(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記収縮させる工程が、前記水との接触後の人造フィブロイン繊維を乾燥させることを更に含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法。
前記収縮させる工程が、前記水との接触後の人造フィブロイン繊維を乾燥させることを更に含む、請求項10〜12のいずれか一項に記載の人造フィブロイン繊維の収縮方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
〔高収縮人造フィブロイン繊維〕
本発明に係る高収縮人造フィブロイン繊維は、改変フィブロインを含む、収縮された人造フィブロイン繊維である。本実施形態に係る高収縮人造フィブロイン繊維は、下記式で定義される収縮率が7%を超える。
収縮率={1−(収縮された人造フィブロイン繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
【0014】
<改変フィブロイン>
本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0015】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインとアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0016】
「改変フィブロイン」は、本発明で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0017】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)
nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)
nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、nは2〜20、好ましくは4〜20、より好ましくは8〜20、更に好ましくは10〜20、更により好ましくは4〜16、更によりまた好ましくは8〜16、特に好ましくは10〜16の整数であってよい。また、(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが更により好ましく、100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2〜300の整数を示す。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。大吐糸管しおり糸由来のタンパク質の具体例としては、配列番号9で示されるアミノ酸配列(PRT410)を含むタンパク質を挙げることができる。
【0018】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0019】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0020】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0021】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0022】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0023】
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0024】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0025】
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変絹フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。
【0026】
本実施形態に係る改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状線で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の実施形態に係る改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の実施形態に係る改変フィブロイン)、(A)
nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の実施形態に係る改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)
nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の実施形態に係る改変フィブロイン)が挙げられる。
【0027】
第1の実施形態に係る改変フィブロインとしては、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の実施形態に係る改変フィブロインは、式1中、nは3〜20の整数が好ましく、4〜20の整数がより好ましく、8〜20の整数が更に好ましく、10〜20の整数が更により好ましく、4〜16の整数が更によりまた好ましく、8〜16の整数が特に好ましく、10〜16の整数が最も好ましい。第1の実施形態に係る改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10〜200残基であることが好ましく、10〜150残基であることがより好ましく、20〜100残基であることが更に好ましく、20〜75残基であることが更により好ましい。第1の実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0028】
第1の実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号12〜14のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号12〜14のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
【0029】
配列番号12に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号13に示されるアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号14に示されるアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0030】
第1の実施形態に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(1−i)配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(1−ii)配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0031】
配列番号15で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号16)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号15で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0032】
(1−i)の改変フィブロインは、配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0033】
第2の実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。当該改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0034】
第2の実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0035】
第2の実施形態に係る改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0036】
第2の実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよく、50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であればよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0037】
第2の実施形態に係る改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより。XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の実施形態に係る改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0038】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0039】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を
図2に示す。
図2の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
【0040】
