特許第6337027号(P6337027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337027
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】コンドーム
(51)【国際特許分類】
   A61F 6/04 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   A61F6/04
【請求項の数】21
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-560764(P2015-560764)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公表番号】特表2016-511045(P2016-511045A)
(43)【公表日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】GB2014050629
(87)【国際公開番号】WO2014135855
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2017年1月27日
(31)【優先権主張番号】1303796.5
(32)【優先日】2013年3月4日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】503356705
【氏名又は名称】フューチュラ メディカル ディベロップメンツ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】FUTURA MEDICAL DEVELOPMENTS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】ビル ポッター
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−537040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質を含む組成物の被覆物または付着物を有するコンドームであって、前記コンドーム、中和物質または酸性物質で処理されて前記コンドーム自体のアルカリ性pHが中和されておりその結果、前記コンドームを水に浸した場合に5.5〜7のpHを有する水を生ずる、コンドーム。
【請求項2】
前記コンドームが、水溶液または分散液の状態で5.5〜7のpHを有する粉剤を含む、請求項1に記載のコンドーム。
【請求項3】
生理活性物質を含む組成物の塗布前に、前記コンドームが中和物質または酸性物質で処理されており、前記コンドームのアルカリ性pHは中和されている、請求項1または2に記載のコンドーム。
【請求項4】
前記粉剤が、デンプンおよび/またはシリカを含む、請求項2に記載のコンドーム。
【請求項5】
前記生理活性物質が、血管拡張剤、麻酔薬、および/または殺精子剤を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のコンドーム。
【請求項6】
前記生理活性物質が、血管拡張剤としてGTNを含む、請求項5に記載のコンドーム。
【請求項7】
前記中和物質が、硫酸亜鉛および/または硫酸マグネシウムである、請求項1に記載のコンドーム。
【請求項8】
前記酸性物質が、水溶液または分散液の状態で6〜7のpHを有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のコンドーム。
【請求項9】
GTNを含む組成物の被覆物または付着物を有し、デンプンおよび/またはシリカを含む粉剤を含む、請求項1又は7に記載のコンドーム。
【請求項10】
GTNを含む組成物の被覆物または付着物を有し、硫酸亜鉛および/または硫酸マグネシウムの溶液で処理されている、請求項1に記載のコンドーム。
【請求項11】
コンドームの製造方法であって、
1)形成されたコンドームを中和物質または酸性物質で処理して、前記コンドームのアルカリ性pHを中和するステップと、
2)その後、前記コンドームに生理活性物質を含む組成物を塗布するステップと
を含み、前記コンドームが水に浸された場合に5.5〜7のpHを有する水を生ずる、前記方法。
【請求項12】
ステップ1)が、
1A)形成されたコンドームを5.5〜7のpHを有する粉剤のスラリーで処理するステップ、または
1B)形成されたコンドームを酸性溶液で処理し、続いて前記コンドームを粉剤のスラリーで処理するステップであって、ここで、前記処理の結果生じるコンドーム上の粉剤は水溶液または分散液の状態で5.5〜7のpHを有する、前記ステップ
