(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337726
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20180528BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20180528BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20180528BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20180528BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20180528BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
H01L29/80 F
H01L29/80 H
H01L29/80 M
H01L29/78 618B
H01L29/78 618E
H01L29/78 618C
H01L29/78 617U
H01L29/78 301B
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-198479(P2014-198479)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-72358(P2016-72358A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 義規
(72)【発明者】
【氏名】星 真一
(72)【発明者】
【氏名】松井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健治
【審査官】
棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−156245(JP,A)
【文献】
特開2010−098076(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0264364(US,A1)
【文献】
特開2003−224277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 21/336
H01L 29/778
H01L 29/78
H01L 29/786
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半絶縁性材料もしくは半導体材料にて構成される基板(1)と、
前記基板上に、ヘテロジャンクション構造を構成する第1窒化物半導体層(2)および第2窒化物半導体層(3)を有し、前記第2窒化物半導体層が部分的に除去されることで凹部(3a)が形成され、該凹部より前記第1窒化物半導体層が露出させられたチャネル形成層と、
前記凹部内に形成されたゲート絶縁膜(4)および該ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(5)にて構成されるゲート構造と、
前記チャネル形成層上において、前記ゲート構造を挟んだ両側に配置されたソース電極(6)およびドレイン電極(7)と、を有するスイッチングデバイスを備え、
前記ゲート絶縁膜は、前記凹部の表面上に形成された第1絶縁膜(4a)と、該第1絶縁膜の上に形成された第2絶縁膜(4b)とを含む積層構造とされ、前記第1絶縁膜に含まれる元素の方が前記第2絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強く、かつ、該ゲート絶縁膜中におけるGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×1011cm−2以上であり、さらに前記第1絶縁膜における酸素空孔濃度が前記第2絶縁膜における酸素空孔濃度よりも小さいことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1絶縁膜は金属酸化物もしくは金属窒化物で構成され、前記第2絶縁膜はシリコン酸化膜もしくはシリコン酸窒化膜によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
半絶縁性材料もしくは半導体材料にて構成される基板(1)と、
前記基板上に、ヘテロジャンクション構造を構成する第1窒化物半導体層(2)および第2窒化物半導体層(3)を有し、前記第2窒化物半導体層が部分的に除去されることで凹部(3a)が形成され、該凹部より前記第1窒化物半導体層が露出させられたチャネル形成層と、
前記凹部内に形成されたゲート絶縁膜(4)および該ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(5)にて構成されるゲート構造と、
前記チャネル形成層上において、前記ゲート構造を挟んだ両側に配置されたソース電極(6)およびドレイン電極(7)と、を有するスイッチングデバイスを備え、
前記ゲート絶縁膜は、前記凹部の表面上に形成された第1絶縁膜(4a)と、該第1絶縁膜の上に形成された第2絶縁膜(4b)とを含む積層構造とされ、前記第1絶縁膜および前記第2絶縁膜は同じ金属酸化物もしくは金属窒化物で構成されており、前記第1絶縁膜を構成する金属酸化物もしくは金属窒化物の方が前記第2絶縁膜を構成する金属酸化物もしくは金属窒化物よりも酸素空孔濃度が小さくされていることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
半絶縁性材料もしくは半導体材料にて構成される基板(1)と、
前記基板上に、ヘテロジャンクション構造を構成する第1窒化物半導体層(2)および第2窒化物半導体層(3)を有し、前記第2窒化物半導体層が部分的に除去されることで凹部(3a)が形成され、該凹部より前記第1窒化物半導体層が露出させられたチャネル形成層と、
前記凹部内に形成されたゲート絶縁膜(4)および該ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(5)にて構成されるゲート構造と、
前記チャネル形成層上において、前記ゲート構造を挟んだ両側に配置されたソース電極(6)およびドレイン電極(7)と、を有するスイッチングデバイスを備え、
