(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、以下の実施形態で説明される寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は任意であり、本発明が適用される装置の構造又は様々な条件に応じて変更される。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に説明される実施形態で具体的に記載された形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0013】
[第1実施形態]
<形状測定装置の構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係る形状測定装置100のブロック図である。
【0014】
形状測定装置100は、光周波数コムレーザ装置110、レンズ120、演算処理装置130、及び位置調整器140を備える。形状測定装置100は、光周波数コムレーザ装置110からレンズ120を通じて測定対象物であるワーク150に光周波数コムを照射し、その反射光を基にワーク150までの距離を測定する。ここで、光周波数コムは、レーザ光源の周波数ν
0を中心に所定の周波数(発振器の変調周波数)間隔を有する複数の離散的な周波数成分(「周波数モード」又は単に「モード」)を有するパルス光である。なお、形状測定装置100は、レンズ120を備えていなくてもよい。
【0015】
光周波数コムレーザ装置110は、レーザ光源111、ビームスプリッタ112a、112c、偏光ビームスプリッタ112b、112d、第1及び第2の光周波数コム発生器(OFCG)113a、113b、周波数シフタ114、波長板115、参照面116、偏光子117a、117b、第1及び第2の検出器118a、118b、及び高速フーリエ変換(FFT)部119a、119bを備える。
【0016】
レーザ光源111は、単一の周波数ν
0のレーザ光をビームスプリッタ112aに向けて出射する。例えば、周波数ν
0は2.5THzである。レーザ光源111からのレーザ光は、ビームスプリッタ112aにより第1のOFCG113aと周波数シフタ114に向けて分離される。
【0017】
第1の光発生器としてのOFCG113aは、電気光学変換器(EOM)及び該EOMを挟むように対向して配置された反射鏡等から構成され、外部の発振器113cから変調周波数f
m1の変調信号を受けて、第1の繰り返し周波数f
m1のモードを有する光周波数コム(第1の光としての「測定光Ps」)を発生する。発振器113cの変調周波数f
m1を調整することにより、第1のOFCG113aから出射される測定光Psのモード間の周波数間隔f
m1を調整することができる。例えば、f
m1は25GHzである。
【0018】
同様に、第2の光発生器としてのOFCG113bは、EOM及び該EOMを挟むように対向して配置された反射鏡等から構成され、外部の発振器113dから変調周波数f
m2の変調信号を受けて、第2の繰り返し周波数f
m2のモードを有する光周波数コム(第2の光としての「参照光Pr」)を発生する。f
m2は、f
m2=f
m1+Δfであり、Δfはf
m1及びf
m2に比べて十分に小さい値であり、例えば500kHzである。また、発振器113c、113dは共通の基準発振器(不図示)により位相同期されており、変調周波数f
m1とf
m2との間の相対周波数は安定している。これにより、互いに測定光Psと参照光Psとの干渉性が良くなり、繰り返し周波数が安定し、短いパルス幅の生成等を可能にする。
【0019】
なお、第1及び第2のOFCG113a、113bは、LiNbO
3、ADP(リン酸二水素アンモニウム)、KDP(リン酸二水素カリウム)等の非線形結晶を用いた位相変調器、強度変調器、半導体の吸収や位相の変化を利用する変調器等であってもよい。
【0020】
周波数シフタ114は、例えば音響光学変調器(Acousto-Optic modulator)であり、発振器114aからの変調信号で動作し、レーザ光源111からのレーザ光の周波数を変調周波数f
αだけシフトさせて第2のOFCG113bに出射する。周波数シフタ114で第2のOFCG113bに入射される光の周波数をシフトさせることにより、検出器118a、118bにおける測定光Ps及び参照光Pr間の干渉光Piのビート周波数が、直流信号ではなく周波数f
αの交流信号となり、位相比較を容易にする。
