特許第6337514号(P6337514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6337514析出硬化型Fe−Ni合金及びその製造方法
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  • 特許6337514-析出硬化型Fe−Ni合金及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337514
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】析出硬化型Fe−Ni合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/00 20060101AFI20180528BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20180528BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180528BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   C22C30/00
   C22C19/05 L
   C22C38/00 302Z
   C22C38/50
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-39222(P2014-39222)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-4125(P2015-4125A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-106957(P2013-106957)
(32)【優先日】2013年5月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 茉莉
(72)【発明者】
【氏名】植田 茂紀
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−097823(JP,A)
【文献】 特開昭60−013020(JP,A)
【文献】 特開昭58−034129(JP,A)
【文献】 特開昭57−114640(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/060900(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C22C 19/00−19/05
C22C 30/00−30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた析出硬化型Fe−Ni合金。
(1)前記析出硬化型Fe−Ni合金は、
0.04≦C≦0.08mass%、
0.02≦Si≦1.0mass%、
Mn≦1.0mass%、
36.0≦Ni≦41.0mass%、
14.0≦Cr<20.0mass%、
0.01≦Mo≦3.0mass%、
0.1≦Al≦1.0mass%、
1.0≦Ti≦2.5mass%、及び、
2.0≦Nb≦3.5mass%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
(2)前記析出硬化型Fe−Ni合金は、次の(1)式及び(2)式を満たす。
Ni≧6×Nb+17 ・・・(1)
Nb/(Ti+Al)≧0.8 ・・・(2)
【請求項2】
0.0005≦B≦0.01mass%
をさらに含む請求項1に記載の析出硬化型Fe−Ni合金。
【請求項3】
0.05≦Cu≦1.0mass%
をさらに含む請求項1又は2に記載の析出硬化型Fe−Ni合金。
【請求項4】
0.05≦V≦1.0mass%
をさらに含む請求項1から3までのいずれか1項に記載の析出硬化型Fe−Ni合金。
【請求項5】
0.001≦(Zr、Ta、W、Hf、Mg、REM)≦0.50mass%
をさらに含む請求項1から4までのいずれか1項に記載の析出硬化型Fe−Ni合金。
但し、上式の中央部は、かっこ内の元素の総量を表す。
【請求項6】
0.0005≦Ca≦0.01mass%
をさらに含む請求項1から5までのいずれか1項に記載の析出硬化型Fe−Ni合金。
【請求項7】
次の(3)式をさらに満たす請求項1から6までのいずれか1項に記載の析出硬化型Fe−Ni合金。
Cr+3Mo+5Cu≧19 ・・・(3)
