特許第6337219号(P6337219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6337219
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】懸架装置及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20180528BHJP
   B60G 13/08 20060101ALI20180528BHJP
   B62K 25/04 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   B60G17/015 A
   B60G13/08
   B62K25/04
【請求項の数】7
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2017-557215(P2017-557215)
(86)(22)【出願日】2017年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2017039374
【審査請求日】2017年11月1日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/025771
(32)【優先日】2017年7月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-135500(P2017-135500)
(32)【優先日】2017年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏太
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−217885(JP,A)
【文献】 特開平04−110217(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0328277(US,A1)
【文献】 特開2012−096643(JP,A)
【文献】 特開2008−137573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00−99/00
B62K 25/00−25/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置と、
前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値、前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値、及び前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を設定するために操作される操作部と、
前記伸長時減衰力の目標値、前記圧縮時減衰力の目標値、及び前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する決定部と、を備え、
前記決定部は、
前記伸長時減衰力の目標値を決定する際には、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力及び前記伸長時調整値、又は、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値、及び前記ゼロ時調整値を用い、
前記圧縮時減衰力の目標値を決定する際には、前記ベース減衰力、前記圧縮時調整値、及び前記ゼロ時調整値、又は、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用い、
前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する際には、前記ベース減衰力及び前記ゼロ時調整値を用いる
懸架装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記伸長時減衰力の目標値を決定する際に、前記変化速度が予め定められた伸長時所定速度以上であるときには、前記ベース減衰力及び前記伸長時調整値を用い、前記変化速度が前記伸長時所定速度未満であるときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記ゼロ時調整値を用いる
請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記圧縮時減衰力の目標値を決定する際に、前記変化速度が予め定められた圧縮時所定速度以下であるときには、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用い、前記変化速度が前記圧縮時所定速度より大きいときには、前記ベース減衰力、前記圧縮時調整値及び前記ゼロ時調整値を用いる
請求項1又は2に記載の懸架装置。
【請求項4】
車両本体と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置と、
前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値及び前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値を設定するために操作される操作部と、
前記伸長時減衰力の目標値及び前記圧縮時減衰力の目標値を決定する第1決定部と、
前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力の目標値を決定する第2決定部と、を備え、
前記第1決定部は、
前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記変化速度が予め定められた伸長時所定速度以上であるときには、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力及び前記伸長時調整値を用いて前記伸長時減衰力の目標値を決定し、前記変化速度が前記伸長時所定速度未満であるときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記伸長時減衰力の目標値を決定し、
前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記変化速度が予め定められた圧縮時所定速度以下であるときには、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用いて前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、前記変化速度が前記圧縮時所定速度より大きいときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、
前記第2決定部は、
前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する際に、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いる
懸架装置。
【請求項5】
前記第2決定部は、前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する
請求項4に記載の懸架装置。
【請求項6】
車両本体と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置における、前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値、前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値、及び前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を取得する機能と、
前記伸長時減衰力の目標値、前記圧縮時減衰力の目標値、及び前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する機能と、を備え、
前記決定する機能は、
前記伸長時減衰力の目標値を決定する際には、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力及び前記伸長時調整値、又は、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値、及び前記ゼロ時調整値を用い、
前記圧縮時減衰力の目標値を決定する際には、前記ベース減衰力、前記圧縮時調整値、及び前記ゼロ時調整値、又は、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用い、
前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する際には、前記ベース減衰力及び前記ゼロ時調整値を用いる、
コンピュータに実現させるプログラムを記録した非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体。
【請求項7】
車両本体と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置における、前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値及び前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値を取得する機能と、
前記伸長時減衰力の目標値及び前記圧縮時減衰力の目標値を決定する第1決定機能と、
前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力の目標値を決定する第2決定機能と、を備え、
前記第1決定機能は、
前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記変化速度が予め定められた伸長時所定速度以上であるときには、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力及び前記伸長時調整値を用いて前記伸長時減衰力の目標値を決定し、前記変化速度が前記伸長時所定速度未満であるときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記伸長時減衰力の目標値を決定し、
前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記変化速度が予め定められた圧縮時所定速度以下であるときには、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用いて前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、前記変化速度が前記圧縮時所定速度より大きいときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、
前記第2決定機能は、
前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する際に、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いる、
コンピュータに実現させるプログラムを記録した非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸架装置及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンパ(減衰装置)の減衰力を可変可能な可変減衰力ダンパを備える車両の懸架装置(サスペンション装置)において、ダンパの減衰力をユーザに調整可能にする技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、サスペンションのクッションユニットに油圧ジャッキを備え、該油圧ジャッキ内の油圧の増減によりクッションユニット長さを変化させて車高を調整する鞍乗り型車両の車高調整装置において、油圧ジャッキ内の油圧を増減させる車高調整手段が複数の操作部を有し、該操作部毎の操作により油圧ジャッキ内の油圧を所定量ずつ増減させることを特徴とする鞍乗り型車両の車高調整装置が開示されている。この特許文献1には、クッションユニットの上端部後側には、例えばダンパの伸び側の減衰力を調整するためのアジャスターが一体的に設けられると共に、クッションユニットの下端部には、例えばダンパの縮み側の減衰力を調整するためのアジャスターが一体的に設けられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−227118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サスペンションのセッティングの自由度を向上させるには、減衰装置(ダンパ)の減衰力の調整幅は大きい方が望ましい。
