特許第6337231号(P6337231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337231
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】送風機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/44 20060101AFI20180528BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20180528BHJP
   A61M 16/00 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   F04D29/44 K
   F04D29/44 J
   F04D29/44 N
   F04D29/66 N
   F04D29/44 P
   A61M16/00 380
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-533162(P2014-533162)
(86)(22)【出願日】2013年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2013073621
(87)【国際公開番号】WO2014034942
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000138060
【氏名又は名称】株式会社メトラン
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】新田 一福
(72)【発明者】
【氏名】塩田 真市
(72)【発明者】
【氏名】東裏 雅司
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5211302(JP,B1)
【文献】 特開2005−090379(JP,A)
【文献】 特公昭26−006584(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
A61M 16/00
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口、及び吐出口に繋がる流路を有する筐体と、
前記吸気口に自身の正面が面するように前記筐体内に配置される羽根車と、
前記羽根車の背面側に配置されることで、前記筐体の内部を、前記羽根車が配置される空間及び前記流路に仕切る仕切り部材と、を備え、
前記仕切り部材は、前記筐体の内周面との間に、該筐体の内周面に沿って延びるスリットを形成し、
前記空間において、前記羽根車の背面と前記仕切り部材の間には、前記筐体の内周面側に向かって開放される周方向の隙間が形成されており、
前記仕切り部材には、前記羽根車の背面を臨み且つ前記隙間及び前記流路を繋ぐ通気路が形成されることで、前記流路から前記通気路を介して前記隙間に流れる気体が、前記スリットを経て前記流路に流れ込むようになっており、
呼吸補助装置に用いられることを特徴とする、
送風機。
【請求項2】
前記流路は、前記スリットに沿って延びることを特徴とする、
請求項1に記載の送風機。
【請求項3】
前記通気路が、周方向に複数形成されていることを特徴とする、
請求項1〜2のいずれかに記載の送風機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸補助装置に用いる送風機に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時の無呼吸は、睡眠中に気道の筋肉が弛緩して舌根部や軟口蓋が下がり、気道を閉塞することによって生じる。この種の呼吸障害の患者に対しては、気道に陽圧(正圧)を印加する呼吸補助装置が利用される(特開2012−115375号公報及び非特許文献(株式会社メトラン、[online]、製品情報>ジャスミン、[平成24年6月29日検索]、インターネット(URL:http://www.metran.co.jp/products/products2/190.html))参照)。呼吸補助装置は、気道に陽圧を作り出すためのポンプユニットが必要となる。ポンプユニットの動力源には、羽根車(ファン)を回転させて気体を搬送する送風機(ブロア)などが使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような呼吸補助装置は、快適な睡眠をサポートするものであるので、できる限り静音であることが好ましく、究極は無音であることが好ましい。このため、ノイズの発生源となる送風機の静音化が望まれている。
