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特許6337058クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストローク圧縮着火内燃機関のためのトップピストンリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337058
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストローク圧縮着火内燃機関のためのトップピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F02F 5/00 20060101AFI20180528BHJP
   F16J 9/14 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   F02F5/00 K
   F02F5/00 A
   F16J9/14
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-206560(P2016-206560)
(22)【出願日】2016年10月21日
(65)【公開番号】特開2017-89621(P2017-89621A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年10月16日
(31)【優先権主張番号】PA201570737
(32)【優先日】2015年11月12日
(33)【優先権主張国】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ウェイス フォフ イェスパー
(72)【発明者】
【氏名】グネス ソレイユ アイハン
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−522914(JP,A)
【文献】 特開平09−089111(JP,A)
【文献】 特開2001−295927(JP,A)
【文献】 特開2009−052543(JP,A)
【文献】 米国特許第1475783(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第744456(GB,A)
【文献】 特表平07−504739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F16J 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストローク圧縮着火内燃機関トップピストンリング(4)であって、前記トップピストンリングは、ピストンリングパックの他のピストンリング(6)と共に、前記内燃機関のピストン(1)の側壁の対応するリング溝(3)において、前記ピストン(1)の上側の燃焼室(2)の圧力に抗して密封性を提供するために使用され、前記トップピストンリング(4)は、
上側リング面(16)、下側リング面(17)、外周リング面(11)、および内周リング面(12)を有するリング本体と、
合い口部を形成する第1の係合端部(8)および第2の係合端部(9)とを備え、
前記第1および前記第2の係合端部(8,9)は、前記トップピストンリング(4)が拡大したり縮小したりすることを可能にし、
前記第1の係合端部(8)は、円周方向に延びる指部(23)を有し、
前記第2の係合端部(9)は、円周方向に延びる凹部(28)であって、前記指部(23)を摺動可能および密封性を提供するように受け入れるような形状および大きさを有する凹部(28)を有し、
前記指部(23)は、径方向に突出し、前記指部(23)の円周方向の長さの少なくとも一部に亘って円周方向に延びる凸部(51)を有し、
前記凹部(28)は、円周方向の長さの少なくとも一部に亘って円周方向に延びる、径方向深さ(D)の溝(52)を有し、
前記凸部(51)および前記溝(52)は、径方向および軸方向における形状が相補的であり、
前記溝(52)は、前記凸部(51)の円周方向の長さの少なくとも一部を受け入れるように構成される、トップピストンリング。
【請求項2】
前記凸部(51)の径方向高さ(H)は前記溝(52)の径方向深さ(D)よりも若干小さい、請求項1に記載のトップピストンリング(4)。
【請求項3】
前記凸部(51)および前記溝(52)は、前記円周方向における前記第1の係合端部(8)と前記第2の係合端部(9)との間の相対移動を可能にし、径方向における前記第1の係合端部(8)と前記第2の係合端部(9)との間の相対移動を防止するよう、摺動可能に係合するように構成される、請求項1または2に記載のトップピストンリング(4)。
【請求項4】
