特許第6337111号(P6337111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337111
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】有機発光デバイスおよび表示装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20180528BHJP
   H05B 33/24 20060101ALI20180528BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20180528BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20180528BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   H05B33/22 A
   H05B33/14 A
   H05B33/24
   H05B33/12 B
   H05B33/22 D
   H01L27/32
   G09F9/30 365
【請求項の数】12
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-529067(P2016-529067)
(86)(22)【出願日】2015年6月19日
(86)【国際出願番号】JP2015003089
(87)【国際公開番号】WO2015194189
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2016年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-127075(P2014-127075)
(32)【優先日】2014年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514188173
【氏名又は名称】株式会社JOLED
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 隆宏
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/080315(WO,A1)
【文献】 特開2004−288621(JP,A)
【文献】 特開2010−050014(JP,A)
【文献】 特開2009−043466(JP,A)
【文献】 特表2012−504847(JP,A)
【文献】 特開2008−034367(JP,A)
【文献】 特開平11−233262(JP,A)
【文献】 特開平11−162646(JP,A)
【文献】 特開平08−288069(JP,A)
【文献】 特開平08−102360(JP,A)
【文献】 特開2007−035920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
G09F 9/30
H01L 27/32
H05B 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光部が基板の主面に沿った方向に二次元配置されてなる有機発光デバイスであって、
前記複数の発光部の各々は、
前記基板の上方に配置された第1電極と、
前記第1電極の上方に配置された第1電荷注入輸送層と、
前記第1電荷注入輸送層の上方に配置された有機発光層と、
前記有機発光層の上方に配置された中間層と、
前記中間層上に配置された第2電荷注入輸送層と、
前記第2電荷注入輸送層の上方に配置された第2電極と、を有し、
前記中間層は、アルカリ金属のフッ化物またはアルカリ土類金属のフッ化物を含み、
前記第2電荷注入輸送層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、
前記中間層に含まれるフッ化物におけるアルカリ金属またはアルカリ土類金属を第1金属とし、前記第2電荷注入輸送層に含まれるアルカリ金属またはアルカリ土類金属を第2金属とすると、前記第2金属は、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有するものであって、
前記第2電荷注入輸送層は、前記第2金属の単体を主成分とする第1電荷注入輸送層部分と、有機材料を含む第2電荷注入輸送層部分とが積層されてなると共に、前記第1電荷注入輸送層部分は、前記中間層に接して配置されており、
前記第1電極および前記第2電極のうち、一方は光反射性を、他方は光透過性を有し、
前記複数の発光部は、互いに発光色の異なる第1発光部と第2発光部とを含み、
前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層の厚みは、前記第1発光部と前記第2発光部とで異なる
有機発光デバイス。
【請求項2】
前記第2電荷注入輸送層部分は、前記有機材料にアルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされて成る
請求項に記載の有機発光デバイス。
【請求項3】
前記第2電荷注入輸送層部分において、前記有機材料にドープされているアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、前記第2金属である
請求項に記載の有機発光デバイス。
【請求項4】
前記第2電荷注入輸送層部分における前記有機材料は、ドープ金属を含まない
請求項に記載の有機発光デバイス。
【請求項5】
前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層の厚みは、前記複数の発光部それぞれの発光色の波長に基づいて、共振効果が得られる厚みに決定されている
請求項1から4の何れか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項6】
前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層は、前記有機発光層よりも電気抵抗率が低い
請求項1から5の何れか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項7】
前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層は、有機材料を用いてウェットプロセスにより形成されている
請求項1からの何れか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項8】
前記第1電極は、アノードであり、
前記第2電極は、カソードであり、
前記第1電荷注入輸送層は、ホール注入層であり、
前記第2電荷注入輸送層は、電子輸送層である
請求項1からの何れか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項9】
前記第1電極は、光反射性を有し、
前記第1電荷注入輸送層は、導電性有機材料から成り、前記第1発光部と前記第2発光部とでその厚みが異なる
請求項に記載の有機発光デバイス。
【請求項10】
前記第2電極は、光反射性を有し、
前記第2電荷注入輸送層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むπ電子系有機材料から成る
請求項に記載の有機発光デバイス。
【請求項11】
前記第1発光部の発光色の波長は、前記第2発光部の発光色の波長よりも長く、前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層は、前記第1発光部において前記第2発光部においてよりも厚い
請求項1から10の何れか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項12】
表示パネルと、
前記表示パネルに接続された制御駆動回路と、を備え、
前記表示パネルとして、請求項1から11の何れか1項に記載のデバイス構造が採用されている
表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光デバイスおよび表示装置に関し、特に発光効率の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electroluminescence)パネルや有機EL照明等の有機発光デバイスの開発が盛んに行われている。
【0003】
有機ELパネルでは、基板の主面に沿って複数のサブピクセルが二次元配置された構成を有する。各サブピクセルにおいては、基板の上方に、アノード、ホール注入層(HIL:Hole Injection Layer)、ホール輸送層、有機発光層、電子輸送層、カソードの順に積層された構成を有する。また、ホール注入層,ホール輸送層,電子輸送層は、電荷(電子,ホール)をアノードやカソードから有機発光層側へと注入する機能や電荷をアノードやカソードから有機発光層へと輸送する機能を有することから、これらの層を電荷注入輸送層と称する。
【0004】
ここで、電子輸送層として、例えば、バリウムをドープしてなる有機材料からなる層を採用することが研究・開発されている。このような電子輸送層を採用すれば、高い電子注入特性を得ることができる。
【0005】
また、上記のような電荷注入輸送層が不純物(水分や酸素)の影響で劣化し易いという問題に鑑み、特許文献1には、無機材料からなるバリア層が有機発光層と電子輸送層との間に配置された構成が開示されている。特許文献1で紹介されている無機材料としては、酸化シリコン(SiOX)などが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4882508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のように無機材料からなるバリア層が有機発光層と電子輸送層との間に配置されると、発光効率の低下という問題を生じるものと考えられる。これは、上記特許文献1で紹介されている無機材料は、電子注入性が低く、バリア層が障壁となるために有機発光層への電子の注入が阻害されるためであると考えられる。
