(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337173
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】焼結軸受及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/12 20060101AFI20180528BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20180528BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20180528BHJP
C22C 38/16 20060101ALN20180528BHJP
B22F 7/00 20060101ALN20180528BHJP
B22F 7/04 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
F16C33/12 B
F16C17/02 Z
!C22C38/00 304
!C22C38/16
!B22F7/00 E
!B22F7/04 H
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-74338(P2017-74338)
(22)【出願日】2017年4月4日
(62)【分割の表示】特願2013-45117(P2013-45117)の分割
【原出願日】2013年3月7日
(65)【公開番号】特開2017-172803(P2017-172803A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2017年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-50896(P2012-50896)
(32)【優先日】2012年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】毛利 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】吉塚 則義
(72)【発明者】
【氏名】須貝 洋介
(72)【発明者】
【氏名】里路 文規
【審査官】
渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/112309(WO,A1)
【文献】
特開2006−52757(JP,A)
【文献】
特開2012−41639(JP,A)
【文献】
特開2001−131611(JP,A)
【文献】
米国特許第6086257(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00− 17/26
F16C 33/00− 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側層と、前記内側層の外径側に設けられた外側層とを一体成形してなり、前記内側層の内周面又は前記外側層の外周面の何れか一方に軸受面を有する焼結軸受であって、
前記内側層及び前記外側層のうち、前記軸受面を有する層が、Feを主成分としてC及び焼入れ性向上元素を含む焼結金属からなり、前記軸受面を有さない層が、Feを主成分としてCを含み焼入れ性向上元素を含まない焼結金属からなる焼結軸受。
【請求項2】
前記焼入れ性向上元素は、Ni,Mo,Mn,及びCrの中から選択される少なくとも1種である請求項1記載の焼結軸受。
【請求項3】
前記軸受面が、前記内側層の内周面に形成された請求項1又は2に記載の焼結軸受。
【請求項4】
前記軸受面を有する層が、Fe,Cu,C,Ni,及びMoを含み残部が不可避不純物からなる焼結金属で形成され、前記軸受面を有さない層が、Fe,Cu,及びCを含み残部が不可避不純物からなる焼結金属で形成された請求項1〜3の何れかに記載の焼結軸受。
【請求項5】
建設機械のアームの関節部に使用される請求項1〜4の何れかに記載の焼結軸受。
【請求項6】
キャビティに、Feを主成分としてC及び焼入れ性向上元素を含む混合金属粉末と、Feを主成分としてCを含み焼入れ性向上元素を含まない混合金属粉末とを二層状態で満たし、これを圧縮して複層の圧粉体を成形する工程と、前記圧粉体を所定の焼結温度で焼結して、内側層及びその外径側に設けられた外側層を一体に備えた焼結体を得る工程とを有し、