前記凸部(51)および前記溝(52)は共に湾曲し、前記トップピストンリング(4)の曲率に対応する同一の曲率半径を有する、請求項1から3のいずれかに記載のトップピストンリング(4)。
【請求項5】
前記凹部(28)は、円周方向において基端部(46)と遠端部(47)とに分けられ、ただし該基端部(46)は該遠端部(47)より前記リング本体に近い部分であり、前記指部(23)も、円周方向において基端部(44)と遠端部(45)とに分けられ、ただし該基端部(44)は該遠端部(45)より前記リング本体に近い部分であり、前記凹部の前記基端部(46)は、前記外周リング面(11)と前記下側リング面(17)とに対して開いており、前記凹部の前記遠端部(47)は、前記外周リング面(11)と前記下側リング面(17)と前記上側リング面(16)とに対して開いており、前記指部(23)の前記基端部(44)は、前記外周リング面(11)および前記下側リング面(17)と面が揃うようにされており、前記指部(23)の前記基端部(44)の少なくとも径方向外側の部分が、前記上側リング面(16)と面が揃うようにされており、前記指部(23)の前記遠端部(45)は、前記外周リング面(11)および前記下側リング面(17)と面が揃うようにされている、請求項1から4のいずれかに記載のトップピストンリング(4)。
【請求項6】
前記指部(23)の前記基端部には、鉛直方向の壁部(25)が設けられ、前記鉛直方向の壁部(25)は、前記外周リング面(11)と同一面上の面と、前記上側リング面(16)と同一面上の面とを有する、請求項5に記載のトップピストンリング(4)。
【請求項7】
前記第2の係合端部(9)は、前記鉛直方向の壁部(25)を受け入れるための凹部(26)を有する、請求項6に記載のトップピストンリング(4)。
【請求項8】
前記凹部(28)は、下側水平方向の壁部(42)と、第1の水平方向の壁部(34)と、第2の水平方向の壁部(36)とによって画定され、前記第2の水平方向の壁部(36)は、前記円周方向に延びる凹部(28)の前記基端部(46)において前記外周リング面(11)と同じ広がりを有し、前記第1の水平方向の壁部(34)は、前記円周方向に延びる凹部(28)の前記遠端部(47)において前記外周リング面(11)より狭い広がりを有し、それによって、前記鉛直方向の壁部(25)を少なくとも一部受け入れるように適合させたさらなる凹部(26)を形成する、請求項6または7に記載のトップピストンリング(4)。
【請求項9】
前記凹部(26)は、前記外周リング面(11)と前記上側リング面(16)とに対して開いている、請求項8に記載のトップピストンリング(4)。
【請求項10】
前記トップピストンリング(4)の前記外周面と前記シリンダライナとの間の圧力が、前記合い口部において、前記合い口部以外の部分よりも低くなるように、前記リング本体が完全な円形ではない、請求項から9のいずれかに記載のトップピストンリング(4)。
【請求項11】
前記凹部の前記基端部(46)は、前記外周リング面(11)および前記下側リング面(17)のみに対して開いている、請求項から10のいずれかに記載のトップピストンリング(4)。
【請求項12】
前記指部(23)の前記遠端部(45)は、前記外周リング面(11)および前記下側リング面(17)とのみ、面が揃っている、請求項から11のいずれかに記載のトップピストンリング(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のためのトップピストンリングに関し、特に、気密リングを形成するための合い口部および係合端部を有するトップピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気エンジンは、典型的には、船舶の推進システムや、発電プラントの原動機として用いられる。通常、これらのエンジンは、重油等の安価な燃料や、ガスで運転される。
【0003】
エンジンのピストンにはリングパックが設けられる。リングパックは燃焼圧力を外に漏らさないようにし、それによって、燃焼ガスが掃気用のスペースに漏れていかないようにする。またピストンリングは、潤滑油の油膜を一様に分布させる働きも有する。リングパックのピストンリングは、およそ秒速10mの平均ピストン速度で往復運動をするピストンから、圧縮空気や燃焼ガスが漏れないようにしなければならない。シリンダ内の圧力はおよそ250気圧にもなり、平均ガス温度は1800Kにも達する。このような仕事を僅か数滴の潤滑油で行わなければならず、さらに期待される寿命は数千時間にもなる。したがって、ピストンリングに対する主要な要望は、高い耐摩耗性および耐腐食性を有し、高温環境における弾性の低下が少ないことである。
【0004】
