【実施例】
【0025】
図1(a)に、本発明の一実施例である、直方体の焼結磁石を製造するためのモールド10の構成を縦断面図で示す。モールド10は本体11と蓋12を有する。
【0026】
本体11は、内部に合金粉末が収容される空間111を有し、上部に空間111の開口112を有する。本実施例では、空間111の形状は基本的には直方体であり、内壁面113が該直方体の4つの長方形の面、内底面114は該直方体の1つの長方形の面に対応する。ただし、内底面114は、内壁面113と交差する長方形の辺付近では、内壁面113に対して鈍角で交差するように折り曲げられた形状を有する。本実施例ではこの鈍角を135°とする。この折り曲げられた部分115は、内壁面113と内底面114が直角で交差する稜線を平面で面取りした、いわゆるC面に相当する。また、内壁面113同士が交差する稜線にも同様にC面に相当する折り曲げ部が形成されている(図示略)。これらの部分を本体側C面と呼ぶ。本体11には、炭素質押出材、黒鉛質押出材、黒鉛質型押材、等方性黒鉛材、炭素繊維強化炭素複合材等の緻密カーボンを用いる。
【0027】
蓋12は、本体11の開口112に嵌挿可能なように、該開口112に対応した形状を有する。蓋12の内面123、すなわち開口112に嵌挿した状態における本体11の空間111側の面は、基本的には、嵌挿状態における本体11の空間111の内底面114に平行な長方形である。ただし、内面123は、長方形の各辺付近では空間111側に折り曲げられた形状を有し、そこでは本体11の内壁面113に対して鈍角で交差する。本実施例ではこの鈍角を135°とする。この折り曲げられた部分125は、本体11の内壁面113と蓋12の内面123が直角で交差する稜線を面取りしたC面に相当する。この折り曲げられた部分125を蓋側C面と呼ぶ。一例では、内面123の1辺が15〜20mmであるときに、蓋側C面125の高さ及び幅はいずれも0.2〜0.6mmである。蓋12の材料には、本体11と同様に緻密カーボンを用いる。
【0028】
図1(b)に示すように、本体11の開口112に蓋12を嵌挿することにより、本体11の空間111の内壁面113及び内底面114、並びに蓋12の内面123で囲まれた直方体状のキャビティ13が形成される。上記のように本体側C面及び蓋側C面が形成されていることにより、このキャビティ13の直方体は、全ての稜線がC面で面取りされた形状を呈する。
【0029】
図2(a)に、直方体の焼結磁石を製造するためのモールドの他の実施例を示す。このモールド20は、本体21と蓋22を有すること、本体21が内部に空間211を有し、上部に空間211の開口212を有すること、及び蓋22が本体21の開口212に嵌挿可能なように該開口212に対応した形状を有することは、上記モールド10と同様である。本実施例のモールド20は、蓋22における内面223のうち、長方形の各辺付近において、嵌挿状態における本体21の空間211側が曲面である。この曲面225は、本体21の内壁面213との交線上の各点における接平面(
図2(b)中に破線で示したもの)が鈍角で交差する。この折り曲げられた部分225は、本体21の内壁面213と蓋22の内面223が直角で交差する稜線を曲面で面取りした、いわゆるR面に相当する。この曲面225を蓋側R面と呼ぶ。蓋側R面225の曲率半径は0.2mm以上とすることが望ましい。本体21の内壁面213同士、及び内壁面213と内底面214が交差する稜線にも同様に、本体側R面215が形成されている。
【0030】
図2(b)に示すように、本体21の開口212に蓋22を嵌挿することにより、本体21の空間211の内壁面213及び内底面214、並びに蓋22の内面223で囲まれた直方体状のキャビティ23が形成される。そして、このキャビティ23の直方体は、全ての稜線がR面で面取りされた形状を呈する。
【0031】
図3を参照しつつ、本実施例のモールドを用いて、PLP法により焼結磁石を製造する方法を説明する。ここでは、上記モールド10を用いる場合を例として説明するが、本発明に係る他のモールドを用いる場合も同様である。また、ここではRFeB(R
2Fe
14B)系焼結磁石を製造する場合を例として説明するが、RCo(RCo
5、R
2Co
7)系焼結磁石やその他の焼結磁石を製造する場合も同様である。
【0032】
