(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337482
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】自動調心ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/48 20060101AFI20180528BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20180528BHJP
F16C 25/08 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
F16C33/48
F16C19/38
F16C25/08
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-15928(P2014-15928)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140918(P2015-140918A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100192474
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 健次
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(72)【発明者】
【氏名】牛丸 智史
(72)【発明者】
【氏名】村井 隆司
【審査官】
渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平3−144110(JP,A)
【文献】
特開2007−127167(JP,A)
【文献】
特開平9−317760(JP,A)
【文献】
実公昭44−1601(JP,Y1)
【文献】
特開2006−29539(JP,A)
【文献】
特開2010−25191(JP,A)
【文献】
特開2007−303608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00− 19/56
F16C 21/00− 27/08
F16C 33/30− 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面状凹面である外輪軌道をその内周面に形成する外輪と、
前記外輪軌道と対向する1対の内輪軌道をその外周面に形成する内輪と、
前記1対の内輪軌道の一方と該一方の内輪軌道に対向する前記外輪軌道との間、及び前記1対の内輪軌道の他方と該他方の内輪軌道に対向する前記外輪軌道との間の両列毎に、複数個ずつ転動自在に配置される球面ころと、
前記両列の球面ころ同士の間に配置された円環状の中間リム部と、前記球面ころに対して軸方向において前記中間リム部と反対側にそれぞれ配置された円環状の1対の外側リム部と、前記中間リム部と前記各外側リム部とを円周方向に所定の間隔でそれぞれ連結する複数の柱部とを有し、円周方向に隣り合う柱部同士の間に前記球面ころを転動自在に保持する複数のポケットを形成する一体型の鉄製の保持器と、
を備え、
前記外側リム部の内径は、前記内輪の最大外径よりも大きく、
前記球面ころの軸方向中間部において、前記保持器の柱部は、ピッチ円直径よりも外側に位置することを特徴とする自動調心ころ軸受。
【請求項2】
前記保持器は、ころ案内方式であることを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項3】
前記保持器は、少なくとも前記中間リム部において断面直線形状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項4】
前記各ポケットの隅部は、前記各柱部の円周方向両側面と前記中間リム部及び外側リム部の軸方向側面とを断面円弧状の凹曲面により連続させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項5】
前記各柱部の円周方向側面は、前記球面ころの軸方向の曲率半径を有する曲面形状を有し、
前記各柱部の円周方向側面における前記球面ころの軸方向の曲率半径は、前記球面ころの転動面における前記球面ころの軸方向の曲率半径よりも大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動調心ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動調心ころ軸受に関し、より詳細には、ハウジングの内側に回転軸を支承するため、各種産業機械装置のロール等の回転支持部に組み込んだ状態で使用される自動調心ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動調心ころ軸受としては、球面ころを保持する保持器が鋼板に打ち抜き加工を施すことで形成され、また、複列の球面ころ間に球面ころの端面を案内する案内輪が配置されるものが種々考案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0003】
