特許第6337674号(P6337674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337674
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-153088(P2014-153088)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2016-31035(P2016-31035A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】坂田 智司
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 一生
(72)【発明者】
【氏名】増田 勝平
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−280428(JP,A)
【文献】 特開2006−170026(JP,A)
【文献】 特開2012−219767(JP,A)
【文献】 特開2004−257313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸と同期回転する駆動側回転体と、
前記内燃機関のカム軸と一体回転すると共に前記駆動側回転体に対して相対回転可能な従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体とにより形成される流体圧室と、
前記流体圧室内に配置され、流体の流入により前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相を遅角方向に変更するよう容積が増大する遅角室と、前記流体の流入により前記相対回転位相を進角方向に変更するよう容積が増大する進角室とに仕切る仕切部と、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の何れか一方に設けられた凹部と、何れか他方の回転部材に設けられた溝に配置され、前記凹部に対して係合する、または、前記凹部から離間するロック部材とを含み、前記ロック部材が前記凹部に係合することで前記相対回転位相を最進角位相と最遅角位相との間の中間ロック位相に拘束するロック状態と、前記ロック部材が前記凹部から離間することにより拘束が解除されたロック解除状態とに切り替え可能な中間ロック機構と、
前記相対回転位相を変更するよう、前記遅角室への流体の供給及び前記進角室からの流体の排出、又は、前記進角室への流体の供給及び前記遅角室からの流体の排出を制御する位相制御部とを備え、
前記中間ロック機構が前記ロック状態にあり、前記内燃機関が駆動状態にあるとき、前記カム軸に作用する平均トルクの方向と同方向に前記相対回転位相が変更されるよう、前記位相制御部が前記進角室あるいは前記遅角室に流体を供給する弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記中間ロック機構がロック状態にあるとき、前記ロック部材のうち前記溝から突出している部位を中実に形成すると共に、前記ロック部材のうち前記溝の内部に収容される部位に肉盗み部が形成されている請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記中間ロック機構がロック状態にあるとき、前記ロック部材のうち前記溝の開口端部に当接する部位と、前記ロック部材のうち前記凹部の開口端部に当接する部位とを通る平面を設定し、前記肉盗み部が、前記ロック部材のうち前記溝部の内部に収容される部位から前記平面に至る部位までに形成される請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸と同期回転する駆動側回転体と、内燃機関のカム軸と一体回転する従動側回転体とを備え、これら回転部材どうしの相対回転位相を変化させて内燃機関の点火タイミングを調節する弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような弁開閉時期制御装置の中には、内燃機関の始動時に駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を始動に適した中間位相に固定する所謂中間ロック機構を備えるものがある。中間ロック機構は、例えば内燃機関の停止時に駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を素早く所定の中間位相に設定し、一方の回転体に設けたロック部材を他方の回転体に設けた係合溝に突入させて両回転体の相対回転位相を固定する。
【0003】