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の組成となるように配合された原料を溶解し、鋳造する溶解鋳造工程と、
前記溶解鋳造工程で得られた鋳塊を熱間加工する熱間加工工程と、
前記熱間加工工程で得られた材料を所定の温度で加熱する固溶化熱処理工程と
を備え、
前記固溶化熱処理後の炭化物の面積率が0.4%以上である
析出硬化型Fe−Ni合金の製造方法。
【請求項9】
前記固溶化熱処理工程で得られた材料を所定の温度で時効処理する時効処理工程をさらに備え、
常温での0.2%耐力が900MPa以上である請求項8に記載の析出硬化型Fe−Ni合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出硬化型Fe−Ni合金及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、強度が高く、かつ耐食性に優れた析出硬化型Fe−Ni合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
析出硬化型ステンレス鋼は、Cu、Al、Ti、Nb、Moなどの元素を添加して析出硬化させた鋼であり、高耐食性と高強度とを併せ持つ。特に、A286合金(SUH660)に代表されるオーステナイト系析出硬化型ステンレス鋼は、Fe基合金の中でも耐食性、強度とも優れた合金である。しかし、海洋環境で高強度を必要とする部材として使用するには、耐食性及び強度ともに不十分である。
【0003】
一方、Fe−Ni合金において、Ti、Al、Nbが添加された合金が従来より提案されている。
例えば、特許文献1(実施例1)には、重量%で、C:0.027%、Mn:0.08%、Si:0.10%、P:0.001%、S:0.005%、Cr:15.81%、Ni:39.89、Nb:2.83%、Ti:1.61%、Al:0.3%、B:0.0041%を含み、残部がFe及び不純物からなるニッケル−鉄基合金が開示されている。
【0004】
特許文献2(No.1)には、重量%で、C:0.017%、Si:0.15%、Mn:0.14%、P:0.010%、S:0.003%、Ni:40.32%、Cr:16.20%、Mo:1.02%、Al:0.25%、Ti:0.95%、Nb:2.71%を含み、残部がFe及び不純物からなるNi基合金が開示されている。
同文献には、このような組成にすることによって、常温から極低温まで高強度を有すると共に、HAZ割れを抑制できる点が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3(合金#7)には、重量%で、Ni:44.2%、Cr:19.5%、Mo:3.4%、Cu:2.0%、C:0.006%、Al:0.3%、Nb:3.8%、Ti:1.6%、残部Feからなる高強度耐食性合金が開示されている。
同文献には、アニーリング及び時効処理により所定量のγ’相及びγ”相を析出させることによって、高強度が得られる点が記載されている。
【0006】
特許文献1は、Mo、Cuが未添加であり、耐食性が不十分である。特許文献2は、Ni、Nb、Ti、Alのバランスにより、強度が不十分である。特許文献3は、Ni、Nbが高く、原料コスト及び製造コストが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭47−042414号公報
【特許文献2】特開平03−097823号公報
【特許文献3】特表2009−515053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、高耐食性及び高硬度を兼備した析出硬化型Fe−Ni合金及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る析出硬化型Fe−Ni合金は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記析出硬化型Fe−Ni合金は、
0.04≦C≦0.08mass%、
0.02≦Si≦1.0mass%、
Mn≦1.0mass%、
36.0≦Ni≦41.0mass%、
14.0≦Cr<20.0mass%、
0.01≦Mo≦3.0mass%、
0.1≦Al≦1.0mass%、
1.0≦Ti≦2.5mass%、及び、
2.0≦Nb≦3.5mass%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
(2)前記析出硬化型Fe−Ni合金は、次の(1)式及び(2)式を満たす。
Ni≧6×Nb+17 ・・・(1)