【0021】
波長板115は、1/2波長板であり、第2のOFCG113bからの参照光Prの偏光方向を調整する。偏光ビームスプリッタ112bは、測定光Psと参照光Prとを直交する偏光で重ね合わせた混合光Pi
1としてビームスプリッタ112cに出射する。ビームスプリッタ112cは、混合光Pi
1を偏光子117a及び偏光ビームスプリッタ112dに向けて分離する。
【0022】
偏光ビームスプリッタ112dは、ビームスプリッタ112cからの混合光Pi
1を偏光に応じて測定光Psと参照光Prとに分離し、測定光Psをワーク150に出射し、参照光Prを参照面116に出射する。また、偏光ビームスプリッタ112dは、ワーク150から反射された測定光Psと参照面116から反射された参照光Prとを混合した混合光Pi
2をビームスプリッタ112cに戻す。参照面116は、光を反射する面であり、例えば鏡面である。
【0023】
偏光ビームスプリッタ112cからの混合光Pi
1中の測定光Psの偏光と参照光Prの偏光とが互いに直交しているため、偏光子117aは、両偏光に対して斜めになるように向きを調整して配置される。そのため、検出器118aは、測定光Psと参照光Prとの干渉光を検出する。
【0024】
同様に、偏光ビームスプリッタ112cからの混合光Pi
2中の測定光Psの偏光と参照光Prの偏光とが互いに直交しているため、偏光子117bは、両偏光に対して斜めになるように向きを調整して配置される。そのため、検出器118bは、ワーク150から反射されてくる測定光Psと参照面116から反射されてくる参照光Prとの干渉光を検出する。
【0025】
検出器118aは、偏光子117aから測定光Psと参照光Prとの干渉光を入射し、それに応じた干渉信号を出力する。検出器118aは、第1のOFCG113aで発生する測定光Ps及びOFCG113bで発生する参照光Prの発生過程における基準位相を求めるための検出器である。
【0026】
ここで、
図2Bに示すように、検出器118a(又は検出器118b)における測定光Psと参照光Prとは互いに繰り返し周波数が異なるので、必ずどこかで測定光Psのパルスと参照光Prのパルスとが重なる瞬間(時刻t
1、t
2)が現れる。そして、その重なる瞬間(時刻t
1、t
2)は、測定光Psの繰り返し周波数と参照光Prの繰り返し周波数との差に相当する繰り返し周波数(即ちΔf)で周期的に現れる。Δfは光の振動数に比べ十分に小さいため、検出器(電子回路)による位相情報の検出を可能にする。
【0027】
他方、検出器118bは、偏光子117bから測定光Psと参照光Prとの干渉光を入射し、それに応じた干渉信号を出力する。検出器118bは、ビームスプリッタ112c(基準点:RP)に対する参照面116までの距離とワーク150までの距離との差に応じた遅延時間を求めるための検出器である。
【0028】
FFT部119a、119bは、それぞれ検出器118a、118bで検出された干渉光に基づく干渉信号を入力し、高速フーリエ変換(FFT)等の所定の信号処理を行い、干渉光の各モードごとの周波数情報、位相情報及び振幅情報等を演算処理装置130に出力する。
【0029】
レンズ120は、光周波数コムレーザ装置110からの測定光Psをワーク150に照射するためのレンズであり、該レンズを通じてワーク150からの反射光を光周波数コムレーザ装置110に戻す。なお、レンズ120は、操作者の手動により又は演算処理装置130からの制御信号に応じてレンズを所定の位置に移動させるための移動機構に取り付けられていてもよい。
【0030】
演算処理装置130は、入出力インターフェース(不図示)、CPU(Central Processing Unit)(不図示)、及びROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の記憶部131等を備えたコンピュータである。演算処理装置130のCPUは、記憶部131に記憶された所定のプログラムに則り、位置制御部132、位相決定部133、距離算出部134及び画像生成部135の各機能を発揮させる。
【0031】
位置制御部132は、ワーク150の位置を調整するための制御信号を位置調整器140に出力することにより、ワーク150を所定の位置に移動させることができる。ここで、該移動にはワークの平行移動、回転、傾斜動作が含まれる。そして、位置制御部132は、ワーク150の位置情報を記憶部131に出力し、記憶部131は、ワーク150の位置情報と、ワーク150までの距離の情報等とを関連付けて記憶する。
