う、いわゆる先ダイシング法によるものであってもよいし、特開2004−111428に記載されているような、ウエハの表面からレーザー光をチップの形状に合わせて入射させ、ウエハ内部に改質領域を形成する工程に、ウエハの裏面を研削する工程を付加したウエハの分割方法であってもよい。
【0087】
上記の半導体装置の製造方法からも明らかなように、本発明に係る半導体接合用接着シートは、ウエハの裏面研削工程からチップのボンディング工程まで適用できるバックグラインディング・ダイボンディングシートとして用いることができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、各評価は以下のように行った。
【0089】
<ヘイズ値及び全光線透過率>
接着剤組成物(1)〜(5)を用い、各接着剤組成物を剥離フィルム(リンテック社製SP−PET381031)に塗布した後に、乾燥(オーブンにて100℃、1分間)させ、厚み20μmのフィルム状接着剤を作製した。また、別に厚み20μmのフィルム状接着剤を作製し、フィルム状接着剤を積層することで、厚み40μm、60μm、80μm、100μmのフィルム状接着剤を得た。次いで、剥離フィルムを剥離し、評価用サンプルとした。ヘイズメーター(日本電色工業社製 NDH−5000)を用いて、JIS K7136:2000に準拠して、評価用サンプルにおけるフィルム状接着剤のヘイズ値(%)を測定した。また、JIS K7361:2000に準拠して、評価用サンプルにおけるフィルム状接着剤のD65標準光源における全光線透過率(%)を測定した。
【0090】
<吸湿率>
接着剤組成物(1)〜(5)を用い作製したフィルム状接着剤(50mm角)を、200μmの厚さに積層し、積層シートを得、評価用サンプルとした。評価用サンプルを140℃のオーブンで1時間加熱硬化後、湿熱条件(85℃、相対湿度85%)に所定時間(24時間及び168時間)投入し、投入前後での硬化物の重量変化(%)を測定し、24時間後および168時間後の吸湿率を得た。
【0091】
<アライメント>
ウォルツ社製8インチウエハ「WALTS-TEG MB50-0101JY_TYPE-B(ポリイミド膜有り)、厚み725μm」を準備した。このウエハ上に形成された各個片化予定領域上には、544個のパッドが存在する。それらの各パッドに対して、30μmの高さのCuピラーを作製し、更にそれらのCuピラー上にSnAgはんだを15μmの高さで設け、合計高さ45μmのバンプとした。以上の手順により、フリップチップ型ウエハを模した評価用ウエハを用意した。
【0092】
評価用ウエハのバンプ設置面に対して、実施例および比較例で得た半導体接合用接着シートをフルオートバックグラインドテープ用テープラミネーター(リンテック株式会社製RAD-3510F/12)を用いてラミネートした。
次いで、ウエハバックグラインド装置(株式会社ディスコ製DGP8760)を用いて研磨及びドライポリッシュ処理を行い、300μm厚のウエハを得た。その後、フルオートマルチウエハマウンタ(リンテック株式会社製RAD-2700F/12)を用いて、ドライポリッシュ面に紫外線(UV)硬化型ダイシングテープ(リンテック株式会社製 Adwill D-678)を貼付しリングフレームに固定した。
続いて、同装置により半導体接合用接着シートの支持シートを剥離し、接着剤層を暴露させた。その後、フルオートダイシングソー(株式会社ディスコ製DFD651)を用いてダイシングを行い、各チップを個片化した(7.3mm×7.3mm)。
整列したチップが付着したダイシングテープに対して、セミオートUV照射装置(リンテック株式会社製RAD-2000m/12)を用いてUV照射を行い(照度230mW/cm、光量180mJ/cm、窒素雰囲気下)、ダイシングテープの粘着力を低下させた。次いで、手作業により接着剤層の付着したチップをダイシングテープより剥離し、固着防止のためにチップ収納部底面に剥離フィルム(リンテック株式会社製 SP-PET381031)を貼付したチップトレイに接着剤層側が下を向くようにして収納した。
フリップチップボンダー(九州松下株式会社製、商品名「FB30T-M」)を用い、個片化された接着剤層付きチップをチップトレイから取り出し、そのバンプ設置面(接着剤層が貼付されている面)のパターン認識可否を評価した。チップ10個の試験を行い、10個ともパターン認識可能であったものを「A」、6〜9個であったものを「B」と、5個以下であったものを「C」とした。
【0093】
〔フィルム状接着剤の製造例〕
フィルム状接着剤を構成する接着剤組成物(1)〜(5)の各成分は、下記及び表1の通りである。下記の成分及び表1の配合量に従い、各成分を配合して接着剤組成物(1)〜(5)を調整した。表1中、各成分の数値は固形分換算の質量部を示し、本発明において固形分とは溶媒以外の全成分をいう。
