特許第6337386号(P6337386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6337386
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】積層体及びディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20180528BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20180528BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20180528BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   B32B27/18 Z
   B32B27/18 J
   B32B27/20 Z
   C08J7/04 DCER
   C09D5/24
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-147444(P2017-147444)
(22)【出願日】2017年7月31日
【審査請求日】2017年7月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】常田 義真
(72)【発明者】
【氏名】井上 節子
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−203282(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/056609(WO,A1)
【文献】 特開2007−031712(JP,A)
【文献】 特開2012−183811(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/097825(WO,A1)
【文献】 特表2016−535156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
C08J 7/04− 7/06
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と表面保護層とを備える積層体であって、
表面保護層は、平均粒径が10〜500nmである無機微粒子及び/又は架橋構造を有する有機微粒子からなる微粒子と、炭化水素系樹脂、オキシ脂肪酸、脂肪族アルコール、シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂からなるスリップ剤と、導電性高分子、カーボンナノ材料及び/又は金属ナノワイヤからなる導電材とを含んだコーティング組成物からなり、
表面保護層の動摩擦係数は1以下であり、かつ、剥離強度は1.5N/25mm以上であることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
コーティング組成物は、全固形分に対して、平均粒径が10〜500nmである微粒子を0.1〜10重量%含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
微粒子が、金属酸化物微粒子及び/又は有機無機複合粒子である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
スリップ剤が、シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
コーティング組成物が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂及びポリエーテル樹脂からなる群より選択される熱可塑性樹脂を少なくとも1つ含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記表面保護層が延伸加工処理体である、請求項1〜のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
アクリル系粘着層及び/又はウレタン系易接着層がさらに配置された、請求項1〜のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の積層体を備えたディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ等で使用される各種光学フィルムや光学フィルタには、優れた光学特性以外に、様々な特性が要求される場合がある。例えば、特許文献1のように、埃付着の防止のために帯電防止性が求められることがあり、界面活性剤や導電性高分子といった導電材を含んだコーティング組成物をフィルムに塗布することにより、フィルム上に帯電防止層を設ける対策がとられることがある。また、傷つき防止のために、表面保護性(滑り性、耐擦傷性)が求められることも多く、スリップ剤を加えて滑り性を付与することで、表面を保護する方法も提案されている。
【0003】
一方、各種光学フィルムや光学フィルタでは、成膜工程中で塗布を行うインラインコーティングにより製造することで、生産性を大きく向上させる試みがなされている。しかしながら、スリップ剤を添加する場合、滑り性が過剰となることがあり、巻き取り時にフィルムの動きを制御することが難しく、たけのこ状の巻きずれが発生することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−73307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、帯電防止性を有しながらも、傷つきが発生せず、巻き取り時の不具合が生じない光学フィルムや光学フィルタのための表面保護性を備えた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討したところ、驚くべきことに、剥離強度試験により測定される密着性が巻きずれ防止に影響するとの新たな知見を得て、当該知見に基づき、樹脂基材と表面保護層からなる積層体において、平均粒径が10〜500nmである微粒子と、スリップ剤と、導電材とを含んだコーティング組成物からなり、動摩擦係数が1以下であり、かつ、剥離強度は1.5N/25mm以上である表面保護層を用いることで、良好な帯電防止性を維持しつつも、適度な滑り性と密着性を両立し、傷つきが発生せず、巻き取り時の滑り過ぎによる不具合が起こることがないことを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は以下に関する:
[1]樹脂基材と表面保護層とを備える積層体であって、
表面保護層は、平均粒径が10〜500nmである微粒子と、スリップ剤と、導電材とを含んだコーティング組成物からなり、
表面保護層の動摩擦係数は1以下であり、かつ、剥離強度は1.5N/25mm以上であることを特徴とする、積層体;
[2]コーティング組成物は、全固形分に対して、平均粒径が10〜500nmである微粒子を0.1〜10重量%含む、[1]の積層体;
[3]微粒子が、無機微粒子及び/又は架橋構造を有する有機微粒子である、[1]又は[2]の積層体;
[4]スリップ剤が、シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂である、[1]〜[3]の積層体;
[5]導電材が、導電性高分子、カーボンナノ材料及び金属ナノワイヤからなる群より選択される少なくとも1つである、[1]〜[4]の積層体;
[6]コーティング組成物が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂及びポリエーテル樹脂からなる群より選択される熱可塑性樹脂を少なくとも1つ含む、[1]〜[5]の積層体;
[7]前記表面保護層が延伸処理体である、[1]〜[6]の積層体;
[8]アクリル系粘着層及び/又はウレタン系易接着層がさらに配置された、[1]〜[7]の積層体;並びに
[9][1]〜[8]の積層体を備えたディスプレイ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の動摩擦係数及び剥離強度を有する表面保護層を設けることで、帯電防止性を有しながらも、滑り性と密着性が適度に保たれることから、傷つきが生じることなく、巻き取り時の不具合が生じない積層体を提供することができる。その結果、生産性が格段に向上し、汎用ディスプレイの生産性向上に貢献することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<<積層体>>
まず、本発明の積層体について説明する。
本発明の積層体は、樹脂基材と表面保護層とを備え、表面保護層は、平均粒径が10〜500nmである微粒子と、スリップ剤と、導電材とを含んだコーティング組成物からなり、表面保護層の動摩擦係数は1以下であり、かつ、剥離強度は1.5N/25mm以上であることを特徴とする積層体である。
【0010】
<樹脂基材>
本発明の積層体において、樹脂基材は、熱可塑性樹脂基材であれば特に限定されるものではないが、例えば、アモルファスポリエチレンテレフタレート(A−PET)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等の基材が挙げられる。柔軟性、透明性、易成形性等の点からは、アモルファスポリエチレンテレフタレート(A−PET)、ポリオレフィン類樹脂、アクリル樹脂及びトリアセチルセルロース(TAC)樹脂が好ましい。これらの樹脂は単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0011】
本発明の積層体において、樹脂基材の厚みは特に限定されるものではないが、40〜900μmであることが好ましく、80〜800μmであることがより好ましく、120〜600μmであることがさらに好ましい。樹脂基材の厚みが上記範囲内の場合、延伸加工性を十分に維持しつつ、4〜8倍に延伸加工処理した際に高度な透明性と各種加工プロセスに耐え得る機械強度を確保できるからである。
【0012】
<表面保護層>
表面保護層は、特定の微粒子とスリップ剤、導電材とを含むコーティング組成物からなり、表面の動摩擦係数が1以下であり、かつ、剥離強度が1.5N/25mm以上である。このような表面保護層を設けることにより、帯電防止性を有しながらも、傷つきが発生せず、巻き取り時の不具合が生じない積層体を提供することができる。
【0013】
微粒子は、平均粒径が10〜500nmであり、より好ましくは20〜200nmである。微粒子の平均粒径が上記範囲内の場合、良好な滑り性と密着性とを得ることができる。
【0014】
微粒子としては、例えば、無機微粒子及び/又は架橋構造を有する有機微粒子が挙げられる。これらは組み合わせて使用しても良い。
無機微粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば、コロイダルシリカ、中空シリカ、フュームドシリカ等のシリカ微粒子及びチタニア、ジルコニア等の金属酸化物微粒子等の他、熱可塑性又は熱硬化性のアクリル樹脂をシリカで被覆したコアシェル型のアクリル‐シリカ複合粒子、メラミン樹脂をシリカで被覆したコアシェル型のメラミン‐シリカ複合粒子、シリカ粒子を熱可塑性又は熱硬化性のアクリル樹脂で被覆したコアシェル型のアクリル‐シリカ複合粒子、シリカ粒子をメラミン樹脂で被覆したコアシェル型のメラミン‐シリカ複合粒子、熱可塑性又は熱硬化性のアクリル微粒子により小さなシリカ微粒子を担持させたアクリル‐シリカ複合粒子のような有機無機複合粒子等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0015】
架橋構造を有する有機微粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ素樹脂微粒子、アクリル樹脂微粒子、メラミン樹脂微粒子、ウレタンゴム微粒子等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0016】
微粒子の含有量は、コーティング組成物中の全固形分に対して0.1〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%である。微粒子の配合量が上記範囲内である場合、十分かつ適度な滑り性が得られる。
【0017】
スリップ剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭化水素系樹脂や、オキシ脂肪酸、脂肪族アルコールの他、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。滑り性の点からは、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂が好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0018】