【0032】
画像生成部135は、ワーク150までの距離の情報を例えば所定の階調に割り振り、対応する位置の濃淡情報として3次元距離画像を生成する。例えば、画像生成部135は、所定の階調を8ビットとし、距離算出部134により算出された最も大きい距離値を黒(値0)とし、最も小さい距離値を白(値255)とし、それらの間の距離値を濃淡として値を割り振り、各距離値に関連付けられた位置情報を基に、3次元距離画像を生成する。
【0033】
なお、位相決定部133、距離算出部134及び画像生成部135についての説明は後述する。
【0034】
位置調整器140は、ワーク150を保持するステージと、該ステージを移動、回転、旋回等させるための動力機構とを備え、位置制御部132からの制御信号に応じて、ワーク150を所定の位置に移動させる。
【0035】
<位相と測定距離との関係>
測定光Ps(位相φ
s)と参照光Pr(位相φ
r)との間の位相差(θ=φ
s−φ
r)と、基準点RPからワーク150までの距離との関係について説明する。
【0036】
図2Aに示すように、第1のOFCG113aで発生する測定光Psは、発振器113cの変調周波数f
m1に一致する周波数間隔(繰り返し周波数f
m1)を有する複数の周波数モードを有する。ここで、レーザ光源111のレーザ光の周波数ν
0を0次モードとし、nは0、±1、±2…の整数である。また、第2のOFCG113bで発生する参照光Prは、発振器113dの変調信号の周波数f
m2(=f
m1+Δf)に相当する周波数間隔(繰り返し周波数f
m2)を有する複数の周波数モードを有する。ここで、周波数シフタ114により周波数シフトされた光の周波数ν
0+f
αを0次のモードとしている。
【0037】
参照光Prの各モードは、測定光Psの各モードに対して、0次モードにおいて
fαだけ相違し、1次モードにおいてf
α+Δfだけ相違し、n次モードにおいてf
α+nΔfだけ相違する。そのため、測定光Psと参照光Prとの干渉光のk次モードのビート周波数は、(ν
0+f
α+kf
m1+kΔf)−(ν
0+kf
m1)=f
α+kΔfとなる(kは0〜nの整数)。
【0038】
検出器118a(又は検出器118b)における測定光Psと参照光Prとの干渉光のk次モードの電界の振幅E
k(t)は、式1:
【数1】
で表される。ここで、A
kは測定光Psの電界であり、B
kは参照光Prの電界であり、そして、θ
kは、k次モードにおける測定光Psの位相φ
sと参照光Prの位相φ
rとの間の位相差である。言い換えると、参照光Prのk次モードの位相φ
rを基準にした測定光Psのk次モードの相対位相(即ち、θ
k=φ
s−φ
r)である。
【0039】
次数の異なるモード間の干渉信号は、変調周波数f
mとその周辺に現れるため、検出器118aの帯域をf
αやΔfに比べて十分に広いがf
mより小さくとることにより、又はフィルタ等を用いて高周波成分を取り除くことにより、同じ次数のモード間のビート周波数のみが残ることになる。そのため、次数の異なるモード間の干渉は考慮しない。
【0040】
検出器118a(又は検出器118b)のk次モードに関する出力電流I
k(t)は、aを定数として、式2:
【数2】
で表される。測定光Psと参照光Prとの間の周波数差(f
α+kΔf)はビート周波数Fである。
【0041】
式2におけるk次モードの位相θ
k(=φ
s−φ
r)を与える時間遅延は、検出器118a、118bで意味合いが異なる。つまり、検出器118aで検出される位相θ
kは、ビームスプリッタ112aで光を分離してから偏光ビームスプリッタ112bで混合されるまでの光路長の長さに起因するものである。そして、この時間遅延は、検出器118aと検出器118bとで共通であるため、検出器118bで検出される位相θ
k(「θ
kb」)から検出器118aで検出される位相θ
k(「θ
ka」)を引くことにより取り除かれる。そうすると、検出器118aで検出される干渉信号と検出器118bで検出される干渉信号の時間差は、周波数領域における測定光Psと参照光Prのモード間の位相差(θ
kb−θ
ka)の次数kに対する変化率(傾き)である。
【0042】
図2Aから分かるように、k次モードに関する測定光Psの角周波数ω
sと参照光Prの周波数ω
rの関係は、
ω
r=ω
s+ω
α+kΔω
で表される。ここで、ω
s=2πf
m1、ω
r=2πf
