特許第6337802号(P6337802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337802
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】ポリエチレン系多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   B32B27/32 E
   B32B27/32 103
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-39084(P2015-39084)
(22)【出願日】2015年2月27日
(65)【公開番号】特開2016-159484(P2016-159484A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅川 亮介
(72)【発明者】
【氏名】林 大翔
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−033783(JP,A)
【文献】 特開2006−150945(JP,A)
【文献】 特開2014−177506(JP,A)
【文献】 特開2013−049264(JP,A)
【文献】 特開2013−018266(JP,A)
【文献】 特開2006−051657(JP,A)
【文献】 特開2005−271244(JP,A)
【文献】 特表2003−516879(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/153794(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンとαーオレフィンとの共重合によって製造される下記の条件(A−1)〜条件(A−4)を満足するエチレン・α−オレフィン共重合体(A)41〜99重量%及び下記の条件(B−1)〜条件(B−5)を満足するエチレン系重合体(B)1〜59重量%を含有するA層を芯層とし、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)70〜100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(C)0〜30重量%を含有するB層を表面層とする、ポリエチレン系多層フィルム。
エチレン・α−共重合体(A)の条件;
(A−1)MFR=0.01〜20g/10分
(A−2)密度=0.900〜0.940g/cm
(A−3)[Mw/Mn]=2.0〜10.0
(A−4)温度170℃、伸長歪速度2(単位1/秒)で測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)と伸長時間t(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測されないか、あるいは同変曲点が観測された場合、歪硬化後の最大伸長粘度をηA;Max(t)、硬化前の伸長粘度の近似直線をηA;Linear(t)としたとき、ηA;Max(t)/ηA;Linear(t1)で定義される歪硬化度[λmax(2.0)]が1.0〜1.2未満である。
エチレン系重合体(B)の条件;
(B−1)MFR=0.01〜1.5g/10分
(B−2)密度=0.915〜0.940g/cm
(B−3)[Mw/Mn]=2.0〜7.0
(B−4)温度170℃、伸長歪速度2(単位1/秒)で測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)と伸長時間t(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化後の最大伸長粘度をηB;Max(t)、硬化前の伸長粘度の近似直線をηB;Linear(t)としたとき、ηB;Max(t)/ηB;Linear(t)で定義される歪硬化度[λmax(2.0)]が1.2〜30.0である。
(B−5)示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分子量100万における分岐指数(g’)が0.40〜0.80、または、分子量100万未満で(g’)の極小値がある場合は、その極小値が0.40〜0.80である。
【請求項2】
エチレン系重合体(B)が下記の条件(B−6)および条件(B−7)のうちの少なくとも1つを更に満たすエチレン系重合体であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系多層フィルム。
(B−6)上記条件(B−4)と同様にして定義された[λmax(2.0)]と、伸長歪速度を0.1(単位1/秒)として同様に測定した場合の[λmax(0.1)]の比[λmax(2.0)]/[λmax(0.1)]が1.2〜10.0である。
(B−7)示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分子量100万以上の成分の含有量(W)が0.01〜30%である。
【請求項3】
エチレン・αーオレフィン共重合体(A)とエチレン系重合体(B)として、下記条件を満たす重合体を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエチレン系多層フィルム。
(AB−1)MFR>MFR
(AB−2)密度>密度
(AB−3)[Mw/Mn]<[Mw/Mn]
(AB−4)20.0>[λmax(2.0)]/[λmax(2.0)]>1.0
【請求項4】
エチレン・αーオレフィン共重合体(A)とエチレン系重合体(B)として、下記条件を満たす重合体を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエチレン系多層フィルム。
(AB−1’)30>MFR/MFR>1.0
(AB−2’)1.06>密度/密度>1.00
【請求項5】
エチレン・αーオレフィン共重合体(A)が、チーグラー触媒により製造された、MFRが0.1g/10分以上10g/10分未満の線状低密度ポリエチレン、又はメタロセン系触媒により製造された、MFRが0.1g/10分以上5g/10分以下のメタロセン系ポリエチレンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリエチレン系多層フィルム。
【請求項6】
エチレン系重合体(B)が、架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子を有する錯体を必須成分とする触媒系により製造されたエチレン系重合体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリエチレン系多層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系多層フィルムに関し、より詳細には、耐衝撃性と剛性とのバランスに優れるとともに、透明性、成形加工性にも優れるポリエチレン系多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種産業分野において、プラスチック製のフィルム、シート、射出成形体、パイプ、押出成形体、中空成形体等が盛んに用いられるようになった。特にポリエチレン系フィルムは、安価・軽量であり、成形加工性、剛性、衝撃強度、透明性、耐薬品性、リサイクル性に優れる等の理由から包装用途に広範に用いられている。
【0003】
ポリエチレン系フィルムを製造する際、一般に、ポリエチレン系樹脂の成形加工は、溶融状態において実施される。しかし、単独のエチレン系重合体の場合、その溶融特性は、例えば、流動性の面で不十分であったり、伸長粘度が不十分であったりして、成形加工性を十分に確保することが困難であったり、透明性や剛性等の固体物性が不足したりする場合が多い。
【0004】
これらを補うための対策としては、成形性に優れる高圧法低密度ポリエチレン(HPLD)をブレンドしたり、分子量や密度の異なるエチレン系重合体をブレンドしたりして、溶融特性や固体物性の改良が行なわれてきた(特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらのブレンド物(エチレン系樹脂組成物)では、成形加工性は得られるものの、HPLDのブレンドによる衝撃強度の低下を招いたり、分子量分布や共重合組成分布が広くなることによって透明性が悪化したりする問題があった。
【0005】
また、最近の容器リサイクル法試行や省資源化の流れにおいて原料樹脂使用量を削減する必要性の観点から、成形体の薄肉化の需要が高まっているが、このためには、衝撃強度とともに剛性(弾性率)の向上が必要となる。衝撃強度を向上する方法としては、エチレン系重合体の密度を低下させる方法がよく知られているが、剛性も一緒に低下してしまう(柔らかくなる)ので好ましくなく、薄肉化の目的のためには、例えば、密度の異なる二種類の特定のエチレン・α−オレフィン共重合体の組み合わせへ、更に、成形加工性や透明性を向上させるために特定のHPLDを加えた三成分系ブレンド組成物を使用する試みがなされている(特許文献4参照)。この方法によれば、従来より衝撃強度と剛性のバランスに優れ、透明性にも優れたポリエチレン樹脂組成物が得られるものの、やはりHPLDブレンドに伴う衝撃強度の低下は避けられず、更に、三種類のエチレン系重合体のブレンドは、一定品質の製品を工業レベルで安定供給する上では従来よりも経済的に不利と考えられる。
【0006】
一方、成形加工性を改良する方法としては、溶融粘度を増加させる長鎖分岐構造をエチレン系重合体に導入する試みが行なわれてきているが、長鎖分岐構造の最適化設計が不十分なため、やはり強度や透明性の低下は避けられず、その改良レベルは未だ不十分であった(特許文献5〜8参照)。
【0007】
こうした状況下に、従来のエチレン系樹脂組成物のもつ問題点を解消し、成形加工性に優れ、かつ衝撃強度と剛性のバランスおよび透明性に優れた成形体を製造することが可能なポリエチレン系フィルムの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−149962号公報
【特許文献2】特開平9−31260号公報
【特許文献3】特開2006−312753号公報
【特許文献4】特開2010−31270号公報
【特許文献5】国際公開第97/10295号
【特許文献6】特開2006−63325号公報
【特許文献7】特開2006−124567号公報
