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特許6337577伝導ノイズ解析方法及び伝導ノイズ解析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337577
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】伝導ノイズ解析方法及び伝導ノイズ解析装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20180528BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   G06F17/50 666V
   G06F17/50 612H
   H05K3/00 D
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-77408(P2014-77408)
(22)【出願日】2014年4月4日
(65)【公開番号】特開2015-200919(P2015-200919A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】下村 潤一
(72)【発明者】
【氏名】山田 真一
(72)【発明者】
【氏名】池田 勇
(72)【発明者】
【氏名】西口 哲也
【審査官】 平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−204859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実行する配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズ解析方法であって、
前記コンピュータが、
前記複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えるステップと、
前記ステップを実行して得られた前記接続部のビア数を削減したビアモデルを用いて前記基板の解析を行うステップと、
を実行することを特徴とする伝導ノイズ解析方法。
【請求項2】
コンピュータが実行する配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズ解析方法であって、
前記コンピュータが、
前記複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換えるステップと、
前記ステップを実行して得られた前記接続部のビア数を削減したビアモデルを用いて前記基板の解析を行うステップと、
を実行することを特徴とする伝導ノイズ解析方法。
【請求項3】
前記複数のビアは、前記接続部に設けられたすべてのビアから選択された一部のビアである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の伝導ノイズ解析方法。
【請求項4】
前記接続部に設けられたすべてのビアから選択された一部のビアを、当該一部のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換え、
前記接続部に設けられたビアのうち選択されなかった残りのビアを、当該残りのビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換える
ことを特徴とする請求項に記載の伝導ノイズ解析方法。
【請求項5】
コンピュータが実行する配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズ解析方法であって、
前記コンピュータが、
インバータに接続される基板の複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換え、コンバータに接続される基板の複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えるステップと、
前記ステップを実行して得られた前記接続部のビア数を削減したビアモデルを用いて前記基板の解析を行うステップと、
を実行することを特徴とする伝導ノイズ解析方法。
【請求項6】
コンピュータが実行する配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズ解析方法であって、
前記コンピュータが、
予め計測された前記基板に流れるノイズ電流に基づいて、ノイズ電流が多く流れている配線の複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換え、ノイズ電流が多く流れていない配線の複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えるステップと、
前記ステップを実行して得られた前記接続部のビア数を削減したビアモデルを用いて前記基板の解析を行うステップと、
を実行することを特徴とする伝導ノイズ解析方法。
【請求項7】