【0008】
このような電子注入性の低下を抑制すべく、電子輸送層としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされてなる有機材料を含む層を採用するとともに、有機発光層と電子輸送層との間にアルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物を含む中間層が配置された構成の開発が進められている。
【0009】
このような中間層は、不純物のブロック機能を有しながら、高い電子注入性を得ることができるものと考えられる。
【0010】
上記の構成によって発光効率低下の抑制が試みられているが、有機ELパネルをはじめとする有機発光デバイスでは、更なる発光効率の向上が求められている。
【0011】
本発明は、不純物による電荷注入輸送層の劣化を抑制しつつ、発光効率の向上を図ることができる有機発光デバイスおよび表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る有機発光デバイスは、複数の発光部が基板の主面に沿った方向に二次元配置されてなる有機発光デバイスである。前記複数の発光部の各々は、前記基板の上方に配置された第1電極と、前記第1電極の上方に配置された第1電荷注入輸送層と、前記第1電荷注入輸送層の上方に配置された有機発光層と、前記有機発光層の上方に配置された中間層と、前記中間層上に配置された第2電荷注入輸送層と、前記第2電荷注入輸送層の上方に配置された第2電極とを有し構成されている。前記中間層は、アルカリ金属のフッ化物またはアルカリ土類金属のフッ化物を含む。前記第2電荷注入輸送層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされてなる有機材料を含む。前記第1電極および前記第2電極のうち、一方は光反射性を、他方は光透過性を有する。前記複数の発光部は、互いに発光色の異なる第1発光部と第2発光部とを含む。そして、前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層の厚みは、前記第1発光部と前記第2発光部とで異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る有機発光デバイスにおいては、第2電荷注入輸送層としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされてなる有機材料を含む層が採用されているので、高い発光効率を得ることができる。
【0014】
また、有機発光層と第2電荷注入輸送層との間に、アルカリ金属のフッ化物またはアルカリ土類金属のフッ化物を含む層である中間層が配置されているので、高い不純物ブロック性を有する。これにより、有機発光層などからの不純物が電荷注入輸送層に対して侵入しようとするのを効果的にブロックすることができ、電子注入輸送層の劣化を抑制し、高い保管安定性を実現することができる。これにより、有機発光デバイスの高い電荷注入性を実現することができる。
【0015】
さらに、上記態様に係る有機発光デバイスでは、互いに発光色の異なる第1発光部と第2発光部とを含む。また、第1電極と第2電極のうち光反射性を有する方の電極と有機発光層との間に配置された第1電荷注入輸送層または第2電荷注入輸送層の厚みが、第1発光部と第2発光部とで異なる。第1電極と第2電極のうち光反射性を有する方の電極と有機発光層との間に配置された第1電荷注入輸送層または第2電荷注入輸送層の厚みは、有機発光層から直接外部へと出射される直接出射光と、光反射性を有する電極表面で反射された後外部へと出射される反射出射光との光路長の差に影響する。上記態様に係る有機発光デバイスでは、第1電極と第2電極のうち光反射性を有する方の電極と有機発光層との間に配置された第1電荷注入輸送層または第2電荷注入輸送層の厚みが、第1発光部と第2発光部とで異なっており、第1発光部と第2発光部とで同じ層厚で共通に形成されてはいない。従って、第1発光部および第2発光部のそれぞれにおいて、直接出射光と反射出射光との共振効果が得られるようにキャビティ調整を行うことができ、第1発光部および第2発光部それぞれにおいて、発光効率の向上を図ることができる。
【0016】
以上より、上記態様に係る有機発光デバイスでは、不純物による電荷注入輸送層の劣化を抑制しつつ、更なる発光効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る有機EL表示装置の概略構成を示す模式ブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る表示パネルにおけるサブピクセルの配置形態を示す模式平面図である。
図3図2のA−A断面での構成を示す模式断面図である。
図4】(a)は、図2の表示パネルにおけるバンクの配置形態を示す模式平面図であり、(b)は、そのB−B断面での一部構成を示す模式断面図であり、(c)は、C−C断面での一部構成を示す模式断面図である。
図5】ホール注入層および有機発光層の厚みと、発光効率および駆動電圧との関係を示す図である。
図6】変形例1に係る表示パネルの構成を示す模式断面図である。
図7】変形例3に係る表示パネルの構成を示す模式断面図である。
図8】変形例8に係る表示パネルの構成を示し模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪本発明の一態様の概要≫
本発明の一態様に係る有機発光デバイスは、複数の発光部が基板の主面に沿った方向に二次元配置されてなる有機発光デバイスである。前記複数の発光部の各々は、前記基板の上方に配置された第1電極と、前記第1電極の上方に配置された第1電荷注入輸送層と、前記第1電荷注入輸送層の上方に配置された有機発光層と、前記有機発光層の上方に配置された中間層と、前記中間層上に配置された第2電荷注入輸送層と、前記第2電荷注入輸送層の上方に配置された第2電極とを有する。前記中間層は、アルカリ金属のフッ化物またはアルカリ土類金属のフッ化物を含む。前記第2電荷注入輸送層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む。前記第1電極および前記第2電極のうち、一方は光反射性を、他方は光透過性を有する。前記複数の発光部は、互いに発光色の異なる第1発光部と第2発光部とを含む。そして、前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層の厚みは、前記第1発光部と前記第2発光部とで異なることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る有機発光デバイスにおいては、第2電荷注入輸送層がアルカリ金属またはアルカリ土類金属含むので、低駆動電圧で高い発光効率を得ることができる。
【0020】
また、有機発光層と第2電荷注入輸送層との間に、アルカリ金属のフッ化物またはアルカリ土類金属のフッ化物を含む層である中間層が配置されているので、高い不純物ブロック性を有する。これにより、有機発光層からの不純物が第2電荷注入輸送層および第2電極に対して侵入しようとするのを効果的にブロックすることができ、第2電荷注入輸送層および第2電極の劣化を抑制し、高い電荷注入性を持続させることができる。またこれにより、高い保管安定性を有する有機発光デバイスを実現することができる。
【0021】
さらに、上記態様に係る有機発光デバイスでは、互いに発光色の異なる第1発光部と第2発光部とを含む。そして、第1電極と第2電極のうち光反射性を有する方の電極と有機発光層との間に配置された第1電荷注入輸送層または第2電荷注入輸送層の厚みが、第1発光部と第2発光部とで異なる。即ち、第1発光部と第2発光部とで上記の層がそれぞれ個別に形成されているため、第1発光部と第2発光部とのそれぞれでキャビティ調整を行うことができ、それぞれ共振効果により発光効率の向上を図ることができる。
【0022】
以上より、上記態様に係る有機発光デバイスでは、不純物による電荷注入輸送層の劣化を抑制しつつ、発光効率の向上を図ることができる。
【0023】
また、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された前記第1電荷注入輸送層または前記第2電荷注入輸送層の厚みは、前記複数の発光部それぞれの発光色の波長に基づいて、共振効果が得られる厚みに決定されていてもよい。
【0024】
これにより、それぞれの発光部において共振効果により発光効率の向上を図ることができる。
【0025】
また、前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層は、前記有機発光層よりも電気抵抗率が低くてもよい。
【0026】
これにより、有機発光層の厚みを厚くしてキャビティ調整を行う場合と比較して、キャビティ調整に伴い上記層の層厚を厚くした場合の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0027】
また、前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層は、有機材料を用いてウェットプロセスにより形成されていてもよい。
【0028】
これにより、発光部ごとにキャビティ調整のために上記層の層厚を容易に変えることができる。
