特許第6337093号(P6337093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337093
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】極細繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/22 20060101AFI20180528BHJP
   D02J 13/00 20060101ALI20180528BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20180528BHJP
【FI】
   D02J1/22 301Z
   D02J13/00 D
   D04H1/4382
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-508658(P2016-508658)
(86)(22)【出願日】2015年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2015056632
(87)【国際公開番号】WO2015141495
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2017年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-55821(P2014-55821)
(32)【優先日】2014年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(74)【代理人】
【識別番号】100191330
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
(72)【発明者】
【氏名】小丸 篤雄
(72)【発明者】
【氏名】市林 拓
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/084797(WO,A1)
【文献】 特開2010−185162(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/135679(WO,A1)
【文献】 特開2005−159283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02J 1/22
D02J 13/00
D04H 1/4382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原フィラメント送出手段と延伸室がオリフィスで連結され、オリフィスの入口の圧力とオリフィスの出口の圧力差が20kPa以上である装置を用いて、オリフィスから延伸室へ導かれた原フィラメントにレーザー照射することにより極細繊維を製造する方法であって、原フィラメントとして単原糸(モノフィラメント)が10本以上束ねられた多原糸(マルチフィラメント)を用い、オリフィスの整流部の断面積S1とマルチフィラメントの総断面積S2の比(S2/S1)が50%以下になる条件でマルチフィラメントを延伸室へ導き、オリフィスから出てきたマルチフィラメントに対し、溶融部の中心位置がオリフィス出口の垂直下1mm以上15mm以下の位置になるようにレーザー照射を行うことでマルチフィラメント先端部を溶融し、このとき圧力差によって生じる気流により、マルチフィラメント全体がオリフィスの中心軸に対して、5°以上80°以下の最大角度をもって、オリフィス孔を頂点とする円錐形状空間の内部をランダムに揺れ動くことにより、マルチフィラメントの先端溶融部が延伸されることを特徴とする平均繊維径が1μm未満の極細繊維の製造方法。
【請求項2】
前記S2/S1が10〜35%であることを特徴とする請求項1に記載の極細繊維の製造方法。
【請求項3】
前記圧力差が50kPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の極細繊維の製造方法。
【請求項4】
オリフィスの整流部径Dと整流部長さLの比(L/D)が0.1〜100であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の極細繊維の製造方法。
【請求項5】
原フィラメントが熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の極細繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極細繊維の製造方法に関し、詳細には、亜音速から超音速領域の気流中において、マルチフィラメントにレーザーを照射して部分溶解させ、溶融した繊維を延伸することにより平均繊維径が1μm未満の極細繊維を製造する方法、および当該極細繊維からなる不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノファイバーと呼ばれる繊維径が1μm未満の極細繊維が注目を集めている。
ナノファイバーはナノスケールの直径に由来する機能とマクロなスケールの長さに由来するハンドリングの容易さを併せ持つユニークな材料である。ナノファイバーの代表的な効果として、(1)比表面積が大きいこと(超比表面積効果)、(2)サイズがナノスケールであること(ナノサイズ効果)、(3)ファイバー内で分子が配列すること(分子配列効果)があげられる。
【0003】
ナノファイバーの製造方法としては多数の方法が提案されているが、主なものとしてエレクトロスピニング法(電界紡糸法)、メルトブロー法、海島溶融紡糸法等が知られている。
【0004】