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
形成されたコンドームを中和物質または酸性物質で処理して、前記コンドームのアルカリ性pHを中和するステップは、前記コンドーム中のアルカリ性脂肪酸塩の不溶性の塩への転換をもたらし、前記転換は前記コンドームのpHを中性まで低下させる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記粉剤が、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、および/または、有機酸の混合物もしくはそれらのアルカリ金属塩の混合物で緩衝化された沈降シリカもしくはヒュームドシリカを含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
前記粉剤が、デンプンおよび/またはシリカを含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項16】
ステップ1)が、
1)形成されたコンドームを硫酸亜鉛および/または硫酸マグネシウムの溶液で処理するステップ、
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記生理活性物質が、血管拡張剤、麻酔薬、および/または殺精子剤を含む、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記生理活性物質が、血管拡張剤としてGTNを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記粉剤のスラリーが、硫酸亜鉛および/または硫酸マグネシウムを含む、請求項12〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記酸性物質が、水溶液または分散液の状態で6〜7の間のpHを有する、請求項11〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記スラリーが、水中に分散させたシリコーン油のエマルションを含む、請求項12〜20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンドームに関し、具体的には血管拡張剤または他の生理活性物質を混ぜた組成物の被覆物 (coating)または付着物 (deposit)を有するコンドームを提供する。当該コンドームにおいて、活性物質の保存性が高められ、したがってコンドームの貯蔵寿命の延長がもたらされる。
【背景技術】
【0002】
国際公開第02/078580号明細書に開示されているように血管拡張剤として三硝酸グリセリン(glyceryl trintrate)(GTN)を含有するゲルなどの組成物をコンドームの閉端部の内側に加えることは、コンドームを使用した場合に感覚が減ずることが原因で勃起の部分的または完全な喪失に苦しむ男性にとって著しい利益である。GTNは、陰茎亀頭を通じて容易に吸収される。吸収されるとすぐにそれは血管拡張剤として作用し、陰茎中への血流を促進させ、したがってコンドームを着用した場合に性交の間ずっとそのような男性が十分な勃起を維持するのを助ける。
【0003】
国際公開第02/078580号明細書に記載されている発明の欠点は、GTNが不安定であり、天然ゴムラテックスのコンドーム、また同様にポリイソプレンなどの合成ゴムラテックスから作られたコンドームとの接触で分解する。この不安定性は、GTNを含む組成物の入ったコンドームの貯蔵寿命を著しく制限する。
【0004】
安定剤として芳香族アミンまたは尿素誘導体を使用することによってGTNなどの脂肪族硝酸エステル火薬の分解反応(老化)を抑制できることが、Chimia,58(2004),401〜408(火薬の化学的安定性、相溶性、および貯蔵寿命(Chemical Stability,Compatibility and Shelf Life of Explosives))から知られる。芳香族アミンまたは尿素誘導体は塩基性であり、そこからコンドーム中のGTNの安定化を模索する当業者は、アルカリ性または塩基性物質を使用することを考えるはずである。さらにこの文書は、反応混合物中に存在するそれらラジカルおよび酸が、分解反応の幾らかを自己触媒することを開示している。この文書はまた、それら分解反応が湿気と残留酸によって、または分解の間に形成される水と酸によって触媒されると述べている。さらにそれは、分解が酸性条件下で自己触媒性であることを示している。この情報に基づけば当業者は、GTNの安定性を増すことを目指す場合、酸性物質を使用することを考えないはずである。
