(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載されたような技術では、本来車室内に供給されるべき冷却風がエンジン側に回されるため、吸気温度が低下する代わりに車室内の温度が上昇してしまう。車室内の温度を一定に保つには、車載空調装置の出力を上げなければならず、空調負荷が増大してしまう。
一方、特許文献3に記載されたような技術では、車室内の温度や空調負荷は変化しないものの、排水を吸気配管まわりに巡らせるための構造が複雑となる。また、冷房運転時には常に吸気配管の周囲に排水が供給されるため、錆が発生する虞がある。この結果、吸気配管を耐食性の高い材料で複雑な形状に製造しなければならず、製造コストや部材重量の増加を招いてしまうため、現実的には適用が困難である。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、簡素な構成で、燃費を悪化させることなくエンジンの動力性能を改善することができるようにした、エンジンの吸気冷却構造を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示するエンジンの吸気冷却構造は、車載空調装置に内蔵され、車室内に供給される空気を冷却する蒸発器と、前記蒸発器で発生する凝結水を車外に排出する排水管と、前記排水管から分岐してエンジンの吸気系に接続され、前記排水管内の冷気を前記吸気系へと導く冷気管と、を備え
、前記排水管が、前記冷気管との分岐箇所から下方に向かって延設された一部を有し、前記冷気管が、前記分岐箇所から上方に向かって延設された一部を有し、前記排水管の前記一部と前記冷気管の前記一部とが、互いに反対方向に延びるように直線状に配置されることを特徴としている。
なお、前記排水管と前記冷気管との分岐箇所には、三方分岐パイプを介装させることが好ましい。これにより、既存の排水管から冷気管を容易に分岐させることができる。
【0008】
(
2)前記冷気管が、前記吸気系を構成するエアクリーナのフィルタよりも上流側に接続されることが好ましい。
(3)前記分岐箇所には、三方分岐パイプが介装されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
開示のエンジンの吸気冷却構造によれば、排水管内の冷気をエンジンの吸気系へと導く冷気管を備えているため、従来排出していた排水管内の冷気を利用してエンジンの吸気温度を低減させることができ、燃費を悪化させることなくエンジンの動力性能を高めることができる。また、排水管と吸気系との間を冷気管で接続するだけよいため、簡素な構成とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施形態としてのエンジンの吸気冷却構造について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができると共に、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0012】
[1.構成]
[1−1.全体構成]
本実施形態のエンジンの吸気冷却構造は、
図1に例示するエンジン6に適用されている。このエンジン6は、車両に搭載され、内部で燃料と空気とを燃焼させることで車両に動力を生じるものである。エンジン6で生じた動力は、主として車両の走行に使用されるが、車両の車室内の温度や湿度を調節するHVAC(Heater, Ventilator and Air Conditioner,車載空調装置)1を駆動するためにも使用される。
なお、
図1には、本実施形態のエンジンの吸気冷却構造の主要な構成要素を実線で示し、他の構成要素を破線で示す。
【0013】
HVAC1は、車室内の空調環境を調節するものであり、車両のエンジンルームの内部でエンジン6に隣接するように配置される。HVAC1には、エバポレータ(蒸発器)11や図示しないヒータ,ファン等が内蔵されている。
エバポレータ11は、冷媒を減圧して気化させることによって吸熱するものであり、HVAC1の冷房装置として機能する。つまりエバポレータ11は、HVAC1の冷房運転時に車室内に供給される空気を冷却するものである。
エバポレータ11の近傍には、エバポレータ11で発生する凝結水7を車外に排出するための排水管2が配置される。排水管2は、ここではHVAC1のケース底面部12から車外に向かって延設されている。
