特許第6337369号(P6337369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6337369低オリゴマー性ポリエステルフィルムの製造方法、低オリゴマー性ポリエステルフィルム及びその低オリゴマー性ポリエステルフィルムを用いた離型フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337369
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】低オリゴマー性ポリエステルフィルムの製造方法、低オリゴマー性ポリエステルフィルム及びその低オリゴマー性ポリエステルフィルムを用いた離型フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   C08J7/00 302
   C08J7/00CFD
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-34203(P2014-34203)
(22)【出願日】2014年2月25日
(65)【公開番号】特開2015-157918(P2015-157918A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】福田 和生
(72)【発明者】
【氏名】城本 幸志
(72)【発明者】
【氏名】笠原 康宏
(72)【発明者】
【氏名】室伏 義郎
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−303232(JP,A)
【文献】 特開昭64−090725(JP,A)
【文献】 特開2011−110881(JP,A)
【文献】 特開2007−111923(JP,A)
【文献】 特開2013−139089(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0168393(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C71/04
C08J 3/00〜 3/28
5/18
7/00〜 7/18
B32B 1/00〜43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内で、ポリエステルフィルムに高速イオンを照射することができるイオン源を用いて、該フィルム表層を改質する低オリゴマー性ポリエステルフィルムの製造方法であって、前記イオン源によりポリエステルフィルムに照射される高速イオンの平均エネルギーEaが100eV〜4keVの範囲にあり、該高速イオンによるイオン電流I(A)、ポリエステルフィルムの送り速度v(m/s)、該フィルムの幅 W(m)から、Ea×I/(v×W)の式で求められる照射エネルギー密度(J/m)が100〜5000J/mの範囲にあることを特徴とする低オリゴマー性ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記イオン源が、ポリエステルフィルムの幅方向に沿って直線部が伸びるレーストラック形状の間隙を有するカソードとその隙間背後のアノードからなり、該間隙の幅方向に磁力線が渡っており、該カソードに対して該アノードに正の電圧を印加することでアノード前面の空間にプラズマを発生させるとともに、該間隙より高速イオンを照射することができるアノードレイヤータイプのイオン源であることを特徴とする請求項1に記載の低オリゴマー性ポリエステルフィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低オリゴマー性を有するポリエステルフィルムの製造方法、低オリゴマー性ポリエステルフィルム及びその低オリゴマー性ポリエステルフィルムを用いた離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、高い強度、寸法安定性、耐熱性、ガスバリア性能、電気絶縁性などから包装用途、工業用途、電気用途などに広範に用いられており、近年は高い透明性と強度により、ハードコートフィルムやタッチパネル用透明導電膜基体などの光学用途にも使用されてきている。また耐熱性や寸法安定性から離型フィルムなどにも使用されている。
【0003】
タッチパネル用途においては、光学と透明導電膜基体の2つの機能を持ち、カーナビゲーション用ディスプレイやスマートフォンに用いられている。
【0004】