本発明は、減衰装置の減衰力の調整幅を大きくすることができる懸架装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと完成させた本発明は、車両本体と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置と、前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値、前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値、及び前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を設定するために操作される操作部と、前記伸長時減衰力の目標値、前記圧縮時減衰力の目標値、及び前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する決定部と、を備え、前記決定部は、前記伸長時減衰力の目標値を決定する際には、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力及び前記伸長時調整値、又は、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値、及び前記ゼロ時調整値を用い、前記圧縮時減衰力の目標値を決定する際には、前記ベース減衰力、前記圧縮時調整値、及び前記ゼロ時調整値、又は、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用い、前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する際には、前記ベース減衰力及び前記ゼロ時調整値を用いる懸架装置である。
【0006】
ここで、前記決定部は、前記伸長時減衰力の目標値を決定する際に、前記変化速度が予め定められた伸長時所定速度以上であるときには、前記ベース減衰力及び前記伸長時調整値を用い、前記変化速度が前記伸長時所定速度未満であるときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記ゼロ時調整値を用いても良い。
また、前記決定部は、前記圧縮時減衰力の目標値を決定する際に、前記変化速度が予め定められた圧縮時所定速度以下であるときには、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用い、前記変化速度が前記圧縮時所定速度より大きいときには、前記ベース減衰力、前記圧縮時調整値及び前記ゼロ時調整値を用いても良い。
【0007】
また、本発明は、車両本体と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置と、前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値及び前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値を設定するために操作される操作部と、前記伸長時減衰力の目標値及び前記圧縮時減衰力の目標値を決定する第1決定部と、前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力の目標値を決定する第2決定部と、を備え、前記第1決定部は、前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記変化速度が予め定められた伸長時所定速度以上であるときには、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力及び前記伸長時調整値を用いて前記伸長時減衰力の目標値を決定し、前記変化速度が前記伸長時所定速度未満であるときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記伸長時減衰力の目標値を決定し、前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記変化速度が予め定められた圧縮時所定速度以下であるときには、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用いて前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、前記変化速度が前記圧縮時所定速度より大きいときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、前記第2決定部は、前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する際に、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いる懸架装置である。
【0008】
ここで、前記第2決定部は、前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記ゼロ時減衰力の目標値を決定しても良い。
【0009】
また、本発明は、車両本体と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置における、前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値、前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値、及び前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を取得する機能と、前記伸長時減衰力の目標値、前記圧縮時減衰力の目標値、及び前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する機能と、を備え、前記決定する機能は、前記伸長時減衰力の目標値を決定する際には、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力及び前記伸長時調整値、又は、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値、及び前記ゼロ時調整値を用い、前記圧縮時減衰力の目標値を決定する際には、前記ベース減衰力、前記圧縮時調整値、及び前記ゼロ時調整値、又は、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用い、前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する際には、前記ベース減衰力及び前記ゼロ時調整値を用いる、コンピュータに実現させるプログラムを記録した非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0010】
また、本発明は、車両本体と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置における、前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値及び前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値を取得する機能と、前記伸長時減衰力の目標値及び前記圧縮時減衰力の目標値を決定する第1決定機能と、前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力の目標値を決定する第2決定機能と、を備え、前記第1決定機能は、前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記変化速度が予め定められた伸長時所定速度以上であるときには、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力及び前記伸長時調整値を用いて前記伸長時減衰力の目標値を決定し、前記変化速度が前記伸長時所定速度未満であるときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記伸長時減衰力の目標値を決定し、前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が同じである場合に、前記変化速度が予め定められた圧縮時所定速度以下であるときには、前記ベース減衰力及び前記圧縮時調整値を用いて前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、前記変化速度が前記圧縮時所定速度より大きいときには、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いて前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、前記第2決定機能は、前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する際に、前記ベース減衰力、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を用いる、コンピュータに実現させるプログラムを記録した非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、減衰装置の減衰力の調整幅を大きくすることができる懸架装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係る自動二輪車の概略構成を示す図である。
図2】減衰装置の概略構成を示す図である。
図3】制御装置の概略構成を示す図である。
図4】基準電流とストローク速度との関係の例を示す制御マップの概略図である。
図5】第1の実施形態に係るUIの表示部に示された調整値を設定する画面の例を示す図である。
図6】ストローク速度と調整量との関係の例を示す図である。
図7】設定部が行う目標電流設定処理の手順を示すフローチャートである。
図8】第1の実施形態に係る記録媒体の概略構成を示す図である。
図9】第2の実施形態に係る自動二輪車の概略構成を示す図である。
図10】第2の実施形態に係る制御装置の概略構成を示す図である。
図11】第2の実施形態に係るUIの表示部に示された調整値を設定する画面の例を示す図である。
図12】Atの符号とAcの符号とが異なる場合のストローク速度と調整量との関係の例を示す図である。
図13】Atの符号とAcの符号とが同じである場合のストローク速度と調整量との関係の例を示す図である。
図14】第2の実施形態に係る設定部が行う目標電流設定処理の手順を示すフローチャートである。
図15】第2の実施形態に係る設定部が行う目標電流設定処理の手順を示すフローチャートである。
図16】第2の実施形態に係る記録媒体の概略構成を示す図である。
図17】第3の実施形態に係る自動二輪車の概略構成を示す図である。
図18】第3の実施形態に係る制御装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、前側の車輪である前輪2と、後側の車輪である後輪3と、車両本体10とを備えている。車両本体10は、自動二輪車1の骨格をなす車体フレーム11と、ハンドル12と、ブレーキレバー13と、シート14等を有している。
【0014】
また、自動二輪車1は、前輪2と車両本体10とを連結する前輪側のサスペンション21を有している。また、自動二輪車1は、前輪2の左側に配置されたサスペンション21と前輪2の右側に配置されたサスペンション21とを保持する2つのブラケット15と、2つのブラケット15の間に配置されたシャフト16とを備えている。シャフト16は、車体フレーム11に回転可能に支持されている。サスペンション21は、路面等から前輪2に加わった衝撃を吸収する懸架スプリング(不図示)と、この懸架スプリングの振動を減衰する減衰装置21dとを備えている。
【0015】
また、自動二輪車1は、後輪3と車両本体10とを連結する後輪側のサスペンション22を有している。サスペンション22は、路面等から後輪3に加わった衝撃を吸収する懸架スプリング22sと、懸架スプリング22sの振動を減衰する減衰装置22dとを備えている。
【0016】
以下の説明において、減衰装置21dと減衰装置22dとをまとめて「減衰装置200」と称する場合もある。
また、前輪側のサスペンション21と後輪側のサスペンション22とをまとめて「サスペンション」と称する場合もある。また、前輪2と後輪3とをまとめて「車輪」と称する場合もある。
