【実施例】
【0031】
実施例のスペアタイヤ固定部2は、下方に向けてへこみスペアタイヤSTを受け入れ可能な空間SPを形成する受け入れ凹部21を備えている。また、スペアタイヤ固定部2は、受け入れ凹部21に形成され、上側に突出する突条部位23を備えている。
【0032】
実施例におけるスペアタイヤ固定部2は、車両11に搭載されるものである。スペアタイヤ固定部2は通常時使用していないスペアタイヤSTを固定して保管するために使用されるものであり、本実施例においては、車両11の内部空間の後方側に形成されている。このため通常は、
図2に示すように、車両11の後部側に設けられた扉BDを開いて後方側を開放することにより、スペアタイヤ固定部2にスペアタイヤSTを着脱する作業が行われる。
【0033】
本実施例におけるスペアタイヤ固定部2は車両11の後部側で床面FLより下方に形成されている。より具体的には、車両11の床面FLより下方にへこんだ収納凹部9内でスペアタイヤSTが固定可能とされており、当該収納凹部9は上側が蓋部材19により覆われることが可能となっている。
図3の二点鎖線で示すように、収納凹部9の開口を塞ぐように蓋部材19を配置すると、蓋部材19が床面FLの一部を形成することが可能となっており、床面FLの一部となった蓋部材19の下方でスペアタイヤSTを固定することが可能となっている。
【0034】
本実施例においては、乗員が着座するために使用されるシート10を前後方向に移動させるために使用されるスライドレールSRの一部が収納凹部9の上方に位置するように配置されている(
図2及び
図3参照)。収納凹部9を覆うことが可能な蓋部材19はスライドレールSRより下方に配置することが可能となっており、スペアタイヤSTを収納凹部9に収納した状態においては、スペアタイヤSTがスライドレールSRより下方に位置することになる。なお、スライドレールSRは収納凹部9の上方で横断するスライドレールブラケットSRBにより、後部側が支えられている。
【0035】
本実施例においては、受け入れ凹部21を形成する収容部材20は、図示しない取り付け部材を用いて収納凹部9に対して固定されている。収納凹部9の底面と対向するように収容部材20が配置され、設置部Bに対して固定されている。本実施例の収容部材20は収納凹部9に備えられる取り付け貫通孔71に挿入される二つの取り付け部材を用いて固定されており、収容部材20が取り付け部材を中心に回転しないようにされている。なお、本実施例の収容部材20は収納凹部9の底面に沿って載置されるものであり、スペアタイヤSTの収納位置を上方にあげ、適切な位置に配置する、かさ上げ材として機能している。
【0036】
本実施例においては、車両11の車幅の略中央位置付近に平行に二つのスライドレールSRが配置されており、収容部材20は車両11の車幅の中心位置から若干右側にずれた位置に配置されている(
図3参照)。この収容部材20の上方にはスライドレールSRが配置されているため、収容部材20にスペアタイヤSTを載せようとすると、スペアタイヤSTを上方から斜め下方に移動させるように収容部材20に向けて移動させることになる。
【0037】
実施例の収容部材20は樹脂を用いて成形されており、スペアタイヤSTを受け入れることが可能な受け入れ凹部21を備えている。受け入れ凹部21には、スペアタイヤSTを支持可能な支持面25を備えており、当該支持面25上にスペアタイヤSTを配置した状態で固定部品73を用いて固定可能となっている。固定部品73はスペアタイヤSTの上面側に位置することになる押さえ部73aと、押さえ部73aから棒状に伸びる螺子部73bを備えており、収容部材20に設けられた螺子部73cと螺合可能な構成となっている。したがって、押さえ部73aと収容部材20との間にスペアタイヤSTを挟み込んで固定部品73を回転させることで、押さえ部73aと受け入れ凹部21との距離を縮めることとなり、スペアタイヤSTを収容部材20に対して固定することが可能となる(
図3参照)。
【0038】