この状態を内燃機関の始動時に維持し、内燃機関が始動したのち、必要な油圧が上昇して相対回転位相の油圧制御が確実に行われるようになるまで中間ロック状態が維持される。例えば、特許文献1で示す技術は、内燃機関の停止時などにおいて中間ロック状態に速やかに移行できるよう、係合溝を段付き形状にするものである。これにより、二本あるロック部材を夫々の係合溝に順次係合させて、中間ロック状態への移行を迅速化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−257313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当該従来装置では、ロック部材は係合溝の側に常にバネ付勢され、内燃機関の始動に際して駆動側回転体および従動側回転体の回転に伴う遠心力によってロック部材が係合溝から抜け出ないように構成されている。しかし、内燃機関の始動後に運転者によって急激に回転数が高められる場合には、バネの付勢力を上回る遠心力が発生し或いは内燃機関の振動が増大して不意にロックが解除され、内燃機関の運転状態が乱れることがあった。
【0006】
この様な場合、ロック解除状態で位相保持制御を行えば問題ないが、内燃機関の始動直後で未だ必要油圧が得られていない場合や、寒冷時等で作動油の粘度が高く、上手く中間保持制御が行えない場合がある。この場合、相対回転位相のバタつきが発生する。中間ロックタイプの装置にあっては、この位相のバタつきが非常に顕著である。その結果、的確な進角・遅角位相変更操作行われず、排気性能・燃費性能・出力性能が適切に発揮されないこととなる。
【0007】
そこでこのような従来の問題に鑑み、本発明は、中間ロック状態の維持および解除を確実に行える弁開閉時期制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の弁開閉時期制御装置に係る特徴構成は、内燃機関のクランク軸と同期回転する駆動側回転体と、前記内燃機関のカム軸と一体回転すると共に前記駆動側回転体に対して相対回転可能な従動側回転体と、前記駆動側回転体と前記従動側回転体とにより形成される流体圧室と、前記流体圧室内に配置され、流体の流入により前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相を遅角方向に変更するよう容積が増大する遅角室と、前記流体の流入により前記相対回転位相を進角方向に変更するよう容積が増大する進角室とに仕切る仕切部と、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の何れか一方に設けられた凹部と、何れか他方の回転部材に設けられた溝に配置され、前記凹部に対して係合する、又は、前記凹部から離間するロック部材とを含み、前記ロック部材が前記凹部に係合することで前記相対回転位相を最進角位相と最遅角位相との間の中間ロック位相に拘束するロック状態と、前記ロック部材が前記凹部から離間することにより拘束が解除されたロック解除状態とに切り替え可能な中間ロック機構と、前記相対回転位相を変更するよう、前記遅角室への流体の供給及び前記進角室からの流体の排出、又は、前記進角室への流体の供給及び前記遅角室からの流体の排出を制御する位相制御部とを備え、前記中間ロック機構が前記ロック状態にあり、前記内燃機関が駆動状態にあるとき、前記カム軸に作用する平均トルクの方向と同方向に前記相対回転位相が変更されるよう、前記位相制御部が前記遅角室あるいは前記進角室に流体を供給する点に特徴を有する。
【0009】
本特徴構成によれば、カム軸に作用する平均トルクに加え、当該平均トルクが作用する方向に駆動側回転体及び従動側回転体の相対回転位相が変化するように流体圧を作用させて、カム軸に作用する平均トルクに加えて、駆動側回転体及び従動側回転体の何れか一方に設けられた凹部と、何れか他方に設けられた溝とによってロック部材にせん断力を作用させることができる。これにより、ロック部材のせん断保持効果が極めて高く、ロック部材を凹部に係合させる力を上回る遠心力がロック部材に作用している状況にあっても中間ロック状態を確実に保持することができる。
【0010】
本発明の弁開閉時期制御装置に係る特徴構成は、前記中間ロック機構がロック状態にあるとき、前記ロック部材のうち前記溝から突出している部位を中実に形成すると共に、前記ロック部材のうち前記溝の内部に収容される部位に肉盗み部が形成されている点にある。
【0011】
本特徴構成のごとくロック部材に肉盗み部を形成することで、ロック部材の重量を軽減することができる。よって、内燃機関の始動直後などにおいて作用する遠心力が小さくなり、ロック部材の突然の抜け出しを防止することができる。
また、ロック部材が軽量化されるため、例えば内燃機関が冷間始動した場合など作動用の流体圧の高まりが遅い場合でも、ロック部材のロック解除動作を早め、点火タイミングの迅速な変更が可能になる。