図6は、従来の自動調心ころ軸受を示しており、外輪1の内周面には、単一の中心を有する球面状凹面である外輪軌道1aが形成されている。また、内輪2の外周面の幅方向両側には、それぞれが外輪軌道1aと対向する1対の内輪軌道2aが形成されている。また、複数の球面ころ3は、その最大径部が各球面ころ3の軸方向長さの中央部にある対称形で、外輪軌道1aと内輪軌道2aとの間の両列毎に、複数個ずつ転動自在に配置されている。各球面ころ3の転動面の母線形状の曲率半径は、外輪軌道1a及び内輪軌道2aの母線形状の曲率半径より僅かに小さい。
【0004】
各列の球面ころ3は、1対の鉄製の保持器4によってそれぞれ転動自在に保持されている。各保持器4は、球面ころ3の両側に設けられた円環状の内側リム部5a及び外側リム部5bと、内側リム部5aと外側リム部5bとを円周方向複数個所で結合する複数の柱部6とを備え、逆L字状断面形状に形成される。そして、保持器4は、円周方向に隣り合う柱部6同士の間に、球面ころ3を転動自在に保持する複数のポケット7を備える。また、内輪2の中央の外径面部と、保持器4の内側リム部5aの内径面との間には、案内輪8が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−140875号公報
【特許文献2】特開2007−205388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、
図6に示す自動調心ころ軸受によれば、保持器4は、案内輪8の外周面及び、外側リム部5bのフランジ部9によって案内される軌道輪案内方式であるため、外側リム部5bには内輪2に近接するためのフランジ部9が必要になり、その分だけ保持器4の重量が大きくなるという課題がある。また、球面ころ3の端面を案内するとともに、保持器4の内側リム部5aの内径面を案内する案内輪8が必要な構成であるため、案内輪8の分だけ重量が大きくなると共に、部品管理を行う際の部品点数も多くなるという課題がある。さらに、外側リム部5bには内輪2に近接するフランジ部9があるため、各列毎にそれぞれ保持器4を設けなければ組み込みできず、組立性の観点からも改善の余地があった。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉄製の保持器を使用して、軽量化、且つ、部品管理及び組立性を向上することができる自動調心ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 球面状凹面である外輪軌道をその内周面に形成する外輪と、
前記外輪軌道と対向する1対の内輪軌道をその外周面に形成する内輪と、
前記1対の内輪軌道の一方と該一方の内輪軌道に対向する前記外輪軌道との間、及び前記1対の内輪軌道の他方と該他方の内輪軌道に対向する前記外輪軌
道との間の両列毎に、複数個ずつ転動自在に配置される球面ころと、
前記両列の球面ころ同士の間に配置された円環状の中間リム部と、前記球面ころに対して軸方向において前記中間リム部と反対側にそれぞれ配置された円環状の1対の外側リム部と、前記中間リム部と前記各外側リム部とを円周方向に所定の間隔でそれぞれ連結する複数の柱部とを有し、円周方向に隣り合う柱部同士の間に前記球面ころを転動自在に保持する複数のポケットを形成する一体型の鉄製の保持器と、
を備え、
前記外側リム部の内径は、前記内輪の最大外径よりも大き
く、
前記球面ころの軸方向中間部において、前記保持器の柱部は、ピッチ円直径よりも外側に位置することを特徴とする自動調心ころ軸受。
(2) 前記保持器は、ころ案内方式であることを特徴とする(1)に記載の自動調心ころ軸受。
(3) 前記保持器は、少なくとも前記中間リム部において断面直線形状に形成されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の自動調心ころ軸受。
(4) 前記各ポケットの隅部は、前記各柱部の円周方向両側面と前記中間リム部及び外側リム部の軸方向側面とを断面円弧状の凹曲面により連続させることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の自動調心ころ軸受。
(5) 前記各柱部の円周方向側面は、
前記球面ころの軸方向の曲率半径を有する曲面形状を有
し、
