特許第6337639号(P6337639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6337639アルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法及びその構造並びにピストン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337639
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法及びその構造並びにピストン
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/04 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   C23C28/04
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-127239(P2014-127239)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-6212(P2016-6212A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 建興
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−167543(JP,A)
【文献】 特開2010−249008(JP,A)
【文献】 特開2012−072745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/10,28/04
C25D 11/04
F02F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金材の表面にプラズマ溶射によりジルコニアのスプラットを積層し、そのアルミニウム合金材の表面を、前記スプラットを覆うようにアルマイト処理してハイブリッド遮熱コーティング膜を形成することを特徴とするアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法。
【請求項2】
ジルコニアのスプラットは、直径数μm×厚さ1μmの円板或いはドーム状の粒子からなる請求項1記載のアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法。
【請求項3】
アルマイト処理は、硫酸濃度10〜20%、電流密度1〜2A/dm2、処理時間30分以上、5時間以下で、厚さが20μm以上、250μm以下のアルマイト膜からなるハイブリッド遮熱コーティング膜を形成する請求項1又は2記載のアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法。
【請求項4】
アルミニウム合金の表面にジルコニアのスプラットが積層されると共に、前記アルミニウム合金の表面に、前記ジルコニアのスプラットを覆ってアルマイト膜からなるハイブリッド遮熱コーティング膜が形成されたことを特徴とするアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング構造。
【請求項5】
前記ハイブリッド遮熱コーティング膜は、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率が、0.2〜1.5W/mKである請求項4記載のアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング構造。
【請求項6】
アルミニウム合金で形成されるピストンの頂面と燃焼室の表面にジルコニアのスプラットが積層されると共に、ピストンの頂面と燃焼室の表面に前記ジルコニアのスプラットを覆ってアルマイト膜からなるハイブリッド遮熱コーティング膜が形成されたことを特徴とするピストン。
【請求項7】
前記ハイブリッド遮熱コーティング膜は、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率が、0.2〜1.5W/mKである請求項6記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン等のアルミニウム部品の遮熱コーティングを施すためのアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法及びその構造並びにピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃費を改善させるため、ピストンの頂面や燃焼室等への遮熱コーティングを施すことは非常に有効な方法である。
【0003】
遮熱コーティング膜としては、部材表面にプラズマ溶射で熱伝導率の低いジルコニア層を施すことは、最も一般的な方法であるが、厚さ200〜300μmのジルコニア層をコーティングするには、時間とコストがかかる。
【0004】
一方、部材がアルミニウム合金から構成されている場合、アルマイト処理で遮熱コーティング膜を形成する方法がある。
【0005】
アルマイト処理は、硫酸などの処理浴に部材としてのアルミニウム合金材を入れ、アルミニウム合金材を陽極として電気分解することにより、アルミニウム合金の表面を電気化学的に酸化させて酸化アルミニウム(アルミナ)の皮膜を生成させる。この皮膜はハニカム状の孔径が数nmから数百nmの多孔質酸化皮膜からなり、皮膜形成後は、水和処理することで、水酸化アルミニウム化して、ハニカム状の孔壁表面を水和膨張させて封孔処理することでアルマイト膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平01−071631号公報
【特許文献2】特開昭63−230983号公報
【特許文献3】特開平05−230563号公報
【特許文献4】特開平09−030872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、アルマイト膜の成長と内部の気孔率はアルミニウム合金組成そのものに依存し、基本的な合金組成を変えないで、しかも同じ溶液を使う場合、気孔率を変えることは難しい。従って、より低い熱伝導率を求めている場合、従来のアルミニウム合金では難しい。
【0008】
