(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一の前記柱状部において前記側周面は少なくとも一つの平面部を含み、前記側周面に含まれる前記平面部のうち最大の面積を有する最大平面部が前記内環側又は前記外環側に位置することによって、前記断面が前記内環側又は前記外環側のいずれか一方に偏倚している請求項1に記載のコイル部品。
前記断面の形状は、角部が面取りされている略多角形であって、前記断面が偏倚している側に位置している前記角部における前記面取りの寸法が、その反対側に位置している前記角部における前記面取りの寸法より小さい請求項1から6のいずれか一項に記載のコイル部品。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0016】
<第1実施形態の構成>
図1〜
図3を用いて、本発明の第1実施形態の構成について説明する。
図1は、第1実施形態のコイル部品100の斜視図である。
図2(a)は、コイル部品100の正面図であり、
図2(b)は
図2(a)のII−IIにおける断面図である。
図3は、巻線120を通電したときにコイル部品100に発生する実効磁路M1と、巻線120の巻線方向を模式的に示す模式図である。
【0017】
本発明の第1実施形態のコイル部品100は、環状のコイルコア110と、巻線120と、を備える。環状のコイルコア110は、空気より透磁率の高い素材で形成されている。巻線120は、コイルコア110の周囲に近接するように巻回されている。コイル部品100は、コイルコア110における巻線120の巻軸に対して直交している断面が、コイルコア110の内環側又は外環側のいずれか一方に偏倚していることを特徴としている。
【0018】
より詳細には、コイルコア110は、柱状で、互いの側面が対向している一対の柱状部116、118と、一対の柱状部116、118を挟むように支持している一対の挟持部(天板112と底板114)と、がそれぞれ方形の一辺を形成していることによって環状に構成されている。
また、巻線120は、一対の柱状部116、118のそれぞれに巻回され、一対の柱状部116、118の断面が内環側又は外環側のいずれか一方に偏倚している。
【0019】
なお、
図2(b)に示すように、本実施形態のコイル部品100においては、コイルコア110(柱状部116、118)の断面は内環側に偏倚しているものとして説明する。
また、
図3に示すように、巻線122が柱状部116の上面から視て時計回りに巻回され、巻線124が柱状部118の上面から視て反時計回りに巻回されている。なお、図示しないが巻線122と巻線124とは引き出し線を有しており、当該引き出し線を介して通電可能な構成となっている。
【0020】
柱状部116、118と天板112との間には、コイルコア110より低い透磁率の樹脂で形成されている樹脂フィルム130が延在しており、いわゆるコイルギャップが形成されている。
なお、樹脂フィルム130の透磁率は、コイルコア110の透磁率と比して、空気と同等と見なせる程度に低いことが好ましい。
また、本実施形態において樹脂フィルム130の位置は、柱状部116、118と天板112との間としているが、柱状部116、118と底板114との間としてもよいし、その両方であってもよい。
【0021】
コイルコア110は、コイル(巻線120)の内側に挿通されている。コイルコアの材料は、一般的には酸化鉄を主成分とするセラミックスからなるもの(フェライトコア)、非晶質合金からなるもの(アルモファスコア)、金属粉末を圧縮成形したもの(ダストコア)、複数の電磁鋼板を電気的に絶縁して積層構造にしたもの(積層コア)等が挙げられる。
【0022】
環状とは、平面上の一定領域を包囲している形状(円形や方形等)、又は、平面上の一定領域を包囲している輪郭が一部欠落している形状(C形やコの字形等)をいう。なお、ここで欠落しているとは、コイルコア110が閉磁路構成といえる程度の欠落であり、換言すれば欠落箇所がコイルコア110におけるコイルギャップとして機能している。
【0023】
内環側とは、環状のコイルコア110において対向している第1の部分と第2の部分における対向方向の内側を意味する。また、外環側とは、環状のコイルコア110において対向している第1の部分と第2の部分における対向方向の外側を意味する。
【0024】
面が一方に偏倚しているとは、面心が一方に寄っていることをいう。本実施形態の柱状部116、118に即して、より具体的に言えば、コイルコア110が単一素材で構成されていると仮定して、柱状部116、118の断面の剛心及び面心を求めた場合に、剛心が面心より外環側に位置していれば当該断面は内環側に偏倚しているといえる。また、同じ仮定で、当該断面の剛心が面心より対向方向の内側に位置していれば当該断面は外環側に偏倚しているといえる。
【0025】
ここで柱状とは、柱のような形状をいう。より具体的には、側周面が任意の平面に対して直立している形状、側周面が中膨れしている形状、側周面が中細りしている形状、側周面に凸部又は凹部を含む形状等も含む。
【0026】
本実施形態における柱状部116、118は、鉛直線方向に底板114を置いた場合にあっても、鉛直線方向に天板112を置いた場合にあっても、底板114又は天板112に対して直立させることができる。この場合、組み立て前において柱状部116、118単体では直立できない形状であったとしても、組み立てた状態で(完成品として)底板114又は天板112に対して柱状部116、118が直立していればよい。
【0027】
ここで側周面とは、両端面を除いた面をいう。ここで「互いの側周面が対向している」とは、互いの側周面の間が中空であって一方の側周面上から他方の側周面が直接見える関係であってもよいし、互いの間に他の部材(例えば封止樹脂)が介在して向かい合っている関係であってもよい。
【0028】
ここで、近接するとは、接触すること、及び、接触せずに近くに位置することの双方を包含した意味である。