【0004】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、静音化を実現する送風機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、吸気口、及び吐出口に繋がる流路を有する筐体と、前記吸気口に自身の正面が面するように前記筐体内に配置される羽根車と、前記羽根車の背面側に配置されることで、前記筐体の内部を、前記羽根車が配置される空間及び前記流路に仕切る仕切り部材と、を備え、前記仕切り部材は、前記筐体の内周面との間に、該筐体の内周面に沿って延びる1.0mm以下の幅のスリットを形成することを特徴とする、送風機である。
【0006】
本発明によれば、羽根車が配置される空間と、吐出口に繋がる流路と、の二段構造を採用したので、吸気口から吸い込む空気の流れと、吐出口から送り出す空気の流れと、を分離することができる。これにより、吸気口から吸い込む空気の流れと、吐出口から送り出す空気の流れと、が衝突することを防止できる。すなわち、空気の流れが互いに衝突することによるノイズの発生を防止できる。
【0007】
また、羽根車が配置される空間と流路を結ぶスリットを空気が流れることにより、ノイズが発生する。このノイズによって、羽根車の回転に伴って発生する他のノイズをキャンセルすることができる。
【0008】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記流路は、前記スリットに沿って延びることを特徴とする。
【0009】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記スリットは、前記筐体の内周直径の1.5%以下の幅であることを特徴とする。
【0010】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記流路は、輪切りにした断面形状が真円又は前記羽根車の半径方向に相対的に長い形状であることを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、羽根車が配置される空間から流路に流れ込んだ空気は、流路の側壁、底面、天井面に沿って滑らかに移動する。これにより、乱流の発生が防止される。ひいては、ノイズの発生が防止される。
【0012】
本発明はまた、上記手段の送風機は、前記羽根車を回転させるモーターを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明はまた、上記手段の送風機は、前記羽根車の回転軸に沿った方向に、該羽根車、前記モーター、前記流路の順に配置されることを特徴とする。
【0014】
本発明はまた、上記手段の送風機は、前記流路は、前記モーターを周回するように配置されることを特徴とする。
【0015】
上記発明によれば、羽根車の回転軸方向の小型化を実現できる。
【0016】
本発明はまた、上記手段の送風機は、前記吸気口の中心に、該吸気口の外側に突出するように設けられた整流部材を備えることを特徴とする。
【0017】
上記発明によれば、整流部材を備えていない場合や、整流部材が吸気口の外側に突出せず内側に収まっている場合と比較して、吸気口付近における空気の衝突を防止できる。例えば、整流部材を備えていない場合、吸気口から吸い込まれた空気は、羽根車やその回転軸に衝突することになるが、上記発明では、そのような衝突は生じない。また、整流部材が吸気口の外側に突出せず内側に収まっている場合、整流部材によって筐体内が急激に狭くなって、筐体内に吸い込まれた空気が衝突するが、上記発明では、そのような衝突は生じない。これにより、ノイズの発生を防止できる。
【0018】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記整流部材は、前記羽根車の回転軸の一端を支持することを特徴とする。
【0019】
上記発明によれば、羽根車の振動を防止できる。ひいては、ノイズの発生を防止できる。また、整流部材が羽根車の回転軸の一端を支持する機能を兼ねているので、部品点数を減らすことができ、軽量化、小型化を実現できる。これにより、泊まりがけの旅行や出張などに気軽に持ち運ぶことができる。
【0020】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記羽根車は、回転軸の周りに配置された複数の羽根と、前記複数の羽根の前記仕切り部材側を覆う被覆部材と、を備えてなり、前記複数の羽根の前記吸気口側が開放していることを特徴とする。
【0021】
上記発明によれば、複数の羽根の吸気口側を覆う被覆部材を備えている場合と比較して、軽量化、小型化を実現できる。これにより、泊まりがけの旅行や出張などに気軽に持ち運ぶことができる。
