特許第6337501号(P6337501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337501
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】枠練り固形石けん
(51)【国際特許分類】
   C11D 9/02 20060101AFI20180528BHJP
   C11D 9/26 20060101ALI20180528BHJP
   C11D 13/16 20060101ALI20180528BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20180528BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20180528BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   C11D9/02
   C11D9/26
   C11D13/16
   A61Q19/10
   A61K8/36
   A61K8/34
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-29639(P2014-29639)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-151539(P2015-151539A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】杉野 正明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真巳
(72)【発明者】
【氏名】住田 祥
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−042800(JP,A)
【文献】 特開平02−032199(JP,A)
【文献】 特表2002−527577(JP,A)
【文献】 特開平11−323380(JP,A)
【文献】 特開2003−082394(JP,A)
【文献】 特表2004−536205(JP,A)
【文献】 特開2010−180381(JP,A)
【文献】 特開平11−293291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00−19/00
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示すa成分を35〜69.9質量%、b成分を15〜40質量%、c成分を15〜35質量%、d成分を0.1〜10質量%含有し、b成分とc成分の合計量(b+c)が35〜65質量%であり、成分に対するa成分の含有量比(a/c)が1.3〜2.3であり、b成分とc成分の合計量(b+c)に対するa成分の含有量比〔a/(b+c)〕が0.4〜1.8である枠練り固形石けん。
a.脂肪酸と塩基とから得られる脂肪酸塩であって、脂肪酸塩を構成する脂肪酸のうち炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の合計量が96質量%以上であり、炭素数12の直鎖飽和脂肪酸が15〜35質量%、炭素数14の直鎖飽和脂肪酸が35〜65質量%、炭素数16の直鎖飽和脂肪酸が5〜25質量%、炭素数18の直鎖飽和脂肪酸が0〜25質量%であり、塩基としてアルカリ金属を成分とするアルカリ剤が含まれ、アルカリ金属がカリウムおよびナトリウムであって、アルカリ剤におけるカリウム/ナトリウムの質量比が1/99〜1/1である脂肪酸塩
b.ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール
c.水
d.炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用時に豊かに泡立ち、また溶解性に優れ、溶け崩れにくく、洗い上がりの感触に優れ、生産性に優れた枠練り固形石けんに関する。
【背景技術】
【0002】
固形石けんは機械練り法や枠練り法などによって製造されており、枠練り法で得られる枠練り固形石けんは、保湿成分である多価アルコールや糖類を多量に含有させることができるので、皮膚の保護作用に優れ、使用感が温和であることから、主に洗顔用として用いられる。
枠練り法としては、エチルアルコールなどの低級一価のアルコールと水の混合溶媒に、油脂と、脂肪酸および水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤によって得られた脂肪酸塩とを加熱溶解し、さらに糖類、多価アルコール類や必要により香料、色素、植物エキス等を添加した後、型枠に流し込んで固化して切断し、30〜60日程度掛けて徐々に溶媒を揮発させて固化させる方法が一般的に用いられてきた。