前記ゲート絶縁膜は、前記凹部の表面上に形成された第1絶縁膜(4a)と、該第1絶縁膜の上に形成された第2絶縁膜(4b)とを含む積層構造とされ、前記第2絶縁膜に含まれる元素の方が前記第1絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強く、かつ、該ゲート絶縁膜中におけるGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×1011cm−2以上であり、さらに前記第1絶縁膜における酸素空孔濃度が前記第2絶縁膜における酸素空孔濃度よりも小さいことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
前記第1絶縁膜はシリコン酸化膜もしくはシリコン酸窒化膜で構成され、前記第2絶縁膜は金属酸化物もしくは金属窒化物によって構成されていることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ゲート電極がボロンがドープされたポリシリコンによって構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1絶縁膜が非晶質状態中に結晶が混じった微結晶状態とされ、前記第2絶縁膜が非晶質状態とされていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項8】
半絶縁性材料もしくは半導体材料にて構成される基板(1)と、
前記基板上に、ヘテロジャンクション構造を構成する第1窒化物半導体層(2)および第2窒化物半導体層(3)を有し、前記第2窒化物半導体層が部分的に除去されることで凹部(3a)が形成され、該凹部より前記第1窒化物半導体層が露出させられたチャネル形成層と、
前記凹部内に形成されたゲート絶縁膜(4)および該ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(5)にて構成されるゲート構造と、
前記チャネル形成層上において、前記ゲート構造を挟んだ両側に配置されたソース電極(6)およびドレイン電極(7)と、を有するスイッチングデバイスを備えた半導体装置の製造方法であって、
前記ゲート絶縁膜の製造工程として、前記凹部の表面上に第1絶縁膜(4a)を形成する工程と、前記第1絶縁膜の上に第2絶縁膜(4b)を形成する工程とを行い、
前記第1絶縁膜を形成する工程および前記第2絶縁膜を形成する工程では、前記第1絶縁膜に含まれる元素の方が前記第2絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強くなる材料を用い、
さらに、前記第1絶縁膜を形成する工程の後かつ前記第2絶縁膜を形成する工程の前もしくは前記第2絶縁膜を形成する工程の後に、前記第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を行うことにより、前記第1絶縁膜における酸素空孔濃度を前記第2絶縁膜における酸素空孔濃度よりも小さくすることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1絶縁膜を形成する工程では、前記第1絶縁膜を金属酸化物もしくは金属窒化物で構成し、
前記第2絶縁膜を形成する工程では、前記第2絶縁膜をシリコン酸化膜もしくはシリコン酸窒化膜によって構成することを特徴とする請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
半絶縁性材料もしくは半導体材料にて構成される基板(1)と、
前記基板上に、ヘテロジャンクション構造を構成する第1窒化物半導体層(2)および第2窒化物半導体層(3)を有し、前記第2窒化物半導体層が部分的に除去されることで凹部(3a)が形成され、該凹部より前記第1窒化物半導体層が露出させられたチャネル形成層と、
前記凹部内に形成されたゲート絶縁膜(4)および該ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(5)にて構成されるゲート構造と、
前記チャネル形成層上において、前記ゲート構造を挟んだ両側に配置されたソース電極(6)およびドレイン電極(7)と、を有するスイッチングデバイスを備えた半導体装置の製造方法であって、
前記ゲート絶縁膜の製造工程として、前記凹部の表面上に第1絶縁膜(4a)を形成する工程と、前記第1絶縁膜の上に第2絶縁膜(4b)を形成する工程とを行い、
前記第1絶縁膜を形成する工程および前記第2絶縁膜を形成する工程では、前記第1絶縁膜および前記第2絶縁膜を同じ金属酸化物もしくは金属窒化物で構成し、
さらに、前記第1絶縁膜を形成する工程の後かつ前記第2絶縁膜を形成する工程の前に、前記第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を行うことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項11】
半絶縁性材料もしくは半導体材料にて構成される基板(1)と、
前記基板上に、ヘテロジャンクション構造を構成する第1窒化物半導体層(2)および第2窒化物半導体層(3)を有し、前記第2窒化物半導体層が部分的に除去されることで凹部(3a)が形成され、該凹部より前記第1窒化物半導体層が露出させられたチャネル形成層と、
前記凹部内に形成されたゲート絶縁膜(4)および該ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(5)にて構成されるゲート構造と、
前記チャネル形成層上において、前記ゲート構造を挟んだ両側に配置されたソース電極(6)およびドレイン電極(7)と、を有するスイッチングデバイスを備えた半導体装置の製造方法であって、
前記ゲート絶縁膜の製造工程として、前記凹部の表面上に第1絶縁膜(4a)を形成する工程と、前記第1絶縁膜の上に第2絶縁膜(4b)を形成する工程とを行い、
前記第1絶縁膜を形成する工程および前記第2絶縁膜を形成する工程では、前記第2絶縁膜に含まれる元素の方が前記第1絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強くなる材料を用い、
