特許第6337569号(P6337569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337569
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】糸条巻取装置と糸条巻取方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 54/36 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   B65H54/36
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-68926(P2014-68926)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189565(P2015-189565A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堤 健博
(72)【発明者】
【氏名】冨田 進之介
(72)【発明者】
【氏名】渡部 諒
【審査官】 西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭52−062323(JP,U)
【文献】 米国特許第03250493(US,A)
【文献】 特開平05−058548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/28 − 54/38
B65H 57/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条を巻き取るための巻取ボビンを支持する巻取ボビン支持部と、前記糸条を捕捉する糸ガイドを有し、糸ガイドを往復運動させることで巻取ボビンに糸条を綾振るトラバース装置とを備えた装置において、
予め糸ガイドの位置を記憶する記憶部と、
巻き始めから巻き終わりに亘って、巻取ボビンに巻き取られたパッケージから直接および間接的に力を受けることなく、記憶された位置に前記糸ガイドを巻取ボビンから離間方向に移動または保持させる駆動部と、
該駆動部に指示する制御部とを設けたことを特徴とする糸条巻取装置。
【請求項2】
糸条を巻き取るための巻取ボビンを支持する巻取ボビン支持部と、前記糸条を捕捉する糸ガイドを有し、糸ガイドを往復運動させることで巻取ボビンに糸条を綾振るトラバース装置とを備えた装置において、
巻取ボビンに巻き取られたパッケージの外径を検出する検出部と、
検出したパッケージ外径に基づいて巻き始めから巻き終わりに亘って、巻取ボビンに巻き取られたパッケージから直接および間接的に力を受けることなく、前記糸ガイドを巻取ボビンから離間方向に移動または保持させ駆動部と、
該駆動部に指示する制御部を設けたことを特徴とす糸条巻取装置。
【請求項3】
前記検出部が、パッケージに非接触であることを特徴とする請求項2記載の糸条巻取装置。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項記載の糸条巻取装置を用いて、巻き始めから巻き終わりにおいて、糸ガイドとパッケージ表面との距離Lxを2〜40mmとし、かつLxの最大最小値LrをLx±1mm以内とすることを特徴とする糸条巻取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糸条の巻取装置と巻取方法に関する。更に詳しくは、低密度で巻き上げても型崩れを起こすことなく、パッケージのまま熱処理、及び染色することができるパッケージを提供する糸条巻取装置と糸条巻取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸条を巻き上げる装置、方法に関しては様々な検討がなされてきている。例えば特許文献1には、カム式のトラバース装置において、パッケージを形成するに際してヤーンガイドのトラバース幅を簡単かつ確実に変更することができるトラバース装置が開示されている。また特許文献2には、羽根トラバース装置で、トラバース軌跡の左右の糸折返し点において、各トラバース羽根間で糸の受渡しを行うことにより、糸を左右の糸折返し点間でトラバースさせるとともに、トラバース幅を変更できる装置が開示されている。該装置によるとクリーピングの実施と、テーパーエンドのパッケージに巻き取ることができるとしている。
【0003】
特許文献1,2記載の技術では、巻太りに応じて糸ガイドの位置を移動させるために、パッケージに直接接触するタッチロールを設けている。
【0004】