さらに、肉盗み部は、ロック部材のうち溝の内部に収容されている部位に形成するから、中間ロック状態にあってロック部材にせん断力が作用している場合でも、せん断力を負担する部位の肉厚は確保されている。よって、内燃機関の始動に際してロック部材が変形する等の不都合は生じず、信頼性の高い中間ロック機構を得ることができる。
【0012】
本発明の弁開閉時期制御装置に係る特徴構成は、前記中間ロック機構がロック状態にあるとき、前記ロック部材のうち前記溝の開口端部に当接する部位と、前記ロック部材のうち前記凹部の開口端部に当接する部位とを通る平面を設定し、前記肉盗み部が前記ロック部材のうち前記溝部の内部に収容される部位から前記平面に至る部位までに形成される点にある。
【0013】
中間ロック状態にあるロック部材に対し、せん断力は、溝の開口端部の位置と、係合溝の開口端部の位置とに作用する。例えば、係合溝が段状に形成されたラチェット機構を備え、中間ロック状態に移行し易い形状となっている場合、中間ロック状態となった際の上記せん断力の作用する位置はロック部材の係合・離間方向に沿って離間した位置となる。この場合には、双方の作用位置を結ぶ平面よりも溝の側、つまりロック部材の基端側に肉盗み部を形成しておけば、ロック部材の強度をせん断力に耐え得るものにできる。この場合、ロック部材のうち、溝から突出した位置にも肉盗み部を形成できることとなり、ロック部材の重量を更に軽減することができる。この結果、遠心力によるロック部材の不意の抜け出しを防止し、且つ、迅速なロック解除動作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】弁開閉時期制御装置の概略構成を示す側断面図。
図2】ロック状態にある弁開閉時期制御機構の立断面図。
図3】中間ロック機構のロック状態を示す図。
図4】ロック部材の外観を示す斜視図。
図5】別実施形態に係る中間ロック機構のロック状態を示す図。
図6】別実施形態に係るロック部材の外観を示す斜視図。
図7】別実施形態に係る弁開閉時期制御装置の概略構成を示す側断面図。
図8】別実施形態に係る中間ロック機構のロック状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の実施形態につき、以下、図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る弁開閉時期制御装置は、特に、内燃機関の始動時において、弁開閉時期を始動に適した状態に確実に設定しようとするものである。
【0016】
本実施形態の装置は、内燃機関Eのクランク軸EXと同期回転する駆動側回転体1と、内燃機関Eのカム軸3と一体回転すると共に駆動側回転体1に対して相対回転可能な従動側回転体2とを有する。駆動側回転体1と従動側回転体2との間には流体圧室40が形成される。この流体圧室40の内部には、流体の流入により駆動側回転体1に対する従動側回転体2の相対回転位相を遅角方向S1に変更するよう容積が増大する遅角室41と、流体の流入により相対回転位相を進角方向S2に変更するよう容積が増大する進角室42とが形成される。これら遅角室41と進角室42とは仕切部5で仕切られている。駆動側回転体1及び従動側回転体2のうち何れか一方には凹部7が設けられ、何れか他方にはこの凹部7に対して係合し、又は、凹部7から離間するロック部材6が設けられている。
【0017】
ロック部材6は、例えば、駆動側回転体1に設けられた溝63に沿って回転軸芯Xに対して径方向に出退する。ロック部材6が凹部7に係合することで駆動側回転体1と従動側回転体2との相対回転位相が最進角位相と最遅角位相との間の中間ロック位相に拘束され、ロック状態となる。また、ロック部材6が凹部7から離間することで拘束が解除されたロック解除状態となる。ロック部材6は、付勢部材Sによって常に凹部7の側に付勢される。また、凹部7にはロック部材6を凹部7から押し出すためのロック油路8が形成されており、制御バルブOCVによって流体の供給・排出が行われる。これらロック部材6と付勢部材S、及び、凹部7、制御バルブOCVによって中間ロック機構が形成される。このようなロック状態とロック解除状態との切り替えは、制御部ECUにより行われる。例えば、駆動側回転体1と従動側回転体2との相対回転位相の変更は、遅角室41に流体を供給しつつ進角室42から流体を排出するか、進角室42に流体を供給しつつ遅角室41から流体を排出して行われる。
【0018】
このような弁開閉時期制御装置は、通常、カム軸3を回転させる際にバルブスプリングの付勢力に基づく反トルクを受ける。このため、カム軸3は、遅角方向S1に平均トルクが作用する。本実施形態の装置では、中間ロック機構がロック状態にあり、内燃機関Eが駆動状態にあるときのように、例えば内燃機関Eの始動時において、ロック部材6が不意に凹部7から抜け出すのを防止する機構を備えている。