【特許文献8】特開2007−197722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、耐衝撃性と剛性とのバランスに優れるとともに、透明性、成形加工性にも優れるポリエチレン系多層フィルムを提供することを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、長鎖分岐構造の少ない特定のエチレン系重合体(A)と、特定の長鎖分岐構造を有する特定のエチレン系重合体(B)と、を含有する層を芯層とし、エチレン系重合体(A)と、任意に高圧法低密度ポリエチレンとを含有する層を表面層(内層および外層)とするポリエチレン系多層フィルムにより、上記課題を解決することができることを見出し、この知見に基づいてさらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、エチレンとαーオレフィンとの共重合によって製造される下記の条件(A−1)〜条件(A−4)を満足するエチレン・α−オレフィン共重合体(A)41〜99重量%及び下記の条件(B−1)〜条件(B−5)を満足するエチレン系重合体(B)1〜59重量%を含有するA層を芯層とし、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)70〜100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(C)0〜30重量%を含有するB層を表面層とする、ポリエチレン系多層フィルムが提供される。
エチレン・α−共重合体(A)の条件;
(A−1)MFR=0.01〜20g/10分
(A−2)密度=0.900〜0.940g/cm
(A−3)[Mw/Mn]=2.0〜10.0
(A−4)温度170℃、伸長歪速度2(単位1/秒)で測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)と伸長時間t(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測されないか、あるいは同変曲点が観測された場合、歪硬化後の最大伸長粘度をηA;Max(t)、硬化前の伸長粘度の近似直線をηA;Linear(t)としたとき、ηA;Max(t)/ηA;Linear(t1)で定義される歪硬化度[λmax(2.0)]が1.0〜1.2未満である。
エチレン系重合体(B)の条件;
(B−1)MFR=0.01〜1.5g/10分
(B−2)密度=0.915〜0.940g/cm
(B−3)[Mw/Mn]=2.0〜7.0
(B−4)温度170℃、伸長歪速度2(単位1/秒)で測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)と伸長時間t(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化後の最大伸長粘度をηB;Max(t)、硬化前の伸長粘度の近似直線をηB;Linear(t)としたとき、ηB;Max(t)/ηB;Linear(t)で定義される歪硬化度[λmax(2.0)]が1.2〜30.0である。
(B−5)示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分子量100万における分岐指数(g’)が0.40〜0.80、または、分子量100万未満で(g’)の極小値がある場合は、その極小値が0.40〜0.80である。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、エチレン系重合体(B)が下記の条件(B−6)および条件(B−7)のうちの少なくとも1つを更に満たすエチレン系重合体であることを特徴とするポリエチレン系多層フィルムが提供される。
(B−6)上記条件(B−4)と同様にして定義された[λmax(2.0)]と、伸長歪速度を0.1(単位1/秒)として同様に測定した場合の[λmax(0.1)]の比[λmax(2.0)]/[λmax(0.1)]が1.2〜10.0である。
(B−7)示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分子量100万以上の成分の含有量(W)が0.01〜30%である。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、エチレン・αーオレフィン共重合体(A)とエチレン系重合体(B)として、下記条件を満たす重合体を用いることを特徴とするポリエチレン系多層フィルムが提供される。
(AB−1)MFR>MFR
(AB−2)密度>密度
(AB−3)[Mw/Mn]<[Mw/Mn]
(AB−4)20.0>[λmax(2.0)]/[λmax(2.0)]>1.0
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、エチレン・αーオレフィン共重合体(A)とエチレン系重合体(B)として、下記条件を満たす重合体を用いることを特徴とするポリエチレン系多層フィルムが提供される。
(AB−1’)30>MFR/MFR>1.0
(AB−2’)1.06>密度/密度>1.00
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、エチレン・αーオレフィン共重合体(A)が、チーグラー触媒により製造された、MFRが0.1g/10分以上10g/10分未満の線状低密度ポリエチレン、又はメタロセン系触媒により製造された、MFRが0.1g/10分以上5g/10分以下のメタロセン系ポリエチレンであることを特徴とするポリエチレン系多層フィルムが提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、エチレン系重合体(B)が、架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とする触媒系により製造されたエチレン系重合体であることを特徴とするポリエチレン系多層フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、耐衝撃性(ダートドロップインパクト)と引張弾性率及び引裂強度とのバランスに優れるとともに、透明性、成形加工性にも優れているため、特に食品包装用シーラントフィルム、スタンディングパウチ、BIB、内袋、農業用フィルム等に適している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、伸長粘度の変曲点が観測される場合(実施例のエチレン系重合体(B)の典型例)の伸長粘度のプロット図である。
図2図2は、伸長粘度の変曲点が観測されない場合(実施例のエチレン系重合体(A)の典型例)の伸長粘度のプロット図である。
図3図3(a)は、GPC−VIS測定(分岐構造解析)から算出する分子量分布曲線であり、図3(b)は、分岐指数(g’)と分子量(M)との関係を示すグラフである。
図4図4は、A層を構成する成分の違い(実施例1〜3及び比較例1〜3)による1%引張弾性率(MD)とダートドロップインパクトとの関係を示したグラフである。
図5図5は、A層を構成する成分の違い(実施例1〜3及び比較例1〜3)によるヘイズとダートドロップインパクトとの関係を示したグラフである。
図6図6は、A層を構成する成分の違い(実施例1〜3及び比較例1〜3)によるエルメンドルフ引裂強度(MD)とダートドロップインパクトとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、長鎖分岐構造の少ない特定のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)と、特定の長鎖分岐構造を有する特定のエチレン系重合体(B)と、を含有する層を芯層とし、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)と、任意成分として高圧法低密度ポリエチレンと、を含有する層とを表面層(内層および外層)とするポリエチレン系多層フィルムに係るものである。以下、本発明を各項目ごとに説明する。
【0019】
1.エチレン・α−オレフィン共重合体(A)
本発明に用いられるエチレン・α−オレフィン共重合体(A)は、長鎖分岐構造が少ない分子構造が線状で、エチレンとαオレフィンを共重合して得られる低密度のエチレン・αーオレフィン共重合体であり、例えばチーグラー系触媒により得られるLLDPE(線状低密度ポリエチレン)、またはメタロセン系触媒により得られるメタロセンPEと呼ばれる線状の低密度ポリエチレンである。その中でも、下記条件(A−1)〜(A−4)を全て満たす共重合体を用いる。
【0020】
(1)各条件
(A−1)MFR
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)のメルトフローレイト(MFR)は0.01〜20.0g/10分であり、0.1〜5.0g/10分が好ましい。さらに(A)として、チーグラー系触媒で得られる比較的分子量分布の広い(後述するQ値でいうと3.0超〜の値を示すことが多い)共重合体を用いる場合には、0.3〜1.0g/10分の範囲が、より好ましく、一方(A)として、メタロセン系触媒で得られる比較的分子量分布の狭い(後述するQ値でいうと2.0以上〜3.0以下の値を示すことが多い)共重合体を用いる場合には、0.3〜2.0g/10分の範囲が、より好ましい。MFRが低過ぎると、成形加工性が劣り、一方、MFRが高過ぎると、耐衝撃性、機械的強度等が低下する恐れがある。
ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)のMFRは、JIS K7210の「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)およびメルトボリュームレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、190℃、21.18N(2.16kg)荷重の条件で測定したときの値をいう。
【0021】
(A−2)密度
また、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の密度は、0.900〜0.940g/cmであり、0.915〜0.935g/cmが好ましく、0.920〜0.930g/cmがより好ましい。密度がこの範囲内にあると、耐衝撃性と剛性のバランスが優れる。また、密度が低過ぎると、剛性が低下し、自動製袋適性を損なう恐れがある。一方、密度が高過ぎると、耐衝撃性を損なう恐れがある。
ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の密度は、以下の方法で測定したときの値をいう。
【0022】