特許文献3には、精紡機、撚糸機等における糸条の巻取装置において、パッケージを巻き取るための第一トラバース機構のほかに第二トラバース機構を設け、第一トラバースに重ねて第二トラバースを備える技術が開示されており、これによると、高速巻取可能な糸条巻取装置であり、糸条をパーン状に巻取った際、優れた巻姿が得られると共に解舒性に優れ、輪崩れの生じないパーンを得ることができるとしている。また特許文献4には、供給糸条を綾振りさせることなく、巻取位置が常に一定になるように巻取ボビン自体をトラバースさせ巻き取る方法が開示されている。これによると、ガイドとの接触による糸の損傷を極小にし、また、トラバースによる張力変動の極めて小さいパッケージを得ることができるとしている。
【0005】
特許文献3,4記載の技術では、他のトラバース方式に比べ、はるかに重量のある巻取ボビンを把持するボビンホルダーを備えたスピンドル本体を動作させるため、動的特性の限界から、高速トラバースへの適用は困難であった。
【0006】
特許文献5には、繊維パッケージの形態で固相重合を行っても融着を起こすことがなく、加工性と強度の均一性に優れた総繊度の低い液晶ポリエステル繊維を提供でき、特に優れた特性を持つ液晶ポリエステルモノフィラメントを効率よく製造することができるとされる技術が開示されている。
【0007】
特許文献5記載の技術では、特許文献1〜4に比べれば巻き取りに関する配慮はなされているが、フリーレングス、すなわち糸ガイドと糸条の接点からパッケージと糸条の接点までの距離を一定にして巻き取りの安定性を向上させる着想はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−56755号公報
【特許文献2】特開2002−104729号公報
【特許文献3】特開平5−70037号公報
【特許文献4】特開昭59−48356号公報
【特許文献5】特開2008−214842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
低密度巻きのパッケージは、タッチロールを接触させるだけでパッケージの表層が乱れ、綾崩れを発生させるため、タッチロールを設けた装置では低密度に巻き上げることは困難であることが判明した。また、ボビントラバース方式では、低密度巻きとするために綾角を大きくする、すなわち高速トラバースは困難であることが判明した。また、糸ガイドとパッケージの位置関係の制御無しでは、パッケージ端面での耳立ちや糸落ちが発生し、パッケージから糸条を解舒する際にも糸切れが多発した。
【0010】
上記従来技術では、低密度巻きを型崩れなく良好なパッケージフォームで提供し、糸切れなく解舒安定性に優れたパッケージを巻き上げることは困難であった。
【0011】
本発明は、従来技術の課題を解決し、低密度巻きでも綾崩れなく良好なパッケージフォームを提供でき、糸切れなく解舒安定性に優れたパッケージを巻き上げることができる糸条巻取装置、およびパッケージのまま熱処理、及び染色することができるものを提供する糸条巻取方法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、
1.糸条を巻き取るための巻取ボビンを支持する巻取ボビン支持部と、前記糸条を捕捉する糸ガイドを有し、糸ガイドを往復運動させることで巻取ボビンに糸条を綾振るトラバース装置とを備えた装置において、
予め糸ガイドの位置を記憶する記憶部と、
巻き始めから巻き終わりに亘って、巻取ボビンに巻き取られたパッケージから直接および間接的に力を受けることなく、記憶された位置に前記糸ガイドを巻取ボビンから離間方向に移動または保持させる駆動部と、
該駆動部に指示する制御部とを設けたことを特徴とする糸条巻取装置。
2.糸条を巻き取るための巻取ボビンを支持する巻取ボビン支持部と、前記糸条を捕捉する糸ガイドを有し、糸ガイドを往復運動させることで巻取ボビンに糸条を綾振るトラバース装置とを備えた装置において、
巻取ボビンに巻き取られたパッケージの外径を検出する検出部と、
検出したパッケージ外径に基づ基づいて巻き始めから巻き終わりに亘って、巻取ボビンに巻き取られたパッケージから直接および間接的に力を受けることなく、前記糸ガイドを巻取ボビンから離間方向に移動または保持させ駆動部と、
該駆動部に指示する制御部を設けたことを特徴とす糸条巻取装置。
【0013】
3.前記検出部が、パッケージに非接触である上記2.項記載の糸条巻取装置。
4.記1.〜.項に記載の糸条巻取装置を用いて、巻き始めから巻き終わりにおいて、糸ガイドとパッケージ表面との距離Lxを2〜40mmとし、かつLxの最大最小値LrをLx±1mm以内とすることを特徴とする糸条巻取方法。