【0019】
即ち、駆動側回転体1と従動側回転体2との相対回転位相が、カム軸3に作用する平均トルクの方向と同方向に変更されるよう制御部ECUが進角室42あるいは遅角室41に流体を供給するように構成してある。具体的には、制御部ECUは、内燃機関Eが始動される際に、遅角室41に流体を供給するように、制御バルブOCVを制御する。これにより、ロック部材6の先端側、つまり凹部7に係合した先端部位が遅角方向S1に外力を受け、溝63に収まっているロック部材6の基端側がこれに抵抗することでロック部材6が駆動側回転体1と従動側回転体2とでせん断状態で保持される。これにより、仮に、内燃機関Eの始動時に運転者が回転数を急激に高める操作を行った場合でも、ロック部材6が確実にせん断状態で保持され、不意に凹部7から抜け出すのが防止される。
【0020】
尚、制御バルブOCVは、各種の形式のものが利用できる。例えば、進角・遅角制御のみを行うものや、進角・遅角制御機能に加えてロック部材6の係合・離間制御機能を併せ持つものでもよい。
【0021】
また、カム軸3に作用する平均トルクは、上記のように遅角側に作用するものとは限らない。例えば、カム軸3を進角方向に付勢するようなスプリングを備えた装置の場合には、カム軸3に作用する平均トルクは進角方向S2となるものもある。このような場合には、制御部ECUによる初期付勢油圧の印加方向を進角側に設定する。
【0022】
本実施形態の弁開閉時期制御装置は、中間ロック機構を備えるものであれば、吸気側バルブの装置だけや排気側の装置だけに適用してもよく広く適用可能である。特に、有効な例としては、ミラーサイクル領域やアトキンソン領域で運転可能な内燃機関Eであって吸気側の装置に中間ロック機構を備えた場合があげられる。
ミラーサイクルの内燃機関Eは、ピストンが下死点通過後90〜110度クランクアングル前後で吸気弁が閉じられる。これらの運転態様では、一旦吸引した空気の幾らかを吐き出したのち圧縮が始まるので実圧縮比が低くなる。よって、低温時等には着火性が悪くなり、内燃機関Eの冷間始動が困難になる場合がある。そのため、中間ロック機構を利用した内燃機関Eの確実な始動が必要になるため、ミラーサイクルやアトキンソンサイクルでの運転を行える内燃機関の場合では、本発明の適用が特に有用となる。
【0023】
尚、本実施形態の弁開閉時期制御装置は、勿論、排気側バルブ用として用いることもできる。その場合、中間ロック状態を維持することで、内燃機関Eの燃焼状態を安定化させて排気ガスの状態をよくし、HC(炭化水素)の排出などを防止することができる。
【0024】
本装置の具体例は以下のとおりである。
図1に示すように、クランク軸EXからの駆動力を受けたタイミングチェーンやタイミングベルト24によって駆動される駆動側回転体1と、駆動側回転体1に対して同軸状に配置されたカム軸3と一体回転する従動側回転体2が備えられている。
【0025】
駆動側回転体1は、従動側回転体2に対して所定の角度範囲で相対回転可能に外装されており、外周にはスプロケット11が設けられている。
【0026】
図2は、図1のA−A断面の概略を一部に使用した機能説明図である。
図2に示すように、駆動側回転体1には、径内方向に突出する突部12の複数個が回転方向に沿って互いに離間して並設されている。駆動側回転体1の隣接する突部12、12の夫々の間には、駆動側回転体1と従動側回転体2で規定される流体圧室40が形成されている。
【0027】
従動側回転体2の外周部の、各流体圧室40に対面する個所にはベーン溝51が形成されており、このベーン溝51には、上記流体圧室40を相対回転方向(図2において矢印S1,S2方向)において進角室42と遅角室41とに仕切るベーン5が放射方向に沿って摺動可能に挿入されている。このベーン5は、図1に示すように、その内径側に備えられるスプリング52により、流体圧室40の内壁面wの側に付勢されている。
【0028】
進角室42は従動側回転体2に形成された進角通路22に連通し、遅角室41は従動側回転体2に形成された遅角通路21に連通し、進角通路22及び遅角通路21は、後述する油圧回路9に接続されている。
【0029】
〔回転位相拘束機構〕
駆動側回転体1と従動側回転体2との間には、相対回転位相が最進角位相と最遅角位相との間の中間ロック位相(図2、3に示す位相)にあるときに、駆動側回転体1と従動側回転体2との相対回転を拘束する中間ロック機構を備えている。この中間ロック機構は、ロック部材6と凹部7との組を一対備えている。凹部7は、ロック部材6が凹部7に順次係合するよう段状に構成してある。
【0030】