さらに、前記第1絶縁膜を形成する工程の後に前記第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を含み、前記第1絶縁膜を形成する工程の後に行う前記第2絶縁膜の形成する工程、前記ゲート電極を形成する工程、および、前記ソース電極と前記ドレイン電極を形成する工程をすべて700℃以下の温度プロセスで行うことにより、前記第1絶縁膜における酸素空孔濃度を前記第2絶縁膜における酸素空孔濃度よりも小さくすることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1絶縁膜を形成する工程では、前記第1絶縁膜をシリコン酸化膜もしくはシリコン酸窒化膜で構成し、
前記第2絶縁膜を形成する工程では、前記第2絶縁膜を金属酸化物もしくは金属窒化物によって構成することを特徴とする請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム(以下、GaNという)を主成分とする化合物半導体を用いたスイッチングデバイスを有する半導体装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スイッチングデバイスとして、GaNとのヘテロジャンクション構造を有する電界効果トランジスタであるHEMT(High electron mobility transistor:高電子移動度トランジスタ)を備えた半導体装置がある。HEMTは、GaNがワイドバンドギャップを有し、絶縁耐圧に優れており、また、飽和電子速度も大きいことから、高速スイッチング化に適している。
【0003】
例えば、窒化アルミニウムガリウム(以下、AlGaNという)とGaNとによるヘテロジャンクション構造を用いたHEMTは、シリコン基板上にバッファ層およびヘテロジャンクション構造を備えた構造とされる。ヘテロジャンクション構造は、例えばGaN層の上にAlGaN層が積層された構造とされている。AlGaN層の上にゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成されると共に、ゲート電極を挟んだ両側においてAlGaN層の表面にソース電極とドレイン電極とが形成されることで、HEMTが構成されている。
【0004】
このようなHEMTを備えた半導体装置において、例えばゲート絶縁膜をアルミナ(AlOx)とシリコン酸化膜(SiO
2)の積層膜で構成することが提案されている(特許文献1参照)。このような構造とすれば、GaN層とゲート絶縁膜との界面におけるSiとGaとの相互拡散が抑制されることから、界面準位を抑制できる。また、アルミナを用いてもSiO
2と同程度にエネルギーバンドギャップEgが大きいことから、リーク電流を抑制することも可能となる。
【0005】
また、アルミニウム(Al)を含みつつ窒素(N)を含まない層とシリコン(Si)および酸素(O)を含む層の積層膜によってゲート絶縁膜を構成しつつ、上層側を下層側よりも厚くした構造も提案されている。さらに、ゲート絶縁膜を酸化アルミニウム(Al
2O
3)とシリコン酸化膜の積層膜で構成しつつ、そのいずれかの膜をマイクロ波プラズマ膜で構成した構造も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−181752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記構造のHEMTは、いずれも、ゲート電圧が0Vのときでも電流が流れるノーマリオン型のスイッチングデバイスになるため、例えば車載用デバイスなどで必要とされるノーマリオフ型のデバイスとすることができない。もしくは、デバイス特性及び使用環境を考慮して最低限必要なゲート閾値電圧が0.5V以上のデバイスが、低オン抵抗デバイスを実現するために必要なゲート絶縁膜厚さの場合に実現できない。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、ノーマリオフ型のHEMTを有する半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、半絶縁性材料もしくは半導体材料にて構成される基板(1)と、基板上に、ヘテロジャンクション構造を構成する第1窒化物半導体層(2)および第2窒化物半導体層(3)を有し、第2窒化物半導体層が部分的に除去されることで凹部(3a)が形成され、該凹部より第1窒化物半導体層が露出させられたチャネル形成層と、凹部内に形成されたゲート絶縁膜(4)および該ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(5)にて構成されるゲート構造と、チャネル形成層上において、ゲート構造を挟んだ両側に配置されたソース電極(6)およびドレイン電極(7)と、を有するスイッチングデバイスを備えている。このような構成において、ゲート絶縁膜は、凹部の表面上に形成された第1絶縁膜(4a)と、該第1絶縁膜の上に形成された第2絶縁膜(4b)とを含む積層構造とされ、第1絶縁膜に含まれる元素の方が第2絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強く、かつ、該ゲート絶縁膜のGaN基板界面付近に負の固定電荷を有し、その密度が2.5×10
11cm
−2以上であ
り、さらに第1絶縁膜における酸素空孔濃度が第2絶縁膜における酸素空孔濃度よりも小さいことを特徴としている。
【0010】
このように、ゲート絶縁膜を第1絶縁膜と第2絶縁膜の積層構造としつつ、第1絶縁膜の方が第2絶縁膜よりも酸素との結合力が強い元素を含む絶縁膜で構成する場合において、該ゲート絶縁膜のGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×10
11cm
-2以上としている。これにより、確実にノーマリオフ型の素子とすることが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、ゲート絶縁膜は、凹部の表面上に形成された第1絶縁膜(4a)と、該第1絶縁膜の上に形成された第2絶縁膜(4b)とを含む積層構造とされ、第1絶縁膜および第2絶縁膜は同じ金属酸化物もしくは金属窒化物で構成されており、第1絶縁膜を構成する金属酸化物もしくは金属窒化物の方が第2絶縁膜を構成する金属酸化物もしくは金属窒化物よりも酸素空孔濃度が小さくされていることを特徴としている。
