【実施例】
【0016】
図1〜
図7に実施例を示す。2は天井走行車で、スタッカークレーン、無人搬送車等の走行台車でも良く、1輪あるいは複数輪の中実で合成樹脂製の走行車輪で走行するものが、走行車輪の劣化検出の対象として好ましい。4はレールで、例えばクリーンルームの天井走行車に設けられている。レール4内に、天井走行車2は前後一対の台車ユニット6,6を備え、台車ユニット6,6間に駆動輪ユニット8が配置されている。10は天井走行車2の本体部である。
【0017】
駆動輪ユニット8は、駆動輪である走行車輪12と走行モータ14とを備え、前後両端を台車ユニット6,6に鉛直軸回りに回動自在に支持され、付勢部16により所定の接圧でレール4の踏面50に接するように加圧されている。走行車輪12は中実なウレタンゴムの車輪で、踏面50との摩擦力により、天井走行車2を走行させる。台車ユニット6,6は従動輪20と、分岐と直進の切替用のガイドローラ22,24を備えている。また台車ユニット6,6は受電ユニット28を備え、クロスローラベアリング30,30により、本体部10を支持している。なお走行車輪は、上面ではなく、底面がレールと接するものでも良い。
【0018】
天井走行車2はリニアセンサ32を備えて、レール4に設置された磁気マークを読み取り、天井走行車2の絶対位置を検出する。また走行モータ14の図示しないエンコーダにより、走行車輪12の回転数を検出する。さらに図示しない通信ユニットにより、地上側コントローラと通信する。本体部10はラテラルユニット34を備えて、θユニット36とホイスト38を走行方向に水平面内で直角に横移動させ、θユニット36はホイスト38を鉛直軸回りに回動させ、ホイスト38は、チャック41を備えるハンド40を昇降させる。レール4は踏面50,51を備え、リッツ線ホルダ52,52によりリッツ線を支持し、受電ユニット28に非接触で給電する。
【0019】
図2に走行車輪の劣化検出システム60を示し、走行モータ14から出力トルクの信号とエンコーダ信号とを取り出し、エンコーダ信号とリニアセンサの信号との差分を差分部61で求めることにより、スリップ速度を求める。なおリニアセンサの信号に変えて、従動輪に取り付けたエンコーダの信号等を用いても良い。またトルクは、走行モータ14の駆動電流等から求めることができる。
【0020】
トルクとスリップ速度とのペアのデータに対し、
図3に示すように異常領域が定義され、正常/異常の判定では、これ以外に、
図4のラインL1,L2の傾き、特にラインL1の傾きも有効である。そこで抽出部62は、トルクとスリップ速度とのペアが異常領域に有る異常データを検出すると、一時メモリ64にその個数をカウントする。例えば1回の加速、定速走行、減速、停止のサイクルの中で、1回でも異常領域を通過するとそのサイクルを異常とし、1日当たりの異常なサイクルの個数を一時メモリ64に記憶する。また
図4のラインL1,L2の傾きを求めるため、トルクの値毎にスリップ速度の大きさの最大値を記憶する。この最大値を例えばトルクが負の領域で接続すると、
図4のラインL1に対応する傾きと切片が得られ、トルクが正の領域で接続すると、ラインL2に対応する傾きと切片が得られる。記憶部66は、例えば1月毎に、1日当たりの異常データ(異常サイクル)の個数の最大値と、1月内での、トルクの値毎のスリップ速度の大きさの最大値とを記憶する。
【0021】
レールにグリスが付着している等の、走行車輪の状態とは無関係なトラブルがあると、トルクとスリップ速度の軌跡が
図3〜
図5に示したものから著しく変化し、異質な軌跡となる。そこで抽出部64は、1サイクル分の軌跡の概形を検査した上で、妥当な概形の軌跡のみを処理するようにしても良い。
【0022】
1回の異常データの検出で劣化と判定しないのは、ノイズを避けるためであり、1日当たりの異常データの最大数は1週間当たりでも良く、また1月での異常データの個数の総数等でも良い。傾きと勾配のデータ、あるいは傾きのデータを抽出するのは、正常/異常の判定の参考にするためで、メモリ66の容量に余裕があれば、異常データに対する
図4の波形自体を記憶しても良い。正常/異常の判定に特に有効なのは、減速時の領域A,B、特に領域Aである。
【0023】