離型フィルムは、基材フィルム表面に、付加反応型シリコーン樹脂等の硬化性樹脂及び硬化剤等を含有する剥離層形成溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥(硬化)して離型層を形成することによって製造されている。粘着シートの粘着面に付着されて、粘着面が他の部分に接触するのを防ぐとともに、使用時には容易に剥がれる機能を持っている。液晶偏光板、位相差板等の光学用途フィルム製造時に用いる粘着剤保護用として、近年多用されている。
【0005】
ポリエステルフィルムには、低分子量のポリエステルであるオリゴマーが含まれている。オリゴマーは環状に連なったものが安定であり、ポリエステルの原料であるジカルボン酸とジオールのモノマーユニットが3個が連なった環状三量体が多いとされている。この様な分子塊であるオリゴマーは高分子の中を移動することができて、特に温度が高くなると移動も盛んになって表面に析出する。そして表面を移動して集合し微小な塊となって、目視では白く曇ったように見える。上記の用途においても、ポリエステルフィルムの加工時の加熱によって表面に析出してくるオリゴマーは、白濁・白化を引き起こし、光学的特性を劣化させ、異物となって生産性を妨げる原因となる。例えば、高透明が必要とされる光学用途等に用いられる場合、析出した表面オリゴマーのために表面性状が悪くなったり、ヘイズの増加により透明性が低下したりすることなどが問題となってきた。ポリエステルフィルムを基材とする透明導電性フィルムを用いた太陽電池やカーナビゲーション用ディスプレイは、直射日光下や車中の高温環境下で、オリゴマーの析出により白濁・白化するため、使用する環境が制限されるという問題がある。
【0006】
また、光学用途に用いる際に必要なシリカなどの蒸着過程における加熱で、フィルム表面にオリゴマーが多く析出して、蒸着が上手くできないという問題が起こる。
【0007】
離型フィルムとしての用途においては、熱処理等によりオリゴマーが発生し、偏光フィルムや液晶ディスプレイのガラスの表面に転移し、輝度欠点となる。近年の強い高品位化の要求から、オリゴマーの移行防止の更なる強化が必要となっている。
【0008】
これまで、オリゴマーの析出を抑えるためには、2層の膜を塗布してオリゴマーの析出を減少させることも試みられたが、塗布工程が2回となるため、コスト高であった(特許文献1)。
【0009】
また、表面にオリゴマーの析出をブロックする物質を積層する方法が取られていたが、コストが上昇するといった問題点があった(特許文献2)。積層した層とポリエステル表面との付着力が十分でないために、後工程でポリエステルフィルム表面から剥離して、異物欠点となることもあった。
【0010】
さらに、ポリエステルフィルム表面にプラズマ処理によりプラズマ反応被膜を形成し、オリゴマーの析出を抑える技術が知られているが(特許文献3)、プラズマ中のイオン種のエネルギーが低いために処理される層の厚さが小さく、処理効果に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−140562号公報
【特許文献2】特開2012−252814号公報
【特許文献3】特開昭59−167830号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】佐々木徳康他「リニアイオン源の開発」ULVAC TECHNICAL JOURNAL、No.63 2005、p.26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、加工時のオリゴマーの析出を防止し、かつ長期にわたって表面にオリゴマーの析出の無い低オリゴマー性ポリエステルフィルムの生産性に優れた製造方法、低オリゴマー性ポリエステルフィルム及びこの低オリゴマー性ポリエステルフィルムを用いた離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明は、真空槽内で、ポリエステルフィルムに高速イオンを照射することができるイオン源を用いて、該フィルム表層を改質することを特徴とする低オリゴマー性ポリエステルフィルムの製造方法である。
【0015】
第2の発明は、前記イオン源が、ポリエステルフィルムの幅方向に沿って直線部が伸びるレーストラック形状の間隙を有するカソードとその隙間背後のアノードからなり、該間隙の幅方向に磁力線が渡っており、該カソードに対して該アノードに正の電圧を印加することでアノード前面の空間にプラズマを発生させるとともに、該間隙より高速イオンを照射することができるアノードレイヤータイプのイオン源であることを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、前記イオン源によりポリエステルフィルムに照射される高速イオンの平均エネルギーEaが100eV〜4keVの範囲にあり、該高速イオンによるイオン電流I(A)、ポリエステルフィルムの送り速度v(m/s)、該フィルムの幅W(m)から、Ea×I/(v×W)の式で求められる照射エネルギー密度(J/m)が100〜5000J/mの範囲とすることを特徴とする。
