特許第6337632号(P6337632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337632
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】液冷ジャケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20180528BHJP
   F28D 1/06 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
   B23K20/12 360
   B23K20/12 364
   !F28D1/06 B
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-123055(P2014-123055)
(22)【出願日】2014年6月16日
(65)【公開番号】特開2016-2558(P2016-2558A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年8月4日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−240718(JP,A)
【文献】 特開2013−49072(JP,A)
【文献】 特開2010−194545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
F28D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体と、前記凹部の開口部を封止する封止体とで構成される液冷ジャケットの製造方法であって、
底部と前記底部の周縁から立ち上がる枠状の周壁部とを有するとともに、前記周壁部の端面よりも一段下がった位置に形成された段差底面と、前記段差底面から立ち上がる段差側面とを備えたジャケット本体を準備する準備工程と、
前記段差側面の高さよりも大きい厚さ寸法の前記封止体を前記段差底面に載置して、前記段差側面と前記封止体の外周面とが突き合わされた突合せ部を形成する突合せ工程と、
前記周壁部の端面と前記外周面とで形成される内隅に、攪拌ピンを備えた回転ツールを挿入し、前記攪拌ピンのみを前記ジャケット本体及び前記封止体に接触させた状態で前記突合せ部に摩擦攪拌を行う接合工程と、を含み、
前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成し、
前記接合工程では、前記封止体を前記回転ツールの進行方向に対して左側に配置し、前記回転ツールを右回転させるとともに、前記回転ツールの回転中心軸を前記封止体の外側に傾けた状態で、前記内隅に沿って前記回転ツールを前記封止体の周りに一周させて前記ジャケット本体と前記封止体とを接合することを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項2】
前記攪拌ピンは、基端部から離間するにつれて先細りになっていることを特徴とする請求項1に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項3】
前記底部には、前記段差底面と面一の端面を備えた畝部が立設されており、
前記突合せ工程では、前記畝部にも前記封止体を載置し、
前記接合工程では、前記畝部と前記封止体とが重ね合わされた重合部に対して、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記封止体及び前記畝部に接触させた状態で摩擦攪拌することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項4】
前記段差底面は、前記開口部の周縁に沿って形成される周縁部と、前記周縁部に連続して前記周縁部の外側に張り出す張出部とを備え、
前記封止体は、前記周縁部に載置される本体部と、前記張出部に載置されるタブ部とを備え、
前記接合工程では、前記張出部と前記タブ部とを接合した後に、前記周縁部と前記本体部とを摩擦攪拌することを特徴とする請求項3に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項5】
前記畝部は、前記周壁部に接続しており、
前記張出部は、前記畝部の延長線上に形成されており、
前記接合工程では、
前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記畝部及び前記封止体に接触させた状態で、前記畝部と前記封止体との重合部に摩擦攪拌を行い、
前記回転ツールの攪拌ピンを前記タブ部の表面から引き抜くことを特徴とする請求項4に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項6】
熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体と、前記凹部の開口部を封止する封止体とで構成される液冷ジャケットの製造方法であって、
底部と前記底部の周縁から立ち上がる枠状の周壁部とを有するとともに、前記周壁部の端面よりも一段下がった位置に形成された段差底面と、前記段差底面から立ち上がる段差側面とを備えたジャケット本体を準備する準備工程と、
前記段差側面の高さよりも大きい厚さ寸法の前記封止体を前記段差底面に載置して、前記段差側面と前記封止体の外周面とが突き合わされた突合せ部を形成する突合せ工程と、