【0022】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記被覆部材は、前記吸気口側に突出する円錐面を有することを特徴とする。
【0023】
上記発明によれば、吸気口から筐体内に吸い込まれた空気を、滑らかに被覆部材に沿って流すことができる。これにより、吸気口から筐体内に吸い込まれた空気が被覆部材に衝突することが防止できる。ひいては、ノイズの発生を防止できる。
【0024】
本発明はまた、上記手段の送風機は、呼吸補助装置に用いられることを特徴とする。
【0025】
上記発明によれば、静音化を実現できるので、呼吸補助装置を利用する患者への聴覚的な負担を軽減できる。すなわち、呼吸補助装置を利用する患者の安眠を阻害することを防止できる。
【0026】
本発明はまた、上記手段の送風機は、吸気口、及び吐出口に繋がる流路を有する筐体と、前記吸気口に自身の正面が面するように前記筐体内に配置される羽根車と、前記羽根車の背面側に配置されることで、前記筐体の内部を、前記羽根車が配置される空間及び前記流路に仕切る仕切り部材と、を備え、前記仕切り部材は、前記筐体の内周面との間に、該筐体の内周面に沿って延びるスリットを形成し、前記仕切り部材には、前記空間及び前記流路を繋ぐ通気路が形成されていることを特徴とする。
【0027】
上記発明によれば、羽根車が配置される空間と、吐出口に繋がる流路と、の二段構造を採用したので、吸気口から吸い込む空気の流れと、吐出口から送り出す空気の流れと、を分離することができる。これにより、吸気口から吸い込む空気の流れと、吐出口から送り出す空気の流れと、が衝突することを防止できる。すなわち、空気の流れが互いに衝突することによるノイズの発生を防止できる。
【0028】
また、羽根車が配置される空間と流路を結ぶスリットを空気が流れることにより、ノイズが発生する。このノイズによって、羽根車の回転に伴って発生する他のノイズをキャンセルすることができる。
【0029】
さらに、仕切り部材に通気路が形成されているので、流路に逆流してきた患者の呼気が通気路を流れ、流路から逃げる。これにより、流路に逆流してきた患者の呼気が、スリットを介して流路に流れ込む空気(患者の吸気となる空気)と、スリット付近で衝突すること(いわゆる「ファイティング」)が防止される。すなわち、呼気と吸気が互いに衝突することによるノイズの発生を防止できる。また、ファイティングが防止されるので、呼気が吐きづらくなることが防止される。
【0030】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記流路は、前記スリットに沿って延びることを特徴とする。
【0031】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記通気路は、前記羽根車の背面を臨むように形成されていることを特徴とする。
【0032】
羽根車の背面と仕切り部材との隙間には、羽根車の回転による遠心力で、負圧が生じている。上記発明によれば、羽根車の回転による遠心力で生じた負圧で、流路に逆流してきた患者の呼気を通気路に引っ張ることができる。これにより、流路に逆流してきた患者の呼気が、スリットを介して流路に流れ込む空気(患者の吸気となる空気)と、スリット付近で衝突することが確実に防止される。
【0033】
本発明はまた、上記手段の送風機において、前記スリットは、1.0mm以下の幅を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、静音化を実現できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1実施形態に係る送風機の上面図である。
図2図1に示す送風機の正面図である。
図3図1に示す送風機の縦断面図である。
図4】羽根車の上面図である。
図5】流路の横断面図である。
図6】筐体の内周面に沿って延びるスリットの幅とノイズキャンセルレベルとの関係を示すグラフであり、横軸にスリットの幅を、縦軸にノイズキャンセルレベルをそれぞれ示す。
図7】比較例に係る送風機の縦断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る送風機を示す図であり、(A)は縦断面図であり、(B)は羽根車及び仕切り部材の上面図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る送風機を示す図であり、(A)は縦断面図であり、(B)は羽根車及び仕切り部材の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明に係る送風機について詳細に説明する。
【0037】