前記焼結体の内側層及び外側層のうち、前記焼入れ性向上元素を含む層に軸受面を設ける焼結軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば建設機械のアームの関節部に用いられる軸受は、軸受面に非常に大きな面圧が加わるため、優れた耐摩耗性が要求される。この種の軸受として、例えば鋳造合金を切削加工したものや、摺動面に黒鉛片を斑点状に埋め込んだものがあるが、何れも製造コストが高いことが問題となっている。そこで、これらの代わりに、成形性に優れた焼結金属からなる焼結軸受が使用されている。例えば特許文献1には、建設機械用の軸受として、マルテンサイト組織を含んだ鉄炭素系合金に銅を分散させた焼結金属からなる焼結軸受が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−222133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような焼結軸受は、耐摩耗性を高めるために、軸受面の高硬度化が求められている。特に、軸や軸受は定期的に交換する必要があるが、建設機械の設計上、軸受よりも軸の方が交換しやすい場合には、軸受面の硬度を軸の硬度と同等若しくは高くし、摩耗寿命による軸受の交換頻度を軸よりも低く設計する場合がある。このような場合、軸受面の硬度を特に高くする必要がある。
【0005】
焼結軸受の軸受面の硬度を高めるために、焼結金属の材料に高硬度化元素(例えば、Ni,Mo,Mn,Crなど)を配合する場合がある。しかし、これらの高硬度化元素は高価であるため、焼結軸受全体を高硬度化元素を含む焼結金属で形成するとコスト高を招く。また、軸受の外径面は他部材に取り付けられる取り付け面となるため所定の寸法に仕上げる必要があるが、焼結軸受全体を高硬度材で形成すると外周面の硬度も高くなるため、外周面の加工性が悪くなり、外周面を所望の寸法精度に仕上げることができない恐れがある。
【0006】
上記のような事情は、内周面に軸受面が形成された場合に限らず、外周面に軸受面が形成された場合でも同様である。尚、「軸受面」とは、2部材間の相対回転を支持するために摺動する面のことを言い、軸側又は軸受側の何れに形成されているかは問わない。
【0007】
本発明は、高硬度の軸受面を有し、低コストに製造することができ、且つ、寸法精度の高い焼結軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、内側層と、前記内側層の外径側に設けられた外側層とを一体成形してなり、前記内側層の内周面又は前記外側層の外周面の何れか一方に軸受面を有する焼結軸受であって、前記内側層及び前記外側層のうち、前記軸受面を有する層がFe及び高硬度化元素を含む焼結金属からなり、前記軸受面を有さない層がFeを含み高硬度化元素を含まない焼結金属からなり、前記内側層と前記外側層との界面に前記高硬度化元素の濃度勾配が生じている焼結軸受を提供する。
【0009】
尚、高硬度化元素とは、表面の硬度向上に寄与する元素であり、例えば、高硬度化元素として、Ni,Mo,Mn,及びCrの中から選択される少なくとも1種を使用することができる。具体的には、例えば内側層の内周面に軸受面が形成される場合、Fe,Cu,C,Ni,及びMoを含み残部が不可避不純物からなる焼結金属で内側層を形成し、Fe,Cu,及びCを含み残部が不可避不純物からなる焼結金属で外側層を形成することができる。
【0010】
このように、高硬度化元素を含む焼結金属で軸受面を有する層を形成することで、硬度の高い軸受面を得ることができる。また、高硬度化元素を含まない焼結金属で軸受面を有さない層を形成することで、高硬度化元素の使用量が抑えられるため、材料コストを低減できる。また、一方の層(軸受面を有さない層)に高硬度化元素を配合しないことで、この層が他方の層(軸受面を有する層)よりも軟らかくなって加工性が高められるため、焼結軸受の外径面の寸法精度を高めることができる。
【0011】
また、上記の焼結軸受では、内側層と外側層との界面(境界)に高硬度化元素の濃度勾配が生じている。すなわち、内側層と外側層との界面付近に高硬度化元素を含む硬度の高い領域が設けられる。これにより、内側層と外側層とが強固に結合され、焼結軸受の強度が高められる。
【0012】