【0094】
(A)アクリル重合体:n−ブチルアクリレート55質量部、メチルアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート20質量部及び2−ヒドロキシエチルアクリレート15質量部からなるアクリル重合体(重量平均分子量:90万、ガラス転移温度:−28℃)
(B1)エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 jER828、エポキシ当量:235g/eq)
(B2)エポキシ樹脂:ノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製 EOCN−104S、エポキシ当量:218g/eq)
(C)熱硬化剤:ノボラック型フェノール樹脂(DIC社製 TD−2131、フェノール性水酸基当量:103g/eq)
(D1)フィラー:シリカフィラー(日産化学社製 MEK−ST、平均粒子径:10〜15nm)
(D2)フィラー:シリカフィラー(アドマテックス製 YA050C−MJE、平均粒子径:50nm)
(D3)フィラー:シリカフィラー(アドマテックス製 アドマファインSC2050、平均粒子径:500nm)
(D4)フィラー:カーボンブラック(三菱化学社製 #MA650、平均粒子径:28nm)
(E)硬化促進剤:2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製 キュアゾール2PHZ−PW)
(F)カップリング剤:シランカップリング剤(信越化学社製 KBE−403)
【0095】

【表1】
【0096】
上記の接着剤組成物(1)〜(5)を用いてフィルム状接着剤を形成し、各評価を行った。結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
(実施例1)
重量平均分子量5000のウレタンアクリレート系オリゴマー(荒川化学社製)50質量部と、イソボルニルアクリレート50質量部と、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・ガイギー社製)2.0質量部と、フタロシアニン系顔料0.2質量部とを配合して光硬化型樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、ファウンテンダイ方式により、キャスト用工程シートである剥離処理したPETフィルム(リンテック株式会社製、SP−PET381031)の上に厚みが110μmとなるように塗工して樹脂組成物層を形成した。塗工直後に、樹脂組成物層の上にさらに同じ剥離処理したPETフィルムをラミネートし、その後、高圧水銀ランプ(160W/cm、高さ10cm)を用いて、光量250mJ/cm の条件で紫外線照射を行うことにより樹脂組成物層を架橋・硬化させて、2枚の剥離フィルムに挟持された厚さ110μmの樹脂フィルムを得た。
【0099】
次いで、別途他の剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP−PET381031)を準備した。2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレートを80:10:10の質量比で重合した重量平均分子量70万のアクリル酸エステル共重合体の、濃度が40質量%であるトルエン溶液100質量部(溶媒を含む量)にイソシアネート系架橋剤(ポリウレタン工業株式会社製、コロネートL)20質量部(溶媒を含む量)を添加した粘着剤層形成用塗工液を調整した。該粘着剤層形成用塗工液を、他の剥離フィルムの剥離処理面に乾燥後の厚さが10μmとなるように塗布し、80℃で2分間の乾燥およびそれに続く100℃で1分間の乾燥を行い、他の剥離フィルム上に形成された粘着剤層を得た。
【0100】
この粘着剤層を樹脂フィルムに転写し、キャスト用工程シートを除去して23℃、相対湿度50%の環境下に14日間保管することで養生を行い、粘着シート(支持シート1)を得た。
【0101】
接着剤組成物(1)をメチルエチルケトンにて固形分濃度が50質量%となるように希釈し、シリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製 SP−PET381031)上に乾燥後厚みが20μmになるように塗布・乾燥(乾燥条件:オーブンにて100℃、1分間)して、剥離フィルム上に形成されたフィルム状接着剤を得た。当該操作を繰り返し、別の剥離フィルム上に形成された、乾燥後の厚みが20μmのフィルム状接着剤を得た。次いで、得られたフィルム状接着剤を積層し、厚みが40μmのフィルム状接着剤を作成した。