エレクトロスピニング法は、主に樹脂の希薄溶液に数10kV以上の高電圧をかけ、電界によって溶液を飛び出させると同時に溶液が揮発して繊維を形成する方法である。本法では、樹脂は溶媒に溶解するものでなければならず、また溶液の調製をはじめとして、温度、湿度、電界など条件調整が非常に難しい。また高電圧を使用するために、有機溶媒を用いると安全性に問題があり、更に溶媒回収の問題もある。そして希薄溶液を用いているので生産性が非常に悪いという欠点を有する。
【0005】
メルトブロー法は一般的な不織布の製造方法であり、旭化成(株)や東レ(株)など各社が製品化をしている。メルトブロー法は不織布を作るには一般的な方法であるが、本法でナノファイバーを製造するためには、ノズル径を小さくして、樹脂の吐出量を小さくしなければならない。このため、ナノファイバーを製造するには生産性が非常に悪くなってしまう。また使用可能な樹脂にも制限があり、低粘度の特殊グレードでなければならない。
【0006】
海島溶融紡糸法は、海ポリマー中に多数の島ポリマーを配置できる口金を用いて、島数が数十〜数百の海島複合繊維を作製し、これから海ポリマーを溶剤で除去することで島ポリマーからなる極細繊維を得る方法である。海島溶融紡糸法では、海成分の溶解処理のプロセスでコストがかかり、生産性が悪くなってしまう。また異なる海成分、島成分の樹脂同士の相性にも注意しなければならず、使用可能な樹脂には制限がある。
【0007】
上記の3種の方法以外にもナノファイバー製造方法は各種開発されているが、その中の一つとして、炭酸ガス超音速レーザー延伸法が報告されている(特許文献1〜2)。この方法は亜音速から超音速領域の気流中において、繊維にレーザーを照射して部分溶解させ、溶融した繊維を高速の気流により延伸する方法である。
【0008】
炭酸ガス超音速レーザー延伸法の特徴としては、(1)熱可塑性高分子材料であれば適用でき、(2)得られるナノファイバーは無限長繊維であり、(3)繊維配向性は高く、(4)溶剤を使用しないために作業環境やナノファイバーの安全性は高く、(5)減圧化で繊維を捕集するためにナノファイバーの飛散を防止でき、(6)装置は小型で簡便な構造であるため、設置場所を選ばず、拡張性にも優れているなどがあげられる。
【0009】
しかしながら、炭酸ガス超音速レーザー延伸法の最大の欠点としては、他のナノファイバー生産方式と同様に、生産性の悪さがあげられる。これは、真空由来の気流の流速には限界があるため、1ノズルが単位時間内にナノファイバー化できる樹脂の量には自ずと限りがあるためである。原糸供給量と得られるナノファイバーの重量マテリアルバランスは、原糸重量×原糸供給速度=ナノファイバー重量で表すことができる。特許文献1における実施例では、100〜200μm程度の原糸を0.1〜1m/minで供給する程度の生産性しかない。本発明者らも、更に生産性を向上させるべく検討を行ったが、約100μmの原糸で2.0m/min程度の生産性が限度であった。これ以上の生産速度では、ショット玉等の欠陥が生じたり、得られる極細繊維の繊維径は数μmレベル以上になってしまい、もはやナノファイバーということができないものになってしまっている。なお、原糸の体積マテリアルバランスは原糸半径×原糸供給速度=ナノファイバー半径×気流速度と表すことができる。一般的に、ナノファイバーと呼べるものは半径500nm以下であり、また特許文献1(例えば実施例)に記載されているような大気圧と減圧との組み合わせでは、気流速度には限界がある。そうすると、この式からも原糸半径×原糸供給速度の値、すなわち処理可能な原糸量に限界が生じることが明らかである。
【0010】
もう一つの欠点として均一性の悪さがあげられる。本法では1オリフィスから1本のナノファイバーしかできないため、製品不織布としての均一化を実現するためにはノズル数を非常に増やさなければならない。しかし、オリフィス数は自由に増やすことはできない。オリフィスが増えると、それに対応して原糸の数が増大するため、装置はその分大型化せざるを得ない。このとき多数本の原糸を精密にハンドリングするのは困難である。また、原糸数が増えれば、レーザー光学設計が複雑化したり、レーザー発振器の台数を増やさなければならない。更に、オリフィス数が多いという事は、装置内に大量の気流が流入することになり、装置内での気流制御が困難になる。加えて、減圧状態を維持するために必要なポンプの能力も大幅に増強しなければならない。以上述べたように、様々な制約によりオリフィス数は自由にいくらでも増やせるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2008/084797号
【特許文献2】特許第3534108号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来の炭酸ガス超音速レーザー延伸法が有していた問題点を根本的に解決するために、多原糸(マルチフィラメント)から極細繊維を製造することで、生産性、均一性の観点において遥かに優れている手法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、原フィラメント送出手段と延伸室がオリフィスで連結され、オリフィスの入口の圧力とオリフィスの出口の圧力差が20kPa以上である装置を用いて、オリフィスから延伸室へ導かれた原フィラメントにレーザー照射することにより極細繊維を製造する方法であって、原フィラメントとして単原糸(モノフィラメント)が10本以上束ねられた多原糸(マルチフィラメント)を用い、オリフィスの整流部の断面積S1とマルチフィラメントの総断面積S2の比(S2/S1)が50%以下になる条件でマルチフィラメントを延伸室へ導き、オリフィスから出てきたマルチフィラメントに対し、溶融部の中心位置がオリフィス出口の垂直下1mm以上15mm以下の位置になるようにレーザー照射を行うことでマルチフィラメント先端部を溶融し、このとき圧力差によって生じる気流により、マルチフィラメント全体がオリフィスの中心軸に対して、5°以上80°以下の最大角度をもって、オリフィス孔を頂点とする円錐形状空間の内部をランダムに揺れ動くことにより、マルチフィラメントの先端溶融部が延伸されることを特徴とする平均繊維径が1μm未満の極細繊維の製造方法に関する。