配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズを解析する伝導ノイズ解析装置であって、
前記複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えることによって、前記接続部のビア数を削減したビアモデルを作成し、
該ビアモデルを用いて伝導ノイズの解析を行う
ことを特徴とする伝導ノイズ解析装置。
【請求項8】
配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズを解析する伝導ノイズ解析装置であって、
前記複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換えることによって、前記接続部のビア数を削減したビアモデルを作成し、
該ビアモデルを用いて伝導ノイズの解析を行う
ことを特徴とする伝導ノイズ解析装置。
【請求項9】
配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズを解析する伝導ノイズ解析装置であって、
インバータに接続される基板の複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換え、コンバータに接続される基板の複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えることによって、前記接続部のビア数を削減したビアモデルを作成し、
該ビアモデルを用いて伝導ノイズの解析を行う
ことを特徴とする伝導ノイズ解析装置。
【請求項10】
配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズを解析する伝導ノイズ解析装置であって、
予め計測された前記基板に流れるノイズ電流に基づいて、ノイズ電流が多く流れている配線の複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換え、ノイズ電流が多く流れていない配線の複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えることによって、前記接続部のビア数を削減したビアモデルを作成し、
該ビアモデルを用いて伝導ノイズの解析を行う
ことを特徴とする伝導ノイズ解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器や電子機器の基板の伝導ノイズ解析技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器や電子機器のプリント基板等において、プリント基板の抵抗、インダクタンス及び静電容量に応じて伝導ノイズが発生する。伝導ノイズの算出は、まず、電磁解析ソフト等を用いて、プリント基板の抵抗、インダクタンス及び静電容量等を算出し、次に、算出された数値を回路シミュレータに入力して行われる(例えば、特許文献1)。
【0003】
図6に示す回路図を参照して伝導ノイズの解析方法について説明する。この回路図は、伝導ノイズの解析対象の一例である可変速変換装置の要部の回路図である。図6に示すように、可変速変換装置24は、交流から直流に変換するコンバータ25と、直流電圧を平滑する平滑コンデンサ26と、直流から交流に変換するインバータ27と、を有する。
【0004】
コンバータ25には電線28を介して交流電源29が接続され、インバータ27には電線30を介してモータ31が接続される。
【0005】
伝導ノイズを解析する場合、交流入力側にLISN32(Line impedance stabilization network:擬似電源回路網)が接続され、伝導ノイズ電流が流れる内部抵抗の電圧(すなわち、雑音端子電圧)に基づいて、伝導ノイズの解析が行われる。
【0006】
伝導ノイズの解析は、回路図面通りのモデルでは行うことができない。つまり、図7に示すように、回路図面通りのモデルに浮遊成分を追加し、浮遊インダクタンス、浮遊静電容量及び浮遊抵抗成分といった回路図に表されない成分を考慮して、伝導ノイズの解析が行われる。
【0007】
図7に示す回路において、Lp、Cpは、それぞれ、プリント基板の浮遊インダクタンス、浮遊静電容量を示す。Lp、Cpの値は、プリント基板のパターンによって異なるものであり、各Lp、Cpはそれぞれ異なる値を有する。また、Lpと直列に、図示されていない抵抗成分も存在する。
【0008】
Lc、Ccは、それぞれ、電線28,30の浮遊インダクタンス、浮遊静電容量を示す。Lc、Ccの値は、電線28,30の長さによって異なるものであり、コンバータ25側のLc、Ccとインバータ27側のLc、Ccでは異なる値となる。また、Lcと直列に、図示されていない抵抗成分も存在する。
【0009】
Ldcは、平滑コンデンサ26の浮遊インダクタンスを示す。Ldcと直列に、図示されていない抵抗成分も存在する。Cmは、モータの浮遊静電容量を示す。
【0010】
この他にも、電力用半導体素子であるIGBTやダイオード内にも浮遊インダクタンス、浮遊静電容量及び抵抗成分が存在している。
【0011】