まず、図1図6を用いて、本発明の第1実施形態に係る送風機10の構成について説明する。図1は、送風機10の上面図である。図2は、送風機10の正面図である。図3は、送風機10の縦断面図である。図4は、羽根車13の上面図である。図5は、流路22の横断面図である。図6は、筐体11の内周面に沿って延びる(周回する)スリットdの幅wとノイズキャンセルレベルとの関係を示すグラフであり、横軸にスリットdの幅wを、縦軸にノイズキャンセルレベルをそれぞれ示す。なお、各図において、一部の構成や、断面を示すハッチング等を適宜省略して、図面を簡略化する。そして、各図において、部材の大きさを適宜誇張して表現する。
【0038】
図1図3に示される送風機10は、呼吸障害の患者が利用する呼吸補助装置に必要となるポンプユニットの動力源であり、気道に陽圧を作り出すために送風する。なお、ポンプユニットには、1台又は複数台の送風機10が適宜組み込まれる。また、呼吸補助装置には、1台又は複数台のポンプユニットが適宜接続される。
【0039】
具体的に、送風機10は、筐体11と、整流部材12と、羽根車13と、モーター14と、仕切り部材15と、を備えている。
【0040】
筐体11は、樹脂で成型された送風機10本体であり、外観形状が略円錐台の上部11aと、外観形状が略円柱の下部11bと、この下部11bから側方に延出した吐出管11cと、から構成される。上部11aは、上方に向けて滑らかに湾曲している。そして、上部11aは、上端に円形の吸気口16を有している。下部11bには、羽根車13の回転軸18を支持する軸受として機能するベアリング11dが埋め込まれている。吐出管11cは、先端に吐出口17を有している。このような筐体11は、吸気口16から空気を取り込み、そして、吐出口17から空気を送り出す。なお、空気に限定されず、薬品を混合した空気や、酸素など、その他の気体であってもよい。
【0041】
整流部材12は、ガスタービン型のジェットエンジンを模したもので、先端が突出した形状を呈する。この整流部材12は、吸気口16の中心に、当該吸気口16の外側に突出するように設けられる。そして、整流部材12は、例えば3本の連結部材12aによって、吸気口16の縁に連結されて固定されている。また、整流部材12は、ベアリング12bが埋め込まれており、羽根車13の回転軸18を支持する軸受を兼ねる。
【0042】
図3及び図4に示される羽根車13は、自身の正面が吸気口16に面するように筐体11内に配置される。すなわち、羽根車13は、後述する流路22よりも、回転軸18方向における吸気口16側に位置する。この羽根車13は、回転軸18の周りに配置された複数の羽根19と、これら複数の羽根19の背面側(図3における下側)を覆う被覆部材20と、を備えている。そして、羽根車13は、複数の羽根19の吸気口16側が開放している。すなわち、複数の羽根19の吸気口16側には、被覆部材20のような部材が設けられていない。複数の羽根19は、被覆部材20と一体に成型されている。
【0043】
これら複数の羽根19は、筐体11の内周面に面している。そして、複数の羽根19は、設計通りに作ることが可能であるならば、筐体11の内周面との間の隙間が限りなく0[mm]に近いことが好ましい。ただし、設計誤差を考慮した場合、羽根19と筐体11内周面との衝突を防止する観点から、ある程度の隙間(設計誤差と同じ大きさの隙間:設計誤差が±0.8[mm]であるならば、0.8[mm]の隙間)を空けることが好ましい。被覆部材20は、吸気口16側に突出する傘型を呈する。すなわち、被覆部材20は、吸気口16側に突出する円錐面を有する。これにより、被覆部材20の背面側(図3における下側)には、モーター14などを配置する空間を形成する。羽根車13の回転軸18は、筐体11に埋め込まれたベアリング11dと、整流部材12に埋め込まれたベアリング12bと、によって、両端支持されている。
【0044】
図3に示されるモーター14は、羽根車13(被覆部材20)の背面側(図3における下側)に若干収容されるように設けられている。このモーター14は、羽根車13を回転軸18中心に回転させる動力源となる。回転数は、一般的な10000[rpm]〜20000[rpm]程度であることが好ましい。
【0045】
仕切り部材15は、羽根車13の背面側に配置されることで、筐体11の内部を、羽根車13が配置される空間21、及び、吐出口17に繋がる流路22に仕切る。この仕切り部材15は、筐体11の内周面との間に、当該筐体11の内周面に沿って延びる1.0mm以下の幅wのスリットdを形成する。スリットdは、ノイズを小さくする観点からすると0.6mm以下であることが好ましく、更にエネルギー損失を少なくする観点からすると、その中でも大きい0.6mmであることがより好ましい。図6に示されるように、スリットdが0.6mmより大きくなるとノイズキャンセルレベルが徐々に低下し、1.0mmより大きくなるとノイズキャンセルレベルが急激に低下するからである。そして、スリットdが狭くなればなる程、エネルギー損失が大きくなるからである。なお、スリットdは、筐体11の内周直径Dの1.5%以下の幅wであることが好ましい。