しかしながら、こうして得られたこれまでの枠練り固形石けんは、エチルアルコールなどの低級一価のアルコール類や水を約30〜60質量%も含有しているので、長期間の乾燥が必要な上、生産性に劣り、浴室の石けんトレイで溶け崩れ易く、使用できなくなる場合があった。
【0003】
この課題を解決するため、枠練り固形石けんの低級一価アルコールや水の一部を減量する方法が、例えば特許文献1に記載されている。しかし、この方法は、乾燥日数を短縮する効果はあるものの、乾燥を不要とするものではないので、生産性の向上の点で不十分であった。
【0004】
また、この課題を解決するため、低級一価アルコールや水の代わりに多価アルコールと糖類を用いる方法が、例えば特許文献2に記載されている。しかし、この方法は、乾燥工程を不要とすることができるものの、一方で、石けんの速泡性やクリーミィで豊かな泡立ちを低下させ、溶け崩れが生じることがあった。
【0005】
2種以上の多価アルコールを一定条件下で併用する枠練り透明固形石鹸が、例えば特許文献3に記載されている。しかし、この枠練り透明固形石鹸は、泡立ちや溶解性は改善されるものの、溶け崩れや洗い上がりの感触が十分ではなく、更なる改善が求められていた。
【0006】
また、泡立ちや使用感を改善するために、飽和脂肪酸石鹸、非イオン性界面活性剤等の界面活性剤、糖類および無機塩を用いた枠練り固形石鹸が、例えば特許文献4に記載されている。しかし、この枠練り固形石鹸は、糖類や多価アルコールが多く配合されているので、泡立ちが十分でなく、溶け崩れを生じることがあった。
【0007】
このように、長期間の乾燥工程を必要とせず、しかも使用時に豊かな泡立ちと溶解性に優れ、溶け崩れにくく、洗い上がりの感触および生産性に優れ、十分に満足のできる枠練り固形石けんは未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−254758号公報
【特許文献2】特開2010−180381号公報
【特許文献3】特開2003−82394号公報
【特許文献4】特開2009−13404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、使用時に豊かに泡立ち、また溶解性に優れ、溶け崩れにくく、洗い上がりの感触に優れ、生産性に優れた枠練り固形石けんを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、a.特定の飽和脂肪酸塩、b.ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール、c.水ならびにd.直鎖飽和脂肪酸の各成分を特定の比率で組み合わせて含有させることによって、上記目的を達成できるということを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、a.脂肪酸と塩基とから得られる脂肪酸塩であって、脂肪酸塩を構成する脂肪酸のうち炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の合計量が96質量%以上であり、炭素数12の直鎖飽和脂肪酸が15〜35質量%、炭素数14の直鎖飽和脂肪酸が35〜65質量%、炭素数16の直鎖飽和脂肪酸が5〜25質量%、炭素数18の直鎖飽和脂肪酸が0〜25質量%であり、塩基としてアルカリ金属を成分とするアルカリ剤が含まれ、アルカリ金属がカリウムおよびナトリウムであって、アルカリ剤におけるカリウム/ナトリウムの質量比が1/99〜1/1である脂肪酸塩35〜69.9質量%、b.ジプロピレングリコール(DPG)および/またはプロピレングリコール(PG)15〜40質量%、c.水15〜35質量%、d.炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸0.1〜10質量%を含有し、b成分とc成分の合計量(b+c)が35〜65質量%であり、成分に対するa成分の含有量比(a/c)が1.3〜2.3であり、b成分とc成分の合計量(b+c)に対するa成分の含有量比〔a/(b+c)〕が0.4〜1.8である枠練り固形石けんに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の枠練り固形石けんは、使用時に豊かに泡立ち、また溶解性に優れ、溶け崩れにくく、洗い上がりの感触に優れ、生産性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の枠練り固形石けんは、下記a、b、cおよびdの各成分を含有する。まず、a成分について説明する。
【0013】
〔a.脂肪酸塩〕
本発明に用いられるa成分は、脂肪酸と塩基とを反応させて得られる脂肪酸塩である。
