特許第6337170号(P6337170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6337170ネコの全身性疾患の予防又は治療の為のアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト
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  • 特許6337170-ネコの全身性疾患の予防又は治療の為のアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337170
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】ネコの全身性疾患の予防又は治療の為のアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4184 20060101AFI20180528BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20180528BHJP
   A61K 31/501 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   A61K31/4184
   A61K45/00
   A61K31/501
   A61P9/12
   A61P43/00 111
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-42000(P2017-42000)
(22)【出願日】2017年3月6日
(62)【分割の表示】特願2013-160675(P2013-160675)の分割
【原出願日】2007年10月4日
(65)【公開番号】特開2017-122115(P2017-122115A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2017年4月5日
(31)【優先権主張番号】06121905.1
(32)【優先日】2006年10月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504225895
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】シュタルク マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ゼント ウルリケ
(72)【発明者】
【氏名】ランク インゴ
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6151123(JP,B2)
【文献】 Mishina M, et al.,Non-invasive blood pressure measurements in cats: clinical significance of hypertension associated with chronic renal failure,Journal of Veterinary Medical Science,1998年,Vol.60, No.7,p.805-808
【文献】 鈴木 洋通,腎障害を伴う高血圧治療における各種アンジオテンシン受容体拮抗薬の臨床的有用性の検討,Progress in Medicine,2006年 7月,第26巻,第7号,p.1669−1675
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00−45/08
A61K 31/00−31/80
PubMed
医中誌WEB
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストを含む、ネコにおける全身性高血圧の治療の為の医薬組成物であって、アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストが、テルミサルタン及びその医薬的に許容可能な塩からなる群から選択される前記医薬組成物。
【請求項2】
アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストの治療有効量が0.01〜5.0mg/kg体重である、請求項記載の医薬組成物。
【請求項3】
0.01〜1mgアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト/kg体重の投与量で非経口的経路により、または0.03〜5.0mgアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト/kg体重の投与量で経口、経腸、経鼻又は吸入経路により、それらを必要とする対象に前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストが投与される、請求項1または2記載の医薬組成物。
【請求項4】
治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストを含む、ネコにおける全身性高血圧の治療の為の医薬組成物の製造のための、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストの使用であって、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストが、テルミサルタン及びその医薬的に許容可能な塩からなる群から選択される前記使用。
【請求項5】
アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストの前記治療有効量が0.01〜5.0mg/kg体重である、請求項記載の使用。
【請求項6】
0.01〜1mgアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト/kg体重の投与量で非経口的経路により、または0.03〜5.0mgアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト/kg体重の投与量で経口、経腸、経鼻又は吸入経路により、それらを必要とする対象に前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストが投与される、請求項4または5記載の使用。
【請求項7】
治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストを含む、ネコにおける全身性高血圧の治療用薬剤として使用するための医薬組成物であって、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストがサルタンでありかつネコに毎日投与され、前記サルタンが、テルミサルタン及びその医薬的に許容可能な塩からなる群から選択され、さらに、前記サルタンの治療有効量が少なくとも0.75mg/kg体重であり、かつ5.0mg/kg体重以下である、前記医薬組成物。
【請求項8】
少なくとも一つの他の薬剤を、前記治療が必要なネコに投与する、請求項記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記他の薬剤が、Ca-チャネル拮抗薬、β-拮抗薬、強心性-Ca-感受性増強薬、選択的If-電流阻害剤、ACE阻害薬、及び抗肥満薬からなる群より選択される、請求項記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記他の薬剤がピモベンダンである、請求項記載の医薬組成物。
【請求項11】
治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストを含む、ネコにおける全身性高血圧の治療用薬剤として使用するための医薬組成物であって、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストがサルタンでありかつ少なくとも一つの他の薬剤と共に前記ネコに毎日投与され、前記サルタンが、テルミサルタン及びその医薬的に許容可能な塩からなる群から選択され、さらに、前記サルタンの治療有効量が少なくとも0.1mg/kg体重であるかまたは少なくとも0.75mg/kg体重であり、かつ5.0mg/kg体重以下である、前記医薬組成物。