【0029】
また、前記中間層に含まれるフッ化物におけるアルカリ金属またはアルカリ土類金属を第1金属とし、前記第2電荷注入輸送層に含まれるアルカリ金属またはアルカリ土類金属を第2金属とすると、前記第2金属は、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有してもよい。
【0030】
これにより、有機発光層側から第2電荷注入輸送層および第2電極へと不純物が侵入するのを中間層に含まれる第1金属のフッ化物により阻害して、良好な保存安定性を実現することができる。また、第2電荷注入輸送層に含まれる第2金属が、第1金属とフッ素との結合を切って第1金属を遊離させる。遊離した第1金属はアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり電子注入性に優れているため、良好な発光効率を実現することができる。
【0031】
また、第2金属として比較的仕事関数が低く電子供給能の高いアルカリ金属またはアルカリ土類金属が用いられているため、フッ素との反応性が比較的高く、第1金属とフッ素との結合を切りやすい。従って、第1金属の電子注入性がより効果的に作用し、良好な発光効率を実現することができる。
【0032】
また、前記第2電荷注入輸送層は、前記第2金属がドープされた有機材料から成ってもよい。
【0033】
これにより、第2電荷注入輸送層にドープされた第2金属が、中間層に含まれる第1金属のフッ化物に作用することができる。
【0034】
また、前記第2電荷注入輸送層は、前記第2金属から成る第1電荷注入輸送層部分と、有機材料を含む第2電荷注入輸送層部分とが積層されてなり、前記第1電荷注入輸送層部分は、前記中間層に接して配置されていてもよい。
【0035】
第1電荷注入輸送層部分が第2金属から成るため、中間層に含まれる第1金属のフッ化物に対して、より高濃度で第2金属を作用させることができる。
【0036】
また、前記第2電荷注入輸送層部分は、前記有機材料にアルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされて成ってもよい。
【0037】
これにより、前記第2電荷注入輸送層部分の電荷注入輸送性を向上させることができる。
【0038】
また、前記第2電荷注入輸送層部分において、前記有機材料にドープされているアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、前記第2金属であってよい。
【0039】
これにより、第1電荷注入輸送層部分および第2電荷注入輸送層部分を形成する際に共通の金属材料を用いることができ、製造が容易であり、コストに資することができる。
【0040】
また、前記第2電荷注入輸送層部分における前記有機材料は、ドープ金属を含まなくてもよい。
【0041】
これにより、第2電荷注入輸送層部分に金属をドープする工程を省略することができ、製造が容易であり、コストに資することができる。
【0042】
また、前記第1電極は、アノードであり、前記第2電極は、カソードであり、前記第1電荷注入輸送層は、ホール注入層であり、前記第2電荷注入輸送層は、電子輸送層であってもよい。
【0043】
これにより、有機発光層側から不純物が第2電極であるカソードおよび第2電荷注入輸送層である電子輸送層へと侵入するのを中間層により阻害し、カソードおよび電子輸送層の不純物による劣化を抑制して、良好な保存安定性を実現することができる。
【0044】
また、前記第1電極は、光反射性を有し、前記第1電荷注入輸送層は、導電性有機材料または有機半導体材料から成り、前記第1発光部と前記第2発光部とでその厚みが異なっていてもよい。
【0045】
第1電荷注入輸送層であるホール注入層が有機材料から成るため、ウェットプロセスを用いて容易にホール注入層を形成することができる。従って、第1電極であるアノード表面で光を反射し、第2電極であるカソード側から光を取り出す構成の場合において、キャビティ調整のために第1発光部と第2発光部とでホール注入層を異なる層厚で形成するのが容易である。
【0046】
また、前記第2電極は、光反射性を有し、前記第2電荷注入輸送層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むπ電子系有機材料から成ってもよい。
【0047】
第2電荷注入輸送層である電子輸送層がπ電子系有機材料から成るため、ウェットプロセスを用いて電子輸送層を形成することができる。従って、第2電極であるカソード表面で光を反射し、第1電極であるアノード側から光を取り出す構成の場合において、キャビティ調整のために第1発光部と第2発光部とで電子輸送層を異なる層厚で形成することが可能である。
【0048】
また、前記第1電極は、カソードであり、前記第2電極は、アノードであり、前記第1電荷注入輸送層は、電子輸送層であり、前記第2電荷注入輸送層は、ホール注入層であってもよい。
【0049】
これにより、有機発光層側から不純物が第2電極であるアノードおよび第2電荷注入輸送層であるホール注入層へと侵入するのを中間層により阻害し、アノードおよびホール注入層の不純物による劣化を抑制して、良好な保存安定性を実現することができる。
【0050】
また、前記第1電極は、光反射性を有し、前記第1電荷注入輸送層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むπ電子系低分子有機材料から成ってもよい。
【0051】
第1電荷注入輸送層である電子輸送層がπ電子系有機材料から成るため、ウェットプロセスを用いて電子輸送層を形成することができる。従って、第1電極であるカソード表面で光を反射し、第2電極であるアノード側から光を取り出す構成の場合において、キャビティ調整のために第1発光部と第2発光部とで電子輸送層を異なる層厚で形成するのが容易である。
【0052】
また、前記第2電極は、光反射性を有し、前記第2電荷注入輸送層は、導電性有機材料から成ってもよい。
【0053】
第2電荷注入輸送層であるホール注入層が導電性有機材料から成るため、ウェットプロセスを用いてホール注入層を形成することができる。従って、第2電極であるアノード表面で光を反射し、第1電極であるカソード側から光を取り出す構成の場合において、キャビティ調整のために第1発光部と第2発光部とでホール注入層を異なる層厚で形成することが可能である。
【0054】
また、前記第1発光部の発光色の波長は、前記第2発光部の発光色の波長よりも長く、前記第1電荷注入輸送層および前記第2電荷注入輸送層のうち、前記第1電極および前記第2電極のうち光反射性を有する方の電極と前記有機発光層との間に配置された方の層は、前記第1発光部において前記第2発光部においてよりも厚くてもよい。
【0055】
これにより、第2発光部よりも発光色の波長が長い第1発光部において、より長い光路長を確保して、共振効果による発光効率の向上を図ることができる。
【0056】
また、本発明の別の一態様に係る表示装置は、表示パネルと、前記表示パネルに接続された制御駆動回路と、を備え、前記表示パネルとして、上記何れかのデバイス構造が採用されていることを特徴とする。
【0057】
本発明の別の一態様に係る表示装置によっても、上記有機発光デバイスと同様の効果を得ることができる。
【0058】
以下、本発明の実施形態および変形例について具体例を示し、構成および作用・効果を説明する。
【0059】
なお、以下の説明で用いる実施形態および変形例は、本発明の一態様に係る構成および作用・効果を分かりやすく説明するために用いる例示であって、本発明は、その本質的部分以外に何ら以下の実施形態および変形例に限定を受けるものではない。
【0060】
≪実施形態≫
[1.有機EL表示装置1の概略構成]
本発明の一態様である実施形態に係る表示装置の概略構成について、図1および図2を用い説明する。
【0061】
図1に示すように、有機EL表示装置1は、表示パネル10と、これに接続された駆動・制御回路部20とを備えている。表示パネル10は、有機材料の電界発光現象を利用した有機ELパネルであり、複数のピクセル(画素)を有する。
【0062】
図2に示すように、各ピクセルは、赤色(R)の発光部であるサブピクセル10aと、緑色(G)の発光部であるサブピクセル10bと、青色(B)の発光部であるサブピクセル10cとから構成されている。本実施形態では、複数のサブピクセル10a,10b,10cは、X−Y軸方向にマトリクス状に配置(二次元配置)されている。
【0063】
図1に戻って、駆動・制御回路部20は、4つの駆動回路21,22,23,24と制御回路25とから構成されている。
【0064】
なお、有機EL表示装置1における表示パネル10と駆動・制御回路部20との配置関係については、図1の形態には限定されない。
【0065】
また、表示パネル10におけるピクセルの構成については、図2に示すようなR,G,Bの3色のサブピクセル(発光部)からなる形態に限定されず、4色以上の発光部から1ピクセルが構成されることとしてもよい。
【0066】
[2.表示パネル10の構成]
表示パネル10の構成について、図3を用い説明する。本実施形態に係る表示パネル10は、一例としてトップエミッション型の有機ELパネルを採用する。なお、図3は、図2におけるA−A断面図である。
【0067】
図3に示すように、表示パネル10は、TFT基板(基板)100をベースとして、その上面に絶縁層101が積層されている。絶縁層101は、そのZ軸方向上面が略平坦となるように形成されている。なお、図3などでは、TFT基板100におけるTFT(Thin Film Transistor)層の図示を省略し、簡略化した図としている。
【0068】