脂肪酸塩を構成する脂肪酸のうち炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の合計量が96質量%以上、好ましくは98〜100質量%である。炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の合計量が96質量%より少ないと起泡性、溶解性および速泡性が低下し、洗浄後の感触も悪くなり、ひび割れも生じやすくなるおそれがある。脂肪酸塩を構成する脂肪酸には、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸を除く他の脂肪酸が含まれていてもよいが、不飽和脂肪酸や分岐脂肪酸を実質的に含まないこと、例えば含有量が1質量%以下であることが好ましい。
【0014】
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数12の直鎖飽和脂肪酸が15〜35質量%、好ましくは20〜30質量%である。炭素数12の直鎖飽和脂肪酸が15質量%より少ないと起泡性、速泡性および溶解性が低下するおそれがあり、35質量%より多いと泡の弾力が低下し、溶け崩れを生じるおそれがある。
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数14の直鎖飽和脂肪酸が35〜65質量%、好ましくは40〜60質量%である。炭素数14の直鎖飽和脂肪酸が35質量%より少ないと起泡性、泡の持続性および泡の弾力が低下するおそれがあり、65質量%より多いと溶解性が低下するおそれがある。
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数16の直鎖飽和脂肪酸が5〜25質量%、好ましくは5〜20質量%である。炭素数16の直鎖飽和脂肪酸が5質量%より少ないと溶け崩れが生じやすくなるおそれがあり、25質量%より多いと速泡性が低下し、ひび割れも生じやすくなる上、洗浄後の感触も悪くなるおそれがある。
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数18の直鎖飽和脂肪酸が0〜25質量%、好ましくは0〜20質量%である。炭素数18の直鎖飽和脂肪酸が25質量%より多いと速泡性が低下し、ひび割れも生じやすくなる上、洗浄後の感触も悪くなるおそれがある。
【0015】
脂肪酸としては、牛脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、ナタネ油、キャノーラ油、ダイズ油、ヒマシ油やこれらの油脂の極度硬化油から得られる脂肪酸、またはそれらを精製して得られる脂肪酸や純度を上げた単体脂肪酸を使用することができ、前述の油脂そのものや脂肪酸メチルエステルも使用することができる。
【0016】
脂肪酸と反応させる塩基としては、アルカリ金属、アンモニウム、またはアルカノールアミンを含有するアルカリ剤が挙げられ、泡立ち、泡質の点からアルカリ金属を成分とするアルカリ剤を含むことが好ましい。アルカリ金属はカリウムおよびナトリウムであって、アルカリ剤におけるカリウム/ナトリウムの質量比は1/99〜1/1であり、好ましくは20/80〜1/1、より好ましくは30/70〜45/55である。カリウム/ナトリウムの質量比が1/99より小さいと溶解性および生産性が低下するおそれがあり、1/1より大きいと洗浄後の感触が悪く、溶け崩れを生じるおそれがある。
アルカリ金属を成分とするアルカリ剤としては、例えば水酸化物、炭酸化物等が挙げられ、水酸化物としては水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられる。
【0017】
本発明の枠練り固形石けんに含有されるa成分の含有量は、35〜69.9質量%であり、好ましくは36〜65質量%、より好ましくは38〜60質量%である。
a成分の含量が35質量%未満では十分な泡立ちが得られない上に、固化に時間がかかり生産性が低下するおそれがあると共に、溶け崩れやすくなるおそれがあり、69.9質量%を超えると溶解性が低下する上、洗い上がりの感触が低下するおそれがある。
【0018】
〔b.ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール〕
本発明に用いられるb成分は、ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコールである。ジプロピレングリコールとプロピレングリコールは、いずれか一方のみを単独で用いてもよく、両方を組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる際の比率としては、ジプロピレングリコール/プロピレングリコールが7/3〜0/10が好ましい。
【0019】
本発明の枠練り固形石けんに含有されるb成分の含有量は、15〜40質量%であり、好ましくは20〜35質量%、より好ましくは22〜32質量%である。b成分の含有量が15質量%未満では石けん成分を溶解できないおそれがあり、固化した際の固化性に劣ったり、洗い上がりの感触に劣り、溶解性が低下するおそれがある。また含有量が40質量%を超えると泡立ちに劣り、溶け崩れやすくなるおそれがある。
【0020】