第2の実施形態に係る改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0041】
第2の実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0042】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0043】
第2の実施形態に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(2−i)配列番号3、配列番号4、配列番号10若しくは配列番号17で示されるアミノ酸配列、又は(2−ii)配列番号3、配列番号4、配列番号10若しくは配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0044】
(2−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号1で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)
nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列の各(A)
nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号4の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、配列番号10で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0045】
配列番号1で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号3で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号10で示されるアミノ酸配列、及び配列番号17で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号1、3、4、10及び17で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8〜11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.3%である。
【0046】
(2−i)の改変フィブロインは、配列番号3、配列番号4、配列番号10又は配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0047】
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号3、配列番号4、配列番号10又は配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0048】
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号3、配列番号4、配列番号10又は配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0049】
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0050】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0051】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0052】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0053】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0054】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2−iii)配列番号8、配列番号9、配列番号11若しくは配列番号18で示されるアミノ酸配列、又は(2−iv)配列番号8、配列番号9、配列番号11若しくは配列番号18で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0055】
配列番号6、7、8、9、11及び18で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2、3、4、10及び17で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。
【0056】
(2−iii)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号9、配列番号11又は配列番号18で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0057】
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号9、配列番号11又は配列番号18で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0058】
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号9、配列番号11又は配列番号18で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0059】
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0060】
第3の実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)
nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。当該改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0061】
第3の実施形態に係る改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)
nモチーフを10〜40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0062】
第3の実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)
nモチーフ毎に1つの(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0063】
第3の実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)
nモチーフの欠失、及び1つの(A)
nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0064】
第3の実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0065】
第3の実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよく、50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であればよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0066】
x/yの算出方法を
図1を参照しながら更に詳細に説明する。
図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ−第1のREP(50アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第2のREP(100アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第3のREP(10アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第4のREP(20アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第5のREP(30アミノ酸残基)−(A)
nモチーフという配列を有する。
【0067】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ−REP]ユニットが存在してもよい。
図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0068】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0069】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの組は破線で示した。
【0070】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0071】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0072】
第3の実施形態に係る改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9〜11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8〜3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0073】
