(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワーク材に対して切削加工を行う際に用いられ、複数の鋸歯の組み合わせからなる鋸歯グループを繰り返して備え、各鋸歯の歯先側に硬質材料からなる硬質チップを有した硬質チップ帯鋸刃であって、
各鋸歯グループは、2つの小鋸歯グループからなり、
第1の前記小鋸歯グループは、複数の鋸歯からなり、
硬質チップが左右対称形状に形成され、硬質チップの左右両側の歯先コーナ部に面取がそれぞれ形成された第1先行歯と、
前記第1先行歯に後続し、歯高寸法が前記第1先行歯の歯高寸法よりも小さく設定され、硬質チップが歯先縁側に向かってバチ状に拡がるように左右対称形状に形成された第1後続歯と、を含み、
第2の前記小鋸歯グループは、複数の鋸歯からなり、
歯高寸法が前記第1先行歯の歯高寸法と同じに設定され、硬質チップが左右対称形状に形成され、硬質チップの左右両側の歯先コーナ部に面取がそれぞれ形成された第2先行歯と、
前記第2先行歯に後続し、歯高寸法が前記第1後続歯の歯高寸法と同じに設定され、硬質チップが歯先縁側に向かってバチ状に拡がるように形成され、硬質チップの左右一方側の歯先コーナ部に面取が形成された第2後続歯と、
前記第2後続歯に後続し、歯高寸法が前記第1後続歯の歯高寸法と同じに設定され、硬質チップが歯先縁側に向かってバチ状に拡がるように形成され、硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部に面取が形成された第3後続歯と、を含み、
前記第1後続歯の硬質チップの各歯先コーナ部、前記第2後続歯の硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部、及び前記第3後続歯の硬質チップの左右一方側の歯先コーナ部は、それぞれ左右方向外側へ最も振り出していること特徴とする硬質チップ帯鋸刃。
各鋸歯グループにおいて、前記第1後続歯の硬質チップの各歯先コーナ部が前記第1先行歯の硬質チップの面取に対して左右方向外側へ突出した突出部になっており、前記第2後続歯の硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部が前記第2先行歯の硬質チップの面取に対して左右方向外側へ突出した突出部になっており、前記第3後続歯の硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部が第2先行歯の硬質チップの面取に対して左右方向外側へ突出した突出部になっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬質チップ帯鋸刃。
ワーク材に形成される切削溝を溝幅方向に複数の部位に分割した上で、各鋸歯グループにおいて、ワーク材の切削溝の溝幅方向の各部位を切削する鋸歯の枚数は、同数でかつ複数であることを特徴とする請求項1から請求項3のちのいずれか1項に記載の硬質チップ帯鋸刃。
各鋸歯グループにおける第1の前記小鋸歯グループ及び第2の前記小鋸歯グループの数は、それぞれ1つであることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の硬質チップ帯鋸刃。
各鋸歯グループにおける第1の前記小鋸歯グループの数は、2つであり、各鋸歯グループにおける第2の前記小鋸歯グループの数は、1つであることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の硬質チップ帯鋸刃。
【背景技術】
【0002】
近年、強靱性の高い合金鋼からなる胴部と高速度工具鋼からなる刃部とを有したバイメタル帯鋸刃よりも、切削性能に優れた硬質チップ帯鋸刃も広く普及している。硬質チップ帯鋸刃は、各鋸歯(各切削歯)の歯先側に、超硬合金等の硬質材料からなる硬質チップを有している。そして、代表的な硬質チップ帯鋸刃として次の2つの硬質チップ帯鋸刃が掲げられる。
【0003】
従来の第1の硬質チップ帯鋸刃は、複数の鋸歯の組み合わせからなる鋸歯グループを繰り返して備えており、各鋸歯グループは、複数の鋸歯として、先行歯と、後続歯とを含んでいる。先行歯は、左右対称形状に形成されており、先行歯の硬質チップの左右両側の歯先コーナ部には、面取(コーナ面取)がそれぞれ形成されている。換言すれば、先行歯は、左右対称形状の鋸歯の1つであるベベル歯(bevel tooth)になっている。また、後続歯は、先行歯に後続して配置されており、その歯高寸法は、先行歯の歯高寸法よりも小さく設定されている。後続歯は、歯先縁(歯先稜線)側に向かってバチ状(台形状若しくは鳩尾形状(dove tail shape))に拡がるように左右対称形状に形成されている。換言すれば、後続歯は、左右対称形状の鋸歯の1つであるバチ歯(台形歯若しくは鳩尾形歯(dove tail shaped teeth))になっている(後述の比較例1参照)。
【0004】
ここで、第1の硬質チップ帯鋸刃においては、後続歯の硬質チップの各歯先コーナ部は、左右方向外側に最も振り出している。つまり、各鋸歯グループにおいて、後続歯は、ワーク材の切断面を仕上げる仕上げ歯になっている。
【0005】
従来の第2の硬質チップ帯鋸刃は、複数の鋸歯の組み合わせからなる鋸歯グループを繰り返して備えており、各鋸歯グループは、複数の鋸歯として、先行歯と、第1後続歯と、第2後続歯とを含んでいる。先行歯は、左右対称形状に形成されており、先行歯の硬質チップの左右両側の歯先コーナ部には、面取がそれぞれ形成されている。換言すれば、先行歯は、左右対称形状の鋸歯の1つであるベベル歯(bevel tooth)になっている。
【0006】
第1後続歯は、先行歯に後続して配置されており、その歯高寸法は、先行歯の歯高寸法よりも小さく設定されている。第1後続歯は、歯先縁側に向かってバチ状(台形状若しくは鳩尾形状(dove tail shape))に拡がるように形成されており、その硬質チップの左右一方側の歯先コーナ部には、面取が形成されている。換言すれば、第1後続歯は、左右非対称形状の鋸歯の1つである片バチ歯(アサリ歯若しくは片鳩尾形歯)になっている。また、第2後続歯は、第1後続歯に後続して配置されており、その歯高寸法は、第1後続歯の歯高寸法と同じに設定されている。第2後続歯は、歯先縁側に向かってバチ状(台形状若しくは鳩尾形状)に拡がるように形成されており、その硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部には、面取が形成されている。換言すれば、第2後続歯は、左右非対称形状の鋸歯の1つである片バチ歯(アサリ歯若しくは片鳩尾形歯)になっている(後述の比較例2参照)。