重油で運転される場合に生成される燃焼ガスは侵食性が強いため、シリンダライナの内壁は、特別なシリンダ潤滑油で潤滑される。この潤滑油は、燃焼ガスの中の侵食性の強い成分からシリンダライナの内壁を保護する。ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気エンジンのピストンの直径は、25cmから108cmにもなる。潤滑を必要とするその他の要素の大きさもかなりのものとなる。したがって、この形式のエンジンのためのリングパックは、小型の4ストロークディーゼルエンジンのためのリングパックとは異なる点がある。
【0005】
クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気エンジンのリングパックは、通常3または4つのピストンリングを有する。トップピストンリングはCPRリングである。すなわち、トップピストンリングまたはピストンの溝は、圧力を逃がすための溝を有し、それによって、正確に定められ制御された高温ガスの流れが、燃焼室からトップピストンリングの下側に流れることを可能にしている。これは、トップリングをまたがる圧力低下の度合いを下げ、リングパックを構成する他のリングに負荷を分散させるためである。
【0006】
WO02/070926は、合い口部を有するトップピストンリングを開示している。合い口部は、リング本体の係合端部によって形成されている。一方の端部は、トップピストンリングの外周面および下面と面が揃う指部を有している。もう一方の端部は、トップピストンリングの外周面および下面に開口する凹部を有している。指部は凹部に摺動可能に係合する。しかし、係合した状態でも、ピストンの溝とピストンリングとの間の背部空間に燃焼ガスが自由に行き来できる通路が形成されてしまい、気密構造を達成することができない。燃焼ガスの流れは合い口部に集中するため、指部の温度が上がってしまう。指部は、シリンダライナに接触している接触面において、最も温度が低くなっている。この温度勾配は、指部を変形させ、指部の先端とシリンダライナとの間で強い接触を発生させてしまう。過剰な摩耗と指部の不具合が生じ、トップピストンリングの不具合につながるおそれがある。
【0007】
このような公知のピストンリングは、次に述べる欠点をもたらす。機関サイクル時、第1のリングと第2のリングとの間のリング間圧力がシリンダ圧力よりも高くなり、トップリングが持ち上がる。第1のリング上方の圧力が第1のリング下方の圧力よりも高い限り、第1のリングは第1のリングの溝の底にとどまる。第1のリング下方の圧力が最も高くなると、第1のリングは移動し、第1のリングの溝の天井で静止する。軸方向においてリング端部が一緒に固定されていないと、リングギャップは同時に持ち上がらないことがある。ロックのデザインが非対称であるため、ロック周辺の圧力にわずかな差異が生じる。圧力は持ち上がりを左右するので、一方のリング端部が他方のリング端部より先に持ち上がる傾向がある。このような不均一な持ち上がりにより、ロックを通り抜けるガスの通路が形成されてしまうため、これは重大である。熱負荷が増加し、リングロックが熱変形してしまい、さらにはロック周辺の密封性が低下するので、このようなガス通路はリングに悪影響をもたらす。さらに、圧力によってピストンリングにねじりモーメントが生じる。ねじりモーメントにより、ロックの後方結合部に角状の開口が形成され、この開口により、ロックに対する熱入力が高くなる。これもまたロックの過熱を引き起こし、その結果、密封性が低下する。
【0008】
US2009/0051117は、係合端部を有するピストンリングを開示している。一方の端部は円周方向に延びる指部を画定し、もう一方の端部は指部を受け入れるための対応する凹部を画定する。指部は径方向を向いた凸部を有し、凸部は凹部に対して開いた溝に受け入れられる。溝は径方向に対して開いている。すなわち、溝は内周リング面に対して開いている。このような公知のピストンリングは、係合端部同士が完全に押し付けられず、その状態で使用されると、溝の径方向に延びる底部と凸部の径方向に延びる先端との間にギャップが生じるため、径方向にガス漏れする。
【発明の開示】
【0009】
このような背景の下、本発明の目的は、上述の問題を解決するか、または少なくとも緩和するピストンリングを提供することである。
【0010】