収容部材20には支持面25から下側の領域に二つの突条部位23を備えている(
図1参照)。当該突条部位23は、受け入れ凹部21を形成する面に沿って形成されており、支持面25の端部から収容部材20の略中央に向けてなだらかな傾斜面を形成するように伸びている。また、突条部位23は、スペアタイヤSTを収容状態とする収納方向(
図4の矢印参照)に伸びている。この突条部位23は外縁側に突となる曲面が長手方向に連続して形成されている。より詳しくは、スペアタイヤSTと当接可能な位置となる側の面全体が上側に突となるように突条部位23が形成されている。
【0039】
本実施例においては、ビードと称されることもある突条部位23が二つ並列に配置されている。より詳しくは、略平行となるように二つの突条部位23が配置されている。使用者は、スペアタイヤSTが収納位置に収まった収納状態(スペアタイヤSTが
図3の実線で示された状態)とするために、当該二つの突条部位23に載せて移動させることが可能となっている(
図5参照)。突条部位23同士の間にはスペアタイヤSTと接触されない空間SPが形成されるが、突条部位23は収納方向に沿って伸びるように形成されているため、スペアタイヤSTと接触されない空間SPも収納方向に沿って伸びるように形成されることになる。したがって、スペアタイヤSTを突条部位23上で滑らせながら移動させる際、受け入れ凹部21とスペアタイヤSTとの接触面積を抑制することが可能となる。
【0040】
並列に配置されている突条部位23の各々がスペアタイヤSTを支えることが可能であるため、スペアタイヤSTがぐらつくことを抑制可能である。また、各々の突条部位23は収納方向と直交する断面において円弧状の曲面が形成されているため、突条部位23とスペアタイヤSTが接触する面積を抑制することが可能となっている。したがって、スペアタイヤSTがぐらつくことを抑制しながら収納方向にスムーズに移動させることが可能となり得る。
【0041】
実施例の突条部位23は、スペアタイヤSTの固定時にスペアタイヤSTを下支えすることが可能な支持面25とは異なる位置に形成されている。より具体的には、突条部位23は支持面25から下側の位置で収納方向に沿って伸びるように形成されている。したがって、スペアタイヤSTを固定させる際には、スペアタイヤSTと突条部位23とは当接されないようになっている。つまり突条部位23は、スペアタイヤSTを収納位置に移動させる過程ではスペアタイヤSTと当接することがあるが、スペアタイヤSTが収納位置に収まった状態においてはスペアタイヤSTと当接しないように構成されている。このため、突条部位23が長期間スペアタイヤSTに押し付けられている状態が回避可能となる。したがって、スペアタイヤSTに突条部位23と当接した痕跡が残ることを回避することが可能となり得る。
【0042】
本実施例においては、突条部位23は車両11の車幅方向に沿って伸びるように形成されている。通常、車両11の車幅方向は、作業者が力を掛けにくい方向であるが、車幅方向に沿って延びるように突条部位23が形成されていれば、作業者の労力を軽減させることが可能となり得る。
【0043】
次に、本実施例の収容部材20をより細かく説明する。本実施例の収容部材20は受け入れ凹部21を形成するために、略中心から下側に突となる弧を描くように支持腕27が三方向に伸びている(
図1参照)。各支持腕27には、各々支持面25が形成されているため、スペアタイヤSTは三箇所で支持されることになる。当該支持腕27は、突条部位23が設けられているスペアタイヤSTの挿入開始側(
図1の右側)に一つ形成されており、当該位置と逆側であるスペアタイヤSTの収納位置側(
図1の左側)に二つ形成されている。なお、支持面25は収容部材20の中央側から外周側に向けて緩やかに上方に傾くように構成されている。
【0044】
スペアタイヤSTの収納位置側に形成された二つの支持腕27は挿入開始側に設けられた支持腕27よりも上方に伸びるように形成されている。収納位置側に形成された二つの支持腕27は、支持面25より上方に伸びる部位を備えており、収納位置側に滑るように移動したスペアタイヤSTを所定箇所に収めることを容易にしている。