絶縁層101のZ軸方向上面には、アノード102およびホール注入層103が順に積層形成されている。アノード102およびホール注入層103については、サブピクセル10a,10b,10cごとに設けられている。ただし、ホール注入層103については、サブピクセル10a,10b,10c間で連続した状態で形成することも可能である。
【0069】
次に、絶縁層101上およびホール注入層103のX軸方向両端上を覆うように、第1バンク104が形成されている。第1バンク104は、X軸方向において、隣接するサブピクセル10a,10b,10c間に挿設され、X軸方向における発光領域に相当する開口を規定する。
【0070】
隣接するバンク104間に規定された開口内には、Z軸方向下側から順に、ホール輸送層105、有機発光層106が積層形成されている。
【0071】
有機発光層106上およびバンク104の頂面上には、これらを覆うように、中間層107、電子輸送層108、カソード109および封止層110が順に積層形成されている。
【0072】
封止層110のZ軸方向上側には、樹脂層114が積層されている。そして、樹脂層114の上には、CFパネル基板111のZ軸方向下側の主面にカラーフィルタ層112およびブラックマトリクス層113が形成されてなるCFパネル117が貼り合わせられている。樹脂層114は、封止層110,カラーフィルタ層112およびブラックマトリクス層113に対して密に接している。
【0073】
なお、本実施形態においては、TFT基板100が基板であり、アノード102が第1電極であり、カソード109が第2電極である。また、ホール注入層103が第1電荷注入輸送層であり、電子輸送層108が第2電荷注入輸送層である。
【0074】
[3.バンク104,115の配置形態]
次に、表示パネル10におけるバンク104,115の配置形態について、図4を用い説明する。
【0075】
図4(a)に示すように、本実施形態に係る表示パネル10では、各々がY軸方向に長尺で、X軸方向に互いに間隔をあけて配置された複数条の第1バンク104と、各々がX軸方向に長尺で、Y軸方向に互いに間隔をあけて配置された複数条の第2バンク115とを備える。即ち、本実施形態では、所謂ラインバンク構造を採用している。
【0076】
隣接する一対の第1バンク104と、隣接する一対の第2バンク115とで規定される各領域が、サブピクセル形成領域116a,116b,116cである。サブピクセル形成領域116a,116b,116c内に各サブピクセルの発光色に対応した有機発光層やホール輸送層等の各種機能層が形成され、サブピクセル10a,10b,10cとなる。
【0077】
図4(a),(b)に示すように、第1バンク104は、X軸方向に隣接するサブピクセル10a,10b,10c間に配置されており、絶縁層101の上面を基準とする高さがhである。
【0078】
一方、図4(a),(c)に示すように、第2バンク115は、Y軸方向に隣接するアノード102間に配置されている。絶縁層101の上面を基準とする第2バンク115の高さはH115である。ここで、第2バンク115の高さH115は、第1バンク104の高さH104に比べて、40%〜70%の範囲内、より詳細には50%〜55%の範囲内にある。
【0079】
[4.表示パネル10の各構成材料]
(1)TFT基板100
TFT基板100は、基板と、当該基板のZ軸方向上面に形成されたTFT層とから構成されている。TFT層については、図示を省略しているが、ゲート、ソース、ドレインの3電極と、半導体層、パッシベーション膜などを含み構成されている。
【0080】
TFT基板100のベースとなる基板は、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板のほか、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板や、ガリウム砒素基板などの半導体基板、プラスチック基板等を用い形成されている。
【0081】
プラスチック基板としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン,環状ポリオレフィン,変性ポリオレフィン,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリスチレン,ポリアミド,ポリイミド(PI),ポリアミドイミド,ポリカーボネート,ポリ−(4−メチルベンテン−1),アイオノマー,アクリル系樹脂,ポリメチルメタクリレート,アクリル−スチレン共重合体(AS樹脂),ブタジエン−スチレン共重合体,ポリオ共重合体(EVOH),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート(PEN),プリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル,ポリエーテル,ポリエーテルケトン,ポリエーテルスルホン(PES),ポリエーテルイミド,ポリアセタール,ポリフェニレンオキシド,変形ポリフェニレンオキシド,ポリアリレート,芳香族ポリエステル(液晶ポリマー),ポリテトラフルオロエチレン,ポリフッ化ビニリデン,その他フッ素系樹脂,スチレン系,ポリオレフィン系,ポリ塩化ビニル系,ポリウレタン系,フッ素ゴム系,塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂,不飽和ポリエステル,シリコーン樹脂,ポリウレタン等,またはこれらを主とする共重合体,ブレンド体,ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうち1種、または2種以上を積層した積層体を用いることができる。
【0082】
(2)絶縁層101
絶縁層101は、例えば、ポリイミド,ポリアミド,アクリル系樹脂材料などの有機化合物を用い形成されている。ここで、絶縁層101は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。
【0083】
また、絶縁層101は、製造工程中において、エッチング処理,ベーク処理等が施されることがあるので、それらの処理に対して過度に変形や変質などを生じない高い耐性を有する材料を用い形成されることが望ましい。
【0084】
(3)アノード102
アノード102は、銀(Ag)またはアルミニウム(Al)を含む金属材料から構成されている。本実施形態に係るトップエミッション型の表示パネル10の場合には、その表面部が高い光反射性を有することが好ましい。
【0085】
なお、アノード102については、上記のような金属材料からなる単層構造だけではなく、金属層と透明導電層との積層体を採用することもできる。透明導電層の構成材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用いることができる。
【0086】
(4)ホール注入層103
ホール注入層103は、例えば、銀(Ag),モリブデン(Mo),クロム(Cr),バナジウム(V),タングステン(W),ニッケル(Ni),イリジウム(Ir)などの酸化物、あるいは、PEDOT:PSS(Poly(3,4−ethylenedioxythiophene) Polystyrene sulfonate;ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)やPlextronix社製のPlexcore(登録商標)などの導電性有機材料からなる層である。
【0087】
本実施の形態においては、ホール注入層103は、PEDOT:PSSなどの導電性有機材料からなる。
【0088】
(5)第1バンク104
第1バンク104は、樹脂等の有機材料を用い形成されており絶縁性を有する。第1バンク104の形成に用いる有機材料の例としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等があげられる。第1バンク104は、表面にフッ素処理が施されることにより撥液性が付与されていてもよい。
【0089】
さらに、第1バンク104の構造については、図3および図4(b)に示すような一層構造だけでなく、二層以上の多層構造を採用することもできる。この場合には、層毎に上記材料を組み合わせることもできるし、層毎に無機材料と有機材料とを用いることもできる。
【0090】
(6)第2バンク115
第2バンク115は、無機絶縁材料や、有機絶縁材料などを用い形成されている。無機絶縁材料としては、例えば、SiO2(酸化シリコン),SiN(窒化シリコン),SiON(酸窒化シリコン)などが挙げられる。有機絶縁材料としては、例えば、アクリル系樹脂,ポリイミド系樹脂,シロキサン系樹脂,フェノール系樹脂などが挙げられる。
【0091】
(7)ホール輸送層105
ホール輸送層105は、ホールをホール注入層103から有機発光層106へと効率よく輸送するため、ホール移動度の高い有機材料で形成されている。例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物であって、親水基を備えないものなどを用いることができる。
【0092】
(8)有機発光層106
有機発光層106は、ホールと電子とが注入され再結合されることにより励起状態が生成され発光する機能を有する。有機発光層106の形成に用いる材料は、湿式印刷法を用い製膜できる発光性の有機材料を用いることが好ましい。
【0093】