【請求項12】
前記治療有効量の毎日の投与が単回投与により行われる、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記治療有効量の毎日の投与が複数回投与により行われる、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記治療有効量のサルタンが、4週間にわたる治療の間毎日投与される、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記治療有効量のサルタンが、複数の日数を含む治療期間の間毎日投与され、かつネコに投与された一日の投与量が治療期間にわたり変化する、請求項11記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は獣医学の分野、特にネコの全身性疾患の予防又は治療に関する。特に、本発明はのネコの全身性疾患の予防又は治療方法に関し、前記方法は前記治療が必要なネコに治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)を投与することを含む。
【背景技術】
【0002】
腎疾患罹患率は高齢のネコにおいて高く、慢性の腎不全が最も重要なものであると考えられている。ネコにおける慢性腎疾患(CKD)の罹患率は20%に達し53%のネコは7歳より上である (Lefebre, Toutain 2004,J. Vet. Pharm. Therap. 27, 265 - 281; Wolf AM North. Am. Vet. Congress 2006)。軽度から中程度の高窒素血症及び腎外の臨床症状(IRISステージ2 & 3)を有するネコの生存は1から3年にわたる。早めの管理と治療がCKDの予後のためによい影響を及ぼすと考えられている(Wolf AM North Am. Vet Congress 2006)。
【0003】
慢性腎不全 (CRF)は、少なくとも最終ステージにおいて、根底にある原因にかかわらず、不可逆性の腎臓の構造的病変を特徴とする。それにより、最初にネフロン(例えば、糸球体、管周囲の毛細血管、細管または間質組織)の一部に局在した進行性の不可逆性病変はやがては残部における病変の進行を招くがそれらの機能的な相互依存性によりネフロンの初めは影響を受けない部分の原因とはならない。病気によって不可逆的に破壊された他のものを取り替えるために新しいネフロンは形成することができない。原発性腎高窒素血症に罹患したネコの生検の検討において、サンプルのうち尿細管間質性腎炎は70%、糸球体腎症は15%でおこり、リンパ腫は11%及びアミロイドーシスは2%見出された。CRFは腎機能の減少又は腎障害の存在により認識される (Polzin, Osborne, Ross 2005 in : Ettinger SJ, Feldman CE (eds.) Textbook of Veterinary Internal Medicine, 6th, Vol 2. Chapter 260, 1756 -1785)。
【0004】
アンジオテンシンIIは病態生理学において、特に人において血液を増加させる為の最も有用な薬剤としての重要な役割を担う。その血圧作用に加え、アンジオテンシンIIにはまた、左室肥大、血管肥厚、アテローム性動脈硬化症、腎不全及び発作に貢献する成長促進効果があることが知られている。小動物において、いずれのACE 阻害薬によるアンジオテンシンIIの効果の阻害はそれらの血圧を減少及びタンパク尿症を制御する能力により腎保護作用を示す為に示される。
【0005】
現在の療法は、糸球体潅流を維持することにより、腎機能特に糸球体機能を改善することによってネコにおける疾患の進行を遅らせることを目指す。これには食事中のタンパク質の制限、食物中の脂肪取摂取の改変、リン酸塩制限、およびアンジオテンシン-変換酵素(ACE)阻害薬を用いた治療が含まれる (P.J. Barber (2004) The Kidney, in: Chandler EA, Gaskell CJ, Gaskell RM (eds.) Feline Medicine and Therapeutics, 3rd edition, Blackwell Publishing, Oxford, UK) 。
【0006】
ACE 阻害薬、特にエナラプリル、ベナゼプリル、イミダプリル及びラミプリルは最初は小動物医学において慢性心不全(CHF)の制御の為に開発された。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 (RAAS)の慢性心不全の進行及び腎障害の進行における病理学的役割に基づき、これらの薬剤は慢性腎疾患(CKD)の治療においてネコを含む小動物において罹患率及び苦痛を減少させるために有用であることが示された。おそらくネコ科のCRFの治療に対するヨーロッパにおけるベナゼプリルの最近の承認は、このことについての動かぬ証拠である。(Lefebre Toutain, 2004 J Vet Pharm Therap 27, 265-281)。しかしながら、阻害薬の腎保護は血圧の低下によりむしろタンパク尿症に対する効果により媒介されるようである。タンパク尿症が減少したが、血圧への効果がプラセボのものに匹敵するのでこのことはラミプリルについて示されている。(Remuzzi et al., 2006 J Clin Invest 116, (2) 288-296)。
【0007】
臨床的観点から、ACE阻害薬は、アンジオテンシン Iに対して特異性がないこと及びカテプシン、トリプシン又は心臓キマーゼ(heart chymase)のような代替酵素経路によってもアンジオテンシン Iを転換することができる「アンジオテンシン回避」現象によりRAASを阻害するための好ましい標的ではない。さらにACE 阻害薬で長期間治療することにより、ACE活性はアップレギュレートし、アンジオテンシン Iレベルが高くなりレニン分泌の刺激に寄与する(Burnier & Brunner 2000 The Lancet, 355 637-645)。
【発明の概要】
【0008】
従って本発明の1つの目的は、慢性腎疾患に対するネコの治療又は予防の新しい治療アプローチを提供することから成る。
【0009】
本発明のさらなるより一般的な態様は、全身性疾患; 好ましくはアンジオテンシンIIに関する又はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 (RAAS)に付随する全身性疾患に対するネコの治療又は予防ための新規治療アプローチを提供することから成る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アンジオテンシンII受容体1アンタゴニストによる血圧の上昇の阻害
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施態様を示す前に、本明細書及び添付される請求項において使用されるように、内容が明らかに別に定義しない限り、「a」「an」及び「the」のような単数形には複数も含むことに留意すべきである。従って、例えば、「製剤(a preparation)」にはそのような製剤の複数を含み、「担体(carrier)」は1以上の担体及び当業者に知られた等価物などを表す。別に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、この発明が属する技術分野における当業者に共通して理解されるものと同じ意味である。すべての示される範囲及び値は別に示さない限り又は当業者に別に知られていない限り1〜5%変化し、従って「約」という用語は記載から省略した。本明細書に記載されたものと等価な任意の方法及び材料を本発明の実施及び試験に使用することができるが、好ましい方法、装置及び材料を本明細書に記載する。本明細書中に述べる全ての刊行物を、本発明に関連して使用される、当該刊行物中に記載された物質、添加物、担体及び方法を記載及び開示する目的で、本明細書に参照として組み込む。本明細書のいかなる記載も本発明が先願発明によってそのような公開に先行する権利を与えられないと解釈すべきではない。