炭化水素系樹脂としては、低分子ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、塩素化炭化水素が挙げられる。
オキシ脂肪酸としては、ラウリン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の高級脂肪酸、又はヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
脂肪族アルコールとしては、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール等が挙げられる。
【0019】
シリコーン系樹脂としては、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン等が挙げられる。
フッ素系樹脂としては、フルオロカーボン等が挙げられる。
【0020】
スリップ剤の含有量は、コーティング組成物中の全固形分に対して1〜20重量%であれば良く、好ましくは2〜20重量%であり、より好ましくは4〜20重量%である。スリップ剤の配合量が上記範囲内である場合、表面保護層にてブリードアウトが起こることもなく、良好な滑り性や透明性を得ることができる。
【0021】
導電材としては、特に限定されないが、例えば、導電性高分子、カーボンナノ材料、金属ナノワイヤ等が挙げられる。ディスプレイを含む透明性が要求される用途での使用に適することから、導電性高分子及びカーボンナノ材料が好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0022】
導電性高分子としては特に限定されず、従来公知の導電性高分子を用いることができ、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、これらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。中でも、チオフェン環を分子内に含むことで導電性が高い分子ができやすい点で、分子内にチオフェン環を少なくとも1つ含む導電性高分子が好ましい。導電性高分子は、ポリ陰イオン等のドーパントと複合体を形成していてもよい。
【0023】
分子内にチオフェン環を少なくとも1つ含む導電性高分子としては、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)としては、以下の式(1)で示される反復構造単位からなる陽イオン形態のポリチオフェンが好ましい:
【0024】
【化1】
[式中、R及びRは相互に独立して水素原子又はC1−4のアルキル基を表すか、又は、R及びRが結合している場合にはC1−4のアルキレン基を表す]。
【0025】
1−4のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
また、R及びRが結合している場合、C1−4のアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1−メチル−1,2−エチレン基、1−エチル−1,2−エチレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基等が挙げられる。これらの中では、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基が好ましく、1,2−エチレン基がより好ましい。C1−4のアルキル基、及び、C1−4のアルキレン基は、その水素の一部が置換されていても良い。C1−4のアルキレン基を有するポリチオフェンとしては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
【0026】
導電性高分子の重量平均分子量は、500〜100000であることが好ましく、1000〜50000であることがより好ましく、1500〜20000であることがさらに好ましい。導電性高分子の重量平均分子量が上記範囲内である場合、各種用途で使用する際に要求される粘度や導電性を確保することができる。
【0027】
ドーパントは特に限定されないが、ポリ陰イオンが好ましい。ポリ陰イオンは、ポリチオフェン又はその誘導体とイオン対をなすことにより複合体を形成し、ポリチオフェン又はその誘導体を水中に安定に分散させることができる。ポリ陰イオンとしては、特に限定されないが、例えば、カルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸等)、スルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸等)等が挙げられる。これらのカルボン酸ポリマー類及びスルホン酸ポリマー類はまた、ビニルカルボン酸類及びビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えば、アクリレート類、スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物との共重合体であっても良い。これらの中では、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0028】
ポリスチレンスルホン酸は、重量平均分子量が20000〜1000000であることが好ましく、50000〜500000であることがより好ましい。ポリスチレンスルホン酸の分子量が上記範囲内の場合、ポリチオフェン系導電性高分子の水に対する分散安定性が良好となる。
なお、重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。
【0029】
導電性高分子とドーパントとの複合体としては、導電性に特に優れることから、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体であることが好ましい。
【0030】
導電性高分子の導電率は、特に限定されないが、表面保護層に十分な導電性を付与する観点から、0.01S/cm以上であることが好ましく、0.05S/cm以上であることがより好ましい。
【0031】