前記各柱部の円周方向側面における前記球面ころの軸方向の曲率半径は、前記球面ころの転動面における前記球面ころの軸方向の曲率半径よりも大きいことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の自動調心ころ軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の自動調心ころ軸受によれば、保持器を、中間リム部と、1対の外側リム部と、中間リム部と各外側リム部とを円周方向に所定の間隔でそれぞれ連結する複数の柱部とを有し、円周方向に隣り合う柱部同士の間に球面ころを転動自在に保持する複数のポケットを形成する一体型の鉄製の保持器によって構成し、外側リム部の内径を、内輪の最大外径よりも大きくし
、球面ころの軸方向中間部において、保持器の柱部は、ピッチ円直径よりも外側に位置する。これにより、鉄製の保持器を使用して、保持器の重量を抑えることができると共に、案内輪を不要とすることができ、軽量化、且つ、部品管理及び組立性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図3】(a)は、
図1の保持器及び球面ころを内側から見た要部拡大図である。(b)は、
図1のIII−III線に沿った保持器及び球面ころの断面図であり、(c)は、変形例に係る(b)に対応する断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図5】本発明の変形例に係る自動調心ころ軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る自動調心ころ軸受を
図1〜
図3に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態の自動調心ころ軸受は、外輪1と、内輪2と、複数個の球面ころ3と、鉄製の保持器4aと、を備える点において、従来構造と同様とする一方、案内輪を不要とし、鉄製の保持器4aを複列の球面ころ3に対して単一部材によって構成している。
【0012】
具体的に、本実施形態の自動調心ころ軸受は、球面状凹面である外輪軌道1aをその内周面に形成する外輪1と、外輪軌道1aと対向する1対の内輪軌道2aをその外周面に形成する内輪2と、外輪軌道1aと内輪軌道2aとの間の両列毎に、複数個ずつ転動自在に配置される球面ころ3と、球面ころ3を転動自在に保持する複数のポケット13を二列備えた一体型の鉄製の保持器4aと、を備える。
【0013】
即ち、保持器4aは、鉄製の単一部材からなり、ころ案内方式としている。保持器4aは、
図2にも示すように、両列の球面ころ3同士の間に配置された円環状の中間リム部10と、球面ころ3に対して軸方向において中間リム部10と反対側にそれぞれ配置された円環状の1対の外側リム部11と、中間リム部10と各外側リム部11とを円周方向に所定の間隔でそれぞれ連結する複数の柱部12とを有し、円周方向に隣り合う柱部12同士の間に球面ころ3を転動自在に保持する複数のポケット13を形成する。
【0014】
各列の柱部12は、それぞれの柱部12の円周方向中間位置が、該柱部12が位置する列と異なる列のポケット13の円周方向中間位置となるように、円周方向における位相が互いに異なっている。
なお、各列の柱部12は、円周方向において同位相に形成されてもよい。
【0015】
また、
図1に示すように、保持器4aは、一方の列の外側リム部11及び柱部12から、中間リム部10を介して、他方の列の外側リム部11及び柱部12まで、断面円弧形状に形成されている。具体的には、各列の柱部12の位相が互いに異なるので、一方の列の外側リム部11、柱部12、及び中間リム部10と、他方の列の外側リム部11、柱部12及び中間リム部10とは、それぞれ同一の曲率半径の断面円弧形状で形成されている。さらに、外側リム部11の軸方向端面11aには、平面が設けられている。
【0016】
また、
図2及び
図3(a)に示すように、各ポケット13の隅部は、各柱部12の円周方向両側面と中間リム部10及び外側リム部11の軸方向側面とを断面円弧状の凹曲面14により連続させている。これにより、ポケット13の隅部に加わる応力を緩和することができ、保持器4aの耐久性を確保することができる。
【0017】
なお、このような保持器4aは、ころ案内方式であるため、外側リム部11に従来のような内輪2に近接するフランジ部を設ける必要がない。このため、外側リム部11の内径(φd)は、内輪2の最大外径(φD)よりも大きく設定されており、一体型の保持器4aを内輪2に軸方向から挿入することができる。また、外側リム部11に従来のようなフランジ部を設ける必要がないことから、自動調心ころ軸受の軸方向両端部から軸受空間内に、潤滑剤を容易に供給することができる。