【0014】
また本発明は、前記方法で製造された極細繊維からなることを特徴とする不織布に関する。
【0015】
なお、上記特許文献1などの従来の特許文献にもマルチフィラメントへの言及が一部にあるものの、この特許文献中の実施例におけるモノフィラメントを単純にマルチフィラメントに変更するだけでは極細繊維を得ることはできない。またフィラメントの中心にレーザーを照射するという記述がある事からも、モノフィラメントのときと同様に、静的な定常状態においてマルチフィラメントを用いようとしていることは明らかである。本発明において、マルチフィラメントはオリフィス孔から垂直に下した線に対してマルチフィラメントの中心が5°以上80°以下の平均角度をもって、オリフィス孔を頂点とする円錐形状空間の内部をランダムに揺れ動いているため(本明細書においては、この円錐形状空間の内部をランダムに揺れ動いている状態を、以下「振動」と表現する。)、フィラメントの中心にはレーザーは常に照射されていない。本発明で示すように、本発明で規定する条件を満たして初めて、マルチフィラメントから平均繊維径1μm未満の極細繊維(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)を得ることが可能となるのである。本発明は従来の炭酸ガス超音速レーザー延伸法と類似した環境下でナノファイバーを得るものであるが、マルチフィラメントを振動させることが決定的に重要という点で、ナノファイバーを得るための原理自体が従来技術と全く異なっている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法により、ナノファイバー化する起点がマルチフィラメントを用いることで複数になるため、より高い生産性で、マルチフィラメントからナノファイバーを生産できる。また本発明の方法では、1つのオリフィスから多数本のナノファイバーが生じ、更にそれがマルチフィラメントの振動によってランダムに吹き付けられるため、少ないオリフィス数で、非常に高い均一性の極細不織布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】オリフィスの形状を示す図である。
図2】マルチフィラメントが振動している状態を示す図である。
図3】振動の状態を高速カメラを用いて観察した図である。
図4】振動角を示す図である。
図5】本発明により得られたナノファイバーを示す図である。
図6】振動が生じない場合の溶融部が大きな塊となったマルチフィラメントを示す図である。
図7】振動が生じない場合に溶融部が塊となって落下したものの図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明においては、送出する原フィラメントとして多原糸(マルチフィラメント)を用いる。多原糸(マルチフィラメント)とは、複数本の単原糸(モノフィラメント)からなる束のことを指す。マルチフィラメントを構成する1本のモノフィラメントの断面形状については特に制限はなく、円形のみならず、楕円形、四角形、三角形、台形、その他多角形などの各種異形原糸などで良く、また中空糸、芯鞘型原糸、サイドバイサイド型原糸等の複合原糸でも構わない。更に、多原糸を構成する原糸は、全て同じものである必要はない。形状、材質が異なっているものを組み合わせたマルチフィラメントとしても良い。
本発明で用いる多原糸(マルチフィラメント)としては、単原糸(フィラメント)が10本以上束ねられたものが用いられる。束ねる本数は使用するオリフィス径によって、オリフィスの整流部の断面積S1とマルチフィラメントの総断面積S2の比(S2/S1)に合わせて適宜調整されるが、好ましくは10本以上、より好ましく20本、更に好ましくは40本以上からなるマルチフィラメントが用いられる。
また本発明で用いる原糸としては、マルチフィラメントを構成する1本当たりの直径が10μm〜200μmであるフィラメントが好ましい。
【0020】
本発明で用いるマルチフィラメントは、複数本の原糸が束としての一体性を失い、バラけてしまう事が無いように、通常撚りがかけられている。撚りの数は通常20回/m以上であるが、マルチフィラメントの本数、形状、材質等によって適宜調整される。
【0021】
マルチフィラメントとして使用可能な樹脂は熱可塑性樹脂であり、糸状に加工できるものであれば制限はない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸を含むポリエステル、ナイロン(ナイロン6、ナイロン66)を含むポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンを含むポリオレフィン、ポリビニルアルコール系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などを含むフッ素系ポリマー、ウレタン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、スチレン系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリオキシメチレン、エーテルエステル系ポリマー、トリアセチルセルロース等のセルロース修飾ポリマー、ポリフェニレンスルフィドポリマー、液晶ポリマーなどがあげられる。特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリフェニレンスルフィド、ナイロン(ナイロン6、ナイロン66)、ポリプロピレンは延伸性も良く、分子配向性も良いため、本発明の極細繊維の製造に特に適する。