【0017】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明に係る製造方法により製造されたポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表層に高速イオンの照射による改質層が設けられ、180℃、10分間熱処理した後の該イオン照射面のジメチルホルムアミド抽出によるポリエステルオリゴマー量が2.0mg/m以下であることを特徴とする低オリゴマー性ポリエステルフィルムである。
【0018】
第5の発明は、第4の発明に係る低オリゴマー性ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に離型層が設けられたことを特徴とする離型フィルムである。
【0019】
第6の発明は、第5の発明であって、一方の表層に高速イオンの照射による改質層が設けられ、もう一方の面に離型層が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法は、加熱後も透明性が失われること無く、オリゴマー防止層の脱落も無く、オリゴマーの析出が低減されるポリエステルフィルムを提供する。また、本低オリゴマー性ポリエステルフィルムを適用した離型フィルムにおいては、加熱工程で析出したオリゴマーがその後に通過するロールに付着することもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の低オリゴマー性ポリエステルフィルムの断面構造模式図である。
図2】本発明の離型フィルムの断面構造模式図である。
図3】本発明の高速イオン照射処理に用いる装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先ず、図を用いて本発明の概要を説明する。
【0023】
図1に本発明のポリエステルフィルムの構成を示す。ポリエステルフィルム1の表面に改質層2が形成されている。
【0024】
図2には本発明の離型フィルムの構成を示す。ポリエステルフィルム1の表面に改質層2が形成されており、その反対の面に離型膜が形成されている。
【0025】
図3には本発明の低オリゴマー性ポリエステルフィルムの製造に用いる製造装置の一例を示す。ポリエステルフィルム1は巻き出しロール13から出て、冷却ドラム15に巻かれて通過する際に、高速イオンを発生するイオン源16から高速イオンを照射される。その後、巻取りロール14に巻き取られる。
【0026】
本発明は、真空槽内で、ポリエステルフィルムに高速イオンを照射することができるイオン源を用いて、該フィルム表層を改質することを特徴とする低オリゴマー性ポリエステルフィルムの製造方法である。
【0027】
本発明におけるポリエステルフィルムのポリエステルとは、酸とアルコールによるエステル結合を有するポリマーの総称であるが、ジカルボン酸とジオールの縮合重合体が代表的なものであり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などが工業的に安価に製造されている。中でもPETは成形性や物性バランスが優れており、常法により二軸延伸されたPETフィルムの使用が好ましい。
【0028】
通常の低圧プラズマ処理(あるいはグロー放電処理)においてもイオン照射による表面改質が行われるが、この場合のイオンのエネルギーは0.1〜数eV程度とされており、表面改質の効果は最表面のみに限定され、一定の厚さを持つ改質層は形成されない。
【0029】
本発明においては、100eV以上の高速イオンを照射してポリエステルフィルムの表層を改質することが好ましい。
【0030】
照射する高速イオンのエネルギーは、イオン源の機構によって特徴的な分布を持つ。一般的なイオン源では、プラズマを発生させる機構、プラズマからイオンを引き出す機構、および引き出したイオンに加速電圧をかける機構が独立しており、加速電圧に従ったシャープなエネルギー分布を持つ高速イオンを得ることができる。一方で、アノードレイヤータイプのイオン源では、後述するように上記の機構が独立でないためにイオンのエネルギーに分布が生じる。
【0031】
イオンの持つエネルギーにより加重平均した平均イオンエネルギーは100eV〜4keVの範囲とすることが好ましい。100eV以上とすることで、ポリエステルフィルムの表層の改質の効率を高くすることができる。平均イオンエネルギーが150eV程度から改質層がより効率よく形成されるようになり、1000eVでは充分効率よく形成される。これより平均イオンエネルギーを高くして、4keV程度までは適切な領域となる。これを超えると処理としては過剰になるとともに、改質層を形成するだけでなく、高いエネルギーにより改質層もエッチングされて生産性の無駄を生じる。また、高速イオンが高いエネルギーで深くまで侵入するため改質層が深くなり、表層付近を改質する効率が低下する。