【0012】
このように、第1絶縁膜と第2絶縁膜との構成材料の主成分が同じである場合でも、第1絶縁膜の酸素空孔濃度が第2絶縁膜よりも小さくなるようにすることで、ノーマリオフ型の素子とすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、ゲート絶縁膜は、凹部の表面上に形成された第1絶縁膜(4a)と、該第1絶縁膜の上に形成された第2絶縁膜(4b)とを含む積層構造とされ、第2絶縁膜に含まれる元素の方が第1絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強く、かつ、該第1絶縁膜のGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×10
11cm
−2以上であ
り、さらに第1絶縁膜における酸素空孔濃度が第2絶縁膜における酸素空孔濃度よりも小さいことを特徴としている。
【0014】
このように、第2絶縁膜に含まれる元素の方が第1絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強い材料とすることもできる。この場合でも、第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を第2絶縁膜の形成前に行い、その後工程における熱履歴を適切に制御すれば、該第1絶縁膜のGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×10
11cm
-2以上となり、閾値電圧を大きくすることが可能となる。したがって、ノーマリオフ型の素子とすることができる。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の半導体装置の製造方法に相当し、ゲート絶縁膜の製造工程として、凹部の表面上に第1絶縁膜(4a)を形成する工程と、第1絶縁膜の上に第2絶縁膜(4b)を形成する工程とを行い、第1絶縁膜を形成する工程および第2絶縁膜を形成する工程では、第1絶縁膜に含まれる元素の方が第2絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強くなる材料を用い、さらに、第1絶縁膜を形成する工程の後かつ第2絶縁膜を形成する工程の前もしくは第2絶縁膜を形成する工程の後に、第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を行うこと
により、第1絶縁膜における酸素空孔濃度を第2絶縁膜における酸素空孔濃度よりも小さくすることを特徴としている。
【0016】
このように、第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を行っている。これにより、該第1絶縁膜のGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×10
11cm
-2以上とすることが可能となり、ノーマリオフ型の素子とすることが可能となる。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項3に記載の半導体装置の製造方法に相当し、ゲート絶縁膜の製造工程として、凹部の表面上に第1絶縁膜(4a)を形成する工程と、第1絶縁膜の上に第2絶縁膜(4b)を形成する工程とを行い、第1絶縁膜を形成する工程および第2絶縁膜を形成する工程では、第1絶縁膜および第2絶縁膜を同じ金属酸化物もしくは金属窒化物で構成し、さらに、第1絶縁膜を形成する工程の後かつ第2絶縁膜を形成する工程の前に、第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を行うことを特徴としている。
【0018】
このように、第1絶縁膜を形成する工程の後かつ第2絶縁膜を形成する工程の前に、第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を行っている。これにより、第1絶縁膜の酸素空孔濃度が第2絶縁膜よりも小さくなって、ノーマリオフ型の素子とすることができる。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項4に記載の半導体装置の製造方法に相当し、ゲート絶縁膜の製造工程として、凹部の表面上に第1絶縁膜(4a)を形成する工程と、第1絶縁膜の上に第2絶縁膜(4b)を形成する工程とを行い、第1絶縁膜を形成する工程および第2絶縁膜を形成する工程では、第2絶縁膜に含まれる元素の方が第1絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強くなる材料を用い、さらに、
第1絶縁膜を形成する工程の後に第1絶縁膜に対して酸素を充填する酸素アニール工程を含み、第1絶縁膜を形成する工程の後に行う第2絶縁膜の形成する工程、ゲート電極を形成する工程、および、ソース電極とドレイン電極を形成する工程をすべて700℃以下の温度プロセスで行うこと
により、第1絶縁膜における酸素空孔濃度を第2絶縁膜における酸素空孔濃度よりも小さくすることを特徴としている。
【0020】
このように、第2絶縁膜に含まれる元素の方が第1絶縁膜に含まれる元素よりも酸素との結合力が強くなる材料を用いている。そして、第1絶縁膜を形成する工程の後の工程を700℃以下の温度プロセスとすることで、第1絶縁膜からの酸素抜けを抑制している。これにより、該第1絶縁膜のGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×10
11cm
-2以上となり、閾値電圧を大きくすることが可能となる。したがって、ノーマリオフ型の素子とすることができる。
【0021】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる横型のHEMTを有する半導体装置の断面図である。
【
図2】
図1中の破線で囲んだ部分におけるゲート絶縁膜4の断面構造を示した図である。
【
図3】ゲート絶縁膜4を単層の酸化アルミニウム膜で構成しつつ、窒素アニールと酸素アニールを行った場合の電荷密度を示した図表である。
【
図4】ゲート絶縁膜4を酸化アルミニウム膜とシリコン酸化膜の積層構造で構成したときの様子を示した断面図である。