第3の実施形態に係る改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)
nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0074】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合の結果を
図3に示す。
【0075】
図3の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図3から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0076】
第3の実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)
nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)
nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0077】
第3の実施形態に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(3−i)配列番号2、配列番号4、配列番号10若しくは配列番号17で示されるアミノ酸配列、又は(3−ii)配列番号2、配列番号4、配列番号10若しくは配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0078】
(3−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号1で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)
nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列の各(A)
nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号4の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、配列番号10で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0079】
配列番号1で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8〜11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号2で示されるアミノ酸配列、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号10で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.3%である。配列番号1、2、4、10及び17で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0080】
(3−i)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4、配列番号10又は配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0081】
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4、配列番号10又は配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0082】
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4、配列番号10又は配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3(ギザ比率が1:1.8〜11.3)となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0083】
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0084】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3−iii)配列番号7、配列番号9、配列番号11若しくは配列番号18で示されるアミノ酸配列、又は(3−iv)配列番号7、配列番号9、配列番号11若しくは配列番号18で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0085】
配列番号6、7、8、9、11及び18で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2、3、4、10及び17で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。
【0086】
(3−iii)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9、配列番号11又は配列番号18で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0087】
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9、配列番号11又は配列番号18で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0088】
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9、配列番号11又は配列番号18で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0089】
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0090】
第4の実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)
nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。当該改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、上述した第2の実施形態に係る改変フィブロインと、第3の実施形態に係る改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2及び第3の実施形態に係る改変フィブロインで説明したとおりである。
【0091】
第4の実施形態に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(4−i)配列番号4、配列番号10若しくは配列番号17で示されるアミノ酸配列、(4−ii)配列番号4、配列番号10若しくは配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号4、配列番号10又は配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0092】
<改変フィブロインの製造方法>
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、当該改変フィブロインをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0093】
改変フィブロインをコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したフィブロインのアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、改変フィブロインの精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる改変フィブロインをコードする核酸を合成してもよい。
【0094】
調節配列は、宿主における改変フィブロインの発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、改変フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0095】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、改変フィブロインをコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0096】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0097】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0098】
原核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
【0099】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0100】
真核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0101】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0102】