具体的には、例えば、特許公開公報(日本国・特開平5−163488号公報)に記載のオキシノイド化合物,ペリレン化合物,クマリン化合物,アザクマリン化合物,オキサゾール化合物,オキサジアゾール化合物,ペリノン化合物,ピロロピロール化合物,ナフタレン化合物,アントラセン化合物,フルオレン化合物,フルオランテン化合物,テトラセン化合物,ピレン化合物,コロネン化合物,キノロン化合物及びアザキノロン化合物,ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体,ローダミン化合物,クリセン化合物,フェナントレン化合物,シクロペンタジエン化合物,スチルベン化合物,ジフェニルキノン化合物,スチリル化合物,ブタジエン化合物,ジシアノメチレンピラン化合物,ジシアノメチレンチオピラン化合物,フルオレセイン化合物,ピリリウム化合物,チアピリリウム化合物,セレナピリリウム化合物,テルロピリリウム化合物,芳香族アルダジエン化合物,オリゴフェニレン化合物,チオキサンテン化合物,シアニン化合物,アクリジン化合物,8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体,2−ビピリジン化合物の金属錯体,シッフ塩とIII族金属との錯体,オキシン金属錯体,希土類錯体などの蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0094】
(9)中間層107
中間層107は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物を含み構成されている。中間層107に用いられるアルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物としては、具体的には例えば、NaF(フッ化ナトリウム),LiF(フッ化リチウム),CsF(フッ化セシウム),CaF2(フッ化カルシウム),MgF2(フッ化マグネシウム)などが挙げられる。本実施形態では、例えば、NaFを用いて中間層107が形成されている。
【0095】
(10)電子輸送層108
電子輸送層108は、カソード109から注入された電子を有機発光層106へ輸送する機能を有し、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされてなる有機材料から構成されている。本実施形態では、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD),トリアゾール誘導体(TAZ),フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料に対して、Ba(バリウム)がドープされてなる。
【0096】
なお、電子輸送層108の構成におけるドープ金属としては、Ba以外にも、Li(リチウム)、Ca(カルシウム)、Ce(セシウム)、Na(ナトリウム)、Rb(ルビジウム)等の低仕事関数金属や、フッ化リチウム等の低仕事関数金属塩、酸化バリウム等の低仕事関数金属酸化物、リチウムキノリノール等の低仕事関数金属有機錯体等が挙げられる。
【0097】
なお、ドープ金属の濃度については、例えば、5wt%〜40wt%の範囲内とすることが望ましい。
【0098】
(11)カソード109
カソード109は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)などの光透過性導電膜や、アルミ(Al)や銀(Ag)を含む金属薄膜を用い形成されている。本実施形態のように、トップエミッション型の表示パネル10の場合は、カソード109が光透過性の材料で形成されていることが必要である。カソード109の光透過性については、透過率が80[%]以上であることが好ましい。
【0099】
(12)封止層110
封止層110は、有機発光層106などの有機層が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、例えば、酸化シリコン(SiO),窒化シリコン(SiN),酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成される。また、これらの材料を用い形成された層の上に、アクリル樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
【0100】
封止層110は、トップエミッション型である本実施形態に係る表示パネル10の場合においては、光透過性の材料で形成されることが必要となる。
【0101】
(13)CFパネル基板111
CFパネル基板111は、上記TFT基板100と同様に、例えば、ガラス基板,石英基板,シリコン基板,プラスチック基板等を用い形成されている。CFパネル基板111についても、プラスチック基板を採用する場合には、熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。
【0102】
(14)カラーフィルタ層112
カラーフィルタ層112は、赤色(R),緑色(G),青色(B)の各色の波長域の可視光を選択的に透過する、公知の材料から構成されている。カラーフィルタ層112は、例えば、アクリル樹脂をベースに形成されている。
【0103】
(15)ブラックマトリクス層113
ブラックマトリクス層113は、例えば、光吸収性および遮光性に優れる黒色顔料を含む紫外線硬化樹脂材料から構成されている。具体的な紫外線硬化樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂等がある。
【0104】
(16)樹脂層114
樹脂層114は、透明樹脂材料(例えば、エポキシ系樹脂材料)から形成されている。ただし、樹脂層114の構成材料としては、これ以外にもシリコーン系樹脂などを用いることもできる。
【0105】
[5.有機発光層106およびホール注入層103の層厚と、発光効率および駆動電圧]
RGBの3種類の発光部のうち、一般にBの発光効率が最も低い。従来は、電子輸送層は、RGB3種類の発光部に共通の層として設けられ、Bの発光効率が最大となるように電子輸送層の材料の選択や層厚等の設計が行われる場合が多い。しかしこの場合、Bの発光効率は最大化されるが、RやGの発光部では、キャリアバランスが必ずしも最適な状態とはならず、最良の発光効率が得られない場合が多い。そこで、Rの発光部とGの発光部について、光学キャビティを調整して発光効率の向上を図り、キャリアバランスの崩れによる発光効率の低下分を補う方法が従来から採用されている。
【0106】
ここで、R,G,Bの光の波長(原色)は、R=700nm,G=546.1nm,B=435.8nmである。これに対して、有機発光デバイスの各種機能層の層厚は、通常、数nm〜数十nm程度であるため、光学キャビティの調整を行う際に、機能層の層厚を薄くする方向で調整することは難しい。そのため、機能層の層厚を厚くして光学キャビティの調整を行う方法が一般的に採用される場合が多いと考えられる。
【0107】
有機発光層は、RGBそれぞれの発光色に対応した材料を用いて、それぞれの発光色毎に形成されるため、RGBそれぞれについて容易に層厚を変えることができる。従って、光学キャビティの調整を、有機発光層の層厚を変えることにより容易に行うことができる。
【0108】
しかしこの場合、有機発光層は電荷輸送層よりも電気抵抗率が高いため、キャビティ調整のために有機発光層の層厚を厚くすると、駆動電圧の増加が比較的大きいという問題がある。一方、有機発光層よりも電気抵抗率が低いホール注入層の層厚を変えることによりキャビティ調整を行えば、駆動電圧の上昇を抑制しつつ発光効率の改善を図ることができると考えられる。
【0109】
そこで、発明者らは、有機発光層106の層厚を厚くする代わりにホール注入層103の層厚を厚くした場合に、駆動電圧と発光効率とがどのように変化するのかを調べるために実験を行った。
【0110】
実験は、ホール注入層103の層厚が異なる2種類の発光部(発光色はR)それぞれについて、有機発光層106の層厚が異なる試験体を4つずつ用意し、それぞれについて発光効率および駆動電圧を測定して行った。実験に供した試験体のホール注入層103の層厚は、5nmと25nmの2種類であり、有機発光層106の層厚は、90,100,110,120nmの4種類である。
【0111】
測定結果をプロットしたグラフを図5に示す。図5に示すグラフにおいて、横軸は有機発光層106の層厚〔nm〕を示し、左側の縦軸は発光効率を示し、右側の縦軸は駆動電圧を示す。●(黒く塗りつぶされた円)は、ホール注入層103の層厚が25nmの試験体の発光効率を示す。▲(黒く塗りつぶされた三角形)は、ホール注入層103の層厚が25nmの試験体の駆動電圧を示す。○(輪郭線のみの円)は、ホール注入層103の層厚が5nmの試験体の発光効率を示す。△(輪郭線のみの三角形)は、ホール注入層103の層厚が5nmの試験体の駆動電圧を示す。実線の曲線は、ホール注入層の層厚が25nmの試験体の発光効率および駆動電圧それぞれについての近似曲線を示す。破線の曲線は、ホール注入層の層厚が5nmの試験体の発光効率および駆動電圧それぞれについての近似曲線を示す。なお、発光効率は、ホール注入層103の膜厚が5nmかつ有機発光層106の膜厚が110nmの場合の発光効率を基準とした比で表し、駆動電圧は、ホール注入層103の膜厚が5nmかつ有機発光層106の膜厚が110nmの場合の駆動電圧との差分を表している。
【0112】
図5に示すように、駆動電圧については、ホール注入層103の層厚が5nmの試験体も25nmの試験体も、有機発光層106の層厚が同じであれば略同じ駆動電圧を示した。また、有機発光層106の層厚が80〜110nmの範囲においては、層厚が大きいほど駆動電圧が高くなり、層厚が110nmと120nmの試験体では、駆動電圧は略同じであった。以上の結果より、ホール注入層の層厚は駆動電圧にはあまり影響せず、有機発光層106の層厚が駆動電圧に対してより大きく影響していることがわかる。
【0113】