内側層及び外側層の少なくとも一方にCuを配合すれば、Cuがバインダーの機能を果たして内側層と外側層とを強固に結合することができる。このとき、軸受面を有する層のCuは、軸受面の摺動性向上に寄与するためある程度の配合量が必要となるが、軸受面を有さない層のCuはバインダーとしての機能を有すれば十分である。従って、軸受面を有さない層におけるCuの配合割合は、軸受面を有する層におけるCuの配合割合より低くてよく、これによりCuの使用量が低減されて材料コストをさらに低減できる。
【0013】
以上のような焼結軸受は、建設機械のアームの関節部に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、高硬度の軸受面を有し、低コストに製造可能で、且つ、寸法精度の高い焼結軸受を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る焼結軸受の断面図である。
【
図3】高硬度化元素の濃度勾配を示すグラフである。
【
図4】上記焼結軸受の製造工程の圧縮成形工程において、外側層混合金属粉末を充填した状態を示す断面図である。
【
図5】上記圧縮成形工程において、内側層混合金属粉末を充填した状態を示す断面図である。
【
図6】上記圧縮成形工程において、仕切板を下降させた状態を示す断面図である。
【
図7】上記圧縮成形工程において、余分な金属粉末を除去した状態を示す断面図である。
【
図8】上記圧縮成形工程において、上パンチで混合金属粉末を圧縮した状態を示す断面図である。
【
図9】上記圧縮成形工程において、圧粉体を金型から取り出した状態を示す断面図である。
【
図10】圧縮成形工程以降の製造工程を示す図である。
【
図11】他の実施形態に係る焼結軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る焼結軸受1は、
図1及び
図2に示すように円筒状の焼結金属からなり、例えば建設機械のアームの関節部に用いられる。焼結軸受1は、内側層2と外側層3とを一体に有する。図示例では、焼結軸受1が内側層2及び外側層3のみからなり、何れの層も筒状、特に円筒状を成している。焼結軸受1の内周面は、平滑な円筒面とされ、内周に挿入される軸4を相対回転自在に摺動支持する軸受面Aを有する。焼結軸受1の外周面は、平滑な円筒面とされ、他部材に取り付けられる取り付け面Bを有する。焼結軸受1の軸方向両端面も平坦面とされる。焼結軸受1は、例えば内径が直径30〜100mm、半径方向の肉厚が5〜50mmであり、本実施形態では内径が35mm、外径が45mmである。焼結軸受1の内部気孔には潤滑剤(油や液状グリース等)が含浸され、軸4と摺接することにより、この潤滑剤が焼結軸受1の軸受面Aの表面開孔から滲み出して、軸受面Aと軸4との摺動部に供給される。
【0018】
内側層2は、Fe及び高硬度化元素を含む焼結金属からなる。高硬度化元素としては、例えばNi,Mo,Mn,及びCrの中から選択される少なくとも1種を使用できる。本実施形態の内側層2は、Fe,Cu,C,及び高硬度化元素(例えばNi及びMo)を含み、残部を不可避不純物とした焼結金属からなる。具体的には、例えば、Cuを15〜20wt%、Cを0.3〜0.8wt%、Niを1.5〜3.5wt%、Moを0.5〜1.5wt%含み、残部をFe及び不可避不純物とした焼結金属で内側層2が形成される。内側層2の内周面2aには軸受面Aが設けられ、図示例では内側層2の内周面2a全面が軸受面Aとして機能する。内側層2の半径方向の肉厚は、焼結軸受1の半径方向の肉厚の5〜20%程度(例えば0.3〜2mm)とされ、本実施形態では1mm程度とされる。内側層2が薄すぎると、成形時における原料粉末の充填性が悪化すると共に許容摩耗限界が低くなり、内側層2が厚すぎると、高硬度化元素の使用量が増えてコスト高を招くためである。
【0019】
このように、内側層2の焼結金属が高硬度化元素を含むことで、高硬度で耐摩耗性に優れた軸受面Aを得ることができる。また、内側層2がFeを主成分としCを含むことで、引張強さや硬度を高めることができる。また、内側層2がCuを含むことで、軸受面Aの摺動性が高められ、軸4との摩擦を低減することができる。また、上記のように、高硬度化元素としてNi,Moなどの焼き入れ性向上元素を選定すれば、マルテンサイト変態の開始温度を下げる効果が得られるため、後述する焼結工程における連続焼結炉の冷却ゾーンでのマルテンサイト変態による高硬度化が可能となる。
【0020】