【発明の概要】
【0005】
GTNの不安定性は、コンドームのアルカリ性pHによって引き起こされると考えられる。未処理コンドームは、それらが作られる材料のために、一般にアルカリ性である。コンドームを処理してそれを中性または酸性pHにすることによりGTNの安定性が増すことが分かった。例えばコンドームと接触するGTNの安定性は、コンドームを酸性pH、すなわち7未満のpHを有する粉剤 (dusting powder)のスラリーで処理することによってかなり改善することができることが現在分かっている。粉剤が、水中に分散させた場合、酸性であることもあり、またそのスラリーの液相が酸性であることもある。別法では、コンドームを中和剤で処理して、そのコンドームを約7のpHの状態にすることもできる。他の活性物質、例えば局部麻酔薬、殺精子剤、局所殺菌剤、および抗レトロウィルス薬を含めた抗ウィルス薬(これらもまたコンドームにおいて使用され、分解する傾向、したがってコンドームの貯蔵寿命を危うくする傾向を有する)の安定性もまた本発明により改善することができる。
【0006】
したがって一態様において本発明は、生理活性物質を含む組成物の被覆物または付着物を有するコンドームを提供し、そのコンドームは、そのコンドームが水に浸された場合に7以下のpHを有する水をもたらすような中和物質または酸性物質で処理されている。このような方法でそのコンドームは、中和物質または酸性物質を担持する。
【0007】
別の態様において本発明は、生理活性物質を含む組成物の被覆物または付着物を有するコンドームを提供し、そのコンドームは、水溶液または分散液の状態で7未満のpHを有する粉剤を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
粉剤を担持する本発明によるコンドームにおいてその粉剤は乾燥しているが、その水性分散液または溶液のpHへの言及は、それが本発明で使用するのに適しているという観点からその粉剤を特徴づける。実際には、その粉剤をコンドームから取り出し、蒸留水(粉剤の添加前に7のpHを有する)中に溶解/分散させた場合、その得られる分散液/溶液は7未満のpHを有することになる。
【0009】
代わりの実施形態では粉剤は本質的に中性pH(または少なくとも本質的に酸性でない)であることができるが、コンドームを処理するために使用される酸性液相中に溶解または分散される。これは、結果として酸性pHを有するコンドームを生じさせる。
【0010】
酸性物質(例えば粉剤)は、水溶液または分散液の状態で7未満のpHを有する。好ましくはその物質は、水溶液または分散液の状態で6未満のpHを有する。より好ましくはその物質は、水溶液または分散液の状態で5未満のpHを有する。
【0011】
幾つかの実施形態ではその物質(例えば粉剤)は、水溶液または分散液の状態で2〜7の範囲のpHを有する。好ましくはその物質は、水溶液または分散液の状態で2〜6の範囲のpHを有する。より好ましくはその物質は、水溶液または分散液の状態で2〜5の範囲のpHを有する。好ましくはその物質は、水溶液または分散液の状態で3〜6の範囲のpHを有する。より好ましくはその物質は、水溶液または分散液の状態で4〜5の範囲のpHを有する。
【0012】
幾つかの実施形態ではその物質は、水溶液または分散液の状態で5.5〜7の範囲のpHを有する。好ましくはその物質は、水溶液または分散液の状態で6〜7の範囲のpHを有する。その物質は、水溶液または分散液の状態で6.5〜7の範囲のpHを有することができる。結果としてそのコンドームは、そのコンドームが水に浸された場合、5.5〜7のpH、6〜7のpH、または6.5〜7のpHを有する水をもたらす。低pHは、時間経過と共にコンドームのバースト性を悪化させる恐れがあることが分かった。したがって幾つかの実施形態では、コンドームにその物質を塗布 (apply)したときにコンドームのアルカリ度が中性になるようにその物質が中性に近いpHを有する場合、その得られる環境はわずかに酸性または中性であり、それは長期間にわたってコンドームのバースト性の悪化の減少をもたらすことができる。
【0013】
別の態様において本発明は、コンドームの製造方法を提供し、その方法は、
1)形成されたコンドームを中和物質または酸性物質で処理するステップと、
2)その後、そのコンドームに生理活性物質を含む組成物を塗布するステップと
を含み、コンドームは水に浸された場合、7未満のpHを有する水を生じさせる。
【0014】
特定の実施形態ではコンドームの製造方法は、
1A)形成されたコンドームを7未満のpHを有する粉剤のスラリーで処理するステップ、または