【0032】
本発明においてポリエステルフィルム表層の改質の程度は、以下のパラメータにより調整できる。入射したイオンの持つエネルギーは、そのイオンがポリエステルフィルム表層に与えるエネルギーを意味する。イオン源から照射されるイオンのエネルギーは単一でなく、イオン源の構造や駆動条件に応じた分布を持つ。そのため、イオンのエネルギー分布の平均値Eaを代表値として扱う。
【0033】
イオン電流は、照射されるイオン粒子により流れる電流であり、改質のために入射する時間当たりのイオンの数に対応する。フィルムを送りながら処理する場合、フィルムの幅と送り速度の積が単位時間当たりの処理面積である。
【0034】
ポリエステルフィルムの表層改質の程度は、イオンの平均エネルギーEaとイオン電流Iの積である電力値を、単位時間当たりの処理面積で割って、単位面積あたりの照射エネルギー値(以下照射エネルギー密度)(J/m)として、Ea×I/(v×W)で表される。ここで、フィルムの送り速度はv(m/s)、フィルムの幅はW(m)である。
【0035】
この照射エネルギー密度については100J/mから5000J/m範囲が本発明においては好適な領域である。100J/m以上とすることで十分な表層改質効果を得ることができ、5000J/m以下とすることで過度な処理をすることなく、褐色の着色のない無色透明なポリエステルフィルムの改質層とすることができる。
【0036】
上述のような適切な照射エネルギー条件は、イオン源に導入するガスの流量や動作圧力、動作電圧などのパラメータを調整し、フィルムの送り速度を適宜選択することで達成できる。
【0037】
イオン照射に際して、電子シャワーによる電荷の中性化を行うと、照射されたイオンが形成する電場がその後から照射されるイオンに対して斥力となることを防止して効率的な照射が行えるようになる。イオンビームの進路にフィラメントを設置して電流を流すと熱電子が放出されて、イオンビームの電荷を中和する。また、チャージアップしたフィルム面があれば電場に引かれて電子が到達し、フィルム面の電荷を中和する。フィラメント交換のメンテナンスが装置の保全の効率を落とす場合は、RF放電によるプラズマよりメッシュ状の引き出し電極を用いて電子のみを引き出し、フィルム面に照射しても良い。
【0038】
照射するイオンの種類は特にこだわらないが、民生用途として問題のない無害なイオン種から選択すればよく、室温で気体であるものは取り扱い性に好適であり、希ガスの他に窒素、酸素、水素、二酸化炭素などのガスイオンは実用性の面で適している。その中でもコスト的に窒素、酸素、アルゴンのイオンは有利である。
【0039】
本発明の高速イオンの照射に用いるイオン源の形状は、走行させるポリエステルフィルムの幅方向に均一にイオンの照射が可能であって、ロール・ツー・ロール方式の真空装置内に設置できるコンパクトなものが望ましい。一般的なイオン源によるイオンビームの形状は円形であり、フィルム幅方向に均一なイオンビームとするには幅方向に複数のイオン源を配置して使用することができるが、複数のイオン源間の干渉の影響や、イオンビームの幅方向の均一性に課題がある。一方で細長いという意味のリニア型と呼ばれるイオン源は、1台のイオン源の長手方向をフィルム幅方向に配置することで、フィルムの幅方向に均一な処理を行うことができることから好ましく用いることができる。
【0040】
このリニア型の代表的なものが、非特許文献1で解説されているアノードレイヤー型のものである。すなわちレーストラック状の間隙部の間隙幅方向に磁場を形成し、開口部背面に配置されたアノードに間隙部(カソード)に対して正の電圧を印加し、間隙部磁場に基づく電子のホール運動によりプラズマを強化するとともにイオンの加速を行う方式のイオン源である。イオン発生部であるレーストラック形状をフィルムの幅方向に長く伸ばすことでリニア形状が得られ、フィルム幅方向に均一な高速イオン照射を行うことができる。
【0041】
高速イオン照射のためのイオン源内部の真空度はプラズマを維持し、大電流のイオンを取り出すために一定圧力以上としなければならず、一方引き出された高速イオンはポリエステルフィルムに照射されるまでに残留ガスとの衝突でエネルギーを失わないようイオン源外部の圧力は低く設定されることが好ましく、0.1Pa以下の圧力とすることが好ましい。
【0042】