【0022】
また本発明で用いることができるマルチフィラメントは、その繊維の中に各種有機物、有機金属錯体、無機物質等、各種物質を練り込んだり、または表面に付着させて用いても良い。このようにすることで、ナノファイバー化する際に、練り込んだり、付着させた物質が均一に分散し、ナノファイバーに機能性を付与することが可能である。
【0023】
本発明においては、フィラメントの送出手段から送り出された原フィラメントについて延伸が行われる。送出手段は、ニップローラや数段の駆動ローラの組み合わせなどの一定の送出速度でフィラメントを送り出すことが出来るものであれば特に限定されるものではなく種々のタイプのものが使用できる。フィラメントの送出手段より送り出された原フィラメントは、さらにオリフィスを通して、オリフィス中を原フィラメントの走行方向に流れる気体によって送られる。原フィラメントがこのフィラメント送出手段を経てオリフィスに送り込まれるまでは、圧力がP1気圧の雰囲気で行われる。このP1気圧下の状態に保たれている場所を原フィラメント供給室とする。P1が大気圧のときは、特に圧力を一定にする囲いは必要ない。P1が加圧下や減圧下の場合は、その圧力を保つための囲い(部屋)が必要であり、加圧ポンプまたは減圧ポンプも必要となる。なお本発明では、オリフィス入口部がP1気圧であるとき、原フィラメントの貯蔵部、原フィラメントの送り出し部分は、必ずしもP1気圧である必要はない。しかし、それらを別々の部屋を設けるのは煩雑であるので、それらの部分が同一気圧であることが好ましい。
【0024】
オリフィスの出口以降は、P1気圧よりも減圧のP2気圧下に保たれ、オリフィスから出てきた原フィラメントをレーザー照射によって加熱し、先端部分を部分溶融することによって延伸される延伸室となる。原フィラメントは、P1気圧の原フィラメント供給室とP2気圧下の延伸室との圧力差(P1−P2)によって生じるオリフィス中を流れる気体の流れによってオリフィス中を送られていく。P2が大気圧のときは、特に圧力を一定にする囲いは必要ないが、P2が加圧下や減圧下の場合は、その圧力を保つための囲い(部屋)が必要であり、加圧ポンプまたは減圧ポンプも必要となる。P1とP2の気圧は、P1>P2であるが、P1≧2P2であることが好ましく、P1≧3P2がさらに好ましく、P1≧5P2であることが最も好ましい。P1とP2の圧力差(P1−P2)としては、具体的には、20kPa以上であることが好ましく、50kPa以上がより好ましく、70kPa以上が最も好ましい。
【0025】
本発明においては、P2が減圧下(大気圧未満の圧力)で行われることが特に望ましい。そうすることにより、P1を大気圧で実施でき、装置を著しく簡便にでき、また、減圧は比較的簡便な手段であるからである。なおP1またはP2は、通常室温の空気が使用される。しかし、原フィラメントを予熱したい場合や、延伸したフィラメントを熱処理したい場合は、加熱エアーが使用される。また、フィラメントが、酸化されるのを防ぐ場合は、窒素ガス等の不活性ガスが使用され、水分の飛散を防ぐ場合は、水蒸気や水分を含む気体も使用される。また、マルチフィラメントの振動を制御する目的で、その他各種の不活性ガスを使用することも可能である。
【0026】
本発明における原フィラメント供給室と延伸室は、オリフィスによってつながっている。オリフィス中では、マルチフィラメントとオリフィスとの間の狭い隙間に、P1>P2の圧力差で生じた高速気体の流れが生じる。この高速気体の流れを十分に生じさせるためには、オリフィス整流部の断面積S1とマルチフィラメントの総断面積S2の比(S2/S1)、すなわちこれをオリフィス占有率と定義するが、この値が50%以下になるようにしなければならない。オリフィス占有率が50%よりも大きいと、オリフィス内を流入する気流量が不足するため、本発明の必須の要件であるマルチフィラメントの振動を十分に行わせることができず、したがって極細繊維を得ることができない。振動が不十分である場合、溶融した樹脂はそのほとんどが糸状にならず、溶融塊として落下する。オリフィス占有率の最適値はマルチフィラメントを構成する原糸の本数、形状、材質など各種のパラメータによって適宜決定されるが、50%以下であることが必要であり、35%以下であることが好ましい。一方、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。オリフィス占有率が5%よりも少ないと、マルチフィラメントが大きく振動しすぎる、または気流の力が分散してマルチフィラメントにうまく力がかからず、品質の良いナノファイバーを得ることができない、といったおそれがあり望ましくない。
【0027】
オリフィスの形状は図1に示すような導入部がテーパー状のもので、整流部を有するものが好ましい。整流部径Dと整流部長さLの比(L/D)は0.1〜100であることが好ましく、より好ましくは0.5〜50、更に好ましくは1〜10が望ましい。また整流部の先端形状は、用いるマルチフィラメントの原糸の本数、形状、材質などに合わせて、気流を調整するために加工を施しても良い。
【0028】
オリフィスを通過したマルチフィラメントにはレーザー照射が行われ、マルチフィラメントの先端部が溶融する。このとき、マルチフィラメントに振動を生じさせるためには、レーザー照射位置、そしてレーザー形状、レーザーパワーが重要である。これらのレーザー条件を適宜調整し、マルチフィラメントを振動させることが、マルチフィラメントを用いてナノファイバーを得るために最も重要となる。図2にマルチフィラメントが振動している状態を示す。マルチフィラメントは非常に高速で振動しているため、目視では図2のような残像状態として観察される。
【0029】