m2、ω
α=2πf
α、Δω=2πΔfである。
【0043】
次に、ビームスプリッタ112c(基準点RP)から検出器118aに向かうk次モードについての測定光Psの位相φ
sa及び参照光Prの位相φ
raは、時刻tにおいて、それぞれ、
φ
sa=ω
st
φ
ra=ω
rt
である。
【0044】
他方、基準点RPからワーク150及び参照面116を介して検出器118bに向かうk次モードについての測定光Psの位相φ
sb及び参照光Prの位相φ
rbは、時刻tにおいて、それぞれ、
φ
sb=ω
s{t−2(L
0+L
s)/V
c}
φ
rb=ω
r{t−2(L
0+L
r)/V
c}
である。ここで、V
cは光速、L
0は基準点RPから偏光ビームスプリッタ112dまでの距離(光路長)、そして、L
s及びL
rはそれぞれ基準点RPからワーク150及び参照面116までの距離(光路長)である。
【0045】
そうすると、k次モードに関して、検出器118bから出力される干渉信号の位相θ
kb(=φ
sb−φ
rb)と、検出器118aから出力される干渉信号の位相θ
ka(=φ
sa−φ
ra)との差Δθ
kb-aは、式3:
【数3】
となる。式3において、第1項がワーク150までの距離|L
s−L
r|に応じて変化する位相であり、第2項が固定距離L
0、L
rに依存する位相のオフセットである。
【0046】
測定すべき距離|L
s−L
r|は、位相の各モード間の変化率から求まる。前述のように測定光Psのk+1次モードとk次モードとの周波数間隔はf
m1であることから、k+1次モードのΔθ
k+1b−aとk次モードのΔθ
kb−aとのモード間位相差は、式4:
【数4】
である。ここで、ω
m1=2πf
m1である。
【0047】
式4からわかるように、k+1次モードとk次モードとの間のモード間位相差(Δθ
k+1b−a−Δθ
kb−a)から正確な距離|L
r−L
s|を求めるためには、式4の第2項の影響を受けないΔω=0ときの該位相差の値を用いるのがよい。Δω=0のときの該位相差の値を求めるためには、Δωの値を数回変えて該位相差を測定し、得られた結果を外挿することによりΔω=0のときの該位相差の値を求め、その値から距離|L
r−L
s|を求めるようにしてもよい。なお、Δω=±(所定値)として得られた該位相差の値を平均することによりΔω=0のときの該位相差の値を求めてもよい。
【0048】
このようにして、検出器118bで検出される干渉光の位相θ
kb(=φ
sb−φ
rb)と検出器118aで検出される干渉光の位相θ
ka(=φ
sa−φ
ra)との位相差Δθ
kb−aのモード間位相差(即ち、Δθ
k+1b−a−Δθ
kb−a)を基に、ワーク150までの距離|L
r−L
s|を求めることができる。
【0049】
<ワークからの反射光>
本実施形態に係る形状測定装置100は、ワーク150の表面150sに測定光Psを照射し、その反射光の位相を基にワーク150の表面150sまでの距離を測定する。そして、形状測定装置100は、位置調整器140によりワーク150の位置を適宜調整しつつワーク150の表面を走査しながら該距離測定を行うことにより、ワーク150の表面の3次元形状を測定することができる。そこで、まず、ワーク150からの反射光について説明する。
【0050】
図3(a)に示すように、光周波数コムレーザ装置110に戻ってくる反射光は、測定光Psの入射角と等しい角度で反射する直接反射光301と、それ以外の間接反射光302とからなる。光周波数コムレーザ装置110で検出される直接反射光301の信号強度及びS/N比(信号対雑音比)は、間接反射光302に比べて大きい。
【0051】
間接反射光302は、
図3(b)に示すように、測定光Psがワーク150の表面150sで様々な方向に拡散する拡散光302aと、ワーク150の本体部150b上に形成された第1の層150a内部で複数回反射してから光周波数コムレーザ装置110に戻ってくる多重反射光302bとからなる。なお、第1の層150aは、第1の層150aに入射された光を多重反射させる層のことであり、例えば、ワーク150の本体部150bに塗布された塗装膜である。
【0052】
多重反射光302bの光路長は、第1の層150a内での複数回の反射の影響により、拡散光302aの光路長より長くなる。そのため、検出される拡散光302aの位相と多重反射光302bの位相は互いに異なることになる。
【0053】