前記周壁部の端面と前記外周面とで形成される内隅に、攪拌ピンを備えた回転ツールを挿入し、前記攪拌ピンのみを前記ジャケット本体及び前記封止体に接触させた状態で前記突合せ部に摩擦攪拌を行う接合工程と、を含み、
前記段差底面は、前記開口部の周縁に沿って形成される周縁部と、前記周縁部に連続して前記周縁部の外側に張り出す張出部とを備え、
前記封止体は、前記周縁部に載置される本体部と、前記張出部に載置されるタブ部とを備え、
前記接合工程では、前記張出部と前記タブ部とを接合した後に、前記内隅に沿って前記回転ツールを前記封止体の周りに一周させて前記周縁部と前記本体部とを摩擦攪拌し、前記ジャケット本体と前記封止体とを接合することを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項7】
前記底部には、前記段差底面と面一の端面を備えた畝部が立設されており、
前記畝部は、前記周壁部に接続しており、
前記張出部は、前記畝部の延長線上に形成されており、
前記突合せ工程では、前記畝部にも前記封止体を載置し、
前記接合工程では、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記畝部及び前記封止体に接触させた状態で、前記畝部と前記封止体との重合部に摩擦攪拌を行い、
前記回転ツールの攪拌ピンを前記タブ部の表面から引き抜くことを特徴とする請求項6に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液冷ジャケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合とは、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合せ部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合せ部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。
【0003】
近年、パーソナルコンピュータに代表される電子機器は、その性能が向上するにつれて、搭載されるCPU(熱発生体)の発熱量が増大しており、CPUの冷却が重要になっている。従来、CPUを冷却するために、空冷ファン方式のヒートシンクが使用されてきたが、ファン騒音や、空冷方式での冷却限界といった問題がクローズアップされるようになり、次世代冷却方式として、液冷ジャケットが注目されている。
【0004】
このような液冷ジャケットの製造方法として、金属製の構成部材同士を摩擦攪拌接合によって接合する技術が特許文献1で開示されている。従来の液冷ジャケットは、上方が開放された箱状のジャケット本体と、ジャケット本体の開口部を封止する板状の封止体とで構成されている。
【0005】
従来の液冷ジャケットの製造方法では、ジャケット本体の段差部に封止体を載置してジャケット本体の端面と封止体の表面とを面一にした後に、ジャケット本体と封止体との突合せ部に対して接合工程を行っている。当該接合工程では、回転ツールのショルダ部をジャケット本体の端面及び封止体の表面に押し込みつつ摩擦攪拌を行う。当該接合工程では、ジャケット本体の端面と封止体の表面とが面一になっているため、回転ツールのショルダ部を押し込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−194545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
摩擦攪拌を行うと、回転ツールと被接合金属部材(ジャケット本体及び封止体)との摩擦によって摩擦熱が発生する。封止体の厚さを小さくすると、摩擦熱によって封止体が変形するおそれがあるため、従来の液冷ジャケットの製造方法では、摩擦熱によって変形しない程度に封止体の厚さを大きくしなければならず、これに伴って段差部の高さも大きくしなければならなかった。
【0008】
ここで、段差部の高さは不変としつつ封止体の厚さを大きくして、ジャケット本体の端面と封止体の表面とに段差が生じた状態で、ジャケット本体と封止体との突合せ部(内隅)に摩擦攪拌を行うことが考えられる。しかし、従来の回転ツールではショルダ部が内隅に接触するため、突合せ部の深い位置に回転ツールを挿入するのが困難となる。これにより、ジャケット本体と封止体とを十分な強度で接合するのが困難になるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、摩擦攪拌に伴う封止体の変形を抑制するとともに、好適に接合することができる液冷ジャケットの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体と、前記凹部の開口部を封止する封止体とで構成される液冷ジャケットの製造方法であって、底部と前記底部の周縁から立ち上がる枠状の周壁部とを有するとともに、前記周壁部の端面よりも一段下がった位置に形成された段差底面と、前記段差底面から立ち上がる段差側面とを備えたジャケット本体を準備する準備工程と、前記段差側面の高さよりも大きい厚さ寸法の前記封止体を前記段差底面に載置して、前記段差側面と前記封止体の外周面とが突き合わされた突合せ部を形成する突合せ工程と、前記周壁部の端面と前記外周面とで形成される内隅に、攪拌ピンを備えた回転ツールを挿入し、前記攪拌ピンのみを前記ジャケット本体及び前記封止体に接触させた状態で前記突合せ部に摩擦攪拌を行う接合工程と、を含み、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成し、前記接合工程では、前記封止体を前記回転ツールの進行方向に対して左側に配置し、前記回転ツールを右回転させるとともに、前記回転ツールの回転中心軸を前記封止体の外側に傾けた状態で、前記内隅に沿って前記回転ツールを前記封止体の周りに一周させて前記ジャケット本体と前記封止体とを接合することを特徴とする。