【0007】
ここで、第2の硬質チップ帯鋸刃においては、第1後続歯の硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部及び第2後続歯の硬質チップの左右一方側の歯先コーナ部は、左右方向外側へ最も振り出している。つまり、各鋸歯グループにおいて、第1後続歯及び第2後続歯は、ワーク材の切断面を仕上げる仕上げ歯になっている。
【0008】
なお、硬質チップ帯鋸刃に関連する先行技術として特許文献1から特許文献3に示すものがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来の第1の硬質チップ帯鋸刃においては、鉄鋼等の硬質金属からなるワーク材の切削加工中に、後続歯の硬質チップがワーク材の切削溝によって左右方向に拘束された状態にある。そのため、左右対称形状のバチ歯である後続歯に製造誤差による精度(左右対称性)のバラツキが生じると、左右方向の切削抵抗が変動して、ワーク材の切れ曲がりや硬質チップ帯鋸刃の歯欠けが生じ易くなり、ワーク材の切断面精度及び硬質チップ帯鋸刃の寿命を向上させることが困難であるという問題がある。ここで、ワーク材の切れ曲がりとは、ワーク材の材質、硬質チップ帯鋸刃の磨耗状態、走行速度、切込み速度等によって硬質チップ帯鋸刃が撓み、ワーク材の切断面が球面状や斜面状等になる現象のことである。ワーク材の切れ曲がりは、ワーク材の切断面精度の低下による不良品の発生や硬質チップ帯鋸刃の損傷に繋がる。
【0011】
また、従来の第2の硬質チップ帯鋸刃においては、第1後続歯の硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部及び第2後続歯の硬質チップの左右一方側の歯先コーナ部が左右方向の切削抵抗を受けると、硬質チップ帯鋸刃の胴部や歯底に弾性変形する力が掛かる。そのため、第1後続歯又は第2後続歯の左右方向の振動(変動)が大きくなって、ワーク材の切断面精度が低下したり、硬質チップ帯鋸刃が胴破断したりするという問題がある。
【0012】
なお、主にアルミ合金等の軟質金属からなるワーク材の切断加工を行う際に用いられる硬質チップ帯鋸刃(以下、適宜に軟質金属切断用の硬質チップ帯鋸刃という)は、各鋸歯グループにおける仕上げ歯の枚数を減らしている。それは、軟質金属切断用の硬質チップ帯鋸刃の切断性能が1枚の鋸歯の担う切削量(仕事量)よりもワーク材の硬度(軟度)や材質に起因することによるものである。つまり、軟質金属切断用の硬質チップ帯鋸刃は、鉄鋼等の硬質金属からなるワーク材の切断には適していない。
【0013】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成からなる硬質チップ帯鋸刃を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、ワーク材に対して切削加工(切断加工)を行う際に用いられ、複数の鋸歯(切削歯)の組み合わせ(鋸歯パターン)からなる鋸歯グループを繰り返して備え、各鋸歯の歯先側に硬質材料からなる硬質チップを有した硬質チップ帯鋸刃であって、各鋸歯グループは、2つの小鋸歯グループによって構成され、第1の前記小鋸歯グループは、複数の鋸歯からなり、左右対称形状に形成され、硬質チップの左右両側の歯先コーナ部に面取(コーナ面取)がそれぞれ形成された第1先行歯(第1ベベル歯(first bevel tooth))と、前記第1先行歯に後続して配置され、歯高寸法が前記第1先行歯の歯高寸法よりも小さく設定され、歯先縁(歯先稜線)側に向かってバチ状(台形状若しくは鳩尾形状(dove tail shape))に拡がるように左右対称形状に形成された第1後続歯(バチ歯若しくは鳩尾形歯(dove tail shaped tooth))と、を含み、第2の前記小鋸歯グループは、複数の鋸歯からなり、歯高寸法が前記第1先行歯の歯高寸法と同じに設定され、左右対称形状に形成され、硬質チップの左右両側の歯先コーナ部に面取(コーナ面取)がそれぞれ形成された第2先行歯(第2ベベル歯(second bevel tooth))と、前記第2先行歯に後続して配置され、歯高寸法が前記第1後続歯の歯高寸法と同じに設定され、歯先縁側に向かってバチ状(台形状若しくは鳩尾形状(dove tail shape))に拡がるように形成され、硬質チップの左右一方側の歯先コーナ部に面取(コーナ面取)が形成された第2後続歯(片バチ歯若しくは片鳩尾形歯)と、前記第2後続歯に後続して配置され、歯高寸法が前記第1後続歯の歯高寸法と同じに設定され、歯先縁側に向かってバチ状(台形状若しくは鳩尾形状(Dove tail shape))に拡がるように形成され、硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部にコーナ面取が形成された第3後続歯(片バチ歯若しくは片鳩尾形歯)と、を含み、前記第1後続歯の硬質チップの各歯先コーナ部、前記第2後続歯の硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部、及び前記第3後続歯の硬質チップの左右一方側の歯先コーナ部は、それぞれ左右方向外側へ最も振り出していることである。
【0015】
本発明の第1の態様によると、第1の前記小鋸歯グループは、前述の構成からなる前記第1先行歯と前記第1後続歯とを含んでおり、従来の第1の硬質チップ帯鋸刃の鋸歯グループに相当する。また、第2の前記小鋸歯グループは、前述の構成からなる前記第2先行歯と前記第2後続歯と前記第3後続歯とを含んでおり、従来の第2の硬質チップ帯鋸刃の鋸歯グループに相当する。そして、前記第1先行歯の硬質チップ、前記第1後続歯の硬質チップ、及び前記第2先行歯の硬質チップがそれぞれ左右対称形状になっている。これにより、各鋸歯グループにおける鋸歯の総枚数に対する左右対称形状の鋸歯の枚数の割合を高めて、前記硬質チップ帯鋸刃の直進性を向上させることができる。
【0016】
