【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
本実施例では、以下のように、マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞;フィーダー細胞)上で維持培養した未分化ヒトiPS細胞を、ビトロネクチン(VTN−N)でコーティングした培養ウェル中、フィーダー細胞の非存在下に移行し、MEF馴化栄養培地の存在下で培養した。
【0063】
1.ヒトiPS細胞の調製
iPSアカデミアジャパン株式会社(日本、京都)より入手した201B7細胞株(Takahashi K., et al., Cell 131, 1-12 (2007))をヒトiPS細胞(未分化ヒトiPS細胞)として使用した。ヒトiPS細胞は、マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞MEF(フィーダー細胞)を播いたプラスチック培養ディッシュの上で維持培養した。培養には、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F−12 Ham; Sigma D6421)に終濃度20%のKNOCKOUT
TM SR(KnockOut
TM Serum Replacement(KSR); GIBCO社)、0.1 mM NEAA(non−essential amino acids; 非必須アミノ酸)、2 mM L−グルタミン、5 ng/ml ヒトFGF2(塩基性FGF又はbFGFとも称される)及び0.1 mM 2−メルカプトエタノールを添加して調製した培地を用い、37℃にてCO
2インキュベーター内で培養した(5%CO
2濃度)。継代は6〜7日毎に行った。継代の際には、解離液(コラゲナーゼ溶液)を用いて、ヒトiPS細胞のコロニーをフィーダー細胞層から解離し、ピペット操作で20〜50個程度の小塊にした後、新しいフィーダー細胞層の上に播いた。
【0064】
以上のようにしてフィーダー細胞上で維持培養したヒトiPS細胞を、解離液で解離し、ピペット操作で20〜50個程度の小塊にし、300rpmで5分間遠心することによりiPS細胞を回収した。回収したiPS細胞をゼラチンでコートした培養ディッシュ上で30分インキュベートして、MEF細胞をディッシュに接着させ、培地中に浮遊しているiPS細胞を回収することによりMEF細胞を除去した。続いて回収したiPS細胞を4分の1に分け(1/4分割)、ビトロネクチン(VTN−N;Gibco社)でコーティングされたプラスチック培養ディッシュに播種した。培養ディッシュのビトロネクチン(VTN−N)によるコーティングは、0.5μg/cm
2の濃度のビトロネクチン溶液で室温にて1時間インキュベートすることにより行った。
【0065】
2.馴化培地の調製
馴化培地(CM)は、マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を用いて無血清培地から調製した。マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞MEFを、MEF用培地(10%FBSを添加したDMEM培地)中に約500,000 細胞/直径60mmディッシュの細胞密度で播種した。細胞を少なくとも16時間培養した後、PBS(−)、次いで無血清培地で洗浄し、培地を同じ無血清培地に置換した。用いた無血清培地の組成は以下の通りである。
【0066】
・無血清培地A(DMEM/F12培地、64mg/L 2−リン酸アスコルビン酸マグネシウム、及び543mg/L 炭酸水素ナトリウム)
・無血清培地A+ITS(DMEM/F12培地、64mg/L 2−リン酸アスコルビン酸マグネシウム、543mg/L 炭酸水素ナトリウム、1% ITS(インスリン−トランスフェリン−セレン; Life technologies社))
無血清培地には、馴化前に、増殖因子として100μg/L ヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加した(FGF+TGF添加)。並行して、増殖因子を添加しない無血清培地を用いた馴化培地の調製も行った。
【0067】
培地を置換した後、24時間CO
2インキュベーター内でインキュベートした(37℃、5%CO
2濃度)。
【0068】
24時間培養した後の培地を回収し、1000rpmで5分間遠心し、得られた液体培地(上清)をMEF馴化培地とした。
【0069】
3.フィーダー細胞を使用しないiPS細胞の培養
本実施例の1.でビトロネクチン(VTN−N)でコーティングされた培養ディッシュに播種したiPS細胞に、本実施例の2.で調製したMEF馴化培地を2ml加えた。増殖因子としてヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加せずに調製したMEF馴化培地には、この段階で100μg/L ヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加した。iPS細胞をMEF馴化培地で37℃、5%CO