【0017】
図2は、減衰装置200の概略構成を示す図である。また、図3は、制御装置100の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、減衰装置21d及び減衰装置22dの減衰力を制御する制御装置100を備えている。制御装置100には、サスペンション21の伸縮量を検出するストロークセンサ31と、サスペンション22の伸縮量を検出するストロークセンサ32からの出力信号が入力される。以下の説明において、ストロークセンサ31とストロークセンサ32とをまとめて「ストロークセンサ30」と称する場合もある。
【0018】
また、自動二輪車1は、ユーザが操作可能な操作部の一例としてのユーザインタフェース70を備えている(以下において、ユーザインタフェース70を「UI70」と称する。)。UI70は、例えば、ハンドル12や回転速度計(スピードメータ)75に隣接して配置されていることを例示することができる。UI70は、減衰装置200の減衰力の調整値を受付可能に構成されている。UI70は、ユーザが設定した調整値を、制御装置100に出力する。
【0019】
本発明に係る懸架装置20は、サスペンション(サスペンション21及びサスペンション22)、ストロークセンサ30、UI70、制御装置100を有する装置である。
【0020】
(減衰装置)
減衰装置200は、作動油で満たされたシリンダ210と、シリンダ210内に移動自在に収容されたピストン221と、ピストン221を保持するピストンロッド222とを備えている。シリンダ210の一方側(図2においては上側)の端部210aが車両本体10に連結されている。ピストンロッド222は、一方側の端部にピストン221を保持し、他方側(図2においては下側)の端部222aが車輪に連結されている。なお、本発明における減衰装置はこのような形態に限定されない。本発明における減衰装置は、シリンダ210の他方側の端部が車輪に連結されるとともに、ピストンロッド222の他方側の端部がピストン221を保持し、ピストンロッド222の一方側の端部が車両本体10に連結されていても良い。
【0021】
減衰装置200においては、ピストン221が車両本体10側(図2においては上側)へ移動することで減衰装置200の全長が縮む圧縮行程が行われ、ピストン221が車輪側(図2においては下側)へ移動することで減衰装置200の全長が伸びる伸長行程が行われる。
シリンダ210内は、ピストン221がシリンダ210内に収容されていることにより、圧縮行程において作動油の圧力が高まる圧縮側の油室211と、伸長行程において作動油の圧力が高まる伸長側の油室212とに区画されている。
【0022】
減衰装置200は、シリンダ210内の油室211に接続された第1油路231と、シリンダ210内の油室212に接続された第2油路232とを有している。また、減衰装置200は、第1油路231と第2油路232との間に設けられた第3油路233と、第3油路233に設けられた減衰力制御弁240とを有している。また、減衰装置200は、第1油路231と、第3油路233の一方の端部とを接続する第1分岐路251と、第1油路231と、第3油路233の他方の端部とを接続する第2分岐路252とを有している。また、減衰装置200は、第2油路232と、第3油路233の一方の端部とを接続する第3分岐路253と、第2油路232と、第3油路233の他方の端部とを接続する第4分岐路254とを有している。
【0023】
また、減衰装置200は、第1分岐路251に設けられ、第1油路231から第3油路233へと向かう作動油の移動を許容し、第3油路233から第1油路231へと向かう作動油の移動を禁止する第1チェック弁271を有している。また、減衰装置200は、第2分岐路252に設けられ、第3油路233から第1油路231へと向かう作動油の移動を許容し、第1油路231から第3油路233へと向かう作動油の移動を禁止する第2チェック弁272を有している。
また、減衰装置200は、第3分岐路253に設けられ、第2油路232から第3油路233へと向かう作動油の移動を許容し、第3油路233から第2油路232へと向かう作動油の移動を禁止する第3チェック弁273を有している。また、減衰装置200は、第4分岐路254に設けられ、第3油路233から第2油路232へと向かう作動油の移動を許容し、第2油路232から第3油路233へと向かう作動油の移動を禁止する第4チェック弁274を有している。
また、減衰装置200は、作動油を貯留するとともに作動油を給排する機能を有するリザーバ290と、リザーバ290と第3油路233の他方の端部とを接続するリザーバ通路291とを有している。
【0024】
減衰力制御弁240は、ソレノイドを有しており、ソレノイドに通電する電流量が制御されることによって、弁を通過する作動油の圧力を制御可能である。本実施の形態に係る減衰力制御弁240は、ソレノイドに供給される電流量が大きくなるのに従って弁を通過する作動油の圧力を高くする。ソレノイドに通電する電流量は、制御装置100によって制御される。そして、減衰力制御弁240は、シリンダ210の油室211及び油室212のいずれか一方の油室の油圧が開放圧力よりも高くなったときに、他方の油室に作動油を流す。つまり、減衰力制御弁240は、油室211の油圧が開放圧力よりも高くなったときに油室212に作動油を流す。これにより、減衰力制御弁240は、減衰装置200が圧縮行程にあるときに発生する減衰力(圧縮側の減衰力)を変化させる。また、減衰力制御弁240は、油室212の油圧が開放圧力よりも高くなったときに油室211に作動油を流す。これにより、減衰力制御弁240は、減衰装置200が伸長行程にあるときに発生する減衰力(伸長側の減衰力)を変化させる。
【0025】
より具体的には、ピストン221が油室211の方に移動すると、油室211の油圧が上昇する。そして、油室211内の作動油が、第1油路231、及び、第1分岐路251を介して、減衰力制御弁240に向かう。減衰力制御弁240を通過する作動油の圧力が減衰力制御弁240の弁圧にて調整されることにより、圧縮側の減衰力が調整される。減衰力制御弁240を通過した作動油は、第4分岐路254、及び、第2油路232を介して、油室212に流入する。
【0026】
他方、ピストン221が油室212の方に移動すると、油室212の油圧が上昇する。そして、油室212内の作動油が、第2油路232、及び、第3分岐路253を介して、減衰力制御弁240に向かう。減衰力制御弁240を通過する作動油の圧力が減衰力制御弁240の弁圧にて調整されることにより、伸長側の減衰力が調整される。減衰力制御弁240を通過した作動油は、第2分岐路252、及び、第1油路231を介して、油室211に流入する。
【0027】
(制御装置100)
制御装置100は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等からなる算術論理演算回路である。
制御装置100には、ストロークセンサ31にて検出されたサスペンション21の伸縮量が出力信号に変換された、前輪側のストローク信号sfと、ストロークセンサ32にて検出されたサスペンション22の伸縮量が出力信号に変換された、後輪側のストローク信号srとが入力される。このほか、制御装置100には、ユーザが設定した調整値Aに対応するUI70からの信号などが入力される。
【0028】
制御装置100は、減衰力制御弁240のソレノイドに供給する電流量を制御することにより、減衰力を制御する。上述のように、本実施形態に係る減衰力制御弁240は、ソレノイドに供給される電流量が大きくなるのに従って、弁を通過する作動油の圧力を高くする。それゆえ、制御装置100は、減衰力を大きくする場合には、減衰力制御弁240のソレノイドに供給する電流量を大きくし、減衰力を小さくする場合には、減衰力制御弁240のソレノイドに供給する電流量を小さくする。
【0029】
制御装置100は、ストロークセンサ30にて検出されたストロークの変化速度であるストローク速度Vpf、Vprを算出する算出部110を備えている。また、制御装置100は、算出部110が算出したストローク速度Vpf、Vpr等に基づいて、減衰力制御弁240のソレノイドに供給する目標電流Itf、Itrを設定する設定部120を備えている。また、制御装置100は、減衰力制御弁240を駆動させる駆動部130を備えている。そして、制御装置100は、ストローク速度Vpf、Vpr等に基づいてサスペンションの減衰力の目標値を決定すると共に、目標値の減衰力(目標減衰力)となるように減衰力制御弁240の開放圧力を制御するべく目標電流Itf、Itrを設定し、ソレノイドに目標電流Itf、Itrが供給されるように駆動部130を制御する。
【0030】
算出部110は、ストロークセンサ31からの出力値を微分することにより、前輪側のストローク速度Vpfを算出する。また、算出部110は、ストロークセンサ32からの出力値を微分することにより、後輪側のストローク速度Vprを算出する。ストローク速度Vpfとストローク速度Vprとをまとめて「ストローク速度Vp」と称する場合もある。
【0031】
駆動部130は、例えば電源の正極側ラインと、減衰力制御弁240のソレノイドのコイルとの間に接続された、スイッチング素子としてのトランジスタ(Field Effect Transistor:FET)を備えている。そして、駆動部130は、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、減衰力制御弁240の駆動を制御する。
より具体的には、駆動部130は、減衰力制御弁240に供給する目標電流が、設定部120によって設定された目標電流Itf、Itrとなるように、トランジスタをスイッチング動作させる。つまり、駆動部130は、減衰装置21dの減衰力制御弁240へと供給する目標電流が、設定部120によって設定された目標電流Itfとなるように、トランジスタをスイッチング動作させる。また、駆動部130は、減衰装置22dの減衰力制御弁240へと供給する目標電流が、設定部120によって設定された目標電流Itrとなるように、トランジスタをスイッチング動作させる。
【0032】
以下に、設定部120について詳述する。
設定部120は、算出部110が算出したストローク速度Vpf等に基づいて、減衰装置21dの減衰力制御弁240のソレノイドへと供給する、前輪側の目標電流Itfを設定する。また、設定部120は、算出部110が算出したストローク速度Vpr等に基づいて、減衰装置22dの減衰力制御弁240のソレノイドへと供給する、後輪側の目標電流Itrを設定する。なお、設定部120が目標電流Itfを設定する手法と設定部120が目標電流Itrを設定する手法とは同様である。以下では、目標電流Itfと目標電流Itrとをまとめて「目標電流It」と称する場合もある。
【0033】
設定部120は、目標電流Itを設定する上で基準となる基準電流Ib、を設定する基準設定部121と、調整値Aに基づいて減衰力を調整するための調整電流Ia、を設定する調整部122とを有している。
また、設定部120は、基準設定部121が設定した基準電流Ibと、調整部122が設定した調整電流Iaとを加算することにより、最終的に目標電流Itを設定する目標設定部123を有している。
【0034】
図4は、基準電流Ibとストローク速度Vpとの関係の例を示す制御マップの概略図である。
基準設定部121は、ストローク速度Vp(ストローク速度Vpf又はストローク速度Vpr)に応じた基準電流Ibを算出する。基準設定部121は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、基準電流Ibとストローク速度Vpとの関係を示す図4に例示した制御マップに、ストローク速度Vpを代入することにより、基準電流Ibを算出する。基準設定部121が基準電流Ibを設定するということは、言い換えれば、基準設定部121は、ストローク速度Vpに応じたベース減衰力を設定するということである。
【0035】
図4に例示した制御マップにおいては、ストローク速度Vpがサスペンションの圧縮方向の速度である場合、ストローク速度Vpが第1所定速度V1以上であるときにはストローク速度Vpが小さいほど電流量が大きくなり、ストローク速度Vpが第1所定速度V1より小さいときには一定の電流量となるように設定されている。また、ストローク速度Vpがサスペンションの伸長方向の速度である場合、ストローク速度Vpが第2所定速度V2以下であるときにはストローク速度Vpが大きいほど電流量が大きく、ストローク速度Vpが第2所定速度V2より大きいときには一定の電流量となるように設定されている。なお、基準設定部121は、自動二輪車1の移動速度である車速に応じて、基準電流Ibとストローク速度Vpとの関係を示す制御マップを切り替えて用いても良い。
【0036】