【0012】
上記技術的問題の解決は、請求項に特徴付けられる記載及び実施態様によって達成される。
【0013】
これまで、ネコにおけるアンジオテンシンII受容体1アンタゴニスト(サルタン)の使用はどんな適応症に対しても記載されていない。アンジオテンシンII受容体1の遮断は、ACE-阻害薬において知られたアンジオテンシン変換酵素の遮断とは異なる治療概念である。RAAS系の生理学的カスケードにおけるより下流では、受容体の遮断は、より特異的で完全である。本発明は様々な予測できない知見に基づく。
【0014】
驚くべきことに、ネコが薬力学的有効量のサルタンを許容することが明らかとなった。
糖尿病でなく、タンパク尿性腎症(proteinuric nephropathies)を罹患した高血圧のヒトの患者における非盲検の研究において、低用量(80 mg 1日1回)と高用量 (80 mg 1日2回) テルミサルタンの腎臓の予後への影響を比較した。結果により、より効果的なRAAS阻害が1日あたり160mgの高用量で達成されるという概念を支持した。この投与量は約2800 ± 2400 ng/ml (Cmax ± SD)の血清濃度に対応し、イヌやラットのような動物における毒性実験において影響のない投与量を超えた (Investigator broschure 1994, data on file)。約2〜3 mg/kg体重・日の得られた用量がネコにおいて毒性であると予測される。予備的な毒性実験により、驚くべきことに前記用量 (3 mg/kgまで)はネコにおいて良好に許容された。
【0015】
さらに、サルタンはネコにおいても効果的にアンジオテンシンII受容体1を遮断することが明らかとなった。人間と比べて、ネコにおける絶対的な絶対生物学的利用が非常に低く、ネコにおける平均滞在時間と血清半減期がかなり短いことから、この調査結果はなおさら予期していたものではなかった。経口投与による生物学的利用能はヒトと比較して33.6%であると計算された。平均経口 tmax は 0.44 時間であり経口Cmaxは138.1 ng/mlであった。平均経口t1/2は2.17時間であった。平均経口AUC → 〜 は150 (ng x h /ml)、及び経口V/fは20.4 l/kgであると計算された。平均経静脈AUC → 〜は385 (ng x h /ml)であると計算された。平均経静脈 t1/2 2.25時間であり平均経口V/fは8.8 l/kgであった。
新しく得られたこの情報から、サルタン、好ましくは テルミサルタンを全身性疾患、好ましくは例えば慢性腎不全を含む慢性腎不全のような慢性腎疾患を罹患するネコを治療するために使用することができると結論づけることができる。
【0016】
表1: 略語
【0017】
従って、1つの態様において本発明はネコにおける全身性疾患の予防又は治療方法に関し、前記方法は治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)を前記治療が必要なネコに投与することを含む。
【0018】
本明細書で使用される「全身性疾患」という用語は、拡張型心筋症 (DCM)、僧帽弁閉鎖不全 (MI)、肥大型心筋症 (HCM); 及び他の後天的又は先天的心疾患、例えば心肺疾患のような循環器系、全身性高血圧、例えば腎疾患に付随する高血圧、慢性腎不全及び他の血管性疾患、又は真性糖尿病のような代謝性疾患を意味するが、これらに限られない。従って、他の態様において、本発明は治療有効量の前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)をネコに投与することによるネコにおける全身性疾患の予防又は治療方法に関し、全身性疾患は拡張型心筋症(DCM)、僧帽弁閉鎖不全(MI)、肥大型心筋症(HCM)及び他の後天的又は先天的心疾患のような循環器系疾患、全身性高血圧、例えば腎疾患に付随する高血圧、慢性腎不全及び他の血管性疾患、真性糖尿病のような代謝性疾患の群から選択される。
【0019】
ヒトにおいて、アンジオテンシンII受容体1(AT1受容体 アンタゴニスト(サルタン)は糖尿病及び非糖尿病患者において、軽度から中程度の慢性腎不全(CRF)を罹患していても有意にタンパク尿症を減少させることが知られている。さらに、2型糖尿病における腎障害の治療にAT1受容体アンタゴニスを使用することが効果的であるという公開された証拠があるCupisti A, et al., 2003, Biomed Pharmacother; 57 (3-4):169-172; Rysava R, et al., 2005, Press Monit; (10(4):207-213; WO92/10182)。ネコにおいて尿細管間質性腎炎がCRFの所見の主な原因(>70%)であるが、一方ヒト及びイヌにおいてはネコに比べて糸球体腎症がより顕著である。糸球体病変はイヌ及びヒトにおいてより多くみられ、したがって糸球体の選択濾過性の欠損による中程度または顕著なタンパク尿症の臨床所見はイヌ又はヒトにおいてより一般的である。ネコにおいてみられる尿細管間質性腎炎はタンパク尿症をあまり示さない。タンパク尿症は自然発症性の腎疾患を罹患したヒト及びイヌにおける病状の進行の重要な前兆と認識され、タンパク尿症の減少はヒトにおけるACEまたはARBsのいずれかによるRAAS阻害の腎保護効果を示す臨床試験における好転結果に付随する(Karalliede & Viberti, J Human Hypertension 2006)。CRFが尿細管間質性由来であるためにネコにおいてタンパク尿症が少ないという事実により、CRFの進行の遅延における腎保護効果としてのタンパク尿症の減少はこの種においてあまり重要でないと予期されるかもしれない。しかしながら、臨床分野における実験においてタンパク尿症(UPCとして診断された)及びCRFを罹患したネコの生存率間の独立性で有意な相関が報告されている。驚くべきことに、高窒素血症のネコにおいてさえ わずかにタンパク尿症があるのみであり(IRISによれば UPC < 0.25)、この相関は明確である(Syme, Elliot 2006, J Vet Intern Med, 20, 528-535)。
【0020】
従って、好ましい態様において全身性疾患は慢性腎疾患であり、好ましくは例えば表2に進行度II〜IVとして定義されるような慢性腎不全である。
【0021】
慢性腎不全のような腎機能の低下の診断は腎前性及び腎後性の原因を排除し及び標準的な血液マーカー例えば血漿又は血清中の尿素及びクレアチニン値に基づく。これらのパラメーターの異常な濃度は高窒素血症と表現される。低下した腎機能の標準的な尿素マーカーには尿の比重、タンパク尿症及びその他が挙げられる (Polzin DJ, Osborne CA, Ross S, 2005: Chronic Kidney Disease, In: Ettinger SJ, Feldman EC (ed.)Textbook of Veterinary Internal Medicine 6th edition, W.B. Saunders Company, Philadelphia, USA)。国際獣医腎臓病 研究グループ(international renal interest society (IRIS))は高窒素血症に基づいたCRF患者を定義する進行度分類法を提唱している(Polzin DJ, 2006: Treating feline kidney disease: an evidence-based approach, Proceedings of The North American Veterinary Conference)。進行度決定の為の主な分類は、クレアチニン[mg/dl]であり、進行度、尿蛋白:クレアチニン比(UPC)及び血圧[mmHg]から独立した2つのサブカテゴリーで補足される。分類の適用に関してはネコの患者は進行性の腎疾患進行度に従って分類される.