2濃度で5日間培養した。
【0070】
培養後の細胞をアルカリフォスファターゼで染色した。染色は、培養プレート上の細胞を10%ホルマリンで固定化した後、1mlのOne−step NBT/BCIP溶液(Pierce社)を加え、室温にて遮光して30分静置することにより行った。
【0071】
図1に示すように、無血清培地A+ITSを用いて調製したMEF馴化培地においてiPS細胞の高い増殖性が認められた(
図1A、C)。なお、馴化後に増殖因子を加えてもiPS細胞は良好な増殖性を示した(
図1C)が、増殖因子を加えた培地で調製した馴化培地を用いると、iPS細胞の増殖性のさらなる向上が認められた(
図1A)。
【0072】
[比較例1]
無血清培地として、無血清培地A(DMEM/F12、64mg/L 2−リン酸アスコルビン酸マグネシウム、543mg/L 炭酸水素ナトリウム)を使用し、増殖因子を加えずにMEF馴化培地を調製し、それをiPS細胞に添加して培養に用いる際に1% ITS(インスリン−トランスフェリン−セレン)、100μg/L ヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加したこと以外は、実施例1と同様にして無血清馴化培地でiPS細胞を培養した。
【0073】
アルカリフォスファターゼ染色後の観察結果を
図1Dに示す。ITS及び増殖因子を含まない無血清培地Aを用いて調製したMEF馴化培地においては、iPS細胞培養時にITS、ヒトFGF2及びTGF−β1を添加しても、iPS細胞の増殖はほとんど認められなかった。
【0074】
[比較例2]
実施例1と同様にしてiPS細胞を調製し、ビトロネクチン(VTN−N)でコーティングされた培養ディッシュに播種したiPS細胞に、MEFにより馴化していない無血清培地A+ITS(DMEM/F12、64mg/L 2−リン酸アスコルビン酸マグネシウム、543mg/L 炭酸水素ナトリウム、1% ITS(インスリン−トランスフェリン−セレン; Life technologies社))を添加した。さらに100μg/L ヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加し、実施例1と同様にしてiPS細胞を培養した。
【0075】
アルカリフォスファターゼ染色後の観察結果を
図1Bに示す。MEFにより馴化していない、無血清培地A+ITSを用いてiPS細胞を培養した場合、増殖因子を添加しても、iPS細胞の増殖性は低かった。
【0076】
[比較例3]
無血清培地として、無血清培地B+ITS(DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、2mM L−グルタミン、0.1mM NEAA(non−essential amino acids; 非必須アミノ酸)、1% ITS(インスリン−トランスフェリン−セレン)、0.1mM β−メルカプトエタノール)を使用し、増殖因子として100μg/L ヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加して(FGF+TGF添加)馴化を行ったこと以外は、実施例1と同様にして無血清馴化培地でiPS細胞を培養した。また、MEFにより馴化していない無血清培地B+ITSを用いて、比較例2と同様に100μg/L ヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加してiPS細胞を培養した実験も行った。
【0077】
アルカリフォスファターゼ染色後の観察結果を
図1に示す。無血清培地B+ITSを用いて調製したMEF馴化培地においても(
図1E)、MEF細胞により馴化していない無血清培地B+ITSにおいても(
図1F)、MEF細胞による馴化の有無にかかわらず、iPS細胞の増殖は認められなかった。この結果から、無血清培地B+ITSを用いて調製した馴化培地には、無血清培地A+ITSを用いて調製した馴化培地とは異なり、iPS細胞の増殖を促進する因子は分泌されないことが示された。
【0078】
[実施例2]
本実施例では、以下のように、マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞MEF(フィーダー細胞)上で維持培養した未分化ヒトiPS細胞を、マトリゲル、ビトロネクチン(VTN−N)、又はPCM−DMでコーティングした培養ウェル中、フィーダー細胞の非存在下に移行し、MEF細胞馴化栄養培地の存在下で培養した。PCM−DMは、ヒト脱落膜由来の間葉系細胞の細胞外マトリクス(D. Kanematsu et al: Differentiation, 82, 77-88, 2011)である。