実際の振動の状態をより詳細に解析するため、高速カメラを用いた観察を行ったところ、図3に示すように、マルチフィラメントの束が一体となってオリフィス孔を頂点とする円錐形状空間の内部をランダムに揺れ動いていることが分かった。この時マルチフィラメントの振動する方向に規則性は無く、ランダムな動きをしている。オリフィス孔上面から見下ろした平面方向の、360°あらゆる方向に向いてランダムな動きをしている。
【0030】
本発明において、マルチフィラメントからナノファイバーを得るためには、レーザー照射によりかかる振動をマルチフィラメントに生じさせることが必要であるが、単に振動させれば良いという事ではない。オリフィス孔から垂直に下ろした直線に対する振動時のマルチフィラメント束中央の角度の最大角度(以後これを振動角と称する)を5°以上とすることが必要である(図4参照)。この振動角は最大で90°となり得るが、角度が大きすぎると溶融した原糸がオリフィス面にぶつかってしまい、良質なナノファイバーを得ることはできない。また、振動角が小さすぎる場合、十分強い振動とすることは難しい。したがって、最適な振動角は5°〜80°の範囲であり、より望ましくは15°〜50°、更に望ましくは20°〜40°の範囲である。振動角がこの範囲から外れた場合には、ナノファイバーを得ることはできないか、または得られたとしてもショット(ポリマー玉)等と言われる原糸樹脂の溶融塊を含むなど、品質の悪いものしか得られない。
【0031】
マルチフィラメントに振動を生じさせるために、レーザー照射を行う際には、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス出口の垂直下1mm以上離れるように行うことが重要である。オリフィスからの気流の力はノズル孔に近づくほど強くなることから、溶融部がオリフィス孔から1mmよりも近い距離にあると、気流の力により、オリフィス孔から垂直に垂らした直線に対する振動時のマルチフィラメント束の角度の最大角度は非常に大きくなり、90°に達してしまう場合もある。このとき得られるナノファイバーの品質は悪化してしまう。
なお、レーザーのパワーが不十分であると、マルチフィラメントの供給量を増加させていくにつれて、レーザーの内部まで入り込まないと樹脂が溶けなくなるため、溶融部の位置が下がっていくことがあり注意する必要がある。本発明において溶融部の位置がオリフィス孔を頂点とする振動の形状に影響を与える。
溶融部の中心は、オリフィス出口の垂直下1mm以上であることが必要であるが、3mm以上が好ましく、また離れ過ぎてもオリフィスから流出する気流が弱まるため、マルチフィラメントの振動を起こさせることができないため、15mm以下であることが好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましい。
【0032】
以上に述べた条件を満たしたマルチフィラメントの振動が生じるとき、図5のようにショット(ポリマー玉)等がない平均繊維径が1μm未満のナノファイバーを得ることができる。
【0033】
一方、マルチフィラメントを用いても振動が生じない場合には、図6のようにマルチフィラメントの溶融部同士が融着し、大きな塊となる。結果、これが落下し、図7のように、全てショット(ポリマー玉)等になり、全くナノファイバーを得られない場合や、ナノファイバーが極僅かしか得られない場合もある。
【0034】
以上述べたように、マルチフィラメントからナノファイバーを得るためには、超音速気流中でのレーザー照射によりマルチフィラメントの先端部を溶融させ、マルチフィラメントの振動を起こさせることが決定的に重要である。マルチフィラメントを原糸として使用する際には振動が生じなければ、良好なナノファイバーは得られないことから、本発明者らが開発した手法は、従来の炭酸ガス超音速レーザー延伸法とは全く異なるものであり、振動が非常に重要な役割を果たしているのである。
【0035】
以上説明した方法により、延伸室の底部または底部に適当な基材を配置していた場合には、当該基材上にナノファイバーまたその集積体を製造することができる。また基材を走行できるようにしてあれば連続して当該ナノファイバーの集積体を製造することもできる。さらに本発明の製造方法では、先に説明したオリフィスを複数並べることにより、広幅化したナノファイバーの集積体を製造することも可能である。例えば、オリフィスを装置TD方向に並べていくと、ナノファイバーの集積体の幅を広くすることもできる。このとき、オリフィスとオリフィスの間隔は、マルチフィラメントの振動幅に応じて、マルチフィラメント同士が接触しないよう、また、隣接するオリフィスの気流による悪影響が無いように適宜調整する必要がある。またTD方向に並べたオリフィス列を、MD方向に何列も設置すれば、ナノファイバーを複数回吹き付けることが可能となるため、更に均一なナノファイバーの集積体を得ることができる。本発明では、このようにオリフィス列の数を増やすことによって、当該集積体の生産性をさらに向上させることもできる。
【0036】
上記のように、例えば基材上に広幅化して得られたナノファイバーの集積体を当該基材と共に熱ラミネート等の処理加工によって複合化することによって不織布を得ることができる。さらに、不織布を得る際には必ずしも基材が必要ではなく、集積したナノファイバーをエンボス、熱ラミネート等の処理加工することによっても、当然のことながら不織布を得ることができる。なお本発明の製造方法で得られるナノファイバーを用いて不織布を得る際の各種諸条件や基材の種類、また基材の有無等については、当該不織布の用途によって適宜選定されるものであり、何ら制限させるものではない。
【0037】