まず、RFeB系の合金塊を粉砕することにより、原料の合金粉末Pを作製する。合金粉末Pは、上述のように保磁力の高いRFeB系焼結磁石を得るために、動的光散乱法(レーザ法)で測定される平均粒径が5μm以下であることが望ましい。得られた合金粉末Pを、本体11の空間111内に供給する(
図3(a))。次に、本体11の開口112に蓋12を取り付ける(
図3(b))。このとき、蓋12の内面123により、合金粉末Pが空間111内に押し込まれ、合金粉末Pに圧力が印加される。この圧力は、空間111内に供給する合金粉末Pの量により調整することができ、圧縮成形を行う際に印加する圧力(通常、数十MPa)よりも十分に小さい2MPa以下であることが望ましい。こうして、モールド10内のキャビティ13に、合金粉末Pが充填される。このキャビティ13は、上述の通り、直方体の全ての稜線がC面で面取りされた形状を呈する。
【0033】
次に、合金粉末Pをキャビティ13に充填した状態で、モールド10の厚み方向のパルス磁界を合金粉末Pに印加する(
図3(c))。これにより、合金粉末Pの粒子内の微結晶におけるc軸が磁界に平行な方向を向くよう、粒子が配向する。続いて、粒子が配向した合金粉末Pをキャビティ13に充填したままの状態で、900〜1100℃程度の温度に加熱することにより、合金粉末Pを焼結する(
図3(d))。その際、合金粉末Pがキャビティ13の形状をほぼ保ったまま収縮する(焼結収縮という)ように焼結し、キャビティ13とほぼ相似形の焼結磁石Mが得られる(
図3(e))。従って、得られた焼結磁石Mは、直方体の稜線に、キャビティ13の本体側C面115及び蓋側C面125の形状に対応したC面の面取りがなされた形状を有する。
【0034】
本発明に係るモールドは、上記の例以外の形状を取ることもできる。例えば、
図4(a)に示したモールド10Aは、本体側C面115A及び蓋側C面125Aが本体内壁面113Aに対して135°よりも大きい鈍角で交差している。
図4(b)に示したモールド10Bは、本体側C面115B及び蓋側C面125Bが本体内壁面113Bに対して135°よりも小さい鈍角で交差している。
【0035】
図5に示したモールド30は、蓋32の内面323が、特定の縦断面(a)においてドーム形状を有し、その縦断面に垂直な方向にずらした縦断面では同一のドーム形状を有する。本体31は、上述のモールド10の本体11と同様の形状を有する。このドーム形状の内面323の接平面(
図5(a)中に破線で示した面)は、本体11の内壁面313と、交線上の各点において鈍角で交差している。また、これらの縦断面に垂直な縦断面(
図5(a)に示したA-A'断面)では、内面323は平坦であって両端にC面325が形成されている(
図5(b))。このモールド30は1軸方向の縦断面が同一のドーム形状であるキャビティ33を有し、それにより、当該形状に対応した焼結磁石が製造される。
【0036】
本体の空間もまた、種々の形状を取ることができる。
図6(a)に示したモールド40は、本体41の内底面414が、上述のモールド30における蓋32の内面323と同様のドーム形状を呈しており、内壁面413に対して接平面が交線上の各点において鈍角で交差している。蓋42は上述のモールド10の蓋12と同様である。このモールド40のキャビティ43は、モールド30におけるキャビティ33の上下を反転させた形状を有し、それにより、モールド30の場合と同様のドーム形状を有する焼結磁石が製造される。
図6(b)に示したモールド40Aは、本体41Aの縦断面が左右対称の階段状の形状を呈している。階段の踏面の端部に相当する角はC面416Aで面取りされている。蓋42Aは、モールド40の蓋42と同様の形状を有する。
図6(c)に示したモールド40Bは、キャビティ43Bの縦断面が、本体41Bの開口側から内底面414B側に向かって徐々に幅が狭くなる形状を有し、内壁面413Bが傾斜している。蓋42Bは、モールド40の蓋42と同様の形状を有する。本体41B内壁面413Bと蓋42Bの蓋側C面425Bの成す角度は、他の例よりも小さいものの、鈍角である。
【0037】
図6(d)に示したモールド40Cは、内壁面413Cに、内底面414Cに平行な面内で1周する突起46が設けられている。それ以外の形状は、上述のモールド10と同様である。PLP法では焼結時に生じる焼結収縮により、キャビティ43Cとほぼ相似形であってそれよりも収縮した焼結磁石が得られる。そのため、突起46がさほど大きくなければ、突起46に引っ掛かることなく焼結磁石をモールド40Cから取り出すことができる。モールド40Cにより得られる焼結磁石は、直方体の側面に、突起46に対応した溝が形成された形状を呈する。