調整部122は、図3に示すように、UI70を介してユーザが設定した調整値Aに基づいて調整量Bを決定する調整量決定部141と、調整量決定部141が決定した調整量Bに基づいて調整電流Iaを算出する算出部142とを有している。調整部122が調整電流Iaを設定するということは、言い換えれば、調整部122は、調整値Aに基づいて調整減衰力を設定するということである。
【0037】
図5は、UI70の表示部71に示された調整値Aを設定する画面の一例を示す図である。
UI70は、タッチパネル等により構成された表示部71を有する。UI70は、制御装置100からの情報、例えば自動二輪車1が走行した距離等を表示部71に表示する機能を有していても良い。
図5に示した設定画面は、例えば通常走行時に表示される通常画面(例えば走行距離等が表示されている画面)からの遷移画面である。図5に示した設定画面には、例えば、通常画面に表示されたボタン又はUI70の表示部71の周囲に設けられた押しボタン(不図示)が押下されることにより、遷移することができる。
【0038】
UI70は、減衰装置200の伸長側の減衰力、言い換えればストローク速度Vpがプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値と、減衰装置200の圧縮側の減衰力、言い換えればストローク速度Vpがマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値とを設定可能に構成されている。加えて、UI70においては、減衰装置200の伸長側でも圧縮側でもないストローク速度Vpがゼロ(0)である場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を設定可能に構成されている。つまり、UI70は、伸長時調整値と、圧縮時調整値と、ゼロ時調整値との3点を設定するためにユーザにより操作される操作部の一例として機能する。以下において、伸長時調整値を「At」、圧縮時調整値を「Ac」、ゼロ時調整値を「A0」、と称する場合がある。
【0039】
また、UI70においては、図5に示すように、前輪側の減衰装置21dの減衰力を調整するための調整値と、後輪側の減衰装置22dの減衰力を調整するための調整値とを設定できるように構成されている。なお、図5に示した画面は、減衰装置21d用と減衰装置22d用の両方の調整値を設定する画面であるが、減衰装置21d用の調整値を設定する画面と減衰装置22d用の調整値を設定する画面とを別々の画面としても良い。
【0040】
図6は、ストローク速度Vpと調整量Bとの関係の例を示す図である。
図6に示したように、UI70は、At、Ac、及びA0のそれぞれについて、減衰力を大きくする方向に7段階の値を設定でき、減衰力を小さくする方向に7段階の値を設定できるように構成されている。
【0041】
図6に示したように、調整量決定部141は、ストローク速度Vpが予め定められた伸長時所定速度Vpt以上である場合には、Atを調整量Bとして決定する。また、調整量決定部141は、ストローク速度Vpが予め定められた圧縮時所定速度Vpc以下である場合には、Acを調整量Bとして決定する。また、調整量決定部141は、ストローク速度Vpが0である場合には、A0を調整量Bとして決定する。
【0042】
また、調整量決定部141は、ストローク速度Vpが0より大きく伸長時所定速度Vptより小さい速度領域においては、この速度領域でA0とAtとの間で線形的に変化する値を、調整量Bとして決定する。つまり、以下の式(1)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を調整量Bとして決定する。すなわち、ストローク速度Vpがプラスである場合、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上である場合にはAtを調整量Bとして決定し、ストローク速度Vpが0より大きく伸長時所定速度Vpt未満である場合には下記式(1)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を調整量Bとして決定する。これにより、従来のアジャスターを回す調整方法やゼロ時調整値を持たない調整方法よりも自由度の高いセッティングを行うことが可能になる。
B=(At−A0)/Vpt×Vp+A0・・・(1)
【0043】
また、調整量決定部141は、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpcより大きく0より小さい速度領域においては、この速度領域でAcとA0との間で線形的に変化する値を、調整量Bとして決定する。つまり、以下の式(2)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を調整量Bとして決定する。すなわち、ストローク速度Vpがマイナスである場合、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下である場合にはAcを調整量Bとして決定し、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpcを超える場合には下記式(2)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を調整量Bとして決定する。これにより、従来のアジャスターを回す調整方法やゼロ時調整値を持たない調整方法よりも自由度の高いセッティングを行うことが可能になる。
B=(Ac−A0)/Vpc×Vp+A0・・・(2)
なお、Vptの絶対値とVpcの絶対値とは同じであることを例示することができる。また、Vptは、0.05(m/s)であることを例示することができる。
【0044】
算出部142は、調整量決定部141が決定した調整量Bに、予め定められた電流量Ipを乗算することにより調整電流Iaを算出する(Ia=B×Ip)。
【0045】
目標設定部123は、基準設定部121が設定した基準電流Ibと、調整部122が設定した調整電流Iaとを加算することにより得た値を、目標電流Itに設定する(It=Ib+Ia)。
【0046】
次に、フローチャートを用いて、設定部120が行う目標電流設定処理の手順について説明する。
図7は、設定部120が行う目標電流設定処理の手順を示すフローチャートである。
設定部120は、この目標電流設定処理を、予め定めた期間(例えば1ミリ秒)毎に繰り返し実行する。
【0047】
設定部120は、基準電流Ibを設定する(ステップ(以下「S」と称する場合もある。)700)。これは、基準設定部121が、算出部110が算出したストローク速度Vpを取得するとともに、取得したストローク速度Vpと例えば図4に示した制御マップとに基づいて基準電流Ibを算出する処理である。
設定部120は、At、Ac、及びA0を取得する(S701)。これは、調整量決定部141が、UI70を介してユーザが設定したAt、Ac、及びA0を取得する処理である。
【0048】
設定部120は、ストローク速度Vpが0であるか否かを判別する(S702)。これは、調整部122の調整量決定部141が、算出部110で算出されたストローク速度Vpを取得するとともに、取得したストローク速度Vpが0であるか否かを判別する。ストローク速度Vpが0である場合(S702でYes)、調整量決定部141は、A0を調整量Bとして決定する(S703)。
【0049】
一方、ストローク速度Vpが0ではない場合(S702でNo)、調整量決定部141は、ストローク速度Vpがプラスであるか否かを判別する(S704)。ストローク速度Vpがプラスである場合(S704でYes)、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上であるか否かを判別する(S705)。ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上である場合(S705でYes)、調整量決定部141は、Atを調整量Bとして決定する(S706)。他方、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上ではない場合(S705でNo)、ストローク速度Vpは0より大きく伸長時所定速度Vptより小さいので、調整量決定部141は、上述した式(1)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を、調整量Bとして決定する(S707)。
【0050】
ストローク速度Vpがプラスではない場合(S704でNo)、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下であるか否かを判別する(S708)。ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下である場合(S708でYes)、調整量決定部141は、Acを調整量Bとして決定する(S709)。ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下ではない場合(S708でNo)、ストローク速度Vpは圧縮時所定速度Vpcより大きく0より小さいので、調整量決定部141は、上述した式(2)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を、調整量Bとして決定する(S710)。
【0051】
設定部120は、S703、S706、S707、S709又はS710にて調整量Bを決定した後、調整電流Iaを設定する(S711)。これは、算出部142が、S703、S706、S707、S709又はS710にて決定した調整量Bに、予め定められた電流量Ipを乗算することにより得た値を、調整電流Ia(=B×Ip)とする処理である。
その後、設定部120は、目標電流Itを設定する(S712)。これは、目標設定部123が、S700にて設定した基準電流Ibと、S711にて設定した調整電流Iaとを加算することにより得た値を、目標電流Itに設定する処理である(It=Ib+Ia)。
【0052】
上述したように、設定部120が目標電流設定処理を行って目標電流Itを設定することで、制御装置100は、以下の方法(第1の実施形態に係る制御方法)にて減衰装置200の減衰力を制御する。
すなわち、車両本体10と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置200の減衰力を制御する方法であって、
前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値、前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値、及び前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を設定するために操作される操作部から前記伸長時調整値、前記圧縮時調整値及び前記ゼロ時調整値を取得し、
前記変化速度に基づいて決定されたベース減衰力と、前記伸長時調整値、前記圧縮時調整値又は前記ゼロ時調整値とに基づいて、前記伸長時減衰力の目標値、前記圧縮時減衰力の目標値及び前記ゼロ時減衰力の目標値を決定することを特徴とする。
【0053】
つまり、制御装置100は、図7に示したステップ701で、UI70を介してユーザが設定したAt、Ac、及びA0を取得する。
そして、制御装置100は、図7に示したステップ700で、ベース減衰力の基となる基準電流Ibを算出する。また、制御装置100は、図7に示したステップ706又はステップ707で、ストローク速度Vpが0より大きい場合の調整量Bを決定し、ステップ711で、ストローク速度Vpが0より大きい場合の調整電流Iaを設定する。また、制御装置100は、図7に示したステップ709又はステップ710で、ストローク速度Vpが0より小さい場合の調整量Bを決定し、ステップ711で、ストローク速度Vpが0より小さい場合の調整電流Iaを設定する。また、制御装置100は、図7に示したステップ703で、ストローク速度Vpが0である場合の調整量Bを決定し、ステップ711で、ストローク速度Vpが0である場合の調整電流Iaを設定する。そして、制御装置100は、S712で、基準電流Ibと調整電流Iaとを加算することにより得た値を、目標電流Itとして設定する。このようにして、制御装置100は、ベース減衰力と、At、Ac、及びA0とに基づいて、伸長時減衰力の目標値、圧縮時減衰力の目標値及びゼロ時減衰力の目標値を決定する。
【0054】
ここで、前記変化速度がプラスである場合には、前記変化速度が予め定められた伸長時所定速度以上である場合の前記伸長時減衰力の目標値を、前記ベース減衰力と、前記伸長時調整値に基づいて決定した伸長時調整減衰力とを加算する値とし、前記変化速度が前記伸長時所定速度未満である場合の前記伸長時減衰力の目標値を、前記ベース減衰力と、前記伸長時調整値と前記ゼロ時調整値とに基づいて決定した伸長時調整減衰力とを加算する値としても良い。