【0014】
エンジン6の上方には、エアクリーナ5が配置されている。エアクリーナ5は、接続ダクト51を介してエンジン6の吸気系に接続されると共に、車両外方に向かって開口した吸気ダクト52に接続され、車両外部からエンジン6に供給される吸気から埃や水分を除去するためのものである。
エアクリーナ5の内部には、吸気の流路を横切るように配置されたフィルタ53が設けられている。フィルタ53は、これを通過する空気中に含まれる埃や水分を捕集,除去するものであり、接続ダクト51と吸気ダクト52との間に介装される。
【0015】
なお、エアクリーナ5,接続ダクト51及び吸気ダクト52は、何れもエンジン6の吸気系を構成するものである。つまり、上述のフィルタ53は、エンジン6の吸気系に介装されるものである。
エアクリーナ5には、排水管2から分岐した冷気管4をエンジン6の吸気系に接続するための冷気口54が設けられている。冷気口54は、吸気の流れ方向を基準として、フィルタ53よりも上流側でエアクリーナ5のケース上面部55を貫通するように形成されている。
【0016】
本実施形態のエンジンの吸気冷却構造は、エバポレータ11,排水管2及び冷気管4を備える。ここでは排水管2と冷気管4との分岐箇所Pに、排水管2から冷気管4を分岐させて凝結水7と冷気とを分離するための部材である三方分岐パイプ3が介装されている。以下、三方分岐パイプ3,排水管2,冷気管4の順に各構成を説明する。
【0017】
[1−2.三方分岐パイプ]
図2に示すように、三方分岐パイプ3は、基点からそれぞれ異なる方向に向かって直線状に延設された三本のパイプ部31,32,33を備えている。各パイプ部31,32,33は、何れも横断面が同様の円形閉断面をなす管状に形成されている。
【0018】
以下、パイプ部31,32,33を、それぞれ第一パイプ部31,第二パイプ部32及び第三パイプ部33という。第一パイプ部31及び第三パイプ部33は、排水管2の一部を構成するものであり、第二パイプ部32は、排水管2から分岐する冷気管4の一部を構成するものである。つまり、三方分岐パイプ3の基点は、排水管2と冷気管4との分岐箇所Pの中心点に相当する。
【0019】
ここでは第二パイプ部32と第三パイプ部33とが、互いに反対方向に延びるように同一直線上に延設されている。言い換えると、排水管2の第三パイプ部33で構成される部分と、冷気管4の第二パイプ部32で構成される部分とは、分岐箇所Pを挟んで直線状に配置される。これに対し、第一パイプ部31は、第二パイプ部32及び第三パイプ部33の延設方向に対してここでは直角方向に延設されている。
【0020】
[1−3.排水管]
図1に示すように、排水管2は、エバポレータ11から車外に向かって凝結水7の流路を形成するものである。ここでは排水管2が、凝結水7の流れ方向を基準として、上流側(エバポレータ11側)に設けられる上流管21と、上流管21の下流側に設けられる三方分岐パイプ3との二部材で構成されている。
【0021】
図2に示すように、上流管21は、横断面が略一様な円形閉断面を有するように形成され、その内径は三方分岐パイプ3の第一パイプ部31の外径に嵌合する大きさとされる。上流管21の上流端部21aは、HVAC1のケース底面部12に形成された排水口12aに接続される。また、上流管21の下流端部21bは、上流端部21aよりも下方に配置され、三方分岐パイプ3の第一パイプ部31に接続される。なお、排水口12aは、エバポレータ11の横に設けられている。
【0022】
上流管21の下流端部21b及びこれに嵌め込まれる第一パイプ部31は、分岐箇所P側を下方に位置させて傾斜した状態で配置される。また、これに伴って第三パイプ部33は、分岐箇所P側を上方に位置させて傾斜した状態で配置される。言い換えると、排水管2の第三パイプ部33で構成される部分は、分岐箇所Pから下方に向かって延設される。
上流管21の上流端部21aと下流端部21bとの間の部分は、エンジン6やHVAC1などの周辺部材の形状及び配置に応じて、これらと干渉しないような適宜の形状及び配置とされる。ただし、凝結水7を車外に向けて円滑に排出するという観点から、ここでは上流管21が、下流側に向かって常に下方に向かうように延設されている。
【0023】
[1−4.冷気管]