前記第2後続歯の硬質チップの左右他方側の歯先コーナ部が左右方向の切削抵抗を受けると、前記第2後続歯が左右一方側へ弾性変形し、前記第3後続歯の硬質チップの左右一方側の歯先コーナ部が左右方向の切削抵抗を受けると、前記第2後続歯が左右他方側へ弾性変形する。これにより、左右対称形状のバチ歯である前記第1後続歯に製造誤差による精度(左右対称性)のバラツキがあっても、前記第2後続歯及び前記第3後続歯の左右方向の弾性変形によってその製造誤差を吸収することができ、前記硬質チップ帯鋸刃の直進性を維持することができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様の構成に加えて、第1の前記小鋸歯グループは、前記第1先行歯と前記第1後続歯の中間に配置され、歯高寸法が前記第1先行歯の歯高寸法よりも小さくかつ前記第1後続歯の歯高寸法よりも大きく設定され、左右対称形状に形成され、硬質チップの左右両側の歯先コーナ部に面取がそれぞれ形成された第1中間歯(第1中間ベベル歯(first middle bevel tooth))を含み、第2の前記小鋸歯グループは、前記第2先行歯と前記第2後続歯の中間に配置され、歯高寸法が前記第1中間歯の歯高寸法と同一に設定され、左右対称形状に形成され、硬質チップの左右両側の歯先コーナ部に面取がそれぞれ形成された第2中間歯(第2中間ベベル歯(second middle bevel tooth))を含むことである。
【0018】
本発明の第2の態様によると、前記第1中間歯及び前記第2中間歯がそれぞれ左右対称形状になっている。これにより、各鋸歯グループにおける鋸歯の総枚数に対する左右対称形状の鋸歯の枚数の割合をより高めて、前記硬質チップ帯鋸刃の直進性をより向上させることができる。
【0019】
また、前記第1先行歯及び前記第2先行歯の他に、前記第1中間歯及び前記第2中間歯がベベル歯になっているため、ワーク材の切削溝の深さ方向における各ベベル歯の切削量(仕事量)を分散することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、左右対称形状のバチ歯である前記第1後続歯に製造誤差による精度のバラツキがあっても、前記硬質チップ帯鋸刃の直進性を維持することができる。そのため、本発明によれば、ワーク材の切れ曲がり等を十分に抑えて、ワーク材の切断面精度及び前記硬質チップ帯鋸刃の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a)は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃の一部の左側面部、
図1(b)は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃の一部を刃先側(歯先側)から見た図である。
【
図2】
図2(a)は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第1先行歯を鋸刃進行方向から見た図、
図2(b)は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第1後続歯を鋸刃進行方向から見た図である。
図2(c)は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第2先行歯を鋸刃進行方向から見た図、
図2(d)は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第2後続歯を鋸刃進行方向から見た図である。
図2(e)は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第3後続歯を鋸刃進行方向から見た図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第1先行歯等を鋸刃進行方向から見た拡大図であり、ワーク材に対して切削加工を行う様子を示している。
【
図4】
図4(a)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃の一部の左側面部、
図4(b)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃の一部を刃先側(歯先側)から見た図である。
【
図5】
図5(a)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第1先行歯を鋸刃進行方向から見た図、
図5(b)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第1中間歯を鋸刃進行方向から見た図である。
図5(c)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第1後続歯を鋸刃進行方向から見た図である。
図5(d)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第2先行歯を鋸刃進行方向から見た図、
図5(e)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第2中間歯を鋸刃進行方向から見た図である。
図5(f)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第2後続歯を鋸刃進行方向から見た図、
図5(g)は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第3後続歯を鋸刃進行方向から見た図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃における第1先行歯等を鋸刃進行方向から見た拡大図であり、ワーク材に対して切削加工を行う様子を示している。
【
図7】
図7(a)は、第3実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃の一部の左側面部、
図7(b)は、第3実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃の一部を刃先側(歯先側)から見た図である。
【
図8】
図8(a)は、比較例1に係る硬質チップ帯鋸刃の一部の左側面部、
図8(b)は、比較例1に係る硬質チップ帯鋸刃の一部を刃先側(歯先側)から見た図である。
【
図9】
図9(a)は、比較例2に係る硬質チップ帯鋸刃の一部の左側面部、
図9(b)は、比較例2に係る硬質チップ帯鋸刃の一部を刃先側(歯先側)から見た図である。
【
図10】
図10は、切削試験の結果として、実施品1−3及び比較品1−2を用いた場合におけるワーク材の切断面積(累積切断面積)を示すグラフ図である。
【
図11】
図11は、切削試験の結果として、実施品1−3及び比較品1−2を用いた場合における切断面カット数とワーク材の切れ曲がり量との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態(第1〜第4実施形態)について図面を参照して説明する。
【0023】