【0046】
図3及び図5に示される流路22は、スリットdに沿って延びるように、モーター14を周回するように同心円環状(断面積一定の円環状)に配置され、吐出管11cに繋がる。そして、流路22は、羽根車13の回転軸18に沿った方向に、当該羽根車13、モーター14、当該流路22の順に配置されるように、モーター14よりもやや下方(図3における下方)に設けられている。この流路22は、輪切りにした断面形状が真円形状であることが最も好ましく、その次に、羽根車13の半径方向(図3における左右方向)に相対的に長い形状であることが好ましい。本実施形態において流路22は、高さ方向(図3における上下方向)の小型化(薄型化)のため、輪切りにした断面形状として、羽根車13の半径方向に相対的に長い形状(図3において、L>L)を採用している。また、流路22は、輪切りにした断面積が可能な限り大きく設定されていることが好ましい。
【0047】
次に、図3及び図5を用いて、送風機10における空気の流れを説明する。なお、患者の吸気となる空気の流れを黒塗り矢印で示す。
【0048】
図3に示されるように、羽根車13の回転により、当該羽根車13が配置される空間21内の空気が、外周方向(図3における左右方向)に移動する。これにより、羽根車13が配置される空間21の内周寄り(図3における中央寄り)の気圧が低くなる。これに伴って、吸気口16から筐体11内の空間21に空気が吸い込まれる。すなわち、吸気口16から筐体11内のスリットdに向けた気流が生じる。
【0049】
また、羽根車13が配置される空間21内の空気が、外周方向(図3における左右方向)に移動することで、当該空間21の外周寄り(図3における左右寄り)の気圧が高くなる。これに伴って、羽根車13が配置される空間21内の空気が、スリットdから流路22に向けて移動する。すなわち、羽根車13が配置される空間21から流路22に向けた気流が生じる。
【0050】
そして、スリットdから流路22に向けて移動した空気は、当該流路22の壁面、底面、天井面に沿って移動する。また、スリットdから流路22に向けて移動した空気は、羽根車13の回転によって、当該羽根車13の回転方向(右回り)に回転する力が作用している。このため、図5に示されるように、スリットdから流路22に向けて移動した空気は、流路22内を右回りに回転する。その後、流路22内を右回りに回転した空気は、吐出管11cを伝って吐出口17から送り出される。
【0051】
次に、実験1〜実験4を順に説明する。
【0052】
実験1及び実験2では、図7に示されるマスタとなる送風機110との比較実験を行った。送風機110は、上記実施形態に係る送風機10と同様、呼吸障害の患者が利用する呼吸補助装置に必要となるポンプユニットの動力源であり、気道に陽圧を作り出すために送風する。
【0053】
この送風機110は、上記実施形態に係る送風機10とは異なり、整流部材を備えていない。そして、送風機110は、羽根と筐体内周面との間の隙間が1.9[mm]に設定されている。また、送風機110は、羽根車が配置される空間と、吐出口に繋がる流路と、が連続する一段構造を採用している。すなわち、送風機110は、上記実施形態に係る送風機10のスリットdに相当する構成は備えていない。さらに、送風機110は、流路の輪切り断面積が吐出口に向けて徐々に広くなるスクロール形状(渦巻き形状)を呈している。そして、送風機110は、羽根車の回転軸に沿った方向に、当該羽根車、流路、モーターの順に配置されている。なお、送風機110は、株式会社メトラン(埼玉県川口市)が販売する持続的自動気道陽圧ユニット(商品名:ジャスミン)に採用されているものである。
【0054】
実験3では、上記実施形態に係る送風機10とその変形形態に係る送風機との比較を行った。実験4では、上記実施形態に係る送風機10と他社製品との比較実験を行った。
【0055】
[実験1]まず、整流部材によるノイズ低減を調べた実験1を説明する。この実験1では、マスタとなる送風機110と、当該送風機110に整流部材を取り付けたものと、の騒音レベル[dB]を比較した。その結果、整流部材を取り付けることで、騒音レベルが1.7[dB]〜2.5[dB]程度低減した。約750[Hz]以上の中高域で音響パワー[dB]が低減した。
【0056】
[実験2]そして、羽根と筐体内周面との隙間によるノイズへの影響を調べた実験2を説明する。この実験2では、マスタとなる送風機110と、当該送風機110に整流部材を取り付けると共に羽根と筐体内周面との隙間を0.8[mm]に狭くしたものと、の騒音レベル[dB]を比較した。その結果、整流部材を取り付けると共に羽根と筐体内周面との隙間を0.8[mm]に狭くすることで、騒音レベルが3.8[dB]〜4.2[dB]程度低減した。整流部材を取り付けると共に羽根と筐体内周面との隙間を0.8[mm]に狭くすることで、特に、約3200[Hz]以下の中低域で音響パワー[dB]が低減した。実験1を考慮すると、羽根と筐体内周面との隙間を0.8[mm]に狭くすることで、中低域で音響パワー[dB]が低減することが分かる。