【0022】
表 2.慢性腎疾患の進行度
【0023】
従って、さらなる実施態様において、本発明はネコにおける慢性腎不全の予防又は治療のための方法に関し、前記方法は治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト (サルタン)を前記治療が必要なネコに投与することを含み、前記慢性腎不全は表2に列挙される臨床所見の任意の1つ又はそれらの任意の組み合わせを特徴とする。例えば、本発明は1.6 (mg/dl血液)以上の血漿クレアチンを有する及び/又は0.2以上(サブカテゴリー UPC)のタンパク尿を有するネコの予防又は治療のための方法に関する、前記方法は治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト (サルタン)を前記治療が必要なネコに投与することを含む。
【0024】
アンジオテンシンII受容体 アンタゴニストの網羅的なリストはWO 92/10182の第2〜22頁及びWO 95/26188の第7〜18頁に記載されており、本明細書に参照として組み込む。アンジオテンシンII受容体 アンタゴニストは、特にEP-A-253310、EP-A-323841、EP-A-324377、EP-A-420237、EP-A-443983、EP-A-459136、EP-A-475206、EP-A-502314、EP-A-504888、EP-A-514198、WO 91/14679、WO 93/20816、WO 02/092081、US 4,355,040、US 4,880,804 及びUS 6,028,091に記載されている。高頻度で記載されている形態は、カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン 、ロサルタン、オルメサルタン、タソサルタン、テルミサルタン又はバルサルタンのようなサルタンである。これらの中で本発明において得に好ましいのはイルベサルタン、ロサルタン 及びテルミサルタンである。すべてのこれらのサルタン又はそれらの製剤塩又は多形は当業者に良く知られておりその使用も本発明に含まれる。
【0025】
本発明は全身性疾患、好ましくは慢性腎疾患由来の、例えば慢性腎不全に罹患したネコの予防又は治療のための方法に関し、前記方法は治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)を前記治療が必要なネコに投与することを含み、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)はカンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、タソサルタン、テルミサルタン又はバルサルタンからなる群から選択され、好ましくはイルベサルタン、ロサルタン及びテルミサルタンからなる群から選択される。
【0026】
テルミサルタンは、アンジオテンシンII受容体アンタゴニストであり、高血圧及びEP-A-502314に開示される他の症状を治療するために開発されてきた。その化学名は4'-[2-n-プロピル-4-メチル-6-(1-メチルベンズイミダゾール-2-イル)-ベンズイミダゾール-1-イルメチル]-ビフェニル-2-カルボン酸であり、以下の構造を有する:
【0027】
テルミサルタンはすでにミカルディス(登録商標)(べーリンガーインゲルハイム、ドイツ)の名でヒトの治療/予防を目的として市販されている。WO 00/43370、US 6,358,986及びUS 6,410,742に開示されるような2つの形態で存在する。テルミサルタンのナトリウム塩及びその溶媒和、水和物及び0.5水和物がWO 03/037876に開示されている。
【0028】
さらなる実施態様において、本発明はネコにおける全身性疾患好ましくは慢性腎疾患、例えば慢性腎不全の予防又は治療方法に関し、前記方法は上記のような治療有効量のテルミサルタン又は医薬的に許容可能なそれらの塩、好ましくはテルミサルタンを投与することを含む。より好ましくは前記テルミサルタンはミカルディス(登録商標)である。
【0029】
すでに上で述べたように、テルミサルタンの使用がネコにおけるアンジオテンシンII受容体圧反応を効果的に阻害することが驚くべきことに明らかになった。さらに、ネコの体重あたり0.05 mg未満の投与量のテルミサルタンにより、試験した大半のネコにおいて約75%の血液反応の阻害を導くことが驚くべきことに明らかになった。さらに、テルミサルタンの投与前後においてアンジオテンシンIIが弛緩期血圧の上昇を引き起こすことを評価するために実験用のネコにおける研究が確立された。この試験は、ネコにおけるサルタン、特にテルミサルタンの作用の持続時間ならびに作用強度を評価するために確立された。最後の経口投与の約24時間後、アンジオテンシンIIの経静脈用量を増加させることに対する弛緩期血圧反応は、テルミサルタンの標的用量(target dose)をプラセボと比較したときに有意に減少した。したがって、標的用量は短い消失半減期及び生物学的利用能にも関わらず、ネコにおいて1日1回投与することで意図する薬力学活性及び持続時間を可能とすると結論付けることができる。
【0030】
従って他の態様において、本発明はネコにおける全身性疾患、好ましくは慢性腎疾患、例えば慢性腎不全の予防又は治療方法に関し、前記方法は治療有効量のアンジオテンシンII受容体1 (AT-1) アンタゴニスト (サルタン)、好ましくは テルミサルタン又は医薬的に許容可能なそれらの塩を前記治療が必要なネコに投与することを含み、前記アンジオテンシンII受容体1 (AT-1) アンタゴニストの前記治療有効量は約0.01から約10 mg/kg体重である。好ましくは、治療有効量の前記アンジオテンシンII受容体1 (AT-1) アンタゴニストは約0.05〜約8 mg/kg体重であり、さらにより好ましくは 約0.1〜約5 mg/kg体重であり、さらにより好ましくは約0.2〜約4 mg/kg体重、 さらにより好ましくは約0.3〜約3 mg/kg体重であり、さらにより好ましくは約0.4〜約2.5 mg/kg体重であり、さらにより好ましくは約0.5〜約2 mg/kg体重であり、最も好ましくは約0.75〜約1.5 mg/kg体重である。従って、前記アンジオテンシンII受容体1 (AT-1) アンタゴニストの前記治療有効量は例えば 0.01、0.02、0.03、・・・ 0.08、0.09、0.1等; 0.11、0.12、0.13、・・・ 0.18、0.19、0.2等; 0.21、0.22、0.23、・・・ 0.28、0.29、0.3等・・・ ; 0.81、0.82、0.83、・・・ 0.88、0.89、0.9等; 0.91、0.92、0.93、・・・ 0.98、0.99、1.0等; 1.01、1.02、1.03、・・・ 1.08、1.09、1.1等; ・・・ 1.2、1.3、・・・ 1.8、1.9、2.0等; 2.1、2.2、2.3、・・・ 2.8、2.9、3.0等; ・・・. ; 8.1、8.2、8.3、・・・ 8.8、8.9、9.0等; 9.1、9.2、9.3、・・・ 9.8、9.9、10 mg/kg体重である。アンジオテンシンII受容体1 (AT-1) アンタゴニスト、好ましくはテルミサルタンは上記1日用量で1日に1回、2回又は3回投与されても良い。