本実施形態のコイルコア110と巻線120の導体部分(コイル)との離間距離は極力小さい方がよい。なぜならば、コイルに通電することにより発生する磁場はコイル近傍ほど強く、コイルコア110とコイルとが近接するほどコイルコア110を通過する磁束が増加し、コイル部品100全体としてはインダクタンス等の磁性特性が伸びるからである。
なお、コイルコア110を形成する材料の比抵抗が低い場合(例えばMn−Zn系フェライトコア)、巻線を接触させて巻回すると、コア端に生じたバリで巻線の被膜が破損し、コイルコア110とコイルとが短絡してしまう。これを防止するため、予めコイルコア110の表面に絶縁処理(例えば、テープや樹脂で被膜を生成する等)が必要となる場合がある。
【0029】
一対の挟持部(天板112と底板114)が柱状部116、118を挟むとは、挟持部の一面(天板112の下面)が柱状部116、118の上面に対向し、挟持部の他面(底板114の上面)が柱状部116、118の下面に対向していることをいい、対向している面どうしが接触していること、非接触であることの双方を含む。本実施形態において、対向している面どうしが非接触である場合とは、例えば、ギャップを設けている場合が挙げられる。
【0030】
支持しているとは、柱状部116、118が挟持部(天板112又は底板114)に対して相対的に移動しないように固定されていることをいう。柱状部116、118の支持方法としては様々な態様が考えられるが、例えば、天板112又は底板114に対して柱状部116、118を接着固定してもよいし、嵌合固定してもよい。天板112又は底板114を柱状部116、118の上面と下面の双方に対して圧着させるクランプにより固定されてもよい。天板112と底板114と柱状部116、118とが所定位置となるように配置して絶縁樹脂によって封止してもよい。
【0031】
図3においてコイル部品200の実効磁路M1を破線で示す。ここで示すようにコイルコア110を通る実効磁路M1が中心より内環側寄りとなっている。これは、コイルコア110の断面が、コイルコア110の内環側に偏倚していることにより、コイルコア110の内環側を通る磁束が増加し、逆にコイルコア110の外環側を通る磁束が減少するため、コイル部品100全体の実効磁路M1が内環側寄りとなるのである。
【0032】
理想的なコイルにおけるインダクタンスは以下の式(1)で表される。
【数1】
ここで、L:インダクタンス、l:実効磁路長、Ae:コア断面積、μ:コア透磁率である。
【0033】
式(1)で示す通り、理想的なコイルにおいてインダクタンスと実効磁路長とは反比例の関係にある。現実のコイルにおいては、インダクタンスと実効磁路長の反比例関係は多少崩れるが、実効磁路長が短縮すればインダクタンスが増大し、実効磁路長が伸張すればインダクタンスが減少する関係にあることについては相違ない。
本実施形態のコイル部品100においては、上述したように実効磁路M1が内環側寄りとなることで実効磁路長が実質的に短縮するため、各種パラメータ(コア体積、コア間隔、コア材質、ギャップ長、巻き方、巻数)が同等のコイル部品と比してインダクタンスが増大する。
【0034】
ここでコア体積とは、コイルコア110自体の体積のことをいう。
ここでコア間隔とは、柱状部116の内環側側面と柱状部118の内環側側面との離間距離をいう。内環側側面とは、コイルコア110の側周面のうち内環側に配置される側面のことである。
ここでコア材質とは、コイルコア110の素材をいう。
ここで巻き方とは、巻線120を柱状部116、118の周囲に巻回させる手法、より具体的には巻線120にかかる張力や、巻線120どうしのピッチ等を含む。
ここで巻数とは、巻線120を柱状部116、118の周囲に巻回させた数(ターン数)をいう。
【0035】
また、コイル部品100の直流重畳特性は、コイルコア110の構造により支配的に決定される。本実施形態に即してより詳細に言えば、コイル部品100の直流重畳特性は、柱状部116、118の断面積・柱状部116と柱状部118の間隔・天板112と底板114の体積・天板112と底板114と柱状部116、118の材質・コイルコア110のギャップ長(樹脂フィルム130の厚さ)・巻線120の巻き方・巻線120の巻数といったパラメータにより決定される。ここで列挙したパラメータのうち、巻線120の巻数は任意に増減可能であるが、その上限はコイルコア110のサイズや形状により決まる。
本実施形態のコイル部品100は、ここに列挙したパラメータに含まれていないコイルコア110(柱状部116、118)の断面の偏りに着眼して、コイル部品100のインダクタンスを増大させるので、直流重畳特性にはほとんど影響を与えない。
【0036】
一般的なコイル部品においては、所望のインダクタンス等からコイルコアの素材と構造を決定し、巻数やギャップ長を増減することにより、所望のインダクタンスと所望の直流重畳特性を満たすコイル部品を調製している。巻数並びにギャップ長が変化させた場合、インダクタンスと直流重畳特性はトレードオフの関係にあるので、一方を増加させると他方が減少する。
本実施形態のコイル部品100においては、直流重畳特性への影響をさほど考慮せずに所望のインダクタンスを満たすコイル部品を調製しうるので、容易に所望の磁気特性を実現しうる。
【0037】
なお、ここで調製するとは、各種パラメータを調整又は選択することにより、所望の仕様を満足するものを製造することをいう。より具体的には、あるパラメータの所望値を導出し、コイル部品の当該パラメータを実測する工程と、コイルコアの巻数やギャップ長を増減する工程とを交互に繰り返しながら、導出された所望値を満足するコイル部品を製造する態様なども含む。あるいは、あるパラメータの所望値を導出し、当該パラメータが異なる複数のコイル部品のセットから導出された所望値を満足するコイル部品を選択して製造する態様なども含む。
【0038】