図1に示すように、冷気管4は、排水管2から分岐してエンジン6の吸気系に接続され、排水管2内の冷気をエンジン6の吸気系へと導くものである。ここでは冷気管4が、冷気の流れ方向を基準として、上流側(分岐箇所P側)に設けられる三方分岐パイプ3と、三方分岐パイプ3の下流側に設けられる下流管41との二部材で構成されている。
【0024】
図2に示すように、下流管41は、横断面が略一様な円形閉断面を有するように形成され、その内径は三方分岐パイプ3の第二パイプ部32の外径に嵌合する大きさとされる。下流管41の下流端部41bは、エアクリーナ5のケース上面部55に設けられた冷気口54に接続される。また、下流管41の上流端部41aは、三方分岐パイプ3の第二パイプ部32に接続される。
【0025】
下流管41の上流端部41a及びこれに嵌め込まれる第二パイプ部32は、分岐箇所P側を下方に位置させた状態で配置される。つまり、冷気管4の第二パイプ部32で構成される部分は、分岐箇所Pから上方に向かって延設される。
なお、下流管41の上流端部41aと下流端部41bとの間の部分は、エンジン6やHVAC1などの周辺部材の配置や形状に応じて、これらと干渉しないような適宜の形状及び配置とされる。
【0026】
[2.作用]
以下、本実施形態のエンジンの吸気冷却構造に係る作用について説明する。
HVAC1の冷房運転時、エバポレータ11が駆動されると、エバポレータ11の表面温度が低下する。これによって、エバポレータ11の表面には結露が生じ、低温の凝結水7が付着する。この凝結水7は、その量が増加するとエバポレータ11の表面からケース底面部12上に滴下する。そして、ケース底面部12上に溜まった凝結水7は、排水口12aから排水管2に流出する。このとき、凝結水7とともにエバポレータ11で冷却された空気(冷気)の一部が一緒にHVAC1内から排水口12aを通じて排水管2の内部に流れ込む。そのため、排水管2内の空気は、凝結水7と冷気とによって常に冷却されている。
【0027】
凝結水7は、重力の作用で排水管2の上流管21内を下方に向かって流れ、上流管21と連続する三方分岐パイプ3の第一パイプ部31に流入する。一方、排水管2内の冷却された空気(冷気)は、排水管2内の圧力(外気圧)とエンジン6の吸気圧との差圧(吸気負圧)によって、低圧なエンジン6側(冷気管4側)に吸入される。すなわち冷気は、エンジン6の吸気負圧に引っ張られ、排水管2の上流管21を通って流下し、凝結水7と同様に、三方分岐パイプ3内に流れ込む。
【0028】
凝結水7は、分岐箇所Pまで達すると、自重で下方に向かって流れて第三パイプ部33に流入する(
図2中の斜線入り矢印参照)。そして、第三パイプ部33を通って車外に排出される。
これに対し冷気は、分岐箇所Pまで達すると、上述の吸気負圧によって低圧なエンジン6側に吸入されて、冷気管4内に流入する(
図2中の白抜き矢印参照)。つまり、この分岐箇所Pでは、凝結水7は下方に向かって流れるのに対し、冷気は上方に向かって流れることで、両者が分離される。
【0029】
そして、冷気管4に流入した冷気は、冷気管4を構成する第二パイプ部32内を上方に向かって流れ、第二パイプ部32と連続する下流管41に流入する。そして、下流管41の下流端部41bまで達すると、冷気口54を通じてエアクリーナ5の内部のフィルタ53よりも上流側へと案内される。
エアクリーナ5の内部に流れ込んだ冷気は、吸気ダクト52を通じてエアクリーナ5内に取り込まれた吸気と共に、フィルタ53を通過する。このとき、冷気中に含まれる埃や過剰な水分がフィルタ53によって捕集される。そして吸気は、この冷気を含むことによって温度が低減され、高密度な状態で接続ダクト51内を流下してエンジン6に供給される。
【0030】
なお、エバポレータ11の出力が大きくなるほど(すなわちHVAC1の稼働率が高くなるほど)、エバポレータ11の表面温度は低下する。したがって、例えば外気温が上昇し、HVAC1が高い稼働率で冷房運転されるほど、HVAC1内(エバポレータ11周辺)の空気は冷却される。この場合、排水管2内に流れ込む冷気の温度がより下がるため、排水管2内の空気はより低温に冷却される。つまり、HVAC1の冷房に係る稼働率が高くなるほど、より低温な冷気がエンジン6の吸気系に導入され、吸気温度がより低減される。
【0031】
[3.効果]