【0031】
アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストが非経口的経路によって投与される場合は、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト、好ましくはテルミサルタンは約0.01〜約4mg/kg体重の用量で投与される。好ましくは、アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストの前記治療有効量のは約0.05〜約3mg/kg体重、さらにより好ましくは約0.1〜約2.5mg/kg体重、さらにより好ましくは約0.15〜約2.0mg/kg体重、さらにより好ましくは約0.2〜約1.5mg/kg体重、最も好ましくは約0.25から約1.25mg/kg体重である。従って、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストの前記治療有効量は、例えば0.01、0.02、0.03、・・・0.08、0.09、0.1等;0.11、0.12、0.13、・・・0.18、0.19、0.2、等;0.21、0.22、0.23、・・・0.28、0.29、0.3等・・・;0.81、0.82、0.83、・・・0.88、0.89、0.9等;0.91、0.92、0.93、・・・0.98、0.99、1.0等;1.01、1.02、1.03、・・・1.08、1.09、1.1等;・・・1.1、1.2、1.3、・・・1.8、1.9、2.0等;2.1、2.2、2.3、・・・2.8、2.9、3.0等;3.1、3.2、3.3、・・・3.8、3.9、4 mg/kg体重である。アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト、好ましくはテルミサルタンは、上記1日用量で1日に1回、2回又は3回投与されても良い。
【0032】
アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト、好ましくはテルミサルタンが経口、経腸、経鼻又は吸入経路により投与される場合は、投与量は約0.03〜約10mg/kg体重であることが好ましい。好ましくは、前記治療有効量の前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストが約0.10〜約8mg/kg体重、さらにより好ましくは約0.20〜約7.5 mg/kg体重、さらにより好ましくは約0.25〜約7.0 mg/kg、体重さらにより好ましくは約0.25〜約6.0 mg/kg体重、最も好ましくは約0.25〜約5 mg/kg体重である。したがって、前記治療有効量の前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストは例えば0.03、0.04、0.05、・・・0.08、0.09、0.1等;0.11、0.12、0.13、・・・0.18、0.19、0.2等;0.21、0.22、0.23、・・・0.28、0.29、0.3等・・・;0.81、0.82、0.83、・・・0.88、0.89、0.9等;0.91、0.92、0.93、・・・0.98、0.99、1.0等;1.01、1.02、1.03、・・・1.08、1.09、1.1等;・・・1.1、1.2、1.3、・・・1.8、1.9、2.0等;2.1、2.2、2.3、・・・2.8、2.9、3.0等;・・・.;8.1、8.2、8.3、・・・8.8、8.9、9.0等;9.1、9.2、9.3、・・・9.8、9.9、10mg/kg体重である。テルミサルタンは、1日1回、2回又は3回、上記の1日用量で投与されてもよい。
【0033】
本発明の他の態様において、本発明はネコにおける全身性疾患の予防又は治療方法、好ましくは慢性腎疾患例えば慢性腎不全に関し、式中方法は治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)、好ましくはテルミサルタン又は医薬的に許容可能なそれらの塩を前記治療が必要なネコに投与することを含み、治療有効量の前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストは治療有効量で投与され、結果として累積的経静脈用量は少なくとも0.025mg/kg体重(bw)となり、好ましくは、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)、好ましくはテルミサルタンは少なくとも0.05mg/kg体重、より好ましくは0.1mg/kg体重、さらにより好ましくは0.15mg/kg体重さらにより好ましくは0.2mg/kg体重、さらにより好ましくは0.25mg/kg体重、さらにより好ましくは0.40mg/kg体重、さらにより好ましくは0.5mg/kg体重、さらにより好ましくは0.75mg/kg体重、さらにより好ましくは1mg/kg体重の累積的経静脈用量で投与される。約1mg/kg体重の累積的経静脈用量の上限は十分許容可能であり、しかしながら、5、4、3及び2mg/kg体重までの累積的経静脈用量はまた本発明の範囲内であり、任意のさらに高い非毒性の累積的な経静脈用量の前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)も同様である。当業者は、本明細書における教唆の観点から、非毒性の累積経静脈用量の上限を標準的な方法で評価することができる。
【0034】