1B)形成されたコンドームを酸性溶液で処理し、続いてそのコンドームを粉剤のスラリーで処理するステップであって、ここで、当該処理の結果生じるコンドーム上の粉剤は水溶液または分散液の状態で7未満のpHを有する、ステップと、
2)その後、それらコンドームに生理活性物質を含む組成物を塗布するステップと
を含む。
【0015】
一例としてこの生理活性物質は、GTNなどの血管拡張剤、一硝酸イソソルビド、二硝酸イソソルビド、および四硝酸ペンタエリトリトールと、麻酔薬、好ましくはリドカインまたはベンゾカインなどの局部麻酔薬と、殺精子剤とから選択することができ、それには2種類以上のこのような薬剤も含まれる。
【0016】
組成物の活性薬剤が血管拡張剤を含む場合、その組成物は、コンドームを使用する場合に性交の間ずっと勃起機能を維持するのを助けることを意図するならば、好ましくは、コンドームの内面の、閉端部 (closed end)または乳頭端部 (teat end)に塗布される。血管拡張剤が膣の催滑を促進することを意図するならば、それは好ましくはコンドームの外面に位置する。いずれにしても次に通常の潤滑剤が、任意選択で包装の前にコンドームに塗布される。
【0017】
本発明による方法では酸性物質(例えば粉剤のスラリー)は7未満のpHを有する。好ましくは、物質は6未満のpHを有する。より好ましくは、物質は5未満のpHを有する。
【0018】
幾つかの実施形態ではその物質(例えば粉剤のスラリー)は、2〜7の範囲のpHを有する。好ましくはその物質は、2〜6の範囲のpHを有する。より好ましくはその物質は、2〜5の範囲のpHを有する。好ましくはその物質は、3〜6の範囲のpHを有する。より好ましくはその物質は、4〜5の範囲のpHを有する。
【0019】
粉剤を含有するスラリーは、好ましくは水性である。任意選択でそのpHは、処理期間中、スラリーのpHの変化をできるだけ少なくするために緩衝化することができる。例えば粉剤を含有するスラリーのpHは、2〜5の範囲、または上記のその他の範囲の一つに緩衝化することができる。好ましくは、処理は、コンドームが、当業界で従来から知られているように浸漬 (dipping)によって形成された直後に行われ、このスラリーはコンドームの製造に使用される通常のスラリーに代わるものとして使用され、一般にはデンプン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、またはシリカ粉末、またはこれらの粉末の混合物から作られ、水に浸された後にアルカリ性pHを示すコンドームをもたらす。別法ではコンドームは、製造のステップの後しばらくして粉剤を含有するスラリーで処理することもできる。その場合、従来のスラリー由来の粉末は、その処理工程の間に除去される。
【0020】
本発明による方法においては、好ましくは不溶性粉末の酸性スラリーが使用されるが、また処理を二段階で行うこともでき、コンドームは初めに酸性溶液で処理され、次いで、粉剤のスラリーで処理される。ここで、当該処理の結果生じるコンドーム上粉剤は、水溶液または分散液の状態で7未満のpHを有する。この二段工程では粉剤のスラリーは、アルカリ性でも、中性でも、また酸性でもよい。スラリーがアルカリ性であるならば、それが初めに塗布される酸性溶液によってもたらされる酸性残渣と相互作用する場合には水溶液または分散液の状態で7未満のpHを有する粉剤が生成されるような弱アルカリ性にそれは限られるべきである。好ましくは粉剤のスラリーは、中性または酸性のpHを有する。
【0021】
本発明において使用される粉剤は、リン酸または硫酸のカルシウム塩またはマグネシウム塩を含む。好ましくは、粉剤は、リン酸のカルシウムまたはマグネシウム塩である。リン酸のカルシウム塩の例には、リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO42)およびリン酸水素カルシウム(CaHPO4)と、これらの混合物が挙げられる。リン酸のマグネシウム塩は、一、二、および三塩基塩として利用でき、本発明において使用される例には、リン酸一マグネシウム(リン酸二水素マグネシウム、第一リン酸マグネシウム(magnesium phosphate monobasic))およびリン酸二マグネシウム(リン酸水素マグネシウム、第二リン酸マグネシウム(magnesium phosphate dibasic))と、これらの混合物が挙げられる。リン酸のカルシウム塩とマグネシウム塩の混合物もまた使用することができる。他の好適な粉末には、沈降シリカおよび/またはヒュームドシリカと、デンプンが挙げられる。これらは、スラリーのpHの変化をできるだけ少なくするために緩衝剤と組み合わせることができる。緩衝剤は、乳酸またはクエン酸などの有機酸と、任意選択でこのような酸のアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩であることができる。スラリーのpHは、その工程の処理ステップの期間中、理想的には7未満、好ましくは5未満に保たれるべきであり、また緩衝剤を使用する場合、それはこの必要条件に適合する緩衝化能力を有するべきである。