により解決することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、低密度巻きでも綾崩れなく良好なパッケージフォームを有し、糸切れなく解舒安定性に優れたパッケージを巻き上げることができ、かつ、そのパッケージは、そのまま熱処理、及び染色することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のタッチロールレス方式糸条巻取装置の概略図
図2】従来方式のガイドトラバース方式糸条巻取装置の概略図
図3】従来方式のボビントラバース方式糸条巻取装置の概略図
図4図1の斜投影図
図5】糸条巻取装置の制御ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般的な糸条巻取方法としては、巻取ボビンを静置し、糸条を糸ガイドで保持して往復トラバースさせるガイドトラバース方式(図2)、糸条の給糸位置を固定し、巻取ボビンを往復トラバースさせるボビントラバース方式(図3)がある。
【0017】
本発明は糸条を綾振るガイドトラバース方式を採用しているが、パッケージ表面に接触し、パッケージ形状を整えるはずのタッチロールを無くした点が画期的な糸条巻取装置である。
【0018】
以下、図を参照しつつ、本発明の一実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態の糸条巻取装置の概略図である。図1に示される糸条巻取装置は、下方から供給される糸条Yをトラバース装置4に備わった糸ガイド3で保持し、この糸ガイド3を往復運動させることでスピンドル5に備わったボビンホルダー2に装着された巻取ボビン1に糸条Yを綾振り、パッケージ6を形成させるものである。
【0020】
本発明は、従来方式の図2と比較して明らかなように、パッケージに接触するロール、すなわちタッチロールを使用していないことが特徴である。
【0021】
従来から用いられてきたタッチロールは、パッケージを巻き取る際に、パッケージ表面に接触することで面圧を一定に保ち、パッケージ表面を平滑にし、パッケージフォームを整える役割を担ってきた。しかしながら低密度巻きのパッケージでは、タッチロールに接触しただけでパッケージの表層が乱れ、綾崩れを発生させる。
【0022】
また、タッチロールはパッケージを一定の圧力で押し続けることで、パッケージの巻量が増加してくるとともに発生するタッチロールを押し返す力を利用して、タッチロールと一体となった糸ガイドをパッケージから離れる方向に移動させる役割を有し、このようにして、糸ガイドがパッケージに接触することを防いでいた。
【0023】
さらに、フリーレングスを一定に保つ役割を果たしていた。フリーレングスとは糸ガイドと糸条の接点からパッケージと糸条の接点までの距離を指し、このフリーレングスをコントロールすることで、パッケージ両端部で糸が外れる、いわゆる糸落ちを抑制し、巻きフォームを良好にし、糸切れを防止している。
【0024】
以上の観点から、従来の糸条巻取装置では、設備構成上タッチロールと糸ガイドを切り離すことができず、パッケージ表層を乱し綾崩れの発生原因であるタッチロールを無くすことは困難であった。
【0025】
本発明は、このタッチロールを無くしたにもかかわらず、綾落ちや耳立ちのない良好なパッケージフォームを提供し、低密度巻きを可能としたものである。
【0026】
本発明の糸条巻取装置(図1)は、糸条Yを巻き取るための巻取ボビン1を支持するボビンホルダー2と、糸条Yを捕捉する糸ガイド3を有し、この糸ガイド3をトラバースすることで、糸条Yを綾振りさせてパッケージ6を形成させる。糸ガイド3は巻き取り中のパッケージ6からの影響を全く受けない構造を採用している。すなわち、パッケージの巻き始めから巻き終わりにおいて、パッケージ表面に接触するタッチロールは存在しておらず(以下、タッチロールレスと称する)、独自にフリーレングスをコントロールする機構を備えている。以下、タッチロールレス技術について詳細に説明する。
【0027】
従来の巻取装置では、タッチロールがない場合、パッケージ径が変化しても糸ガイドの位置を変化できない。つまり、巻径の変化によってフリーレングスを制御することができない。本発明の糸ガイドはタッチロールレスのため、巻取ボビンに巻き取られるパッケージからは、直接的にも間接的にも全く力を受けることはない。そして、この糸ガイドはパッケージの巻量が増加するに従い、巻取ボビンから「離間方向」に移動する方式を独自に採用してフリーレングスを制御するものである。
【0028】