上記のようにして得られた不織布は、その用途に限定されるものではなく、例えば、ワイパー(ウェットワーパー、ドライワイパー)、おむつ、フィルター(エアフィルター、液体フィルター、分子フィルター)、ティーバッグ、各種電池のセパレータ、ルーフィング、ガーゼ(フェースマスク)、タオル、コーティング基布、生理用品、合成皮革、防水基材、絶縁材、吸水シート、マスク、油吸着シート、滅菌包装資材、防護服(細菌、放射性物質)(空気抵抗最少、アエロゾル捕獲、抗生物、抗化学物質)、衣料用芯地、保温資材(ナノテキスタイル)、キャパシタ、吸着剤、触媒担持体(水素貯蔵)、電磁波シールド、メディカル用基布(再生医療用支持体、皮膚用膜、血管用チューブ)、エンジンフィルター、防虫容器、透湿防水シート、センサー基布(温度センサー、圧力センサー、生化学センサー)等、多岐に渡る用途に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何等限定を受けるものではない。また実施例中における各値は下記の方法で求めた。
【0039】
(1)繊維の平均径:
得られた繊維の集合体の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日本電子製JCM−5000)により撮影(倍率10000倍)した。得た写真を無作為に10枚選び、写真内のすべての繊維の径を測定し、写真10枚の中に含まれるすべての繊維径の平均値を求めて、それを繊維の平均径とした。
(2)振動の角度
キーエンスVW−6000とレンズVH−Z50Lを組み合わせて撮影を行い、オリフィスから出たマルチフィラメント束の根元から垂直に下した線と、マルチフィラメント束の根元とマルチフィラメント束中央を結ぶ直線の角度を振動の角度(振動角)とした。
【0040】
[実施例1]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角32度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径310nm)を得ることができた。
【0041】
[実施例2]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(760dtex、120フィラメント)を用意した。整流部内径0.8mm、その整流部の長さは1.6mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が17%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角36度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径330nm)を得ることができた。
【0042】
[実施例3]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを0.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角25度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径310nm)を得ることができた。
【0043】
[実施例4]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(760dtex、120フィラメント)を用意した。整流部内径0.8mm、その整流部の長さは1.6mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が17%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを0.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角27度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径320nm)を得ることができた。
【0044】
[実施例5]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(830dtex、25フィラメント)を用意した。整流部内径0.8mm、その整流部の長さは1.6mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が24%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角31度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径320nm)を得ることができた。
【0045】
[実施例6]
マルチフィラメントとして、繊維の断面形状が正三角形であるポリプロピレン製の異形マルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角28度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径330nm)を得ることができた。
【0046】
[実施例7]
マルチフィラメントとして、ポリエチレンテレフタレート製のマルチフィラメント(560dtex、96フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が14%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角41度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径400nm)を得ることができた。
【0047】
[実施例8]
マルチフィラメントとして、ナイロン66製のマルチフィラメント(560dtex、48フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が15%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角39度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径370nm)を得ることができた。