【0022】
塩の混合物を使用する場合、各構成要素または成分の0〜100%の比、例えば一方の成分の25〜75%と、もう一方の成分の75〜25%の比(二成分混合物の場合)が存在することができる。好ましくはリン酸二水素カルシウムが25〜100%存在し、残分(0〜75%)がリン酸水素カルシウムであることになる。より好ましくはリン酸二水素カルシウムが25〜75%存在し、残分(25〜75%)がリン酸水素カルシウムであることになる。幾つかの実施形態ではリン酸二水素カルシウムが50〜100%存在し、残分(0〜50%)がリン酸水素カルシウムであることになる。
【0023】
スラリー中の総粉末濃度は、2〜20%質量分率、好ましくは2〜16%、より好ましくは2.5〜10%、さらに一層好ましくは3〜10%、さらに一層好ましくは4〜9%、さらに一層好ましくは4〜8%、さらに一層好ましくは5〜7%、また幾つかの実施形態では約6%であることができる。
【0024】
或る実施形態ではスラリー中の総粉末濃度は、好ましくは3〜16%、より好ましくは4〜10%、さらに一層好ましくは6〜10%、さらに一層好ましくは7〜9%、また特定の実施形態では約8%である。
【0025】
特定の実施形態では2〜8%のリン酸二水素カルシウム成分と0〜6%のリン酸水素カルシウム成分が存在することができる。他の実施形態では2〜6%のリン酸二水素カルシウム成分と2〜6%のリン酸水素カルシウム成分が存在することができる。さらなる実施形態では3〜6%(例えば4〜5%)のリン酸二水素カルシウム成分と3〜5%のリン酸水素カルシウム成分が存在することができる。他の実施形態では4〜8%のリン酸二水素カルシウム成分と0〜4%のリン酸水素カルシウム成分が存在することができる。この段落で述べた実施形態では総粉末濃度は、質量分率2〜20%であることができる。好ましくは総粉末濃度は、2〜16%、より好ましくは2.5〜10%、さらに一層好ましくは3〜10%、さらに一層好ましくは4〜9%、さらに一層好ましくは4〜8%、さらに一層好ましくは5〜7%であり、幾つかの実施形態では約6%である。別法ではスラリー中の総粉末濃度は、好ましくは3〜16%、より好ましくは4〜10%、さらに一層好ましくは6〜10%、さらに一層好ましくは7〜10%、また特定の実施形態では約8%であることもできる。
【0026】
粉末濃度に関係するすべての比率は質量分率である(量をw/w%として表すことに等しい)。
【0027】
浸漬された (dipped)ラテックス製品の処理のためのスラリーの配合は、当業界で十分に確立されている。スラリーはラテックス製品上に粉末の残渣を残し、乾燥したときにそれらが互いにくっつくのを防ぐ。スラリーは、一般に適切な粉末の水中分散液からなり、界面活性剤の添加によって安定化させたシリコーン油(silicone fluid)の水中エマルションを含有する。アルカリに安定な界面活性剤が一般に使用される。それらには、脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩などのアニオン界面活性剤と、脂肪族硫酸塩およびスルホン酸塩(fatty sulphates and sulphonate)とが挙げられる。脂肪アルコールエチレンオキシド縮合物などの非イオン界面活性剤もまた、単独またはアニオン界面活性剤と組み合わせて使用することができる。7未満のpH値を有するスラリーの調製のためには、非イオン界面活性剤と、硫酸塩およびスルホン酸塩アニオン界面活性剤が好ましい。
【0028】
中和物質を使用する実施形態では、その中和剤は、コンドームのアルカリ性pHを中和する。例えばそれはコンドーム中に存在する脂肪酸のナトリウムまたはカリウム塩(これらは中程度の強アルカリ性である)を不溶性の塩(例えば亜鉛またはマグネシウム塩)に変えることによって行うことができ、それはコンドームのpHを効果的に中性まで低くする。例えば中和剤は、硫酸亜鉛および/または硫酸マグネシウムなどの亜鉛および/またはマグネシウム塩であることができる。
【0029】
中和物質は可溶性であることができる。中和物質を液体中に溶解することができ、次いでそれを使用して、例えば粉剤のスラリーの場合と同じやり方でその液体中にコンドームを浸漬することによってコンドームを処理する。幾つかの実施形態では中和物質を粉剤のスラリー中に溶解することができる。
【0030】