【0045】
収納位置側に形成された二つの支持腕27の間には、横方向に伸びる橋渡し部33が介在している。また、収納位置側に形成された支持腕27の一方側と、挿入開始側に形成された支持腕27との間に橋渡し部35が介在しているが、当該橋渡し部35を支えるように、補強腕37が形成されている。補強腕37は、車両11の配置した際に、挿入開始側の支持腕27よりも後部の扉BD側に位置するように構成されている。
【0046】
上記した構成とすることで、本実施例の収容部材20は皿状の収容部材20に比較しコンパクト化と軽量化をなすとともに、必要な剛性を保つことができるようにされている。
【0047】
ところで、本実施例の突条部位23は、挿入開始側から収容部材20の略中央位置まで伸びる構成としており、収容部材20の中央位置より収納位置側には突条部位23は設けていない。これは、挿入開始当初にスペアタイヤSTがスムーズに動き出せば、スペアタイヤSTの収容が比較的スムーズに行えるからである。また、本実施例の収容部材20は、支持面25より下側で突条部位23が伸びているが、当該構造であることも、理由の一つである。当該構造の収容部材20に対して、挿入開始側から収納位置側にスペアタイヤSTを移動させると、スペアタイヤSTが徐々に横倒しされることになる。この動きによって、スペアタイヤSTは突条部位23から離れ、突条部位23より上方に位置する支持面25に載ることになるため、収容部側まで、突条部位23を延ばす必要がないのである。
【0048】
上記した構成を採用すれば、スペアタイヤSTの移動をスムーズにすることができ得るのであるが、布体61を用いたタイヤカバー6をスペアタイヤSTに被せるものとすると、なお良い。本実施例においては、スペアタイヤSTのタイヤカバー6の取り付け取り外しを容易にするために、布体61を略環状にした状態を維持できる繋ぎ具63を備えている(
図6及び
図7参照)。したがって、布体61をスペアタイヤSTのタイヤ本体STMとなるゴム状の部分に沿わせて概略環状に巻きつけて繋ぎ具63により接合すれば、布体61をスペアタイヤSTに被せた状態を維持することが可能となる。なお、帯状の布体61の縁部には長手方向に沿わせてゴムひも65が備えられており、スペアタイヤSTにタイヤカバー6が装着された状態においては、スペアタイヤSTのゴム状の部分であるタイヤ本体STMの概略全体を覆うことが可能となっている。
【0049】
本実施例における繋ぎ具63として、一般的にチャックやジッパー若しくはスライドファスナなどと称される線ファスナを使用している。当該繋ぎ具63が外面側に露出している状態であると、当該繋ぎ具63が内装材などに当接した際に、内装材などを汚すことも考えられる。そこで、実施例においては、当該繋ぎ具63が外面側に露出しないよう、布体61に備えた覆い部61aで繋ぎ具63の外面側を覆った状態を維持可能な構成としている(
図8参照)。
【0050】
繋ぎ具63が布体61の一部で覆われた状態を維持するため、布体61には面ファスナ67が備えられている(
図6〜8参照)。より具体的には、繋ぎ具63で繋がれた際に外面側に残る布体61の一部により構成された覆い部61aで繋ぎ具63を覆った状態を維持可能なように面ファスナ67が配置されている。繋ぎ具63により布体61を環状にした後、当該面ファスナ67で布体61の端部を固定すれば、繋ぎ具63が外面側に露出している状態を防ぐことが可能となる。
【0051】
図9に示すように、当該タイヤカバー6をスペアタイヤSTに取り付けて収納することにより、スペアタイヤSTの取り出し時などにスペアタイヤ固定部2の周囲を汚すことが抑制される。また、スペアタイヤSTのゴムよりもタイヤカバー6のほうが滑りやすいため、スペアタイヤSTを移動させる際の作業性を高めることが可能となり得る。スペアタイヤSTのゴムの臭いが車室内に流入することを抑制しうる。更には、スペアタイヤSTをそのまま収納している場合に比較し、見栄えを向上させることにもなり得る。