図3(a)に示すように、測定光Psがワーク150の表面の平坦面150fに照射されると、直接反射光301は、平坦面150fで反射し光周波数コムレーザ装置110に戻ってくる。そのため、光周波数コムレーザ装置110で検出される波形には、比較的信号強度及びS/N比の大きい直接反射光301の影響が大きく現れることになる。
【0054】
他方、
図3(c)に示すように、測定光Psがワーク150の表面の傾斜面150cに照射されると、直接反射光301は、傾斜面150cで反射し光周波数コムレーザ装置110にほとんど戻ってこない。そのため、光周波数コムレーザ装置110で検出される波形には、比較的信号強度及びS/N比の小さい間接反射光302の影響が大きく現れることになる。ここで、傾斜面150cは、平坦面150fに対して数度(例えば3度)以上の傾斜を有する面である。
【0055】
前述のように、間接反射光302は、拡散光302a及び多重反射光302bを含んでおり、拡散光302a及び多重反射光302bのS/N比は、互いに同程度である。そのため、ワーク150の傾斜面150cに測定光Psを照射しそこまでの距離を測定する場合、光周波数コムレーザ装置110で検出される波形には、多重反射光302bの影響が比較的大きく現れてしまう。
【0056】
ワーク150の傾斜面150cまでの距離を正確に測定するための一つのアプローチは、光周波数コムレーザ装置110がワーク150の傾斜面150cからの直接反射光301を検出できるようにすればよい。このアプローチでは、直接反射光301の光路上に鏡面やレンズ等の追加の機器を配置し、光周波数コムレーザ装置110に直接反射光301を戻すようにする必要がある。しかしながら、ワーク150の傾斜面150cの位置や傾斜具合等を基に該追加の機器を測定の都度調整する必要があり、装置構成が複雑になる問題や、該追加の機器の調整に費やす時間が増加するため測定時間が長くなる問題がある。
【0057】
そこで、装置構成の変更を伴わずに検出することができる間接反射光302を基に、多重反射光302bの影響を低減しつつ、ワーク150の傾斜面150cまでの距離をより正確に測定することが望ましい。
【0058】
<ワークの形状測定方法>
まず、
図4に示すように、第1の層150aとしての塗装膜が塗布されたワーク150の傾斜面150cに対して測定光Psを照射し、光周波数コムレーザ装置110で複数回検出された波形402〜407を重ね合わせた波形408を観察した。そうすると、測定によらず位相がそろう部分409と、測定ごとに波形が異なり位相がずれる部分410とがあることがわかった。
【0059】
なお、波形401は、ワーク150の平坦面150fに測定光Psを照射し、光周波数コムレーザ装置110で検出された波形である。そのため、波形401には、直接反射光301の影響が大きく現れており、信号強度が強く、S/N比がよいことがわかる。また、波形401を取得するには、塗装膜が塗布されていないワーク150の本体部150bの傾斜面(即ち、波形402〜407を取得した際に測定光を照射した傾斜面と同じ位置)に対して測定光Psを照射し、検出するようにしてもよい。この場合の波形401は、ほぼ拡散光302aの信号成分からなり、多重反射光302bの信号成分はほとんど含まれていないことになる。
【0060】
多重反射光302bがワーク150の塗装膜内でのランダムな反射に起因することを考慮すると、測定によらず位相がそろう部分409が直接反射光301及び拡散光302aのいずれか又は両方に起因するものであり、測定ごとに位相がずれる部分410が多重反射光302bに起因するものであると考えられる。
【0061】
言い換えると、直接反射光301及び拡散光302aは、ワーク150の表面(傾斜面150c)で反射するため、測定によらず光周波数コムレーザ装置110による光の発生からほぼ同じ時間後に検出されることになる。そのため、直接反射光301及び拡散光302aの位相は測定ごとにそろう。他方、多重反射光302bの光路長はワーク150の塗装膜内でのランダムな反射回数に応じて変化するため、多重反射光302bの位相は測定ごとに異なることになる。
【0062】
そこで、本実施形態に係る形状測定方法は、光周波数コムレーザ装置110(の検出器118a、118b)で測定光Psと参照光Prとの干渉光を検出し、隣接するモード間のモード間位相差を複数個算出し、算出したモード間位相差を統計処理(平均μ及び分散σ