【0011】
かかる製造方法によれば、厚さ寸法の大きい封止体を用いるため、摩擦熱による変形を防ぐことができる。また、回転ツールの攪拌ピンのみをジャケット本体及び封止体に接触させた状態で摩擦攪拌を行うため、突合せ部の深い位置まで攪拌ピンを挿入することができる。更に、ジャケット本体及び封止体の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。これにより、液冷ジャケットと封止体とを好適に接合することができる。
【0012】
また、前記攪拌ピンは、基端部から離間するにつれて先細りになっていることが好ましい。
【0014】
また、前記底部には、前記段差底面と面一の端面を備えた畝部が立設されており、前記突合せ工程では、前記畝部にも前記封止体を載置し、前記接合工程では、前記畝部と前記封止体とが重ね合わされた重合部に対して、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記封止体及び前記畝部に接触させた状態で摩擦攪拌することが好ましい。
【0015】
かかる製造方法によれば、ジャケット本体と封止体とをより強固に接合することができる。
【0016】
また、前記段差底面は、前記開口部の周縁に沿って形成される周縁部と、前記周縁部に連続して前記周縁部の外側に張り出す張出部とを備え、前記封止体は、前記周縁部に載置される本体部と、前記張出部に載置されるタブ部とを備え、前記接合工程では、前記張出部と前記タブ部とを接合した後に、前記周縁部と前記本体部とを摩擦攪拌することが好ましい。
【0017】
かかる製造方法によれば、張出部とタブ部を先に摩擦攪拌することで、ジャケット本体に対して封止体を位置決めした状態で、ジャケット本体の周縁部と封止体の本体部とを摩擦攪拌できる。これにより、ジャケット本体と封止体とをより精度よく接合することができる。
【0018】
また、前記畝部は、前記周壁部に接続しており、前記張出部は、前記畝部の延長線上に形成されており、前記接合工程では、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記畝部及び前記封止体に接触させた状態で、前記畝部と前記封止体との重合部に摩擦攪拌を行い、前記回転ツールの攪拌ピンを前記タブ部の表面からき抜くことが好ましい。
【0019】
かかる製造方法によれば、凹部から離れた位置に攪拌ピンの抜き穴が形成されることになるため、液冷ジャケットの水密性及び気密性を高めることができる。
また、本発明は、熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体と、前記凹部の開口部を封止する封止体とで構成される液冷ジャケットの製造方法であって、底部と前記底部の周縁から立ち上がる枠状の周壁部とを有するとともに、前記周壁部の端面よりも一段下がった位置に形成された段差底面と、前記段差底面から立ち上がる段差側面とを備えたジャケット本体を準備する準備工程と、前記段差側面の高さよりも大きい厚さ寸法の前記封止体を前記段差底面に載置して、前記段差側面と前記封止体の外周面とが突き合わされた突合せ部を形成する突合せ工程と、前記周壁部の端面と前記外周面とで形成される内隅に、攪拌ピンを備えた回転ツールを挿入し、前記攪拌ピンのみを前記ジャケット本体及び前記封止体に接触させた状態で前記突合せ部に摩擦攪拌を行う接合工程と、を含み、前記段差底面は、前記開口部の周縁に沿って形成される周縁部と、前記周縁部に連続して前記周縁部の外側に張り出す張出部とを備え、前記封止体は、前記周縁部に載置される本体部と、前記張出部に載置されるタブ部とを備え、前記接合工程では、前記張出部と前記タブ部とを接合した後に、前記内隅に沿って前記回転ツールを前記封止体の周りに一周させて前記周縁部と前記本体部とを摩擦攪拌し、前記ジャケット本体と前記封止体とを接合することを特徴とする。
また、前記底部には、前記段差底面と面一の端面を備えた畝部が立設されており、前記畝部は、前記周壁部に接続しており、前記張出部は、前記畝部の延長線上に形成されており、前記突合せ工程では、前記畝部にも前記封止体を載置し、前記接合工程では、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記畝部及び前記封止体に接触させた状態で、前記畝部と前記封止体との重合部に摩擦攪拌を行い、前記回転ツールの攪拌ピンを前記タブ部の表面から引き抜くことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、摩擦攪拌に伴う封止体の変形を抑制するとともに、好適に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る接合用回転ツールを示した側面図である。
図2】本実施形態に係る液冷ジャケットを示す分解斜視図である。
図3】本実施形態に係る液冷ジャケットを示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のI−I断面図である。