外側層3は、Feを含み、高硬度化元素を含まない(例えば、Ni,Mo,Mn,及びCrの何れも含まない)焼結金属からなる。本実施形態の外側層3は、Fe,Cu,Cを含み、残部を不可避不純物とした焼結金属からなる。具体的には、例えば、Cuを2〜5wt%、Cを0.2〜0.8wt%含み、残部をFe及び不可避不純物とした焼結金属で外側層3が形成される。外側層3の外周面3aには他部材への取り付け面Bが設けられ、図示例では外側層3の外周面3aの全面が取り付け面Bとして機能する。
【0021】
このように、外側層3の焼結金属が高硬度化元素を含まないことで、高価な高硬度化元素の使用量を抑えて材料コストを低減することができる。また、外側層3の焼結金属が高硬度化元素を含まないことで、外側層3の硬度を内側層2より低くすることができるため、外側層3の加工性が向上し、取り付け面Bの寸法精度を高めることができる。
【0022】
また、内側層2及び外側層3の少なくとも一方(本実施形態では双方)にCuが含まれることで、Cuが溶融して結合することによりバインダーの機能を果たし、内側層2と外側層3との結合力が高められる。このような機能を果たすために、外側層3にはCuを2wt%以上含むことが好ましい。また、Cuの使用量を抑えて低コスト化を図るために、外側層3におけるCuの配合割合は内側層2におけるCuの配合割合よりも低くすることが好ましく、具体的には5wt%以下とすることが好ましい。
【0023】
内側層2と外側層3との界面には、高硬度化元素の濃度勾配が生じている。この濃度勾配は、内側層2と外側層3との界面の軸方向全域にわたって生じている。本実施形態では、
図3に概念的に示すように、内側層2と外側層3との界面(点線で示す)付近、具体的には界面を跨ぐ半径方向領域において、内側層2から外側層3へ向けてNi及びMoの濃度が徐々に低くなっている。これにより、界面付近に高硬度化元素を含む領域が形成されるため、界面の強度、ひいては内側層2と外側層3との結合強度が高められる。高硬度化元素の濃度勾配が生じている領域(以下、濃度勾配領域)の半径方向寸法Rは0.1〜1.0mmの範囲内、好ましくは0.2〜0.5mmの範囲内であることが望ましい。この濃度勾配領域の半径方向寸法Rが大きすぎると、界面付近の外側層の硬度が上がるため、加工性が悪化し、寸法精度に影響するという不具合があり、濃度勾配領域の半径方向寸法Rが小さすぎると、界面の結合が弱くなるため、軸受の強度が低下するという不具合があるからである。濃度勾配領域の半径方向寸法Rは、例えば後述する二色成形金型の仕切板14(
図5参照)の半径方向厚さにより調整することができる。
【0024】
上記の焼結軸受1は、例えば圧縮成形工程、焼結工程、整形工程、熱処理工程、及び含油工程を経て製造される。以下、各工程を説明する。
【0025】
圧縮成形工程は、例えば
図4に示す金型を用いて行われる。この金型は、ダイ11と、ダイ11の内周に配されたコアピン12と、ダイ11の内周面11aとコアピン12の外周面12aとの間に配された外側下パンチ13、仕切板14、及び内側下パンチ15と、上パンチ16(
図8参照)とを有する。外側下パンチ13、仕切板14、及び内側下パンチ15は、同心の円筒形状をなし、それぞれ独立して昇降可能とされる。
【0026】
圧縮成形工程は、内側層2の材料と外側層3の材料を同一の金型に供給して一体成形する、いわゆる二色成形により行われる。具体的には、まず、
図4に示すように、仕切板14及び内側下パンチ15を上端位置まで上昇させると共に、外側下パンチ13を下端位置まで下降させ、ダイ11の内周面11aと、仕切板14の外周面14aと、外側下パンチ13の端面13aとで円筒状の外側キャビティ17を形成する。この外側キャビティ17に、外側層3を形成するための第1混合金属粉末M1を充填する。本実施形態の第1混合金属粉末M1は、Fe粉末、Cu粉末、及びC粉末からなり、具体的には例えばSMF4030(JIS Z2550:2000)が使用できる。
【0027】
次に、
図5に示すように内側下パンチ15を下端位置まで下降させ、仕切板14の内周面14bと、コアピン12の外周面12aと、内側下パンチ15の端面15aとで円筒状の内側キャビティ18を形成する。この内側キャビティ18に、内側層2を形成するための第2混合金属粉末M2を充填する。本実施形態の第2混合金属粉末M2は、Fe粉末、Cu粉末、C粉末、Ni粉末、及びMo粉末からなる。このとき、第2混合金属粉末M2を内側キャビティ18から溢れさせ、仕切板14の上方を覆うようにする。
【0028】
次に、