本実施形態のコイル部品100において、巻線122が巻回されている柱状部116と、巻線124が巻回されている柱状部118とが独立しており、それぞれを一対の挟持部(天板112と底板114)で挟持している構成であるため、柱状部116、118に巻線122、124を巻回してからコイル部品100を組み立てることが可能である。そのため、機械による自動巻線が可能であり、巻回時に巻線122、124にかかる張力が一定・巻回作業にかかる時間が軽減できる等の効果を奏しうる。
【0039】
また、本実施形態のコイル部品100において、柱状部116、118と挟持部(天板112と底板114)は分離した独立部材であるため、多種多様な横断面の偏倚度合いを有する一連の柱状部材の中から選択して柱状部116、118に用いる場合、柱状部116、118の交換のみでコイル部品100のインダクタンスを増減しうる。挟持部の観点から言えば、挟持部に使用する部材の共通化を図ることができる。これにより、コイル部品100の生産効率の向上、ひいては低コスト化を図ることができる。
【0040】
図2(b)に示すように、本実施形態の柱状部116、118の横断面は略台形である。柱状部116、118の横断面それぞれが有する辺のうち、最大長の辺がコイルコア110の内環側となるように配置されている。また、柱状部116、118の横断面はいずれの高さにおいてもほぼ同一形状であり、柱状部116、118はそれぞれ底板114及び天板112に対して垂直である。
すなわち、本実施形態のコイル部品100は以下の構造的特徴を有するといえる。
【0041】
一の柱状部116において側周面は少なくとも一つの平面部を含み、側周面に含まれる平面部のうち最大の面積を有する最大平面部117がコイルコア110の内環側に位置することによって、柱状部116の断面が内環側に偏倚している。
また、他の柱状部118において側周面は少なくとも一つの平面部を含み、側周面に含まれる平面部のうち最大の面積を有する最大平面部119が内環側に位置することによって、柱状部118の断面が内環側に偏倚している。
【0042】
すなわち、本実施形態のコイル部品100において、一対の柱状部116、118のそれぞれが最大平面部117、119をコイルコア110の内環側に有しており、互いの最大平面部117、119が平行に配置されている。
【0043】
図1や
図2(a)に示すように、本実施形態のコイルコア110は方形状である。方形状のコイルコア110においては、最大平面部117と最大平面部119のいずれか一方がコイルコア110の内環側に配置されている構成にすることによって、より効果的にコイル部品100の実効磁路長を短縮させ、コイル部品100のインダクタンスを増大させうる。さらに、最大平面部117と最大平面部119とが互いに内環側で平行となるように配置されることにより、コイル部品100の実効磁路長を最も短縮させ、コイル部品100のインダクタンスを増大させうる。
【0044】
天板112と底板114は、平行に対向している一対の平板で構成されている。すなわち、天板112と底板114は平行に対向しており、対向している空間内に柱状部116、118以外の突起物を有さない。なお、ここで突起物とは天板112と底板114から突出した部位であり、それぞれの素材と同一素材または同等の透磁率を有する素材からなるものとする。
【0045】
仮に、天板112と底板114の少なくとも一方が互いの対向面に突起物を有している場合、当該突起物が天板112と底板114との間の磁場を歪め、コイル部品100の磁路形成をコイルコア110の外環側に移行させることにより本実施形態の効果を阻害しかねない。すなわち、天板112と底板114との間には、高い透磁率を有する部材は柱状部116、118を除いて極力配置しない構成が好ましい。
【0046】
また、天板112と底板114が対向している空間内に一対の柱状部116、118が内包されていることが好ましい。なぜならば、柱状部116には巻線122が、柱状部118には巻線124が、それぞれの側面に近接するように巻回されており、通電すると当該側面全体にわたり磁場が発生する。従って、天板112と底板114とが対向している空間内に柱状部116と柱状部118とを内包する構成とすることにより、柱状部116、118を通過する磁束の漏れを防ぐことができ、コイル部品100全体としてはインダクタンスが増大する等、種々の磁気特性が向上する。
【0047】
ここまで、本実施形態の構成について説明してきたが、これは本発明の一例であって、異なる構成を取りうる。
例えば、柱状部116、118の横断面の形状について、本実施形態は略台形としたがこれに限らず、コイルコア110の内環側又は外環側に偏倚している形状であれば、いずれでも構わない。例えば、三角形や五角形等の多角形、半円や円弧、凸形状や凹形状、曲線のみで囲まれて一方に偏倚している形状など、様々なバリエーションを採用しうる。
また、本実施形態においては柱状部116と柱状部118は、コイル部品100の横断面中心を基準として対称となるように配置されているように図示しているが、非対称であっても構わない。
【0048】
<第2実施形態の構成>
図4〜
図6を用いて、本発明の第2実施形態の構成について説明する。
図4は、第2実施形態のコイル部品200の斜視図である。
図5(a)は、コイル部品200の正面図であり、
図5(b)は
図5(a)のIII−IIIにおける断面図である。
図6は、巻線220を通電したときにコイル部品200に発生する実効磁路M2と、巻線220の巻線方向を模式的に示す模式図である。
【0049】
本発明の第2実施形態のコイル部品200は、環状のコイルコア210と、巻線220と、樹脂フィルム230と、を備える。コイルコア210は、天板212と、底板214と、柱状部216と、柱状部218と、から構成されている。
柱状部216には巻線222が巻回されており、柱状部218には巻線224が巻回されている。
図6に示すように、巻線222が柱状部216の上面から視て時計回りに巻回され、巻線224が柱状部218の上面から視て反時計回りに巻回されている。