【0057】
[実験3]また、筐体内周面に沿って延びるスリットによるノイズへの影響を調べた実験3を説明する。この実験3では、上記実施形態に係る送風機10と、当該送風機10における仕切り部材15と筐体11内周面とのスリットdの幅wを1.5[mm]又は2.0[mm]に変更したものと、の騒音レベル[dB]を比較した。すなわち、スリットdが1.0[mm]、1.5[mm]、2.0[mm]のそれぞれの場合の騒音レベル[dB]を比較した。その結果、仕切り部材15と筐体11内周面とのスリットdの幅wを1.0[mm]に狭くすることで、1.5[mm]や2.0[mm]の場合と比較して、騒音レベルが0.9[dB]〜3.2[dB]程度低減した。一方、当該スリットdの幅wを1.5[mm]や2.0[mm]とした場合には、互いの間で騒音レベルに大きな変化はなかった。仕切り部材15と筐体11内周面とのスリットdの幅wを1.0[mm]に狭くすることで、略全域で音響パワー[dB]が低減した。
【0058】
[実験4]さらに、他社製品との騒音レベルを比較した実験4を説明する。この実験4では、上記実施形態に係る送風機10と、本出願時に世界最高水準の低騒音を実現しているレスメドリミテッド社(オーストラリア)、レスメド株式会社(東京都文京区)が販売する持続的自動気道陽圧ユニット(商品名:S9Elite)に採用されている送風機(特許第4497809号参照)と、の騒音レベル[dB]を比較した。その結果、本実施形態に係る送風機10は、世界最高水準の低騒音を実現している上記他社製品と比較して、騒音レベルが1.4[dB]〜3.0[dB]程度低くなった。本実施形態に係る送風機10は、世界最高水準の低騒音を実現している上記他社製品と比較して、約750[Hz]以上約6400[Hz]以下の中域で音響パワー[dB]が低減した。
【0059】
このように、送風機10によれば、羽根車13が配置される空間21と、吐出口17に繋がる流路22と、の二段構造を採用したので、吸気口16から吸い込む空気の流れと、吐出口17から送り出す空気の流れと、を分離することができる。これにより、吸気口16から吸い込む空気の流れと、吐出口17から送り出す空気の流れと、が衝突することが防止できる。すなわち、空気の流れが互いに衝突することによるノイズの発生を防止できる。
【0060】
また、羽根車13が配置される空間21と流路22を結ぶスリットdを空気が流れることにより、ノイズが発生する。このノイズによって、羽根車13の回転に伴って発生する他のノイズをキャンセルすることができる。
【0061】
そして、羽根車13が配置される空間21から流路22に流れ込んだ空気は、流路22の側面、底面、天井面に沿って滑らかに移動する。これにより、乱流の発生が防止される。ひいては、ノイズの発生が防止される。
【0062】
また、流路22がモーター14を周回するように配置されているので、羽根車13の回転軸18方向の小型化を実現できる。
【0063】
さらに、整流部材12が吸気口16の外側に突出するように設けられているので、整流部材を備えていない場合や、整流部材が吸気口16の外側に突出せず内側に収まっている場合と比較して、吸気口16付近における空気の衝突を防止できる。例えば、整流部材を備えていない場合、吸気口16から吸い込まれた空気は、羽根車13やその回転軸18に衝突することになるが、上記送風機10では、そのような衝突は生じない。また、整流部材が吸気口16の外側に突出せず内側に収まっている場合、整流部材によって筐体11内が急激に狭くなって、筐体11内に吸い込まれた空気が衝突するが、上記の送風機10では、そのような衝突は生じない。これにより、ノイズの発生を防止できる。
【0064】
そして、整流部材12が羽根車13の回転軸18の一端を支持するので、羽根車13の振動を防止できる。ひいては、ノイズの発生を防止できる。また、整流部材12が羽根車13の回転軸18の一端を支持する機能を兼ねているので、部品点数を減らすことができ、軽量化、小型化を実現できる。これにより、泊まりがけの旅行や出張などに気軽に持ち運ぶことができる。
【0065】
また、羽根車13において、複数の羽根19の吸気口16側が開放しているので、複数の羽根19の吸気口16側を覆う被覆部材を備えている場合と比較して、軽量化、小型化を実現できる。これにより、泊まりがけの旅行や出張などに気軽に持ち運ぶことができる。
【0066】