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数18の直鎖飽和脂肪酸の含有量が少ない場合、例えば10質量%以下である場合には、b成分の含有量の半分以上がプロピレングリコールであり、半分未満がジプロピレングリコールであることが好ましく、反対に、炭素数18の直鎖飽和脂肪酸の含有量が多い場合、例えば10質量%を超える場合には、b成分の含有量の半分未満がプロピレングリコールであり、半分以上がジプロピレングリコールであることが好ましい。
【0021】
〔c.水〕
本発明に用いられるc成分は水である。
本発明の枠練り固形石けんに含有されるc成分の含有量は、15〜35質量%であり、好ましくは18〜34質量%、より好ましくは20〜32質量%である。c成分の含有量が15%質量未満では脂肪酸塩の溶解性が低下し、均一な組成の固形石けんとならないおそれがあり、35質量%を超えると軟らかくなりすぎて生産性が低下し、溶け崩れやすくなるおそれがある。
なお、c成分としての水には、石けん素地などに含有される水分も含まれる。
【0022】
〔d.炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸〕
本発明に用いられるd成分は、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸である。炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸は、いずれかの炭素数の直鎖飽和脂肪酸を単独で用いてもよく、またいずれかを組み合わせて用いても良いが、炭素数12の直鎖飽和脂肪酸または炭素数18の直鎖飽和脂肪酸のいずれか単独で用いるのが好ましい。
炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸としては、牛脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、ナタネ油、キャノーラ油、ダイズ油、ヒマシ油やこれらの油脂の極度硬化油から得られる脂肪酸、またはそれらを精製して得られる脂肪酸や純度を上げた単体脂肪酸を使用することができ、前述の油脂そのものや脂肪酸メチルエステルも使用することができる。
【0023】
本発明の枠練り固形石けんに含有されるd成分の含有量は、0.1〜10質量%であり、好ましくは0.5〜6質量%、より好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1〜4質量%である。d成分の含有量が0.1質量%未満では溶け崩れやすくなり、洗い上がりの感触が劣るおそれがあり、10質量%を超えると泡立ちや溶解性が劣るおそれがある。
【0024】
本発明の枠練り固形石けんは、b成分とc成分の合計量(b+c)が35〜65質量%であり、好ましくは40〜60質量%である。合計量(b+c)が35質量%未満では、泡立ちが低下すると共に、生産時の型枠への流し込み性が低下するおそれがあり、65質量%を越えると溶け崩れやすくなる上、生産性が低下するおそれがある。
また、成分に対するa成分の含有量比(a/c)が1.3〜2.3であり、好ましくは1.4〜1.9である。含有量比(a/c)が1.3未満では溶け崩れやすくなり、生産性が低下するおそれがあり、2.3を超えると石けん成分が十分に溶解せずに不均一になるおそれがある。
さらに、b成分とc成分の合計量(b+c)に対するa成分の含有量比〔a/(b+c)〕が0.4〜1.8であり、好ましくは0.6〜1.5である。含有量比〔a/(b+c)〕が0.4未満では泡立ちや生産時の型枠への流し込み性が低下するおそれがあり、1.8を超えると均一に溶解せずに不均一な状態になったり、生産時の型枠への流し込み性が低下したりするおそれがある。
【0025】
本発明の枠練り固形石けんは、上記a〜d成分に加えて、グリセリンまたはジグリセリンを含有することが好ましい。用いるグリセリンまたはジグリセリンは、動植物から得られるものでも、合成により得られるものでもどちらでも良い。また、グリセリンまたはジグリセリンは、単離したものだけではなく、油脂のけん化の際に生成するものも用いることができる。さらに、グリセリンとジグリセリンを併用してもよい。
グリセリンまたはジグリセリンの含有量は、a〜d成分の全含有量が100質量部に対して、例えば、0.1〜10質量部であり、好ましくは0.3〜8質量部、より好ましくは0.5〜6質量部である。グリセリンまたはジグリセリンをこの程度含有させることにより、使用後のつっぱり感としっとり感がさらに良好となり、成型後の変形や溶け崩れがさらに生じ難くなり、安定性がさらに向上する。
【0026】
本発明の枠練り固形石けんは、上記a〜d成分に加えて、植物油を含有することが好ましい。植物油を含有させることにより、洗いあがりの感触、膜感および溶け崩れの点でさらに良好な効果が得られる。