任意に、アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)、好ましくはテルミサルタンは他の薬物と組み合わせて投与することができる。そのような他の薬物は、例えばCa-チャンネル拮抗薬(例えば、アムロジピン)、β-拮抗薬(例えばアテノロール、カルベジロール)、強心性Ca感受性増強薬(例えば、ピモベンダン、レボシメンダン)、選択的If-電流(If-current)阻害薬(すなわち、シロブラジン(Cilobradine)、イバブラジン)、ACE阻害薬(例えば、ラミプリル、ベナゼプリル、エナラプリル);抗肥満薬(アンフェタミン誘導体、シブトラミン、オルリスタット、リモナバンのような)等である。従って他の態様において本発明はネコにおける全身性疾患、好ましくは慢性腎疾患、例えば慢性腎不全の予防又は治療方法に関し、前記方法は治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)、好ましくはテルミサルタン又は医薬的に許容可能なそれらの塩を他の有効成分と共に前記治療が必要なネコに投与することを含み、前記さらなる有効成分は、Ca-チャネル拮抗薬(例えば、アムロジピン)、β-拮抗薬(例えば、アテノロール、カルベジロール)、強心性-Ca-感受性増強薬(例えば、ピモベンダン、レボシメンダン)、選択的If-電流阻害剤(すなわちシロブラジン、イバブラジン)、ACE阻害薬(例えば、ラミプリル、ベナゼプリル、エナラプリル);抗肥満薬(例えばアンフェタミン誘導体、シブトラミン、オルリスタット、リモナバン)等である。
【0035】
テルミサルタン及び他の有効成分は多様な剤形で経口的に投与することができ、すなわち多様な生理学的に許容可能な不活性担体と共に錠剤、カプセル、ドロップ(lozenges)、トローチ、ハードキャンディ(hard candies)、散剤、スプレー、水系懸濁液、エリキシル、シロップ等の形態で処方されても良い。前記担体 には固体の希釈剤又は充填材、滅菌水系媒体及び多様な非-毒性有機溶媒が挙げられる。さらに、前記経口医薬製剤は、目的の為に通常採用される多様な試薬を用いて適切に甘くし及び/又は 香り付けされる。一般的に、本発明の化合物は前記経口剤形中に組成物全体の約0.5〜約90質量%であって、所望の単位投与量を提供するために十分な量で存在する。本発明の化合物の他の適切な剤形には当業者に良く知られた除放性製剤及び装置が含まれる。
【0036】
経口投与用の錠剤は、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムのような賦形剤はデンプン及び好ましくは ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸及び特定の複合ケイ酸塩のような崩壊剤、ポリビニルピロリドン、ショ糖、ゼラチン及びアラビアゴムの様な結合剤とともに採用してもよい。ラクトース又は 乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコールを含む軟及び硬-充填ゼラチンカプセルにおいてさらにステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルクの様な滑沢剤又は同様の組成物が充填剤として採用されてもよい。経口投与用の水系懸濁液及び/又はエリキシルはそれらの中の有効成分を多様な甘味料又は香料、着色料又は染料及びもし所望であれば、乳化剤及び/又は 水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン及びそれらの組み合わせ等と併せても良い。
【0037】
非経口的な投与の目的で化合物のゴマ油又はピーナッツ油又はプロピレングリコール水溶液ならびに対応する医薬的に許容可能な塩の水溶液が採用される。前汽水溶液は必要に応じて適切に緩衝されているべきであり、液体希釈剤は十分な生理食塩水又はグルコースで等張化された。これらの特定の水溶液は特に経静脈、筋肉内、皮下注射の目的に適している。これに関連して、採用された滅菌水溶性媒体は当業者に知られた標準的な方法により容易に得られた。例えば蒸留水を通常液体希釈剤として使用し、最終的な調製物は焼結したガラスフィルター(sintered glass filter)又は珪藻土又は素焼きの磁器(unglazed porcelain)フィルターのような適切な微生物フィルターを通した。このタイプの好ましいフィルターとしては、吸引ポンプの補助により滅菌容器内に溶液が吸引されるBerkefeld、Chamberland及びAsbestos Disk-Metal Seitz フィルターが挙げられる。最終製品が無菌状態で得ることを確実にするために、これらの注射可能な溶液の調製の間、必要な工程をとるべきである。
【0038】
経皮投与の目的で、特定の化合物の剤形又は化合物としては、例として、液剤、ローション、軟膏、クリーム、ゲル、坐薬、速度制限除放剤(rate-limiting sustained release formulations)及びそれらのための装置が挙げられる。前記剤形は特定の化合物又は複数の化合物からなり、エタノール、水、浸透促進剤、ゲル形成材料、鉱物油、乳化剤、ベンジルアルコール等のような不活性担体を含んでも良い。
【0039】
これらの予備処方された有効成分の組み合わせは一般的に、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、サッカロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ラクトース、クロスカルメロースナトリウム塩 (セルロース カルボキシメチルエーテルナトリウム塩、架橋)、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース(低置換度)、トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと他のビニル誘導体とのコポリマー (コポピドン)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース又はデンプン、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸ビニル、水、水/エタノール、水/グリセロール、水/ソルビトール、水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、セチルステアリルアルコール、カルボキシ-メチルセルロース または硬化油のような脂肪物質又はそれらの適切な混合物のような1以上の製剤補助剤(formulation adjuvants)と組み合わせ、素錠又は被覆錠、カプセル、散剤、懸濁液又は坐剤のような従来のガレヌス(galenic)製剤にする。
【0040】
錠剤は例えば有効成分又は複数の有効成分を1以上の賦形剤と物質を混合し、圧縮することにより得る。錠剤はいくつかの層から構成されても良い。賦形剤の例としては、以下のものが挙げられる。
・マンニトール、ソルビトール、キシリトール、サッカロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム及びラクトースのような非活性希釈剤;