ここでいう「離間方向」について図4を参照しつつ説明する。離間方向とは、ボビン軸線14と糸ガイドのトラバース動線15がなす角度を維持しながら、ボビン軸線14と糸ガイドのトラバース動線15の2線分がなす距離を広げる方向をいう。これは、移動するトラバース動線15の軌跡が平面もしくは曲面になってもよい。概念としては、巻取ボビン1に巻き取られるパッケージ6が巻量を増加するに従い、糸ガイド3がパッケージとの位置関係を保ちつつ巻取ボビン1から離れる方向を指している。そして、本発明はパッケージ6の巻量変化とともにその離間方向に糸ガイド3を移動させる構成を提案するものである。
【0029】
糸ガイド3を離間方向に移動させる構成について、図4図5を参照しつつ説明する。巻取ボビン1に巻き取られるパッケージ外径を刻々と検出する検出部16を設け、この検出部16で検出したパッケージ外径に基づいて、糸ガイド3をある設定したフリーレングスとなるようにコントロールさせることが好ましい。このコントロールは制御部17が担うことが好ましく、制御部17からの指示は駆動部7に伝達され、駆動部7は制御部17からの指示に従い、糸ガイド3を移動または保持させる。
【0030】
そして、この検出部16はパッケージには接触していないことが好ましく、非接触式の外径測定方法を採用する。このような方式で検出したパッケージの外径を制御部17が受け取り、適正なフリーレングスとなる糸ガイド3の位置を算出し、その位置に移動するように、駆動部7に指示する。
【0031】
あるいは、パッケージの巻き始めから巻き終わりにかけて、理想的なパッケージフォームを形成することができる糸ガイド3の位置を記憶する記憶部18を設けて、この記憶部18に記憶させた移動パターンに従って糸ガイド3の位置を移動または保持させるように制御部17が駆動部7に指示することが好ましい。
【0032】
以上、本発明のタッチロールレス技術は、パッケージの巻き始めから巻き終わりにおいて、糸ガイドの位置を独自に制御することで、低密度のソフト巻きでも型崩れすることなく良好なパッケージフォームを提供でき、パッケージのまま熱処理、及び染色してもパッケージの表層から内層にわたり良好な品質が得られ、また糸切れなく解舒安定性に優れたパッケージを巻き上げることができる。
【0033】
次に本発明の糸条巻取装置を用いた糸条巻取方法を示す。
【0034】
本発明の糸条巻取方法は、前記した如く、供給された糸条を糸ガイドで保持させ、この糸ガイドの往復運動によりボビンホルダーに装着された巻取ボビンに糸条を綾振り、パッケージを形成させるものである。
【0035】
そして、本発明はパッケージの低密度巻きが好適である。まず、巻密度とは、パッケージの体積V(cc)とパッケージの重量W(g)からW/Vにより計算される値を言う。なお体積Vはパッケージの外形寸法を実測するか、写真を撮影し写真上で外形寸法を測定し、パッケージが回転対称であることを仮定して計算することでも求められる。また、Wはパッケージの重量を実測する。
【0036】
本発明において、低密度巻きとは巻き上げたパッケージの巻密度が0.01〜0.8g/ccの範囲が好ましい。このような低密度パッケージに巻き上げると、解舒時に張力変動が抑えられ、解舒性の悪化を防止できるので好ましい。また、パッケージのまま熱処理しても融着することがなく、更に、パッケージのまま染色しても染色ムラを起こすことがないので好ましい。さらに、巻密度が小さいほど熱処理での融着と染色における染色ムラを抑制できるため、0.5g/cc以下がより好ましい。また、0.03g/cc以上とすることでパッケージの巻崩れを防止できるので、より好ましい。
【0037】
次に、本発明のタッチロールレス技術においては、フリーレングスすなわち糸ガイドとパッケージ表面との距離Lxを2〜40mmとするものである。ここで、距離Lxは、糸ガイドと糸条の接点からパッケージと糸条の接点までの距離を指し、Lxが2mm以上あることで、糸ガイドとパッケージ間の必要最小限の距離を保つことが可能となり、糸ガイドとパッケージが接触するというリスクの回避ができるので好ましい。また、Lxが40mm以下であればパッケージの両端面で発生する耳立ちや、糸落ちの発生、ひいては糸切れを押さえることができるので好ましい。より好ましくはLxを20mm以下、さらに好ましくは、Lxを10mm以下とするのがよい。
【0038】
そして、Lxの最大最小値LrはLx±1mm以内とする。Lxは上述した如く、糸ガイドとパッケージとの距離を示しているが、この距離Lxと同様に重要な値が、Lxにおけるバラツキの幅であり、この値はLx±1mm以内に制御することが好ましい。より好ましくはLrをLx±0.5mm以内に制御するのがよい。このLrが大きく変動するということは、とりもなおさずフリーレングスの長さが変化することであり、これはパッケージにおける端面形成に大きな影響を与えることになる。フリーレングスの長さによって糸条のトラバースへの追従性は決定され、この長さが一定でなくなり、Lxのバラツキが大きくなると糸条への乱れが生じ、パッケージフォームに影響を与え、巻き形状が不良となり、段付き、耳立ち、糸落ち、糸切れを誘発させることになる。