2の算出並びに存在確率分布Nの作成)する。そして、この工程を複数回(J回)繰り返し、J個の存在確率分布Nから出現確率の最も高い該位相差を算出し、それが直接反射光301及び拡散光302aのいずれか又は両方に起因する信号成分であると決定し、それをもとにワーク150までの距離を求める。
【0063】
図5を用いて、直接反射光301及び/又は拡散光302aに基づく式4で表されるモード間位相差Δθ
k+1b−a−Δθ
kb−aの求め方について説明する。なお、以下では、説明を簡単にするためにモード間位相差「Δθ
k+1b−a−Δθ
kb−a」を「ΔΦ」で表し、ワーク150までの距離を求めるために決定すべきモード間位相差を「ΔΦ
D」とする。すなわち、ΔΦ
Dは、直接反射光301及び拡散光302aのいずれか又は両方に起因する信号成分から決定された式4の左辺に相当する位相差である。また、光周波数コムレーザ装置110で検出される干渉光には0〜n次モードが含まれているとし、kは0〜nの整数である。
【0064】
光周波数コムレーザ装置110は、ワーク150の表面に対して測定光Psを照射し、ワーク150から反射されてきた測定光Psと参照面116から反射されてきた参照光との干渉光を検出器118bで検出する。検出器118bで検出される波形には、平坦面150fからの反射であれば直接反射光301及び間接反射光302の成分が含まれ、傾斜面150cからの反射であれば間接反射光302の成分が多く含まれるが、直接反射光301の成分はほとんど含まれない。
【0065】
図5で示すように、検出器118a、118bからの検出データを基に、FFT部119a、119bにおいてそれぞれ位相スペクトル501a、501bが生成され、演算処理装置130の記憶部131に記憶される。
【0066】
その後、演算処理装置130の位相決定部133は、式3のΔθ
kb−aを求める。すなわち、位相決定部133は、検出器118bで検出された干渉光に関する位相スペクトル501bの各モードF
0〜F
nの位相から、検出器118aで検出された干渉光に関する位相スペクトル501aの対応するモードF
0〜F
nの位相を差し引き、Δθ
kb−aの位相スペクトル502を算出し、記憶部131に記憶させる。
【0067】
その後、位相決定部133は、位相スペクトル502の隣接するモード間のモード間位相差ΔΦ
k+1=Δθ
k+1b−a−Δθ
kb−aを複数個(最大n個)算出し(503)、記憶部131に記憶させる。位相決定部133は、複数個のモード間位相差ΔΦ
1、ΔΦ
2、…の値から、モード間位相差ΔΦの平均μ及び分散σ
2を算出し、ΔΦの存在確率分布N(ΔΦ)を式5:
【数5】
を基に作成し、記憶部131に記憶させる。ここでは、複数個のモード間位相差ΔΦ
1、ΔΦ
2、…の分布が正規分布N(ΔΦ|μ,σ)に従うものとしているが、これに限定されず他の統計的分布(例えば、カイ二乗分布、t分布、F分布等)を用いても良い。
【0068】
その後、位相決定部133は、干渉光の検出から存在確率分布N(ΔΦ)の作成までのステップをJ回繰り返し、記憶部131にJ個の存在確率分布504を記憶させる。ここで、Jは2以上の整数であり、1つのワーク150の形状測定にかけられる時間との兼ね合いで適宜調整される値である。Jの値が大きければ大きいほど距離の正確性がよりいっそう向上する。
【0069】
そして、位相決定部133は、J個の存在確率分布504
1(N
1(ΔΦ))〜504
J(N
J(ΔΦ))に対して、式6:
【数6】
又は、式7:
【数7】
を基に、出現確率が最も高いモード間位相差ΔΦ
Dを算出し、それが直接反射光301及び拡散光302aのいずれか又は両方に起因する位相であると決定する。言い換えると、ここではJ個の存在確率分布504
1〜504
Jを互いに掛けあわせることにより得られる関数または互いに加えることにより得られる関数の最大値をとるモード間位相差ΔΦをΔΦ
Dと決定している。そのため、決定されたモード間位相差ΔΦ
Dには、多重反射光302bに起因する信号成分の影響が大きく低減されている。
【0070】
よって、演算処理装置130の距離算出部134は、このように決定した直接反射光301及び拡散光302aのいずれか又は両方に起因するモード間位相差ΔΦ
Dの値を、式4の左辺の値「Δθ
k+1b−a−Δθ
kb−a」として用いる。これにより、距離算出部134は、距離を算出するのに使用するモード間位相差ΔΦに対する多重反射光302bの影響を低減することによりワーク150までの距離をより正確に算出することができる。
【0071】