これら浮遊インダクタンス、浮遊静電容量及び抵抗成分は、一般的に、インピーダンスアナライザで測定するか、電磁界解析ソフトで計算することにより求めることができる。
【0012】
図8は、図6の回路図にプリント基板のパターン33を追加した図である。図8に示すように、電線28,30及び平滑コンデンサ26は、分岐がなく、回路の2点間を接続している。このような単純な接続部の浮遊インダクタンス、浮遊静電容量及び抵抗成分は、インピーダンスアナライザで容易に求めることができる。
【0013】
これに対して、プリント基板のパターン33は、電力用半導体素子34(IGBTやダイオード等)間の接続や、電力用半導体素子34と電線30との接続、電力用半導体素子34と平滑コンデンサ26との接続等を行う役割があるので、配線が多岐にわたり、複雑である。このような複雑な配線の浮遊インダクタンス、浮遊静電容量及び抵抗成分をインピーダンスアナライザで求めることは容易ではない。そこで、一般的に、プリント基板のパターン33の浮遊インダクタンス、浮遊静電容量及び抵抗成分は電磁界解析ソフトにより求められることとなる。
【0014】
電磁界解析ソフトでは、プリント基板のパターン図データ、絶縁体である基板や基板上に形成されたパターン等の材料データ、及び、基板の積層数や基板の積層間隔データ等、から有限要素法や境界要素法を用いて、インダクタンス、静電容量、抵抗の解析が行われる。電磁界解析ソフトとしては、例えば、ANSYS Q3D Extractor(アンシス・ジャパン社製)等の種々の解析ソフトが一般に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−204859号公報
【特許文献2】特開2006−135152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
近年のプリント基板は、ウエハース状に絶縁体とパターンとを積み重ねた多層基板が用いられており、各層のパターン間は複数のビア(基板を垂直に貫通する穴の内側に導体メッキを形成したもの)により接続されている。
【0017】
このような多層基板を電磁界解析ソフトで解析する場合、複雑で膨大なパターンモデルをメッシュで区切り、さらに各ビアモデルをメッシュで区切り、有限要素法や境界要素法を用いて、インダクタンス、静電容量及び抵抗成分の解析が行われる。そのため、膨大な解析時間が必要となるおそれがある。
【0018】
上記事情に鑑み、本発明は、伝導ノイズの解析時間の短縮に貢献する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成する本発明の伝導ノイズ解析方法の一態様は、配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズ解析方法であって、前記複数のビアを、各ビアの底面積の和と等しい底面積を有するビアまたは各ビアの側面積の和と等しい側面積を有するビアに置き換えることによって、前記接続部のビア数を削減したビアモデルを用いて前記基板の解析を行うことを特徴としている。
【0020】
また、上記目的を達成する本発明の伝導ノイズ解析方法の他の態様は、前記伝導ノイズ解析方法において、前記複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えることを特徴としている。
【0021】
また、上記目的を達成する本発明の伝導ノイズ解析方法の他の態様は、前記伝導ノイズ解析方法において、前記複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換えることを特徴としている。
【0022】
また、上記目的を達成する本発明の伝導ノイズ解析方法の他の態様は、前記伝導ノイズ解析方法において、前記複数のビアは、前記接続部に設けられたすべてのビアから選択された一部のビアであることを特徴としている。
【0023】
また、上記目的を達成する本発明の伝導ノイズ解析方法の他の態様は、前記伝導ノイズ解析方法において、前記接続部に設けられたすべてのビアから選択された一部のビアを、当該一部のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換え、前記接続部に設けられたビアのうち選択されなかった残りのビアを、当該残りのビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えることを特徴としている。
【0024】
また、上記目的を達成する本発明の伝導ノイズ解析方法の他の態様は、前記伝導ノイズ解析方法において、インバータに接続される基板の複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換え、コンバータに接続される基板の複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えることを特徴としている。
【0025】