この目的は、次のようなトップピストンリングを提供することによって第1の態様に従って達成される。このピストンリングは、クロスヘッド型大型2ストローク圧縮着火内燃機関のためのトップピストンリングであって、前記トップピストンリングは、ピストンリングパックの他のピストンリングと共に、前記内燃機関のピストンの側壁の対応するリング溝において、前記ピストンの上側の燃焼室の圧力に抗して密封性を提供するために使用される。前記トップピストンリングは、上側リング面、下側リング面、外周リング面、内周リング面を有するリング本体と、合い口部を形成する第1の係合端部および第2の係合端部とを備え、前記第1および第2の係合端部は、前記トップピストンリングが拡大したり縮小したりすることを可能にし、前記第1の係合端部は、円周方向に延びる指部を有し、前記第2の係合端部は、円周方向に延びる凹部であって、前記指部を摺動可能および密封性を提供するように受け入れるような形状および大きさを有する凹部を有し、前記指部は、径方向に突出し、前記指部の円周方向の長さの少なくとも一部に亘って円周方向に延びる凸部を有し、前記凹部は、円周方向の長さの少なくとも一部に亘って円周方向に延びる、径方向深さ(D)の溝を有し、前記凸部および溝は、径方向および軸方向における形状が相補的であり、前記溝は、前記凸部の円周方向の長さの少なくとも一部を受け入れる。
【0011】
トップピストンリングにおいて凸部および溝を備える構成を提供し、係合端部は、円周方向に延びる指部を有し、協働して動作する別の係合端部は、前記指部を受け入れる凹部を有し、前記2つの係合端部の軸方向における機械的係合(連動機構)がもたらされることによって、気密でかつ機械的に安定したトップピストンリングを構成することが可能になる。
【0012】
上記第1の態様の第1の可能な実装形態では、前記凸部の径方向高さは前記溝の径方向深さよりも若干小さい。
【0013】
上記第1の態様の第2の可能な実装形態では、前記凸部および前記溝は、前記円周方向における前記2つの係合端部間の相対移動を可能にし、径方向における前記2つの係合端部間の相対移動を防止するよう、摺動可能に係合するように構成される。
【0014】
上記第1の態様の第3の可能な実装形態では、前記凸部および前記溝は共に湾曲し、前記トップピストンリングの曲率に対応する同一の曲率半径を有する。
【0015】
上記第1の態様の第4の可能な実装形態では、前記凹部は、円周方向において基端部と遠端部とに分けられ、ただし該基端部は該遠端部より前記リング本体に近い部分であり、前記指部も、円周方向において基端部と遠端部とに分けられ、ただし該基端部は該遠端部より前記リング本体に近い部分であり、前記凹部の前記基端部は、前記外周リング面と前記下側リング面とに対して開いており、前記凹部の前記遠端部は、前記外周リング面と前記下側リング面と前記上側リング面とに対して開いており、前記指部の前記基端部は、前記外周リング面および前記下側リング面と面が揃うようにされており、前記指部の前記基端部の少なくとも径方向外側の部分が、前記上側リング面と面が揃うようにされており、前記指部の前記遠端部は、前記外周リング面および前記下側リング面と面が揃うようにされている。
【0016】
上記第1の態様の第5の可能な実装形態では、前記指部の前記基端部には、鉛直方向の壁部が設けられ、前記鉛直方向の壁部は、前記外周リング面と同一面上の面と、前記上側リング面と同一面上の面とを有する。
【0017】
上記第1の態様の第6の可能な実装形態では、前記第2の係合端部に、前記鉛直方向の壁部を受け入れるための凹部が設けられる。
【0018】
上記第1の態様の第7の可能な実装形態では、凹部は、下側水平方向の壁部と、第1の水平方向の壁部と、第2の水平方向の壁部とによって画定され、前記第2の水平方向の壁部は、前記凹部の前記基端部において前記外周リング面と同じ広がりを有し、前記第2の水平方向の壁部は、前記円周方向に延びる凹部の前記遠端部において前記外周リング面より狭い広がりを有し、それによって、前記鉛直方向の壁部を少なくとも一部受け入れるための凹部を形成する。
【0019】
上記第1の態様の第8の可能な実装形態では、前記凹部は、内周面および外周面に開口する。
【0020】
上記第1の態様の第9の可能な実装形態では、前記トップピストンリングの前記外周面と前記シリンダライナとの間の圧力が、前記合い口部において、前記合い口部以外の部分よりも低くなるように、前記リング本体が完全な円形ではない。
【0021】
上記第1の態様の第10の可能な実装形態では、前記トップピストンリングは焼き戻し硬化鋳造物である。
【0022】
上記第1の態様の第11の可能な実装形態では、前記トップピストンリングには、溶射コーティングまたは電解コーティングが施される。
【0023】
上記第1の態様の第12の可能な実装形態では、前記トップピストンリングには、前記燃焼室から該トップピストンリングの下側へ制御された量のガスが流れることを可能にする、少なくとも2つの漏出用の溝が設けられる。
【0024】
上記第1の態様の第13の可能な実装形態では、前記凹部の前記基端部は、前記外周リング面および前記下側リング面にのみ開口する。
【0025】
上記第1の態様の第14の可能な実装形態では、前記指部の前記遠端部は、前記外周リング面および前記下側リング面とのみ、面が揃っている。
【0026】