発光効率については、ホール注入層103の層厚が5nmの試験体では、有機発光層106の層厚が90〜110nmの範囲においては層厚が増加するにつれて発光効率も増加し、層厚120nmでは層厚110nmの場合よりも若干発光効率が低下した。ホール注入層103の層厚が25nmの試験体では、有機発光層106の層厚が90nmよりも100nmの試験体の方が高い発光効率を示し、110nmでは、90nmの試験体よりも低い発光効率となった。そして、有機発光層106の層厚120nmの試験体では、110nmよりもさらに若干低い発光効率を示した。しかし、全体的には、ホール注入層103の層厚が25nmの場合、有機発光層106の層厚の違いによる発光効率の違いは比較的小さいものであった。
【0114】
ここで、図5に示すグラフにおいて、ホール注入層103の層厚が25nmで有機発光層106の層厚が90nmの試験体(試験体Aとする)と、ホール注入層103の層厚が5nmで有機発光層106の層厚が110nmの試験体(試験体Bとする)とを比較してみる。試験体Aは試験体Bよりも、ホール注入層103の層厚が20nm厚く、有機発光層106の層厚が20nm薄い。一方、試験体Bは試験体Aよりも、ホール注入層103の層厚が20nm薄く、有機発光層106の層厚が20nm厚い。即ち、試験体Aは、試験体Bにおいて有機発光層106の層厚を厚くした分を、代わりにホール注入層103の層厚を同じだけ厚くしたものに相当する。試験体Aと試験体Bとを比較すると、試験体Aの発光効率は試験体Bより5%ほど低いものの、駆動電圧は2V以上も低い。試験体Aは、試験体Bよりも随分低い駆動電圧で、略同程度の発光効率を得ることができることを図5のグラフは示している。言い換えれば、キャビティ調整のためにキャビティ長を20nm長くする場合に、有機発光層106の層厚を20nm増大させる代わりにホール注入層103の層厚を20nm増大させれば、駆動電圧の上昇を抑制しつつ良好な発光効率を実現することができることを示している。
【0115】
以上の結果から、有機発光層106に代えてホール注入層103の層厚を変化させて光学キャビティの調整を行うことにより、駆動電圧の上昇を抑制しつつ良好な発光効率を実現することができる。
【0116】
有機発光層とホール注入層の電気抵抗率の違いに着目していない従来の場合においては、通常、ホール注入層は、R,G,B各色のサブピクセル共通に一度の工程で形成される。従って、従来の場合は、R,G,B各色のサブピクセルにおいて、ホール注入層の層厚は同じである。
【0117】
ここで、図3に戻って、本実施形態に係る表示パネル10では、発光色によってホール注入層103の層厚が異なっている。表示パネル10では、サブピクセル10aにおけるホール注入層103の層厚をT103aとし、サブピクセル10bにおけるホール注入層103の層厚をT103bとし、サブピクセル10cにおけるホール注入層103の層厚をT103cとしており、T103c<T103b<T103aである。ただし、これに限定を受けるものではない。ホール注入層103の層厚は、発光色ごとにサブピクセルの光学キャビティが最適となる層厚に設定されるのが好適である。
【0118】
また、図3に示すように、有機発光層106の層厚は、発光色によって異なる場合がある。本実施形態では、一例として、サブピクセル10aにおける有機発光層106の層厚をT106aとし、サブピクセル10bにおける有機発光層106の層厚をT106bとし、サブピクセル10cにおける有機発光層106の層厚をT106cとしており、T106c<T106b<T106aである。ただし、これに限定を受けるものではない。各色の有機発光層106に用いられる材料によっても良好な発光特性が得られる層厚は異なる。
【0119】
[6.実施形態のまとめ]
本実施形態に係る有機発光デバイスである表示パネル10においては、各サブピクセルの発光色の波長に基づいてホール注入層103の層厚を異ならせ、キャビティ調整が行われている。即ち、発光色ごとに、有機発光層106から外部へと直接(反射を経ることなく)出射される直接出射光と、アノード102表面で反射された後に外部へと出射される反射光との位相が揃うように、ホール注入層103の層厚が設定されている。従って、発光色が異なると、ホール注入層103の層厚も異なる。
【0120】
具体的には、例えば、図3に示すように、発光色がRの発光部であるサブピクセル10aを第1発光部、発光色がBの発光部であるサブピクセル10cを第2発光部とすると、第1発光部のホール注入層103の層厚T103aは、第2発光部のホール注入層103の層厚T103cとは異なっている。より具体的には、層厚T103aは、層厚T103cよりも大きく設定されている。これは、R(赤)の波長は、B(青)の波長よりも長いため、Rの光の直接出射光と反射光の位相を揃えて共振の効果を得るためには、より長い調整距離が通常必要となるためである。
【0121】
なお、キャビティ調整は、アノード102とカソード109との間に配された各種機能層(有機発光層106を含む)の全体の層厚に基づいて行われるため、例えば有機発光層106の層厚によっては、必ずしもホール注入層の層厚T103aが層厚T103cよりも大きくなるとは限らない。また、共振効果を何次の反射光まで含めて考えるかによっても調整対象の光路長が変わって来るので、必ずしもホール注入層の層厚T103aが層厚T103cよりも大きいとは限らない。図3では、層厚T103c<T103b<103aとなっているが、これらの層厚が必ずしも上記の関係を満たすとは限らず、例えば、大小関係が上記とは逆であってもよい。
【0122】
また、上記、本実施形態に係る有機発光デバイスである表示パネル10の特徴についての説明においては、Rの発光部であるサブピクセル10aを第1発光部、発光色がBの発光部であるサブピクセル10cを第2発光部としたが、これに限られない。第1発光部と第2発光部の発光色が異なり、第1発光部のホール注入層の層厚と第2発光部のホール注入層の層厚とが異なっていれば、第1発光部と第2発光部の発光色は、R,G,Bいずれの組み合わせであってもよい。
【0123】
本実施の形態に係る有機発光デバイスである表示パネル10の構成によると、発光色毎に、良好な発光効率が得られる光学キャビティとなるようにホール注入層103の層厚が規定されている。従って、有機発光層の層厚を変えることによりキャビティ調整を行う場合と比較して、駆動電圧の増加を抑制しつつ良好な発光効率を得ることができる。
【0124】
また、本実施形態に係る有機発光デバイスである表示パネル10では、有機発光層106と電子輸送層108との間に、アルカリ金属のフッ化物またはアルカリ土類金属のフッ化物を含む層である中間層107が配置されている。中間層107は高い不純物ブロック性を有するため、有機発光層106からの不純物が電子輸送層108およびカソード109に対して侵入しようとするのを効果的にブロックすることができ、高い保管安定性を実現することができる。よって、電子輸送層108の劣化を抑制し、高い電子注入性を持続させることができる。
【0125】
なお、本実施形態に係る表示パネル10においては、ホール注入層103の層厚を発光色に基づいて変えることによりキャビティ調整が行われているが、これに限られない。ホール注入層103に代えてホール輸送層105の層厚を変えてキャビティ調整を行ってもよいし、ホール注入層103とホール輸送層105の両方の層厚を変えてキャビティ調整を行ってもよい。
【0126】
≪変形例≫
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することが出来る。なお、説明の重複を避けるため、実施形態と同じ構成要素については、同符号を付して、その説明を省略する。
【0127】
(変形例1)
上記実施形態に係る表示パネル10においては、電子輸送層108は単層構造であったが、これに限られず、電子輸送層が複数の層で構成されていてもよい。
【0128】
変形例1に係る有機発光デバイスである表示パネル30の構成について、図6を用い説明する。なお、図6は、表示パネル30の図2におけるA−A断面に相当する断面の構造を模式的に示す図である。
【0129】
図6に示すように、本変形例に係る表示パネル30における発光部であるサブピクセル310a,310b,310cでは、アノード102とカソード109との間に有機発光層106が配置され、アノード102と有機発光層106との間には、アノード102の側から順に積層されたホール注入層103およびホール輸送層105が配置されている。そして、カソード109と有機発光層106との間には、中間層107が配置されている。ここまでの構成は、上記実施形態と同様である。
【0130】
本変形例においても、有機発光層106と中間層107との間に電子輸送層が配置されているのであるが、本変形例においては、電子輸送層308は、有機発光層106の側から順に積層された第1電子輸送層部分(第1電荷注入輸送層部分)308aと第2電子輸送層部分(第2電荷注入輸送層部分)308bとの2層構造となっている。
【0131】
第2電子輸送層部分308bは、実施形態における電子輸送層108と同じである。
【0132】
ここで、中間層107に含まれるアルカリ金属またはアルカリ土類金属を「第1金属」とすると、第1電子輸送層部分308aは、中間層107に含まれる第1金属のフッ化物に対して、第1金属とフッ素との結合を分解する機能を有する「第2金属」から成る層である。具体的には、第2金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。より具体的には、例えば、第2金属は、バリウム(Ba)である。
【0133】
なお、第1電子輸送層部分308aは、第2金属のみから構成されている場合に限定されない。微量の不純物を有する場合が含まれることは勿論のことであるが、第2金属が第1電子輸送層部分308aの主成分であればよい。ここで「主成分」とは、第1電子輸送層部分308a中に第2金属が、例えば、40wt%以上含まれていればよい。
【0134】