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「左右方向」とは、硬質チップ帯鋸刃の刃先(歯先)を下向きにした状態で、鋸刃進行方向(硬質チップ帯鋸刃の進行方向)から見て左右方向のことをいう。「左右一方側」とは、右側又は左側のいずれかのことである。「左右他方側」とは、左右一方側の反対側のことであり、左右一方側が右側の場合には左側のことであり、左右一方側が左側の場合には右側のことである。「先行」とは、鋸刃進行方向から見て先行することをいい、「後続」とは、鋸刃進行方向から見て後続することをいう。「鋸刃中心線」とは、硬質チップ帯鋸刃の左右方向の中心を通る線のことをいう。「歯高寸法」とは、硬質チップ帯鋸刃の胴部における鋸背に沿った仮想の基準線(図示省略)から歯先までの寸法のことをいい、歯高寸法が大きくなる程、鋸背から歯先までの距離が長くなり、歯高寸法が小さくなる程、鋸背から歯先までの距離が短くなる。図面中、「L」は、左方向、「R」は、右方向、「F」は、鋸刃進行方向をそれぞれ指している。
【0024】
(第1実施形態)
図1(a)(b)から
図3に示すように、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃10は、鉄鋼等の硬質金属からなるワーク材(金属ワーク)Wに対して帯鋸盤(図示省略)により切削加工(切断加工)を行う際に用いられる切削工具である。また、硬質チップ帯鋸刃10は、エンドレス状に構成されており、硬質チップ帯鋸刃10の胴部(本体)は、強靱性の高い合金鋼からなっている。
【0025】
硬質チップ帯鋸刃10は、複数の鋸歯(切削歯)の組み合わせ(鋸歯パターン)からなる鋸歯グループ12を繰り返して備えている。また、各鋸歯グループ12は、複数の鋸歯の組み合わせからなる2つの小鋸歯グループ14,16によって構成されている。第1の小鋸歯グループ14は、複数の鋸歯からなり、第1先行歯18と、第1後続歯20とを含んでいる。第2の小鋸歯グループ16は、複数の鋸歯からなり、第2先行歯22と、第2後続歯24と、第3後続歯26とを含んでいる。換言すれば、各鋸歯グループ12は、5枚の鋸歯によって構成されている。
【0026】
ここで、第1先行歯18は、その歯先側に、超硬合金(例えば炭化タングステンやコバルトを含有する超硬合金と呼ばれる硬質材料)からなる硬質チップ18Tを有している。同様に、第1後続歯20は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ20Tを有し、第2先行歯22は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ22Tを有し、第2後続歯24は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ24Tを有している。第3後続歯26は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ26Tを有している。なお、超硬合金には炭化チタン等が添加されてあってもよく、超硬合金を硬質チップ18T等の構成材料にする代わりに、炭化タングステン等を含有するサーメット等の他の硬質材料を硬質チップ18T等の構成材料にしてもよい。
【0027】
続いて、各鋸歯グループ12における第1先行歯18、第1後続歯20、第2先行歯22、第2後続歯24、及び第3後続歯26の構成の詳細について説明する。
【0028】
図1から
図3に示すように、第1先行歯18は、前述のように、第1の小鋸歯グループ14を構成する鋸歯の1つであり、ワーク材Wに溝幅Sの切削溝Gを形成する鋸歯である。また、第1先行歯18(第1先行歯18の硬質チップ18T)は、鋸刃中心線Mに対して左右対称形状に形成されている。第1先行歯18の硬質チップ18Tにおける左右両側の歯先コーナ部には、面取(コーナ面取)18Tcがそれぞれ形成されている。換言すれば、第1先行歯18は、左右対称形状の鋸歯の1つである第1ベベル歯(first bevel tooth)になっている。第1先行歯18の硬質チップ18Tの面取18Tcの歯先縁(歯先稜線)18Ttに対する面取角θ1は、一例として、40度〜50度に設定されている。
【0029】
第1後続歯20は、前述のように、第1の小鋸歯グループ14を構成する鋸歯の1つであり、第1先行歯18に後続して配置されている。第1後続歯20は、ワーク材Wの切削溝Gを溝幅Pまで拡開する鋸歯である。第2第1後続歯20の歯高寸法は、第1先行歯22の歯高寸法よりも小さく設定されている。また、第1後続歯20(第1後続歯20の硬質チップ20T)は、歯先縁20Tt側に向かってバチ状(台形状若しくは鳩尾形状(dove tail shape))に拡がるように鋸刃中心線Mに対して左右対称形状に形成されている。換言すれば、第1後続歯20は、左右対称形状の鋸歯の1つであるバチ歯若しくは鳩尾形歯(dove tail shaped tooth))になっている。第1後続歯20の硬質チップ20Tの各歯先コーナ部は、第1先行歯18の硬質チップ18Tの面取18Tcに対して左右方向外側へ突出した突出部(突縁部)Bになっている。
【0030】
第2先行歯22は、前述のように、第2の小鋸歯グループ16を構成する鋸歯の1つであり、ワーク材Wに溝幅Sの切削溝Gを形成するための鋸歯である。第2先行歯22の歯高寸法は、第1先行歯18の歯高寸法と同じに設定されている。また、第2先行歯22(第2先行歯22の硬質チップ22T)は、鋸刃中心線Mに対して左右対称形状に形成されている。第2先行歯22の硬質チップ22Tにおける左右両側の歯先コーナ部には、面取(コーナ面取)22Tcがそれぞれ形成されている。換言すれば、第2先行歯22は、左右対称形状の鋸歯の1つである第2ベベル歯(second bevel tooth)になっている。第2先行歯22の硬質チップ22Tの面取22Tcの歯先縁22Ttに対する面取角θ2は、第1先行歯18の硬質チップ18Tの面取18Tcの歯先縁(歯先稜線)18Ttに対する面取角θ1と同じに設定されている。換言すれば、第2先行歯22の硬質チップ22Tは、第1先行歯18の硬質チップ18Tと同形状に形成されている。
【0031】
第2後続歯24は、前述のように、第2の小鋸歯グループ16を構成する鋸歯の1つであり、第2先行歯22に後続して配置されている。第2後続歯24は、第3後続歯26と協働してワーク材Wの切削溝Gを溝幅Pまで拡開する鋸歯である。第2後続歯2第34の歯高寸法は、第1後続歯20の歯高寸法と同じに設定されている。また、第2後続歯24(第2後続歯24の硬質チップ24T)は、歯先縁24Tt側に向かってバチ状に拡がるように形成されている。第2後続歯24の硬質チップ24Tにおける右側の歯先コーナ部には、面取(コーナ面取)24Tcが形成されている。換言すれば、第2後続歯24は、左右非対称形状の鋸歯の1つである片バチ歯(アサリ歯若しくは片鳩尾形歯)になっている。第2後続歯24の面取24Tcの歯先縁24Ttに対する面取角θ3は、第2先行歯22の面取22Tcの面取角θ2より小さく設定されており、一例として、20度〜40度に設定されている。更に、第2後続歯24の硬質チップ24Tにおける左側の歯先コーナ部は、第2先行歯22の硬質チップ22Tの面取22Tcに対して左右方向外側へ突出した突出部Bになっている。