改変フィブロインは、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該改変フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0103】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0104】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0105】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0106】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0107】
発現させた改変フィブロインの単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、改変フィブロインの単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0108】
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。当該改変フィブロインが細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該改変フィブロインを回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0109】
<人造フィブロイン繊維>
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維は、上述した改変フィブロインを紡糸したものであり、上述した改変フィブロインを主成分として含む。
【0110】
<人造フィブロイン繊維の製造方法>
本実施形態に係る人造フィブロイン繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、改変フィブロインを主成分として含む人造フィブロイン繊維を製造する際には、まず、上述した方法に準じて製造した改変フィブロインをジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、又はヘキサフルオロイソプロノール(HFIP)等の溶媒に、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、目的とする人造フィブロイン繊維を得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。
【0111】
図4は、人造フィブロイン繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
図4に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。
【0112】
紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギアポンプ8により口金9から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、改変フィブロインが凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、人造フィブロイン繊維が、巻糸体5として得られる。18a〜18gは糸ガイドである。
【0113】
凝固液11としては、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等の炭素数1〜5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0〜30℃であることが好ましい。口金9として、直径0.1〜0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押し出し速度は1ホール当たり、0.2〜6.0ml/時間が好ましく、1.4〜4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固したタンパク質が凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200〜500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1〜20m/分であってよく、1〜3m/分であることが好ましい。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01〜3分であってよく、0.05〜0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。凝固液槽20は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
【0114】
なお、人造フィブロイン繊維を得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。
【0115】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、スチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50〜90℃であってよく、75〜85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1〜10倍延伸することができ、2〜8倍延伸することが好ましい。
【0116】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃〜270℃であってよく、160℃〜230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5〜8倍延伸することができ、1〜4倍延伸することが好ましい。
【0117】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0118】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
【0119】
<高収縮人造フィブロイン繊維>
本実施形態に係る高収縮人造フィブロイン繊維は、上述した人造フィブロイン繊維が収縮されてなるものである。上述した人造フィブロイン繊維は、従来知られているタンパク質繊維よりも高い収縮率で収縮することができ、また従来知られている合成繊維よりも穏やかな条件下で高い収縮率で収縮することができる。
【0120】
したがって、本実施形態に係る高収縮人造フィブロイン繊維では、下記式で定義される収縮率が7%を超える。
収縮率={1−(収縮された人造フィブロイン繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
【0121】
本実施形態に係る高収縮人造フィブロイン繊維の収縮率は、15%以上であることが好ましく、25%超であることがより好ましく、32%以上であることが更に好ましく、40%以上であることが更により好ましく、48%以上であることが更によりまた好ましく、56%以上であることが特に好ましく、64%以上であることが特により好ましく、72%以上であることが最も好ましい。収縮率の上限は、通常、80%以下である。
【0122】
<高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法>
本実施形態に係る高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法は、改変フィブロインを含む人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程(以下、「収縮工程」ともいう。)を備える。
【0123】
収縮工程では、人造フィブロイン繊維を沸点未満の水と接触させる(以下、「接触ステップ」ともいう。)。これにより、外力によらずに人造フィブロイン繊維を収縮させることができる。接触ステップでの人造フィブロイン繊維の外力によらない収縮は、例えば、以下の理由により生ずると考えられる。すなわち、一つの理由は、人造フィブロインの二次構造や三次構造に起因すると考えられ、また別の一つの理由は、例えば、製造工程での延伸等によって残留応力を有する人造フィブロイン繊維において、水が繊維間又は繊維内へ浸入することにより、残留応力が緩和されることで生ずると考えられる。したがって、収縮工程での人造フィブロイン繊維の収縮率は、例えば、上記した人造フィブロイン繊維の製造過程での延伸倍率の大きさに応じて任意にコントロールすることもできると考えられる。
【0124】
接触ステップで人造フィブロイン繊維に接触させる水の温度は、沸点未満であればよい。これにより、取扱い性及び収縮工程の作業性等が向上する。また、収縮時間を充分に短縮するという観点からは、水の温度の下限値が、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。水の温度の上限値は90℃以下であることが好ましい。
【0125】
接触ステップにおいて、水を人造フィブロイン繊維に接触させる方法は、特に限定されない。当該方法として、例えば、人造フィブロイン繊維を水中に浸漬する方法、人造フィブロイン繊維に対して水を常温で又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、及び人造フィブロイン繊維を水蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、接触ステップにおいては、収縮時間の短縮化が効果的に図れると共に、加工設備の簡素化等が実現できることから、人造フィブロイン繊維を水中に浸漬する方法が好ましい。
【0126】