カーボンナノ材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノウォール、及びフラーレンなどが挙げられる。これらのなかでカーボンナノチューブを用いることが好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
カーボンナノチューブは、一般に中空繊維状形状をしており、直径0.5nm〜5μm、長さ10nm〜1000μm程度の炭素物質であるが、直径0.5nm〜1μm、長さ10nm〜100μmのカーボンナノチューブを好ましく用いることができる。
【0032】
金属ナノワイヤとしては、金属単体や金属含有化合物からなるものが挙げられる。金属単体としては、特に限定されないが、例えば、銀、銅、銀、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウム、白金等が挙げられ、金属含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、これらの金属を含むものが挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0033】
導電材の含有量は、コーティング組成物中の全固形分に対して30重量%以下であれば良く、好ましくは1〜30重量%であり、より好ましくは2〜25重量%である。導電材の含有量が上記範囲内である場合、十分な帯電防止性を発揮しつつも、滑り性を損なわない。
【0034】
コーティング組成物に熱可塑性樹脂を添加しても良い。上述のとおり、適度な滑り性を得る点からスリップ剤の含有量は所定の範囲内とすることが好ましいが、熱可塑性樹脂を添加することで、スリップ剤の添加が少量であっても十分かつ適度な滑り性を得ることができる。スリップ剤の添加が少量であっても十分かつ適度な滑り性が得られる理由について、成膜時における熱可塑性樹脂の流動性の高さに起因し、熱可塑性樹脂を使用するとスリップ剤が膜表面又はその近傍に局在する傾向があるからである。また、後述する延伸加工処理への適用を可能とする点からも、熱可塑性樹脂を添加することが好ましい。
【0035】
コーティング組成物に含まれ得る熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂、オレフィン樹脂、カルボキシル基含有樹脂、ポリエーテル樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。樹脂基材にて用いられる熱可塑性樹脂と同じ種類の樹脂であっても良いし、異なる熱可塑性樹脂であっても良い。これらの中でも、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂及びポリエーテル樹脂が好ましく使用され、特に、ポリエーテル樹脂と他の熱可塑性樹脂1種類以上を組み合わせたものがより好ましく使用される。さらに、後述の水を含む溶媒を用いる場合に導電材との相溶を容易にするため、水に溶解又は分散可能な熱可塑性樹脂が好ましく使用される。水に溶解又は分散可能な熱可塑性樹脂としては、熱可塑性樹脂に親水性の官能基が付与された結果可溶化又は分散化されたものであっても良いし、乳化剤により強制的に可溶化又は分散化されたものであっても良い。
【0036】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル系単量体を主たる構成モノマーとして含んでいれば共重合性単量体と重合していてもよく、共重合性単量体と重合する場合、(メタ)アクリル系単量体及び共重合性単量体のうち、少なくとも一方が酸基を有していればよい。アクリル樹脂としては、例えば、酸基を有する(メタ)アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、スルホアルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド等]又はその共重合体、酸基を有しもよい(メタ)アクリル系単量体と、酸基を有する他の重合性単量体[他の重合性カルボン酸、重合性多価カルボン酸又は無水物、ビニル芳香族スルホン酸等]及び/又は上記共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、芳香族ビニル単量体等]との共重合体、酸基を有する他の重合体単量体と(メタ)アクリル系共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等]との共重合体、ロジン変性ウレタンアクリレート、特殊変性アクリル樹脂、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートエマルジョン等が挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル重合体(アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体等)、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(アクリル酸−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等)が好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0037】
ウレタン樹脂としては、イソシアネート基を有する化合物とヒドロキシル基を有する化合物とを共重合させて得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、エステル・エーテル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタン、アクリル系ポリウレタン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0038】
エステル樹脂としては、2つ以上のカルボキシル基を分子内に有する化合物と2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物とを重縮合して得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0039】
オレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、塩素化ポリプロピレン、非塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、非塩素化ポリエチレン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0040】
カルボキシル基含有樹脂としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、エチレン、メチルビニルエーテル等のビニル系単量体と無水マレイン酸の共重合体の酸無水物を開環、ハーフエステル化又はハーフアミド化した樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0041】
ポリエーテル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエーテルポリオール、ポリグリセリン、プルラン、これらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0042】
コーティング組成物が熱可塑性樹脂を含有する場合、熱可塑性樹脂の含有量は、コーティング組成物中の全固形分に対して60〜97.8重量%であれば良く、好ましくは65〜95重量%であり、より好ましくは70〜90重量%である。熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内である場合、後述する延伸加工処理の際に必要な延伸追従性を発揮しつつ、スリップ剤の含有量を低く抑えることが可能である。
【0043】
コーティング組成物には、より高度な耐擦傷性を得る目的で、硬化性樹脂をさらに含んでもよい。硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ基を含有する化合物、イソシアネート樹脂、メラミン樹脂及びシリケート樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。耐擦傷性を高めつつ延伸加工性を良好に維持する点からは、メラミン樹脂が好ましい。
後述の水を含む溶媒を用いる場合に導電材との相溶を容易にするため、水に溶解又は分散可能な硬化性樹脂が好ましく使用される。水に溶解又は分散可能な硬化性樹脂としては、硬化性樹脂に親水性の官能基が付与された結果可溶化又は分散化されたものであっても良いし、乳化剤により強制的に可溶化又は分散化されたものであっても良い。
【0044】
メラミン樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(2)で表されるモノマーからなるメラミン樹脂が挙げられる:
【化2】
[式中、Xは、−NR1’であり;
Yは、−NR2’であり;
Zは、−NR3’であり;
、R1’、R、R2’、R及びR3’は、それぞれ独立して、水素原子、C1−5のアルキル基又はC1−5のヒドロキシアルキル基であり、ここで、C1−5のアルキル基及びC1−5のヒドロキシアルキル基は、それぞれ独立して、1個以上の酸素原子で中断されていてもよい]。
【0045】
コーティング組成物が硬化性樹脂を含有する場合、硬化性樹脂の含有量は、コーティング組成物中の全固形分に対して0.1〜5重量%であることが好ましく、0.1〜3重量%であることがより好ましい。硬化性樹脂の配合量が上記範囲内である場合、延伸加工処理の際に必要な延伸追従性を維持しつつ、耐擦傷性を高めることができる。
【0046】
コーティング組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、剥離剤、消泡剤、レベリング剤、重合開始剤、溶媒等の成分を含有させてもよい。
【0047】
コーティング組成物には、本発明の積層体を製造する過程で、樹脂基材上に塗布する際に良好な塗布性を得るために溶媒を含有させてもよい。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン;アセトン;アセトニトリル;イソホロン;プロピレンカーボネート;γ−ブチロラクトン;β−ブチロラクトン;2−フェノキシエタノール;ジオキサン;モルホリン;4−アクリロイルモルホリン;N−メチルモルホリンN−オキシド;4−エチルモルホリン;2−メトキシフラン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン;N,N−ジメチルアセトアミド;N−メチルホルムアミド;N,N−ジメチルホルムアミド;アセトアミド;N−エチルアセトアミド;N−フェニル−N−プロピルアセトアミド;ベンズアミド;ジメチルスルホキシド;β−チオジグリコール;トリエチレングリコール;トリプロピレングリコール;1,4−ブタンジオール;1,5−ペンタンジオール;1,3−ブタンジオール;1,6−ヘキサンジオール;ネオペンチルグリコール;カテコール;シクロヘキサンジオール;シクロヘキサンジメタノール;グリセリン;エリトリトール;インマトール;ラクチトール;マルチトール;マンニトール;ソルビトール;キシリトール;スクロース;N−メチルピロリドン;β−ラクタム;γ−ラクタム;δ−ラクタム;ε−カプロラクタム;ラウロラクタム等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。樹脂組成物の塗布性、貯蔵安定性の点からは、水及び水と水と混和可能な他の溶媒との混合物(混合溶媒)が好ましい。
【0048】
コーティング組成物に溶媒を含有させる場合、溶媒の含有量は、特に限定されるものではないが、コーティング組成物全体に対して10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは7重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下である。コーティング組成物の固形分率が10%以下である場合、表面保護層を形成する際に塗工性が良好で、貯蔵安定性にも優れる。
【0049】
コーティング組成物のpHは4〜10であることが好ましく、5〜9であることがより好ましく、6〜9であることがさらに好ましい。コーティング組成物のpHが上記範囲内である場合、貯蔵安定性に優れ、また、塗工設備の腐食が軽減出来る。
【0050】
表面保護層の厚みは、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは、0.02〜2μmであることを特徴とする。