なお、ここでは図示しないが巻線222と巻線224はそれぞれ引き出し線を有しており、当該引き出し線を介して通電可能な構成となっている。
【0050】
コイルコア210は第1実施形態のコイルコア110と、巻線220は第1実施形態の巻線120と、樹脂フィルム230は第1実施形態の樹脂フィルム130と、それぞれ同質素材からなる部材である。
天板212と底板214とは、第1実施形態の天板112と底板114と同等の部材である。
【0051】
一方で、
図5(b)に示すように、本実施形態のコイル部品200は、コイルコア210(柱状部216、218)の断面が外環側に偏倚している点で第1実施形態のコイル部品100と異なる。
【0052】
図6においてコイル部品200の実効磁路M2を破線で示す。ここで示すように本実施形態におけるコイル部品200において、コイルコア210を通る実効磁路M2が中心より外環側寄りとなっている。これは、コイルコア210の断面が、コイルコア210の外環側に偏倚していることにより、コイルコア210の外環側を通る磁束が増加し、逆にコイルコア210の内環側を通る磁束が減少するため、コイル部品200全体の実効磁路M2が外環側寄りとなるのである。
従って、本実施形態のコイル部品200は、実効磁路長が実質的に伸張するため、各種パラメータ(コア体積、コア間隔、コア材質、ギャップ長、巻き方、巻数)が同等のコイル部品と比してインダクタンスが減少する。
【0053】
より詳細に本実施形態のコイル部品200の構造的特徴を説明すると以下のようになる。
一の柱状部216において側周面は少なくとも一つの平面部を含み、側周面に含まれる平面部のうち最大の面積を有する最大平面部217がコイルコア210の外環側に位置に位置することによって、柱状部216の断面が外環側に偏倚している。
また、他の柱状部218において側周面は少なくとも一つの平面部を含み、側周面に含まれる平面部のうち最大の面積を有する最大平面部219がコイルコア210の外環側に位置することによって、柱状部218の断面が外環側に偏倚している。
【0054】
すなわち、本実施形態のコイル部品200において、一対の柱状部216、218のそれぞれが最大平面部217、219をコイルコア210の外環側に有しており、互いの最大平面部217、219が平行に配置されている。
【0055】
図4や
図5(a)に示すように、本実施形態のコイルコア210は方形状である。方形状のコイルコア210においては、最大平面部217と最大平面部219のいずれか一方がコイルコア110の外環側に配置された構成とすることによって、より効果的にコイル部品200の実効磁路長を伸張させ、コイル部品200のインダクタンスを減少させうる。さらに、最大平面部217と最大平面部219とが互いに外環側で平行となる配置にさせることにより、コイル部品200の実効磁路長を最も伸張させ、コイル部品200のインダクタンスを減少させうる。
【0056】
<第1実施形態と第2実施形態の評価試験>
第1実施形態のコイル部品100の磁気特性と、第2実施形態のコイル部品200の磁気特性の評価試験について、
図7〜
図9を用いて説明する。
図7は、天板112、212又は底板114、214に用いられる平板部材12を示す図である。
図7(a)が平板部材12の上面図であり、
図7(b)が平板部材12の側面図である。
図8は、柱状部116、118、216、218に用いられる柱状部材16を示す図である。
図8(a)が柱状部材16の上面図であり、
図8(b)が柱状部材16の側面図である。
図9は、コイル部品100とコイル部品200に流した直流電流とコイル部品の関係を示す図である。
図9(a)が巻線122と巻線124又は巻線222と巻線224を並列接続した場合を示すものであり、
図9(b)が巻線122と巻線124又は巻線222と巻線224を直列接続した場合を示すものである。
【0057】
図7に示すとおり、平板部材12は上面から視ると一辺62mmの正方形の平板であり、その厚さは16mmである。
図8に示すとおり、柱状部材16は上面から視ると略台形であり、より詳細には31mmと51mmの底辺、高さ20mmの台形から各底辺の両端部を丸み面取りした形状である。また、柱状部材16の厚さは、20mmである。
平板部材12と柱状部材16の材料としては、それぞれMn−Zn系フェライト素材であるML24Dを採用した。
【0058】
図8(a)に示す通り、柱状部材16における断面の形状は、角部15、17が面取りされている略多角形であり、具体的には略台形である。
柱状部材16の断面が偏倚している側に位置している角部17における面取りの寸法が、その反対側に位置している角部15における面取りの寸法より小さい。より詳細には、角部15については10mm径の丸み面取り加工を施し、角部17については6mmの丸み面取り加工を施している。
なお、ここでは丸み面取り(R面取り)を施しているが、45°面取り(C面取り)を施してもよい。
【0059】
柱状部材16における角部15、17を面取りすることにより、柱状部材16に対して巻線(例えば巻線122、124や巻線222、224)をより密着させて巻回させることができ、磁束漏れが減少するので、コイル部品(例えばコイル部品100やコイル部品200)全体としてはインダクタンスが増大する等、種々の磁気特性が向上する。
【0060】
また、角部17における丸み面取りの径寸法が、角部15における丸み面取りの径寸法より小さいので、偏倚している側の平面部(最大平面部117や最大平面部217)の側周面方向の両端部において、面取りにより削除される領域が少なくなる。従って、コイル装置に生じる実効磁路を、コイルコアの断面が偏倚している側に移行させるという本発明の効果が、上記のような面取りを施すことによってより顕著となる。
【0061】
図7、
図8に示す平板部材12と柱状部材16とを組み合わせて、第1実施形態のコイル部品100と第2実施形態のコイル部品200とを作成した。
ここで、巻線120、220に用いる線材の径は1mm、その巻数は40ターンとした。ギャップ長(樹脂フィルム130、230の厚さ)は1mmとした。柱状部材16の間には11.7mmのスペーサー(図示せず)を挟んで配置した。