【0039】
本発明に用いられる糸条において、特定の天然繊維、化学繊維に限定されることなく、低密度巻きが必要とされる繊維の巻き取りを可能とする。そして、糸条の形態も特定のモノフィラメント、マルチフィラメントに限定されることなく、低密度巻きが必要とされる糸条形態に適用が可能である。
【実施例】
【0040】
次にフリーレングスとパッケージ形成効果を確認するための試験について説明する。確認試験では、上記の糸条巻取装置を用い、チーズ巻パッケージの耳立ち具合と端面形状の仕上がり具合と、フリーレングスとの関係を調査した。なお、実施例中の評価は以下の方法に従った。
【0041】
(1)フリーレングス最大最小値Lr
フリーレングスは、パッケージの外径を非接触で検出する変位センサの測定値と電動シリンダーの位置データから得られる糸ガイドの位置の二つの結果から、幾何学的に算出した。このフリーレングスの算出結果は巻取中のトレンドデータとして取得しておき、そのデータから最大最小値Lrの結果を取得した。
【0042】
(2)耳立ち
巻き上がったチーズ巻パッケージの表面中央部から表面端部に形成される膨らみの高さを定規を用いて計測した。パッケージ10個の平均値で判定した。合格レベルは2mm以下である。
【0043】
(3)パッケージ糸落ち
巻き上がったチーズ巻パッケージの両端面を目視にて検査し、糸落ち数を数えた。パッケージ10個の平均値で判定した。合格レベルはA、BまたはCである。
A:糸落ちなし
B:長さ1cm未満の軽微な糸落ち1〜2箇所
C:長さ1cm未満の軽微な糸落ち3〜5箇所
D:長さ1cm以上の糸落ちあり、もしくは長さ1cm未満の軽微な糸落ち6箇所以上。
【0044】
(実施例1)
神津製作所製プレシジョンワインダーSSP−MVのカムボックス部(トラバース装置4)に、IAI製電動シリンダーRCP−SA3C(駆動部7)をリンク機構8で接続し、カムボックスに備わっている糸ガイド3を移動できるようにした。この巻取装置を用いて、ポリエステルマルチフィラメント(84dtex,フィラメント数36)を外径110mmの紙管製巻取ボビン1に巻幅200mm、直径140mmのチーズ巻パッケージとなるように、巻取速度400m/min、ワインド数8.722で巻き取りした。その際、キーエンス製変位センサIL−065でパッケージ外径を検出し、検出したパッケージ径に基づき、フリーレングスLxが2mmになるように、電動シリンダーを駆動させて糸ガイドを移動させた。また、巻き取り張力を0.1cN/dtexとし、巻密度が0.3〜0.5g/ccとなるようにした。
【0045】
(実施例2)
フリーレングスLxを10mmとする以外は実施例1と同様の方法でチーズ巻パッケージを得た
(実施例3)
フリーレングスLxを20mmとする以外は実施例1と同様の方法でチーズ巻パッケージを得た
(実施例4)
フリーレングスLxを40mmとする以外は実施例1と同様の方法でチーズ巻パッケージを得た
(比較例1)
フリーレングスLxを60mmとする以外は実施例1と同様の方法でチーズ巻パッケージを得た
(比較例2)
フリーレングスLxの最大最小値LrがLx±1mmを超えるように電動シリンダーを駆動させて糸ガイドを移動させる以外は、実施例3と同様の方法でチーズ巻パッケージを得た。
【0046】
(実施例1〜4および比較例1の評価)
実施例1〜4および比較例1のパッケージ評価結果を表1に示す。フリーレングスを60mmとすると、耳立ちが大きくなり、端面で、糸落ちが発生した。フリーレングスは極力小さくすることが良いが、本発明においては、40mmとしても巻き取ることができた。
【0047】
【表1】
【0048】
(実施例3および比較例2の評価)
実施例3および比較例2のパッケージ評価結果を表2に示す。フリーレングスの最大最小値LrがLx±1mmを超える場合、端面の糸落ちが発生し易くなった。巻取中にフリーレングスのバラツキが大きくなると、端面部での巻取位置に変化が起きるためである。
【0049】
【表2】
【符号の説明】
【0050】
Y.糸条
1.巻取ボビン
2.ボビンホルダー
3.糸ガイド
4.トラバース装置
5.スピンドル
6.パッケージ
7.駆動部
8.リンク機構
11.タッチロール(プレッシャーローラー)
12.スピンドルモーター
13.スピンドルトラバース装置
14.ボビン軸線
15.トラバース動線
16.検出部
17.制御部
18.記憶部
図1
図2
図3
図4
図5