接触ステップにおいて、人造フィブロイン繊維を弛緩させた状態で水に接触させると、人造フィブロイン繊維が、単に収縮するだけでなく、波打つように縮れてしまうことがある。このような縮れの発生を防止するために、例えば、人造フィブロイン繊維を繊維軸方向に緊張させ(引っ張り)ながら沸点未満の水と接触させるなど、人造フィブロイン繊維を弛緩させない状態で接触ステップを実施してもよい。
【0127】
収縮工程は、接触ステップに加え、水との接触後の人造フィブロイン繊維を乾燥させること(以下、「乾燥ステップ」ともいう。)を更に含むものであってもよい。
【0128】
乾燥ステップは、接触ステップを経た人造フィブロイン繊維を乾燥するステップである。乾燥は、例えば、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に乾燥させてもよい。乾燥設備としては、接触型又は非接触型の公知の乾燥設備がいずれも使用可能である。また、乾燥温度も、例えば、人造フィブロイン繊維に含まれるタンパク質が分解したり、人造フィブロイン繊維が熱的損傷を受けたりする温度よりも低い温度であれば何ら限定されるものではないが、一般には、20〜150℃の範囲内の温度であり、50〜100℃の範囲内の温度であることが好ましい。温度がこの範囲にあることにより、人造フィブロイン繊維の熱的損傷、又は人造フィブロイン繊維に含まれるタンパク質の分解が生ずることなく、人造フィブロイン繊維が、より迅速且つ効率的に乾燥される。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜に設定され、例えば、過乾燥による人造フィブロイン繊維の品質及び物性等への影響が可及的に排除され得る時間等が採用される。
【0129】
本実施形態に係る高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法では、収縮工程(接触ステップ、及び必要に応じて乾燥ステップ)を経ることで、収縮率が7%を超える高収縮人造フィブロイン繊維を得ることができる。得られる高収縮人造フィブロイン繊維の収縮率は、15%以上であることが好ましく、25%超であることがより好ましく、32%以上であることが更に好ましく、40%以上であることが更により好ましく、48%以上であることが更によりまた好ましく、56%以上であることが特に好ましく、64%以上であることが特により好ましく、72%以上であることが最も好ましい。収縮率の上限は、通常、80%以下である。
【0130】
図5は、高収縮人造フィブロイン繊維を製造するための製造装置の一例を概略的に示す説明図である。
図5に示す製造装置40は、人造フィブロイン繊維を送り出すフィードローラ42と、高収縮人造フィブロイン繊維38を巻き取るワインダー44と、接触ステップを実施するウォーターバス46と、乾燥ステップを実施する乾燥機48と、を有して構成されている。
【0131】
より詳細には、フィードローラ42は、人造フィブロイン繊維36の巻回物が装着可能とされており、図示しない電動モータ等の回転によって、人造フィブロイン繊維36の巻回物から人造フィブロイン繊維36を連続的且つ自動的に送り出し得るようになっている。ワインダー44は、フィードローラ42から送り出された後、接触ステップと乾燥ステップを経て製造される高収縮人造フィブロイン繊維38を、図示しない電動モータの回転によって連続的且つ自動的に巻き取り得るようになっている。なお、ここでは、フィードローラ42による人造フィブロイン繊維36の送出し速度と、ワインダー44による高収縮人造フィブロイン繊維38の巻取り速度とが、互いに独立して制御可能とされている。
【0132】
ウォーターバス46と乾燥機48は、フィードローラ42とワインダー44との間に、人造フィブロイン繊維36の送り方向の上流側と下流側にそれぞれ並んで配置されている。なお、
図5に示す製造装置40は、フィードローラ42からワインダー44に向かって走行する人造フィブロイン繊維36を中継するリレーローラ50及び52を有している。
【0133】
ウォーターバス46はヒータ54を有し、このヒータ54にて加温された湯47が、ウォーターバス46内に収容されている。また、ウォーターバス46内には、テンションローラ56が、湯47中に浸漬された状態で設置されている。これにより、フィードローラ42から送り出された人造フィブロイン繊維36が、ウォーターバス46内を、テンションローラ56に巻き掛けられた状態で湯47中に浸漬されつつ、ワインダー44側に向かって走行するようになっている。なお、人造フィブロイン繊維36の湯47中への浸漬時間は、人造フィブロイン繊維36の走行速度に応じて適宜にコントロールされる。
【0134】
乾燥機48は、一対のホットローラ58を有している。一対のホットローラ58は、ウォーターバス46内から離脱してワインダー44側に向かって走行する人造フィブロイン繊維36が巻き掛け可能とされている。これにより、ウォーターバス46内で湯47に浸漬された人造フィブロイン繊維36が、乾燥機48内で一対のホットローラ58にて加熱され、乾燥させられた後、ワインダー44に向かって更に送り出されるようになっている。
【0135】
このような構造を有する製造装置40を用いて、高収縮人造フィブロイン繊維38を製造する際には、先ず、例えば、
図4に示された紡糸装置10を用いて紡糸された人造フィブロイン繊維36の巻回物をフィードローラ42に装着する。次に、フィードローラ42から人造フィブロイン繊維36を連続的に送り出して、ウォーターバス46内で湯47に浸漬させる。このとき、例えば、ワインダー44の巻き取り速度をフィードローラ42の送り出し速度よりも遅くしておく。これにより、人造フィブロイン繊維36が、フィードローラ42とワインダー44との間で弛緩しないように緊張された状態で、湯47との接触により収縮するため、縮れの発生を防止することができる。
【0136】
次に、ウォーターバス46内の湯47中で収縮した人造フィブロイン繊維36を、乾燥機48の一対のホットローラ58により加熱する。これにより、収縮した人造フィブロイン繊維36を乾燥させて、高収縮人造フィブロイン繊維38とする。このとき、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻取り速度との比率をコントロールすることで、人造フィブロイン繊維36を更に収縮させることもできるし、長さを変化させないこともできる。そして、得られた高収縮人造フィブロイン繊維38をワインダー44にて巻き取って、高収縮人造フィブロイン繊維38の巻回物を得る。
【0137】
なお、一対のホットローラ58に代えて、
図6に示されるような乾熱板64等、単なる熱源のみからなる乾燥設備を用いて人造フィブロイン繊維36を乾燥させてもよい。この場合にも、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻取り速度との互いの相対速度を、乾燥設備として一対のホットローラ58を使用する場合と同様に調節することにより、人造フィブロイン繊維36を更に収縮させることもできるし、長さを変化させないこともできる。ここでは、乾燥手段が乾熱板64にて構成されることとなる。
【0138】
上述のように、製造装置40を用いることによって、目的とする高収縮人造フィブロイン繊維38を自動的且つ連続的に、しかも極めて容易に製造することができる。
【0139】
図6は、高収縮人造フィブロイン繊維を製造するための製造装置の別の例を概略的に示す説明図である。
図6(a)は、当該製造装置に備わる、接触ステップを実施する加工装置を示し、
図6(b)は、当該製造装置に備わる、乾燥ステップを実施する乾燥装置を示す。
図6に示される製造装置は、人造フィブロイン繊維36に対する接触ステップを実施する加工装置60と、加工装置60にて接触ステップが実施された人造フィブロイン繊維36を乾燥させる乾燥装置62とを有し、それらが互いに独立した構造とされている。
【0140】
より具体的には、
図6(a)に示す加工装置60は、
図5に示された製造装置40から乾燥機48を省略して、フィードローラ42とウォーターバス46とワインダー44とを、人造フィブロイン繊維36の走行方向の上流から下流側に向かって順に並べて配置してなる構造を有している。このような加工装置60は、フィードローラ42から送り出された人造フィブロイン繊維36を、ワインダー44にて巻き取る前に、ウォーターバス46内の湯47中に浸漬させて、収縮させるようになっている。そして、湯47中で収縮した人造フィブロイン繊維36をワインダー44にて巻き取るように構成されている。
【0141】
図6(b)に示す乾燥装置62は、フィードローラ42及びワインダー44と、乾熱板64とを有している。乾熱板64は、フィードローラ42とワインダー44との間に、乾熱面66が、人造フィブロイン繊維36に接触し、且つその走行方向に沿って伸びるように配置されている。この乾燥装置62では、前述したように、例えば、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻取り速度との比率をコントロールすることで、人造フィブロイン繊維36を更に収縮させることもできるし、長さを変化させないこともできる。
【0142】
このような構造を有する製造装置を用いる場合には、例えば、先ず、人造フィブロイン繊維36を、加工装置60により収縮させた後、乾燥装置62にて人造フィブロイン繊維36を乾燥させることにより、目的とする高収縮人造フィブロイン繊維38を製造することができる。
【0143】
なお、
図6(a)に示された加工装置60からフィードローラ42とワインダー44とを省略して、ウォーターバス46のみで加工装置を構成してもよい。このような加工装置を有する製造装置を用いる場合には、例えば、高収縮人造フィブロイン繊維が、いわゆるバッチ式で製造されることとなる。