他方、ジルコニア層をプラズマ溶射で形成する場合、溶射ガンからスプラット(直径50〜150μm×厚さ1〜5μm)を噴射し、部材に積層して膜を形成する。厚さ200μmの場合、同じ場所で40〜200回の繰り返し動作が必要になり、時間とコストがかかると共に積層しているスプラット間の隙間はほぼ一定で、気孔率が変えられず、低熱伝導率の膜が得られにくい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、気孔率を向上できるアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法及びその構造並びにピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、アルミニウム合金材の表面にプラズマ溶射によりジルコニアのスプラットを積層し、そのアルミニウム合金材の表面を、前記スプラットを覆うようにアルマイト処理してハイブリッド遮熱コーティング膜を形成することを特徴とするアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法である。
【0011】
ジルコニアのスプラットは、直径数μm×厚さ1μmの円板或いはドーム状の粒子からなるのが好ましい。
【0012】
アルマイト処理は、硫酸濃度10〜20%、電流密度1〜2A/dm2、処理時間30分以上、5時間以下で、厚さが20μm以上、250μm以下のアルマイト膜からなるハイブリッド遮熱コーティング膜を形成するのが好ましい。
【0013】
また本発明は、アルミニウム合金の表面にジルコニアのスプラットが積層されると共に、前記アルミニウム合金の表面に、前記ジルコニアのスプラットを覆ってアルマイト膜からなるハイブリッド遮熱コーティング膜が形成されたことを特徴とするアルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング構造である。
【0014】
前記ハイブリッド遮熱コーティング膜は、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率が、0.2〜1.5W/mKであるのが好ましい。
【0015】
さらに本発明は、アルミニウム合金で形成されるピストンの頂面と燃焼室の表面にジルコニアのスプラットが積層されると共に、ピストンの頂面と燃焼室の表面に前記ジルコニアのスプラットを覆ってアルマイト膜からなるハイブリッド遮熱コーティング膜が形成されたことを特徴とするピストンである。
【0016】
前記ハイブリッド遮熱コーティング膜は、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率が、0.2〜1.5W/mKであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハイブリッド遮熱コーティング膜の気孔率が増加し、熱伝導率を低下させることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態を示し、(a)は本発明が適用されるピストンの要部断面図、(b)はピストンに形成されるスプラットの拡大断面図、(c)はピストンに形成されるハイブリッド遮熱コーティング膜の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
先ず、アルミニウム合金材のハイブリッド遮熱コーティング方法が適用されるディーゼルエンジンのピストン構造を説明する。
【0021】
図1(a)において、10は、ピストンで、その頂面11に凹状の燃焼室12が形成される。
【0022】
ピストン10は、AC8AやAl−12mass%Si−(1〜3mass%)Ni−(0.5〜1mass%)Mg−(1〜5mass%)Cuの組成からなるアルミニウム合金を用いて鋳造にて形成される。
【0023】
このピストン10を鋳造した後、ピストン10の頂面11と燃焼室12のアルミニウム合金材13の表面に、図1(b)に示すようにジルコニアからなるスプラット14が積層される。
【0024】
このスプラット14は、サスペンションプラズマ溶射(SPS)法を用いて、アルミニウム合金材13の表面に、溶射ガンから直径数μm×厚さ1μm(直径2〜8μm×厚さ0.5〜2μm)のスプラットを噴射して、アルミニウム合金材13の表面に積層される。
【0025】
このサスペンションプラズマ溶射を数回行って、頂面11と燃焼室12のアルミニウム合金材13の表面全体に占めるスプラット14の面積率を、10〜50%にする。
【0026】
このようにアルミニウム合金材13の表面にスプラット14を積層した後、アルマイト処理を行って20〜250μmのアルマイト膜を成長させて図1(c)に示すようにハイブリッド遮熱コーティング膜15を形成する。
【0027】
アルマイト処理は、図1(a)に示すように処理浴20に、ピストン10を、その頂面11と燃焼室12が臨むようにセットし、処理浴20に濃度10〜20%硫酸(21)を充填し、ピストン10を+として、電流密度1〜2A/dm2、処理時間30分以上、5時間以下で、通電することで、頂面11と燃焼室12の表面のアルミニウム合金材13がアルマイト化される。この際、頂面11と燃焼室12の表面には、スプラット14が形成されており、アルマイト膜はスプラット14が蒸着積層されていない部分から成長し、その成長によりスプラット14が覆われると共にスプラット14上の空間を覆うように斜め方向にもアルマイト膜が成長するため、従来のアルマイト膜のように規則正しく垂直に成長するのと違って複雑に絡み合ったアルマイト膜からなるハイブリッド遮熱コーティング膜15が形成される。
【0028】
これにより、厚さが20μm以上、好ましくは100μm以上、250μm以下、熱伝導率0.2〜1.5W/mKのアルマイト膜からなるハイブリッド遮熱コーティング膜15が形成される。
【0029】
その後、ハイブリッド遮熱コーティング膜15の形成後は、水和処理することで、水酸化アルミニウム化して、孔壁表面を水和膨張させて封孔処理する。
【0030】
このようにハイブリッド遮熱コーティング膜15は、図1(b)、図1(c)に示すように、スプラット14が形成されたアルミニウム合金材13をアルマイト処理するため、アルマイト膜はランダムに配向して絡み合った状態で成長し、アルマイト膜の成長過程では、スプラット14は成長されたアルマイト膜に取り込まれるため、アルマイト膜中の気孔率が増え、膜の熱伝導率が低下する。よって、スプラットを設けることで、気孔率が増加し、熱伝導が低下する。
【0031】
このスプラット14の面積率を調整することで気孔率が制御でき、成形条件によって気孔率が80〜40%の範囲のハイブリッド遮熱コーティング膜15が作製できる。
【0032】
本発明で処理したハイブリッド遮熱コーティングをピストンに用いた場合、従来のアルマイト膜と比較して、遮熱効果が向上し、エンジンの燃費の改善が図られる。
【符号の説明】
【0033】
10 ピストン
11 頂面
12 燃焼室
13 アルミニウム合金材
14 スプラット
15 ハイブリッド遮熱コーティング膜
図1