また、上記目的を達成する本発明の伝導ノイズ解析方法の他の態様は、前記伝導ノイズ解析方法において、予め前記基板に流れているノイズ電流を計測し、ノイズ電流が多く流れている配線の複数のビアを、該複数のビアの側面積の和と等しい側面積を有する一つのビアに置き換え、ノイズ電流が多く流れていない配線の複数のビアを、該複数のビアの底面積の和と等しい底面積を有する一つのビアに置き換えることを特徴としている。
【0026】
また、上記目的を達成する本発明の伝導ノイズ解析装置の一態様は、配線の接続部に複数のビアを有する基板の伝導ノイズを解析する伝導ノイズ解析装置であって、前記複数のビアを、各ビアの底面積の和と等しい底面積を有するビアまたは各ビアの側面積の和と等しい側面積を有するビアに置き換えることによって、前記接続部のビア数を削減したビアモデルを作成し、該ビアモデルを用いて伝導ノイズの解析を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
以上の発明によれば、伝導ノイズの解析時間の短縮に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る伝導ノイズ解析装置の概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る伝導ノイズの解析方法のフローチャートである。
図3】(a)ビアモデルの一例の斜視図、(b)ビアモデルの一例の底面図である。
図4】(a)9つのビアを有する基板モデルを示す図、(b)図4(a)の基板モデルを等底面積モデルで簡略化した図、(c)図4(a)の基板モデルを等側面積モデルで簡略化した図である。
図5】(a)25個のビアを有する基板モデルを示す図、(b)図5(a)の基板モデルを等底面積モデルで簡略化した図、(c)図5(a)の基板モデルを部分等側面積モデルで簡略化した図である。
図6】可変速変換装置の回路図である。
図7図6に示した回路図の浮遊成分を示す図である。
図8図6に示した回路図の接続部の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る伝導ノイズ解析方法及び伝導ノイズ解析装置について、図を参照して詳細に説明する。
【0030】
本発明は、プリント基板のビアの数を削減する変換を行ったプリント基板モデルを用いて、プリント基板の伝導ノイズを解析することで、電磁界解析ソフトで算出される、基板の浮遊インダクタンス、浮遊静電容量及び抵抗(以後、浮遊成分と称する)等の解析時間を短縮するものである。
【0031】
プリント基板モデルを簡略化する方法として、プリント基板の形状を変化させることが考えられるが、この方法を用いると、結果として得られる浮遊成分の算出誤差が大きくなるおそれがある。これに対して、ビアの数を削減する変換を行うことで、浮遊成分の算出誤差を大きくすることなく、浮遊成分等の解析時間を削減することができる。
【0032】
図1を参照して、本発明の実施形態に係る伝導ノイズ解析装置について説明する。伝導ノイズ解析装置1は、コンピュータ2と、入力装置3と、出力装置4とを有する。
【0033】
コンピュータ2は、演算処理を行うCPU(演算装置)5と、プログラム等を記憶するROM6と、CPU5の作業領域となるRAM7と、各種設定データ等を記憶するHDD8と、を有する。なお、プログラムは、ROM6に限らず、HDD8やRAM7に記憶されていてもよい。
【0034】
入力装置3は、操作者の入力を受けるデバイスであり、例えば、キーボードやマウス等である。
【0035】
出力装置4は、コンピュータ2の解析結果を出力するデバイスであり、例えば、ディスプレイやプリンタ等である。
【0036】
CPU5は、RAM7をワークエリアとして、ROM6やHDD8に記録されたプログラムを実行する。例えば、CPU5がROM6に格納されたプログラムを実行して、図2に示した各ステップを実行する。すなわち、CPU5とROM6に格納したプログラムとの協働動作によって、回路基板に形成される配線のデータを取得する配線データ取得部9と、取得された配線データのビアモデルを変換するビアモデル変換部10と、ビアモデルが変換された配線データの浮遊成分を解析する浮遊成分解析部11と、浮遊成分を考慮した配線データに基づいて伝導ノイズを解析する伝導ノイズ解析部12と、が具現化される。
【0037】
図2を参照して、本発明の実施形態に係る伝導ノイズの解析方法について説明する。
【0038】
配線データ取得ステップS1では、配線データ取得部9が、解析対象となる回路基板に形成される配線のレイアウトデータを含む配線データを取得する。レイアウトデータは、例えば、配線パターンの形状データ(原点座標、パターン長、パターン幅等)である。多層基板の場合には、各層毎の配線パターンの形状データを取得する。具体的には、配線データ取得部9が、入力装置3の入力に応じて回路基板のレイアウトを示す画像データを生成して出力装置4に表示させる。
【0039】
ビアモデル変換ステップS2では、ビアモデル変換部10が、配線データ取得ステップS1で生成した配線から、複数のビアにより接続されている配線を抽出し、この接続部のビアを簡略化する処理を行う。ビアモデル変換ステップS2では、目的に応じて複数のビアを「等底面積モデル」または「等側面積モデル」に変換し、ビアモデルの簡略化を図る。