走行車輪の寿命は数年程度で、使用状況により、特にカーブ走行の回数により、寿命は変動する。このため例えば1週間〜3か月毎に走行車輪の正常/異常を判定すれば良く、例えばメンテナンス用のエリアに天井走行車が到着した際に、入出力68から記憶部66のデータを読み出し、統計処理部82あるいは診断部84を備えるパーソナルコンピュータ80と、モニタ81とにより、走行車輪の異常を検出する。なおパーソナルコンピュータに代えて、他のコンピュータを用いても良い。
【0024】
統計処理部82を用い、作業者がモニタ81の表示から視覚的に正常/異常を判定しても良い。この場合、統計処理部82により、1月毎の異常データの最大値の推移、ラインL1,L2に対応する傾き等の推移を、モニタ81,走行車輪が新品であった時から例えば現在まで表示する。またシステム60が自ら正常/異常を判定する場合、これらのデータを診断部84で評価し、正常/異常を判定する。これ以外に天井走行車が、走行車輪の正常/異常を自己診断しても良く、例えば診断部84と同様の自己診断部70を天井走行車内に設け、異常と判定すると地上側コントローラに報告しても良い。
【0025】
図3は正常な走行車輪でのトルクとスリップ速度との軌跡を5サイクル分示し、
図4は劣化した走行車輪での同様の軌跡を示す。なお
図3,
図4で走行車輪の接圧は同じにしてあり、軌跡の向きを
図3,
図4の矢印で示す。
図3,
図4の明らかな違いは、スリップ速度に対するトルクの傾きが、劣化により小さくなることである。なお正常な走行車輪でも、接圧によっては加速時のスリップ速度の最大値が領域C側に接近する例があった。このため異常の検出に、減速時に領域A,Bあるいは領域Aを通過したか否かを用いると、検出の信頼性が増す。
【0026】
走行車輪は最初は正常であり、その時点で
図3に類似の軌跡が多数得られる。そこで正常な軌跡の分布から外れる領域を異常領域とし、たとえ
図3の領域A,B,Cを異常領域として用いることができ、異常領域A,Bを用いることが好ましく、異常領域Aを用いることが最も好ましい。また
走行車輪の劣化の特徴は、ラインL1,L2の傾きが低下すること、特にラインL1の傾きが低下することで、判定時にこれらの傾きを抽出し、初期値と比較すると、正常/異常の判定が容易になる。
【0027】
トルクとスリップ速度の軌跡は走行車輪の接圧により変化し、接圧を低下させると、
図5のように軌跡が変化する。なお
図5では、実用上考えられる範囲全体に渡り、接圧を変化させ、車輪は劣化が進んだものである。そこで走行車輪が新しいときに、
図3の軌跡を学習し、これに基づいて異常領域A等を定義すると共に、ラインL1あるいはその傾き等を記憶することが好ましい。
【0028】
図6は正常/異常の判定のための初期設定を示し、走行車輪の交換時の、あるいは新しい天井走行車をレールにセットする際の処理である(ステップ1)。ステップ2で、トルクとスリップ速度の軌跡を測定し、ステップ3で異常領域A等を定義し、ラインL1,L2あるいはラインL1の初期値、もしくはラインL1の傾き等を記憶する。
【0029】
図7は走行車輪の劣化検出(正常/異常の判定)を示し、ステップ11で異常領域を通過するサイクルを検出し、ステップ12で、トルク毎のスリップ速度の大きさの最大値を抽出することにより、ラインL1,L2あるいはラインL1で傾きが最小となるものを抽出する。ステップ13で、1日に異常領域を通過した軌跡の数を求め、1月内でのその最大値を記憶する。またラインL1,L2あるいはラインL1の傾きの1月内での最小値を記憶する。
【0030】
天井走行車がメンテナンス用のエリアに到着した際等に、記憶部のデータを読み出し(ステップ14)、正常と異常とを判定し、異常であれば走行車輪を交換し、
図6の手続を実行する(ステップ15)。
【0031】
図8,
図9は劣化した走行車輪でのトルクとスリップ率を示し、
図8は時間に対するこれらの波形を示し、
図9はトルクとスリップ率の軌跡を示し、
図9の軌跡は特許文献1に記載されている軌跡とは全く異なる。
図8,
図9には走行車輪の劣化を判定し得るような特徴は見当たらず、またここでは示さないが正常な走行車輪でも
図9と類似の軌跡が得られた。特許文献1は、減圧のため前輪と後輪とで車輪の径が異なる状況を検出していると考えられ、その場合、スリップ率が変化すると考えるのは合理的である。この発明では、走行車輪の摩耗による表面の粗面化がスリップ速度にどのように影響するかを検討しており、これをトルクとの関係で抽出する。