【0032】
第3後続歯26は、前述のように、第2の小鋸歯グループ16を構成する鋸歯の1つであり、第2後続歯24に後続して配置されている。第3後続歯26は、第2後続歯24と協働してワーク材Wの切削溝Gを溝幅Pまで拡開する鋸歯である。第3後続歯26の歯高寸法は、第1後続歯20の歯高寸法と同じに設定されている。また、第3後続歯26(第3後続歯26の硬質チップ26T)は、歯先縁26Tt側に向かってバチ状に拡がるように形成されている。第3後続歯26の硬質チップ26Tにおける左側の歯先コーナ部には、面取(コーナ面取)26Tcが形成されている。換言すれば、第3後続歯26は、左右非対称形状の鋸歯の1つである片バチ歯(アサリ歯若しくは片鳩尾形歯)になっている。第3後続歯26の硬質チップ26Tの面取26Tcの歯先縁26Ttに対する面取角θ4は、第2後続歯24の硬質チップ24Tの面取24Tcの歯先縁24Ttに対する面取角θ3と同じに設定されている。更に、第3後続歯26の硬質チップ26Tにおいける右側の歯先コーナ部は、第2先行歯22の硬質チップ22Tの面取22Tcに対して左右方向外側へ突出した突出部Bになっている。
【0033】
なお、第2後続歯24の硬質チップ24Tにおける右側の歯先コーナ部に面取24Tcが形成される代わりに、第2後続歯24の硬質チップ24Tにおける左側の歯先コーナ部に面取(図示省略)が形成されてもよい。この場合には、第3後続歯26の硬質チップ26Tにおける左側の歯先コーナ部に面取26Tcが形成される代わりに、第3後続歯26の硬質チップ26Tにおける右側の歯先コーナ部に面取(図示省略)が形成されることになる。
【0034】
第1後続歯20の硬質チップ20Tの各歯先コーナ部、第2後続歯24の硬質チップ24Tの左側の歯先コーナ部、及び第3後続歯26の硬質チップ26Tの右側の歯先コーナ部は、それぞれ左右方向外側へ最も大きく振り出している。換言すれば、第1後続歯20の硬質チップ20Tの歯先縁(歯先稜線)20Ttの左右方向外端20Te、第2後続歯24の硬質チップ24Tの歯先縁24Ttの左右方向外端(左端)24Te、及び第3後続歯26の硬質チップ26Tの歯先縁26Ttの左右方向外端(右端)26Teは、それぞれ最も左右方向外側に位置している。つまり、各鋸歯グループ12において、第1後続歯20、第2後続歯24、及び第3後続歯26は、ワーク材Wの切断面を仕上げる仕上げ歯になっている。
【0035】
ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の中央部(溝幅Sに相当する部位)を切削する鋸歯の硬質チップは、第1先行歯18の硬質チップ18Tと第2先行歯22の硬質チップ22Tである。ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の左端部(左側の溝幅(P-S)/2に相当する部位)を切削する鋸歯の硬質チップは、第1後続歯20の硬質チップ20Tと第2後続歯24の硬質チップ24Tである。ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の右端部(右側の溝幅(P-S)/2に相当する部位)を切削する鋸歯の硬質チップは、第1後続歯20の硬質チップ20Tと第3後続歯26の硬質チップ26Tである。換言すれば、ワーク材Wに形成される切削溝Gを溝幅方向に3つの部位に分割した上で、各鋸歯グループ12において、ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の各部位を切削する鋸歯の枚数は、同数でかつ複数(2枚)になっている。
【0036】
続いて、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0037】
帯鋸盤の駆動により硬質チップ帯鋸刃10を鋸刃進行方向に循環走行させつつ、硬質チップ帯鋸刃10を切込み方向(ワーク材Wに対して接近する方向)へ移動させる。すると、帯鋸盤によるワーク材Wの切削領域において、第1先行歯18によってワーク材Wに溝幅Sの切削溝Gを形成し、第1後続歯20によってワーク材Wの切削溝Gを溝幅Pまで拡開する。また、帯鋸盤によるワーク材Wの切削領域において、第2先行歯22によってワーク材Wに溝幅Sの切削溝Gを形成し、第2後続歯24及び第3後続歯26によってワーク材Wの切削溝Gを溝幅Pまで拡開する。そして、前述の動作が連続して行われることにより、第1後続歯20、第2後続歯24、及び第3後続歯26によってワーク材Wの切断面を仕上げつつ、ワーク材Wに対して所望の切削加工(切断加工)を行うことができる。
【0038】
第1の小鋸歯グループ14は、前述の構成からなる第1先行歯18と第1後続歯20とを含んでおり、従来の第1の硬質チップ帯鋸刃の鋸歯グループに相当する。また、第2の小鋸歯グループ16は、前述の構成からなる第2先行歯22と第2後続歯24と第3後続歯26とを含んでおり、従来の第2の硬質チップ帯鋸刃の鋸歯グループに相当する。そして、第1先行歯18、第1後続歯20、及び第2先行歯22がそれぞれ左右対称形状の鋸歯になっている。これにより、各鋸歯グループ12における鋸歯の総枚数に対する左右対称形状の鋸歯の枚数の割合を高めることができる。
【0039】
第2後続歯24の硬質チップ24Tの左側の歯先コーナ部が左右方向の切削抵抗を受けると、第2後続歯24及び胴部(硬質チップ帯鋸刃10の胴部)が右方向へ弾性変形し、第3後続歯26の硬質チップ26Tの右側の歯先コーナ部が左右方向の切削抵抗を受けると、第2後続歯26及び胴部が左方向へ弾性変形する。換言すれば、第2後続歯24、第3後続歯26、及び胴部が左右方向のバランスを保った状態で弾性変形する。これにより、左右対称形状のバチ歯である第1先行歯18に製造誤差による精度(左右対称性)のバラツキがあっても、第2後続歯24、第3後続歯26、及び胴部の左右方向の弾性変形によってその製造誤差を吸収して、硬質チップ帯鋸刃10の直進性を維持することができる。また、第2後続歯24及び第3後続歯26の歯欠けを十分に防止することができる。
【0040】