【
図5】
図4の構成としたときの酸化アルミニウム膜の膜厚の酸化膜換算値に対する閾値電圧の関係を示した図である。
【
図6】ゲート絶縁膜4を酸化アルミニウム膜とシリコン酸化膜の積層構造で構成しつつ、窒素アニールと酸素アニールを行った場合のGaN基板界面付近の負の固定電荷密度を示した図表である。
【
図7】
図1に示す半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態にかかる横型のHEMTに備えられるゲート絶縁膜4の断面構造を示した図である。
【
図9】本発明の第3実施形態にかかる横型のHEMTに備えられるゲート絶縁膜4の断面構造を示した図である。
【
図10】
図9に示すゲート絶縁膜4中の分子構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、GaNを主成分とする化合物半導体を用いたスイッチングデバイスを有する半導体装置として、GaN−HEMTデバイスの一つである横型のHEMTを備える半導体装置について説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態にかかる半導体装置は、横型のHEMTを備えている。このHEMTは、以下のように構成されている。
【0026】
横型のHEMTは、基板1の表面に、GaN層2およびn型のAlGaN層3が積層された構造を化合物半導体基板として用いて形成されている。これらGaN層2およびAlGaN層3によるAlGaN/GaN界面のGaN層2側に、ピエゾ効果および分極効果により2次元電子ガス(以下、2DEG)キャリアが誘起される。
【0027】
基板1は、
図1中ではSi(111)を例として挙げているが、例えばSiCまたはサファイヤなどの半絶縁性材料や半導体材料によって構成されている。この基板1の上にGaN層2とAlGaN層3が例えばヘテロエピタキシャル成長によって形成されている。化合物半導体基板の比抵抗値については、目的とするデバイスの特性に応じて、化合物半導体基板を構成する各層の不純物濃度により任意に調整すれば良い。GaN層2と基板1との間にAlGaN−GaN超格子層などを介在させ、GaN層2の結晶性を良好なものにすることもできる。なお、ここでの結晶性とは、GaN層2中の欠陥や転位などであり、電気的および光学的な特性に対して影響を及ぼすものである。
【0028】
この化合物半導体基板におけるチャネル部上において、AlGaN層3の表面からGaN層2に達するようにリセス形状部(凹部)3aが形成されている。また化合物半導体基板のうちリセス形状部3aを挟んだ両側において、AlGaN層3の表面から所定深さの溝部3b、3cが形成されている。
【0029】
リセス形状部3aが形成された場所には、リセス形状部3a内およびリセス形状部3aの周囲において積層されたゲート絶縁膜4およびゲート電極5にて構成されるゲート構造が備えられている。
【0030】
ゲート絶縁膜4は、
図2に示すように、第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bとの積層膜によって構成されている。第1絶縁膜4aは、第2絶縁膜4bよりも酸素との結合力が強い元素を含む絶縁膜で構成され、酸化アルミニウム膜(Al
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)もしくは酸化ハフニウム(HfO
2)等の金属酸化物や窒化アルミニウム(AlN)等の金属窒化物などで構成されている。第2絶縁膜4bは、第1絶縁膜4aの上に形成され、第1絶縁膜4aよりも酸素空孔濃度が大きくなっており、シリコン酸化膜(SiO
2)もしくはシリコン酸窒化膜(SiON)などによって構成されている。ゲート電極5は、アルミニウムまたはリン、砒素、もしくはボロンが不純物としてドープされたポリシリコンなどによって構成されている。不純物がドープされたポリシリコンによってゲート電極5を構成する場合、ボロン(B)ドープにすることで、ゲート電極の仕事関数が大きくなり、ゲートリーク電流の抑制効果を得ることができる。
【0031】
なお、図示しないが、ゲート電極5の表面には、Alなどで構成されるゲート配線層が形成されている。ゲート電極およびゲート絶縁膜の材料は、目的とするデバイスの閾値電圧およびゲート耐圧、長期信頼性等を鑑みて、最適な材料およびその構造を選べばよい。
【0032】
一方、AlGaN層3の表面のうち溝部3bが配置された場所には、溝部3b内に入り込むようにソース電極6が形成されており、溝部3cが配置された場所には、溝部3c内に入り込むようにドレイン電極7が形成されている。そして、ソース電極6やドレイン電極7がそれぞれ溝部3b、3cの表面とオーミック接触させられている。なお、ゲート電極5、ソース電極6およびドレイン電極7は後述する酸化膜10などの層間膜によって互いに電気的に分離されている。
【0033】
このような構成により、本実施形態にかかる横型のHEMTが構成されている。このように構成される横型のHEMTの各部の寸法については任意であり、例えば、ソース−ゲート、ゲート−ドレイン間の距離は、目的とするデバイスのオン抵抗および耐圧を鑑みて決定すればよい。
【0034】
このように構成される横型のHEMTは、ゲート電極5に対してゲート電圧を印加することでスイッチング動作を行う。すなわち、ゲート電極5に対してゲート電圧を印加することで、ゲート電極5の下方におけるGaN層2とゲート絶縁膜4の界面に発生する電子層(チャネル)の密度を制御し、ソース−ドレイン間に電圧を加えることで、ソース−ドレイン間に電流を流すという動作を行う。
【0035】
このような横型のHEMTにおいて、上記したようにゲート絶縁膜4を第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bの2層構造とし、第1絶縁膜4aよりも第2絶縁膜4bの方が酸素空孔濃度が大きくなるようにしている。このような構造とすることにより、ノーマリオフ型の横型のHEMTとすることが可能になる。これについて、
図3〜
図6を参照して説明する。
【0036】
まず、参考として、ゲート絶縁膜4を酸化アルミニウム膜(Al
2O
3)の単層構造で構成した場合について説明する。
【0037】