以上のような構成を有する本変形例に係る表示パネル30では、実施形態に係る表示パネル10が奏する効果に加えて、次のような効果を奏することができる。
【0135】
中間層107における第1金属のフッ化物、即ち、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物(例えば、NaF)は電気絶縁性が高い。従って、電子輸送層308から有機発光層106への電子注入性が阻害されることが考えられる。そこで、本変形例のように、電子輸送層308の中間層107と接する側に第1電子輸送層部分308aが配置され、第1電子輸送層部分308aが第2金属であるアルカリ金属またはアルカリ土類金属から成ることにより、中間層107中におけるアルカリ金属またはアルカリ土類金属とフッ素との結合(第1金属とフッ素との結合)を第2金属で分解することができる。これにより、中間層107における第1金属であるアルカリ金属またはアルカリ土類金属(例えば、Na)が遊離する。第1金属は高い電子注入性を有するため、電子輸送層308から有機発光層106への電子注入性を高く維持することができる。
【0136】
なお、本変形例では、第1電子輸送層部分308aの層厚を、中間層107の層厚に対して3%〜25%の範囲内とすることが望ましい。また、中間層107の層厚については1nm〜10nm程度とし、第1電子輸送層部分308aの層厚については0.1nm〜1nm程度とすることが望ましい。またこのとき、実際は中間層107と第1電子輸送層部分308aとの境界は、明確には分かれておらず、中間層107を構成する材料と、第1電子輸送層部分308aを構成する材料とが、製造の過程で多少混ざり合って形成されている場合もあると考えられる。その場合は、中間層107および第1電子輸送層部分308aの層厚が上記の値の範囲内となるように意図した方法でこれらの層が形成されていればよい。
【0137】
また、第2電子輸送層部分308bにおけるドープ金属と、第1電子輸送層部分308aを構成する第2金属とを同種の金属とすることが望ましい。これは、製造の容易性を考慮してのものである。特に、ドープ金属および第2金属にバリウムを用いることが望ましい。バリウムという汎用性の高い金属を用いることでコストの低減を図ることができるためである。
【0138】
本変形例においても、ホール注入層103の層厚を発光色毎に変化させてキャビティ調整を行うことにより、駆動電圧の上昇を抑制しつつ良好な発光効率を得ることができる。
【0139】
なお、本変形例においては、TFT基板100が基板であり、アノード102が第1電極であり、カソード109が第2電極である。また、ホール注入層103が第1電荷注入輸送層であり、電子輸送層308が第2電荷注入輸送層である。 本変形例においても、ホール注入層103の代わりにホール輸送層105の層厚を変えてキャビティ調整を行ってもよい。この場合は、ホール輸送層105が第1電荷注入輸送層である。また、ホール注入層103とホール輸送層105の両方の層厚を変えてキャビティ調整を行ってもよく、この場合は、ホール注入層103とホール輸送層105の両方が第1電荷注入輸送層である。
【0140】
(変形例2)
実施形態に係る表示パネル10は、トップエミッション型の有機ELパネルであったが、これに限られない。表示パネル10の構成を、ボトムエミッション型の有機ELパネルに適用することも可能である。
【0141】
表示パネル10の構成をボトムエミッション型の有機ELパネルに適用した変形例2に係る表示パネルにおいては、下記の点で実施形態に係る表示パネル10と異なっている。即ち、カソード109が光反射性を有し、アノード102が光透過性を有する材料で構成されている。具体的には、カソード109は、銀(Ag)またはアルミニウム(Al)を含む金属材料で構成されており、アノード102は、酸化インジウムスズ(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用い形成されている。
【0142】
また、実施の形態に係る表示パネル10では、電子輸送層108は、複数のサブピクセルに共通に一続きの層として形成されていたが、本変形例の場合、電子輸送層108は、サブピクセルごとにそれぞれ形成されており、発光色の異なるサブピクセルでは、電子輸送層108の層厚が異なっている。即ち、発光色の波長に基づいて、各サブピクセルの光学キャビティが最適となるように電子輸送層108の層厚が規定されている。これにより、良好な発光効率を実現することができる。さらに、電子輸送層108は有機発光層106よりも電気抵抗率が低いため、 電子輸送層108の層厚が増大しても、有機発光層の層厚を増大させてキャビティ調整を行う場合と比較して、駆動電圧の増大が抑制される。従って、駆動電圧の増大を抑制しつつ良好な発光効率を実現することができる。
【0143】
本変形例に係るボトムエミッション型の表示パネルにおいても、電子輸送層108は、有機発光層106よりも電気抵抗率が低いため、電子輸送層108の層厚で光学キャビティの調整を行うことにより、実施形態に係るトップエミッション型の表示パネル10の場合と同様に、駆動電圧の増加を抑制しつつ良好な発光効率を実現することができる。
【0144】
なお、本変形例においては、光学キャビティの調整を電子輸送層108の層厚にて行うため、ホール注入層103の層厚は、各サブピクセル同じであってもよい。
【0145】
なお、本変形例においては、TFT基板100が基板であり、アノード102が第1電極であり、カソード109が第2電極である。また、ホール注入層103が第1電荷注入輸送層であり、電子輸送層108が第2電荷注入輸送層である。
【0146】
(変形例3)
実施形態に係る表示パネル10においては、TFT基板100側にアノード102が、CFパネル117側にカソード109が配置された構成であったが、これに限られない。例えば、Z軸方向におけるアノード102とカソード109との配置関係については、逆転した構造とすることもできる。
【0147】
本変形例に係る有機発光デバイスである表示パネル40の構成について、図7を用い説明する。なお、図7は、表示パネル40の図2におけるA−A断面に相当する断面の構造を模式的に示す図である。本変形例においては、表示パネル40は、トップエミッション型の表示パネルである。
【0148】
図7に示すように、本変形例に係る表示パネル40における発光部であるサブピクセル410a,410b,410cにおいては、TFT基板100側にカソード409が配置され、CFパネル117側にアノード402が配置されている。そして、カソード409とアノード402との間に、カソード409側から順に、電子輸送層108,中間層107,有機発光層106,ホール輸送層105,ホール注入層103が積層されて配置されている。
【0149】
本変形例に係る表示パネル40はトップエミッション型であり、アノード402側から光が取り出されるため、アノード402は、光透過性の材料で形成されていることが必要である。アノード402は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用い形成されている。アノード402の光透過性については、透過率が80[%]以上であることが好ましい。
【0150】
カソード409は、銀(Ag)またはアルミニウム(Al)を含む金属材料から構成されている。本変形例に係るトップエミッション型の表示パネル40の場合には、その表面部が高い反射性を有することが好ましい。
【0151】
なお、カソード409については、上記のような金属材料からなる単層構造だけではなく、金属層と透明導電層との積層体を採用することもできる。透明導電層の構成材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用いることができる。
【0152】
本変形例に係る表示パネル40では、図7に示すように、発光色によって電子輸送層108の層厚が異なっている。具体的には、例えば、図7に示す表示パネル40の場合、発光色Rのサブピクセル410aの電子輸送層108の層厚をT108aとし、発光色Gのサブピクセル410bの電子輸送層108の層厚をT108bとし、発光色Bのサブピクセル410cの電子輸送層108の層厚をT108cとすると、T108c<T108b<T108aとなっている。これは、それぞれのサブピクセルの発光色の波長に基づいて、電子輸送層108の層厚を光学キャビティが最適化される層厚に設定されているためである。このように、電子輸送層108の層厚を発光色毎に異ならせてキャビティ調節を行うことにより、良好な発光効率を実現することができる。さらに、電子輸送層108は有機発光層106よりも電気抵抗率が低いため、電子輸送層108の層厚が増大しても、有機発光層の層厚を増大させてキャビティ調整を行う場合と比較して、駆動電圧の増大が抑制される。従って、駆動電圧の増大を抑制しつつ良好な発光効率を実現することができる。
【0153】
なお、本変形例においては、各サブピクセルにおける電子輸送層108の層厚の関係は、T108c<T108b<T108aであるとしたが、これに限定を受けるものではない。電子輸送層108の層厚は、発光色ごとにサブピクセルの光学キャビティが最適となる層厚に設定されるのが好適である。
【0154】
また、本変形例においては、CFパネル基板111が基板であり、アノード402が第1電極であり、カソード409が第2電極である。また、ホール注入層103およびホール輸送層105のうち少なくとも一方が第1電荷注入輸送層であり、電子輸送層108が第2電荷注入輸送層である。
【0155】
(変形例4)
変形例3に係る表示パネル40は、トップエミッション型の表示パネルであったが、これに限られず、変形例3の構成をボトムエミッション型の表示パネルに適用することも可能である。
【0156】