・クロスカルメロースナトリウム塩(セルロースカルボキシメチルエーテルナトリウム塩、架橋)、クロスポピドン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース (低置換)及びトウモロコシデンプンのような崩壊剤;
・ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと他のビニル誘導体(コポピドン)のコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース又はデンプンのような結合剤;
・ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム及び タルクのような潤滑剤;
・ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース及び酢酸ビニルのような除放化のための試薬; 及び
・酸化鉄顔料(coloured iron oxides)のような医薬的に許容可能な色素
【0041】
さらにテルミサルタンを、ネコにおける全身性疾患、好ましくは慢性腎疾患、例えば慢性腎不全の予防又は治療に使用する他の薬物と組み合わせて使用する場合、本発明の医薬組成物は
(a)治療有効量のテルミサルタン又は生理学的に許容可能なそれらの塩及び1以上の生理学的に許容可能な希釈剤及び/又は担体を含む医薬組成物を含む第1格納;及び
(b)全身性疾患、好ましくは慢性腎不全の予防又は治療に使用される他の薬物又は生理学的に許容可能なそれらの塩及び1以上の生理学的に許容可能な希釈剤及び/又は 担体を含む第2格納
を含むキットオブパーツ(kit of parts)でも良い。
好ましい キットオブパーツは1以上の Ca-チャンネル拮抗薬 (例えばアムロジピン)、β-拮抗薬 (例えばアテノロール、カルベジロール)、強心性Ca感受性増強薬(例えばピモベンダン、レボシメンダン)、選択的If-電流阻害薬(すなわちシロブラジン、イバブラジン)、ACE阻害薬 (例えばラミプリル、ベナゼプリル、エナラプリル); 抗肥満薬(アンフェタミン誘導体、シブトラミン、オルリスタット、リモナバンのような)等を第2格納に含む。
【0042】
さらなる態様において、本発明はアンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニスト(サルタン)、好ましくはテルミサルタンの治療有効量の前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)アンタゴニストを含む、ネコにおける全身性疾患の治療の為の医薬組成物の製造の為の使用にも関する。
【0043】
好ましくは、全身性疾患が拡張型心筋症(DCM)、僧帽弁閉鎖不全(MI)、肥大型心筋症(HCM)及び他の後天的又は先天的心疾患のような循環器系疾患、全身性高血圧、例えば腎疾患に付随する高血圧、慢性腎疾患及び他の血管性疾患、真性糖尿病のような代謝性疾患の群から選択される。上述の通り、慢性腎疾患、好ましくは慢性腎不全が最も好ましい。
【0044】
サルタンは上記例示的に示されたものであることが好ましい。最も好ましくはテルミサルタン又はミカルディス(登録商標)のような任意の医薬的に許容可能なそれらの塩である。本発明において使用することができる好ましい投与量は上記の通りである。好ましい投与経路は経口、バッカル、非経口、経鼻、経腸または局所投与であるが経口投与が最も好ましい。非経口投与としては皮下、経静脈、筋内、胸骨内(intrasternal)注射、および注入技術が挙げられる。
【0045】
実施例
以下の実施例はさらに本発明を例証するが、本明細書に開示された発明の範囲の制限と解釈すべきではない。
【0046】
実施例 1:
この探索的研究の目的は、雄及び雌ネコにおいて、単回経口及び軽静脈投与後のテルミサルタンの血清中の薬物動態学的動態及び絶対的生物学的有用性を検討することである。
【0047】
本研究では体重が2.6〜4.2 kgの4匹の健康な雄及び雌の国産短毛種ネコ (HsdCpb: CADS) を使用した。動物はランダムに1群あたり2匹になるよう2群に分配した。本研究は2×2交差試験 (すなわち、2時点、1及び15日)として設計し、そこでは検体であるテルミサルタン を1 mg/kg体重の用量で単回、経口又は経静脈投与した。
【0048】
血液サンプルは0時間(すなわち治療前)、治療後5 (i. v.注射後のみ)、15、30及び60分ならびに2、4、8、24、72及び96時間に採取した。各時点において臨床観察も行った。血漿サンプルは分析ラボに送り、そこで評価方法を用いて分析した。各動物における計測した血漿濃度について様々な薬物動態学的計算を行った。
【0049】
本研究の結果は以下のようにまとめられる:
研究全体を通して特定の臨床徴候は確認されなかった。
テルミサルタンの薬物動態学的分析は以下のような結果を示した:
【0050】
絶対的生物学的利用能の評価ポイントはそれぞれAUC 0→tで0.316、AUC 0→∞で0.336であり、それぞれ0.086〜1.165及び0.090〜1.245、95%信頼区間であった。各データにより動物No.101における生物学的利用能(すなわちAUC 0→∞で0.116)は他の動物(すなわち0.387〜0.582)と比較して明らかに低かった。
【0051】
検体であるテルミサルタンは1 mg/kg体重の用量でネコに単回経口投与又は経静脈投与した後でも良好な耐性を示した。
【0052】
平均血清中濃度はテルミサルタンの経口投与後15〜30分まで増加し、その後急速に減少した。24時間後、定量可能な血清中濃度は経口及び経静脈の両方の経路で観察されなかった。
【0053】
経口投与後の絶対的生物学的利用能は33%であることが明らかとなった。
【0054】
実施例 2:
本研究の目的はテルミサルタンの経静脈投与量を増加させることによる、アンジオテンシンII投与後の麻酔したネコの血圧反応における効果を検討することである。本研究のもともと意図する終点は90%以上のアンジオテンシン血圧反応を阻害するテルミサルタンの投与量を見つけることであった。
【0055】
本研究では4匹の臨床的に健康な、体重2.5〜3.5 kgの成体雄及び雌の国産短毛種ネコ (HsdCpb: CADS) を使用した。動物はペントバルビタールナトリウムで麻酔し、麻酔は希釈した麻酔剤を継続的に注入することにより維持した。頸動脈にカテーテルを挿入し圧力トランスデューサーに接続して動脈圧を調整した。別のカテーテルをアンジオテンシンII (A2)又は検体であるテルミサルタンの投与のために大腿静脈に設置した。頸動脈の収縮期及び弛緩期血圧 [mmHg]は、不連続な間隔をおいて以下のように記録し分析した。