【0018】
また、各柱部12の円周方向側面は、球面ころ3の転動面と軸方向において略相似形を有している。
図3(a)に示すように、各柱部12の円周方向側面は、球面ころ3の軸方向の曲率半径Rよりも若干大きい、軸方向の曲率半径R+ΔRを有する曲面形状を有し、円周方向側面と球面ころ3との間に、潤滑剤を送り込み可能なポケット隙間を形成している。
なお、径方向から見て球面ころ3の中心軸がポケット13の円周方向中間位置と一致する状態での、ポケット隙間は、0.1〜0.5mm程度、或いは、各球面ころ3の最大径の0.4〜2%程度であり、ΔRは、ポケット隙間の寸法以下に設定されればよい。
また、本実施形態では、柱部12の円周方向側面の軸方向中間部は、軸方向において直線形状に形成されているが、これに限らず、軸方向に亘って単一の曲率半径R+ΔRで形成されてもよい。即ち、本発明の柱部12の円周方向側面は、球面ころ3の軸方向変位を抑えることができる程度に、ポケット隙間を介して、球面ころ3の転動面と軸方向において略相似形に形成されればよい。
【0019】
さらに、
図3(b)に示すように、球面ころ3の軸方向中間部において、保持器4aの柱部12は、ピッチ円直径P.C.D.よりも外側に位置する。そして、各柱部12の円周方向側面は、該円周方向側面によって球面ころ3の外径側への抜け止めがなされるように、各柱部12の外周面が内周面よりも円周方向寸法が長くなるように形成されている。なお、各柱部12の円周方向側面は、加工性の観点から、半径方向において直線形状に形成されているが、
図3(c)に示すように、曲面形状に形成されてもよい。
【0020】
以上説明したように、本実施形態の自動調心ころ軸受によれば、外側リム部11の内径φdが、内輪2の最大外径φDよりも大きい一体型の鉄製の保持器4aを用いることで、外側リム部11に内輪2に案内するフランジ部を設ける必要がなく、保持器4aの重量が抑えられる。
また、保持器4aの各柱部12の円周方向側面は、球面ころ3の転動面と軸方向において略相似形としており、これにより、球面ころ3の軸方向変位が抑えられる。さらに、保持器4aは、複列の球面ころ3を保持することができるので、一方の列の球面ころ3がスキューして保持器4aが傾こうとした場合であっても、保持器4aは、他方の列の球面ころ3によっても案内されているので、保持器4aが傾くのを防止することができる。このように、各柱部12の円周方向側面を球面ころ3の転動面と略相似形とし、保持器4aを一体形とした結果、案内輪を設けなくても、両列の球面ころ3のスキューを防止することができる。したがって、本実施形態によれば、鉄製の保持器4aを使用して、保持器4aの重量を抑えることができると共に、案内輪を不要とすることができ、軽量化、且つ、部品管理を向上することができる。さらに、外側リム部11の内径φdが、内輪2の最大外径φDよりも大きい一体型の保持器4aとすることで、容易に内輪2に組み付けることができ、組立性を向上することができる。
【0021】
また、保持器は、ころ案内方式であるので、外側リム部にフランジ部を設ける必要がないと共に、案内輪が不要となり、軽量化を図ることができる。
【0022】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る自動調心ころ軸受を示す。なお、第1実施形態と同等部分については同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0023】
第2実施形態の自動調心ころ軸受では、保持器4bは、中間リム部10を含む軸方向中間部15が断面直線形状に形成されており、残りの部分が断面円弧形状に形成されている。このように、軸方向中間部15を断面直線形状に形成することで、保持器4bを製造しやすく、また、保持器4bの寸法管理が容易となる。
【0024】
また、外側リム部11の軸方向端面11aに第1実施形態よりも長い平面を確保する必要がある場合には、若干径方向内側に延びるフランジ部16を形成してもよい。ただし、本実施形態の場合にも、外側リム部11の内径(φd)が、内輪2の最大外径(φD)よりも大きくなる寸法関係は成立する。
【0025】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、第1及び第2実施形態のように、外側リム部11の軸方向端面11aに平面を形成する必要がない場合には、
図5に示す変形例のように、保持器4cは、外側リム部11の軸方向端面11aまで断面円弧形状に形成すればよく、外側リム部11にフランジ部を設ける必要もない。
【符号の説明】
【0026】
1 外輪
2 内輪
3 球面ころ
4a、4b、4c 保持器
10 中間リム部
11 外側リム部
12 柱部
13 ポケット
14 凹曲面