上記したような第1、第2絶縁膜4a、4bの積層構造ではなく、ゲート絶縁膜4を酸化アルミニウム膜の単層構造で構成しつつ、酸化アルミニウム膜の上に例えばアルミニウム(Al)でゲート電極5を構成した。そして、窒素(N
2)アニールを行った場合と酸素(O
2)アニールを行った場合とで、酸化アルミニウム膜とGaN層2の界面近傍の酸化アルミニウム膜側に生じる電荷密度(面密度:cm
-2)の変化を調べた。その結果、窒素アニールを行った場合には、正の固定電荷が形成しており、所望の閾値電圧が得られず、ノーマリオン型の素子になっていた。これに対して、酸素アニールを行った場合には、窒素アニールを行った場合と正負が反対の電荷である、負の固定電荷が酸化アルミニウム膜とGaN層2の界面近傍の酸化アルミニウム膜側に発生していた。それでも所望の閾値電圧である0.5V以上が得られなかった。
【0038】
具体的には、
図3に示すように、窒素アニールを行った場合と酸素アニールを行った場合それぞれで、酸化アルミニウム膜とGaN層2の界面近傍の酸化アルミニウム膜側の電荷密度は+1.22×10
11cm
-2(+は正符号の固定電荷を示す。)と−1.56×10
11cm
-2(−は負符号の固定電荷を示す。)となっていた。このように、酸素アニールを行うことで、酸化アルミニウム膜内への酸素(O)の補填工程を行うことが可能となり、窒素アニールを行った場合と比較して、負の固定電荷を増やすことができた。そして、このように酸化アルミニウム膜中の負の固定電荷を増やすことから、閾値電圧をプラス側に近づけることが可能となり、ある程度、ノーマリオフ型の素子に近づけることができていた。
【0039】
次に、上記したように、ゲート絶縁膜4を第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bとの積層構造とした場合について説明する。
【0040】
図4に示すように、第1絶縁膜4aを酸化アルミニウム膜、第2絶縁膜4bをシリコン酸化膜で構成しつつ、シリコン酸化膜上に例えばアルミニウムでゲート電極5を形成した。そして、窒素アニールを行った場合と酸素アニールを行った場合とで、酸化アルミニウム膜とGaN層2の界面近傍の酸化アルミニウム膜側の固定電荷密度(Q1)を調べた。その結果、窒素アニールを行った場合、酸化アルミニウム膜が所定の膜厚以下であると所望の閾値電圧が得られず、0.5V以下の閾値電圧の素子になっていた。これに対して、
図5に示すように、酸素アニールを行った場合、所望の膜厚以下であっても閾値電圧が0.5V以上であり安定的にノーマリーオフ動作が可能な素子になっていた。なお、図中に示したEOTは、酸化アルミニウム膜の膜厚のシリコン酸化膜換算値である。ここでの所望の膜厚は、素子のオン電圧を決定づけるチャネル抵抗の低減のためにその上限膜厚が制限される。典型的には、EOTが50nm以下であれば、チャネル抵抗が比較的低くなり、パワーデバイスとして良好な特性を示す。EOTが40nm以下であれば、チャネル抵抗は十分に低減され、デバイスの高速動作、低損失化が実現される。また、EOTの下限はゲート絶縁膜に印加する最大のゲート電圧及び使用環境でのサージ電圧によって決定すればよく、典型的には、5nm以上が必要である。
図5において、本発明のSiO
2/Al
2O
3積層構造のゲート絶縁膜に対して酸素アニールを施した場合に、EOTが23nm以上の場合に0.5V以上の閾値電圧が実現されている。
【0041】
また、
図6に示すように、窒素アニールを行った場合と酸素アニールを行った場合それぞれで、酸化アルミニウム膜とGaN層2の界面近傍の酸化アルミニウム膜側の固定電荷密度(Q1)は−2.16×10
11cm
-2と−4.60×10
11cm
-2であった(負符号は負の固定電荷を示す)。
【0042】
第2絶縁膜4bとしてシリコン酸化膜を用いる場合、シリコンよりもアルミニウムの方が酸素との結合力が強い元素であることから、シリコン酸化膜に含まれる酸素が還元されて酸素が酸化アルミニウム膜側に移動し易い。したがって、第2絶縁膜4bとしてシリコン酸化膜を用いるだけで、酸化アルミニウム膜への酸素補填構造となる。
【0043】
しかしながら、窒素アニールを行った場合、アニール時の雰囲気からの酸素充填が行われない。このため、シリコン酸化膜から酸化アルミニウム膜への酸素移動が行われることによって酸化アルミニウム膜中の電荷密度が大きくなるが、その効果は十分ではない。これにより、GaN基板界面付近に負の固定電荷を有し、その密度が1.5×10
11cm
-2程度になり、閾値電圧が上記した値程度になって、安定したノーマリオフ型の素子にすることができなくなっている。
【0044】
これに対して、酸素アニールを行った場合、アニール時に酸素充填が行われる。このため、シリコン酸化膜から酸化アルミニウム膜への酸素移動が行われているために酸化アルミニウム膜中の電荷密度が大きくなっても、酸化アルミニウム膜とシリコン酸化膜との界面がプラスにチャージされる量を低減できる。これにより、GaN基板界面付近に負の固定電荷を有し、その密度が1.5×10
11cm
-2程度になり、閾値電圧が大きな値となって、安定したノーマリオフ型の素子にすることが可能となる。
【0045】
すなわち、ノーマリオフ型の素子にするためにはゲート絶縁膜4中のトータルのチャージ量が重要であり、GaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×10
11cm
-2以上になると、ノーマリオフ型の素子にすることが可能となる。そして、本実施形態のように、酸化アルミニウム膜とGaN層2の界面近傍の酸化アルミニウム膜側の固定電荷密度(Q1)が−4.60×10
11cm
-2(負符号は負の固定電荷を示す)程度であれば、確実にノーマリオフ型の素子にすることが可能となる。
【0046】
このように、ゲート絶縁膜4を第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bの積層構造としつつ、第1絶縁膜4aの方が第2絶縁膜4bよりも酸素との結合力が強い元素を含む絶縁膜で構成する場合において、トータルのチャージ量を増加できる。すなわち、酸素アニールを行うことで、酸化アルミニウム膜内への酸素(O)の補填工程を行うことが可能となり、GaN基板界面付近の負の固定電荷密度を増加できる。これにより、GaN基板界面付近の負の固定電荷密度を2.5×10
11cm