(1)上記のエンジンの吸気冷却構造は、排水管2内の冷気をエンジン6の吸気系へと導く冷気管4を備えているので、従来排出していた排水管2内の冷気を利用してエンジン6の吸気温度を低減させることができる。これにより、充填効率や体積効率を増大させてエンジン出力を向上させることができる。したがって、燃費を悪化させることなくエンジンの動力性能を高めることができる。ゆえに、エンジン負荷の大きい冷房運転時に、特に有益な効果を得ることができる。
【0032】
また、従来排水管2から排出されていた冷気を利用して吸気温度を低下させるため、吸気を冷却するためのエネルギーが不要であり、空調負荷の増大を招くことなくエンジンの動力性能を高めることができる。
また、冷気はエンジン6の吸気負圧でエンジン6側に吸入されるため、冷気の流量や流通方向の制御が不要である。つまり、電子制御装置や制御弁などを設ける必要がなく、排水管2と吸気系との間を冷気管4で接続するだけでよいので、簡素な構成とすることができ、低コスト化が図れる上に既存のエンジンへの適用が容易である。
【0033】
さらに、HVAC1の稼働率が高くなるほど吸気温度の低減量が増加するため、HVAC1及びエンジン6の運転状態に見合った冷気をエンジン6に供給することができる。例えば、外気温が高く吸気温度が上昇しやすい場合、HVAC1は高い稼働率で冷房運転され、エンジンの負荷も増えると考えられるが、車室内の高い冷房効果と共に、吸気温度の高い低減効果を自動的に得ることができる。したがって、HVAC1の冷房に係る稼働率が高くてもエンジンの動力性能を維持して燃費が悪化するのを抑制することができる。
【0034】
(2)また、上記のエンジンの吸気冷却構造では、排水管2が分岐箇所Pから下方に向かって延設され、冷気管4が分岐箇所Pから上方に向かって延設されている。このため、排水管2内の凝結水7と冷気とを分岐箇所Pで確実に分離させることができ、エンジン6側への水分の流入を抑制することができる。
(3)また、上記のエンジンの吸気冷却構造では、冷気管4が吸気系に介装されたエアクリーナ5のフィルタ53よりも上流側に接続されている。このため、冷気中の水蒸気をよりフィルタ53で確実に捕集することができる。これにより、冷気中の水蒸気がエンジン6に供給されてしまうことを防止できる。
【0035】
また、上記のエンジンの吸気冷却構造では、排水管2の下流側部分を構成する第
三パイプ部3
3及び冷気管4の上流側部分を構成する第二パイプ部32が、分岐箇所Pを挟んで直線状に配置されている。このため、凝結水7の移動方向と冷気の移動方向とを正反対にすることができ、冷気から効率的に水分を除去することができる。
【0036】
[4.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0037】
上記には車載空調装置1として、車室内の温度(暖房,冷房)や湿度を調節するものを例示したが、車載空調装置1は少なくともエバポレータ11を備え、車室内を冷房するものであればよい。つまり、上記に示した暖房や湿度調節に係る機能は必須でない。
また、上記には分岐箇所Pに三方分岐パイプ3を介装させるものを例示したが、三方分岐パイプ3を使用せずに排水管2から冷気管4を分岐させてもよい。例えば、冷気管4を排水管2に対して直接的に接続してもよいし、排水管2及び冷気管4を一体で成形してもよい。
【0038】
また、排水管2及び冷気管4は、分岐箇所Pを挟んで直線状に配置されなくてもよく、例えばこれらは分岐箇所Pを挟んで適宜の角度をなすように配置されてもよい。さらに上記には、排水管2が分岐箇所Pを基点として直角に屈曲されたものを例示したが、排水管2の形状はこれに限定されず、適宜の形状に変更可能である。排水管2は、例えば直線状に形成されてもよいし、分岐箇所Pを基点として直角以外の角度で屈曲されてもよい。
【0039】
また、排水管2と冷気管4との間に、排水管2から流れ込んだ凝結水7と冷気とを一旦滞留させてから分離させるような分離室を設けてもよい。
また、冷気管4の形状も上記のものに限定されない。冷気管4は、例えば全長に亘って直線状に延設されてもよいし、蛇行した形状に形成されてもよい。また、冷気管4は、少なくとも排水管2から分岐してエンジン6の吸気系に接続されるものであればよく、その下流端部41bの接続先は、エアクリーナ5に限らず例えば吸気ダクト52や、エアクリーナ5(フィルタ53)の下流側の接続ダクト51であってもよい。この場合も、冷気管4を通じて排水管2内の冷気をエンジン6の吸気系に導くことにより、吸気温度を低減させることができる。