変形例4に係るボトムエミッション型の表示パネルにおいては、以下の点で変形例3に係る表示パネル40と異なっている。即ち、アノード402が光反射性を有し、カソード409が光透過性を有する材料で構成されている。具体的には、アノード402は、銀(Ag)またはアルミニウム(Al)を含む金属材料で構成されており、カソード409は、酸化インジウムスズ(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用い形成されている。
【0157】
また、変形例3に係る表示パネル40では、ホール注入層103およびホール輸送層105は、複数のサブピクセルに共通に一続きの層として形成されていたが、本変形例の場合、ホール注入層103およびホール輸送層105のうち少なくとも一方が、サブピクセルごとにそれぞれ形成されており、発光色の異なるサブピクセルでは、ホール注入層103およびホール輸送層105のうち当該サブピクセルごとに形成されている層の層厚が異なっている。即ち、発光色の波長に基づいて、各サブピクセルの光学キャビティが最適となるようにホール注入層103およびホール輸送層105のうち少なくとも一方の層厚が規定されている。これにより、良好な発光効率を実現することができる。さらに、ホール注入層103およびホール輸送層105は有機発光層106よりも電気抵抗率が低いため、 ホール注入層103またはホール輸送層105の層厚が増大しても、有機発光層の層厚を増大させてキャビティ調整を行う場合と比較して、駆動電圧の増大が抑制される。従って、駆動電圧の増大を抑制しつつ良好な発光効率を実現することができる。
【0158】
なお、ホール注入層103およびホール輸送層105の両方がサブピクセルごとに形成されている場合は、発光色が異なるサブピクセルにおいて、ホール注入層103とホール輸送層105の両方の層厚が異なっていてもよいし、何れか一方が異なっていてもよい。
【0159】
また、本変形例においては、CFパネル基板111が基板であり、アノード402が第1電極であり、カソード409が第2電極である。また、ホール注入層103およびホール輸送層105のうち少なくとも一方が第1電荷注入輸送層であり、電子輸送層108が第2電荷注入輸送層である。
【0160】
(変形例5)
変形例3および変形例4の構成に、変形例1における第1電子輸送層部分308aを適用してもよい。この場合においても、第1電子輸送層部分308aは、中間層107と電子輸送層108(変形例1の第2電子輸送層部分308bに相当)との間に配置される。また、発光色に基づいてサブピクセルごとに異なる層厚で第1電子輸送層部分308aを形成し、第1電子輸送層部分308aの層厚をキャビティ調整に利用してもよい。
【0161】
本変形例に係る表示パネルの構成は、トップエミッション型であってもよいし、ボトムエミッション型であってもよい。
【0162】
(変形例6)
実施形態に係る表示パネル10は、第1バンク104と、第1バンク104よりも高さの低い第2バンク115とを備えた所謂ラインバンク構造を有する構成であったが、これに限られない。第1バンクと第2バンクとが同じ高さを有し、一体的に形成された、所謂ピクセルバンク構造を有していてもよい。
【0163】
この場合においても、発光色ごとにホール注入層103の層厚を変えてキャビティ調整を行うことにより、駆動電圧の上昇を抑制しつつ良好な発光効率を得ることができる。
【0164】
(変形例7)
ホール注入性を向上させる目的で、アノード102とホール注入層103との間に、金属酸化物の薄膜をさらに設けてもよい。金属酸化物としては、例えば、酸化タングステンや酸化モリブデン等が挙げられる。この場合、金属酸化物の薄膜はスパッタ法などにより形成される。そのため、発光色によって層厚を変える場合、各色用のマスクを用いて何度もスパッタを行わなければならず、工程が煩雑になるため、一般に、一度のスパッタリングにより各発光色に共通の層厚で形成される。キャビティ長にはこのような金属酸化物の薄膜の層厚も含まれるが、上記の理由から、ホール注入層103の層厚を変えることによりキャビティ調整を行う方が容易である。
【0165】
(変形例8)
変形例1では、電子輸送層308が第1電子輸送層部分308aと第2電子輸送層部分308bとから成る2層構造であり、双方の層部分に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属が含まれていた。しかし、これに限られず、第2電子輸送層部分にアルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされていない構成としてもよい。図8に、変形例8に係る有機発光デバイスである表示パネル50の構成を示す。なお、図8は、表示パネル50の図2におけるA−A断面に相当する断面の構造を模式的に示す図である。
【0166】
本変形例では、電子輸送層508が、第1電子輸送層部分(第1電荷注入輸送層部分)508aおよび第2電子輸送層部分(第2電荷注入輸送層部分)508bから成る。第1電子輸送層部分508aは、変形例1における第1電子輸送層部分308aと同じである。第2電子輸送層部分508bは、金属がドープされていない点を除いては、実施形態における電子輸送層108及び変形例1における第2電子輸送層部分308bと同じである。即ち、第2電子輸送層部分508bは、カソード109から注入された電子を有機発光層106へ輸送する機能を有する有機材料から構成されている。当該有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD),トリアゾール誘導体(TAZ),フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料を用いることができる。
【0167】
本変形例の構成によっても、第1電子輸送層部分508aに含まれる第2金属が、中間層107に含まれる第1金属とフッ素との結合を分解し、変形例1と同様の効果を得ることができる。
【0168】
[その他の事項]
上記実施形態および各変形例では、有機発光デバイスの一例として、有機ELパネルである表示パネルを採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、有機EL照明等に本発明の構成を適用することでも上記と同様の効果を得ることができる。
【0169】
また、上記実施形態および各変形例では、アクティブマトリクス型の表示パネルを採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、パッシブマトリクス型の表示パネルに適用することも可能である。
【0170】
また、図2などに示すように、上記実施形態などでは、それぞれが平面視矩形状をした3つのサブピクセル10a,10b,10cの組み合わせを以って1ピクセルを構成することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、各サブピクセルの平面視形状については、三角形や六角形、あるいは八角形などとすることもできる。また、全体としてハニカム形状とすることもできる。この場合には、第1バンクが平面視においてクランク状に蛇行した形態とすることができる。また、1ピクセルを構成するサブピクセル数については、2つであってもよいし、4つ以上とすることもできる。この場合には、1ピクセルを構成する複数のサブピクセルが相互に異なる色の光を出射するものであってもよいし、一部が同色の光を出射するものであってもよい。
【0171】
また、図2などのX軸方向において、隣接するピクセル同士の間に、カソードに対して接続される配線層(バスバー配線)を設けることとしてもよい。
【0172】
また、中間層の構成材料はNaFに限定されるものではなく、第1電子輸送層部分の構成材料もBaに限定されるものではない。中間層に関しては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物から構成されていればよく、不純物が混在していてもよい。
【0173】
同様に、第1電子輸送層部分に関しては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から構成されていればよく、隣接する第2電子輸送層部分におけるドープ金属と同種であればより望ましい。
【0174】
以上、本発明に係る有機発光デバイスおよび表示装置について、実施形態および各変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施形態および各変形例に限定されるものではない。上記実施形態および各変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態および各変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明は、高い発光効率を有する有機発光デバイスおよび有機表示装置を実現するのに有用である。
【符号の説明】
【0176】
1.有機EL表示装置
10,30,40,50.表示パネル(有機発光デバイス)
10a,10b,10c.サブピクセル(発光部)
20.駆動・制御回路部
100.TFT基板(基板)
102.アノード(第1電極,第2電極)
103.ホール注入層(第1電荷注入輸送層,第2電荷注入輸送層)
105.ホール輸送層
106.有機発光層
107.中間層
108,308,508.電子輸送層(第1電荷注入輸送層,第2電荷注入輸送層)
109.カソード(第1電極,第2電極)
308a,508a.第1電子輸送層部分(第1電荷注入輸送層部分)
308b,508b.第2電子輸送層部分(第2電荷注入輸送層部分)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8