図6に示すように仕切板14を下降させる。これにより、仕切板14の分のスペースに、第2混合金属粉末M2が入り込み、第1混合金属粉末M1と第2混合金属粉末M2とが接触する。これにより、ダイ11の内周面11a、外側下パンチ13の端面13a、仕切板14の端面14c、内側下パンチ15の端面15a、及びコアピン12の外周面12aで形成されるキャビティ19に、第1混合金属粉末M1及び第2混合金属粉末M2が二層状態で満たされた状態となる。そして、キャビティ19から溢れ出た余分な第2混合金属粉末M2が除去される(
図7参照)。
【0029】
その後、
図8に示すように、上パンチ16を下降させ、上パンチ16の端面16aでキャビティ19に充填された混合金属粉末M1,M2を上方から圧縮して、圧粉体Mを成形する。そして、
図9に示すように、外側下パンチ13、仕切板14、及び内側下パンチ15を上昇させ、圧粉体Mを金型から取り出す。
【0030】
その後、焼結工程において、圧粉体Mを所定の焼結温度(例えば1120℃)で焼結し、焼結体M’が得られる(
図10参照)。本実施形態では、連続焼結炉により焼結工程が行われる。このとき、焼結体M’に焼き入れ性向上元素(Ni及びMo)が含まれることにより、焼結体M’のマルテンサイト変態の開始温度が下がるため、連続焼結炉の冷却ゾーンで焼結体M’のマルテンサイト変態による高硬度化が可能となる。
【0031】
焼結工程で得られた焼結体M’は、その後の整形工程において所定寸法に整形される。本実施形態では、サイジング金型により焼結体M’の内周面、外周面、及び両端面を圧迫することにより、焼結体M’が所定寸法に型成形される(図示省略)。このとき、焼結体M’の外側層M1’は、高硬度化元素を含まない比較的軟らかい焼結金属であり、加工性が良好であるため、外側層M1’、特に外周面を精度良く成形することができる。
【0032】
こうして所定の寸法精度に整形された焼結体M’に、熱処理を施す(熱処理工程)。具体的には、例えば焼結体M’の内部応力を除去するための焼戻しが施される。そして、熱処理が施された焼結体M’の内部気孔に潤滑剤を含浸することにより、焼結軸受1が完成する。
【0033】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、整形工程をサイジング金型による型成形で行っているが、これに限らず、機械加工などの他の方法で行ってもよい。また、整形しなくても所望の寸法精度が得られる場合は、整形工程を省略してもよい。また、上記の実施形態では、熱処理工程として焼戻しを行っているが、焼戻しの前に焼き入れ(例えば浸炭焼き入れ)を施し、焼結体M’の表面の硬度を高めてもよい。尚、高硬度化元素を含む内側層2の硬度が十分であれば、焼き入れを省略して低コスト化を図ることが好ましい。
【0034】
また、上記の実施形態では、内側層2の内周面2aに軸受面Aが形成される場合を示したが、これに限らず、例えば
図11に示すように、外側層3の外周面3aに軸受面Aを形成した焼結軸受1に本発明を適用してもよい。この場合、外側層3が、Fe及び高硬度化元素を含む焼結金属で形成され、内側層2が、Feを含み高硬度化元素を含まない焼結金属で形成される。具体的には、例えば、外側層3が、Fe,Cu,C,Ni,及びMoを含み残部が不可避不純物からなる焼結金属で形成され、内側層2が、Fe,Cu,及びCを含み残部が不可避不純物からなる焼結金属で形成される。この場合、外側層3の硬度が内側層2の硬度よりも高くなっている。内側層2と外側層3との界面には、高硬度化元素の濃度勾配が生じており、界面付近において外側層3から内側層2へ向けて高硬度化元素の濃度が徐々に低くなっている。内側層2の内周面2aに他部材(軸の外周面)への取り付け面Bが設けられる。外側層3の肉厚は、焼結軸受1の半径方向の肉厚の5〜20%程度とされ、例えば0.3〜2mmの範囲とされる。
【0035】
また、上記の実施形態では、内側層2と外側層3との界面が円筒面状である場合を示したが、これに限らず、界面の軸直交断面形状を非円形(例えば多角形状やスプライン状)とすることができる(図示省略)。これにより、内側層2と外側層3との結合強度がさらに高められる。このとき、界面の形状は軸方向と平行とされる。界面の形状は、圧縮成形工程における仕切板14(
図5等参照)の形状に倣うため、仕切板14の形状を変更することで界面の形状を変更することができる。
【0036】
また、上記の実施形態では、焼結軸受1を建設機械に適用した場合を示したが、これに限らず、軸受面に高い面圧が加わる用途に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 焼結軸受
2 内側層
3 外側層
A 軸受面
B 取り付け面