【0038】
図7に、第1の態様において蓋の内面に凹部を有するモールドの例を示す。
図7(a)に示したモールド50は、上述のモールド10の本体11と同様の形状を有する本体51と、内面に凹部54を有する蓋52を備える。凹部54の横断面は本体51の開口に対応した長方形の形状を有する。蓋52の内面のうち凹部54以外の部分は平坦であり、該部分を本体11の開口の周囲にある縁に載置することにより、本体51の開口を蓋52で覆う。凹部54の内面は、長方形の各辺付近において本体51の空間511側に折り曲げられた形状を有し、そこでは本体51の内壁面513に対して鈍角で交差する。この折り曲げられた部分525が蓋側C面に相当する。
【0039】
本実施例のモールド50では、本体51の空間511内に合金粉末を供給した後に、本体51の開口を蓋52で覆う。その際、合金粉末を空間511の容積よりも多めに供給しておくことにより、開口を蓋52で覆った後の空間(キャビティ)をほぼ満たすことができる。なお、次に述べる理由により、キャビティを合金粉末で完全には満たさなくともよい。この後、蓋52をピストン等で押さえつけた状態で、モールド50内の合金粉末に磁界を印加することにより、合金粉末を配向する。ここで、磁界の印加前にキャビティの上部に合金粉末の無い空間が存在していても、磁界を上下方向に印加することによって粉末が移動し、キャビティ全体が合金粉末で満たされる。その後、上記実施例と同様に、キャビティ内に合金粉末を充填したままの状態で合金粉末を焼結する。
【0040】
図7(b)に示したモールド50Aは、蓋52Aの凹部54Aに、蓋側C面525の代わりに蓋側R面525Aを有する点、及び本体51Aが上述のモールド20の本体21と同様の形状を有する点の他は、
図7(a)のモールド50と同様の構成を有する。
【0041】
図8に、第2の態様のモールドの例を示す。
図8(a)に示したモールド50Bは、
図7(a)に示したモールド50と同様の本体51と、内面に凹部54Bを有する蓋52Bを備える。蓋52Bの内面のうち凹部54B以外の部分は平坦であり、蓋52Bはモールド50の蓋50と同様に本体51の開口を覆う。凹部54Bは、本体51の内壁面513と連続する凹部内壁面526Bと、凹部内壁面526Bとの交線においてその面と鈍角で交差する平面(C面)を持つ凹部上面525Bを有する。
【0042】
本実施例のモールド50Bの使用方法は、上述のモールド50の場合と同様である。すなわち、本体51の空間511内に合金粉末を供給した後に、本体51の開口を蓋52Bで覆う。合金粉末は、開口を蓋52Bで覆った後のキャビティをほぼ満たすように空間511の容積よりも多めに供給しておいてもよいし、キャビティを合金粉末で完全には満たさなくともよい。そして、蓋52Bをピストン等で押さえつけた状態で、モールド50内の合金粉末に磁界を印加することにより、合金粉末を配向する。その後、キャビティ内に合金粉末を充填したままの状態で合金粉末を焼結する。これにより、凹部上面525BにおけるC面に対応して、C面で面取りされた形状を有する焼結磁石が得られる。
【0043】
図8(b)に示したモールド50Cは、蓋52Cの凹部54Cに、凹部上面525Bの代わりに、凹部内壁面526Cとの交線上の各点において接平面が凹部内壁面526Cと鈍角で交差する曲面(R面)である凹部上面525Cを有する点でモールド50Bと相違する。また、本体51Cが上述のモールド50Aにおける本体51Aと同様の形状を有する点においてもモールド50Bと相違する。これら2点の他は、モールド50Cはモールド50Bと同様の構成を有する。
【0044】
図9に、複数個のキャビティを有する一体型のモールドの例を示す。
図9(a)に示したモールド60は第1の態様のモールドであり、本体61と蓋体62を有する。本体61には、3個の空間6111、6112、6113、及び各空間に対応する開口6121、6122、6123が1列に並んで設けられている。また、蓋体62には、本体61の各開口に対応した蓋6201、6202、6203が1枚のベース板66に1列に並んで形成されている。各空間6111、6112、6113はいずれも、上述のモールド10の空間111と同様の形状を有する。また、各蓋6201、6202、6203はいずれも、上述のモールド10の蓋12と同様の、蓋側C面625を含む内面623を有する。なお、本体の空間及び開口、並びに蓋の個数は上記のものに限られない。また、本体の空間及び開口、並びに蓋は、2次元状に配置してもよい(後述の