Nb/(Ti+Al)≧0.8 ・・・(2)
【0010】
析出硬化型Fe−Ni合金は、次の(3)式をさらに満たすものが好ましい。
Cr+3Mo+5Cu≧19 ・・・(3)
本発明に係る析出効果型Fe−Ni合金の製造方法は、
本発明に係る析出効果型Fe−Ni基合金の組成となるように配合された原料を溶解し、鋳造する溶解鋳造工程と、
前記溶解鋳造工程で得られた鋳塊を熱間加工する熱間加工工程と、
前記熱間加工工程で得られた材料を所定の温度で加熱する固溶化熱処理工程と
を備え、
前記固溶化熱処理後の炭化物の面積率が0.4%以上である
ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
析出硬化型Fe−Ni合金に所定量のNb、Al及びTiを添加すると、固溶化熱処理及び時効処理により、Nbを構成元素として含むγ’相(Ni3(Al、Ti、Nb))及びγ”相(Ni3Nb)が析出する。
この時、(2)式を満たすようにNb含有量を最適化すると、γ”相の析出量が増加する。そのため、従来の合金に比べて、高強度を得ることができる。
【0012】
一方、Nb添加量が多くなるほど、固溶化熱処理後にLaves相(Fe2Nb)が残存しやすくなる。Laves相が多量に残存すると、析出硬化に必要なマトリックス中のNb量が減少する。その結果、時効処理を行っても必要な硬さが得られない。
これに対し、(1)式を満たすようにNi含有量を最適化すると、固溶化熱処理後におけるLaves相の残存を抑制することができる。
【0013】
さらに、析出硬化型Fe−Ni合金に対して、所定量のCr及びMo、あるいは、これらに加えてCuを添加すると、高強度を維持したまま、高い耐食性が得られる。特に、(3)式を満たすようにCr、Mo及びCuの含有量を最適化すると、高い耐食性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例5及び比較例4で得られた固溶化熱処理後の材料の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 析出硬化型Fe−Ni合金]
[1.1. 主構成元素]
本発明に係る析出硬化型Fe−Ni合金は、以下のような元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0016】
(1)0.01≦C≦0.08mass%:
Cは、Nb及びTiと共に炭化物を形成し、強度を高めるために有効な元素である。また、炭化物形成により、固溶化熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制する。このような効果を得るためには、C含有量は、0.01mass%以上である必要がある。C含有量は、さらに好ましくは、0.04mass%以上である。
一方、C含有量が過剰になると、靱延性が低下する。また、多量の炭化物が生成すると、耐食性が著しく低下する。靱延性及び耐食性の低下を抑制するためには、C含有量は、0.08mass%以下である必要がある。
【0017】
(2)0.02≦Si≦1.0mass%:
Siは、溶製時の脱酸元素として有効である。このような効果を得るためには、Si含有量は、0.02mass%以上である必要がある。
一方、Si含有量が過剰になると、靱性が低下する。従って、Si含有量は、1.0mass%以下である必要がある。
【0018】
(3)Mn≦1.0mass%:
Mnは、Siと同様に溶製時の脱酸元素として有効である。しかし、多量に添加すると、高温における耐酸化性を低下させる。また、過剰のMnは、耐食性も低下させる。従って、Mn含有量は、1.0mass%以下である必要がある。
【0019】
(4)36.0≦Ni≦41.0mass%:
Niは、オーステナイト生成元素として必須である。また、時効処理により、Ti、Al、Nbと共にγ’相(Ni3(Al、Ti、Nb))及びγ”相(Ni3Nb)を析出することで合金を時効硬化させる。このような効果を得るためには、Ni含有量は、36.0mass%以上である必要がある。Ni含有量は、さらに好ましくは、37.0mass%以上である。
一方、Ni含有量が過剰になると、原料コストが上昇する。従って、Ni含有量は、41.0mass%以下である必要がある。Ni含有量は、さらに好ましくは、40mass%以下、さらに好ましくは、39.0mass%以下である。
【0020】
(5)14.0≦Cr<20.0mass%:
Crは、析出硬化型Fe−Ni合金の耐食性を向上させるのに不可欠な成分である。このような効果を得るためには、Cr含有量は、14.0mass%以上である必要がある。