本発明においては、真空槽内でポリエステルフィルムを連続的に処理する真空装置を用い、該フィルムの幅方向の全幅に同時に高速イオンを照射することができるイオン源により該フィルム表層を改質する。ロール・ツー・ロール方式の蒸着機を当処理のための真空装置として用い、イオン源を設置する場合には、蒸着源の位置にイオン源を設置して冷却ドラム上の該フィルムにイオンを照射しても良い。また、該フィルムの巻き出し部と蒸着部との間、あるいは蒸着部と巻き取り部との間にイオン源を設置して該フィルムにイオンを照射しても良い。
【0043】
上記イオン源の取り付け部の真空度がイオン源の動作に適した範囲とならない場合、イオン源の動作環境を整えるため、イオン源部分を囲って内部をそれ用の排気システムで排気を行う差動排気を行なうことも有効である。
【0044】
イオンの残留気体との衝突は、イオン源とポリエステルフィルムが近いほど減少できるので、イオン源のイオン引き出し開口部とフィルム間は15cm以下に近づけることが望ましい。
【0045】
上記のように、高速イオンの照射による改質層が設けられることにより、180℃、10分間熱処理した後の該イオン照射面のジメチルホルムアミド抽出によるポリエステルオリゴマー量は2.0mg/m以下、より好ましくは0.5mg/m以下となる、オリゴマー析出量の低いポリエステルフィルムが高い生産性で製造できる。該ポリエステルオリゴマー量が2.0mg/m以下であると、加工時のオリゴマーの析出が抑止され、フィルムの光学特性等の劣化が少なく好ましい。
【0046】
オリゴマーは、ポリエステルフィルム中を移動し表面に析出するが、高速イオンのもたらすエネルギーにより、イオンの侵入しうる深さにわたって高分子の一部が分解され、炭素の二重結合が増えて強固な分子構造の表面層が形成されることが考えられる。この層は二重結合により耐熱性にも優れており高温においても動きにくく、高温で活性化されるオリゴマーの移動を防ぐものと考えられる。
【0047】
本発明によるポリエステルフィルムに離型層を塗布した離型フィルムは、当発明の効果を極めて良く発揮する。離型フィルムを粘着用に加工する場合、離型フィルムに粘着材が塗布されて加熱炉に入る。この加熱によりポリエステルフィルムからオリゴマーが析出するが、本発明により防止することができる。なお、離型層としては硬化型シリコーン樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂等、公知の離型層を用いることができる。離型層の塗布は、グラビアコート、グラビアリバースコート、リップコート、ダイコート、マイクログラビアコート、マイヤーバーコートおよび多段リバースコート等、公知の方法で実施できる。 このような工程を前提とする場合、オリゴマーの析出を防止する面は、その望む効果により選択すれば良い。片面の離型層上に粘着層が塗布されて加熱炉を出てきた後で、離型面裏側に接するローラーに析出したオリゴマーが付着するのを防ぐためには、離型面の裏側の面に本発明の処理を行う。離型層側のオリゴマー析出が問題とならない場合や、別の方法で離型層側のオリゴマーを防止する場合も、裏面だけで良い。
【0048】
離型層側の面もオリゴマーの析出を防止したい場合には、本発明の処理を両面に行ったポリエステルフィルムを用いる。
【0049】
両面に離型層を塗布する場合にも、同じ考えで、必要に応じて選択した面に本発明の処理を行えばよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について実施例を用いて、更に詳細に説明する。なお、実施例5および実施例7は、それぞれ参考例1および参考例2とする。また、実施例および比較例中の物性は次のようにして測定した。
(1)全光線透過率
イオン照射後のポリエステルフィルムの全光線透過率(%)を、日本電色工業(株)製ヘイズメーターNDH2000(JIS K7361−1(1997年版))により測定した。87%以上を好適な範囲とした。
(2)ヘイズ上昇値
ポリエステルフィルムを160℃、10分間熱処理を行った。オリゴマーは両面に析出してヘイズの原因となっているが、イオンビームを照射していない面のオリゴマーをエタノールで拭き取って照射面だけのオリゴマーによるヘイズを測定した。日本電色工業(株)製ヘイズメーターNDH2000(JIS K7136(2000年版))により、ヘイズを測定した。また、熱処理を行ってない該フィルムも同様にヘイズを測定し、熱処理した該フィルムのヘイズの値から差し引いて、熱処理で発生したオリゴマーによるヘイズの上昇値として評価した。ヘイズの上昇値として0.5%以下を好適な範囲とした。
(3)オリゴマー析出量