その後、フィルム状接着剤と上記の粘着シートから他の剥離フィルムを除去して露出させた粘着シートの粘着剤層とを貼り合わせて、フィルム状接着剤を粘着シート上に転写することで、所望の半導体接合用接着シートを得た。各評価結果を表3に示す。
【0102】
(実施例2)
重量平均分子量4000のポリプロピレングリコール(以下PPG4000と記述)33gとイソホロンジイソシアネート5gを重合させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ペンタエリスリトールトリアクリレート10gを反応させ、重量平均分子量が17350のウレタンアクリレート系オリゴマーを得た。
【0103】
得られたウレタンアクリレート系オリゴマー100g(固形分)、希釈モノマーとしてイソボルニルアクリレート66.7g、及び光重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバスペシャルティケミカルズ社製:ダロキュア1173、固形分濃度100質量%)0.83g、チオール基を有する化合物として、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(堺化学工業社製:PEMP、固形分濃度100質量%)39.2g(80.2mmol)を添加し、常温液体のエネルギー線硬化型組成物を得た。
【0104】
キャスト用工程シートである剥離処理したPETフィルム(リンテック株式会社製:SP−PET381031)上に、上記エネルギー線硬化型組成物を、ファウンテンダイ方式で厚み90μmとなるように塗布して硬化型組成物層を形成し、その後、硬化型組成物層側から紫外線照射した。紫外線照射装置として、ベルトコンベア式紫外線照射装置(アイグラフィクス社製:ECS−401GX)、紫外線源は高圧水銀ランプ(アイグラフィクス社製:H04−L41)を使用した{照射条件:ランプ高さ150mm、ランプ出力3kW(換算出力120mW/cm)、光線波長365nmの照度271mW/cm、光量177mJ/cm(オーク製作所社製紫外線光量計:UV−351)}。その後、照射直後に硬化型組成物層の上に、実施例1の樹脂フィルムを貼り合わせ、樹脂フィルム側からさらに紫外線照射を2回行い、組成物を架橋・硬化させた{照射条件:ランプ高さ150mm、ランプ出力3kW(換算出力120mW/cm)、光線波長365nmの照度271mW/cm、光量600mJ/cm(オーク製作所社製紫外線光量計:UV−351)}。その後、剥離処理したPETフィルムを剥離して厚さ90μmの凹凸吸収層が積層された樹脂フィルムを得た。
この積層体の凹凸吸収層に実施例1の粘着剤層を転写し、23℃、相対湿度50%の環境下に14日間保管することで養生を行い、凹凸吸収層付き粘着シート(支持シート2)を得た。
次いで、厚みが20μmのフィルム状接着剤を積層し、フィルム状接着剤の厚みが100μmとなるようにした以外は実施例1と同じ手順で形成したフィルム状接着剤を得、凹凸吸収層付き粘着シートの粘着剤層に転写することで半導体接合用接着シートを得た。各評価結果を表3に示す。
【0105】
(実施例3)
接着剤組成物(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして半導体接合用接着シートを得た。各評価結果を表3に示す。
【0106】
(実施例4)
接着剤組成物(2)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして半導体接合用接着シートを得た。各評価結果を表3に示す。
【0107】
(実施例5)
支持シートとして、厚み100μmの低密度ポリエチレンフィルム(支持シート3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして半導体接合用接着シートを得た。各評価結果を表3に示す。
【0108】
(比較例1)
接着剤組成物(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして半導体接合用接着シートを得た。各評価結果を表3に示す。
【0109】
(比較例2)
接着剤組成物(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして半導体接合用接着シートを得た。各評価結果を表3に示す。
【0110】
【表3】
上記結果から、本発明の半導体接合用接着シートは、ダイボンド時のアライメントに優れることが分かる。また、フィラー(D)の配合されていない接着剤組成物(5)は、他の接着剤組成物と比較して吸湿性に劣る。