図4】本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の載置工程を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のII-II断面図である。
図5】本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の第一接合工程を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は(a)のIII-III断面図である。
図6】本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の第一接合工程を示す平面図である。
図7】本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の第二接合工程を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のIV-IV断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る液冷ジャケット及び液冷ジャケットの製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。まずは、本実施形態で用いる接合用回転ツールFについて説明する。
【0023】
図1に示すように、接合用回転ツールFは、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。接合用回転ツールFは、特許請求の範囲の「回転ツール」に相当する。接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、摩擦攪拌装置(図示省略)の回転軸に連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔B,Bが形成されている。
【0024】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝F3が刻設されている。本実施形態では、接合用回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝F3は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。言い換えると、螺旋溝F3は、螺旋溝F3を基端から先端に向けてなぞると上から見て左回りに形成されている。
【0025】
なお、接合用回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝F3を基端から先端に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。言い換えると、この場合の螺旋溝F3は、螺旋溝F3を基端から先端に向けてなぞると上から見て右回りに形成されている。螺旋溝F3をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝F3によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(ジャケット本体2及び封止体3)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0026】
接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌を行う際には、被接合金属部材に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。
【0027】
摩擦攪拌を行う際には、例えば、先端にスピンドルユニット等の回転駆動手段を備えたロボットアームに接合用回転ツールFを取り付けて摩擦攪拌を行うことができる。このような摩擦攪拌装置によれば、鉛直軸に対する接合用回転ツールFの回転中心軸の角度を容易に変更することができる。
【0028】
次に、本実施形態の液冷ジャケットについて説明する。図2の(a)及び(b)に示すように、本実施形態に係る液冷ジャケット1は、ジャケット本体2と、封止体3とで構成されている。ジャケット本体2は、上方に開口した箱状体である。
【0029】
ジャケット本体2は、底部10と、周壁部11と、畝部12とを含んで構成されている。ジャケット本体2は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、 マグネシウム、マグネシウム合金等摩擦攪拌可能な金属で形成されている。底部10は、平面視矩形の板状を呈する。周壁部11は、底部10の周縁に立設されており、平面視矩形枠状を呈する。
【0030】
周壁部11は、同じ板厚からなる壁部11A,11B,11C,11Dで構成されている。壁部11A,11Bは短辺部となっており、互いに対向している。また、壁部11C,11Dは長辺部となっており、互いに対向している。底部10及び周壁部11の内部には凹部13が形成されている。
【0031】
周壁部11の端面11aには、ジャケット本体2の開口部の周縁に沿って段差部14が形成されている。段差部14は、開口部の周縁に沿って形成される周縁部15と、周縁部15に連続して外側に張り出す張出部16とで構成されている。
【0032】
周縁部15は、段差底面15aと、段差底面15aから立ち上がる段差側面15bとで構成されている。段差底面15aは、平面視矩形枠状を呈する。張出部16は、壁部11Aに形成されている。張出部16は、段差底面16aと、段差底面16aから立ち上がる段差側面16bとで構成されている。段差底面16aは、平面視半円状を呈する。段差底面15a,16aは、周壁部11の端面11aよりも一段下がった位置に形成されている。