ペレットを熱プレスして2mm厚のプレスシートを作成し、該シートを1000ml容量のビーカーに入れ蒸留水を満たし、時計皿で蓋をしてマントルヒーターで加熱した。蒸留水が沸騰してから60分間煮沸後、ビーカーを木製台の上に置き放冷した。この時間は60分以下にならないように調整した。また、試験シートは、ビーカーおよび水面に接しないように水中のほぼ中央部に浸漬した。シートを23℃、湿度50%の条件で、16時間以上24時間以内でアニーリングを行った後、縦横2mmになるように打ち抜き、試験温度23℃で、JIS K7112の「プラスチック−非発砲プラスチックの密度および比重の測定方法」に準拠して、測定した。
【0023】
(A−3)[Mw/Mn]
さらに、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比[Mw/Mn](以下、Q値ともいう。)は2.0〜10.0である。Q値が2.0未満の場合、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)と他の重合体成分が混ざり難い可能性がある。Q値が10.0を超えると、耐衝撃性の改良効果が充分でなく、耐衝撃性と剛性のバランスが損なわれる。耐衝撃性と剛性のバランス上、Q値の上限は、好ましくは7.5以下、より好ましくは5.0以下である。Q値の下限は、好ましくは2.3以上、より好ましくは2.5以上である。
なお、(A)として、チーグラー系触媒で得られる共重合体を用いる場合には、Q値が3.0超〜5.0g/10分、メタロセン系触媒で得られる共重合体を用いる場合には、2.0〜4.0g/10分のQ値を有することが好ましい。
【0024】
ここで、[Mw/Mn]は、以下の条件(以下、「分子量分布の測定方法」と言うこともある)で測定した時の値をいう。Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で定義されるものである。
【0025】
装置:ウォーターズ社製GPC
150C型検出器:MIRAN 1A赤外分光光度計(測定波長、3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S 3本
[カラムの較正は、東ソー製単分散ポリスチレン(A500、A2500、F1、F2、F4、F10、F20、F40、F288の各0.5mg/ml溶液)の測定を行い、溶出堆積と分子量の対数値を2次式で近似した。また、試料の分子量は、ポリスチレンとポリエチレンの粘度式を用いてポリエチレンに換算した。ここでポリエチレンの粘度式の関係は、α=0.723、logK=−3.967であり、ポリエチレンは、α=−0.723、logK=−3.407である。]
測定温度:140℃
注入量:0.2ml
濃度:20mg/10ml
溶媒:オルソジクロロベンゼン
流速:1.0ml/min
【0026】
(A−4)歪硬化度[λmax(2.0)]
さらに、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)は、温度170℃、伸長歪速度2(単位1/秒)で測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)と伸長時間t(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測されないか、あるいは同変曲点が観測された場合、歪硬化後の最大伸長粘度をηMax(t)、硬化前の伸長粘度の近似直線をηLinear(t)としたとき、ηMax(t)/ηLinear(t)で定義される歪硬化度[λmax(2.0)]が1.0〜1.2未満である。また、好ましくは該変曲点が観測されないか、[λmax(2.0)]が1.0〜1.1である。ここで硬化前の伸長粘度の近似直線とは、歪量0.2から1.0に対応するtの範囲内で両対数グラフの曲線の接線のうち、最も傾きが小さい接線のことである(ただし該傾きは0または正の値である)。
この(A−4)に示す条件は、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)が、長鎖分岐構造が全くないか、あったとしても非常に少ないことを示す数値であり、従来より慣用的に使用されている重合体の物性評価方法の一つである。
[λmax(2.0)]が1.0未満では該エチレン系重合体、ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の溶融状態が均一でなかったり、熱的に不安定な構造である可能性があり、好ましくない。[λmax(2.0)]が1.2以上であると、成形時の溶融張力と流動性には優れるものの、ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の衝撃強度が低下したり、透明性が悪化したりするので好ましくない。
【0027】
一般に、ポリエチレンは、フィルム成形時に溶融状態を経由する附型方法により工業製品へと加工されるが、この際、上記伸長粘度や歪硬化度に代表される伸長流動特性が成形性のし易さに大きな影響を与える。
すなわち、分子量分布が狭く、長鎖分岐を持たないポリエチレンは、溶融強度が低いので成形性が悪く、一方、超高分子量成分や長鎖分岐成分を有するポリエチレンは、溶融伸長時に歪硬化(ストレイン・ハードニング)、すなわち、高歪み側で伸長粘度が急激に上昇する特性を有し、この特性を顕著に示すポリエチレンは、成形性に優れる。このような伸長流動特性を有するポリエチレン樹脂、例えば、フィルム成形における製品の偏肉や吹き破れを防止したり、高速成形が可能となる効果があり、成形品の強度向上等のメリットが得られる訳であるが、一方で、該伸長流動特性が強過ぎると、成形時の分子配向が原因と推定される強度異方性によって成形体の衝撃強度の低下が生じたり、溶融弾性が強過ぎる特性が原因と推定される成形体表面平滑性の低下によって透明性が悪化する等の不都合が発生する。
このように、ポリエチレンの伸長流動特性がもたらす成形加工面での向上および成形体の機械的特性面での不都合の克服を、該伸長粘度特性の主な支配因子である長鎖分岐構造を工夫することで解決すべくポリエチレン系樹脂組成物について鋭意検討を行なった結果、上述のように、長鎖分岐構造の少ないエチレン・α−オレフィン共重合体(A)を該樹脂組成物のうち主成分を構成する樹脂として使用すると、機械的特性、特に剛性の向上への寄与に優れることがわかった。
【0028】
上記歪硬化度の測定方法に関しては、一軸伸長粘度を測定できれば、どのような方法でも原理的に同一の値が得られ、例えば、公知文献:Polymer 42(2001)8663に測定方法及び測定機器の詳細が記載されている。
本発明に係るエチレン・α−オレフィン共重合体(A)の測定に当り、好ましい測定方法及び測定機器として、以下を挙げることができる。
【0029】
測定方法:
・装置:Rheometorics社製 Ares
・冶具:ティーエーインスツルメント社製 Extentional Viscosity Fixture
・測定温度:170℃
・歪み速度:2/秒
・試験片の作成:プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作成する。
【0030】
算出方法:
170℃、歪み速度2/秒における伸長粘度を、横軸に時間t(秒)、縦軸に伸長粘度η(Pa・秒)を両対数グラフでプロットする。その両対数グラフ上で、歪硬化後、歪量が4.0となるまでの最大伸長粘度をηMax(t)(tは最大伸長粘度を示す時の時間)とし、歪硬化前の伸長粘度の近似直線をηLinear(t)としたとき、ηMax(t)/ηLinear(t)として算出される値を歪硬化度(λmax)と定義する。なお、歪硬化の有無は、時間の経過と共に伸長粘度が上に凸の曲線から下に凸の曲線へと変わる変曲点を有するか、否かによって、判断される。
図1および図2は典型的な伸長粘度のプロット図である。図1は伸長粘度の変曲点が観測される場合であり、図中にηMax(t)、ηLinear(t)を示した。図2は伸長粘度の変曲点が観測されない場合である。
【0031】
(2)エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の組成
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)成分は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体である。ここで用いられる共重合成分であるα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、デセン−1、テトラデセン−1、ヘキサデセン−1、オクタデセン−1、エイコセン−1等が挙げられる。また、これらα−オレフィンは1種のみでもよく、また2種以上が併用されていてもよい。これらのうち、より好ましいα−オレフィンは炭素数3〜10のものであり、具体的にはプロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、デセン−1等が挙げられる。更に好ましいα−オレフィンは炭素数4〜8のものであり、具体的にはブテン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等が挙げられる。特に好ましいα−オレフィンは、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1である。なお、後述するオレフィン重合用触媒の中には、エチレン単独重合時においても、エチレンオリゴメリゼーション反応による1−ブテンや1−ヘキセン等のα−オレフィンを重合系内で副生したり、「Chain−walking反応」と呼ばれる、オレフィン重合生長末端において活性中心金属−末端炭素間結合の異性化反応からオレフィン重合体主鎖にメチル基やエチル基といった短鎖分岐が生じる反応が知られており、これらの反応から生じるエチレン単独重合体中の短鎖分岐構造は、α−オレフィンの共重合によって生じる短鎖分岐構造と区別がつかない場合がある。
よって、本発明でいうエチレン単独重合体とは、外部からコモノマーとしてのα−オレフィンを供給することなく実施される重合の結果生じる重合体をいい、エチレン・α−オレフィン共重合体とは、外部から該α−オレフィンを供給して実施される重合の結果生じる重合体をいい、エチレン系重合体という語をエチレン単独重合体およびエチレン・α−オレフィン共重合体(後述のα−オレフィン以外をコモノマーとして使用する場合も含む。)を総称して使用する。
【0032】
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)中におけるエチレンとα−オレフィンの割合は、エチレン約80〜100重量%、α−オレフィン約0〜20重量%であり、好ましくはエチレン約85〜99.9重量%、α−オレフィン約0.1〜15重量%であり、より好ましくはエチレン約90〜99.5重量%、α−オレフィン約0.5〜10重量%であり、更に好ましくはエチレン約90〜99重量%、α−オレフィン約1〜10重量%である。エチレン含量がこの範囲内であれば、ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の剛性と衝撃強度のバランスがよい。