【0048】
[実施例9]
マルチフィラメントとして、プルシアンブルーを練り込んだポリプロピレン製のマルチフィラメント(760dtex、120フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が17%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角33度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径320nm)を得ることができた。得られたナノファイバーの集積体は均一に青みがかかっており、プルシアンブルー由来の成分が、均一に分散している事が示唆された。
【0049】
[実施例10]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmである同一形状のオリフィスが、1.5mm間隔で5つ直線状に並んでいるマルチオリフィスを用意した。これを用い、オリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角32度で振動した。また、ポリエチレン/ポリプロピレンの湿式複合不織布を基材として、オリフィス出口から60mmの距離で幅約10cmのナノファイバーの集積体を得ることができた。この集積体とポリエチレン/ポリプロピレンの湿式複合不織布ををロール温度120°で熱ラミネートすることにより複合化し複合不織布を得た。
【0050】
[実施例11]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(1670dtex、50フィラメント)を用意した。整流部内径1.0mm、その整流部の長さは3.0mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が23%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下5.0mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角30度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径340nm)を得ることができた。
【0051】
[実施例12]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.8mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角28度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径320nm)を得ることができた。
【0052】
[実施例13]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは3.0mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角25度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径310nm)を得ることができた。
【0053】
[実施例14]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.5mm、その整流部の長さは1.0mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が32%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角26度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径320nm)を得ることができた。
【0054】
[実施例15]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.8mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度8kPa(圧力差93kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角28度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径340nm)を得ることができた。
【0055】
[実施例16]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.8mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度41kPa(圧力差60kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角31度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径420nm)を得ることができた。
【0056】
[実施例17]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(830dtex、25フィラメント)を用意した。整流部内径0.8mm、その整流部の長さは2.4mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が18%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下7mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角27度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径270nm)を得ることができた。