ロック状態においては、図2図3に示すように、第1ロック部材6A及び第2ロック部材6Bの両方が、それぞれ第1凹部7Aおよび第2凹部7Bに突入する。第1ロック部材6Aは、第1凹部7Aのうち図3中左側の深い壁部で規制され、第2ロック部材6Bは、第2凹部7Bのうち図3中右側の浅い壁部で規制される。尚、第1凹部7Aおよび第2凹部7Bに設けた段部は、内燃機関Eの停止時などに、従動側回転体2がカム軸3の反トルクによって遅角側に相対回転する際に第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bが順次係合するようにラチェット構造としたものである。第1凹部7Aと第2凹部7Bとの間には、従動側回転体2の外面の高さを一段低くした案内路73を設けてある。これにより、ロック動作時に、第1ロック部材6Aあるいは第2ロック部材6Bを第1凹部7Aと第2凹部7Bとの間に確実に捉えることができロック状態への移行が迅速なものとなる。
【0031】
図1図2に示すごとく、油圧回路9は、遅角通路21及び進角通路22を介して遅角室41及び進角室42の一方若しくは両方に作動流体であるオイルを供給する。これにより、流体圧室40の内部でベーン5の相対位置が変化し、駆動側回転体1と従動側回転体2との相対回転位相が変化する。図1に示す制御バルブOCVは相対回転位相の調整を行うほか、第1ロック凹部7および第2ロック凹部7に対するオイルの供給も行えるように構成してある。制御バルブOCVの内部には往復移動するスプールSPが備えられており、制御部ECUによる給電量制御によりスプールSPの位置が調節される。これにより、複数のポートが開閉して遅角通路21あるいは進角通路22、さらには第1凹部7A・第2凹部7Bに連通されたロック油路8にオイルの供給・排出が行われる。
【0032】
油圧回路9には、オイルを貯留するオイルパン91と、内燃機関Eの駆動力或いは電動により駆動し、オイルを制御バルブOCVの側に供給するポンプ92が備えられている。
【0033】
制御部ECUは、所定のプログラム等を格納したメモリ、CPU、入力出力インターフェース等が内蔵されている。制御部ECUには、図1に示すように、カム軸3の位相を検知するカム角センサ90a、クランク軸の位相を検知するクランク角センサ90b、オイルの温度を検知する油温センサ90c、クランク軸の回転数を検知する回転数センサ90d、IGキースイッチ90eや、その他の、車速センサ、冷却水温センサ、又は、スロット開度センサ等の各種センサの検知信号が入力される。また、制御部ECUは、カム角センサ90aで検知したカム軸3の位相と、クランク角センサ90bで検知したクランク軸EXの位相とから、カム軸3とクランク軸EXの相対回転位相、即ち、弁開閉時期制御装置における駆動側回転体1と従動側回転体2との相対回転位相を求めることができる。
【0034】
制御部ECUは、内燃機関Eの油温・クランク軸EXの回転数・車速・スロットル開度等の内燃機関Eの動作状態に基づいて、油圧回路9の制御バルブOCVへの給電量を調整して、駆動側回転体1と従動側回転体2との相対回転位相をその動作状態に適した位相に制御するように構成されている。
【0035】
制御部ECUは、特に、内燃機関Eの始動に際してIGキースイッチ90eがオンされると、点火プラグが発火する前にスプールを動作させ、遅角室41にオイルを供給する状態に制御バルブOCVを操作する。また、ロック油路8にはオイルを供給せず、第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bは、第1凹部7Aおよび第2凹部7Bに係合した状態が維持される。
【0036】
クランク軸EXの回転と共にオイルポンプが駆動され、オイルは直ちに遅角室41に供給される。これによって従動側回転体2は遅角側に押し付けられ、カム軸3からの反トルクと相まって、図3に示す如く第2ロック部材6Bを従動側回転体2と駆動側回転体1とでせん断保持する。
【0037】
本実施形態の第1ロック部材6A及び第2ロック部材6Bは、図3および図4に示す如く、内部に肉盗み部65を設けて軽量化してある。ここでは、第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bの基端部側の端面から先端部に向けて孔部を形成している。さらに詳細には、中間ロック機構がロック状態にあるとき、第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bの部位のうち溝63から突出している部位は中実に形成すると共に、溝63の内部に収容されている部位にのみ肉盗み部65を形成してある。
【0038】
本構成によれば、まず、第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bを軽量化できる。よって、内燃機関Eの始動時に作用する遠心力が小さくなり、これらロック部材6の突然の抜け出しを防止することができる。一方、ロック解除する場合には、仮に寒冷時などであって作動用の油圧が十分に高まっていない場合でも、軽量化のために両ロック部材6が機敏に動作することとなる。