ポリエステルフィルムを180℃×10分間熱処理後、11cm×10cmに切り抜き、内側がイオン照射層となるように4辺を端から各1cm折って角部を固定し、底面が9cm×8cmで上が開いた箱を形成した。底面の面積は72cmである。次いで、ここで作成したフィルムの箱の中に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)10mlを入れ、底面積が全てDMFに浸るようにし、室温で3分間放置した後、DMFを回収し、液体クロマトグラフィー(ShimadzuCLASS−VP)に供給し、DMF中のポリエステルオリゴマー量を求めた。DMF中のポリエステルオリゴマー量を接触させたフィルム面積で割り、オリゴマー量(mg/m)とした。DMF中のオリゴマー量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた。標準試料は、あらかじめ分取したポリエステルオリゴマーを正確に秤量し、同時に正確に秤量したDMFに溶解し得た。標準試料の濃度は0.001〜0.01mg/mlとした。液体クロマトグラフによるDMF中のポリエステルオリゴマー量の測定条件は下記のとおりである。
移動相A:メタノール
移動相B:純水
カラム:YMC−Pack OSD−A
カラム温度:40℃
検出波長:240nm
(株式会社日立ハイテクノロジーズ 分光光度計 型式 U−3310)
2mg/m以下を好適な範囲とした。
(4)オリゴマー析出状態の目視観察
ローダーにて巻きだしたフィルムを、160℃の雰囲気で長さ20mの加熱炉を速度4m/minで通過させ、5分間の加熱を行った。そして、加熱炉を出てフィルムが最初に接するロールを、1巻のフィルムの処理が終わった後、目視で観察した。そのロールにオリゴマーが付着して、目視で白色に見える場合を不合格(×)とし、確認できない場合を合格(○)とした。
(5)加熱による析出オリゴマーの平均大きさと個数
ポリエステルフィルムを100mm×100mmの大きさに切り取り、160℃に設定したオーブンの中で10分加熱した後、オーブンから取り出して冷却し、そのフィルム小片の表面を1000倍に設定した顕微鏡(Nikon Eclipse LV100)で観察した。100μm×100μmの面積の視野を5視野観察し、オリゴマー粒の縦横の大きさを記録した。横は顕微鏡の視野でオリゴマーの横方向の最大長さ、縦はオリゴマーの縦の最大長さとした。このようにして求めた縦横の大きさの平均値を直径とする円の面積としてオリゴマーの面積値を算出した。各オリゴマーについて算出した面積の平均値を平均面積とした。なお、上記距離の測定は、接眼レンズに目盛りをつけ、目盛りと視野とを比較しながら実施した。
【0051】
また、加熱後の粒子状物100μm×100μmの面積の視野を5視野観察し、そこで見えた1μm以上のオリゴマー粒子の個数を数えて5(視野数)で割ることで平均化した。9個/100μm□以下を好適な範囲とした。
【0052】
(実施例1)
連続巻き取り式蒸着機((株)アルバック製)の蒸着部に、有効長1mのリニア型アノードレイヤータイプのイオン源(米Veeco社、ALS1000L)を、フィルム走行面から50mmの距離に設置した。イオン源用電源は、米グラスマン・ハイボルテージ社SHタイプを用いた。フィルム冷却ドラムを蒸着機から電気的に絶縁し、電流計と直流電源を設置し、イオン源を動作させた状態で正のリターディング電圧を変化させながらイオン電流を測定した。リターディング電圧とイオン電流の関係から非特許文献1と同様にしてイオンのエネルギー分布からイオンの平均エネルギーEa(eV)を算出した。なお、リターディング電圧をかけない状態でのイオン電流I(A)も測定した。まずイオン源には酸素を80cc/min導入し、アノード電圧2.6kV、アノード電流1200mAで動作させた。この際のイオンの平均エネルギーEaは0.8keVであり、イオン電流は1000mAであることを確認した。実施例2以降においても同様にイオン源の動作条件でのイオンの平均エネルギーとイオン電流を事前に測定した。
【0053】
フィルム巻き出し部には、ポリエステルフィルムとして低フィッシュアイタイプのPETフィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)R75、厚さ38μm、幅1000mm)をセットし、到達圧力3×10−3Paまで真空引きした。
イオン源を上記条件で動作させて酸素イオンを照射した。この時のフィルム冷却ドラムの温度は−30℃、フィルムの速度は2m/sであった。照射エネルギー密度は、0.8keV×1000mA/(2m/s×1m)=400J/mであった。イオン源の横の真空槽の壁に取り付けたB−Aゲージ式圧力計で、真空度は2×10−2Paであった。この様にイオン照射したポリエステルフィルムの全光線透過率とオリゴマー析出量、ヘイズ、異物の大きさ、数を表1に示した。いずれの特性も良好だった。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、イオン源のアノード電圧を0.5kVに変更し、さらにイオン源のガス流量を調整しアノード電流を960mAとし、送り速度は1m/sとした。イオンの平均エネルギーEaは0.2keVであり、イオン電流は800mAであった。単位面積あたりの照射エネルギー密度は160J/mであり、特性は良好であるが、オリゴマー析出量はやや多めだった。