【0079】
1.ヒトiPS細胞の調製
iPSアカデミアジャパン株式会社より入手した201B7細胞株をヒトiPS細胞(未分化ヒトiPS細胞)として使用した。ヒトiPS細胞は、マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞MEF(フィーダー細胞)を播いたプラスチック培養ディッシュの上で維持培養した。培養には、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F−12 Ham; Sigma D6421)に終濃度20%のKNOCKOUT
TM SR(KnockOut
TM Serum Replacement (KSR); GIBCO社)、0.1 mM NEAA(non−essential amino acids; 非必須アミノ酸)、2 mM L−グルタミン、5 ng/ml ヒトFGF2(bFGF又はFGF2とも称される)及び0.1 mM 2−メルカプトエタノールを添加して調製した培地を用い、37℃にてCO
2インキュベーター内で培養した(5%CO
2濃度)。継代は6〜7日毎に行った。継代の際には、解離液(コラゲナーゼ溶液)を用いて、ヒトiPS細胞のコロニーをフィーダー細胞層から解離し、ピペット操作で20〜50個程度の小塊にした後、新しいフィーダー細胞層の上に播いた。
【0080】
以上のようにしてフィーダー細胞上で維持培養したヒトiPS細胞を、解離液で解離し、ピペット操作で20〜50個程度の小塊にし、300rpmで5分間遠心することによりiPS細胞を回収した。回収したiPS細胞をゼラチンでコートした培養ディッシュ上で30分インキュベートして、MEFをディッシュに接着させ、培地中に浮遊しているiPS細胞を回収することによりMEFを除去した。
【0081】
2.馴化培地の調製
馴化培地(CM)は、マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を用いて無血清培地から調製した。マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を、MEF用培地(10%FBSを添加したDMEM培地)中に約500,000 細胞/直径60mmディッシュの細胞密度で播種した。細胞を少なくとも16時間培養した後、PBS(−)、次いで1% ITS、100μg/L ヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加した無血清培地A(DMEM/F12培地、64mg/L 2−リン酸アスコルビン酸マグネシウム、及び543mg/L 炭酸水素ナトリウム)(基本培地Aとも呼ぶ)で洗浄し、培地を同じ無血清培地に置換した。
【0082】
培地を置換した後、24時間CO
2インキュベーター内でインキュベートした(37℃、5%CO
2濃度)。24時間培養した後の培地を回収し、新鮮な培地と入れ替えることを6回まで繰り返し実施した。回収した培地は1000rpmで5分間遠心し、得られた液体培地をMEF馴化培地(無血清培地A+ITS+FGF+TGF)とした。
【0083】
3.基質コーティング培養ディッシュの調製
マトリゲルでの培養ディッシュのコーティングは、Life technologies社のプロトコールに従い、マトリゲル(登録商標)(BD社)の、DMEM/F12での30倍希釈液で、室温にて1時間インキュベートすることにより実施した。
【0084】
PCM−DMでコーティングされた培養ディッシュの作製は、従来の方法(D. Kanematsu et al: Differentiation, 82, 77-88, 2011)に従った。具体的には、まず、0.1%ゼラチンでコーティングしたプラスチック培養ディッシュに、ヒト脱落膜由来間葉系細胞を3.5×10
4 細胞/cm
2の濃度で播種し、3日間コンフルエントな状態を維持した状態で培養した。培養細胞をPBS(−)で洗浄した後、その細胞をデオキシコール酸処理(0.5% デオキシコール酸ナトリウム/10 mM Tris−HCl, pH8.0を培養ディッシュに加えて4℃で30分処理)することにより、細胞成分を融解した。その後、培養ディッシュに残った細胞外マトリクス成分をPBS(−)で洗浄した。
【0085】
ビトロネクチン(VTN−N)でコーティングされた培養ディッシュの作製は、実施例1と同様にして行った。
【0086】
4.フィーダー細胞を使用しないiPS細胞の培養
本実施例の1.において調製及び回収しMEF細胞を除去したiPS細胞を、本実施例の3.で調製したマトリゲル、ビトロネクチン、又はPCM−DMのそれぞれでコーティングされたプラスチック培養ディッシュに、4分の1に分け(1/4分割)、播種した。培地として、本実施例の2.で調製した無血清培地A+ITS+FGF+TGFのMEF馴化培地を用いて、培養を行った(5%CO