また、測定周波数は100kHzとして測定した。
【0062】
図9に示すように、並列接続の場合においても、直列接続の場合においても、コイル部品100の方がコイル部品200より大きいインダクタンスを示している。コイル部品100のインダクタンスとコイル部品200のインダクタンスとの差は約4%程度であった。
また、直流重畳特性についてコイル部品100とコイル部品200とを比較した場合、どちらもほぼ同様にインダクタンスが低下する傾向を示した。
【0063】
すなわち、コイルコア110、210の断面形状を変化させることによってインダクタンスの増減を図ることが可能であることが評価できた。また、他のパラメータ(コア体積、コア間隔、コア材質、ギャップ長、巻き方、巻数)が同じであれば直流重畳特性にはほとんど影響を与えないことが評価できた。
【0064】
<第3実施形態>
図10を用いて、本発明の第3実施形態について説明する。
図10は、第3実施形態のコイル部品300を示す図である。
図10(a)はコイル部品300の正面図であり、
図10(b)は
図10(a)のIV−IVにおける断面図である。
【0065】
図10(a)に示すとおり、コイルコア310は屈曲した棒状であって、コイルコア310が屈曲している方向の内側又は外側の少なくとも一方に断面が偏倚している。この点において、第3実施形態のコイル部品300は第1実施形態のコイル部品100や第2実施形態のコイル部品200とは異なる。より具体的に言えば、本実施形態のコイルコア310はドーナツ形(円形)で一部材から構成されるトロイダルコアである。
【0066】
ここで屈曲するとは、ここで図示しているドーナツ形の態様以外にも、その中途で一回屈折する態様(L形)、その中途で二回同方向に屈曲する態様(「コの字」形)、弓なりに湾曲する態様等を含む。また、コイルコア310は必ずしも一部材で構成されなくてもよく、複数の部材を連結することにより構成しても構わない。
【0067】
また、第3実施形態のコイル部品300は、コイルコア310の周囲に巻回されている巻線320が、一つの線材であって、棒状のコイルコア310のほぼ全ての側周面にわたって巻回されている点において上記実施形態とは異なる。
ただし、電気回路の観点で言えば、複数の巻線(例えば、第1実施形態の巻線122と巻線124)を直列接続した構成と等価であるといえる。
なお、ここでは巻線320を一つの線材として説明するが、巻線320を複数の部材で構成しても構わないし、その場合は並列接続することも可能である。
【0068】
コイルギャップ330は、空隙である形態に限らず、コイルコア310の素材に比べて十分に小さい透磁率の素材(例えば樹脂等)が充填されたものであってもよい。また、コイルギャップ330は必ずしも設ける必要はなく、この場合、コイルコア310は中途で途切れない完全な円形、矩形、楕円形等であってもよい。
【0069】
図10(b)に示すとおり、第3実施形態のコイル部品300は、巻線320の巻軸方向に対して直交しているコイルコア310の断面が、コイルコア310の内環側に偏倚しているという点においては、第1実施形態のコイル部品100と同様である。換言すれば、コイルコア310は内環側の厚さが外環側の厚さより大きい。ここでコイルコア310の厚さとは、コイルコア310がドーナツ形に見える方向、すなわち
図10(a)に示す視点におけるコイルコア310の奥行き寸法である。
コイル部品100と同様の特徴を有するので、コイル部品300も各種パラメータ(コア体積、コア間隔、コア材質、ギャップ長、巻き方、巻数)が同等のコイル部品と比してインダクタンスが増大するという効果を奏する。
【0070】
さらに、コイル部品300は、いわゆるトロイダルコアを有するので、磁束の漏洩が少なく、各種パラメータ(コア体積、コア間隔、コア材質、ギャップ長、巻き方、巻数)が同等のコイル部品(例えば、コイル部品100)よりインダクタンスが大きくなる。
【0071】
なお、ここではコイルコア310の内環側の厚さが外環側の厚さより大きい実施形態について説明した。本実施形態の変形例として、コイルコア310の外環側の厚さが内環側の厚さより大きい態様も可能である。このような変形例の場合、第3実施形態と比してインダクタンスが小さくなるのは、コイル部品100とコイル部品200との比較で説明した理屈から明らかである。
【0072】
また、
図10(b)にコイルコア310の断面が略台形であるように図示しているが、これは一例であり、第1実施形態の柱状部116、118の断面形状と同様に、様々なバリエーションが考えられる。
【0073】
<第1実施形態の変形例>
図11を用いて、本発明の第1実施形態の変形例について説明する。
図11は、第1実施形態の変形例であるコイル部品400を示す図である。
図11(a)はコイル部品400の正面図であり、
図11(b)は
図11(a)のV−Vにおける断面図である。
【0074】
変形例のコイル部品400は、環状のコイルコア410と、巻線420と、樹脂フィルム430と、を備える。コイルコア410は、天板412と、底板414と、柱状部416と、柱状部418と、から構成されている。柱状部416には巻線422が巻回されており、柱状部418には巻線424が巻回されている。
ここでは図示しないが、第1実施形態のコイル部品100と同様に、巻線422が柱状部416の上面から視て時計回りに巻回され、巻線424が柱状部418の上面から視て反時計回りに巻回されている。
また、ここでは図示しないが巻線422と巻線424はそれぞれ引き出し線を有しており、当該引き出し線を介して通電可能な構成となっている。
【0075】
コイルコア410は第1実施形態のコイルコア110と、巻線420は第1実施形態の巻線120と、樹脂フィルム430は第1実施形態の樹脂フィルム130と、それぞれ同質素材からなる部材である。
天板412と底板414とは、第1実施形態の天板112と底板114と同等の部材である。