上記第1の態様の第15の可能な実装形態では、前記径方向に突出する凸部は径方向内側に突出する凸部である。
【0027】
上記第1の態様の第16の可能な実装形態では、前記径方向に突出する凸部は径方向外側に突出する凸部である。
【0028】
本明細書の開示に従う機関や方法の目的や特徴、利点、性質は、以下の詳細説明により、さらに明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本明細書の以下の詳細説明部分においては、図面に示される例示的な実施形態を参照して発明がより詳細に説明される。
図1図1は、シリンダライナに装入されたピストンの一部の断面図であり、4本のピストンリングを有するリングパックを示す。
図2図2は、シリンダライナに装入されたピストンの断面の拡大図であり、5本のピストンリングを有するリングパックを示す。
図3図3は、負荷条件下におけるトップピストンリングの上面図である。
図4図4は、図3を横から見た図である。
図5図5は、図3のリングにおける圧力逃がし溝付近の側面図である。
図6図6は、図3のリングにおける圧力逃がし溝付近の上面図である。
図7図7は、第2の係合端部の立面図である。
図8図8は、第2の係合端部の立面図である。
図9図9は、第1の係合端部の立面図である。
図10図10は、第1の係合端部の立面図である。
図11図11は、第1の係合端部と第2の係合端部が重なる部分の、トップピストンリングから見た断面図である。
【好適な実施形態の詳細説明】
【0030】
図1および2には、ピストン1が描かれている。その円筒状の側壁には、いくつかのリング溝3が設けられ、一番上の溝3にはトップピストンリング(トップリング)4が装着され、その下の溝3にはピストンリング6が装着されている。1つのピストン1に取り付けられるトップピストンリング4とその下の複数のピストンリング6は、合わせてリングパックと呼ばれ、協働して動作する。ピストン1と、シリンダライナ7およびシリンダカバー5は、一緒に、クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気圧縮着火内燃機関の燃焼室2を画定する。(図1のシリンダカバー5には排気弁が描かれていないが、通常通り、排気弁はシリンダカバー5の中央開口部に存在するものと理解されたい。)
【0031】
ピストンリング4,6は、燃焼室2のガス圧がピストン1の下部空間に漏出することを防止する。
【0032】
図3および4は、合い口部を有するトップピストンリング4の例示的実施形態を描いたものである。合い口部はガスの流れを十分に遮断するように構成される。トップピストンリング4は、上側リング面16、下側リング面17、外周リング面11、内周リング面12を有するリング本体と、合い口部を形成する第1の係合端部8および第2の係合端部9とを備え、第1および第2の係合端部8,9は、トップピストンリング4が拡大したり縮小したりすることを可能にする。したがって、合い口部によって、トップピストンリング4をリング溝3に取り付ける際にリング直径を拡大することができ、トップピストンリング4が使用され摩耗するにつれて(シリンダライナ表面に広がる径方向外周面11には、使用により徐々に摩耗する摩耗層L(図11)が設けられる)、第1および第2の係合端部8,9が互いに離れることを可能にする。
【0033】
図5および6に描かれるように、ある実施形態において、トップピストンリング4の径方向外周面11には、4つの圧力逃がし溝15が設けられる。これらの溝は、トップピストンリング4の面に対して斜めに角度を付けて設けられる。圧力逃がし溝15は、定められた量のガスがトップピストンリング4の上面から下面に流れることを可能にする。それぞれの溝15を通じて、一様かつ制限されたガスの流れが存在することができる。
【0034】
リング溝3の外側のリムが破線10で示されている。トップピストンリング4の外周面11は、図5および6には図示されていないシリンダライナに接触する。
【0035】
実施形態によっては、圧力逃がし溝はトップピストンリング4に設けられない。その代わり、圧力逃がし構造が、例えば、ピストンに設けられる溝によって提供されてもよい(図示していない)。また、実施形態によっては、トップピストンリング4は、決められた漏出が存在しないような状況でも正しく働くようにされてもよい。すなわち、トップピストンリング4が、ピストン1の動作中の圧力差に完全に耐えるような気密リングとして構成されるような実施形態もありうる。
【0036】