【0051】
表面保護層は、その表面形状(凹凸形状)を調整することにより、用途に応じて、滑り性や濡れ性、密着性といった望ましい機能を表面保護層に付与することが可能である。表面保護層において、上述する特定範囲の粒径を有する微粒子を添加することにより、滑り性を維持しつつ十分な密着性を付与することが可能となる。表面保護層の表面には、微粒子の形状に由来して微細な凹凸構造が形成される。
【0052】
表面保護層は、延伸加工処理に供した後の延伸加工処理体であっても良い。延伸加工処理は、樹脂基材とともに行ってよく、表面保護層のみを成膜したものを延伸加工処理に供しても良い。延伸加工処理は、2.5〜9倍の延伸を伴うものであれば特に限定されるものではなく、例えば、1方向や2方向への延伸、立体物への成形加工であっても良い。延伸加工処理の延伸倍率は、例えば、3〜7倍であることが好ましく、4〜6倍であることがより好ましい。延伸倍率が上記範囲内である場合、延伸加工処理による導電性と耐擦傷性の低下を抑制しつつ、所望の形状への加工、及び高い透明性の発現が可能である。
【0053】
表面保護層の動摩擦係数は1以下であり、好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.4以下である。表面保護層の動摩擦係数が1以下であると、十分な滑り性が確保できる。
なお、本発明における動摩擦係数は、JIS K7125に規定される方法により測定されるものをいう。
【0054】
表面保護層の剥離強度は1.5N/25mm以上であり、好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上である。剥離強度が1.5N/25mm以上であると、十分な密着性を確保できる。
なお、本発明における剥離強度とは、JIS K 6854−2に従って測定される180度剥離強度をいう。
【0055】
表面保護層の表面抵抗率は、特に限定されないが、帯電防止性付与の点からは、1.0×1013Ω/□以下が好ましく、より好ましくは1.0×1010Ω/□以下、さらに好ましくは1.0×10Ω/□以下である。表面保護層の表面抵抗率が1.0×1013Ω/□以下であると、十分な帯電防止性を得ることができる。
【0056】
表面保護層は、透明であることが好ましい。具体的には、樹脂基材と表面保護層との積層体のヘイズは、2.5%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。ヘイズは小さければ小さいほど好ましいため、下限は特に限定されないが、例えば0.1%である。
【0057】
本発明の積層体は、上述のコーティング組成物からなる表面保護層が樹脂基材上に配置された積層体である。
【0058】
本発明の積層体において、液晶セルやOLEDセル、タッチセンサー等への貼付を可能にし、デバイスの組み立てを容易にするために、さらに、表面保護層上に、アクリル系粘着層、ウレタン系易接着層、紫外線硬化型接着層等の機能層が配置されても良い。
【0059】
本発明の積層体においてアクリル系粘着層が配置される場合、アクリル系粘着層は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系樹脂の他に架橋剤、イオン液体、有機溶剤等を用いて形成しても良い。
【0060】
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸エステル系ベースポリマーや、これらの(メタ)アクリル酸エステルを2種類以上用いた共重合系ベースポリマーが好適に用いられる。さらにこれらベースポリマーには、極性モノマーが共重合されていてもよい。極性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートのような、カルボキシ基、水酸基、アミド基、アミノ基、エポキシ基などを有するモノマーが挙げられる。
これらのアクリル系樹脂は、単独でも使用可能であるが、架橋剤を配合しても良い。架橋剤としては、2価又は多価金属イオンであって、カルボキシル基との間でカルボン酸金属塩を形成するもの、ポリアミン化合物であって、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するもの、ポリエポキシ化合物やポリオールであって、カルボキシル基との間でエステル結合を形成するもの、ポリイソシアネート化合物であって、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するものなどが挙げられる。中でも、ポリイソシアネート化合物が有機系架橋剤として広く使用されており、透明性、耐候性、耐熱性に優れ、適度な濡れ性や凝集力を保持し、適度な感圧粘着特性を示す粘着層の設計を容易にさせるからである。
【0061】
ウレタン系易接着層にて使用し得るウレタン樹脂としては、例えば、ポリオールとポリイソシアネートと遊離カルボキシル基を有する鎖長剤を反応させることにより得られる。ポリオールとしては、分子中にヒドロキシル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、任意の適切なポリオールを用いることができる。例えば、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
ポリイソシアネートとしては、分子中にイソシアネート基を2個以上有するものであれば特に限定されず、任意の適切なポリイソシアネートを用いることができる。例えば、脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネート等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0063】
遊離カルボキシル基を有する鎖長剤は、例えば、ジヒドロキシカルボン酸、ジヒドロキシスクシン酸等が挙げられる。ジヒドロキシカルボン酸は、例えば、ジメチロールアルカン酸(例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロールペンタン酸)等のジアルキロールアルカン酸が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