-2以上にすることが可能となり、確実にノーマリオフ型の素子とすることが可能となる。
【0047】
続いて、本実施形態にかかる横型のHEMTの製造方法について、
図7を参照して説明する。
【0048】
〔
図7(a)に示す工程〕
Si(111)やSiCおよびサファイヤなどの基板1の表面に、GaN層2およびAlGaN層3が積層された構造を有する化合物半導体基板を用意する。例えば、基板1の表面に、GaN層2およびAlGaN層3をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)法や超高純度、高精度に制御したMBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー)法などによって形成する。
【0049】
〔
図7(b)に示す工程〕
AlGaN層3の表面に、層間膜となる酸化膜10を形成した後、酸化膜10の表面に第2マスクとなるレジスト11を形成する。そして、フォトリソグラフィ工程を経てレジスト11をパターニングしたのち、このレジスト11をマスクとして酸化膜10をパターニングする。これにより、AlGaN層3の表面のうちゲート構造の形成予定位置においてレジスト11および酸化膜10が開口させられる。この後、レジスト11および酸化膜10をマスクとして用いたドライエッチング工程を行うことで、AlGaN層3の表面をリセス加工して、GaN層2の表面を露出させたリセス形状部3aを形成する。また、リセス形状部3aを形成した後、ドライエッチングのマスクとして用いたレジスト11を除去することで、ドライエッチング工程を終了する。
【0050】
〔
図7(c)に示す工程〕
この後、ゲート絶縁膜4の形成工程を行う。例えば、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)もしくはスパッタ法によって酸化アルミニウム膜などを形成することにより、第1絶縁膜4aを形成する。続いて、CVD(Chemical vapor deposition)法、プラズマCVD法、ALD法などによってシリコン酸化膜などを形成することにより、第1絶縁膜4aの上に第2絶縁膜4bを形成する。このとき、第2絶縁膜4bをCVD法によって形成する場合には700℃程度、プラズマCVD法によって形成する場合でも500℃以下と、成膜方法によっては高温になることから、第2絶縁膜4b中から第1絶縁膜4a側に酸素が移動し易い。つまり、酸素がより安定な方に移動しようとして、第2絶縁膜4bに含まれる元素と比較して酸素との結合力が強い第1絶縁膜4aの元素側へ酸素が移動しようとする。
【0051】
したがって、第1絶縁膜4aの形成後、第2絶縁膜4bの形成前後の少なくともいずれかに、酸素補填工程として酸素アニール工程を行う。これにより、第1絶縁膜4aへの酸素充填、もしくは第1絶縁膜4aおよび第2絶縁膜4bへの酸素充填が行われる。このため、第2絶縁膜4bから第1絶縁膜4aへの酸素移動が行われることで第1絶縁膜4a中の電荷密度が大きくなり、GaN基板界面付近の負の固定電荷密度が増大する。これにより、ゲート絶縁膜4中におけるGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×10
11cm
-2程度になり、閾値電圧が大きな値となって、安定したノーマリオフ型の素子にすることが可能となる。
【0052】
そして、リセス形状部3a内を含め、ゲート絶縁膜4の表面に不純物をドープしたポリシリコンもしくはAlなどの金属材料を順に成膜したのち、図示しないマスクを用いてこれらをパターニングする。このとき、ゲート電極5を不純物をドープしたポリシリコンにてCVDによって構成すれば、活性化アニールを経ることなく低温度でゲート電極5を形成することが可能となる。これにより、ゲート絶縁膜4、ゲート電極5が形成される。
【0053】
〔
図7(d)に示す工程〕
ゲート絶縁膜4、ゲート電極5を覆いつつ、溝部3b、3cの形成予定領域が開口する絶縁膜およびマスクを形成する。例えば、絶縁膜については酸化膜12を形成した後、酸化膜12の表面にマスクとなるレジスト13を形成することで構成することができる。この後、レジスト13を用いて酸化膜12およびAlGaN層3のドライエッチング工程を行うことで、AlGaN層3の表面に溝部3b、3cを形成する。そして、レジスト13を除去する。
【0054】
この後の工程については従来と同様であるが、層間絶縁膜形成工程やコンタクトホール形成工程、ソース電極6およびドレイン電極7の形成工程などを経て、
図1に示した横型のHEMTを有する半導体装置が完成する。
【0055】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してゲート絶縁膜4の構成材料を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0056】
図8に示すように、本実施形態にかかる横型のHEMTを有する半導体装置では、ゲート絶縁膜4を構成する第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bを共に酸化アルミニウム等の金属酸化物によって構成している。ただし、第1、第2絶縁膜4a、4bの構成材料の主成分は同じであるが、第1絶縁膜4aの方が第2絶縁膜4bよりも酸素濃度が高く、つまり酸素空孔濃度が小さくなっている。
【0057】
このように、第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bとの構成材料の主成分が同じである場合でも、第1絶縁膜4aの酸素空孔濃度が第2絶縁膜4bよりも小さくなるようにすることで、第1実施形態と同様、横型のHEMTをノーマリオフ型の素子とすることができる。
【0058】
すなわち、ゲート絶縁膜4を単に酸化アルミニウムなどの金属酸化物によって形成した場合、酸素抜けが多くなって酸素空孔濃度が大きくなる。例えば、ゲート絶縁膜4を酸化アルミニウムによって構成する場合、化学量論比としてはAlとOとの比がAl:O=2:3となるが、酸素抜けによって化学量論比よりも酸素の比率が低くなる。これに対して、本実施形態の場合、第1絶縁膜4aの方が第2絶縁膜4bと比べて酸素比率が高くなっており、AlとOとの比が化学量論比である2:3に近くなっている。これにより、ゲート絶縁膜4中におけるGaN基板界面付近の負の固定電荷密度が2.5×10