【0040】
図3(a)のビアモデルを例として、複数のビア13を「等底面積モデル」または「等側面積モデル」に変換する方法について説明する。この例では、配線の接続部が9つのビア13で接続されている。9つのビア13は、すべて同形であり、直径r、高さLの円柱状である。
【0041】
「等底面積モデル」は、複数のビア13を、各ビア13の底面積の和と等しい底面積を有する一つ(または複数)のビアに変換するビア13の簡略化方法である。また、「等側面積モデル」は、複数のビア13を、各ビア13の側面積の和と等しい側面積を有する一つ(または複数)のビアに変換するビア13の簡略化方法である。
【0042】
ビア13の数を一般化してN個(図3(a)の例では、N=9)とした場合、すべてのビア13の底面積の和をA1、すべてのビア13の側面積の和をA2とすると、A1、A2は、それぞれ式(1−1)、式(1−2)で表される。
【0043】
【数1】
【0044】
したがって、「等底面積モデル」で変換された一つのビアの底面の直径をr1、「等側面積モデル」で変換された一つのビアの底面の直径をr2とすると、r1、r2は、それぞれ式(2−1)、式(2−2)で表される。
【0045】
【数2】
【0046】
このように、複数のビア13を、複数のビア13の底面の全体面積が等しい一つのビア(「等底面積モデル」)、または、複数のビア13の側面の全体面積が等しい一つのビア(「等側面積モデル」)に置き換えることによって、ビア13を簡略化し、電磁界解析ソフトの解析時間(すなわち、伝導ノイズの解析時間)の短縮化を図る。
【0047】
浮遊成分解析ステップS3では、浮遊成分解析部11が、「等底面積モデル」または「等側面積モデル」に簡略化された基板モデルをメッシュ分割し、各メッシュ間に生じ得る結合を等価回路モデル化して回路基板の浮遊成分(インダクタンス、静電容量、抵抗)を算出する。浮遊成分は、例えば、境界要素法や有限要素法により、CADによって描かれた形状データ(3Dモデル)と材料特性等に基づいて算出される。
【0048】
伝導ノイズ解析ステップS4では、伝導ノイズ解析部12が、被解析対象の回路図、浮遊成分解析ステップS3で算出された浮遊成分、モデル化されたLISN回路を考慮し、回路シミュレータを用いて伝導ノイズを解析する。すなわち、伝導ノイズ解析ステップS4では、LISNを用いた評価方法によって得られる伝導ノイズ(実測結果)を、回路シミュレーションによって解析する。
【0049】
次に、具体的な実施例を示して、本発明の実施形態に係る伝導ノイズ解析方法についてより詳細に説明する。実施例の説明では、本発明の特徴となる部分(ビアモデル変換ステップS2及び浮遊成分解析ステップS3)について詳細に説明する。なお、浮遊成分解析ステップS3で得られる解析値は、多少の誤差があるものの、いずれの変換を行った場合でも、後の伝導ノイズ解析ステップS4では、ほぼ同じ結果を得ることができた。
【0050】
[実施例1]
実施例1では、ビアモデル変換ステップS2において、配線の接続部に形成された複数のビアを一つのビアに変換した。
【0051】
具体的には、図4(a)に示すような、配線14と配線15との接続部16に9つのビア13(直径r)があるビアモデル(以後、「詳細モデル1」と称する)の簡略化を行った。
【0052】
図4(a)に示す「詳細モデル1」を、式(2−1)に基づいて「等底面積モデル」に変換すると、図4(b)に示すように、9つのビア13は、直径3rの一つのビア19に変換されることとなる。
【0053】
また、「詳細モデル1」を、式(2−2)に基づいて「等側面積モデル」に変換すると、図4(c)に示すように、9つのビア13は、直径9rの一つのビア20に変換されることとなる。
【0054】
図4(a)乃至図4(c)の各ビアモデルを電磁界解析ソフト(ANSYS Q3D Extractor:アンシス・ジャパン社製)を用いて解析した。具体的に説明すると、図4(a)乃至図4(c)のいずれかのパターンの図面データ、材料データ及びプリント板の層間に絶縁体が挿入されている場合は、その絶縁体のデータ等を、電磁界解析ソフトに入力し、端子17と端子18との間のインダクタンス値、抵抗値、パターンとグラウンド間の静電容量を解析した。電磁界解析ソフトによる解析結果を表1に示す。なお、表1には、解析されたインダクタンス値、抵抗値、静電容量とともに、パターンを解析するために用いられたメッシュの数及び解析に要した時間を併記している。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、静電容量、交流抵抗(及び交流インダクタンス)、直流抵抗(直流インダクタンス)のいずれの解析においても、「等底面積モデル」に簡略化したモデルの計算時間が最も短かった。
【0057】
また、交流抵抗(及び交流インダクタンス)の解析では、「等側面積モデル」に簡略化したモデルの解析結果の方が、「等底面積モデル」に簡略化したモデルの解析結果よりも「詳細モデル1」に近い値を得ることができた。これは、交流の場合、電流は表皮効果により導体の表面を流れることが知られており、側面積が等しいビアに変換する「等側面積モデル」の方が、より「詳細モデル1」の接続状態を反映しているものと考えられる。