しかし、Crは、フェライト形成元素であり、Cr含有量が過剰になると組織安定性が低下する。また、過剰のCrは、熱間加工性を低下させる。従って、Cr含有量は、20.0mass%未満である必要がある。Cr含有量は、さらに好ましくは、18mass%以下、さらに好ましくは、17.0mass%以下である。
【0021】
(6)0.01≦Mo≦3.0mass%:
Moは、母相中に固溶することにより、耐食性(特に、耐孔食性)を向上させる。このような効果を得るためには、Mo含有量は、0.01mass%以上である必要がある。
一方、Mo含有量が過剰になると、時効処理時にLaves相(Fe2(Mo、Nb))が析出し、γ’相及びγ”相の析出量が減少する。その結果、合金の強度が低下する。従って、Mo含有量は、3.0mass%以下である必要がある。
【0022】
(7)0.1≦Al≦1.0mass%:
Alは、Ni、Ti、Nbと共にγ’相(Ni3(Al、Ti、Nb))を析出することで合金を時効硬化させる。このような効果を得るためには、Al含有量は、0.1mass%以上である必要がある。
一方、Al含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、Al含有量は、1.0mass%以下である必要がある。
【0023】
(8)1.0≦Ti≦2.5mass%:
Tiは、Ni、Al、Nbと共にγ’相(Ni3(Al、Ti、Nb))を析出することで合金を時効硬化させる。このような効果を得るためには、Ti含有量は、1.0mass%以上である必要がある。Ti含有量は、好ましくは、1.5mass%以上、さらに好ましくは、1.8mass%以上である。
一方、Ti含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、Ti含有量は、2.5mass%以下である必要がある。
【0024】
(9)2.0≦Nb≦3.5mass%:
Nbは、Niと共にγ’相(Ni3(Al,Ti,Nb))及びγ”相(Ni3Nb)を析出することで合金を時効硬化させる。このような効果を得るためには、Nb含有量は、2.0mass%以上である必要がある。
一方、Nb含有量が過剰になると、固溶化熱処理後に粗大なLaves相が残存し、γ’相及びγ”相の析出量が減少する。その結果、求める強度、硬さが得られない。従って、Nb含有量は、3.5mass%以下である必要がある。Nb含有量は、さらに好ましくは、3.0mass%以下である。
【0025】
[1.2. 副構成元素]
本発明に係る析出硬化型Fe−Ni合金は、上述した主構成元素に加えて、以下の1種又は2種以上の副構成元素をさらに含んでいてもよい。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0026】
(10)0.0005≦B≦0.01mass%:
Bは、少量添加することにより熱間加工性を向上させる効果がある。また、Bが粒界に存在することで、粒界におけるη相の析出を抑制することができる。このような効果を得るためには、B含有量は、0.0005mass%以上が好ましい。
一方、B含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、B含有量は、0.01mass%以下が好ましい。
【0027】
(11)0.05≦Cu≦1.0mass%:
Cuは、非酸化性腐食環境における耐食性を向上させる効果がある。このような効果を得るためには、Cu含有量は、0.05mass%以上が好ましい。
一方、Cu含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、Cu含有量は、1.0mass%以下が好ましい。
【0028】
(12)0.05≦V≦1.0mass%:
Vは、Nb、Tiと同様に炭化物を形成し、強度を高める。また、炭化物中のNbの割合を減らすことで、より強度に影響を与えるγ’相及びγ”相の析出量を増加させる。このような効果を得るためには、V含有量は、0.05mass%以上が好ましい。
一方、V含有量が過剰になると、靱性や加工性が低下する。従って、V含有量は、1.0mass%以下が好ましい。
【0029】
(13)0.001≦(Zr、Ta、W、Hf、Mg、REM)≦0.50mass%:
Zr、Ta、W、Hf、Mg及びREMは、いずれも、炭化物の微細化や結晶粒の微細化に効果がある。このような効果を得るためには、これらの元素の総含有量は、0.001mass%以上が好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になると、靱性が低下する。従って、これらの元素の総含有量は、0.50mass%以下が好ましい。