図7から11に描かれるように、トップピストンリング4の第1の係合端部8は、トップピストンリング4の円周方向に延びる指部23を有する。またトップピストンリング4の第2の係合端部9は、指部23に対応する凹部28を有する。凹部28もトップピストンリング4の円周方向に延びる。指部23は凹部28の中へ突出するように設けられる。トップピストンリング4の円周方向に延びる凹部28の形状および大きさは、指部23を摺動可能に受け入れ、また受け入れた状態で密封性が提供されるように、定められる。凹部28および指部23は、相補的な断面形状を有する。
【0037】
トップピストンリング4の径方向において、指部23の寸法は、トップピストンリング4の寸法よりも小さい。またトップピストンリング4の径方向において、凹部28は、指部23の内側に隣接する下側水平方向の壁部42によって、トップピストンリング4の内側で画定されている。下側水平方向の壁部42は円周方向に延びる溝52に隣接する。円周方向に延びる溝52により、凹部28が径方向に深くなっている。
【0038】
トップピストンリング4の軸方向においても、指部23の寸法は、トップピストンリング4の寸法よりも小さい。また凹部28は、その基端部46において水平方向の壁部36によってその上端が画定される。水平方向の壁部36の下面は指部23の上面に隣接する。
【0039】
凹部28は、第2の係合端部における円周上の遠端部47において、凹部26によって延長される。凹部26は、トップリングの外周面11と上面16とに対して開いており、また凹部28につながっている。したがって、凹部28の遠端部47は、トップリングの外周面11、下面17、および上面16に対して開いている。凹部28の遠端部47において、水平方向の壁部34は、下側水平方向の壁部42から突出し、凹部26まで延びている。この第1の水平方向の壁部34は、前記第2の係合端部9の先端部を強くし安定させる働きを有する。このように、凹部28は、下側水平方向の壁部42、第1の水平方向の壁部34、および第2の水平方向の壁部36によって画定される。第2の水平方向の壁部36は、凹部28の基端部46においてトップリングの外周面11と同じ広がりを有する。一方、水平方向の壁部34は、凹部28の遠端部47において、トップリングの外周面11より狭い広がりを有する。これは凹部26を形成するためである。凹部26には、鉛直方向の壁25が、少なくとも一部受け入れられる。
【0040】
指部23の基端部44の径方向の広がりの外周部の少なくとも一部において、指部23の基端部44の軸方向の高さはピストンリングの高さと等しい。したがって、指部23の基端部44は、ピストンリングの外周面11および下面17と面が揃うことになり、また、少なくとも一部で上面16と面が揃う。上面16と面が揃う部分は直立する壁部25になっている。直立した壁部25は、幅および高さ方向において凹部26を埋める、追加の指部を形成する。したがって、合い口部を通じてガスが流れることを防ぐ追加のバリアを形成する。凹部26により形成される、鉛直方向の壁部25の径方向内側の面と、当該面に隣接する第1の水平方向の壁部34の壁面との重なり合いにより、特に、合い口部を通じてトップピストンリング4の内側に入り込む流れが妨げられる。
【0041】
指部23の遠端部45の面は、トップリングの外周面11および下面17と同一平面上にあると考えてよい。したがって、指部23の遠端部45の高さおよび幅は、トップリング本体の高さおよび幅よりも小さい。指部23の遠端部の内壁および上壁は、第2の係合端部9の水平方向の壁部36および下側水平方向の壁部42と、密封性を提供するように、および摺動可能に、係合する(または接触する)。
【0042】
指部23には、径方向内側を向き、かつ長手方向の円周方向に延びる凸部51が設けられる。凸部51は、円周方向に延びる溝52に適合する形状および大きさを有し、円周方向に延びる凸部51は円周方向に延びる溝52に摺動可能に受け入れられる。指部23の断面形状は一般的に、凹部28の断面形状と相補的であり、凸部51の断面形状は溝52の断面形状と相補的である。例えば図11に描かれるように、凸部51および溝52を有する指部23および凹部28は、相補的な輪郭を呈する。凸部51および溝52は共に湾曲し、トップピストンリング4の曲率に対応する同一の曲率半径を有する。別の実施形態(図示していない)において、指部と凹部の配置が逆になり、凸部は径方向外側に突出する。
【0043】
凸部51の(径方向)高さHは、溝52の(径方向)深さDを実質的に、またはほぼ実質的に埋めることが好ましい。このように、溝52の(径方向)深さDは凸部51の(径方向)高さHよりも若干大きいことが好ましい。
【0044】
指部23と凹部28とが円周方向に重なり合う量は変化してもよい。径方向外周面11上の摩耗層Lおよびシリンダライナ7の滑走面は使用により徐々に摩耗するため、指部23と凹部28との円周方向の重なり合いは減少していく。このことは、凸部51と溝52との円周方向の重なり合いにも同様に当てはまる。
【0045】