【0058】
一方、直流抵抗(及び直流インダクタンス)の解析では、「等底面積モデル」に簡略化したモデルの解析結果と「等側面積モデル」に簡略化したモデルの解析結果とではほとんど差がなかったが、直流抵抗の解析結果を比較すると、「等底面積モデル」に簡略化したモデルの解析結果の方がより「詳細モデル1」に近い値であった。これは、直流電流は、導体の中を通るので、底面積(断面積)が等しくなるような変換を行う「等底面積モデル」の方がより「詳細モデル1」の接続状態を反映しているものと考えられる。
【0059】
この解析結果より、解析時間や直流抵抗(及び直流インダクタンス)の精度を優先する場合には「等底面積モデル」を使用し、交流抵抗(及び交流インダクタンス)の精度を優先する場合には「等側面積モデル」を使用すればよいことがわかる。
【0060】
[実施例2]
ビアモデルを簡略化するためには、ビアの数を可能な限り少なくすることが求められる。しかしながら、配線(プリントパターン)の面積に対して、ビアの数が多くなると、「等側面積モデル」では、簡略化後のビアモデルが配線上に収まりきれない場合がある。
【0061】
そこで、実施例2では、ビアモデル変換ステップS2において、「等底面積モデル」への変換は、配線の接続部に形成される複数のビアを一つのビアに変換し、「等側面積モデル」への変換は、複数のビアから選択した一部のビアを一つのビアに変換した。以後、この変換を「部分等側面積モデル」と称する。
【0062】
具体的には、図5(a)に示すような、配線14と配線15の接続部16に25個のビア21(直径r)があるビアモデル(以後、「詳細モデル2」と称する)の簡略化を行った。
【0063】
図5(a)に示す「詳細モデル2」を、式(2−1)に基づいて「等底面積モデル」に変換すると、図5(b)に示すように、25個のビア21は、直径5rの一つのビア22に変換されることとなる。
【0064】
また、「詳細モデル2」を、式(2−2)に基づいて「等側面積モデル」に変換すると、25個のビア21は、直径25rの一つのビアに変換されることとなる。しかしながら、直径25rのビアの底面積は、接続部16の面積を超えてしまう。そこで、変換後のビアが接続部16内に収まる範囲で、ビア21の一部を「等側面積モデル」に変換する。例えば、図5(c)に示すように、4つのビア21を一つの「等側面積モデル」のビア23に変換し、合計16個のビア21を4つのビア23に変換して、ビアモデルの簡略化を図る。
【0065】
実施例1と同様に、図5(a)乃至図5(c)の各ビアモデルを電磁界解析ソフト(ANSYS Q3D Extractor:アンシス・ジャパン社製)を用いて解析した。電磁界解析ソフトによる解析結果を表2に示す。なお、表2には、解析されたインダクタンス値、抵抗値、静電容量とともに、パターンを解析するために用いられたメッシュの数及び解析に要した時間を併記している。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示すように、静電容量、交流抵抗(及び交流インダクタンス)、直流抵抗(直流インダクタンス)のいずれの解析においても、「等底面積モデル」に変換したモデルの計算時間が最も短かった。
【0068】
また、交流抵抗(及び交流インダクタンス)の解析では、「部分等側面積モデル」に変換したモデルの解析結果の方が、「等底面積モデル」に変換したモデルの解析結果よりも「詳細モデル2」に近い値を得ることができた。これは、交流の場合、電流は表皮効果により導体の表面を流れることが知られており、側面積が等しいビアに変換する「部分等側面積モデル」の方が、より「詳細モデル2」の接続状態を反映しているものと考えられる。
【0069】
一方、直流抵抗(及び直流インダクタンス)の解析では、「等底面積モデル」に変換したモデルの解析結果と「部分等側面積モデル」に変換したモデルの解析結果とではほとんど差がなかったが、直流抵抗の解析結果を比較すると、「等底面積モデル」に変換したモデルの解析結果の方がより「詳細モデル2」に近い値であった。これは、直流電流は、導体の中を通るので、底面積が等しくなるような変換を行う「等底面積モデル」の方がより「詳細モデル2」の接続状態を反映しているものと考えられる。
【0070】
この解析結果より、解析時間や直流抵抗(及び直流インダクタンス)の精度を優先する場合には「等底面積モデル」を使用し、交流抵抗(及び交流インダクタンス)の精度を優先する場合には「部分等側面積モデル」を使用すればよいことがわかる。
【0071】
なお、「部分等側面積モデル」の変換において、変換されずに残ったビアを「等底面積モデル」に変換することで、より一層ビアモデルを簡略化することができる。
【0072】
以上のような、本発明の実施形態に係る伝導ノイズ解析方法及び伝導ノイズ解析装置によれば、ビアモデルを簡略化することにより、電磁界解析ソフトの解析時間を短縮化することができる。その結果、基板及び基板を有する電子機器の伝導ノイズを解析する時間を短縮することができる。