つまり、制御装置100は、ストローク速度Vpが0より大きい場合、図7に示したステップ706で、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上である場合の調整量BをAtに決定する。他方、ステップ707で、ストローク速度Vpが0より大きく伸長時所定速度Vptより小さい場合の調整量Bを、式(1)を用いて算出した値、つまりAtとA0とに基づいて算出した値に決定する。そして、制御装置100は、ステップ711で調整電流Iaを設定し、ステップ712で基準電流Ibと調整電流Iaとを加算することにより得た値を、目標電流Itとして設定する。このようにして、制御装置100は、ベース減衰力と、At、又は、At及びA0に基づいて、伸長時減衰力の目標値を決定する。
【0055】
また、前記変化速度がマイナスである場合には、前記変化速度が予め定められた圧縮時所定速度以下である場合の前記圧縮時減衰力の目標値を、前記ベース減衰力と、前記圧縮時調整値に基づいて決定した圧縮時調整減衰力とを加算する値とすると共に、前記変化速度が前記圧縮時所定速度を超える場合の前記圧縮時減衰力の目標値を、前記ベース減衰力と、前記圧縮時調整値と前記ゼロ時調整値とに基づいて決定した圧縮時調整減衰力とを加算する値としても良い。
つまり、制御装置100は、ストローク速度Vpが0より小さい場合、図7に示したステップ709で、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下である場合の調整量BをAcに決定する。他方、ステップ710で、ストローク速度Vpが0より小さく圧縮時所定速度Vpcより大きい場合の調整量Bを、式(2)を用いて算出した値、つまりAcとA0とに基づいて算出した値に決定する。そして、制御装置100は、ステップ711で調整電流Iaを設定し、S712で基準電流Ibと調整電流Iaとを加算することにより得た値を、目標電流Itとして設定する。このようにして、制御装置100は、ベース減衰力と、Ac、又は、Ac及びA0に基づいて、圧縮時減衰力の目標値を決定する。
【0056】
以上説明したように、制御装置100の設定部120は、基準電流Ibと、At、Ac又はA0に基づいて設定した調整電流Iaとを加算することにより、目標電流Itを設定する。上述したように、本実施形態に係る減衰力制御弁240は、ソレノイドに供給される電流量に応じて、弁を通過する作動油の圧力を制御する。そして、制御装置100は、減衰力制御弁240のソレノイドに供給する電流量を制御することで、減衰装置200の減衰力を制御する。言い換えれば、制御装置100は、減衰装置200の減衰力が所望の減衰力となるように、減衰力制御弁240のソレノイドに供給する電流量を制御する。従って、制御装置100は、ストローク速度Vpに基づいて設定した基準電流Ibに起因して生じるベース減衰力と、At、Ac又はA0とに基づいて、伸長時減衰力の目標値、圧縮時減衰力の目標値及びゼロ時減衰力の目標値を決定する決定部の一例である。
【0057】
以上説明したように、懸架装置20は、車両本体10と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置200を備えている。また、懸架装置20は、相対変位の変化速度であるストローク速度Vpがプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値、ストローク速度Vpがマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値、及びストローク速度Vpがゼロ(0)である場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を設定するために操作される操作部の一例としてのUI70を備えている。また、懸架装置20は、ストローク速度Vpに基づいて決定されたベース減衰力と、UI70を介して設定された伸長時調整値、圧縮時調整値及びゼロ時調整値とに基づいて、伸長時減衰力の目標値(伸長時の目標電流It)、圧縮時減衰力の目標値(圧縮時の目標電流It)及びゼロ時減衰力の目標値(ゼロ時の目標電流It)を決定する決定部の一例としての制御装置100を備えている。
【0058】
制御装置100は、ストローク速度Vpがプラスである場合であって伸長時所定速度Vpt以上(0<Vpt≦Vp)である場合には、予め定められた電流量IpにAtを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×At)。このように、制御装置100は、ベース減衰力の基となる基準電流IbとAtとを用いて、目標電流Itを設定することにより、伸長時減衰力の目標値を決定する。
【0059】
また、制御装置100は、ストローク速度Vpがプラスである場合であって伸長時所定速度Vpt未満(0<Vp<Vpt)である場合には、At、A0及び式(1)を用いて調整量Bを決定し、予め定められた電流量Ipに調整量Bを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×B)。このように、制御装置100は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibと、At及びA0と、を用いて、目標電流Itを設定することにより、伸長時減衰力の目標値を決定する。
【0060】
また、制御装置100は、ストローク速度Vpがゼロである場合には、予め定められた電流量IpにA0を乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×A0)。このように、制御装置100は、ベース減衰力の基となる基準電流IbとA0とを用いて、目標電流Itを設定することにより、ゼロ時減衰力の目標値を決定する。
【0061】
また、制御装置100は、ストローク速度Vpがマイナスである場合であって圧縮時所定速度Vpcより大きい(Vpc<Vp<0)場合には、Ac、A0及び式(2)を用いて調整量Bを決定し、予め定められた電流量Ipに調整量Bを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×B)。このように、制御装置100は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibと、Ac及びA0と、を用いて、目標電流Itを設定することにより、圧縮時減衰力の目標値を決定する。
【0062】
また、制御装置100は、ストローク速度Vpがマイナスである場合であって圧縮時所定速度Vpc以下(Vp≦Vpc<0)である場合には、予め定められた電流量IpにAcを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×Ac)。このように、制御装置100は、ベース減衰力の基となる基準電流IbとAcとを用いて、目標電流Itを設定することにより、圧縮時減衰力の目標値を決定する。
【0063】
以上のように構成された懸架装置20は、ユーザが、伸長時減衰力及び圧縮時減衰力に加えてストローク速度Vpがゼロ(0)である場合のゼロ時減衰力をも調整可能に構成されている。そのため、伸長時減衰力及び圧縮時減衰力のみ調整可能な構成に比べて、減衰力の調整幅は大きい。また、ゼロ時減衰力をも調整可能であるため、伸長時減衰力及び圧縮時減衰力のみ調整可能な構成では調整することが困難な領域である、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpcより大きく伸長時所定速度Vptより小さい領域においても減衰力の調整が可能となる。これにより、前輪側のサスペンション21及び後輪側のサスペンション22のセッティングの自由度を向上させることができるので、伸長時減衰力及び圧縮時減衰力のみ調整可能な構成よりも、きめ細かくユーザのニーズに合うセッティングにすることができる。
また、懸架装置20によれば、ユーザは、ハンドル12に隣接して配置されたUI70を介して、減衰力を調整することが可能となる。ゆえに、ユーザは、自動二輪車1のシート14に跨った状態で減衰力を調整することが可能となる。また、ユーザは、例えば工具を用いることなしに減衰力を調整することが可能となる。
【0064】
以上説明した制御装置100が行なう処理は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現することができる。この場合、制御装置100に設けられた制御用コンピュータ内部のCPUが、制御装置100の各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。例えば、プログラムを記録した記録媒体を制御装置100に提供し、制御装置100のCPUが記録媒体に格納されたプログラムを読み出す。この場合、記録媒体から読み出されたプログラム自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラム自体、及びそれを記録した記録媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMを例示することができる。
【0065】
図8は、第1の実施形態に係る記録媒体300の概略構成を示す図である。
図8に示すように第1の実施形態に係る記録媒体300は、プログラムP1を格納する。プログラムP1は、基準電流Ibを設定するIb設定機能310と、調整値Aに基づいて減衰力を調整するための調整電流Iaを設定するIa設定機能320と、目標電流Itを設定するIt設定機能330とを備えている。
Ia設定機能320は、調整量Bを決定する調整量決定機能321と、調整量Bに基づいて調整電流Iaを算出するIa算出機能322とを有している。
【0066】
Ib設定機能310は、図3に示した基準設定部121の機能を実現するモジュールである。
Ia設定機能320は、図3に示した調整部122の機能を実現するモジュールである。
It設定機能330は、図3に示した目標設定部123の機能を実現するモジュールである。
調整量決定機能321は、図3に示した調整量決定部141の機能を実現するモジュールである。
Ia算出機能322は、図3に示した算出部142の機能を実現するモジュールである。
【0067】
以上説明したように、第1の実施形態に係る記録媒体300は、車両本体10と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置200における、前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値、前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値、及び前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を取得する機能と、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力と、前記伸長時調整値、前記圧縮時調整値又は前記ゼロ時調整値とに基づいて、前記伸長時減衰力の目標値、前記圧縮時減衰力の目標値及び前記ゼロ時減衰力の目標値を決定する機能と、をコンピュータに実現させるプログラムを記録した非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0068】
なお、記録媒体300から読み出されたプログラムが、制御装置100に設けられた制御用コンピュータ内部のメモリに書きこまれた後、そのプログラムの指示に基づき、CPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した第1の実施形態の機能が実現されるようにしてもよい。
また、第1の実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを、ネットワークを介して配信することにより、それを制御装置100のハードディスクやROM等の記録手段又はCD−RW、CD−R等の記録媒体に格納し、使用時に制御装置100のCPUがこの記録手段や記録媒体に格納されたプログラムを読み出して実行するようにしても良い。
【0069】
<第2の実施形態>
図9は、第2の実施形態に係る自動二輪車400の概略構成を示す図である。
図10は、第2の実施形態に係る制御装置500の概略構成を示す図である。