【0076】
一方で、
図11(a)に示すように、コイル部品400は、柱状部416、418と挟持部(天板412)とが離間しており、当該柱状部416、418における断面の偏倚している側において、その反対側より柱状部416、418と天板412との離間距離が大きいという点で第1実施形態のコイル部品100と異なる。
柱状部416、418と天板412との間に延在している樹脂フィルム430は、楔状になっている。ここで楔状とは、一端が厚く、他端に向かって漸次薄くなる形状をいう。
【0077】
より詳細に言えば、本変形例のコイル部品400は、柱状部416、418の断面は、内環側に偏倚しており、且つ、その離間距離は、内環側において外環側より大きいという点で、第1実施形態のコイル部品100とは異なる。
これは換言すれば、柱状部416、418と天板412との間に延在している樹脂フィルム430が、コイルコア410の内環側に位置する一端において厚く、外環側に位置する他端に向かって漸次薄くなるともいえる。
【0078】
本変形例のコイル部品400は、上記のような構造的特徴を有することにより、いわゆるスインギング特性を有することができる。ここで、スインギング特性とは、巻線に流れる電流が小さいときは比較的大きなインダクタンスを確保することができ、電流が大きくなっても一定程度はインダクタンスを確保することができる特性のことをいう。
スインギング特性は、主に高周波のスイッチング電源回路に用いるチョークコイルにおいて、間欠発振を防止するため持たせるものである。
【0079】
一般の(コイルコアの断面形状が対称である)コイル部品にスインギング特性を持たせるために楔状のコイルギャップを設ける場合、どこを厚く(薄く)しても効果はさほど代わらないが、本変形例のコイル部品400では厚く(薄く)する位置によって、その効果が異なる。
本変形例のコイル部品400のように柱状部416、418の横断面が偏倚している側(コイルコア410の内環側)が厚くなる(離間距離が大きくなる)ようにコイルギャップを設ければ、より多く磁束が通過する内環側の透磁率が減少するので、一般のコイル部品より顕著なスインギング特性を表し、より直流重畳特性を伸ばしうる。
【0080】
また、本変形例のコイル部品400は、コイルコア410の外環側のコイルギャップ(離間距離)を小さくしているので、コイル部品400外部への磁束漏れが少なくなるという効果も奏する。
【0081】
本変形例においては、柱状部416、418の横断面が偏倚している側のコイルギャップを厚くする事例について説明したが、これに限定するものではない。すなわち、柱状部416、418の横断面が偏倚している側のコイルギャップを薄くする形態もとりうる。この場合、より多く磁束が通過する内環側の透磁率が高いので、電流の小さな領域では大きなインダクタンスを得られる。
【0082】
また、本変形例においては、第1実施形態の変形例であるコイル部品400について説明したが、これに限らず第2実施形態のコイル部品200にスインギング特性を持たせたコイル部品を構成してもよい。すなわち、柱状部の断面が外環側に偏倚しており、且つ、柱状部と挟持部(天板又は底板)の離間距離が外環側において内環側より大きい形態があってもよい。
【0083】
ここではコイルギャップ(樹脂フィルム430)の形状が楔状として説明したが、これに限らず様々な形状がとりうる。例えば、正面から視た場合に柱状部416、418の上面が階段状に形成されることで、離間距離がコイルコア410の内環側と外環側とで異なってもよい。
【0084】
ここまで本発明のコイル部品の構成について種々の実施形態及び変形例を用いて説明したが、これらは例示である。本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
また、本発明の各種の構成要素は、必要に応じて個々の構成要素に図示しない穴やスリット等を設けることを排除しない。
【0085】
<コイル部品セット>
ここまで説明した種々の実施形態や変形例のコイル部品を複数有するコイル部品セットについて説明する。
すなわち、空気より透磁率の高い素材で形成されている環状のコイルコア(例えばコイルコア110やコイルコア210)と、コイルコアの周囲に近接するように巻回されている巻線(例えば巻線120や巻線220)と、を備えた複数のコイル部品(例えばコイル部品100とコイル部品200)を含むコイル部品セットである。
当該コイル部品セットは、インダクタンス又は直流重畳特性のいずれか一方が同等である。そして当該コイル部品セットに含まれる複数のコイル部品のうち、第一のコイル部品のコイルコアにおける巻線の巻軸方向に対して直交している断面が、第二のコイル部品のコイルコアにおける断面より、コイルコアの内環側又は外環側のいずれか一方に偏倚していることを特徴とする。
【0086】
当該コイル部品セットには、上述した種々のコイル部品以外に、コイルコアの断面形状が対称であるコイル部品が含まれても構わない。すなわち、複数のコイル部品間でコイルコアの断面形状を比較したとき、一方が他方より偏倚していることを要するのであって、単一のコイル部品において必ずしもコイルコアの断面が偏倚している必要はない。
【0087】
各種パラメータ(コア体積、コア間隔、コア材質、ギャップ長、巻き方、巻数)が同等の複数のコイル部品からなるコイル部品セットであれば、上記特徴を有することにより、同等の直流重畳特性を示し、異なるインダクタンスを有するコイル部品セットが提供される。
【0088】
上記各種パラメータ、特にコア材質、ギャップ長又は巻数の少なくとも一つが異なる複数のコイル部品からなるコイル部品セットであれば、上記特徴を有することにより、同等のコイル部品を有し、異なる直流重畳特性のコイル部品セットが提供される。
【0089】
<コイル部品の製造方法>