【0033】
共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであっても差し支えない。もちろん、エチレンやα−オレフィン以外のコモノマーを少量使用することも可能であり、この場合、スチレン、4−メチルスチレン、4−ジメチルアミノスチレン等のスチレン類、1,4−ブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等のジエン類、ノルボルネン、シクロペンテン等の環状化合物、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル等の含酸素化合物類、等の重合性二重結合を有する化合物を挙げることができる。ただしジエン類を使用する場合は長鎖分岐構造が発達しない範囲内において、すなわち上記条件(A−4)を満たす範囲内において使用しなくてはいけないことは言うまでもない。
【0034】
(3)エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の製造方法
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)成分は、上記条件(A−1)〜(A−4)を全て満たすような上記組成のエチレン系重合体を製造して使用する。その製造は、オレフィン重合用触媒を用いてエチレンを単独重合または上述のα−オレフィンと共重合する方法によって実施される。
オレフィン重合用触媒としては、今日様々な種類のものが知られており、該触媒成分の構成および重合条件や後処理条件の工夫の範囲内において上記エチレン系重合体(A)が準備可能であれば何ら制限されるものではないが、エチレン系重合体(A)の製造に好適な、工業レベルにおける経済性を満足する技術例として、以下の(i)〜(iv)で説明する遷移金属を含む具体的なオレフィン重合用触媒の例を挙げることができる。
【0035】
(i)チーグラー触媒
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の製造に好適なオレフィン重合用触媒の例として、遷移金属化合物と典型金属のアルキル化合物等の組み合わせからなるオレフィン配位重合触媒としてのチーグラー・ナッタ触媒が挙げられる。とりわけマグネシウム化合物にチタニウム化合物を担持させた固体触媒成分と有機アルミニウム化合物を組み合わせたいわゆるMg−Ti系チーグラー触媒(例えば、「触媒活用大辞典;2004年工業調査会発行」、「出願系統図―オレフィン重合触媒の変遷―;1995年発明協会発行」等を参照)は安価で高活性かつ重合プロセス適性に優れることから好適である。
【0036】
(ii)メタロセン触媒
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の製造に好適な重合触媒の例として、メタロセン系遷移金属化合物と助触媒成分からなるオレフィン重合触媒であるメタロセン触媒(例えば、「メタロセン触媒による次世代ポリマー工業化技術(上・下巻);1994年インターリサーチ(株)発行」等を参照)は、比較的安価で高活性かつ重合プロセス適性に優れ、更には分子量分布および共重合組成分布が狭いエチレン系重合体が得られることから使用される。
【0037】
(iii)フィリップス触媒
フィリップス触媒は、クロム化合物をシリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア等の無機酸化物担体に担持させ、非還元性雰囲気で賦活することにより、担持されたクロム元素の少なくとも一部のクロム元素を6価としたクロム触媒である(例えば、M.P.McDaniel著,Advances in Catalysis,Volime 33,47頁,1985年,Academic Press Inc.; M.P.McDaniel著,Handbook of Heterogeneous Catalysis,2400頁,1997年,VCH; M.B.Welchら著,Handbook of Polyolefins:Synthesis and Properties,21頁,1993年,Marcel Dekker等を参照されたい。)。フィリップス触媒はエチレン重合に対して高活性を示すので好適に使用される。ただし、フィリップス触媒で製造されるエチレン系重合体には長鎖分岐構造が含まれたり、分子量分布が広い傾向があるので、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)として使用する際は上記条件(A−3)や(A−4)を満たすことに特に注意が必要である。
【0038】
(iv)ポストメタロセン触媒
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の製造に好適な重合触媒の例として、先述のメタロセン系遷移金属化合物以外の均一系金属錯体(非メタロセン錯体)を使用するオレフィン重合触媒であるポストメタロセン触媒(例えば、「ポリエチレン技術読本;2001年工業調査会(株)発行」、「均一系遷移金属触媒によるリビング重合;1999年アイピーシー(株)発行」、「触媒活用大辞典;2004年工業調査会発行」等を参照されたい。)が、比較的安価で活性に優れ、更には分子量分布および共重合組成分布が狭いエチレン系重合体が得られることから使用される。
これらの非メタロセン錯体触媒としては、中心金属が周期律表4B族であるTi、Zr、HfやV、Cr、Fe、Co、Ni、Pdのものが高活性を示すのでより好適に使用され、中心金属がTi、Zr、Hf、Fe、Ni、Pdのものが更に好適に使用される。ただし、これらのポストメタロセン触媒の中には、生成エチレン系重合体中に長鎖分岐構造が含まれたり、メチル分岐を中心とする短鎖分岐構造が含まれたり、分子量分布が広がったりする傾向を有する場合があるので、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)として使用する際は上記条件(A−2)〜(A−4)を満たすことに特に注意が必要である。
【0039】
本発明において、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の製造は、好ましくは上述のオレフィン重合触媒(i)〜(iv)、より好ましくは(i)チーグラー触媒または(ii)メタロセン触媒をエチレンと接触して、エチレンを重合または共重合することによって実施される。オレフィン重合触媒は(i)〜(iv)の中から複数種を使用することもできる。エチレンの重合または共重合を行うに際しては、スラリー重合、溶液重合、液状モノマー中でのバルク重合、懸濁重合のような液相重合法あるいは気相重合法など、いずれの方法も採用することができる。スラリー重合法の場合、パイプループ型反応器を用いるスラリー重合法、オートクレーブ型反応器を用いるスラリー重合法、いずれも用いることができる。工業的な重合プロセスに関しては、松浦一雄・三上尚孝編著、「ポリエチレン技術読本」、148頁、2001年、工業調査会に詳細に記載されている。重合方法としてはスラリー重合法または気相重合法が好ましく、気相重合法が更に好ましい。
【0040】
本発明において使用されるエチレンは、通常の化石原料由来の原油から製造されるエチレンであってもよいし、植物由来のエチレンであってもよい。また、本発明において製造されるポリエチレンは、植物由来のエチレンを使用して製造されたエチレン系重合体であっても何ら差し支えない。植物由来のエチレン及びポリエチレンとしては、例えば、日本国特表2010−511634号公報に記載のエチレンやそのポリマーが挙げられる。植物由来のエチレンやそのポリマーは、カーボンニュートラル(化石原料を使わず大気中の二酸化炭素の増加につながらない)の性質を持ち、環境に配慮した製品の提供が可能である。
【0041】
液相重合法は、通常炭化水素溶媒中で行う。炭化水素溶媒としては、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素の単独または混合物あるいは液状モノマーが用いられる。気相重合法は、不活性ガス共存下にて、流動床、攪拌床等の通常知られる重合法を採用でき、場合により重合熱除去の媒体を共存させる、いわゆるコンデンシングモードを採用することもできる。
【0042】
重合温度は、一般的には0〜300℃であり、実用的に好ましくは50〜270℃であり、更に好ましくは、採用する重合プロセスによって異なるが、スラリー重合や懸濁重合では60〜110℃であり、溶液重合や液状エチレン中でのバルク重合では100〜250℃であり、気相重合法では60〜100℃である。反応器中の触媒濃度およびオレフィン濃度は重合を進行させるのに十分な任意の濃度でよい。エチレン濃度は、スラリー重合、懸濁重合、溶液重合の場合、反応器内容物の重量を基準にして約1%〜約10%の範囲とすることができ、気相重合の場合、全圧として0.1〜10MPaの範囲とすることができる。また、水素を共存させて重合を行うことも可能であり、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)のMFRを調整する手段として一般的である。水素は、一般的には分子量を調節するためのいわゆる連鎖移動剤としての働きを有する。MFRは、重合温度、触媒のモル比等の重合条件を変えることによってもある程度調節可能である。エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の長鎖分岐量を少なくするためには、エチレン濃度や水素濃度は高い方が好ましい。
【0043】
重合方法としては、反応器を一つ用いてオレフィン系重合体を製造する単段重合だけでなく、生産量を向上させるため、または分子量分布やコモノマー組成分布をより精密に制御するために少なくとも二つ以上の反応器を直列あるいは/および並列に連結させて多段重合を行うこともできる。多段重合の場合、複数の反応器を連結させ、第一段の反応器で重合して得られた反応混合物を続いて第二段以降の反応器に連続して供給する直列多段重合が好ましい。直列多段重合法では、前段の反応器での重合反応混合物が後段以降の反応器に連結管を通して連続的排出により移送される。また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく実施することができる。かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物、前記有機アルミニウムオキシ化合物、有機亜鉛化合物、有機マグネシウム化合物が使用されるが、有機アルミニウム化合物が最も一般的である。