一実施形態では粉剤のスラリーが形成される。このスラリーを、例えばクエン酸緩衝剤を使用して酸性pHに緩衝化することができる。クエン酸緩衝剤は、クエン酸三ナトリウムとクエン酸の混合物であることができる。このスラリーのpHは、約4〜5であることができる。このスラリー中の粉剤は、デンプンおよび/またはシリカであることができる。デンプンは、粉剤の0%〜100%の間で存在することができる。シリカは、粉剤の0%〜100%の間で存在することができる。デンプンは、粉剤の25%〜75%の間で存在することができる。シリカは、粉剤の25%〜75%の間で存在することができる。スラリー中の粉剤の含有量は、固体の5%〜20%の間、例えば約10%であることができる。硫酸亜鉛および/またはマグネシウムをこのスラリー中に溶解することができる。硫酸亜鉛および/またはマグネシウムは、約2w/w%で存在することができる。
【0031】
上記のように伝統的な方法を使用して製造されるコンドームは一般にアルカリ性であり、そのコンドームを水に浸した後にアルカリ性pHを示すという結果を生ずる。これは生理活性物質の安定性にとって理想的でない。生理活性物質(例えばGTN)の分解の大部分は、コンドームの表面ではなく内側で起こると考えられる。本発明は、コンドームのアルカリ度を少なくとも中和して、また幾つかの実施形態ではコンドームを酸性にして生理活性物質の安定性を向上させることを目的とする。この中和または酸性化はコンドーム全体にわたって起こり、例えば粉剤の酸性スラリーがコンドーム全体を覆い、その結果コンドーム自体のpH(水に浸したときに)が変化する。コンドーム中に存在するアルカリ性化学種は、中性または酸性形態に転換される。したがって生理活性物質がコンドームの中/上のどこに含まれるかに関係なく、中性/酸性環境が存在することになる。これは、たとえ生理活性物質がコンドームの内側に、例えば先端部または乳頭部の内側に、潤滑剤などの他の成分が存在しないはずの区域に位置するとしても、本発明が必要な結果を提供することを意味する。
【実施例】
【0032】
次に本発明の実施形態を例として述べることにする。
【0033】
実施例1
下記物質、すなわち
1.質量分率4.5%のリン酸二水素カルシウム、
2.質量分率4.0%のリン酸水素カルシウム、および
3.質量分率4.5%のシリコーン油(非イオン界面活性剤で安定化した水中エマルションとして加える)
を水中に分散させることによってスラリーを調製した。
【0034】
このスラリーは4.2のpHを有した。浸漬ライン (dipping line)から直行した新たに製造されたコンドームをこのスラリーで洗浄機中においてバッチ操作により60分間処理した。次いでスラリーを排出させ、過剰なスラリーを遠心脱水によって除去し、コンドームをタンブル乾燥機中で、70℃で40分間乾燥した。
【0035】
得られたコンドームに1%のGTNを含有する40mgのひまし油系ゲルを投与した。このゲルはコンドームの閉端部中に位置した。次いでコンドームを80mgのシリコーン油(粘度350cS)で潤滑し、標準のアルミニウム箔/ポリエチレン薄層のサシェ中に密封した。
【0036】
この処理されたコンドーム上でのGTNと、その同じ工場設備で同じラテックス配合を使用して調製されたが、質量分率8%のデンプンと質量分率4%のシリコーンエマルションを含有する標準スラリーで処理された標準コンドーム上でのGTNの安定性を40℃において比較した。下記の表は、リン酸カルシウムのスラリーで処理されたコンドーム上および標準コンドーム上のGTNの安定性を比較する。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例2
下記の物質、すなわち
1.質量分率4.4%のリン酸二水素カルシウム、
2.質量分率3.6%のリン酸水素カルシウム、および
3.質量分率4.5%のシリコーン油(非イオン界面活性剤で安定化した水中エマルションとして加える)
を水中に分散させることによって調製されたスラリーを使用することを除いて上記実施例を繰り返した。
【0039】
実施例3
下記の物質、すなわち
1.質量分率5%のデンプン、
2.質量分率5%のシリカ、
3.4〜5のpHを与えるクエン酸三ナトリウムとクエン酸の混合物、約2%、
4.1%の硫酸亜鉛、および
5.1%の硫酸マグネシウム、
を水中に分散させることによって調製されたスラリーを使用することを除いて上記実施例を繰り返した。
【0040】
上記すべての実施例において下記の方法に従ってpHを試験した。こうして処理した4個のコンドームを150mLビーカー中でpH7を有する100mLの水に浸し、室温で定期的に20分間撹拌した。次いで水のpHを測定し、7未満であると判定した。