【0057】
[実施例18]
マルチフィラメントとして、ポリフェニレンサルファイド製のマルチフィラメント(170dtex、48フィラメント)を用意した。整流部内径0.3mm、その整流部の長さは0.6mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が18%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを0.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角20度で振動し、ナノファイバー(平均フィラメント径450nm)を得ることができた。
【0058】
[比較例1]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.35mm、その整流部の長さは0.8mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が66%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように、60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動することは無く、溶融部が塊として落下するだけで、ナノファイバーを得ることができなかった。
【0059】
[比較例2]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(220dtex、40フィラメント)を用意した。整流部内径0.9mm、その整流部の長さは1.6mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が4%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように、60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動角90度で激しく振動し、一部ナノファイバー化したものの、得られたナノファイバー中には大量のショット(ポリマー玉)等が生じ、またオリフィスの汚れも激しく、汚れが溜まると大きな溶融物として溶融落下してナノファイバーを部分的に溶融しているなど、ナノファイバーの品質は非常に悪かった。
【0060】
[比較例3]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下0.7mmの位置になるように、60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが、振動角87度で激しく振動し、一部ナノファイバー化したものの、得られたナノファイバー中には大量のショット(ポリマー玉)等が生じ、またオリフィスの汚れも激しく、汚れが溜まると大きな溶融物として溶融落下してナノファイバーを部分的に溶融しているなど、ナノファイバーの品質は非常に悪かった。
【0061】
[比較例4]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下20mmの位置になるように、60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動することは無く、溶融部が塊として落下するだけで、ナノファイバーを得ることができなかった。
【0062】
[比較例5]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度90kPa(圧力差11kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように、60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動することは無く、溶融部が塊として落下するだけで、ナノファイバーを得ることができなかった。
【0063】
[比較例6]
マルチフィラメントとして、ポリプロピレン製のマルチフィラメント(570dtex、60フィラメント)を用意した。整流部内径0.6mm、その整流部の長さは0mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が20%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でマルチフィラメントを1.5m/minで供給し、マルチフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように、60Wのφ3mmレーザーを照射した。このときオリフィス出口でマルチフィラメントが振動することは無く、溶融部が塊として落下するだけで、ナノファイバーを得ることができなかった。
【0064】
[比較例7]
フィラメントとして、ポリプロピレン製のモノフィラメント(200μm)を用意した。整流部内径0.4mm、その整流部の長さは1.2mmであるオリフィスを用い、このときオリフィス占有率が24%の条件で、延伸室の真空度15kPa(圧力差86kPa)の状態でモノフィラメントを1.5m/minで供給し、モノフィラメントの溶融部の中心位置がオリフィス下3.5mmの位置になるように、60Wのφ3mmレーザーを照射したが、オリフィス出口でモノフィラメントの振動は生じなかった。このとき、元のフィラメントが太いため、溶融部が非常に大きくなってしまう事により、その一部が落下して大きなショット玉になる等、得られた繊維の品質は悪く、また原繊維よりも細化した繊維は得られたものの、平均繊維径は4μmと太く、平均繊維径1μ以下のナノファイバーと呼べるものを得ることはできなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7