第2の実施形態に係る自動二輪車400においては、第1の実施形態に係る自動二輪車1に対して、UI70に相当する構成と、調整部122に相当する構成とが異なる。以下、第1の実施形態に係る自動二輪車1と異なる点について説明する。第1の実施形態に係る自動二輪車1と第2の実施形態に係る自動二輪車400とで、同じ形状、機能を有する物については同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0070】
図9に示すように、第2の実施形態に係る自動二輪車400は、減衰装置21d及び減衰装置22dの減衰力を制御する制御装置500と、ユーザが操作可能なUI470とを備えている。第2の実施形態に係る懸架装置420は、サスペンション(サスペンション21及びサスペンション22)、ストロークセンサ30、UI470、制御装置500を有する装置である。
【0071】
図10に示すように、第2の実施形態に係る制御装置500は、算出部110と、設定部520と、駆動部130とを備えている。
設定部520は、目標電流Itを設定する上で基準となる基準電流Ib、を設定する基準設定部121と、調整値Aに基づいて減衰力を調整するための調整電流Ia、を設定する調整部522と、基準電流Ibと調整電流Iaとを加算することにより、最終的に目標電流Itを設定する目標設定部123とを有している。
調整部522は、図10に示すように、UI470を介してユーザが設定した調整値Aに基づいて調整量Bを決定する調整量決定部541と、調整量決定部541が決定した調整量Bに基づいて調整電流Iaを算出する算出部542とを有している。
【0072】
図11は、第2の実施形態に係るUI470の表示部471に示された調整値Aを設定する画面の例を示す図である。
UI470は、タッチパネル等により構成された表示部471を有する。
UI470は、減衰装置200の伸長側の減衰力(ストローク速度Vpがプラスである場合の伸長時減衰力)を調整するための伸長時調整値と、減衰装置200の圧縮側の減衰力(ストローク速度Vpがマイナスである場合の圧縮時減衰力)を調整するための圧縮時調整値との2点の調整値を設定可能に構成されている。つまり、UI470は、伸長時調整値と、圧縮時調整値とを設定するためにユーザにより操作される操作部の一例として機能する。
【0073】
図12は、Atの符号とAcの符号とが異なる場合のストローク速度Vpと調整量Bとの関係の例を示す図である。
図13は、Atの符号とAcの符号とが同じである場合のストローク速度Vpと調整量Bとの関係の例を示す図である。
【0074】
調整量決定部541は、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上である場合には、Atを調整量Bとして決定し、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下である場合には、Acを調整量Bとして決定する。そして、調整量決定部541は、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpcより大きく伸長時所定速度Vptより小さい速度領域における調整量Bを以下のように決定する。
【0075】
(イ)Atの符号とAcの符号とが異なる場合には、図12に示すように、調整量決定部541は、ストローク速度Vpが0であるときの調整量Bを0に決定する。
そして、調整量決定部541は、ストローク速度Vpが0より大きく伸長時所定速度Vptより小さい速度領域においては、この速度領域で0とAtとの間で線形的に変化する値を調整量Bとして決定する。つまり、以下の式(3)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を調整量Bとして決定する。
B=At/Vpt×Vp・・・(3)
【0076】
また、調整量決定部541は、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpcより大きく0より小さい速度領域においては、この速度領域でAcと0との間で線形的に変化する値を、調整量Bとして決定する。つまり、以下の式(4)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を調整量Bとして決定する。AtとAcの調整方向が異なる場合に、ゼロ時減衰力の目標値をこのようにして決定することにより、ユーザが減衰力を大きくしたいストローク速度領域で減衰力を小さくするように調整したり、ユーザが減衰力を小さくしたいストローク速度領域で減衰力を大きくするように調整したりする事態を回避できる。
B=Ac/Vpc×Vp・・・(4)
【0077】
(ロ)Atの符号とAcの符号とが同じである場合には、図13に示すように、調整量決定部541は、圧縮時所定速度Vpcと伸長時所定速度Vptとの間で、AcからAtまで線形的に変化させた場合における、ストローク速度Vpが0であるときの値を、調整量Bに決定する。つまり、調整量決定部541は、ストローク速度Vpが0であるときの調整量B(以下、ストローク速度Vpが0であるときの調整量Bを、「B0」とも称する。)を以下の式(5)に基づいて決定する。AtとAcの調整方向が同じである場合に、ゼロ時減衰力の目標値をこのようにして決定することにより、ユーザが希望する減衰力(調整量B)を確保することが可能になる。
B0=(Ac×Vpt−At×Vpc)/(Vpt−Vpc)・・・(5)
【0078】
そして、調整量決定部541は、ストローク速度Vpが0より大きく伸長時所定速度Vptより小さい速度領域においては、この速度領域でB0とAtとの間で線形的に変化する値を、調整量Bとして決定する。つまり、以下の式(6)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を調整量Bとして決定する。
B=(At−B0)/Vpt×Vp+B0・・・(6)
【0079】
また、調整量決定部541は、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpcより大きく0より小さい速度領域においては、この速度領域でAcとB0との間で線形的に変化する値を、調整量Bとして決定する。つまり、以下の式(7)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を調整量Bとして決定する。
B=(Ac−B0)/Vpc×Vp+B0・・・(7)
【0080】
なお、AtとAcとが共に0である場合には、両調整値の符号は同じとして扱っても異なるとして扱っても、調整量Bの値は同じとなる。
また、At及びAcのいずれか一方の調整値がゼロである場合には、Atの符号とAcの符号とが異なる場合と同様に、ストローク速度Vpがゼロであるときの調整量Bを0に決定すると良い。At及びAcのいずれか一方がゼロである場合に、このようにしてゼロ時減衰力の目標値を決定することにより、伸長側、圧縮側のそれぞれを独立してセッティングすることが可能になる。
【0081】
次に、フローチャートを用いて、第2の実施形態に係る設定部520が行う目標電流設定処理の手順について説明する。
図14及び図15は、第2の実施形態に係る設定部520が行う目標電流設定処理の手順を示すフローチャートである。
【0082】
設定部520は、基準電流Ibを設定する(S1400)。これは、基準設定部121が、算出部110で算出されたストローク速度Vpを取得するとともに、取得したストローク速度Vpと例えば図4に示した制御マップとに基づいて基準電流Ibを算出する処理である。
設定部520は、At及びAcを取得する(S1401)。これは、調整量決定部541が、UI470を介してユーザが設定したAt及びAcを取得する処理である。
【0083】
設定部520は、Atの符号とAcの符号が異なるか、又はAt若しくはAcが0か否かを判別する(S1402)。これは、調整部522の調整量決定部541が、取得したAt及びAcの符号に基づいて判別する処理である。
そして、At及びAcの符号が異なるか、又はAt若しくはAcが0である場合(S1402でYes)、ストローク速度Vpが0であるか否かを判別する(S1403)。これは、上述したS702の処理と同じである。ストローク速度Vpが0である場合(S1403でYes)、調整量決定部541は、調整量Bを0に決定する(S1404)。
【0084】
一方、ストローク速度Vpが0ではない場合(S1403でNo)、調整量決定部541は、ストローク速度Vpがプラスであるか否かを判別する(S1405)。ストローク速度Vpがプラスである場合(S1405でYes)、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上であるか否かを判別する(S1406)。ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上である場合(S1406でYes)、調整量決定部541は、Atを調整量Bとして決定する(S1407)。他方、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上ではない場合(S1406でNo)、ストローク速度Vpは0より大きく伸長時所定速度Vptより小さいので、調整量決定部541は、上述した式(3)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を、調整量Bとして決定する(S1408)。
【0085】
ストローク速度Vpがプラスではない場合(S1405でNo)、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下であるか否かを判別する(S1409)。ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下である場合(S1409でYes)、調整量決定部541は、Acを調整量Bとして決定する(S1410)。ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下ではない場合(S1409でNo)、ストローク速度Vpは圧縮時所定速度Vpcより大きく0より小さいので、調整量決定部541は、上述した式(4)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を、調整量Bとして決定する(S1411)。
【0086】
一方、At及びAcの符号が同じであり、At及びAcが0ではない場合(S1402でNo)、ストローク速度Vpが0であるか否かを判別する(S1412)。そして、ストローク速度Vpが0である場合(S1412でYes)、調整量決定部541は、調整量Bを、上述した式(5)を用いて算出したB0に決定する(S1413)。
【0087】
ストローク速度Vpが0ではない場合(S1412でNo)、調整量決定部541は、ストローク速度Vpがプラスであるか否かを判別する(S1414)。ストローク速度Vpがプラスである場合(S1414でYes)、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上であるか否かを判別する(S1415)。ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上である場合(S1415でYes)、調整量決定部541は、Atを調整量Bとして決定する(S1416)。他方、ストローク速度Vpが伸長時所定速度Vpt以上ではない場合(S1415でNo)、ストローク速度Vpは0より大きく伸長時所定速度Vptより小さいので、調整量決定部541は、上述した式(6)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を、調整量Bとして決定する(S1417)。
【0088】
ストローク速度Vpがプラスではない場合(S1414でNo)、ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下であるか否かを判別する(S1418)。ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下である場合(S1418でYes)、調整量決定部541は、Acを調整量Bとして決定する(S1419)。ストローク速度Vpが圧縮時所定速度Vpc以下ではない場合(S1418でNo)、ストローク速度Vpは圧縮時所定速度Vpcより大きく0より小さいので、調整量決定部541は、上述した式(7)にストローク速度Vpを代入することにより得た値を、調整量Bとして決定する(S1420)。
【0089】
設定部520は、S1404、S1407、S1408、S1410、S1411、S1413、S1416、S1417、S1419又はS1420にて調整量Bを決定した後、調整電流Iaを設定する(S1421)。これは、算出部542が、S1404、S1407、S1408、S1410、S1411、S1413、S1416、S1417、S1419又はS1420にて決定した調整量Bに、予め定められた電流量Ipを乗算することにより得た値を調整電流Ia(=B×Ip)とする処理である。