これらのウレタン樹脂は、単独でも使用可能であるが、架橋剤を配合しても良い。架橋剤としては、エポキシ基を有する架橋剤が挙げられる。エポキシ架橋剤は、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有しているものであれば特に制限されるものではない。たとえば、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、ハロゲン化エポキシ化合物等が挙げられる。
【0065】
これらのウレタン樹脂や架橋剤は、水系のものと有機溶剤系のものがあるが、延伸加工性を考慮すると水系のものが好ましい。
【0066】
紫外線硬化型接着層は、エポキシ基又はオキセタン基を有する化合物に光カチオン重合開始剤を混合させたものや、(メタ)アクリル基を有する化合物に光ラジカル重合開始剤を混合させたもの、またそれらを併用したものが好適に用いられる。
【0067】
エポキシ基又はオキセタン基を有する化合物としては、例えば、多官能脂環式エポキシ樹脂や多官能グリシジルエーテル樹脂、多官能オキセタン樹脂を主剤とし、粘度を下げる目的で単官能脂環式エポキシ樹脂や単官能脂グリシジルエーテル樹脂、単官能脂オキセタン樹脂を併用しても良い。
光カチオン重合開始剤としては、ホスフェート系化合物やアンチモネ−ト系化合物、ヨードニウム系化合物が好適に用いられ、通常、エポキシ基又はオキセタン基を有する化合物100重量部に対して光カチオン重合開始剤は0.1〜10重量部混合される。また、光カチオン重合開始剤の性能を向上させるためにチオキサントン系光増感剤やベンゾフェノン系光増感剤を混合しても良い。
【0068】
(メタ)アクリル基を有する化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の他に、多官能ウレタンアクリレートや多官能エポキシアクリレートも好適に用いられる。
光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、アセトフェノン系、アシルフォスフィン系が挙げられ、(メタ)アクリル基を有する化合物100重量部に対して通常、0.1〜10重量部混合される。
【0069】
このような紫外線硬化型接着層を有する積層体は、延伸加工処理後に他の機能性フィルムやデバイスと紫外線硬化型接着層面を貼り合わせ、i線(365nm),h線(405nm),g線(436nm)等を含む紫外線を、照度10〜1200mW/cm2、照射光量20〜2500mJ/cm2で照射することにより、他の機能性フィルムやデバイスに容易に接着させることが出来る。
【0070】
本発明の積層体においてアクリル系粘着層が配置される場合、アクリル系粘着層の厚みは20〜100μmであることが好ましく、より好ましくは40〜80μmであり、ウレタン系易接着層が配置される場合、ウレタン系易接着層厚みは0.04〜20μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜5μmであり、紫外線硬化型接着層が配置される場合、紫外線硬化型接着層の厚みは0.1〜20μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜5μmである。アクリル系粘着層、ウレタン系易接着層及び紫外線硬化型接着層の厚みが上記範囲内の場合、延伸加工処理の際に良好な延伸追従性を維持しつつ積層体の寸法安定性を確保することができる。
【0071】
本発明の積層体において、上述の樹脂基材、表面保護層及び機能層以外に、必要に応じて、偏光層、位相差層、視野角補償層等のその他機能層をさらに配置することもできる。
【0072】
本発明の積層体は、微粒子とスリップ剤と導電材とを含むコーティング組成物を、樹脂基材上に塗布することで製造することができる。
塗布方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、スリットコート法等が挙げられる。
【0073】
樹脂基材上に塗布された本発明のコーティング組成物を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、送風乾燥設備、減圧乾燥設備、IR乾燥設備、ホットプレート等を用いて、20〜200℃で0.1〜30分間乾燥させる方法等が挙げられる。
【0074】
コーティング組成物を樹脂基材上に塗布すると同時に延伸加工処理を行うことも出来る。塗布と同時に延伸加工処理を行う場合、乾燥と延伸加工処理を同時に行える点で好ましい。
【0075】
<ディスプレイ>
本発明のディスプレイは、本発明の積層体を備えることを特徴とする。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0077】
1−1.導電材
・PEDOT:PSS(製造例1にて作製、固形分率1.3重量%)
・カーボンナノチューブ(CNT 製造例2にて作製、固形分率1.1重量%)
1−2.熱可塑性樹脂
・アクリル樹脂(東亞合成株式会社製、ジュリマーFC−80、固形分率30%、ガラス転移温度50℃)
・ウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製、スーパーフレックス830HS、固形分率35%、ガラス転移温度68℃)
・エステル樹脂(東亞合成株式会社社製、アロンメルトPES−2405A30、ガラス転移温度40℃、固形分率30重量%)
・ポリエーテル樹脂(第一工業製薬株式会社製、エバンU−103、1分子当たりの水酸基の数:2個)
1−3.スリップ剤
・ポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製、57 ADDITIVE、固形分率100%)
・フッ素基含有オリゴマー (DIC株式会社製、メガファックF−477、固形分率100%)
1−4.微粒子
・シリカ微粒子(CIKナノテック株式会社製、SIRW15WT%−H27、固形分率15%、平均粒径20nm)
・シリカ微粒子(株式会社日本触媒製、シーホスターKE−W10、固形分率15%、平均粒径100nm)
・シリカ微粒子(株式会社日本触媒製、シーホスターKE−W50、固形分率20%、平均粒径500nm)
・アクリル樹脂微粒子(株式会社日本触媒製、エポスターMX050W、固形分率10%、平均粒径70nm)
【0078】
(製造例1)PEDOT:PSS水分散体の作製