なお、これらの元素は、いずれか1種を添加しても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0030】
(14)0.0005≦Ca≦0.01mass%:
Caは、被削性を改善する。このような効果を得るためには、Ca含有量は、0.0005mass%以上が好ましい。
一方、Ca含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、Ca含有量は、0.01mass%以下が好ましい。
【0031】
[1.3. 成分バランス]
本発明に係る析出硬化型ステンレス鋼は、成分元素が上述の範囲にあることに加えて、さらに次の(1)式及び(2)式を満たしている必要がある。
また、高い耐食性を得るためには、析出硬化型ステンレス鋼は、さらに次の(3)式を満たしているのが好ましい。
Ni≧6×Nb+17 ・・・(1)
Nb/(Ti+Al)≧0.8 ・・・(2)
Cr+3Mo+5Cu≧19 ・・・(3)
【0032】
[1.3.1. (1)式]
(1)式は、固溶化熱処理後のLaves相の量と関係がある。(1)式を満たすようにNi量及びNb量を最適化すると、固溶化熱処理後にLaves相(Fe2Nb)を完全に固溶させることができる。その結果、時効処理時のγ’相及びγ”相の析出量が増加し、これによって合金の強度が向上する。
(1)式は、さらに好ましくは、Ni≧6×Nb+18.0、さらに好ましくは、Ni≧6×Nb+20.0である。
【0033】
[1.3.2. (2)式]
(2)式は、時効処理時のγ”相の量と関係がある。(2)式を満たすように、Nb、Ti及びAlの量を最適化すると、γ”相の析出量が増加し、これによって合金の強度がさらに向上する。
【0034】
[1.3.3. (3)式]
(3)式は、析出硬化型Fe−Ni合金の耐食性と関係がある。Cr、Mo及びCuは、いずれも析出硬化型Fe−Ni合金の耐食性を向上させる効果がある。特に、(3)式を満たすようにこれらの元素の含有量を最適化すると、高い強度を維持しながら、高い耐食性を示す。
【0035】
[1.4. 0.2%耐力]
上述したように各成分を最適化し、かつ、適切な固溶化熱処理を施すと、Laves相がマトリックス中にほぼ完全に固溶する。このような材料に対して適切な時効処理を施すと、多量のγ’相及びγ”相が析出する。その結果、常温での0.2%耐力は、850MPa以上となる。成分及び熱処理条件をさらに最適化すると、常温での0.2%耐力は、900MPa以上、あるいは、950MPa以上となる。
【0036】
[1.5. 炭化物の面積率]
本発明に係る析出硬化型Fe−Ni合金は、固溶化熱処理後の炭化物の面積率が0.4%以上であるものが好ましい。固溶加熱処理時において、マトリックス中に所定量の炭化物が分散していると、結晶粒の粗大化を抑制することができる。
ここで、「炭化物の面積率」とは、断面ミクロ組織(0.034mm2×30視野)の総面積に対する炭化物の面積の割合をいう。
【0037】
[2. 析出硬化型Fe−Ni合金の製造方法]
本発明に係る析出硬化型Fe−Ni合金の製造方法は、溶解鋳造工程と、熱間加工工程と、固溶化熱処理工程と、時効処理工程とを備えている。
【0038】
[2.1. 溶解鋳造工程]
溶解鋳造工程は、所定の成分に配合された原料を溶解し、鋳造する工程である。溶解方法及び鋳造方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法を用いることができる。
【0039】
[2.2. 熱間加工工程]
熱間加工工程は、溶解鋳造工程で得られた鋳塊を熱間加工する工程である。熱間加工は、鋳造組織や鋳造欠陥を破壊するために行われる。熱間加工条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
【0040】
[2.3. 固溶化熱処理工程]
固溶化熱処理工程は、熱間加工された材料を所定の温度で加熱する工程である。
固溶化熱処理は、主として鋼中に分散している析出物を固溶させるために行われる。熱処理温度が低すぎると、析出物の固溶が不十分となる。熱処理温度は、900℃以上が好ましい。
一方、熱処理温度が高すぎると、結晶粒が粗大化する。熱処理温度は、1200℃以下が好ましい。
熱処理時間は、析出物が固溶する時間であれば良い。最適な熱処理時間は、熱処理温度によって異なるが、通常、30分〜2時間程度である。熱処理後、材料を急冷する。