2濃度、37℃、5日間)。
【0087】
並行して、本実施例の1.において調製及び回収しMEFを除去したiPS細胞を、MEFで馴化していない同培地でも培養した。
【0088】
アルカリフォスファターゼ染色後の観察結果を
図2に示す。MEF馴化培地を用いた培養では、マトリゲル、ビトロネクチン、及びPCM−DMのいずれの培養基質でコーティングした培養ディッシュにおいても、iPS細胞の増殖性の向上を示した。
【0089】
[実施例3]
実施例2に従って調製した、マトリゲル又はPCM−DMでコーティングしたプラスチック培養ディッシュを用いた、MEFにより馴化した培地(無血清培地A+ITS+FGF+TGF)及びMEFにより馴化していない培地(無血清培地A+ITS+FGF+TGF)におけるiPS細胞の培養を、5継代にわたって継続した。その間の細胞増殖率を比較した結果を
図3に示す。無血清培地A+ITS+FGF+TGFのMEF馴化培地を用いてiPS細胞を培養した場合、馴化していない培地を用いた場合と比べて、約300倍高い増殖効率が示された。
【0090】
[実施例4]
実施例2に従って調製した、ビトロネクチンでコーティングしたプラスチック培養ディッシュを用いた、MEFにより馴化した培地(無血清培地A+ITS+FGF+TGF)及びMEFにより馴化していない培地(無血清培地A+ITS+FGF+TGF)におけるiPS細胞の培養を、4継代にわたって継続した。対照として、MEFをフィーダー細胞として用いたiPS細胞の培養(オンフィーダー培養)、及びMEF−CMにおけるiPS細胞の培養も行った。対照のMEF−CMは、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F−12 Ham; Sigma D6421)に終濃度20%のKNOCKOUT
TM SR(KnockOut
TM Serum Replacement(KSR); GIBCO社)を添加して調製した培地において、MEFを37℃にて5%CO
2濃度で培養した後、培地を回収することにより、調製した。
【0091】
アルカリフォスファターゼ染色の結果、培養中のiPS細胞は、いずれの条件で培養した場合でもアルカリフォスファターゼ(ALP)陽性であり、未分化状態が保持されていることが示された。
【0092】
培養後のiPS細胞をフローサイトメーターで解析した結果、未分化マーカーSSEA3、SSEA4、Tra1−60、及びTra1−81陽性であった(
図4)。このことから、上記実施例で示されたように増殖性が向上する無血清馴化培地におけるiPS細胞の培養でも、馴化しない無血清培地での培養、オンフィーダー培養、及びMEF−CMでの培養と比べて未分化マーカーの発現状態は変わっておらず、細胞の性質に変化はないことが確認された。
【0093】
またRT−qPCR解析を行った結果、未分化マーカーOct4、NANOG、及びSOX2の遺伝子発現も確認できた。
【0094】
このように、MEFで馴化した無血清培地においては、未分化状態を維持したまま、iPS細胞の増殖効率を高めることができることが示された。
【0095】
[実施例5]
実施例1においてITS及び増殖因子を加えた培地で調製した馴化培地(
図1A)と、比較例1においてITS及び増殖因子を含まない培地で調製した馴化培地(
図1D)について、馴化しない培地をコントロールとしてそれぞれの培地中に分泌されたタンパク質の解析を二次元ゲル電気泳動により行った。まずそれぞれの培地1mlからアセトン沈殿によりタンパク質を回収した。それぞれの回収したタンパク質を、膨潤バッファーに懸濁し、固定化pH勾配ゲルReadyStrip IPGストリップ(pH3−10、11cm; Bio−Rad)に添加して等電点電気泳動装置Protean(登録商標) IEF cell (Bio−Rad)により50V、20℃で12時間膨潤後、等電点電気泳動を行った。その後、ReadyStrip IPGストリップをSDS−PAGE平衡化バッファー(2% DTT含有)中で10分間、次いでSDS−PAGE平衡化バッファー(2.5% ヨードアセトアミド含有)で10分間振盪後、SDS−PAGEによりタンパク質を展開した。実施例1においてITS及び増殖因子を加えた培地で調製した馴化培地では40個、比較例1においてITS及び増殖因子を含まない培地で調製した馴化培地では12個のMEF由来の分泌タンパク質のスポットを検出することができた。このことから、実施例1においてITS及び増殖因子を加えた培地で調製した馴化培地(
図1A)には、増殖促進に寄与するタンパク質が含まれることが示された。
【0096】
[実施例6]
1.MEF馴化培地を用いた無フィーダー培養
