【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明する。
【0053】
実験例1 (脱脂米糠の成形加工試験)
脱脂米糠として、「ハイブレフ」(油分含有量 11%、サンブラン株式会社製)を用意し、加水して含有水分量を36%程度に調整した後、押出し製麺機(「さくら」(商品名)、アベ技研製)で、製麺した後、固形状(長さ約10〜15mm、幅約5mm×3mm)に裁断し、これを蒸気にて加熱することで、固形状の脱脂米糠の成形品を製造した。
【0054】
また、前記脱脂米糠に、酒米吟上糠(白糠)や米粉を所定量配合したものについても、上記と同様にして、フレーク状の成形品を製造した。
【0055】
使用した原料の配合割合、スチーム加熱および乾燥条件、および得られた成形品の水分含有量は表1に示すとおりである。なお、水分含有量の測定は、常圧加熱乾燥法(135℃、3時間)にて行った。
【0056】
【表1】
【0057】
この結果、つなぎ素材として酒米吟上糠(白糠)や米粉を配合しなくとも、脱脂米糠のみでフレーク状に成形することが可能であることがわかった。
【0058】
さらに、得られた脱脂米糠100%のフレーク状の成形品に、水分が38%程度になるように水分を加えても、成形品の形状は崩壊せず、製麹用材料として十分に使用可能であることがわかった。
【0059】
実験例2 (麹菌種による麹特性の比較:糖化、液化)
原料として脱脂米糠「ハイブレフ」を100%し、実験例1におけると同様にしてフレーク状の成形品を得た。得られた脱脂米糠のフレーク状の成形品を加水し、水分を38%に調整した後、表2に示す麹菌を、種麹として散布し、温度35℃、湿度90%以上の恒温室(ドゥコンディショナー、株式会社マルゼン製)内に静置して、44時間培養を行った。
【0060】
なお、使用した麹菌は、焼酎用麹(Aspergillus kawachi)、白麹雪こまち(Aspergillus oryzae白色変異株)、白麹すずらん((Aspergillus oryzae白色変異株)および味醂用麹(Aspergillus oryzae)であった。
【0061】
得られた麹の水分含有量の測定を、常圧加熱乾燥法(135℃、3時間)にて行った。
【0062】
また、得られた麹の特性を調べるため、上記で調製した麹に同量の水を加えて、時々攪拌しながら56℃で1時間糖化させ、その後No.2の濾紙で正確に1時間濾過を行った液を糖化液とした。この糖化液の液量、pH、糖度、グルコース含量を測定した。なお、pH測定には、マルチ水質計MN−60R、東亜ディーケーケー(株)製を、糖度測定には、デジタル糖度計IPR−201、iuchi製を用い、グルコース含量は、HPLC(日本分光(株)製)を用いてグアニジン・ポストカラム蛍光誘導体化により測定した。
【0063】
得られた結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
いずれの麹菌を使用した場合においても、脱脂米糠のフレーク状の成形品の表面には麹菌が良好に生育したが、本発明に係る焼酎用麹、すなわちアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)を用いて得られた米糠麹は、他の麹菌による米糠麹と比較して、液化、糖化とも最も良好であり、食味の改善に係るグルコース含量も比較的良好な値となった。
【0066】
実験例3 (麹菌種による麹特性の比較:酵素活性)
実験例2と同様の手法により、各種の麹菌を用いて米糠麹を調製した。
また、参考のために、原料として米粉を100%使用し、実験例1におけると同様にしてフレーク状の成形品を調製し、これに実験例2と同様の手法により、各種の麹菌を用いて米粉麹を別途調製した。
【0067】
得られた各米糠麹、米粉白糠麹に関して、αーアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、フェルラ酸エステラーゼの各酵素活性の測定を行った。
【0068】
なお酵素活性の測定は、次の条件により行った。
麹10gを0.5%塩化ナトリウム含有0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)溶液100mlに加え、3時間抽出後濾過して得られた濾液を0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)に対して一晩透析し、粗酵素液として、セロビオヒドロラーゼ以外の糖質関連酵素はジニトロサリチル酸を用いた比色法により、セロビオヒドロラーゼはp-ニトロフェニルセロビオシドを基質に比色法により、エステラーゼはアルファ-ナフチル酪酸を基質に比色法により、フェルラ酸エステラーゼはメチルフェルラ酸を基質に、分解産物のフェルラ酸をODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。得られた結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示す結果から明らかなように、米糠麹は総じて、対照となる米粉麹よりも、αーアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、セロビオヒドロラーゼ、キシラナーゼ、フェルラ酸エステラーゼ活性において高い活性を示した。そして、本発明に係る焼酎用麹、すなわちアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)を用いて得られた米糠麹は、他の麹菌による米糠麹と比較して、αーアミラーゼ、グルコアミラーゼ活性が良好であり、また、キシラナーゼ、フェルラ酸エステラーゼ活性が顕著に高いものであり、総合的に見て酵素活性が最も高いものであった。このことから、本発明に係る米糠麹は、液化、糖化が良好であり、遊離フェルラ酸産生能に優れるものであることが裏付けられた。
【0071】
実験例4 (麹菌種による麹特性の比較:有機酸、フェルラ酸含有量)
実験例2と同様の手法により、各種の麹菌を用いて米糠麹を調製し、同様の手法によりさらに糖化液を調製した。得られた米麹の糖化液を−80℃にて冷凍保存しておいたものを、流水にて解凍した。解凍後3000rpm×10分間遠心分離し、上澄みから1mlとり(質量測定)、10mlにメスアップし、0.45μmのメンブランフィルターでロ化したものを測定試料とした。