その後、設定部520は、目標電流Itを設定する(S1422)。これは、目標設定部123が、S1400にて設定した基準電流Ibと、S1421にて設定した調整電流Iaとを加算することにより得た値を目標電流Itに設定する処理である(It=Ib+Ia)。
【0090】
上述したように、設定部520が目標電流設定処理を行って目標電流Itを設定することで、制御装置500は、以下の方法(第2の実施形態に係る制御方法)にて減衰装置200の減衰力を制御する。
すなわち、車両本体10と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置200の減衰力を制御する方法であって、
前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値及び前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値を設定するために操作される操作部から前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値を取得し、
前記変化速度がゼロではない場合に、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力と、前記伸長時調整値又は前記圧縮時調整値とに基づいて、前記伸長時減衰力の目標値及び前記圧縮時減衰力の目標値を決定し、
前記変化速度がゼロである場合に、前記ベース減衰力を前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力の目標値として決定することを特徴とする。
【0091】
つまり、制御装置500は、図14に示したステップ1401で、UI470を介してユーザが設定したAt及びAcを取得する。
そして、制御装置500は、図14に示したステップ1400で、ベース減衰力の基となる基準電流Ibを算出する。また、制御装置500は、図14に示したステップ1407若しくはステップ1408、又は、図15に示したステップ1416若しくはステップ1417で、ストローク速度Vpが0より大きい場合の調整量Bを決定し、ステップ1421で、ストローク速度Vpが0より大きい場合の調整電流Iaを設定する。また、制御装置500は、図14に示したステップ1410若しくはステップ1411、又は、図15に示したステップ1419若しくはステップ1420で、ストローク速度Vpが0より小さい場合の調整量Bを決定し、ステップ1421で、ストローク速度Vpが0より小さい場合の調整電流Iaを設定する。このようにして、制御装置500は、ベース減衰力と、At又はAcとに基づいて、伸長時減衰力の目標値及び圧縮時減衰力の目標値を決定する。また、制御装置500は、図14に示したステップ1404で、ストローク速度Vpが0である場合の調整量Bをゼロに決定し、ステップ1421で、ストローク速度Vpが0である場合の調整電流Iaをゼロに設定する。そして、制御装置500は、ステップ1422で、基準電流Ibと調整電流Iaとを加算することにより得た値、つまり調整電流Iaはゼロであるから基準電流Ibを、目標電流Itとして設定する。このようにして、制御装置500は、ベース減衰力をゼロ時減衰力の目標値として決定する。
【0092】
ここで、前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値の調整方向が異なる場合には、前記ベース減衰力を前記ゼロ時減衰力の目標値として決定し、前記調整方向が同じである場合には、前記伸長時調整値と前記圧縮時調整値とに基づいて前記ゼロ時減衰力の目標値を決定しても良い。
つまり、図14に示したステップ1402でAtの符号とAcの符号が異なると判定された場合には、上述したように、図14に示したステップ1404で、ストローク速度Vpが0である場合の調整量Bをゼロに決定し、ステップ1421で調整電流Iaをゼロに設定する。そして、制御装置500は、ステップ1422で、基準電流Ibを目標電流Itとして設定する。このようにして、制御装置500は、Atの符号とAcの符号が異なる場合には、ベース減衰力をゼロ時減衰力の目標値として決定する。一方、図14に示したステップ1402でAtの符号とAcの符号が同じであると判定された場合には、図15に示したステップ1413で、ストローク速度Vpが0である場合の調整量BをB0、つまりAtとAcとに基づいて決定した値に決定する。そして、制御装置500は、ステップ1421で、ストローク速度Vpが0である場合の調整電流Iaを、調整量Bを用いて設定し、ステップ1422で、基準電流Ibと調整電流Iaとを加算することにより得た値を、目標電流Itとして設定する。このようにして、制御装置500は、Atの符号とAcの符号が同じである場合には、AtとAcとに基づいてゼロ時減衰力の目標値を決定する。
【0093】
また、前記伸長時調整値及び前記圧縮時調整値のいずれか一方がゼロである場合には、前記ベース減衰力を前記ゼロ時減衰力の目標値として決定しても良い。
つまり、図14に示したステップ1402でAt若しくはAcが0であると判定された場合には、図14に示したステップ1404で、ストローク速度Vpが0である場合の調整量Bをゼロに決定し、ステップ1421で調整電流Iaをゼロに設定する。そして、制御装置500は、ステップ1422で、基準電流Ibを目標電流Itとして設定する。このようにして、制御装置500は、At若しくはAcが0である場合には、ベース減衰力をゼロ時減衰力の目標値として決定する。
【0094】
以上説明したように、第2の実施形態に係る制御装置500の設定部520は、基準設定部121がストローク速度Vpに基づいて設定した基準電流Ibと、調整部522が設定した調整電流Iaとを加算することにより、目標電流Itを設定する。上述したように、減衰力制御弁240は、ソレノイドに供給される電流量に応じて弁を通過する作動油の圧力を制御する。そして、制御装置500は、減衰力制御弁240のソレノイドに供給する電流量を制御することで減衰装置200の減衰力を制御する。言い換えれば、制御装置500は、減衰装置200の減衰力が所望の減衰力となるように減衰力制御弁240のソレノイドに供給する電流量を制御する。従って、制御装置500は、ストローク速度Vpが0ではない場合に、ストローク速度Vpに基づいて設定した基準電流Ibに起因して生じるベース減衰力と、At又はAcとに基づいて、伸長時減衰力の目標値又は圧縮時減衰力の目標値を決定する第1決定部の一例である。また、制御装置500は、ストローク速度Vpが0である場合に、ストローク速度Vpに基づいて設定した基準電流Ibに起因して生じるベース減衰力を、ゼロ時減衰力の目標値として決定する第2決定部の一例である。
【0095】
以上説明したように、第2の実施形態に係る懸架装置420は、車両本体10と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置200を備えている。また、第2の実施形態に係る懸架装置420は、相対変位の変化速度であるストローク速度Vpがプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値及びストローク速度Vpがマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値を設定するために操作される操作部の一例としてのUI470を備えている。また、第2の実施形態に係る懸架装置420は、ストローク速度Vpがゼロではない場合に、ストローク速度Vpに基づいて決定したベース減衰力と、UI470を介して設定された伸長時調整値又は圧縮時調整値とに基づいて、伸長時減衰力の目標値(伸長時の目標電流It)及び圧縮時減衰力の目標値(圧縮時の目標電流It)を決定する第1決定部の一例としての制御装置500を備えている。また、第2の実施形態に係る懸架装置420は、ストローク速度Vpがゼロである場合に、ストローク速度Vpに基づいて決定したベース減衰力をストローク速度Vpがゼロである場合のゼロ時減衰力の目標値(ゼロ時の目標電流It)として決定する第2決定部の一例としての制御装置500を備えている。
【0096】
制御装置500は、Atの符号とAcの符号とが異なる場合、及び、Atの符号とAcの符号とが同じである場合の何れの場合においても、ストローク速度Vpがプラスである場合であって伸長時所定速度Vpt以上(0<Vpt≦Vp)である場合には、予め定められた電流量IpにAtを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×At)。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流IbとAtとを用いて、目標電流Itに設定することにより、伸長時減衰力の目標値を決定する。
【0097】
また、制御装置500は、Atの符号とAcの符号とが異なる場合、及び、Atの符号とAcの符号とが同じである場合の何れの場合においても、ストローク速度Vpがマイナスである場合であって圧縮時所定速度Vpc以下(Vp≦Vpc<0)である場合には、予め定められた電流量IpにAcを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×Ac)。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流IbとAcとを用いて、目標電流Itに設定することにより、圧縮時減衰力の目標値を決定する。
【0098】
また、制御装置500は、Atの符号とAcの符号とが異なる場合であって、ストローク速度Vpがゼロである場合には、基準電流Ibを目標電流Itに設定することにより(It=Ib)、ゼロ時減衰力の目標値を決定する。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibを用いて、目標電流Itに設定することにより、ゼロ時減衰力の目標値を決定する。
【0099】
また、制御装置500は、Atの符号とAcの符号とが異なる場合、ストローク速度Vpがプラスである場合であって伸長時所定速度Vpt未満(0<Vp<Vpt)である場合には、At及び式(3)を用いて調整量Bを決定し、予め定められた電流量Ipに調整量Bを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×B)。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibと、Atとを用いて、目標電流Itに設定することにより、伸長時減衰力の目標値を決定する。
【0100】
また、制御装置500は、Atの符号とAcの符号とが異なる場合、ストローク速度Vpがマイナスである場合であって圧縮時所定速度Vpcより大きい(Vpc<Vp<0)場合には、Ac及び式(4)を用いて調整量Bを決定し、予め定められた電流量Ipに調整量Bを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×B)。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibと、Acとを用いて、目標電流Itに設定することにより、圧縮時減衰力の目標値を決定する。
【0101】
また、制御装置500は、Atの符号とAcの符号とが同じである場合であって、ストローク速度Vpがゼロである場合には、At、Ac及び式(5)を用いて調整量Bを決定し、予め定められた電流量Ipに調整量Bを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×B)。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibと、At及びAcとを用いて、目標電流Itに設定することにより、ゼロ時減衰力の目標値を決定する。
【0102】
また、制御装置500は、Atの符号とAcの符号とが同じである場合、ストローク速度Vpがプラスである場合であって伸長時所定速度Vpt未満(0<Vp<Vpt)である場合には、At、Ac、式(5)及び式(6)を用いて調整量Bを決定し、予め定められた電流量Ipに調整量Bを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×B)。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibと、At及びAcとを用いて、目標電流Itに設定することにより、伸長時減衰力の目標値を決定する。
【0103】