【0044】
2.エチレン系重合体(B)
本発明のポリエチレン樹脂組成物に用いられるエチレン系重合体(B)は、エチレンと一種以上のα−オレフィンとの共重合体であって、特殊な長鎖分岐構造を有するエチレン系重合体である。
すなわち、本発明のエチレン系重合体(B)は、下記条件(B−1)〜(B−5)を全て満たすことを必須とし、さらに、下記条件(B−6)又は(B−7)を満たすことが好ましい。
特に条件(B−4)および条件(B−5)で表わされる特性、好ましくは条件(B−4)、条件(B−5)、および条件(B−6)で表わされる特性は、伸長歪硬化挙動が観測されるレベルで互いに絡み合うことが可能な程度、十分に発達した短かめの長鎖分岐構造を相当量含有すると解釈される特徴的な長鎖分岐構造を意味する規定である。
また(B−3)は、本発明に用いるエチレン系重合体(B)が、比較的分子量分布が狭いタイプの長鎖分岐構造を有するエチレン系共重合体であることを示している。
【0045】
(1)各条件
(B−1)MFR
エチレン系重合体(B)のメルトフローレイト(MFR)は0.005〜2.0g/10分、更には0.01〜1.5g/10分の範囲がより好ましい。MFRが低過ぎると、成形加工性が劣り、一方、MFRが高過ぎると、耐衝撃性、機械的強度等が低下する恐れがある。
ここで、エチレン系重合体(B)のMFRは、JIS K7210の「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)およびメルトボリュームレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、190℃、21.18N(2.16kg)荷重の条件で測定したときの値をいう。
【0046】
(B−2)密度
エチレン系重合体(B)の密度は、0.915〜0.940g/cmであり、0.916〜0.940g/cmが好ましい。密度がこの範囲内にあると、耐衝撃性と剛性のバランスが優れる。また、密度が低過ぎると、剛性が低下しがちである。一方、密度が高過ぎると、耐衝撃性を損う恐れがある。
ここで、エチレン系重合体(B)の密度は、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の密度の測定方法と同一方法で測定したときの値をいう。
【0047】
(B−3)[Mw/Mn]
エチレン系重合体(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比[Mw/Mn](以下、Q値ともいう。)は2.0〜7.0である。Q値が2.0未満の場合、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)と混ざり難い可能性がある。Q値が7.0を超えると、耐衝撃性の改良効果が充分でなく、耐衝撃性と剛性のバランスが損なわれる。耐衝撃性と剛性のバランスの観点から、Q値の上限は、好ましくは6.5以下、より好ましくは6.0以下である。Q値の下限は、好ましくは2.5以上、より好ましくは3.0以上である。
ここで、エチレン系重合体(B)のQ値は、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)のQ値の測定方法と同一方法で測定したときの値をいう。
【0048】
(B−4)[λmax(2.0)]
エチレン系重合体(B)は、歪硬化度[λmax(2.0)]が1.2〜30.0、好ましくは1.2〜20.0、より好ましくは1.2〜10.0、更に好ましくは1.2〜5.0であり、特に好ましくは1.2〜3.0である。
この[λmax(2.0)]値は、エチレン系重合体に導入された長鎖分岐の発達度合いを示す値である。[λmax(2.0)]が1.2未満では該エチレン系重合体、ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の流動性や溶融張力が不十分となり、成形加工特性が悪くなる。[λmax(2.0)]が30.0より大きいと、流動性や溶融張力には優れるものの、ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の衝撃強度が低下したり、透明性が悪化したりするので好ましくない。なお、[λmax(2.0)]は上述の条件(A−4)と同様の条件で測定したときの値をいう。
ポリエチレンの伸長流動特性がその成形加工性や成形体の機械的特性面に与える影響に関しては、既に上述の条件で、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の項で一般論として述べた通りである。このようにポリエチレンの伸長流動特性がもたらす成形加工面での向上および成形体の機械的特性面での不都合の克服を、該伸長粘度特性の主な支配因子である長鎖分岐構造を工夫することで解決すべくポリエチレン系樹脂組成物について鋭意検討を行なった結果、長鎖分岐構造の少ないエチレン・α−オレフィン共重合体(A)を使用するとともに、伸長歪硬化度[λmax(2.0)]で代表される長鎖分岐構造の多いエチレン系重合体(B)をポリエチレン系多層フィルムの芯層の構成成分として使用すると、成形加工特性の向上はもちろんのこと、機械的特性、特に剛性や衝撃強度に優れることがわかった。
【0049】
(B−5)分岐指数(gc’)
さらに、エチレン系重合体(B)成分は、示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分子量100万における分岐指数(gc’)が0.40〜0.80、または、分子量100万未満で(gc’)の極小値がある場合は、その極小値が0.40〜0.80であることが好ましい。gc’値は、エチレン系重合体(B)の長鎖分岐構造の発達度合を示す指標であり、数値が高い方が長鎖分岐構造の発達度合は低く、数値が低い方が長鎖分岐構造の発達度合は高いことを示している。gc’値は、好ましくは0.50〜0.80、より好ましくは0.50〜0.75であり、更に好ましくは0.55〜0.70であり、特に好ましくは0.55〜0.65である。gc’値が大きすぎるとポリエチレン系多層フィルムの成形加工性が不十分であったり、透明性が不足する場合があり好ましくない。gc’値が小さすぎると、ポリエチレン系多層フィルムの成形加工性は向上するが、衝撃強度が低下したり、透明性が悪化したりする場合があり好ましくない。
なお、本発明で、エチレン系重合体のgc’値や次項のW値は、後述のGPC−VIS測定から算出する分子量分布曲線や分岐指数(g’)を用いた長鎖分岐量の評価手法である。
【0050】
(B−6)[λmax(2.0)]/[λmax(0.1)]
エチレン系重合体(B)は、[λmax(2.0)]と、伸長歪速度を0.1(単位1/秒)として同様に測定された[λmax(0.1)]との比[λmax(2.0)]/[λmax(0.1)]が1.2〜10.0が好ましい。さらに好ましくは1.2〜5.0、より好ましくは1.3〜4.0であり、更に好ましくは1.3〜3.0である。
【0051】
この[λmax(2.0)]/[λmax(0.1)]の値は、エチレン系重合体の長鎖分岐構造の発達度合を示す値であり、数値が高い方が長鎖分岐構造の発達度合は高く、数値が低い方が長鎖分岐構造の発達度合は低いことを示している。[λmax(2.0)]/[λmax(0.1)]が1.2未満ではポリエチレン系多層フィルムの溶融状態が均一でなかったり、熱的に不安定な構造である可能性があったり、非常に長い長鎖分岐構造の存在に起因する成形体の強度異方性による衝撃強度の低下や透明性の悪化が生じたりして、好ましくない。[λmax(2.0)]/[λmax(0.1)]が10.0より大きいと、成形時の溶融張力と流動性には優れるものの、ポリエチレン系多層フィルムの衝撃強度が低下したり、透明性が悪化したりするので好ましくない。
【0052】
エチレン系重合体(B)の長鎖分岐構造が、伸長歪硬化度の歪速度依存性が従来使用されていたものとは異なる上記条件(B−6)で表わされる特性を有する時、ポリエチレン系多層フィルムの成形加工特性、機械的特性、透明性のいずれにおいても向上効果に極めて優れる。
【0053】
(B−7)分子量100万以上の成分の含有量(W
エチレン系重合体(B)成分は、示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分子量100万以上の成分の含有量(W)が0.01〜30.0%であることが好ましい。W値は、より好ましくは0.01〜10.0%であり、更に好ましくは0.02〜8.0%であり、特に好ましくは0.05〜6.0%であり、最も好ましくは0.09〜4.0%である。
値が0.01%より小さいとポリエチレン系多層フィルムの成形加工性が不十分であったり、透明性が不足したりする場合があり好ましくない。W値が30.0%より大きいと、ポリエチレン系多層フィルムの成形加工性のうち、溶融張力は向上するが、溶融流動性が低くなり過ぎて、該樹脂組成物の製造や成形加工に支障を来たしたり、更には成形体の衝撃強度が低下したり、透明性が悪化する場合があるので好ましくない。
【0054】
なお、エチレン系重合体のgc’値やW値は、下記のGPC−VIS測定から算出する分子量分布曲線や分岐指数(g’)を用いた長鎖分岐量の評価手法から求めることができる。
【0055】
[GPC−VISによる分岐構造解析]
示差屈折計(RI)および粘度検出器(Viscometer)を装備したGPC装置として、Waters社のAlliance GPCV2000を用いた。また、光散乱検出器として、多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)Wyatt Technology社のDAWN−Eを用いた。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続した。移動相溶媒は、1,2,4−trichlorobenzene(酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)である。流量は1mL/分である。カラムは、東ソー社 GMHHR−H(S) HTを2本連結して用いた。
カラム、試料注入部および各検出器の温度は、140℃である。試料濃度は1mg/mLとした。注入量(サンプルループ容量)は0.2175mLである。MALLSから得られる絶対分子量(M)、慣性二乗半径(Rg)およびViscometerから得られる極限粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、以下の文献を参考にして計算を行った。
【0056】
参考文献:
1.Developments in polymer characterization, vol.4. Essex: Applied Science; 1984. Chapter1.