【0052】
本実施例の形態のタイヤカバー6であれば、タイヤ本体STMを覆う布体61を一枚の帯状の布を用いて作成することができるため、タイヤカバー6を作成するコストを低減させることが可能となり得る。
【0053】
突条部位23を備えたスペアタイヤ固定部2とスペアタイヤSTに被せるタイヤカバー6によりスペアタイヤ収容システム4を形成することで、スペアタイヤ固定部2に沿わせてスペアタイヤSTを移動させる作業がよりスムーズとなり得る。
【0054】
タイヤカバー6に備えられた帯状の布体61をスペアタイヤSTのゴム部の周りに被せるようにし、一周したところで繋ぎ具63を構成する線ファスナにより接合することで、スペアタイヤSTのゴム部周りを概略覆うことが可能となるため、比較的容易にタイヤカバー6をスペアタイヤSTに装着することが可能である。また、線ファスナによって繋がれている状態を解除すれば、タイヤカバー6をスペアタイヤSTから取り外すことが可能であるため、比較的容易にスペアタイヤSTに対してタイヤカバー6の着脱が可能である。
【0055】
本実施例のスペアタイヤ固定部2であると、スペアタイヤSTを収納開始側から収納位置側に移動させる際だけではなく、収納位置側から挿入開始側に向けてスペアタイヤSTを移動させる際も、スムーズに移動させることが可能となり得る。
【0056】
本実施例の車両11であれば、スライドレールSRを車両11の後部に設けた収納凹部9の上まで延ばした構成であるため、シート10の移動範囲を大きくすることが可能であるとともに、スライドレールSRの下方にスペアタイヤSTを配置可能であるため、車両11の後部スペースを効率良く利用することができる。また、当該収納凹部9に設けられた突条部位23に沿わせてスペアタイヤSTを移動させることが比較的容易となるため、利用者の作業性を高めることが可能となる。
【0057】
以上、一つの例を用いて実施例を説明したが、本発明は、上記実施例のほか、その他各種の形態で実施可能なものである。例えば、突条部位の表面は断面視において、部分的に円弧形状となっている形態としても良い。
【0058】
スペアタイヤ固定部は、収納凹部自体の形状により構成することも可能である。この場合、スペアタイヤを載置するために収容部材を別途用意する必要がなくなる。また、収容部材をリング状とし、収納凹部に突条部位を設ける構成とすることも可能である。
【0059】
突条部位は、両端が形成された線分状の突起により形成されていることに限らない。例えば、略U字形状や略楕円形状の突起を形成した場合であっても、その中に収納方向に伸びている部位が存在すれば、その部位は収納方向に伸びる突条部位である。
【0060】
並列に配置される突条部位は同じ長さのものが平行に配置されていることに限らない。例えば、片方がもう一方よりも長いものであっても良い。また、側面視で部分的にオーバーラップするように、ずらしながら複数の突条部位を形成することなども可能である。
【0061】
支持面は3箇所とする必要性は無く、4箇所にして4点支持とすることも可能である。また、複数個所に分散する形態ではなく、環状の面でスペアタイヤを支持するものとすることも可能である。
【0062】
スライドレールはシートを前後移動させるものではなく、物品を収容するために使用されるボックスなど、その他の部材を前後移動させるために使用するものとしても良い。
【0063】
タイヤカバーの覆い部を固定するものとしては、面ファスナである必要性は無い。例えばボタンなどなどを採用することも可能である。この場合、ボタンが表面に露出しないようにすることが望ましい。
【0064】
タイヤカバーの縁部に配置されるものは、ゴムひもである必要性は無い。タイヤカバーの端部の調整が可能であればよいため、長さを調節できるひも状のものであれば良い。例えば、タイヤカバーの縁部を絞ることが可能なように綿などで形成した紐を配設した形態とすることも可能である。