【0072】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、ブロモチモールブルー(BTB)溶液を用いたポストカラム誘導体化可視吸光法により、有機酸含量の測定を行った。標準物質として、フィチン酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、蟻酸、酢酸、n−酪酸を使用した。クエン酸、乳酸、酢酸以外の物質は、測定試料中に含有されているかは不明であったが、得られた保持時間と標準物質の保持時間が同じに検出されたものはその物質として換算した。得られた結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4に示す結果から明らかなように、本発明に係る焼酎用麹菌、すなわちアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)を用いて得られた米糠麹は、他の麹菌による米糠麹と比較して、クエン酸、酢酸含有量が高く、特にクエン酸含量は、他の40〜60倍程度と圧倒的に高い値となり、味の改善に係るとともに、有用性の高いクエン酸の高い産生能力を有することが認められた。
【0075】
フェルラ酸は、実験例3に示すように、ODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、320nmで検出し、標準フェルラ酸の検量線により定量した。得られた結果を表4に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
表5に示す結果から明らかなように、本発明に係る焼酎用麹菌、すなわちアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)を用いて得られた米糠麹は、他の麹菌による米糠麹と比較して、フェルラ酸含有量が15倍から40倍程度と圧倒的に高く、生理活性物質のフェルラ酸の高い産生能力を有することが認められた。
【0078】
実験例5 (原料種による麹特性の比較)
原料として、脱脂米糠「ハイブレフ」、酒米吟上糠(白糠)、米粉を用意し、これらを表4に示す割合で使用し、実験例1におけると同様にしてフレーク状の成形品を得た。得られた各フレーク状の成形品を加水し、水分を38%に調整した後、焼酎用麹(Aspergillus kawachi)を、種麹として散布し、実験例1と同様の条件にて培養して、麹を作成し、原料種の相違による麹の特性(一般成分、酵素活性)を調べた。得られた一般成分の結果を表6に示す。なお、液化%、糖度、pH、グルコース含有量については実験例1に示すものと同様の手法により、またクエン酸含有量については、実験例4に示すものと同様の手法によりそれぞれ測定した。
【0079】
【表6】
【0080】
表6に示される結果から、原料として脱脂米糠のみを用いた場合には、米粉のみを用いた場合や、これらを配合した場合と比較して、原料中に含まれるデンプン質の量が少ないことに起因するためか、液化、糖度が低い値となる反面、pH値は米麹の至適範囲であるpH5.7〜6.0程度の範囲内にあり、クエン酸含量が非常に高まることが認められた。
【0081】
実験例3に示す同様の方法により、酵素活性を調べた。得られた結果を表7に示す。
【0082】
【表7】
【0083】
表7に示す結果から明らかなように、脱脂米糠100%麹は総じて、米粉麹、白糠麹よりも、αーアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、エステラーゼ、フェルラ酸エステラーゼ活性において高い活性を示した。とりわけ、αーアミラーゼ、キシラナーゼ、フェルラ酸エステラーゼ活性は最も高いものであった。このことから、本発明に係る米糠麹は、液化、糖化が良好であり、遊離フェルラ酸産生能に優れるものであることが裏付けられた。
【0084】
なお、フェルラ酸エステラーゼ活性は、表7のデータを見ても明らかなように、白糠や米粉の混合量を増やしていくにつれ低下していくことが確認され、これらの酵素を生産するためには、米糠100%で麹を調製することが望ましいと考えられた。
【0085】
実験例6 (米粉糖化液の調製)
原料として脱脂米糠「ハイブレフ」を100%使用し、実験例1におけると同様にしてフレーク状の成形品を得た。得られた脱脂米糠のフレーク状の成形品を加水し、水分を38%に調整した後、焼酎用麹(Aspergillus kawachi)または白麹すずらん(Aspergillus oryzae白色変異株)を、種麹として散布し、実験例1と同様の条件にて培養を行い、米糠麹を調製した。
【0086】
一方、うるち米粉(「はえぬき」米粉)を用意し、この米粉に3倍量の水を加え、市販の炊飯器で加水加熱調理して、糊化させた。
【0087】
上記で得られた米糠麹に対し、この加水加熱して糊化させた米粉を、乾燥重量換算で1:3の割合で混合した。この混合物中の成分割合は表8に示す通りである。
【0088】
【表8】
【0089】
得られた混合物を、57℃のウォーターバスに浸漬し、品温を56℃に保ち、7時間保持して、糖化処理を行った。なお、保持時間中、一時間に1度以上攪拌し、十分な攪拌状態とした。
【0090】
その後、得られた糖化物を95℃まで加熱し、3分間保持した後、水分調整を行って水分含有量を約75%とした。その後、市販のナイロンポリエチレン袋に糖化物を充填し、開口部をシールした後、85℃で15分間熱処理を行って殺菌し、冷却した。得られた糖化物は使用するまで4℃にて保存した。
【0091】
得られた米糠麹米粉糖化物の糖度、pH、グルコース含有量につき測定した結果を表9に示す。なお、糖度、pH、グルコース含有量は実験例1に示すものと同様の手法により、クエン酸含有量は実験例4に示すものと同様の方法により、フェルラ酸含有量は実験例3に示すものと同様の方法により、それぞれ測定した。
【0092】
【表9】
【0093】
表9に示すように、本発明に係る焼酎用麹、すなわちアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)を用いて得られた米糠麹を使用して米糠麹米粉糖化物を調製すると、その糖化は十分に進行し、食味の良好な糖化液となること、また、クエン酸およびフェルラ酸の含有量が非常に高まることが確認できた。