2.Polymer, 45, 6495−6505(2004)
3.Macromolecules, 33, 2424−2436(2000)
4.Macromolecules, 33, 6945−6952(2000)
【0057】
[分岐指数(gc’)、分子量100万以上の成分の含有量(Wの算出]
分岐指数(g’)は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる極限粘度(ηbranch)と、別途、線形ポリマーを測定して得られる極限粘度(ηlin)との比(ηbranch/ηlin)として算出する。
ポリマー分子に長鎖分岐が導入されると、同じ分子量の線形のポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなる。慣性半径が小さくなると極限粘度が小さくなることから、長鎖分岐が導入されるに従い同じ分子量の線形ポリマーの極限粘度(ηlin)に対する分岐ポリマーの極限粘度(ηbranch)の比(ηbranch/ηlin)は小さくなっていく。したがって分岐指数(g’=ηbranch/ηlin)が1より小さい値になる場合には分岐が導入されていることを意味し、その値が小さくなるに従い導入されている長鎖分岐が増大していくことを意味する。特に本発明では、MALLSから得られる絶対分子量として、分子量100万以上の成分の、RIで測定される全成分量に対する含有比率(%)を、分子量100万以上の成分の含有量(W)として算出し、MALLSから得られる絶対分子量として、分子量100万における上記g’を、g’として算出する。
図3(a)および図3(b)に上記GPC−VISによる解析結果の一例を示した。図3(a)は、MALLSから得られる分子量(M)とRIから得られる濃度を元に測定された分子量分布曲線を、図3(b)は、分子量(M)における分岐指数(g’)を表す。
ここで、線形ポリマーとしては、直鎖ポリエチレンStandard Reference Material 1475a(National Institute of Standards & Technology)を用いた。
【0058】
(B−8)触媒
エチレン系重合体(B)は、遷移金属を含む触媒を用いたエチレンの重合反応により製造された重合体であり、好ましくは、後述の(3)エチレン系重合体(B)の製造方法の項で詳細に説明された遷移金属を含む触媒を用いたエチレンの重合反応により製造された重合体であり、より好ましくは、遷移金属を含む触媒を用いたエチレンの配位アニオン重合反応により製造された重合体である。
今日、遷移金属を含まないエチレン重合用触媒としては、各種ラジカル重合開始剤がよく知られており、具体的にはジアルキルペルオキシド化合物、アルキルヒドロペルオキシド化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化水素等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物、等が挙げられるが、これらラジカル重合開始剤を使用したラジカル重合反応で生成するエチレン系重合体は、長鎖分岐構造を多く含み、ポリエチレン系樹脂組成物の成分と使用した場合、成形加工特性や透明性の向上に効果を有するものの、長鎖分岐構造が多くなり過ぎて該組成物や成形体の強度を低下させるので好ましくなく、また、エチレン系重合体(B)のMFRを十分低くしたり、密度を十分低下させたり、好ましいα−オレフィンとの共重合が実現不可能であったりするので、該組成物や成形体の強度を十分向上させることが出来ないので、好ましくない。なお、例え、遷移金属を含む触媒であっても、過酸化水素/塩化第一鉄やセリウム塩/アルコールのようないわゆるレドックス系のように重合反応が実質的にラジカル重合で進行する場合は、本発明でいう遷移金属を含む触媒とは見なさない。
【0059】
(2)エチレン系重合体(B)の組成
エチレン系重合体(B)の組成については、エチレンとα−オレフィンの割合を除いて、上述の1−5.エチレン系重合体(A)の組成に関する説明をそのまま参照することが出来るので、同一部分に関してはその記述を省略する。
エチレン系重合体(B)は、好ましくは、エチレンと上述の1.(2)に記載したα−オレフィンとの共重合体であり、最も好ましくは、ヘキセン−1、オクテン−1との共重合体である。
エチレン系重合体(B)中におけるエチレンとα−オレフィンの割合は、エチレン約75〜99.5重量%、α−オレフィン約0.5〜25重量%であり、好ましくはエチレン約78〜97重量%、α−オレフィン約3〜22重量%であり、より好ましくはエチレン約80〜96重量%、α−オレフィン約4〜20重量%であり、更に好ましくはエチレン約82〜95重量%、α−オレフィン約5〜18重量%である。エチレン含量がこの範囲内であれば、ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の剛性と衝撃強度のバランスがよく、透明性にも優れる。なお、上述したジエン類を使用する場合は長鎖分岐構造が上記条件(B−4)および(B−5)を満たす範囲内において使用しなければならない。
【0060】
(3)エチレン系重合体(B)の製造方法
本発明におけるエチレン系重合体(B)の製造方法は、上記条件(B−3)〜(B−5)に対応する分子量分布及び長鎖分岐構造を該エチレン系重合体(B)に付与するのに適切なオレフィン重合用触媒の選択し、かつ(B−1)および(B−2)を満たすような製法条件の調整に留意する必要がある点を除いて、上述の(3)エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の製法に関する説明をそのまま参照することが出来るので、同一部分に関してはその記述を省略する。
【0061】
本発明におけるエチレン系重合体(B)の満足すべき特性のうち、特に上記条件(B−4)および条件(B−5)で表される特性、好ましくは条件(B−4)、条件(B−5)、および条件(B−6)で表わされる特性は、伸長歪硬化挙動が観測されるレベルで互いに絡み合うことが可能な程度、すなわち十分に発達した短かめの長鎖分岐を適量含有すると解釈される、特徴的な長鎖分岐構造に由来すると考えられる。
【0062】
たとえば長鎖分岐構造を有するエチレン系重合体としては、上述のように、チーグラー系触媒を使用したもの(例えば、特許文献5、6)、架橋ビスシクロペンタジエニル配位子を有する錯体を使用したもの、架橋ビスインデニル配位子を有する錯体を使用したもの、架橋ビスインデニル配位子を有する錯体に非MAO改質粒子を組み合わせて触媒として使用したもの、拘束幾何錯体触媒を使用したもの等が知られている。
また、長鎖分岐構造を持つ、市販されている樹脂としては、商品名:AFFINITY(登録商標)FM1570(ダウ・ケミカル社製)、商品名:エクセレンGMH(登録商標)(住友化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0063】
しかしながら、上記チーグラー系触媒で製造したエチレン系共重合体を使用した場合、分子量分布や共重合組成分布が広がって、該ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の衝撃強度等が不十分であったり、低結晶性成分が多いためにベトツキが酷くなったりして好ましいとは言えない。更には該触媒では長い長鎖分岐構造は少量しか生成しないため、衝撃強度等が十分向上しないことがある。
【0064】
また、架橋ビスシクロペンタジエニル配位子を有する錯体や架橋ビスインデニル配位子を有する錯体を使用して製造したエチレン系共重合体を使用した場合、分子量分布が広がる傾向があるために該ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の衝撃強度等が不十分であったり、長鎖分岐の鎖の長さが長めになる傾向にあって衝撃強度等が十分向上しないことがある。
【0065】
さらに、架橋ビスインデニル配位子を有する錯体に非MAO改質粒子を組み合わせて触媒として使用して製造したエチレン系共重合体を使用した場合、分子量分布がMAO助触媒の時よりも更に広がる傾向があるために該ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の衝撃強度等が不十分であり、例えば、該触媒を実際に使用して製造された市販品と言われている上記エクセレンGMHでは、分子量分布が広く、長鎖分岐が長く、分岐数が不十分であるため、成形加工性の改良効果が不十分であったり、衝撃強度や透明性が十分向上しないことがある。
【0066】
拘束幾何錯体触媒を使用して製造したエチレン系共重合体を使用した場合、例えば、該触媒を実際に使用して製造された市販品であると言われている上記AFFINITY(例えばFM1570)では、長鎖分岐の鎖の長さが長く、かつ、分岐数が不十分であるため、成形加工性の改良効果が不十分であったり、衝撃強度や透明性が十分向上せず、好ましいとは言えない。
【0067】
このような中で、特徴のある分子量分布及び長鎖分岐構造を有する本発明に用いるエチレン系重合体(B)を生成するための好適なオレフィン重合用触媒としては、一例として、最近発見されたような(イ)架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須触媒成分として使用する方法(日本国特開2011−137146号公報、日本国特願2010−268037号公報等)、また、別の一例として、(ロ)ベンゾインデニル配位子等を有する錯体を触媒成分として使用する方法(日本国特開2006−2098号公報等)、更に別の一例として、(ハ)メタロセン錯体として架橋ビス(インデニル)配位子、架橋ビス(アズレニル)配位子または架橋ビス(シクロペンタジエニル)配位子を有する錯体と、有機アルミニウムオキシ化合物とカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物であるボラン化合物あるいはボレート化合物との混合物を用いた触媒を用いる方法(日本国特開2002−544296号公報、日本国特開2005−507961号公報、日本国特開平2−276807号公報、日本国特開2002−308933号公報、日本国特開2004−292772号公報、日本国特開平8−311121号公報、日本国特開平8−311260号公報、日本国特開平8−48711号公報等)、が挙げられる。
【0068】
エチレン系重合体(B)として好適な長鎖分岐構造を生成するオレフィン重合用触媒の好適な具体例の中では、(イ)架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とする触媒系と、(ハ)メタロセン錯体として架橋ビス(インデニル)配位子または架橋ビス(シクロペンタジエニル)配位子を有する錯体と、有機アルミニウムオキシ化合物とカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物であるボラン化合物あるいはボレート化合物との混合物を用いた触媒系がより好適であり、(イ)架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とする触媒系が更に好適である。