【0055】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、イオン源のアノード電圧を2.6kV、アノード電流720mA、送り速度4m/sとした。イオンの平均エネルギーは0.8keV、イオン電流は600mA、単位面積あたりの照射密度は120J/mであり、特性は良好であるが、オリゴマー析出量はやや多めだった。
【0056】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で、イオン源のアノード電圧を4.3kV、アノード電流2000mA、送り速度0.5m/sとした。イオンの平均エネルギーは1.3keV、イオン電流は1800mA、照射エネルギー密度は4680J/mであり、特性は良好であるが、全光線透過率はやや低めだった。
【0057】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で、イオン源のアノード電圧を4.3kV、アノード電流2000mA、送り速度0.4m/sとした。イオンの平均エネルギーは1.3keV、イオン電流は1800mA、単位面積あたりの照射密度は5850J/mであった。オリゴマー析出量、大きさ、数は抑制されていたが、透過率が低下した。
【0058】
(実施例6)
長さ1000m、幅1000mm、厚さ38μmの東レ(株)社製PETフィルム“ルミラー”R75の片面に、実施例1と同様の方法で、イオン源のアノード電圧を2.6kV、アノード電流1200mA、送り速度2m/sとして連続的に高速イオン照射を行った。イオンの平均エネルギーEaは0.8keVであり、イオン電流は1000mAであった。単位面積あたりの照射エネルギー密度は400J/mであった。このフィルムについて、全光線透過率を測定した。
【0059】
次に下記の方法で、離型膜を塗布した。
【0060】
付加反応型の硬化型シリコーン樹脂であるKS847H(信越化学工業(株))10重量部、硬化剤であるPL−50T(信越化学工業(株))0.05重量部、トルエン/MEK(50/50)混合溶媒100重量部を混合した離型層塗工液を作成した。
【0061】
前記フィルムの高速イオン照射を行ってない側の面に、1000mm幅の通常のグラビアロールで離型層塗工液を塗布し、150℃オーブンで12秒間脱溶剤及び硬化反応させ離型フィルムを得た。乾燥後の塗工層の厚さは、0.25μmであった。
【0062】
この離型フィルムについて、ロールに巻き取られた最終部分から切り取ったサンプルについて離型膜裏面のイオン照射面においてオリゴマー析出量を測定した。
【0063】
次いで、1000mの長さを加熱炉を通して、離型膜の裏面のイオン照射面について、ロールへのオリゴマーの付着状態を観察した。ロール表面の汚れはなく良好であった。
【0064】
(実施例7)
実施例1において、イオン源のアノード電圧を3.3kV、アノード電流360mA、送り速度4m/sとした。イオンの平均エネルギーは1.0keV、イオン電流は300mA、単位面積あたりの照射密度は75J/mであった。オリゴマー析出量、大きさ、数いずれも大きくなった。
【0065】
(比較例1)
高速イオン照射を行わない、実施例1で用いたPETフィルムで評価を行った。オリゴマー析出量、大きさ、数いずれも非常に大きくなった。
【0066】
(比較例2)
銅をターゲットとするマグネトロンカソードを1Paの酸素中で40kHzの高周波にて放電させて発生させたプラズマ中をフィルムを通過させて高速イオンビーム照射に代わる表面処理とした。カソードの形状は1.3m×100mmで、放電時の電圧、電流は320V、9.2Aとした。オリゴマー析出量、大きさ、数いずれも非常に大きくなった。
【0067】
(比較例3)
実施例6において、イオン照射を行わず離型膜を塗布し、同様の評価を行った。ロール表面はオリゴマーの汚れが付着して白っぽくなっていた。
【0068】
【表1】
【符号の説明】
【0069】
1 ポリエステルフィルム
2 改質層
3 離型層
11真空槽
12真空ポンプ
13巻き出しロール
14巻き取りロール
15冷却ドラム
16イオン源
17イオン源動作用電源
18リターディング直流電圧源
19イオン電流計
図1
図2
図3