【0056】
最初に弛緩期血圧を5分ごとに6回記録した。これらの6つの測定値の平均をベースライン血圧と設定した。次にA2を2回0.1μg/kgの投与量で10分間隔ボーラス注入で投与した。ベースライン血圧に対する第2のA2-ボーラス時に得た弛緩期血圧の最大増加量をコントロールアンジオテンシンII-血圧反応(すなわち基準値)とした。
【0057】
基準値を得た5分後、最初のテルミサルタンの注射を行った。弛緩期血圧を記録した30分後、直後にA2を0.1μg/kgの濃度でボーラス投与し、弛緩期血圧における最大の増加を得た。この方法は従って実験の意図する終点(すなわち、A2-圧応答≦コントロールの10%、A2-圧応答≧90%阻害)に到達するまで繰り返した。実験の工程中、個々の時点においてテルミサルタンの投与量は効果を増加させるために増加させなければならなかった。さらに、90%阻害のエンドポイントは上記数回の連続した工程の後でさえも4匹中3匹の動物で達成できなかったのでこれらの各動物についてそれまでに実験を終了した。実験の終了時に麻酔された動物は過量のペントバルビタールナトリウムで安楽死させた。
【0058】
本研究の結果は以下のように要約される(図1参照):
個々の動物の弛緩期血圧平均ベースラインは82〜99mmHgであり、コントロールアンジオテンシンII-血圧反応は34〜63mmHgであった。
【0059】
テルミサルタンを用いた治療後、反応パターンは3匹の動物において同様であった(すなわち、動物No.102、151、152)。これらの動物において、コントロールのアンジオテンシンII-血圧反応に対する血圧上昇の最大阻害率はおおよそ80‐95%であり、対照的に動物No.101においては50%の阻害率であった。
【0060】
しかしながら検体の最終的な累積用量はこの動物において0.1mg/kgに過ぎず、一方この用量は他の動物において0.34〜0.4mg/kgの範囲であった。
【0061】
動物No.101において、最大効果である50% 阻害は累積投与量0.05mg/kgで達成された。動物No.102及び152においては73%阻害がすでにそれぞれ0.04及び0.02mg/kgの初回投与量で達成された。動物No.151において同じ73%阻害が累積投与量0.04mg/kgで達成された。4匹全ての動物においてさらに投与量を増加しても、投与量の増加に適正に相関した顕著なより高い効果は得られなかった。
【0062】
結論として、検体であるテルミサルタンの静脈内投与量を徐々に増加させることにより、麻酔したネコにおけるアンジオテンシンIIの投与後の弛緩期血圧上昇の抑制を導いた。
【0063】
0.04mg/kgの累積的用量において、テルミサルタンは4匹のうち3匹の動物において73%の阻害をしめすことが明らかになった。1匹の動物において50%の最大阻害が0.05mg/kgの累積濃度において観察された。すべての4匹の動物において、更なる用量増加は適切な用量反応関係を示さなかった。
【0064】
実施例 3:
この盲検の、制御された、無作為化された探索性の研究の目的は4週間にわたる頻回経口投与後の雄性及び雌性ネコにおけるテルミサルタンの安全性を評価することであった。
【0065】
本研究においては12匹の臨床的に健康な、体重が2.5-5.1kgであるおおよそ1歳の雄性及び雌性の国産短毛種(HsdCpb: CADS)のネコを使用した。動物を1群あたり4匹、3つの群に配分した。すべての動物は検体であるテルミサルタン又はコントロール(すなわちプラセボ)1日1回、0〜27日投与した。検体/コントロール を0.0 (プラセボ; I群)、1(II群)及び3(III群) mg テルミサルタン/kg体重の3つの異なる投与量で経口投与した。盲検を達成する為に検体/コントロール の瓶は動物No.意外は同じに見えるようにした。
血液学及び臨床化学の為の血液サンプルは動物から1日(すなわち最初の処理前に)及びまた3、7、14、28日に採取した。体重は毎日測定し心電図検査の記録は1、14、21及び28日に行った。直腸温度及び呼吸速度の測定を含む詳細な生理学的検討は-1、7、14、22及び28に行った。収縮期血圧(1日1回)及び心拍数(1日2回)は週に5日処理前からはじめ検死まで測定した。投与された検体の嗜好性は、処理の間中様々な時点で採点法を使用することで評価した。研究の28日目、すべての動物について検死を行い、胃及び腎臓を病理組織学的に検討した。関連性のあるパラメーターは適切な統計学的方法を用いて分析した。
【0066】
本研究の結果は以下のようにまとめられる:
検体において明確に治療に起因するいかなる臨床所見も全体の研究期間を通じて、観測されなかった。
【0067】
嗜好性の評価の結果、有意な差は認められなかったが、検体製剤について弱冠嗜好性が損なわれることが示された。しかしながら、嗜好性は主に治療群II及びIII両方の動物において良好又は許容可能である。
評価のすべての時点において、身体検査及びECG検査によっては治療-関連所見を得なかった。
【0068】
実験の経過中、体重、腸温度、呼吸及び心拍数において有意な差は見られなかった。
収縮期血圧は治療群II及びIIIにおいてコントロール群Iと比較して有意に低かった。さらに、統計学に五分五分な(borderline significance)相違は治療前の時間を含み観察された。ベースラインからの変化は治療群とコントロール間で有意な差は見られなかった。しかしながら、平均値の時間経過による推移はI群と比較してII及びIII群において、20日目から前において収縮期血圧が若干減少する傾向を示唆した。
【0069】
研究期間を通じて各日における白血球数の相違を含む血液学的及び臨床化学パラメーターにおいて治療群及び対応するコントロールの間で、治療に関連する相違は無かった。尿検査も治療効果の証拠をもたらさなかった。
【0070】
どの動物も検死の間、いかなる特異的所見も示さなかった。
【0071】
病理組織診断によれば、胃及び腎臓にわずかな所見が明らかになったが治療に付随すると考えられる病理組織学的所見は存在しなかった。
【0072】
この研究の探索的性質により、治療群あたりの動物の数は比較的少ない。この事実を考慮して本発明の結果は以下のような結論を導き出す。
【0073】
テルミサルタンを含む検体製剤のわずかに損なわれた嗜好性が確認された。
【0074】
平均値の時間経過により、試験期間の終わりに向かってテルミサルタンで処理した動物の収縮期血圧が若干低下する傾向にあることが示唆された。
【0075】
検体であるテルミサルタンは1及び3 mg/kg体重の用量で4週間にわたり繰り返しネコに経口投与した後でも良好に許容された。
図1