また、制御装置500は、Atの符号とAcの符号とが同じである場合、ストローク速度Vpがマイナスである場合であって圧縮時所定速度Vpcより大きい(Vpc<Vp<0)場合には、At、Ac、式(5)及び式(7)を用いて調整量Bを決定し、予め定められた電流量Ipに調整量Bを乗算することにより得た値を、基準電流Ibに加算し、加算することにより得た値を目標電流Itに設定する(It=Ib+Ip×B)。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibと、At及びAcとを用いて、目標電流Itに設定することにより、圧縮時減衰力の目標値を決定する。
【0104】
また、制御装置500は、AtとAcとが0である場合、ストローク速度Vpに関わらず、基準電流Ibを目標電流Itに設定する(It=Ib)。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibを用いて、目標電流Itに設定することにより、伸長時減衰力の目標値、圧縮時減衰力の目標値、及び、ゼロ時減衰力の目標値を決定する。
【0105】
また、制御装置500は、At又はAcが0であり、AtとAcとが同じ値ではない場合であって、ストローク速度Vpがゼロである場合には、基準電流Ibを目標電流Itに設定することにより(It=Ib)、ゼロ時減衰力の目標値を決定する。このように、制御装置500は、ベース減衰力の基となる基準電流Ibを用いて、目標電流Itに設定することにより、ゼロ時減衰力の目標値を決定する。
【0106】
以上のように構成された第2の実施形態に係る懸架装置420によれば、UI470を介して設定されたAtの符号とAcの符号が異なるか、又はAt若しくはAcが0かである場合であって、ストローク速度Vpが0である場合には、調整量Bが0となる(S1404)。それゆえ、かかる場合には調整電流Iaがゼロ(0)となるので、目標電流Itは、基準電流Ibと等しくなる。つまり、ストローク速度Vpがゼロである場合に、ストローク速度Vpに基づいて決定した基準電流Ibによって生じるベース減衰力がゼロ時減衰力の目標値となる。言い換えれば、ゼロ時減衰力は、基準電流Ibによって生じるベース減衰力となり、UI470を介して設定されたAt又はAcに基づく減衰力は加味されない。それゆえ、第2の実施形態に係る懸架装置420によれば、例えば、UI470を介してAt又はAcとして減衰力を小さくする値が設定されているにも関わらず、減衰力を大きくするように調整することが抑制される。例えば、図12に示すようにAtとしてマイナスの値(減衰力を小さくする値)が設定されているにも関わらず、ストローク速度Vpがゼロ以上伸長時所定速度Vpt未満である領域でベース減衰力よりも減衰力が大きくなる方向に調整されることが抑制される。このように、第2の実施形態に係る懸架装置420によれば、単に伸長時減衰力及び圧縮時減衰力のみ調整可能な従来の構成よりも、ユーザが所望する減衰力に精度高く合わせることができる。
また、第2の実施形態に係る懸架装置420によれば、ユーザは、ハンドル12に隣接して配置されたUI470を介して、減衰力を調整することが可能となる。ゆえに、ユーザは、自動二輪車400のシート14に跨った状態で減衰力を調整することが可能となる。また、ユーザは、例えば工具を用いることなしに減衰力を調整することが可能となる。
【0107】
以上説明した制御装置500が行なう処理は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現することができる。この場合、制御装置500に設けられた制御用コンピュータ内部のCPUが、制御装置500の各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。例えば、プログラムを記録した記録媒体を制御装置500に提供し、制御装置500のCPUが記録媒体に格納されたプログラムを読み出す。この場合、記録媒体から読み出されたプログラム自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラム自体、及びそれを記録した記録媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMを例示することができる。
【0108】
図16は、第2の実施形態に係る記録媒体600の概略構成を示す図である。
図16に示すように第2の実施形態に係る記録媒体600は、プログラムP2を格納する。プログラムP2は、基準電流Ibを設定するIb設定機能610と、調整値Aに基づいて減衰力を調整するための調整電流Iaを設定するIa設定機能620と、目標電流Itを設定するIt設定機能630とを備えている。
Ia設定機能620は、調整量Bを決定する調整量決定機能621と、調整量Bに基づいて調整電流Iaを算出するIa算出機能622とを有している。
【0109】
Ib設定機能610は、図10に示した基準設定部121の機能を実現するモジュールである。
Ia設定機能620は、図10に示した調整部522の機能を実現するモジュールである。
It設定機能630は、図10に示した目標設定部123の機能を実現するモジュールである。
調整量決定機能621は、図10に示した調整量決定部541の機能を実現するモジュールである。
Ia算出機能622は、図10に示した算出部542の機能を実現するモジュールである。
【0110】
以上説明したように、第2の実施形態に係る記録媒体600は、車両本体10と車輪との間の相対変位が大きくなる伸長方向の力を減衰させると共に、前記相対変位が小さくなる圧縮方向の力を減衰させる減衰装置200における、前記相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値及び前記変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値を取得する機能と、前記変化速度がゼロではない場合に、前記変化速度に基づいて決定したベース減衰力と、前記伸長時調整値又は前記圧縮時調整値とに基づいて、前記伸長時減衰力の目標値及び前記圧縮時減衰力の目標値を決定する機能と、前記変化速度がゼロである場合に、前記ベース減衰力を前記変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力の目標値として決定する機能と、をコンピュータに実現させるプログラムを記録した非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0111】
なお、記録媒体600から読み出されたプログラムが、制御装置500に設けられた制御用コンピュータ内部のメモリに書きこまれた後、そのプログラムの指示に基づき、CPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した第2の実施形態の機能が実現されるようにしてもよい。
また、第2の実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを、ネットワークを介して配信することにより、それを制御装置500のハードディスクやROM等の記録手段又はCD−RW、CD−R等の記録媒体に格納し、使用時に制御装置500のCPUがこの記録手段や記録媒体に格納されたプログラムを読み出して実行するようにしても良い。
【0112】
<第3の実施形態>
図17は、第3の実施形態に係る自動二輪車700の概略構成を示す図である。
図18は、第3の実施形態に係る制御装置800の概略構成を示す図である。
第3の実施形態に係る自動二輪車700においては、第1の実施形態に係る自動二輪車1及び第2の実施形態に係る自動二輪車400に対して、UI70又はUI470に相当する構成と、制御装置100の調整部122又は制御装置500の調整部522に相当する構成とが異なる。以下、第1の実施形態に係る自動二輪車1及び第2の実施形態に係る自動二輪車400と異なる点について説明する。第1の実施形態に係る自動二輪車1及び第2の実施形態に係る自動二輪車400と、第3の実施形態に係る自動二輪車700とで、同じ形状、機能を有する物については同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0113】
図17に示すように、第3の実施形態に係る自動二輪車700は、減衰装置21d及び減衰装置22dの減衰力を制御する制御装置800と、ユーザが操作可能なUI770とを備えている。第3の実施形態に係る懸架装置720は、サスペンション(サスペンション21及びサスペンション22)、ストロークセンサ30、UI770、制御装置800を有する装置である。
【0114】
図18に示すように、第3の実施形態に係る制御装置800は、算出部110と、設定部820と、駆動部130とを備えている。
設定部820は、目標電流Itを設定する上で基準となる基準電流Ib、を設定する基準設定部121と、調整値Aに基づいて減衰力を調整するための調整電流Ia、を設定する調整部822と、基準電流Ibと調整電流Iaとを加算することにより、最終的に目標電流Itを設定する目標設定部123とを有している。
調整部822は、図18に示すように、UI770を介してユーザが設定した調整値Aに基づいて調整量Bを決定する調整量決定部841と、調整量決定部841が決定した調整量Bに基づいて調整電流Iaを算出する算出部842とを有している。
【0115】
UI770は、第1の実施形態に係るUI70が備える3点の調整値Aを設定可能な機能と、第2の実施形態に係るUI470が備える2点の調整値Aを設定可能な機能とを備える。加えて、第3の実施形態に係るUI770においては、これら3点の調整値Aを設定可能な機能と、2点の調整値Aを設定可能な機能とを、ユーザの設定により切り替える機能とを有する。
【0116】
なお、3点の調整値Aを設定可能な機能と2点の調整値Aを設定可能な機能とをユーザの設定により切り替える機能は、UI770(操作部)の表示部にて実現するのではなく、切替スイッチ(不図示)にて実現しても良い。この切替スイッチとしては、例えば、一方の端部と他方の端部とが押されることにより切り替えるシーソースイッチを使用することができる。具体的には、一方の端部が押されると表示部を介して3点の調整値Aを設定可能とし、他方の端部が押されると表示部を介して2点の調整値Aを設定可能とするスイッチ等を例示することができる。切替スイッチは、例えば、UI770(操作部)に隣接して配置されていることを例示することができる。
【0117】
第3の実施形態に係る調整量決定部841は、3点の調整値Aを設定可能な機能が選択されている場合には、第1の実施形態に係る調整量決定部141と同様の手法で調整量Bを決定する。一方、第3の実施形態に係る調整量決定部841は、2点の調整値Aを設定可能な機能が設定されている場合には、第2の実施形態に係る調整量決定部541と同様の手法で調整量Bを決定する。
【0118】
これにより、第3の実施形態に係る懸架装置720によれば、第1の実施形態に係る懸架装置20の効果と第2の実施形態に係る懸架装置420の効果のいずれの効果を得るかをユーザに選択させることができる。これにより、3点の調整値Aを設定可能な機能を選択した場合には、サスペンション21及びサスペンション22のセッティングの自由度を向上させることができ、伸長時減衰力及び圧縮時減衰力のみ調整可能な構成よりも、きめ細かくユーザのニーズに合う減衰力にすることができる。また、2点の調整値Aを設定可能な機能を選択した場合には、単に伸長時減衰力及び圧縮時減衰力のみ調整可能な従来の構成よりも、ユーザが所望する減衰力に精度高く合わせることができる。
【符号の説明】
【0119】
1,400,700…自動二輪車、2…前輪、3…後輪、21…サスペンション、22…サスペンション、70,470,770…UI(操作部)、100…制御装置(決定部)、110…算出部、120,520,820…設定部、122,522,822…調整部、130…駆動部、200…減衰装置、240…減衰力制御弁、500…制御装置(第1決定部、第2決定部)、800…制御装置
【要約】
懸架装置20は、減衰装置と、車両本体と車輪との間の相対変位の変化速度がプラスである場合の伸長時減衰力を調整するための伸長時調整値、変化速度がマイナスである場合の圧縮時減衰力を調整するための圧縮時調整値、及び変化速度がゼロである場合のゼロ時減衰力を調整するためのゼロ時調整値を設定するために操作されるUI70と、伸長時減衰力の目標値を決定する際には、ベース減衰力及び伸長時調整値、又は、ベース減衰力、伸長時調整値、及びゼロ時調整値を用い、圧縮時減衰力の目標値を決定する際には、ベース減衰力、圧縮時調整値、及びゼロ時調整値、又は、ベース減衰力及び圧縮時調整値を用い、ゼロ時減衰力の目標値を決定する際には、ベース減衰力及びゼロ時調整値を用いる制御装置100と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図17
図18