【0069】
以下、一例として、(イ)架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子を有する錯体を必須成分とする触媒系について具体的に説明する。
【0070】
エチレン系重合体(B)として好適な長鎖分岐構造を生成する(イ)架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とするオレフィン重合用触媒は、下記の成分(a−1)および成分(b)を含み、所望により成分(c)を更に含む。
成分(a−1):一般式(a−1−1)で示されるメタロセン化合物
成分(b):成分(a−1)のメタロセン化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物
成分(c):微粒子担体
【0071】
(i)成分(a−1)
成分(a−1)は、下記一般式(a−1−1)で示されるメタロセン化合物である。
【0072】
【化1】
【0073】
[式(a−1−1)中、Mは、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。QとQは、各々独立して、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示す。Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示し、4つのRのうち少なくとも2つが結合してQおよびQと一緒に環を形成していてもよい。mは、0または1であり、mが0の場合、Qは、RおよびRを含む共役5員環と直接結合している。Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示すが、複数のRが炭化水素基等であっても下記Rのように結合している炭素原子と一緒に環を形成することはない。Rは、結合する5員環に対して縮合環を形成する炭素数4または5の飽和または不飽和の2価の炭化水素基を示す。Rは、Rの炭素原子と結合する原子または基であり、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示す。nは、0〜10の整数を示し、nが2以上の場合、Rの少なくとも2つは、結合している炭素原子と一緒に環を形成していてもよい。Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン原子含有炭化水素基、酸素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示すが、複数のRが炭化水素基等であってもRのように結合している炭素原子と一緒に環を形成することはない。]
【0074】
また、上記に例示した具体的化合物の中で、成分(a−1)のメタロセン化合物として、特に好ましいものを以下に示す。
ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(ベンゾ[e]インデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、シクロブチリデン(シクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−メチルインデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレン(4−t−ブチルシクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(4−t−ブチルシクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(4−t−ブチルシクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジメチル等が挙げられる。
【0075】
(ii)成分(b)
エチレン系重合体(B)として好適な長鎖分岐構造を生成する架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とするオレフィン重合用触媒として例示したオレフィン重合用触媒は、上記成分(a−1)以外に、成分(a−1)のメタロセン化合物(成分(a−1)、以下、単にaと記すこともある。)と反応してカチオン性メタロセン化合物を形成する化合物(成分(b)、以下、単にbと記すこともある。)を含む。
【0076】
メタロセン化合物(a)と反応してカチオン性メタロセン化合物を形成する化合物(b)の一つとして、有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。
上記有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中に、Al−O−Al結合を有し、その結合数は通常1〜100、好ましくは1〜50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常、有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。
なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常、アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサン(実質的にメチルアルミノキサン(MAO)からなるものを含む)は、有機アルミニウムオキシ化合物として、好適である。
【0077】
また、メタロセン化合物(a)と反応してカチオン性メタロセン化合物を形成する化合物(b)の他の具体例として、ボラン化合物やボレート化合物が挙げられる。
上記ボラン化合物をより具体的に表すと、トリフェニルボラン、トリ(o−トリル)ボラン、トリ(p−トリル)ボラン、トリ(m−トリル)ボラン、トリ(o−フルオロフェニル)ボラン、トリス(p−フルオロフェニル)ボラン、トリス(m−フルオロフェニル)ボラン、トリス(2,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(3,5―ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランなどが挙げられる。
【0078】
(iii)成分(c)
エチレン系重合体(B)として好適な長鎖分岐構造を生成する架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とするオレフィン重合用触媒として例示したオレフィン重合用触媒は、微粒子担体(成分(c)、以下、単にcと記すこともある。)を含むことが好ましい。
【0079】
成分(c)である微粒子担体としては、無機物担体、粒子状ポリマー担体またはこれらの混合物が挙げられる。無機物担体は、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属炭酸塩、炭素質物、またはこれらの混合物が使用可能である。
無機物担体に用いることができる好適な金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、ニッケルなどが挙げられる。
【0080】
上記金属酸化物としては、周期表1〜14族の元素の単独酸化物または複合酸化物が挙げられ、例えば、SiO、Al、MgO、CaO、B、TiO、ZrO、Fe、Al・MgO、Al・CaO、Al・SiO、Al・MgO・CaO、Al・MgO・SiO、Al・CuO、Al・Fe、Al・NiO、SiO・MgOなどの天然または合成の各種単独酸化物または複合酸化物を例示することができる。
ここで、上記の式は、分子式ではなく、組成のみを表すものであって、本発明において用いられる複合酸化物の構造および成分比率は特に限定されない。
また、本発明に用いる金属酸化物は、少量の水分を吸収していても差し支えなく、少量の不純物を含有していても差し支えない。
【0081】
金属塩化物としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物が好ましく、具体的にはMgCl、CaClなどが特に好適である。
金属炭酸塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、具体的には、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。
炭素質物としては、例えば、カーボンブラック、活性炭などが挙げられる。
以上の無機物担体は、いずれも本発明に好適に用いることができるが、特に金属酸化物、シリカ、アルミナなどの使用が好ましい。
【0082】
前述の通り、成分(a−2)とともに成分(b)として、前記の有機アルミニウムオキシ化合物等が使用されるが、エチレン系重合体(B)においてもボラン化合物やボレート化合物を有機アルミニウムオキシ化合物と併用することが、エチレン系重合体(B)に望まれる長鎖分岐構造の特性をより高めるには好ましく、同様に、成分(a−2)と成分(b)以外に、成分(c)を含むこともまた好ましい。
【0083】
エチレン系重合体(B)のエチレンの重合または共重合を行うに際しては、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の製法の項の重合方法、エチレン原料、重合媒体、重合温度、重合プロセス、スカベンジャー等に関する説明が全て参照される。ただし、エチレン系重合体(B)に望む諸特性および使用するオレフィン重合用触媒特性を考慮して、これらの条件設定を最適とする必要がある。
例えば、より低MFR、低密度のエチレン系重合体(B)を所望する際には、連鎖移動剤濃度を低めに設定したり、α−オレフィン濃度を高めに設定したり、製造工程における重合体の固着・閉塞等のトラブルを防止すべく、各種運転温度を該重合体の融解温度等に見合った低温側に設定したりでき、スラリー重合においては該重合体の溶解が生じにくいプロパン、ブタン等の低分子量炭化水素溶媒を選択したり、溶媒を使用しない気相重合を選択したり、重合体を溶解状態で取り扱う溶液重合を選択することができる。
また、顕著な長鎖分岐特性を付与したい場合は、水素以外の連鎖移動反応が促進されるように、低モノマー濃度条件、高ポリマー濃度条件、低スカベンジャー濃度条件、高温重合条件、長時間重合条件等を積極的に選択することが好ましい。