【0073】
ビアモデルを簡略化する方法には、複数のビアを、各ビアの底面積の合計と等しい底面積を有する一つ(または複数)のビアに変換する「等底面積モデル」に簡略化する方法と、複数のビアを、各ビアの側面積の合計と等しい側面積を有する一つ(または複数)のビアに変換する「等側面積モデル」に簡略化する方法とがある。ビアモデルを「等底面積モデル」に変換することで、解析時間が短縮されるとともに、直流抵抗(及び直流インダクタンス)を精度良く解析することができる。また、ビアモデルを「等側面積モデル」に変換することで、解析時間が短縮されるとともに、交流抵抗(交流インダクタンス)を精度良く解析することができる。
【0074】
なお、本発明の伝導ノイズ解析装置における処理手段をコンピュータによって実現する場合、各装置が有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、各装置における処理手段がコンピュータ上で実現される。
【0075】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。具体的には、例えば、磁気記録装置として、ハードディスク装置、フレキシブルディスク、磁気テープ等を、光ディスクとして、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD-RAM(Random Access Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Recordable)/RW(ReWritable)等を、光磁気記録媒体として、MO(Magneto Optical disc)等を、半導体メモリとしてフラッシュメモリ等を用いることができる。
【0076】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD−ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記録装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0077】
以上、本発明の伝導ノイズ解析方法及び伝導ノイズ解析装置について、具体例を示して詳細に説明したが、本発明の伝導ノイズ解析方法及び伝導ノイズ解析装置は、本発明の特徴を損なわない範囲で適宜設計変更が可能であり、設計変更された形態も本発明の伝導ノイズ解析方法及び伝導ノイズ解析装置の技術的範囲に属する。
【0078】
例えば、一般にインバータにはYコンと呼ばれるコンデンサが、インバータのP側とグラウンドとの間、インバータのN側とグラウンドとの間にそれぞれ設けられる。このコンデンサは、グラウンドに流れるノイズをインバータ内に閉じ込める役割を果たしている。その結果、多くのノイズはインバータとモータとの間を流れることとなり、コンバータや平滑コンデンサには流れ込まない。
【0079】
そこで、伝導ノイズを解析するにあたり、ノイズ電流が多く流れる箇所(例えば、インバータに接続されるプリント基板のパターン)のビアを「等側面積モデル」または「部分等側面積モデル」で簡略化し、ノイズ電流が少ない箇所(例えば、コンバータに接続されるプリント基板のパターン等)のビアを「等底面積モデル」で変換することで、解析精度の低下を抑制して、伝導ノイズ解析時間の短縮を図ることができる。
【0080】
また、予めグラウンドに流れる漏れ電流を測定し、ノイズ電流が多く流れている箇所、多く流れていない箇所を特定し、ノイズ電流が多く流れている箇所のビアを、「等側面積モデル」または「部分等側面積モデル」で変換し、多く流れていない箇所のビアを、「等底面積モデル」で変換することもできる。
【0081】
また、伝導ノイズの解析は、可変速変換装置に限定されるものではなく、ビアを有する基板及び該基板を有する電子機器の解析に適用することで、解析時間の短縮を図ることができる。
【0082】
また、実施例1では、接続部に形成されたすべてのビアを一つのビアに変換しているが、複数のビアのうち一部のビアを「等底面積モデル」及び「等側面積モデル」に変換した場合でも、解析速度が向上する効果を得ることができる。
【0083】
また、実施形態の説明では、一つの装置にて、ビアモデル変換ステップS2、浮遊成分解析ステップS3及び伝導ノイズ解析ステップS4の各ステップを行っているが、各ステップを個々の装置で行う形態としてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…伝導ノイズ解析装置
2…コンピュータ
3…入力装置
4…出力装置
5…CPU
6…ROM
7…RAM
8…HDD
9…配線データ取得部
10…ビアモデル変換部
11…浮遊成分解析部
12…伝導ノイズ解析部
13,21…ビア
14,15…配線
16…接続部
17,18…端子
19,22…「等底面積モデル」で簡略化されたビア
20,23…「等側面積モデル」若しくは「部分等側面積モデル」で簡略化されたビア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8