冷却管を備えた2000ml三口ガラスフラスコを用いて、ポリスチレンスルホン酸水溶液(アクゾノーベル社製、VERSA−TL72)92.3部と3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)7.1部を1000部のイオン交換水に加え、混合液を得た。この混合液を撹拌しながら、100部のイオン交換水に硫酸第二鉄4.0部とペルオキソ二硫酸アンモニウム14.8部を溶解させた液を加え、20℃にて24時間撹拌して酸化重合を行った。次いで、陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライトIR120B)と陰イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライトIRA67)とをそれぞれ15重量%加えた後、さらに18時間撹拌した。得られた反応混合液をガラスろ過器でろ過し、次いで高圧ホモジナイザーで100MPaにて10回均質化処理を行った後、ジメチルスルホキシドを5重量%添加することによりPEDOT:PSS水分散体を得た。
【0079】
(製造例2)カーボンナノチューブ水分散体の作製
平均長さ300μm、直径約4nmのカーボンナノチューブ(ゼオンナノテクノロジー株式会社、ZEONANO SG101)1重量部、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を10重量部、純水989重量部をガラスビーカーに入れ、超音波ホモジナイザーにて40Wで30分間分散処理を行った後、遠心分離機3500rpmにて未分散のカーボンナノチューブを取り除くことで、固形分率1.1%のカーボンナノチューブ分散体を得た。
【0080】
(製造例3)アクリル系樹脂フィルムの作製
アクリル系樹脂(パラペットHR−S、共重合モノマー重量比=メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=99/1、株式会社クラレ製}90重量部とアクリロニトリル−スチレン樹脂(トーヨーAS AS20、東洋スチレン株式会社製)10重量部とのペレットを二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、厚さ160μmのフィルムを得た。
【0081】
2.実施例
(実施例1〜8、比較例1及び2)
表1に示す固形分比率となるように導電材、熱可塑性樹脂スリップ剤、微粒子、水及びプロピレングリコールを混合し、コーティング組成物を得た。ここで、プロピレングリコールの量は、塗布液中2重量%となるように添加した。得られたコーティング組成物について、下記の方法により、固形分率を求めた。
【0082】
実施例1、3、5〜7、比較例1,2においては、製造例3で作製したフィルム(熱可塑樹脂基材)上に、バーコーティング法を用いてコーティング組成物を塗布し、送風乾燥機を用いて70℃で5分間乾燥することにより、0.1μmの表面保護層を有する積層体を作製した。
また、実施例2、4、8においては、製造例3で作製した熱可塑樹脂基材上に、ワイヤーバーを用いてコーティング組成物を塗布し、70℃の送風乾燥機を用いて、0.1μmの表面保護層を作成した。50cm×50cmにカットし、ステージに固定した後、140℃に加熱し、100cm×100cmに伸ばすことで4倍延伸加工を行うことにより、延伸加工処理を施した積層体を作製した。
これらの積層体を10cm×100cmにカットし、剥離強度、動摩擦係数、表面抵抗率、透明性、巻き取り形状を測定、評価した。評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
3.評価方法
(固形分)
各実施例及び比較例で得られたコーティング組成物の重量と、コーティング組成物を送風オーブンにて120℃2時間加熱・乾燥させた後の重量とを計量し、下記式に基づき固形分率を算出した。
固形分率(%)=乾燥後のコーティング組成物の重量/乾燥前のコーティング組成物の重量
【0085】
(剥離強度)
上記の方法によって得られた積層体を切り出し、25×150mmの試験フィルムとし、東洋精機株式会社製ストログラフ試験器を用い、180度剥離強度をJIS K 6854−2に従って測定し、下記3段階で評価した。
◎:剥離強度が3N/25mm以上である
○:剥離強度が1.5以上、3N/25mm未満である
×:剥離強度が1.5N/25mm未満である
【0086】
(動摩擦係数)
上記の方法によって得られた積層体について、JIS K7125の摩擦係数試験方法に基づき、自動横型サーボスタンド(日本計測システム株式会社製、JSH−H1000)にて測定し、下記の基準で評価した。
このとき、滑り片の底面には、市販のアクリル基材(住友化学株式会社製、テクノロイS014G、75μm厚)を厚さ1mmの両面テープを用いて貼り付け10mm/min の速度で引っ張った。
◎:動摩擦係数が0.4以下
○:動摩擦係数が0.4より大きく、1以下
×:動摩擦係数が1より大きいか、又は、明らかな振動を生じながら滑り片が移動するもの
【0087】
(帯電防止性)
積層体の帯電防止性について、三菱化学株式会社製ロレスタGP MCP−T600により表面抵抗率を求め、下記の基準で評価した。
◎:表面抵抗率が1.0×10Ω/□以下
○:表面抵抗率が1.0×10Ω/□より大きく、1.0×1013Ω/□以下
×:表面抵抗率が1.0×1013Ω/□より大きい
【0088】
(透明性)
コーティング膜をJIS K 7150に従い、スガ試験機株式会社製ヘイズコンピュータHGM−2Bを用いてHaze値を測定し、下記の基準で評価した。
◎:1.0%以下
○:1.0より大きく、2.5%以下
×:2.5%より大きい
【0089】
(巻き取り形状)
上記の方法によって得られた積層体をロール状に巻き取り、形状を目視にて観察し、下記の基準で評価した。
○:巻きずれなく均一に巻き取られている
×:フィルム幅方向の端部にたけのこ状の巻きずれが生じる、又は、しわが発生する

【要約】
【課題】帯電防止性を有しながらも、傷つきが発生せず、巻き取り時の不具合が生じない表面保護性を備えた積層体を提供すること。
【解決手段】樹脂基材と表面保護層とを備える積層体であって、表面保護層は、平均粒径が10〜500nmである微粒子と、スリップ剤と、導電材とを含んだコーティング組成物からなり、表面保護層の動摩擦係数は1以下であり、かつ、剥離強度は1.5N/25mm以上であることを特徴とする、積層体。
【選択図】なし