このように算出されたワーク150までの距離の情報は、ワーク150の測定対象点、つまり照射光Psが照射される点に関する位置情報と関連づけて記憶部131に記憶される。そして、画像生成部135は、その情報を用いてワーク150の形状に関する3次元距離画像を生成する。
【0072】
図6は、本実施形態に係る形状測定方法のフローチャートである。ステップS601で、ワーク150を位置調整器140上に配置し、形状測定装置100の各種機器の稼働条件等を設定する。例えば、レーザ光源111の出力の調整や、OFCG113a、113bの変調周波数f
m1、f
m2の調整、周波数シフタ114の変調周波数f
αの調整等である。
【0073】
ステップS602で、演算処理装置130の位置制御部132は、位置調整器140に制御信号を出力し、それに応じて位置調整器140は、ワーク150を所定の位置に移動させる。このときのワーク150の位置情報を記憶部131に記憶させる。この位置情報は、ワーク150の表面の測定光Psが照射される点に関する情報であり、ステップS611で取得される距離の情報と関連付けて記憶部131に記憶される。
【0074】
ステップS603で、演算処理装置130は、光周波数コムレーザ装置110を稼働させ、検出器118a、118bそれぞれにおいて測定光Psと参照光Prとの干渉光を検出する。検出器118a、118bは、検出した干渉光に基づく干渉信号をそれぞれFFT119a、119bに出力する。それに応じて、FFT119a、119bは、干渉信号をFFT処理し、振幅情報、ビート周波数(モード)の情報、及びモードごとの位相の情報(θ−F位相スペクトル)等を記憶部131に記憶させる。
【0075】
ステップS604で、演算処理装置130の位相決定部133は、FFT119bから出力された位相スペクトルの各モードの位相から、FFT119aから出力された位相スペクトルの対応するモードの位相を差し引き、式3のΔθ
kb−aに関する位相スペクトルを算出し、記憶部131に記憶させる。
【0076】
ステップS605で、位相決定部133は、ステップS604で算出した位相スペクトルの隣接するモード間のモード間位相差ΔΦ
k+1=Δθ
k+1b−a−Δθ
kb−aを複数個(最大n個)算出し、記憶部131に記憶させる。
【0077】
ステップS606で、位相決定部133は、ステップS605で算出された複数個のモード間位相差ΔΦの値から、ΔΦの平均μと分散σ
2を算出する。ステップS607で、正規分布の式5を基に、モード間位相差ΔΦの存在確率分布N
i(ΔΦ)を作成し、記憶部131に記憶させる。ここで、iは、1〜Jの整数であり、初期値は1である。
【0078】
ステップS608で、位相決定部133は、所定の回数(J回)だけステップS603〜S607が行われたかどうか判断する。行われていない場合(ステップS608でNo)には、ステップS603〜S607が繰り返される。
【0079】
ステップS609で、位相決定部133は、J個の存在確率分布N
1(ΔΦ)〜N
J(ΔΦ)に対して、式6の「argmaxΠN(ΔΦ)」処理又は式7の「argmaxΣN(ΔΦ)」処理(J個の存在確率分布を互いに掛け合わせることにより得られる関数又は互いに加えることにより得られる関数を最大にするモード間位相差ΔΦを求める処理)を行い、出現確率が最も高いモード間位相差ΔΦ
Dを算出する。ステップ610で、位相決定部133は、ステップS609で算出された位相差ΔΦ
Dを直接反射光301及び/又は拡散光302aに関する位相であると決定する。
【0080】
ステップS611で、演算処理装置130の距離算出部134は、ステップS610で決定された位相差ΔΦ
Dを式4の左辺の値「Δθ
k+1b−a−Δθ
kb−a」の値として用いて、ワーク150までの距離を算出する。算出された距離情報は、ステップS602で出力されたワーク150の位置情報と関連付けられ記憶部131に記憶される。
【0081】
ステップS612で、演算処理装置130は、ワーク150の表面のうち、測定すべき範囲内で他に測定すべき位置があるかどうか判断する。他に測定すべき位置がある場合(ステップS612でYes)、ステップS602〜S612が繰り返される。
【0082】
ステップS613で、演算処理装置130の画像生成部135は、位置情報に関連付けられた距離の情報を基に、位置情報に応じた画像の各画素に、距離の情報に応じて決定される色情報(濃淡)を割り当てることにより、3次元距離画像を生成する。
【0083】