【0041】
[2.4. 時効処理工程]
時効処理工程は、固溶化熱処理後の材料を所定の温度で時効処理する工程である。
時効処理温度が高すぎる場合及び低すぎる場合のいずれも、目的の析出物が析出せず、時効硬化させることができない。時効処理温度は、600℃以上750℃以下が好ましい。
時効処理温度は、十分な量の析出物が析出する時間であれば良い。最適な時効処理時間は、時効処理温度により異なるが、通常、8〜24時間程度である。
【0042】
[3. 作用]
析出硬化型Fe−Ni合金に所定量のNbを添加すると、固溶化熱処理及び時効処理により、Nbを構成元素として含むγ’相(Ni3(Al、Ti、Nb))及びγ”相(Ni3Nb)が析出する。
この時、(2)式を満たすようにNb含有量を最適化すると、γ”相の析出量が増加する。そのため、従来の合金に比べて、高強度を得ることができる。
【0043】
一方、Nb添加量が多くなるほど、固溶化熱処理後にLaves相(Fe2Nb)が残存しやすくなる。Laves相が多量に残存すると、析出硬化に必要なマトリックス中のNb量が減少する。その結果、時効処理を行っても必要な硬さが得られない。
これに対し、(1)式を満たすようにNi含有量を最適化すると、固溶化熱処理後におけるLaves相の残存を抑制することができる。
【0044】
さらに、析出硬化型Fe−Ni合金に対して、所定量のCr及びMo、あるいは、これらに加えてCuを添加すると、高強度を維持したまま、高い耐食性が得られる。特に、(3)式を満たすようにCr、Mo及びCuの含有量を最適化すると、高い耐食性が得られる。
【実施例】
【0045】
(実施例1〜37、比較例1〜4、参考例5)
[1. 試料の作製]
表1及び表2に示す種々の成分を有する鋼を溶製した後、冷却して鋳塊を作製した。鋳塊は、熱間加工した後、固溶化処理及び時効処理により調質した。
固溶化熱処理温度は、900〜1200℃とした。また、時効処理温度は、600〜750℃とした。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
[2. 試験方法]
[2.1. 引張試験]
時効処理後の材料からJIS4号試験片を切り出した。室温で引張試験を行い、引張強度及び0.2%耐力を評価した。
[2.2. 耐食性試験]
耐食性は、10%、80℃塩酸、6h浸漬における腐食度にて評価した。腐食度が100g/m2/h以下の場合を「◎」、100g/m2/h超〜200g/m2/h以下の場合を「○」、200g/m2/h超の場合を「×」とした。
[2.3. 炭化物面積率]
炭化物の定量化は、画像解析ソフトを用いて、400倍ミクロ組織写真(1視野:0.034mm2)を30視野にて面積率を測定した。
【0049】
[3. 結果]
表3に結果を示す。表3より、以下のことがわかる。
(1)比較例1(A286合金相当)は、引張強度、0.2%耐力が低い。これは、Nbが添加されておらず、γ”相が析出しないためである。また、比較例1は、耐食性が低い。これは、Ni量が少ないためである。
(2)比較例2は、0.2%耐力がやや低い。これは、Ni含有量が少ないために、十分な量のγ”相が得られないためである。また、比較例2は、耐食性が低い。これは、Ni量が少ないためである。
(3)比較例3は、0.2%耐力がやや低い。これは、Nb/(Ti+Al)−0.8が低いために、十分な量のγ”相が得られないためである。
(4)比較例4は、0.2%耐力がやや低い。これは、Ni−(6×Nb+17)が低いために、固溶化熱処理後に粗大なLaves相が残存する。その結果、マトリックス中のNb量が減少し、時効処理時のγ’相及びγ”相の析出量が減少するためである。
(5)参考例5は、0.2%耐力がやや低い。これは、炭化物面積率が小さい、つまり、固溶化熱処理時に結晶粒粗大化を抑制する炭化物が少ないことにより、結晶粒が粗大化したためである。
【0050】
(6)実施例1〜37は、いずれも0.2%耐力が850MPaを超えており、かつ、良好な耐食性を示した。
(7)実施例の中でも、(3)式を満たす材料は、特に耐食性が高い。
【0051】
【表3】
【0052】
図1に、実施例5及び比較例4で得られた固溶化熱処理後の材料の光学顕微鏡写真を示す。図1より、比較例4は、炭化物の他にLaves相が認められるのに対し、実施例5は、Laves相が認められないことがわかる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る析出硬化型Fe−Ni合金は、掘削用部材、自動車エンジン部品、火力発電プラント部材などに用いることができる。
図1