【0033】
畝部12は、底部10から立ち上がり、直方体を呈する。畝部12は、壁部11Aに連続するとともに、壁部11B側に延設されている。畝部12と壁部11Bとの間は離間している。畝部12の端面12aと、段差底面15a,16aとは面一になっている。張出部16は、畝部12の延長線上に形成されている。
【0034】
封止体3は、ジャケット本体2の開口部を覆う金属部材である。封止体3の材料は特に制限されないが、本実施形態では、ジャケット本体2と同じ材料で形成されている。封止体3は、本体部21と、タブ部22と、複数のフィン23とで構成されている。
【0035】
本体部21は、平面視矩形状を呈する板状部である。本体部21は、周縁部15に載置される部位である。タブ部22は、本体部21に連続するとともに外側に張り出している。タブ部22は、平面視半円状を呈する。タブ部22は、張出部16に載置される部位である。
【0036】
本体部21及びタブ部22は、ジャケット本体2の段差部14に隙間なく嵌め合わされる形状になっている。本体部21及びタブ部22の板厚は一定になっている。本体部21及びタブ部22の板厚寸法は、段差側面15b,16bの高さよりも大きくなっている。本実施形態では、本体部21及びタブ部22の板厚寸法は、段差側面15b,16bの高さの2倍程度になっている。
【0037】
フィン23は、本体部21の裏面21bに形成される板状部である。フィン23は、所定の間隔をあけて複数枚形成されている。
【0038】
図3の(a)及び(b)に示すように、液冷ジャケット1は、ジャケット本体2と封止体3とを摩擦攪拌によって接合されて一体化されている。液冷ジャケット1は、段差側面15b,16bと封止体3の外周面(本体部21の外周面及びタブ部22の外周面)3aとが突き合わされた突合せ部J1が摩擦攪拌によって連続的に接合されている。突合せ部J1において摩擦攪拌された部位には塑性化領域W1が形成されている。
【0039】
また、液冷ジャケット1は、畝部12の端面12aと本体部21の裏面21bとが重ね合わされた重合部J2が摩擦攪拌によって連続的に接合されている。重合部J2において摩擦攪拌された部位には塑性化領域W2が形成されている。液冷ジャケット1の内部には、熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れる中空部が形成されている。
【0040】
次に、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。液冷ジャケットの製造方法では、準備工程と、載置工程と、接合工程と、バリ切除工程とを行う。
【0041】
準備工程は、成形してジャケット本体2と封止体3とを準備する工程である。
【0042】
載置工程は、ジャケット本体2に封止体3を載置する工程である。図2に示すように、載置工程では、段差部14に封止体3を載置する。これにより、図4の(a)及び(b)に示すように、突合せ部J1及び重合部J2が形成される。突合せ部J1は、段差側面15b,16b(図2も参照)と封止体3の外周面3aとが突き合わされる部位である。突合せ部J1は、封止体3の全周に亘って形成される。
【0043】
重合部J2は、畝部12の端面12aと、本体部21の裏面21bとが重ね合わされる部位である。重合部J2は、畝部12の延長方向に亘って形成される。図4の(a)に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置すると、封止体3の上半分はジャケット本体2から露出した状態となる。
【0044】
接合工程は、ジャケット本体2と封止体3とを摩擦攪拌により接合する工程である。本実施形態に係る接合工程では、第一接合工程と、第二接合工程を行う。
【0045】
第一接合工程は、突合せ部J1に対して封止体3の全周に亘って摩擦攪拌を行う工程である。第一接合工程では、まず、開始位置SP1に接合用回転ツールFを挿入する。開始位置SP1は、適宜設定すればよいが、本実施形態では、本体部21とタブ部22との境界部位に設定している。第一接合工程では、接合用回転ツールFを、周壁部11の端面11aと封止体3の外周面3aとで構成される内隅に対して斜めに挿入する。そして、突合せ部J1に沿って封止体3の周りで一周させる。
【0046】
図5の(b)に示すように、第一接合工程では、接合用回転ツールFの回転中心軸を鉛直軸に対して斜めに傾斜させつつ、攪拌ピンF2のみをジャケット本体2及び封止体3に接触させた状態で接合用回転ツールFを相対移動させる。言い換えると、接合用回転ツールFの回転中心軸を封止体3に対して外側に傾斜させつつ、攪拌ピンF2の基端側を露出させた状態で接合用回転ツールFを相対移動させる。接合用回転ツールFの移動軌跡には、塑性化領域W1が形成される。
【0047】
図6に示すように、接合用回転ツールFを封止体3の周りに一周させたら、開始位置SP1を通過させてタブ部22の中央に設定した終了位置EP1で接合用回転ツールFを引き抜く。接合用回転ツールFが開始位置SP1を通過したら、接合用回転ツールFを鉛直軸と平行にした状態で接合用回転ツールFを相対移動させることが好ましい。第一接合工程を行うことで、突合せ部J1において、塑性化領域W1の始端と、終端側とが重複する。
【0048】