図11参照)。
【0045】
このモールド60によれば、一つ一つの開口6121〜6123に一つ一つ蓋をするという面倒な作業をする必要がなく、一挙に且つ正確に蓋をすることができるようになるため、製造効率が向上する。
【0046】
図9(b)に示したモールド60Bは第2の態様のモールドであり、モールド60と同様の本体61と、モールド60とは異なる蓋体62Bを有する。蓋体62Bは、本体61の各開口に対応した蓋6201B、6202B、6203Bが形成されており、各蓋6201、6202、6203はいずれも、上述のモールド50Bの蓋52Bにおける凹部54Bと同様の凹部64Bが設けられている。すなわち、各凹部64Bは、本体61の各空間における内壁面613と連続する凹部内壁面626Bと、凹部内壁面626Bとの交線においてその面と鈍角で交差する平面である凹部上面625Bを有する。なお、第2の態様においても、本体の空間及び開口、並びに蓋の個数は上記のものに限られない。また、本体の空間及び開口、並びに蓋は、2次元状に配置してもよい。
【0047】
図10(a)に、同一形状の複数個の本体を重ねて使用するモールドの例を示す。このモールド70は、本体71の底面に、蓋に相当する凸部72を設けたものである。本体71の形状は上述のモールド10の本体11と同様であり、空間711、開口712等を有する。凸部72は、上記モールド10の蓋12と同様に、開口712に対応した形状を有し、長方形の内面723の各辺付近に蓋側C面725が設けられている。
【0048】
このモールド70は、
図10(b)に示すように、1個のモールド70の開口712に、他のモールド70の凸部72を嵌挿することにより、複数個重ねて使用される。これにより、各モールド70には別体の蓋を設ける必要が無いため、より段数を多くすることができ、焼結磁石の製造効率が高まる。なお、一番上側のモールド70の開口712には、上述のモールド10の蓋12を取り付けることができる。また、一番下側には、モールド70の代わりに、上述のモールド10の本体11を用いてもよい。
【0049】
図11に、同一形状の複数個の本体を重ねて使用され、1個の本体毎に複数個のキャビティが形成されるモールドの例を示す。このモールド80では、板状の本体81に空間811及び開口812が縦に3個、横に6個、2次元状に配置されている。また、該本体81の底には、該開口に対応した形状を有する凸部82が縦に3個、横に6個、各開口812の直下の位置に2次元状に配置されている。空間811は、本実施例では上述のモールド40における空間と同じ形状を有する。また、各凸部82は、モールド70の凸部72と同様の形状を有する。
【0050】
このモールド80は、
図12(a)に示すように、1個のモールド80の各開口812に、他のモールド80の凸部82を1対1で嵌挿することにより、複数個重ねて使用される。これにより、一つ一つの開口に一つ一つ蓋をする必要がなく一挙に且つ正確に蓋をすることができ、且つ、別体の蓋を設ける必要がないため、製造効率が一層向上する。
【0051】
なお、一番上側のモールド80には、凸部82を平板881の下面に設けた88を取り付けてもよい。また、一番下側のモールド80Aは、凸部82を省略したものであってもよい。あるいは、一番下側のモールドとして(凸部82を有する)モールド80を用い、該モールド80の下を、平板に凸部82に対応した凹部891を有する受け皿89で保持してもよい(
図12(b))。
【0052】
図13に、R面やC面の無い凹部を蓋の内面に有するモールドの一実施例を示す。このモールド50Xは、直方体の下面に突起部を有する空間を持つ本体51X、直方体の上面に突起部を有する空間である凹部54Xを内面に有する蓋52Xを備える。凹部54Xは、本体51Xの内壁面513Xと連続する凹部内壁面526Xを有するが、R面及びC面は有しない。このような凹部54Xを蓋52Xに設けることにより、直方体の対向する2面に凸部が形成された焼結磁石が得られる。このように凹部54Xを有する蓋52Xを用いることにより、複雑な形状の焼結磁石を作製することができる。