11cm
-2以上になり、閾値電圧が大きな値となって、安定したノーマリオフ型の素子にすることが可能となる。
【0059】
このような構成の横型のHEMTを有する半導体装置の製造方法は、基本的に第1実施形態と同様であり、ゲート絶縁膜4の形成工程のみを変更すれば良い。具体的には、ゲート絶縁膜4の形成工程として、原子層堆積法もしくはスパッタ法などによって第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bを連続して形成することでゲート絶縁膜4を形成しているが、第1絶縁膜4aの形成工程の後に酸素アニール工程を行っている。例えば、第1、第2絶縁膜4a、4bを同じチャンバー内において連続的に形成しているが、第1絶縁膜4aを形成した後、一旦成膜工程を停止して酸素アニール工程を行い、その後、成膜工程を再開することで第2絶縁膜4bを形成している。これにより、第1絶縁膜4aに対して酸素補填工程を行うことが可能となり、第1絶縁膜4aの酸素濃度が高くなる。その後に、第2絶縁膜4bを形成する際やその後に熱処理工程があって第1絶縁膜4a中からの酸素抜けが生じても、第2絶縁膜4b中よりも酸素濃度を高いまま維持できる。
【0060】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してゲート絶縁膜4の構成順を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図9に示すように、本実施形態にかかる横型のHEMTを有する半導体装置では、第1実施形態に対してゲート絶縁膜4を構成する第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bの構成順を入れ替えている。具体的には、第1絶縁膜4aをシリコン酸化膜もしくはシリコン酸窒化膜で構成し、第2絶縁膜4bを酸化アルミニウムなどの金属酸化物や窒化アルミニウムなどの金属窒化物で構成している。
【0062】
このように、第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bとを構成する材料を入れ替え、上層となる第2絶縁膜4bの方が下層となる第1絶縁膜4aよりも酸素との結合力が強い元素を含む材料で構成することもできる。このように構成されるゲート絶縁膜4は、第1絶縁膜4aと第2絶縁膜4bとの界面において第1絶縁膜4a側と第2絶縁膜4b側とで結合手が異なることから、この界面において酸素と第1、第2絶縁膜4a、4bに含まれる元素とが異なる極性で結合している。例えば、
図10に示すように、第1絶縁膜4aをシリコン酸化膜などで構成し、第2絶縁膜4bを酸化アルミニウムで構成した場合には、シリコン側が正の極性(δ+)、アルミニウム側が負の極性(δ−)となる。このため、第1、第2絶縁膜4a、4bの界面の極性δ+、δ−の差によって固定電荷密度が2.5×10
11cm
-2以上となり、閾値電圧を大きくすることが可能となる。したがって、第1実施形態と同様、横型のHEMTをノーマリオフ型の素子とすることができる。
【0063】
このような構成の横型のHEMTを有する半導体装置の製造方法は、基本的に第1実施形態と同様であり、ゲート絶縁膜4の形成工程のみを変更すれば良い。具体的には、ゲート絶縁膜4の形成工程として、CVD法などによってシリコン酸化膜などで構成される第1絶縁膜4aを形成したのち、原子層堆積法もしくはスパッタ法などによって金属酸化物や金属窒化物で構成される第2絶縁膜4bを形成する。そして、第1絶縁膜4aの形成工程の後に、酸素補填工程として酸素アニール工程を行う。このとき、第1絶縁膜4aの構成材料に含まれるシリコンなどは、第2絶縁膜4bを構成する金属酸化物に含まれる金属よりも酸素との結合力が弱い元素であるため、第1絶縁膜4a中においては酸素との結合が安定していない準安定状態となっていて酸素が抜け易い。したがって、酸素抜けを抑制できるように、第1絶縁膜4aの成膜後には、第1絶縁膜4aから第2絶縁膜4bへの酸素移動が生じ難い温度プロセスで行うのが好ましい。具体的には、700℃以下、好ましくは300℃以下の温度プロセスとして第2絶縁膜4bの形成工程やゲート電極5、ソース電極6およびドレイン電極7の形成プロセスを行えば、第1絶縁膜4bからの酸素抜けを抑制できる。
【0064】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1〜第3実施形態に対してゲート絶縁膜4の構成を変更したものであり、その他については第1〜第3実施形態と同様であるため、第1〜第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0065】
本実施形態にかかる横型のHEMTを有する半導体装置では、第1〜第3実施形態に対してゲート絶縁膜4を構成する第1絶縁膜4aを微結晶状態、第2絶縁膜4bを非晶質(アモルファス)状態としている。微結晶状態とは、すべてが結晶化されているのではなく非晶質状態の中に結晶が混じっている状態を意味している。
【0066】
このように、第1絶縁膜4aについては微結晶状態とし、第2絶縁膜4bについては非晶質状態とすると、結晶化している方である第1絶縁膜4aについて、格子位置に酸素が配置されているために、より酸素抜けが生じ難くなる。したがって、より第1絶縁膜4aの方が第2絶縁膜4bよりも酸素空孔濃度が小さくなるようにでき、更に上記第1〜第3実施形態の効果を得ることが可能となる。
【0067】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0068】
上記各実施形態において、第1、第2絶縁膜4a、4bに酸素以外の元素、例えば窒素やシリコンを補填して結晶化させないようにすることでリークをより抑制するする構造としても良い。
【0069】
また、上記実施形態では、窒化物半導体にて構成されたチャネル形成層としてGaN層2およびAlGaN層3を例に挙げて説明したが、他の3族元素の窒化物を主成分とする窒化物半導体によってチャネル形成層を構成しても良い。
【符号の説明】
【0070】
1 基板
2 GaN層
3 AlGaN層
4 ゲート絶縁膜
4a、4b 第1、第2絶縁膜
5 ゲート電極
6 ソース電極
7 ドレイン電極