ワーク材Wに形成される切削溝Gを溝幅方向に3つの部位に分割した上で、各鋸歯グループ12において、ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の各部位を切削する鋸歯の枚数は、同数でかつ複数になっている。これにより、各鋸歯グループ12における各鋸歯に働く切削抵抗を分散させつつ、各鋸歯グループ12における各鋸歯の仕事量の均一に近づけることができる。
【0041】
従って、第1実施形態によれば、左右対称形状のバチ歯である第1先行歯18に製造誤差による精度のバラツキがあっても、硬質チップ帯鋸刃10の直進性を維持することができる。そのため、第1実施形態によれば、硬質チップ帯鋸刃10の切れ曲がり等を十分に抑えて、ワーク材Wの切断面精度及び硬質チップ帯鋸刃10の寿命を向上させることができる。特に、各鋸歯グループ12における各鋸歯に働く切削抵抗を分散させつつ、各鋸歯グループ12における各鋸歯の仕事量の均一に近づけることができるため、硬質チップ帯鋸刃10の寿命をより向上させることができる。
【0042】
(第2実施形態)
図4(a)(b)から
図6に示すように、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃28は、第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃10(
図1(a)(b)参照)と同様の構成を有している。以下、硬質チップ帯鋸刃28の構成のうち、硬質チップ帯鋸刃10と異なる構成についてのみ説明する。なお、硬質チップ帯鋸刃28における複数の構成要素のうち、硬質チップ帯鋸刃10における構成要素と対応するものについては、図面中に同一符号を付してある。
【0043】
硬質チップ帯鋸刃28は、複数の鋸歯(切削歯)の組み合わせ(鋸歯パターン)からなる鋸歯グループ30を繰り返して備えている。また、各鋸歯グループ30は、複数の鋸歯の組み合わせからなる2つの小鋸歯グループ32,34によって構成されている。第1の小鋸歯グループ32は、硬質チップ帯鋸刃10における第1の小鋸歯グループ14(
図1(a)(b)参照)と異なり、複数の鋸歯として、第1先行歯18及び第1後続歯20の他に、第1中間歯36を含んでいる。第2の小鋸歯グループ34は、硬質チップ帯鋸刃10における第2の小鋸歯グループ16(
図1(a)(b)参照)と異なり、複数の鋸歯として、第2先行歯22、第2後続歯24、及び第3後続歯26の他に、第2中間歯38を含んでいる。換言すれば、各鋸歯グループ30は、7枚の鋸歯によって構成されている。
【0044】
ここで、第1中間歯36は、その歯先側に、超硬合金(例えば炭化タングステンやコバルトを含有する超硬合金と呼ばれる硬質材料)からなる硬質チップ36Tを有しており、第2中間歯38は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ38Tを有している。なお、超硬合金には炭化チタン等が添加されてあってもよく、超硬合金を硬質チップ36T等の構成材料にする代わりに、炭化タングステン等を含有するサーメット等の他の硬質材料を硬質チップ36T等の構成材料にしてもよい。
【0045】
第1中間歯36は、前述のように、第1の小鋸歯グループ32を構成する鋸歯の1つであり、第1先行歯18と第1後続歯20の間に配置されている。第1中間歯36は、ワーク材Wの切削溝Gを溝幅Kまで拡開する鋸歯である。第1中間歯36の歯高寸法は、第1先行歯18の歯高寸法よりも小さくかつ第1後続歯20の歯高寸法よりも大きく設定されている。また、第1中間歯36(第1中間歯36の硬質チップ36T)は、鋸刃中心線Mに対して左右対称形状に形成されている。第1中間歯36の硬質チップ36Tにおける左右両側の歯先コーナ部には、面取(コーナ面取)36Tcがそれぞれ形成されている。換言すれば、第1中間歯36は、左右対称形状の鋸歯の1つである第1中間ベベル歯(first middle bevel tooth)になっている。第1中間歯36の硬質チップ36Tの面取36Tcの歯先縁(歯先稜線)36Ttに対する面取角θ5は、第1先行歯18の硬質チップ18Tの歯先縁18Ttに対する面取18Tcと同じに設定されている。
【0046】
第2中間歯38は、前述のように、第2の小鋸歯グループ34を構成する鋸歯の1つであり、第2先行歯22と第2後続歯24の間に配置されている。第2中間歯38は、ワーク材Wの切削溝Gを溝幅Kまで拡開する鋸歯である。第2中間歯38の歯高寸法は、第1中間歯36の歯高寸法と同じに設定されている。また、第2中間歯38(第2中間歯38の硬質チップ38T)は、鋸刃中心線Mに対して左右対称形状に形成されている。第2中間歯38の硬質チップ38Tにおける左右両側の歯先コーナ部には、面取(コーナ面取)38Tcがそれぞれ形成されている。換言すれば、第2中間歯38は、左右対称形状の鋸歯の1つである第2中間ベベル歯(second middle bevel tooth)になっている。第2中間歯38の硬質チップ38Tの歯先縁38Ttに対する面取38Tcの面取角θ6は、第1中間歯36の硬質チップ36Tの歯先縁36Ttに対する面取36Tcと同じに設定されている。換言すれば、第2中間歯38の硬質チップ38Tは、第1中間歯36の硬質チップ36Tと同形状に形成されている。
【0047】
ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の中央部(溝幅Sに相当する部位)を切削する鋸歯の硬質チップは、第1先行歯18の硬質チップ18Tと第2先行歯22の硬質チップ22Tである。ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の中央部の左右両側(溝幅(K-S)/2に相当する部位)を切削する鋸歯の硬質チップは、第1中間歯36の硬質チップ36Tと第2中間歯38の硬質チップ38Tである。ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の左端部(左側の溝幅(P-K)/2に相当する部位)を切削する鋸歯の硬質チップは、第1後続歯20の硬質チップ20Tと第2後続歯24の硬質チップ24Tである。ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の右端部(右側の溝幅(P-K)/2に相当する部位)を切削する鋸歯の硬質チップは、第1後続歯20の硬質チップ20Tと第3後続歯26の硬質チップ26Tである。換言すれば、ワーク材Wに形成される切削溝Gを溝幅方向に5つの部位に分割した上で、各鋸歯グループ30において、ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の各部位を切削する鋸歯の枚数は、同数でかつ複数(2枚)になっている。