ここまで説明してきた種々の実施形態及び変形例のコイル部品を製造する方法について説明する。すなわち、空気より透磁率の高い素材で形成されている環状のコイルコア(例えばコイルコア110やコイルコア210)と、コイルコアの周囲に近接するように巻回されている巻線(例えば巻線120や巻線220)と、を備えるコイル部品(例えば、コイル部品100やコイル部品200)の製造方法である。
当該製造方法は、導出工程と、形状決定工程と、成形工程とを含む。導出工程は、コイルコアにおける巻線の巻軸に対して直交している断面が、コイルコアの内環側又は外環側のいずれか一方に偏倚している度合いを、コイル部品における所望のインダクタンスに基づいて導出する。形状決定工程は、導出工程にて導出された度合いに応じてコイルコアの形状を決定する。成形工程は、形状決定工程にて決定されたコイルコアの形状に応じてコイル部品を成形する。
【0090】
ここで、より具体的に説明するために、フォワード・コンバータの二次側平滑回路RFに用いられるチョークコイルL
1を製造することを仮定する。なお、ここで示す製造方法は本発明の製造方法の一例であり、この態様に限られない。
図12は、フォワード・コンバータの電気回路を簡易的に示す回路図である。
図13は、チョークコイルL
1の製造方法を示すフローチャートである。
【0091】
図12に示すように、交流電源ACをAC/DCコンバータ(
図12ではA/Dと図示)で変換した直流電力がスイッチング・トランジスタTr
1に負荷される。なお、入力コンデンサC
inは入力電圧の平滑化を図るために設けられている。スイッチング・トランジスタTr
1は制御回路CCにより所定の周期でスイッチングされ、直流電力を数十kHz以上の高周波電力に変換する。そして、スイッチング・トランジスタTr
1によって変換された高周波電力は、トランスT
1によって目的とする電圧及び電流に変換される。ダイオードD1とダイオードDrにより、スイッチング・トランジスタTr
1がOFFであるときに生じるサージ電流はトランスT
1に流れず、出力側に還流される。
【0092】
ここで、トランスT
1によって変換された電圧・電流にはリプルが重畳する。これを整流・平滑するためにトランスT
1の二次側には平滑回路RFが設けられる。
図12において破線で囲まれている回路が平滑回路RFである。平滑回路RFはチョークコイルL
1とコンデンサC
1とからなる。平滑回路RFの目的はリプルの減衰であるため、チョークコイルL
1のインダクタンス値は重要なパラメータの一つであるが、直流重畳特性も重要となる。すなわち、チョークコイルL
1に流れうる最大電流においてもチョークコイルL
1がコイルとして機能することが重要である。
仮にチョークコイルが磁気飽和を起こしてコイルとして機能しなくなれば、平滑回路RFは整流・平滑することができなくなり、フォワード・コンバータとして安定的な電力供給が出力できなくなる。
【0093】
図12に示すフォワード・コンバータにおいて、チョークコイルL
1のインダクタンスは以下の式(2)のように表すことができる。
【数2】
なお、式(2)において、
L
1:チョークコイルL
1のインダクタンス
V
S:トランスT
1の二次巻線電圧
V
O:フォワード・コンバータの出力電圧
ΔI
L:許容されるリプル電流
t
ON:スイッチングのON時間
とする。
【0094】
チョークコイルL
1に流れる最大電流I
L(MAX)は、スイッチング電源においては保護回路(図示せず)の動作条件を考慮して決定される。ここで保護回路とは、主回路の電圧・電流などを監視し、過負荷や過電圧等の異常を検出した場合に、インバータと誘導電動機の破損を防止するために、インバータを停止する、又は電圧や電流値を制御する回路をいう。
また、最大電流I
L(MAX)は、許容されるリプル電流ΔI
Lも加味しなくてはならない。
【0095】
仮に、保護回路の動作条件が定格出力電流I
Oの1.2倍、許容されるリプル電流ΔI
Lが30%
P−P(直流出力換算で15%)である場合、最大電流I
L(MAX)は以下の式(3)で表すことができる。
【数3】
【0096】
図13に示すように、チョークコイルL
1を製造する際には、まず式(2)からチョークコイルL
1における所望のインダクタンスを算出する(ステップS1)。
続いて、チョークコイルL
1における所望の直流重畳特性、すなわちステップS1で求めたインダクタンスを維持しなければならない最大電流I
L(MAX)を式(3)から算出する(ステップS2)。
【0097】
ステップS2で求めた所望の直流重畳特性に基づいて、チョークコイルL
1の各種パラメータ(コア体積、コア間隔、コア材質、ギャップ長、巻き方、巻数)を決定する(ステップS3)。
ステップS3において、例えば、ステップS2で求めた直流重畳特性とステップS1で求めた所望のインダクタンスに基づいて、各種パラメータ(コア体積、コア間隔、コア材質、ギャップ長、巻き方、巻数)を概察するという態様もとりうる。ここで概察とは、ある程度の数値幅を持って所望値を決定することや、多数の選択肢から一定数の選択肢に限定することを含む。
あるいは、ステップS3において、例えば、上述した実施形態や変形例からなるコイル部品を複数含むコイル部品セットであって、ステップS2で求めた所望の直流重畳特性を満足する複数のコイル部品からなるコイル部品セットを選定するという態様もとりうる。
【0098】
ステップS1で求めた所望のインダクタンスに基づいて、チョークコイルL
1のコイルコアにおける断面が、コイルコアの内環側又は外環側のいずれか一方に偏倚している度合い(以下、偏倚度合いと称する)を導出する(ステップS4、導出工程)。
また、ステップS4にて導出された偏倚度合いに応じてコイルコアの形状を決定する(ステップS5、形状決定工程)。
そして、ステップS5にて決定されたコイルコアの形状に応じてチョークコイルL
1を成形する(ステップS6、成形工程)。
【0099】
ステップS4において、例えば、ステップS3で決定された各種パラメータと、ステップS1で求めた所望のインダクタンスとに基づいて、偏倚度合いを算出する態様もとりうる。この算出は、実験を繰り返して得られた偏倚度合い・各種パラメータ・インダクタンスの関係式(経験式)を用いることができる。