【0144】
<高収縮人造フィブロイン繊維の用途>
本発明に係る高収縮人造フィブロイン繊維は、高い収縮率で収縮されているため、肌触り性及び柔軟性に優れており、例えば、衣料及び寝具等に使用される繊維として好適である。
【0145】
〔人造フィブロイン繊維の収縮方法〕
以上説明した本発明の高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法は、改変フィブロインを含む人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程を備え、下記式で定義される収縮率が7%を超える、人造フィブロイン繊維の収縮方法と捉えることもできる。
収縮率={1−(収縮された人造フィブロイン繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の人造フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
【実施例】
【0146】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0147】
〔(1)改変フィブロイン(人造フィブロイン)の製造〕
(改変フィブロインをコードする核酸の合成、及び発現ベクターの構築)
配列番号7で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT399)、配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT380)、配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT410)、配列番号18で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT799)を設計した。
【0148】
配列番号7で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号1で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)
nモチーフ−REP]を1つ挿入したアミノ酸配列に対し、N末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。
【0149】
配列番号8で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号1で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したアミノ酸配列に対し、N末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。
【0150】
配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したアミノ酸配列に対し、N末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。
【0151】
配列番号18で示されるアミノ酸配列は、配列番号9で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたアミノ酸配列に対し、N末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。
【0152】
設計した4種類の改変フィブロインをコードする核酸をそれぞれ合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。これら4種類の核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0153】
(改変フィブロインの発現)
得られたpET−22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD
600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0154】
【表1】
【0155】
当該シード培養液を500mlの生産培地(下記表2)を添加したジャーファーメンターにOD
600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
【0156】
【表2】
【0157】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持しながら、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的とする改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインに相当するサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
【0158】
(改変フィブロインの精製)
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収した。回収した凝集タンパク質から凍結乾燥機で水分を除き、目的とする改変フィブロインの凍結乾燥粉末を得た。
【0159】
得られた凍結乾燥粉末における目的とする改変フィブロインの精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlinear dynamics ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、いずれの改変フィブロインも精製度は約85%であった。
【0160】
〔(2)人造フィブロイン繊維の製造〕
(ドープ液の調製)
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロインの凍結乾燥粉末を、濃度18質量%又は24質量%となるよう添加し(表3参照)、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液を得た。
【0161】
(紡糸)
得られた改変フィブロイン溶液をドープ液(紡糸原液)とし、
図4に示す紡糸装置10に準じた紡糸装置を用いた乾湿式紡糸によって、紡糸及び延伸された人造フィブロイン繊維を製造した。用いた紡糸装置は、
図1に示す紡糸装置10において、未延伸糸製造装置2(第1浴)及び湿熱延伸装置3(第3浴)の間に、更に第2の未延伸糸製造装置(第2浴)を備えるものである。乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
押出しノズル直径:0.2mm
押出し速度(吐出量):表3参照
第1浴〜第3浴中の液体及び温度:表3参照
巻取り速度:表3参照
総延伸倍率:表3参照
乾燥温度:60℃
エアギャップ長さ:表3参照
【0162】
【表3】
【0163】
〔(3)高収縮人造フィブロイン繊維の製造及び評価〕
(収縮工程)
製造例1〜19で得た各人造フィブロイン繊維に対して、沸点未満の水に接触させる接触ステップを施すこと(以下、「一次収縮」ということがある。)、又は当該接触ステップを施した後、室温で乾燥させる乾燥ステップを施すこと(以下、「二次収縮」ということがある。)により、高収縮人造フィブロイン繊維を製造した。
【0164】
<一次収縮>
製造例1〜19で得た人造フィブロイン繊維の巻回物から、それぞれ、長さ30cmの複数本の人造フィブロイン繊維を切り出した。それら複数本の人造フィブロイン繊維を束ねて、繊度150デニールの人造フィブロイン繊維束を得た。各人造フィブロイン繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で各人造フィブロイン繊維束を表4〜7に示す温度の水に10分間浸漬した(接触ステップ)。その後、水中で各人造フィブロイン繊維束の長さを測定した。水中での人造フィブロイン繊維束の長さ測定は、人造フィブロイン繊維束の縮れを無くすために、人造フィブロイン繊維束に0.8gの鉛錘を取り付けたまま実施した。次いで、各人造フィブロイン繊維の収縮率(%)を、下記式Iに従って算出した。式I中、L0は紡糸後、水と接触する前の人造フィブロイン繊維束の長さ(ここでは30cm)を示し、Lwは一次収縮を経た人造フィブロイン繊維束の長さを示す。
式I:収縮率(一次収縮率)={1−(Lw/L0)}×100(%)
【0165】
<二次収縮>
一次収縮での水への浸漬(接触ステップ)の後、人造フィブロイン繊維束を水中から取り出した。取り出した人造フィブロイン繊維束を、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で2時間おいて乾燥させた(乾燥ステップ)。乾燥後、各人造フィブロイン繊維束の長さを測定した。次いで、各人造フィブロイン繊維の収縮率(%)を、下記式IIに従って算出した。式II中、L0は紡糸後、水と接触する前の人造フィブロイン繊維束の長さ(ここでは30cm)を示し、Lwdは二次収縮を経た人造フィブロイン繊維束の長さを示す。
式II:収縮率(二次収縮率)={1−(Lwd/L0)}×100(%)
【0166】
結果を表4〜7に示す。
【表4】
【0167】
【表5】
【0168】
【表6】
【0169】
【表7】
【0170】
本発明の高収縮人造フィブロイン繊維は、充分に高い収縮率を有しており、肌触り性及び柔軟性に優れたものであった。加えて、沸点未満の水と接触させる接触ステップと、必要に応じて、接触ステップ後に人造フィブロイン繊維を乾燥させる乾燥ステップとにより製造することができるため、安全に製造が可能である。