ラビリンス式の配置により、凸部51および溝52は確実に気密構造となる。また、凸部51と溝52との係合により機械的連結、すなわち両軸方向(対向する軸方向)における機械的連動機構がもたらされるため、第1の係合端部8および第2の係合端部9は両軸方向において互いに機械的に固定されるようになる。
【0046】
図面に示される実施形態において、溝52は、基端部46および遠端部47に亘って、すなわち第2の係合端部9の円周方向全体に亘って、円周方向に延びる。しかし、これは必須ではなく、実施形態によっては、溝52の円周方向の長さは、第2の係合端部9の円周方向の長さよりも短くてもよい。ただし、この場合、凸部51の円周方向の長さもそれに応じて短くなる。
【0047】
凸部51を有する指部23は、その幅および高さ方向において、溝52を有する凹部28を埋めることができる。このため、燃焼ガスがピストン1の下の空間に流れることを防ぐことができる。これは、指部23の末端部29と凹部28の末端部33との間が円周方向に離れていても同様である。
【0048】
凹部28は、円周方向に、基端部46と遠端部47とに分けることができる。基端部46はトップピストンリング4の本体に近い部分である。
【0049】
同様に、指部23は、円周方向に、基端部44と遠端部45とに分けることができる。基端部44はトップピストンリング4の本体に近い部分である。
【0050】
凹部28の基端部46は、トップリングの外周面11と下面17とに対して開いている。凹部28の基端部46は、下側水平方向の壁部42と第2の水平方向の壁部36によって画定されている。凹部28の円周方向は、端壁33によって画定されている。
【0051】
一般的に、リングパックの全てのピストンリング4,6は、円形には製造されない。そのような形状が必要とされる理由は、ピストンリングが円筒状のシリンダライナ7に装着されたときに、規定された正確な圧力を、円周全体に亘って及ぼすことができるようにするためである。この圧力は、理想的には、円周全体に亘って等しく分散することができる。しかし、ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のピストン1で使用されるトップピストンリング4には、一般的に、凹状の楕円形状に形成される。これは、円周上の圧力が、合い口部で低くなるようにするためである。それによって、エンジンの運転中に合い口部に印加される圧力が強くなり過ぎないようにする。
【0052】
ある実施形態において、トップピストンリング4は、最も上のリング溝で使用されるために、バーミキュラ黒鉛を入れて焼き戻し硬化鋳造物として形成される。一方、他のリング溝に嵌められるピストンリングは、ラメラ黒鉛を入れた非硬化合金鋳造物として形成される。
【0053】
ある実施形態において、トップピストンリング4には、溶射コーティングまたは電解コーティングが施される。ある実施形態において、トップピストンリング4の(外周面の)形状は、非対称的な凸状の滑走面を呈する。
【0054】
ある実施形態において、リングパックは次のピストンリングを含む。
- トップリング:非対称的な樽型形状を有し、二層コーティングが施され、側面にクロムコーティングが施される。
- セカンドリング:非対称的な樽型形状を有し、流し込みコーティング(running-in coating)が施され、側面にクロムコーティングが施される。
- サードリング:非対称的な樽型形状を有し、流し込みコーティングが施される。
- フォースリング:非対称的な樽型形状を有し、二層コーティングが施される。
【0055】
別の実施形態において、リングパックは次のピストンリングを含む。
- トップリング:非対称的な樽型形状を有し、側面にクロムコバルトコーティングが施される。
- トップリング以外のリング:非対称的な樽型形状を有し、クロムコバルトコーティングが施される。
【0056】
特許請求の範囲において使用される「備える」、「有する」、「含む」との語句は、その他の要素やステップが含まれることを除外しない。特許請求の範囲において単数で記載されている要素であっても、それが複数供えられることを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの手段の機能は、単一のプロセッサまたは他のユニットによって遂行されてもよい。
【0057】
特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【0058】
例示のために本発明を詳細に説明してきたが、これらの詳細説明は例示の目的のためだけに提供されたものであって、本発明の範囲を逸脱せずに当業者により様々な変形がなされうる。
図1
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図11