【0048】
続いて、第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0049】
帯鋸盤の駆動により硬質チップ帯鋸刃28を鋸刃進行方向に循環走行させつつ、硬質チップ帯鋸刃28を切込み方向(ワーク材Wに対して接近する方向)へ移動させる。すると、帯鋸盤によるワーク材Wの切削領域において、第1先行歯18によってワーク材Wに溝幅Sの切削溝Gを形成し、第1中間歯36によってワーク材Wの切削溝Gを溝幅Kまで拡開し、第1後続歯20によってワーク材Wの切削溝Gを溝幅Pまで拡開する。また、帯鋸盤によるワーク材Wの切削領域において、第2先行歯22によってワーク材Wに溝幅Sの切削溝Gを形成し、第2中間歯38によってワーク材Wの切削溝Gを溝幅Kまで拡開し、第2後続歯24及び第3後続歯26によってワーク材Wの切削溝Gを溝幅Pまで拡開する。そして、前述の動作が連続して行われることにより、第1後続歯20、第2後続歯24、及び第3後続歯26によってワーク材Wの切断面を仕上げつつ、ワーク材Wに対して所望の切削加工(切断加工)を行うことができる。
【0050】
第1の小鋸歯グループ32は、前述の構成からなる第1先行歯18と第1後続歯20とを含んでおり、従来の第1の硬質チップ帯鋸刃の鋸歯グループに相当する。また、第2の小鋸歯グループ34は、前述の構成からなる第2先行歯22と第2後続歯24と第3後続歯26とを含んでおり、従来の第2の硬質チップ帯鋸刃の鋸歯グループに相当する。そして、第1先行歯18、第1中間歯36、第1後続歯20、第2中間歯38、及び第2先行歯22がそれぞれ左右対称形状の鋸歯になっている。これにより、各鋸歯グループ30における鋸歯の総枚数に対する左右対称形状の鋸歯の枚数の割合を高めて、硬質チップ帯鋸刃28の直進性を向上させることができる。
【0051】
第1実施形態の作用と同様に、左右対称形状のバチ歯である第1後続歯20に製造誤差による精度(左右対称性)のバラツキがあっても、第2後続歯24及び第3後続歯26の左右方向の弾性変形によってその製造誤差を吸収して、硬質チップ帯鋸刃28の直進性を維持することができる。また、第2後続歯24及び第3後続歯26の歯欠けを十分に防止することができる。
【0052】
ワーク材Wに形成される切削溝Gを溝幅方向に5つの部位に分割した上で、各鋸歯グループ30において、ワーク材Wの切削溝Gの溝幅方向の各部位を切削する鋸歯の枚数は、同数でかつ複数になっている。これにより、各鋸歯グループ30における各鋸歯に働く切削抵抗を分散させつつ、各鋸歯グループ30における各鋸歯の仕事量の均一に近づけることができる。
【0053】
第1先行歯18及び第2先行歯22の他に、第1中間歯36及び第2中間歯38がベベル歯になっているため、ワーク材Wの切削溝Gの深さ方向における各ベベル歯の切削量(仕事量)を分散することができる。
【0054】
従って、第2実施形態によれば、左右対称形状のバチ歯である第1先行歯18に製造誤差による精度のバラツキがあっても、硬質チップ帯鋸刃28の切れ曲がり等をより十分に抑えて、硬質チップ帯鋸刃28の寿命をより向上させると共に、ワーク材の切断面精度をより向上させることができる。特に、各鋸歯グループ30における各鋸歯に働く切削抵抗を分散させつつ、各鋸歯グループ30における各鋸歯の仕事量の均一に近づけると共に、ワーク材Wの切削溝Gの深さ方向における各ベベル歯の切削量(仕事量)を分散できるため、硬質チップ帯鋸刃28の寿命をより一層向上させることができる。
【0055】
(第3実施形態)
図7(a)(b)に示すように、第3実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃40は、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃28(
図4(a)(b)参照)と同様の構成を有している。以下、硬質チップ帯鋸刃40の構成のうち、硬質チップ帯鋸刃28と異なる構成についてのみ説明する。なお、硬質チップ帯鋸刃40における複数の構成要素のうち、硬質チップ帯鋸刃28における構成要素と対応するものについては、図面中に同一符号を付してある。
【0056】
硬質チップ帯鋸刃40は、複数の鋸歯(切削歯)の組み合わせ(鋸歯パターン)からなる鋸歯グループ42を繰り返して備えている。また、各鋸歯グループ42は、硬質チップ帯鋸刃28における各鋸歯グループ30(
図4(a)(b)参照)と異なり、2つの第1の小鋸歯グループ32と、1つの第2の小鋸歯グループ34とによって構成されている。換言すれば、各鋸歯グループ30は、10枚の鋸歯によって構成されている。
【0057】
そして、第3実施形態においても、第2実施形態と同様の作用及び効果を奏するものである。
【0058】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、適宜の変更を行うことにより、その他、種々の態様で実施可能である。そして、本発明に包含される権利範囲は、前述の実施形態に限定されないものである。
【実施例】
【0059】
本発明の実施例(比較例1−2、実施品1−3、比較品1−2、及び切削試験について図面を参照して説明する。
【0060】
なお、図面中、「L」は、左方向、「R」は、右方向、「F」は、鋸刃進行方向をそれぞれ指している。
【0061】
(比較例1)
図8(a)(b)に示すように、比較例1に係る硬質チップ帯鋸刃44は、従来の第1の硬質チップ帯鋸刃に相当する切削工具であり、複数の鋸歯の組み合わせからなる鋸歯グループ46を繰り返して備えている。以下、硬質チップ帯鋸刃44の構成について簡単に説明する。
【0062】
各鋸歯グループ46は、複数の鋸歯として、先行歯48と、後続歯50とを含んでいる。換言すれば、各鋸歯グループ46は、2枚の鋸歯によって構成されている。ここで、先行歯48は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ48Tを有しており、先行歯48は、硬質チップ帯鋸刃10における第1の小鋸歯グループ14の第1先行歯18(
図1(a)(b)参照)と同様の構成を有している。後続歯50は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ50Tを有しており、後続歯50は、硬質チップ帯鋸刃10における第1の小鋸歯グループ14の第1後続歯20(
図1(a)(b)参照)と同様の構成を有している。
【0063】
(比較例2)