さらに、被覆部材20が吸気口16側に突出する円錐面を有するので、吸気口16から筐体11内に吸い込まれた空気を、滑らかに被覆部材20に沿って流すことができる。これにより、吸気口16から筐体11内に吸い込まれた空気が被覆部材20に衝突することが防止できる。ひいては、ノイズの発生を防止できる。
【0067】
そして、上記の送風機10によれば、静音化を実現できるので、呼吸補助装置を利用する患者への聴覚的な負担を軽減できる。すなわち、呼吸補助装置を利用する患者の安眠を阻害することを防止できる。
【0068】
次に、図8を用いて、本発明の第2実施形態に係る送風機30の構成について説明する。図8(A)は、送風機30の縦断面図である。図8(B)は、羽根車13及び仕切り部材35の上面図である。なお、患者の呼気の流れを白抜き矢印で示す。
【0069】
なお、ここでは、送風機30の特徴部分のみを説明し、送風機10と同様の構成、作用、及び効果についての説明は適宜省略する。また、次に説明する第3実施形態についても、特徴部分のみを説明する。
【0070】
図8(A)及び図8(B)に示されるように、送風機30は、第1実施形態の仕切り部材15(図3参照)に代えて、仕切り部材35を備えている。仕切り部材35には、外周部分を切り欠くように、複数の通気路35aが形成されている。具体的に、仕切り部材35には、外周部分を切り欠くように、6つの通気路35aが等間隔に形成されている。複数の通気路35aは、空間21及び流路22を繋ぐ。これら複数の通気路35aは、流路22に逆流してきた患者の呼気を、羽根車13側の空間21に逃がす路として機能する。
【0071】
このように、送風機30によれば、仕切り部材35に通気路35aが形成されているので、流路22に逆流してきた患者の呼気が通気路35aを流れ、流路22から逃げる。これにより、流路22を逆流してきた患者の呼気が、スリットdを介して流路22に流れ込む空気(患者の吸気となる空気)と、スリットd付近で衝突すること(いわゆる「ファイティング」)が防止される。すなわち、呼気と吸気が互いに衝突することによるノイズの発生を防止できる。また、ファイティングが防止されるので、呼気が吐きづらくなることが防止される。
【0072】
次に、図9を用いて、本発明の第3実施形態に係る送風機40の構成について説明する。図9(A)は、送風機40の縦断面図である。図9(B)は、羽根車13及び仕切り部材45の上面図である。なお、患者の呼気の流れを白抜き矢印で示す。
【0073】
図9(A)及び図9(B)に示されるように、送風機40は、第1実施形態の仕切り部材15(図3参照)に代えて、仕切り部材45を備えている。仕切り部材45には、内周部分に沿った位置で貫通するように、スリットdに対して内側に当該スリットdから独立して複数の通気路45aが形成されている。具体的に、仕切り部材45には、内周部分に沿った位置で貫通するように、6つの通気路45aが等間隔に形成されている。複数の通気路45aは、空間21及び流路22を繋ぐ。これら複数の通気路45aは、羽根車13の背面を臨むように形成されている。そして、複数の通気路45aは、流路22に逆流してきた患者の呼気を、羽根車13側の空間21に逃がす路として機能する。
【0074】
羽根車13の背面と仕切り部材45との隙間には、羽根車13の回転による遠心力で、負圧が生じている。このため、送風機40によれば、羽根車13の回転による遠心力で生じた負圧で、流路22に逆流してきた患者の呼気を通気路45aに引っ張ることができる。これにより、流路22に逆流してきた患者の呼気が、スリットdを介して流路22に流れ込む空気(患者の吸気となる空気)と、スリットd付近で衝突することが確実に防止される。
【0075】
本発明は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0076】
すなわち、上記各実施形態において、各構成の位置、大きさ(寸法)、形状、材質、向き、数量は適宜変更できる。例えば、通気路35a,45aの位置、大きさ、形状、数量などは適宜変更できる。具体的に、通気路35a,45aの大きさ、数量は、患者の肺活量などに応じて適宜設定すればよい。
【0077】
すなわち、上記第2及び第3実施形態において、仕切り部材35,45に通気路35a,45aが形成されているだけでなく、羽根車13に通気路が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0078】
10,30,40 送風機
11 筐体
12 整流部材
13 羽根車
14 モーター
15,35,45 仕切り部材
16 吸気口
17 吐出口
18 回転軸
19 羽根
20 被覆部材
21 空間
22 流路
35a,45a 通気路
w 幅
d スリット
D 内周直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9