第二接合工程は、重合部J2に対して摩擦攪拌を行う工程である。図7の(a)及び(b)に示すように、第二接合工程では、まず、開始位置SP2に接合用回転ツールFを挿入する。開始位置SP2は、適宜設定すればよいが、本実施形態では畝部12の先端側に位置する本体部21の表面21aに設定する。接合用回転ツールFは、鉛直軸と平行にしつつ攪拌ピンF2のみをジャケット本体2及び封止体3に接触させた状態でタブ部22側に向けて接合用回転ツールFを相対移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端側は露出した状態で摩擦攪拌を行う。攪拌ピンF2の挿入深さは、少なくとも塑性化領域W2が重合部J2に達する程度に設定すればよいが、本実施形態では、攪拌ピンF2の先端が畝部12に入り込むように設定している。
【0049】
接合用回転ツールFがタブ部22に設定した終了位置EP2(終了位置EP1と同じ位置)に達したら、接合用回転ツールFを引き抜く。
【0050】
バリ切除工程は、摩擦攪拌によって発生したバリを切除する工程である。バリ切除工程では、内隅を構成する部位及び封止体3の表面等を切削して、塑性化領域W1,W2のバリを切除する。以上によって液冷ジャケット1が形成される。
【0051】
以上説明した本実施形態に係る液冷ジャケット1によれば、厚さ寸法の大きい封止体3を用いるため、摩擦熱によって封止体3が変形するのを防ぐことができる。また、接合用回転ツールFの攪拌ピンF2のみをジャケット本体2及び封止体3に接触させた状態で摩擦攪拌を行うため、突合せ部J1の深い位置まで攪拌ピンF2を挿入することができる。これにより、ジャケット本体2と封止体3とを好適に接合することができる。
【0052】
また、接合用回転ツールFの回転中心軸を封止体3の外側に傾けつつ摩擦攪拌を行うことで、ジャケット本体2と封止体3との内隅に容易に攪拌ピンF2を挿入できる。
【0053】
また、本実施形態では畝部12と封止体3とが重ね合わされた重合部J2に対しても摩擦攪拌を行うため、液冷ジャケット1の接合強度を向上させることができる。
【0054】
また、接合工程において、張出部16とタブ部22とを先に摩擦攪拌することで、ジャケット本体2に対して封止体3を位置決めした状態で、ジャケット本体2の周縁部15と封止体3の本体部21とを摩擦攪拌できる。これにより、ジャケット本体2と封止体3とをより精度よく接合することができる。また、張出部16及びタブ部22を備えることで、摩擦攪拌の開始位置及び終了位置を当該部位に設定することができる。
【0055】
また、張出部16及びタブ部22を備えるとともに、タブ部22に摩擦攪拌の終了位置を設定することで、凹部13から離れた位置に攪拌ピンF2の抜き穴が形成されることになる。このため、液冷ジャケット1の水密性及び気密性を高めることができる。また、本実施形態の第一接合工程ように、塑性化領域W1の始端と終端側とを重複(オーバーラップ)させることで、水密性及び気密性をより高めることができる。
【0056】
また、摩擦攪拌の終了位置には攪拌ピンF2の抜き穴が形成されることになるが、当該抜き穴に肉盛溶接を行って補修する補修工程を行ってもよい。本実施形態では、終了位置EP1,EP2を同じ位置に設定しているため、一度の補修工程で抜き穴の補修が可能となる。
【0057】
また、フィン23は、必要に応じて設ければよいが、複数のフィン23を設けることで、液冷ジャケット1の熱伝導性を高めることができる。
【0058】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態の畝部12は、周壁部11に連続させたが、周壁部11から離間させてもよい。また、畝部12は底部10から立ち上がるとともに本体部21の裏面21bに接触するようあればどのような形状であってもよい。なお、本実施形態ではジャケット本体2に畝部12を設けたが、畝部12は設けなくてもよい。また、張出部16及びタブ部22は省略してもよい。
【0059】
また、本実施形態では、第一接合工程の開始位置SP1を本体部21とタブ部22との境界位置に設けたが、突合せ部J1上の他の位置に設定してもよい。また、開始位置SP1を周壁部11の端面11aに設けてもよい。
【0060】
また、本実施形態の第一接合工程では、突合せ部J1に対して摩擦攪拌を行うものであったが、図5の(b)に示すように、攪拌ピンF2を深く挿入して段差底面15aと本体部21の裏面21bとの重合部(段差底面16aとタブ部22の裏面22bとの重合部)に対しても摩擦攪拌を行ってもよい。この場合、塑性流動化された金属が凹部13側に流入しないように、攪拌ピンF2の挿入角度や段差底面15a,16aの幅を設定することが好ましい。
【0061】
また、第一接合工程及び第二接合工程は、途中で被接合金属部材から攪拌ピンF2を引き抜かず、連続して行ってもよい。また、本実施形態では、第一接合工程を行った後に、第二接合工程を行ったが、第二接合工程を先に行ってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 液冷ジャケット
2 ジャケット本体
3 封止体
3a 外周面
10 底部
11 周壁部
11a 端面
12 畝部
12a 端面
13 凹部
14 段差部
15 周縁部
15a 段差底面
15b 段差側面
16 張出部
16a 段差底面
16b 段差側面
F 接合用回転ツール(回転ツール)
F2 攪拌ピン
J1 突合せ部
J2 重合部
W1 塑性化領域
W2 塑性化領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7