このように、本実施形態に係る形状測定装置及び形状測定方法は、モード間位相差ΔΦに対する多重反射光302bの影響を大きく低減することにより、基準点RPからワーク150までの距離をより正確に測定することができる。
【0084】
(実施例)
本発明の一実施例として、第1実施形態に係る形状測定装置100を用いて、ワーク150としての車両用部品701までの距離を求め、車両用部品701の3次元形状画像703を生成した。
図7は車両用部品701の実際の写真であり、
図8は、車両用部品701の測定すべき範囲702の3次元距離画像703を示す。
【0085】
3次元距離画像703中の車両用部品701の傾斜面に相当するA、B及びC点は、車両用部品701の平坦面Fに対して、それぞれ4°、30°及び60°だけ図面に向かって奥側に傾斜している。この測定では、傾斜が3°を超えると、直接反射光301をほとんど検出することができなかったため、A〜C点に関する結果は、ほとんど間接反射光302を基に得られたものである。
【0086】
図9は、点A〜Cに関して、距離精度(μm)を求めた結果である。ここでの距離精度は、本発明及び従来技術(特許文献2)の方法で点A〜Cのそれぞれに対して複数(数十)回距離を求め、その距離の分布から距離の平均値と標準偏差σを求め、そこから得た再現性(ばらつき)(3σ)の値である。
【0087】
距離精度(3σ)は、本発明についてはA〜C点でそれぞれ5、6、35(μm)であり、従来技術についてはA〜C点でそれぞれ27、45、123(μm)であった。このように、従来技術では、多重反射光の影響により同じ点に対して距離を測定するたびに値が大きく異なり、再現性がわるい、言い換えると測定ごとのばらつきが大きくなるものであった。しかし、本発明は、多重反射光による影響を低減しているため、再現性がよく、言い換えると測定ごとのばらつきは小さいものであった。
【0088】
[第2実施形態]
図10(a)は、本発明の第2実施形態に係る形状測定装置1000のブロック図であり、
図10(b)は、光周波数コムレーザ110側からレンズ120及びワーク150を見た図である。光周波数コムレーザ装置110、レンズ120、演算処理装置130、及び位置調整器140の構成は前述と同様であり、説明を省略する。
【0089】
形状測定装置1000は、光周波数コムレーザ装置110からレンズ120に照射される測定光Psの方向を変更する照射角変更器1001をさらに備え、照射角変更器1001の中心はレンズ120の中心軸1010上にある。本実施形態のレンズ120は、光周波数コムレーザ装置110からの測定光Psを平行光1021、1022にしてワーク150に照射し、ワーク150からの反射光を照射角変更器1001に集光する。それを受けて、照射角変更器1001は、ワーク150からの反射光を光周波数コムレーザ装置110に照射する。
【0090】
照射角変更器1001は、ミラーとそれを駆動するための動力機構等を備え、演算処理装置130の光路制御部136からの制御信号に応じて、レンズ120に向けて照射される測定光Psの照射角(x、y)を変更する。ここで、xは中心軸1010に対する角度であり、yは該中心軸に垂直な軸に対する角度である。
【0091】
照射角(x、y)を変更することにより、ワーク150に測定光Psが照射される位置を所定の位置に調整することができる。例えば、測定光Psは、ワーク150のA
1点に照射角(x
1、y
1)で照射され、ワーク150のA
2点には照射角(x
2、y
2)で照射される。
【0092】
このように、光路制御部136は、照射角変更器1001により測定光Psの照射角(x、y)を制御することにより、ワーク150の所定の位置に測定光Psを照射することができる。
【0093】
図10からわかるように、測定光Psのの照射角を調整すると、レンズ120の中心を通る光路1010に比べ、光路1021は、ΔLs=Ls1−Ls0=(1/cosx
1−1)Ls0だけ長くなることになる。ここで、Lsは、レンズ120の中心をとおる測定光Psの基準点RPからワーク150までの光路長である。
【0094】
そのため、この実施形態では、距離算出部134は、前述の式3及び式4におけるLsを、「Ls+ΔLs」=「Ls+(1/cosx−1)Ls0」で置き換えてワーク150までの距離を算出する。
【0095】
この実施形態では、ワーク150を動かすことなく、測定光Psの照射位置を変更することができ、測定光Psの照射位置の微調整が行い易い構成である。