実施例2の「1.ヒトiPS細胞の調製」の記載に従って、マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞MEF(フィーダー細胞)上でヒトiPS細胞を培養し(オンフィーダー培養)、回収し、MEFを除去した。
【0097】
このようにして調製したヒトiPS細胞を、マトリゲルでコーティングした培養ウェル中、フィーダー細胞の非存在下に移行し、各種培地を用いて培養した(無フィーダー培養)。以下の培地を用いた。
【0098】
・無血清培地A+ITS+FGF+TGF(DMEM、2mM L−グルタミン、0.1mM NEAA、1% ITS、0.1mM β−メルカプトエタノールに100μg/L ヒトFGF2及び2μg/L TGF−β1を添加したもの)(
図5中、E8)
・実施例2の「2.馴化培地の調製」の記載に従って調製した、無血清培地A+ITS+FGF+TGFのMEF馴化培地(
図5中、E8−CM)
・実施例4の記載に従って調製したMEF−CM
・mTeSR
TM1培地(modified Tenneille Serum Replacer 1)(STEMCELL Technologies)
対照として、DMEM/F12培地に終濃度20%のKNOCKOUT
TM SR、0.1 mM NEAA、2 mM L−グルタミン、5 ng/ml ヒトFGF2及び0.1 mM 2−メルカプトエタノールを添加して調製した培地中でのオンフィーダー培養のみを行う試験も実施した。(
図5中、KSR) なおマトリゲルでの培養ディッシュのコーティングは、実施例2の「3.基質コーティング培養ディッシュの調製」の記載に従って行った。
【0099】
培養期間が4日間であったこと以外は、実施例2の「4.フィーダー細胞を使用しないiPS細胞の培養」に記載された手順に従って、培養及びアルカリフォスファターゼ染色を行った。
【0100】
その結果を
図5A〜Eに示す。オンフィーダー培養から無フィーダー培養への移行後、無血清培地A+ITS+FGF+TGFのMEF馴化培地(E8−CM)では増殖が認められたが、他の培地では増殖がほとんど認められなかった。
【0101】
2.所定成分を含む培地でのオンフィーダー培養からの移行後の無フィーダー培養
培地として、DMEM/F12培地に終濃度20%のKNOCKOUT
TM SR、0.1 mM NEAA、2 mM L−グルタミン、5 ng/ml ヒトFGF2及び0.1 mM 2−メルカプトエタノールを添加して調製した培地に代えて、無血清培地A+ITS+FGF+TGFを使用したこと以外は、実施例2の「1.ヒトiPS細胞の調製」の記載に従ってマイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞MEF(フィーダー細胞)上でヒトiPS細胞を培養し(オンフィーダー培養)、回収し、MEFを除去した。
【0102】
このようにして調製したヒトiPS細胞を、マトリゲルでコーティングした培養ウェル中、フィーダー細胞の非存在下に移行し、本実施例の1.と同じ各種培地を用いて同様に無フィーダー培養し、アルカリフォスファターゼ染色を行った。
【0103】
その結果、本実施例の1.の結果と比較して、いずれの培地を用いた無フィーダー培養においても、顕著に高い増殖性を示した。
【0104】
このことから、上記無血清培地を用いてオンフィーダー培養を行った後に無フィーダー培養に移行することにより、多能性幹細胞の増殖をさらに増強できることが示された。
【0105】
[実施例7]
アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチルを基本骨格とする温度感受性ハイドロゲルでコートした培養ディッシュを作製した(Zhang et al., Nature Communications, (2013) 4, Article number: 1335)。具体的には、N−メチル−2−ピロリドン中に、N−アクリロイル−N’−プロピルピペラジン、2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)モノアクリルアミド、架橋剤及び光重合開始剤を溶解した混合溶液を、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートで予め処理したプラスチック培養ディッシュに添加し、365nmのUV光を30分照射した後、50℃で一晩放置した。その後、エタノール、アセトンで順次洗浄し、風乾した。
【0106】
このようにして作製したハイドロゲルコート培養ディッシュを、マトリゲルコート培養ディッシュの代わりに用いて、実施例6の2.の記載に従って、ヒトiPS細胞についてオンフィーダー培養とその後の各種培地を用いた無フィーダー培養を行った。その結果、いずれの培地においても、iPS細胞は高い増殖性を示した。