【0039】
特に、肉盗み部65として孔部を形成することで、第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bの外形は変化しないから、ロック解除時にオイル圧が作用する先端面の受圧面積が狭くなることがない。よってロック部材6の解除制御がより迅速なものとなる。
【0040】
さらに、肉盗み部65は、第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bのうち溝63の内部に収容されている部位に形成するから、中間ロック状態にあって第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bにせん断力が作用している場合でも、せん断力を負担する部位の肉厚は確保されている。よって、内燃機関Eの始動に際して第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bが変形する等の不都合は生じず、信頼性の高い中間ロック機構を得ることができる。
【0041】
第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bは、例えば、MIM法(金属粉末射出成型法Metal Injection Molding)等により作製する。本製法によれば、射出成形型を所定の形状に形成しておくことで、肉盗み部65の内部形状など多様な形状とすることができる。
【0042】
〔肉盗み部の別実施形態)
ロック部材6の溝63と凹部7との間が径方向沿って距離がある場合には、図5及び図6に示す如く、中間ロック機構がロック状態にあるとき、例えば第2ロック部材6Bについて、溝63の開口端部に当接する基端側の部位F1と、第2凹部7Bの底側の開口端部に当接する第2ロック部材6Bの先端側の部位F2とを通る平面Pを設定し、肉盗み部65を第2ロック部材6Bのうち当該平面Pよりも溝63の側に形成する。
【0043】
このように構成することで、第2ロック部材6Bの強度をせん断力に耐え得るものにできる。この場合、第2ロック部材6Bのうち、溝63から突出した位置にも肉盗み部65を形成できることとなり、ロック部材6の重量が更に軽減される。この結果、遠心力によるロック部材6の不意の抜け出しをより有効に防止でき、ロック部材6の作動速度を機敏にすることができる。
【0044】
〔ロック部材の別実施形態〕
本発明のロック部材6は、図7および図8に示す如く、ロック部材6の係合・離間方向がカム軸3の回転軸芯Xと平行な場合にも適用可能である。この形式の弁開閉時期制御装置の場合では、内燃機関の始動直後に第1ロック部材6A及び第2ロック部材6Bに遠心力が作用することはない。しかし、内燃機関の始動時の振動や、ロック部材の先端部に形成した面取部がロック用の凹部の開口部に設けた面取り部に乗り上げることなどによって第1ロック部材6A或いは第2ロック部材6Bがロック状態から抜け出し、ロック解除されてしまうことがある。よって、本構成の場合にも、内燃機関の始動時には、カム軸3が受ける平均トルクの作用方向に沿って従動側回転体2が相対回転するように油圧制御が行われる。
【0045】
第1ロック部材6A及び第2ロック部材6Bは、従動側回転体2を構成する複数の仕切り部5に夫々振り分けて形成してある。一方、第1ロック部材6Aが係合する第1凹部7Aは駆動側回転体1を構成するフロントプレート1Aに設けられており、第2ロック部材6Bが係合する第2凹部7Bは駆動側回転体1のリアプレート1Bに設けられている。第1ロック部材6A及び第2ロック部材6Bは、夫々付勢部材Sによって係合方向に付勢されている。一方、第1凹部7A及び第2凹部7Bにはそれぞれロック油路8が連通形成してある。
【0046】
図8に示したとおり、第1ロック部材6Aおよび第2ロック部材6Bにも肉盗み部65を形成してある。ここでは、第1凹部7Aおよび第2凹部7Bには段差は形成しておらず図8に示す如く、溝63の内部に位置する部位にのみ肉盗み部65を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の弁開閉時期制御装置は、中間ロック機構を有するものであれば、吸気弁側の装置或いは排気弁側の装置に限らず広く用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 駆動側回転体
2 従動側回転体
3 カム軸
40 流体圧室
41 遅角室
42 進角室
5 仕切部
6 ロック部材
63 溝
65 肉盗み部
7 凹部
E 内燃機関
ECU 制御部
EX クランク軸
P 平面
S1 遅角方向
S2 進角方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8