【0100】
ステップS5において、例えば、ステップS3で概察された各種パラメータと、ステップS4で導出された偏倚度合いとに基づいて、コイルコアの形状を決定する態様もとりうる。
【0101】
ステップS4とステップS5とを合わせて実行する態様として、例えば、ステップS3で選定されたコイル部品セットから、所望のインダクタンスを有するコイル部品を選定する態様もとりうる。
【0102】
ステップS6において、例えば、ステップS5で定めた形状の型にフェライトの粒子を入れて焼結することにより成形する態様であってもよい。又は、元となるコイルコアを削磨してステップS5で定めた形状に成形する態様であってもよい。
【0103】
ここまで、フォワード・コンバータの二次側平滑回路RFに用いられるチョークコイルL
1を製造することを仮定して本発明のコイル部品の製造方法を説明してきたが、他の用途に用いられるコイル部品の製造方法にも応用が可能である。
例えば、PWM制御フライバック・コンバータに用いられるトランスの製造にも適用可能である。この場合、コイル部品は複数の巻線(例えばコイル部品100における巻線122と巻線124)を独立して有し、一方を一次側巻線、他方を二次側巻線として用いる。
当該トランスは、PWM方式(電流連続モード)で使用され、RCC方式(電流臨界モード)で使用されるトランスと比してインダクタンスを大きくする必要がある。一般的にはギャップ長を小さくすることで所望のインダクタンスを確保するが、この際に直流重畳特性が低下するため所望の仕様を満足しなくなる場合があった。
しかし、本発明のコイル部品の製造方法では、コイルコア断面の偏倚度合いを増減することで直流重畳特性をほとんど変えずにインダクタンスを増減させることができるので、容易に所望のインダクタンスを実現することができる。
【0104】
すなわち、本発明のコイル部品の製造方法は、一般的なインダクタンスの調整方法(例えば巻数の増減又はギャップ長の増減)において、インダクタンスと直流重畳特性とがトレードオフの関係にあるために調製困難となるコイル部品製品への応用が好ましい。
【0105】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)空気より透磁率の高い素材で形成されている環状のコイルコアと、前記コイルコアの周囲に近接するように巻回されている巻線と、を備え、前記コイルコアにおける前記巻線の巻軸に対して直交している断面が、前記コイルコアの内環側又は外環側のいずれか一方に偏倚しているコイル部品。
(2)前記コイルコアは、柱状で、互いの側周面が対向している一対の柱状部と、前記一対の柱状部を挟むように支持している一対の挟持部と、がそれぞれ方形の一辺を形成していることによって環状に構成されており、前記巻線は前記一対の柱状部のそれぞれに巻回され、前記一対の柱状部の前記断面が前記内環側又は前記外環側のいずれか一方に偏倚している上記(1)に記載のコイル部品。
(3)一の前記柱状部において前記側周面は少なくとも一つの平面部を含み、前記側周面に含まれる前記平面部のうち最大の面積を有する最大平面部が前記内環側又は前記外環側に位置することによって、前記断面が前記内環側又は前記外環側のいずれか一方に偏倚している上記(2)に記載のコイル部品。
(4)前記断面の形状は、角部が面取りされている略多角形であって、前記断面が偏倚している側に位置している前記角部における前記面取りの寸法が、その反対側に位置している前記角部における前記面取りの寸法より小さい(3)に記載のコイル部品。
(5)前記一対の柱状部のそれぞれが前記最大平面部を前記内環側に有しており、互いの前記最大平面部が平行に配置されている上記(3)または(4)に記載のコイル部品。
(6)前記一対の柱状部のそれぞれが前記最大平面部を前記外環側に有しており、互いの前記最大平面部が平行に配置されている上記(3)または(4)に記載のコイル部品。
(7)前記柱状部と前記挟持部とが離間しており、当該柱状部における前記断面の偏倚している側において、その反対側より前記柱状部と前記挟持部との離間距離が大きい上記(2)から(6)いずれか一つに記載のコイル部品。
(8)前記断面は、前記内環側に偏倚しており、且つ、前記離間距離は、前記内環側において前記外環側より大きい上記(7)に記載のコイル部品。
(9)前記コイルコアは屈曲した棒状であって、前記コイルコアが屈曲している方向の内側又は外側の少なくとも一方に前記断面が偏倚している上記(1)に記載のコイル部品。
(10)空気より透磁率の高い素材で形成されている環状のコイルコアと、前記コイルコアの周囲に近接するように巻回されている巻線と、を備えるコイル部品の製造方法であって、前記コイルコアにおける前記巻線の巻軸に対して直交している断面が、前記コイルコアの内環側又は外環側のいずれか一方に偏倚している度合いを、前記コイル部品における所望のインダクタンスに基づいて導出する導出工程と、前記導出工程にて導出された前記度合いに応じて前記コイルコアの形状を決定する形状決定工程と、前記形状決定工程にて決定された前記コイルコアの形状に応じて前記コイル部品を成形する成形工程と、を含むコイル部品の製造方法。
(11)空気より透磁率の高い素材で形成されている環状のコイルコアと、前記コイルコアの周囲に近接するように巻回されている巻線と、を備えた複数のコイル部品を含むコイル部品セットであって、インダクタンス又は直流重畳特性のいずれか一方が同等である前記複数のコイル部品のうち、第一の前記コイル部品の前記コイルコアにおける前記巻線の巻軸方向に対して直交している断面が、第二の前記コイル部品の前記コイルコアにおける前記断面より、前記コイルコアの内環側又は外環側のいずれか一方に偏倚しているコイル部品セット。
(A)前記一対の挟持部は、平行に対向している一対の平板で構成されている上記(2)から(8)のいずれか一つに記載のコイル部品。
(B)前記一対の平板が対向している空間内に前記一対の柱状部が内包されている上記(A)に記載のコイル部品。