図9(a)(b)に示すように、比較例2に係る硬質チップ帯鋸刃52は、従来の第2の硬質チップ帯鋸刃に相当する切削工具であり、複数の鋸歯の組み合わせからなる鋸歯グループ54を繰り返して備えている。以下、硬質チップ帯鋸刃52の構成について簡単に説明する。
【0064】
各鋸歯グループ54は、複数の鋸歯として、先行歯56と、第1後続歯58と、第2後続歯60とを含んでいる。換言すれば、各鋸歯グループ54は、3枚の鋸歯によって構成されている。ここで、先行歯56は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ56Tを有しており、先行歯56は、硬質チップ帯鋸刃10における第2の小鋸歯グループ16の第2先行歯22(
図1(a)(b)参照)と同様の構成を有している。第1後続歯58は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ58Tを有しており、第1後続歯58は、硬質チップ帯鋸刃10における第2の小鋸歯グループ16の第2後続歯24(
図1(a)(b)参照)と同様の構成を有している。第2後続歯60は、その歯先側に、超硬合金からなる硬質チップ60Tを有しており、第2後続歯60は、硬質チップ帯鋸刃10における第2の小鋸歯グループ16の第3後続歯26(
図1(a)(b)参照)と同様の構成を有している。
【0065】
(実施品1−3及び比較品1−2)
第1実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃10を実施品1として、第2実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃28を実施品2として、第3実施形態に係る硬質チップ帯鋸刃40を実施品3として、それぞれ試作する。比較例1に係る硬質チップ帯鋸刃44を比較品1として、比較例2に係る硬質チップ帯鋸刃52を比較品2として、それぞれ試作する。実施品1−3及び比較品1−2は、ベースの歯形の掬い角10度、ベースの歯形の逃げ角20度、帯幅41mm、帯厚(厚み)1.3mm、帯長4715mm、ピッチ1.8/2Pに設定した。実施品1−3及び比較品1−2における超硬チップは、K20相当の超硬からなっている。
【0066】
(切削試験)
実施品1−3及び比較品1−2を用いて、所定の第1切削条件(鋸速63m/mim、1カットの切断時間5分21秒)の下で、合金工具鋼鋼材(SKD61)からなる直径250mmのワーク材に対して切削試験を行った。
【0067】
切削試験の結果として、実施品1−3及び比較品1−2を用いた場合におけるワーク材の切断面積(累積切断面積)についてまとめると、
図10に示すようになる。また、切削試験の結果として、実施品1−3及び比較品1−2を用いた場合におけるカット数とワーク材の切れ曲がり量との関係をまとめると、
図11に示すようになる。
【0068】
即ち、比較品1−2を用いた場合には、切断面積が50000cm
2を越えると、ワーク材の切れ曲がりが大きくなって、硬質チップ帯鋸刃の寿命に達している。これに対して、実施品1を用いた場合には、切断面積が100000cm
2付近に達するまで、ワーク材の切り曲がりを十分に抑えて、安定した切削性能を発揮できることが確認できた。また、実施品2−3を用いた場合には、切断面積が100000cm
2を越えても、ワーク材の切れ曲がりが大きくならず、実施品1を用いた場合よりも、ワーク材の切り曲がりをより十分に抑えることが確認できた。なお、切削試験においては、ワーク材の切れ曲がり量が1.0mm以上になると、硬質チップ帯鋸刃の寿命であるとみなした。
【0069】
切削試験中にワーク材の切断面を観察すると、次のような結果になった。
【0070】
即ち、比較品1−2を用いた場合には、切断面積が40000cm
2に達した時に、ワーク材の切断面の表面粗さ(算術平均粗さ)Raが12μm〜14μmであることが確認できた。比較品1−2を用いた場合には、硬質チップ帯鋸刃の寿命時におけるワーク材の切断面の表面粗さRaが15μm程度であることが確認できた。これに対して、実施品1−3を用いた場合には、切断面積が40000cm
2に達した時に、ワーク材の切断面の表面粗さRaが8μm〜9μmであることが確認できた。実施品1を用いた場合には、硬質チップ帯鋸刃の寿命時におけるワーク材の切断面の表面粗さRaが10μm以下であることが確認できた。実施品2−3を用いた場合には、切断面積が100000cm
2に達した時に、ワーク材の切断面の表面粗さRaが8μm〜9μmであることが確認できた。
【0071】
以上の切削試験の結果から、実施品1を用いた場合は、比較品1−2を用いた場合に比べて、硬質チップ帯鋸刃の直進性を高めて、ワーク材の切れ曲がりを十分に抑えつつ、ワーク材の切断面精度を向上させることが判明した。また、実施品2−3を用いた場合は、比較品1−2を用いた場合に比べて、硬質チップ帯鋸刃の直進性をより高めて、ワーク材の切れ曲がりをより十分に抑えつつ、ワーク材の切断面精度をより向上させることが判明した。
【0072】
つまり、本願の発明者は、従来の第1の硬質帯鋸刃の鋸歯グループに相当する第1の小鋸歯グループと従来の第2の硬質帯鋸刃の鋸歯グループに相当する第2の小鋸歯グループとによって鋸歯グループを構成することにより、鉄鋼等の硬質金属からなるワーク材の切れ曲がりを十分に抑えつつ、ワークの切断面精度を向上させることができるという、第1の知見を得ることができた。また、本願の発明者は、第1の小鋸歯グループにおける第1先行歯と第1後続歯の間、及び第2の小鋸歯グループにおける第2先行歯と第2後続歯の間にそれぞれ左右対称形状の鋸歯を中間歯として配置することにより、硬質金属からなるワーク材の切れ曲がりをより十分に抑えつつ、ワークの切断面精度をより向上させるという、第2の知見を得ることができた。
【課題】左右対称形状のバチ歯である第1先行歯18に製造誤差による精度のバラツキがあっても、ワーク材Wの切れ曲がり等を十分に抑えると共に、ワーク材の切断面精度を向上させること。
【解決手段】硬質チップ帯鋸刃10は、鋸歯グループ12を繰り返して備えている。各鋸歯グループ12は、2つの小鋸歯グループ14,16によって構成されている。第1の小鋸歯グループ14は、複数の鋸歯として、第1先行歯18と、第1後続歯20とを含んでいる。第2の小鋸歯グループ16は、複数の鋸歯として、第2先行歯22と、第2後続歯24と、第3後続歯26とを含んでいる。第1後続歯20の硬質チップ20Tの各歯先コーナ部、第2後続歯24の硬質チップ24Tの左側の歯先コーナ部、及び第3後続歯26の硬質チップ26Tの右側の歯先コーナ部は、それぞれ左右方向外側へ最も大きく振り出している。