植物油としては、オリーブ油、マカダミアナッツ油、ヒマシ油、ホホバ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、ヒマワリ油等が挙げられ、好ましくはオリーブ油、ヒマワリ油、マカダミアナッツ油、ホホバ油であり、より好ましくはオリーブ油、ホホバ油およびマカダミアナッツ油であり、これら植物油から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。これらの植物油は、脱酸、脱色、脱臭など通常一般的に行われる精製工程を経たものがより好ましい。
植物油の含有量は、a〜d成分の全含有量が100質量部に対して、例えば、0.1〜5質量部であり、好ましくは0.5〜5質量部である。植物油をこの程度含有させることにより、使用後のつっぱり感と膜感がさらに良好となり、溶け崩れがさらに生じ難くなり、成形性と安定性がさらに向上する。
【0027】
本発明の枠練り固形石けんは、a.特定の脂肪酸塩をb.ジプロピレングリコールまたはプロピレングリコールとc.水とに溶解し、さらにd.特定の直鎖飽和脂肪酸を均一に溶解して得られる石けん膠を従来の枠練り石けんと同様の型枠に流し込んで、冷却および固化することにより成型することができる。本発明の枠練り固形石けんは、長期間の乾燥工程を経ずに、短時間に簡便に製造することができるので、生産性が高い。
【0028】
本発明の枠練り固形石けんは、本発明の効果を損なわない程度に、固形石けんに通常使用される各種の成分を含有していてもよい。例えば、EDTAやエチドロン酸およびそれらの塩等のキレート剤、天然ビタミンE等の酸化防止剤、増粘剤、抗炎症剤、保湿剤、殺菌剤、防腐剤、香料、色素などを含有していてもよい。
なお、本発明の枠練り固形石けんは、色相や臭気の経時安定性の観点から、スクロース、グルコース等の糖類を実質的に含まないことが望ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中、%はいずれも質量基準を意味する。
【0030】
〔実施例1〜7および比較例1〜10〕
表1に示す組成を有する実施例1の固形せっけんを次に示す方法により調製し、実施例2〜7および比較例1〜10についても実施例1と同様の方法で固形せっけんを調製した。
(製造例)
飽和脂肪酸を5L容の双腕式混練機((株)入江商会製、PNV−5型)に入れ約80℃に加熱し、28%水酸化ナトリウム水溶液と28%水酸化カリウム水溶液の混合液を添加して、85℃〜95℃で約5分間撹拌混合した。加熱しながら混合することにより乾燥させて水分量を調節し、おおよそ10%の水分の石けん素地を得た。こうして得られた石けん素地をプロピレングリコール(PG)と水に溶解し、さらに飽和脂肪酸を溶解して均一とした。溶解確認後に、オリーブ油、グリセリン、トコフェロール(天然ビタミンE)およびEDTA・2Na(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)を加えて溶解し、石けん膠を得た。
次に、石けん膠を円筒形の型枠(直径65mm)に流し込み、室温で30℃以下となるまで半日程度放冷して固化させた。固化後、型枠より取り出し、3cm間隔に切断して、7日間トレイの上で石けんを静置して、実施例1の枠練り固形石けんを得た。
得られた枠練り固形石けんの水分をケット法により測定した。また、得られた枠練り固形石けんを以下の方法で評価を行った。
【0031】
(水分測定法)
実施例および比較例の枠練り固形石けんは、PG等の多価アルコールが多量に配合されているので、赤外線水分計で揮発成分をすべて揮発させて、多価アルコールを減じたものを水分とした。
装置:赤外線水分計、FD−240(株式会社ケツト科学研究所)
方法:四分割法(JIS K 3304;1984)で切断した試料をなるべく細かく切り、試料皿に1g程度の試料を乗せ、試料をまんべんなく広げる。次いで、乾燥温度150℃で、揮発分の恒量点まで加熱を続け、恒量となったところで測定値を読みとる。以下の式にて、枠練り固形石けん中の水分量を求めた。
(式) W = T − M
W:水分
T:測定値
M:多価アルコール含量
例えば、実施例1では、T(測定値)が59%であり、M(多価アルコール含量)が33%(PG32%、グリセリン1%)であるから、水分(揮発分)は59%−33%=26%となる。
【0032】
(1)泡立ち
10名の女性(20代〜50代)をパネラーとし、固形石けんを手に取って泡立てた際の泡質について下記の基準に基づき評価した。
2点・・・非常に泡立ちが高いと感じた場合。
1点・・・やや高い泡立ちであると感じた場合。
0点・・・泡立ちが低いと感じた場合。
【0033】
全てのパネラーの合計点から以下のとおり判定した。
14〜20点・・・○(ただし、0点の評価をしたパネラーがいないことを条件とする。):豊かに泡立つ固形石けんである。
7〜13点・・・△:泡立ちが弱い固形石けんである。
0〜6点・・・×:泡立ちがほとんどない固形石けんである。
【0034】
(2)溶解性
10名の女性(20代〜50代)をパネラーとし、固形石けんを手に取って泡立てた際の溶けやすさについて下記の基準に基づき評価した。
2点・・・非常に溶けやすいと感じた場合。
1点・・・やや溶けやすいと感じた場合。
0点・・・溶けにくいと感じた場合。
【0035】
全てのパネラーの合計点から以下のとおり判定した。
14〜20点・・・○(ただし、0点の評価をしたパネラーがいないことを条件とする。):溶解性に優れた固形石けんである。
7〜13点・・・△:溶解性が低い固形石けんである。
0〜6点・・・×:溶解性が極めて低い固形石けんである。
【0036】
(3)溶け崩れ
固形石けん10個を25℃の水中に10分間浸漬させた後、2時間乾燥し、個々の固形石けんの表面状態を目視で観察して下記の基準で評価した。
合格品:表面は軟らかいが内部は硬い状態であり、ほぼ溶け崩れを生じていない。
不合格品:内部まで軟らかくなり、溶け崩れを生じている。
【0037】
合格品の個数から以下の通り判定した。
9〜10個・・・○:溶け崩れにくく良好な固形石けんである。
7〜8個・・・△:やや溶け崩れにくい固形石けんである。
0〜6個・・・×:溶け崩れやすい固形石けんである。
【0038】
(4)洗い上がりの感触
10名の女性(20代〜50代)をパネラーとし、固形せっけんを用いて身体を洗浄した後の洗い上がりの感触について下記の基準に基づき評価した。
2点:肌にすべすべ感があり、しっとりとした感触があると感じた場合。
1点:ややすべすべ感、またはしっとりとした感触があると感じた場合。
0点:すべすべ感やしっとり感が全くないと感じた場合。
【0039】
全てのパネラーの合計点から以下のとおり判定した。
14〜20点・・・○(ただし、0点の評価をしたパネラーがいないことを条件とする。):洗い上がりの感触が優れた固形石けんである。
7〜13点・・・△:洗い上がりの感触がやや良好な固形石けんである。
0〜6点・・・×:洗い上がりの感触がやや良好な不良な固形石けんである。
【0040】
(5)生産性
上記製造例に準じて、容器内で溶解させた石けん膠を型枠に流し込んだ際の流し込みやすさと固化しやすさについて観察して下記の基準で判定した。
合格品(○):容器への付着物がほとんどなく、60分以内で軟らかくなくしっかりと固化する。
不合格品(×):容器への付着が多く、60分後も軟らかくそのままでは形が変わったり、傷がつきやすくて製品化できない、または成分が均一に溶解せず不均一となる。
【0041】
【表1】
【0042】
なお、表のa欄およびd欄中において、C12は炭素数12の直鎖飽和脂肪酸、C14は炭素数14の直鎖飽和脂肪酸、C16は炭素数16の直鎖飽和脂肪酸、C18は炭素数18の直鎖飽和脂肪酸を表し、b欄中のDPGはジプロピレングリコール、BGはブチレングリコールを表す。
【0043】
表1に示す実施例1〜7の結果から、本発明の枠練り固形石けんはいずれも、使用時に豊かに泡立ち、また溶解性に優れ、溶け崩れにくく、洗い上がりの感触に優れ、生産性に優れていることが理解できる。
一方、比較例1〜10では十分な性能が得られていない。
具体的には、比較例1では、a成分の含有量が少なく、b+cの含有量が多く、a/cの質量比が小さいので、泡立ち、溶け崩れ、生産性の点で劣っている。
比較例2では、a成分の含有量が多く、b成分の含有量が少なく、b+cの含有量が少なく、a/cの質量比およびa/(b+c)の質量比が大きいので、洗い上がりの感触、溶解性の点で不十分であり、生産性の点で劣っている。
比較例3では、b成分の含有量が少なく、c成分の含有量が多く、a/cの質量比が小さいので、洗い上がりの感触、溶解性の点で不十分であり、生産性の点で劣っている。
【0044】
比較例4では、a成分の含有量が少なく、b成分の含有量が多く、b+cの含有量が多いので、溶解性、溶け崩れの点で不十分であり、泡立ちの点で劣っている。
比較例5では、b成分の含有量が多く、c成分の含有量が少なく、a/cの質量比が大きいので、溶解性の点で不十分であり、溶け崩れ、生産性の点で劣っている。
比較例6では、a成分の含有量が少なく、c成分の含有量が多く、b+cの含有量が多く、a/cの質量比が小さいので、泡立ち、溶け崩れ、生産性の点で劣っている。
【0045】
比較例7では、b成分の代わりにBG(ブチレングリコール)を含有し、b+cの含有量が少ないので、溶け崩れの点で不十分であり、泡立ち、溶解性、生産性の点で劣っている。
比較例8では、b成分の代わりにスクロースを含有し、b+cの含有量が少ないので、泡立ち、溶解性、溶け崩れ、生産性の点で劣っている。
比較例9では、脂肪酸組成が本発明のものと異なる脂肪酸塩を含有し、b成分の代わりにBGや糖類、エタノールを含有し、d成分を含有せず、b+cの含有量が少なく、a/cの質量比およびa/(b+c)の質量比が大きいので、泡立ち、洗い上がりの感触の点で不十分であり、溶け崩れ、生産性の点で劣っている。
比較例10では、脂肪酸組成が本発明のものと異なる脂肪酸塩を含有し、b成分の代わりにイソプレングリコールや糖類を含有し、d成分を含有せず、b+cの含有量が少ないので、泡立ち、洗い上がりの感触の点で不十分であり、溶け崩れの点で劣っている。