具体的には、より低MFR(すなわち分子量の高い)のエチレン系重合体(B)を所望する際には、反応中の水素濃度を減らし、より低密度のエチレン系重合体(B)を所望する際には、コモノマー含有量を増やす等の条件を採用することができる。
【0084】
3.高圧法低密度ポリエチレン(C)
本発明のエチレン系多層フィルムを構成するB層(表面層)は、任意成分として、高圧法低密度ポリエチレン(HPLD)を含有することができる。HPLDは、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンとも呼称され、成形加工性の改良に多く用いられる。
【0085】
高圧法低密度ポリエチレン(C)の物性としては特に規定されないが、MFRは、0.2〜80g/10分が好ましく、0.5〜50g/10分がより好ましい。また、密度は、0.900〜0.935g/cm3が好ましく、0.91〜0.93g/cm3がより好ましい。
ここで、高圧法低密度ポリエチレン(C)のMFR及び密度は、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)と同様、JIS K 7210及びJIS K 7112に準拠して測定したときの値をいう。
【0086】
高圧法低密度ポリエチレン(C)は、市販品から適宜選択して使用することもできる。
市販品としては、例えば、日本ポリエチレン社製の「ノバテックLD」(商標名)などを例示することができる。
【0087】
4.ポリエチレン系多層フィルム
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)41〜99重量%及びエチレン系重合体(B)1〜59重量%を含有するA層を芯層とし、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)70〜100重量%及び任意成分として高圧法低密度ポリエチレン(C)0〜30重量%を含有するB層を表面層とする。
【0088】
本発明のポリエチレン系多層フィルムにおいて、芯層としてA層を用いることにより、耐衝撃性と高剛性かつ高透明性を有し、内層及び外層を構成する表面層としてB層を用いることにより、耐衝撃性と高剛性かつ高透明性、更には高光沢を有する。
【0089】
また、A層(芯層)におけるエチレン・α−オレフィン共重合体(A)及びエチレン系重合体(B)は、下記に説明する条件(AB−1)〜(AB−4)を満たすことが好ましく、特にMFRおよび密度に関しては、下記に説明する条件(AB−1’)、(AB−2’)を満たすことがさらに好ましい。
【0090】
(1)各条件
(AB−1)MFRとMFRの関係
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)とエチレン系重合体(B)のMFRの関係として、MFR>MFRであることが好ましい。MFRの関係がMFR>MFRであると、エチレン系重合体(B)の添加によりバブルがより安定する。
【0091】
(AB−1’)MFR/MFR
また、本発明のポリエチレン系多層フィルムは、30>MFR/MFR>1.0であることが好ましく、より好ましくは25>MFR/MFR>1.0であり、より好ましくは15>MFR/MFR>1.0である。
30>MFR/MFR>1.0であることにより、エチレン系重合体(B)の添加によるインフレーション成形時にバブルが安定し、加工特性が向上する。
【0092】
また、A層(芯層)のMFRは、0.01〜10g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.10〜2g/10分である。
MFRが0.01g/10分より低いと、流動性が悪く、押出機のモーター負荷が高くなりすぎ、一方、MFRが10g/10分より大きくなると、バブルが安定せず、成形し難くなると共に、フィルムの強度が低くなる傾向がある。
【0093】
(AB−2)密度と密度の関係
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)とエチレン系重合体(B)の密度の関係として、密度>密度であることが好ましい。密度が密度>密度であると、エチレン系重合体(B)の添加により、A層の密度が低くなり、フィルムの剛性が上がり、耐衝撃性が向上する。
【0094】
(AB−2’)密度/密度
また、本発明のポリエチレン系多層フィルムは、1.06>密度/密度>1.00であることが好ましく、より好ましくは1.02>密度/密度>1.00である。密度/密度が1.06以下であると、エチレン系重合体(B)の添加により、A層の密度が適度に低くなり、フィルムの剛性が上がり、自動製袋機適性が改善される。
【0095】
また、A層(芯層)の密度は、0.910〜0.950g/cmが好ましく、0.915〜0.945g/cmがさらに好ましく、0.920〜0.940g/cmがより好ましい。
A層(芯層)の密度が0.910g/cmより低いと、フィルムの剛性が低くなり、自動製袋機適性が悪化し、一方、密度が0.950g/cmより高いと、フィルムの強度が低下する傾向がある。
【0096】
(AB−3)[Mw/Mn]と[Mw/Mn]の関係
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)とエチレン系重合体(B)の[Mw/Mn]の関係として、[Mw/Mn]<[Mw/Mn]であることが好ましい。[Mw/Mn]が[Mw/Mn]<[Mw/Mn]であると、エチレン系重合体(B)の添加によるインフレーション成形時のバブルが安定し、加工特性が向上する。
【0097】
(AB−4)[λmax(2.0)]/[λmax(2.0)]
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)とエチレン系重合体(B)の伸長歪速度を2.0(単位1/秒)として測定された歪硬化度[λmax(2.0)]の関係として、20.0>[λmax(2.0)]/[λmax(2.0)]>1.0であることが好ましく、より好ましくは10.0>[λmax(2.0)]/[λmax(2.0)]>1.0、より好ましくは5.0>[λmax(2.0)]/[λmax(2.0)]>1.0、更に好ましくは3.0>[λmax(2.0)]/[λmax(2.0)]>1.0である。
[λmax(2.0)]/[λmax(2.0)]が上記範囲であることにより、エチレン系重合体(B)の添加によるインフレーション成形時のバブルが安定し、成形加工特性が改善され、また、A層やポリエチレン系多層フィルムの衝撃強度がより向上し、透明性が改善される。
【0098】
(2)A層(芯層)における各成分の含有割合
本発明のポリエチレン系多層フィルムのA層(芯層)は、A層(芯層)におけるエチレン・α−オレフィン共重合体(A)及びエチレン系重合体(B)の合計量を100重量%とした場合、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)41〜99重量%及びエチレン系重合体(B)1〜59重量%、好ましくは、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)51〜99重量%及びエチレン系重合体(B)1〜49重量%、さらに好ましくはエチレン・α−オレフィン共重合体(A)61〜99重量%及びエチレン系重合体(B)1〜39重量%を含有する。
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の含有量が41重量%未満(すなわち、エチレン系重合体(B)が59重量%超)である場合、耐衝撃性が低下し、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の含有量が99重量%超(すなわち、エチレン系重合体(B)が1重量%未満)である場合、インフレーション製膜時のバブル安定性が低下する。
【0099】
(3)B層(表面層)における各成分の含有割合
本発明のポリエチレン系多層フィルムのB層(表面層)は、B層(表面層)におけるエチレン・α−オレフィン共重合体(A)及び高圧法低密度ポリエチレン(C)の合計量を100重量%とした場合、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)70〜100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(C)0〜30重量%を含有する。エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の含有量が上記範囲である場合、更なるインフレーション成形におけるバブル安定性が向上とフィルムの透明性および光沢向上効果がある。
【0100】
また、成形加工性の改善という観点から、好ましくはエチレン・α−オレフィン共重合体(A)80〜99重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(C)1〜20重量%、さらに好ましくはエチレン・α−オレフィン共重合体(A)85〜95重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(C)5〜15重量%を含有する。
【0101】
(4)多層フィルムの製造方法
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、インフレーション成形によりフィルム加工することにより製造される。
成形条件は、特に限定はされず、従来公知の方法を用いることができる。
例えば、押出機の口径は、直径10〜600mm、好ましくは20〜300mm、さらに好ましくは25〜200mmであり、口径Dとホッパー下からシリンダー先端までの長さLの比L/Dが8〜45、好ましくは12〜36である。
ダイは、インフレーション成形に一般に用いられている形状のものであり、例えば、スパイダー型、スパイラル型、スタッキング型等の流路形状を持ち、口径は1〜5000mm、好ましくは5〜3000mm、さらに好ましくは10〜1800mmである。
バブルの冷却は、一般に用いられるエアーリングを使用し、その冷却気体は公知のものを用いることが出来、さらに、その温度をチラー等により冷却したり、ヒーター等で加熱したりすることが出来る。また、バブルの冷却は、外部のエアーリングから冷却風を当てたり、内部に冷却気体を循環させたりする公知の方法を用いることが出来る。エアーリングもその形状や数に限定されず、シングルスリットやデュアルスリット、チャンバーのついたもの等公知のものを1つまたは複数設けることが出来る。
【0102】
成形条件としては、ダイから押し出された樹脂は、温度が140〜250℃、好ましくは160〜200℃の範囲にあり、吐出量とダイ形状により決定される平均吐出速度は、5mm/min〜80m/min、好ましくは10mm/min〜60m/min、さらに好ましくは15mm/min〜40m/minである。ダイを出たバブルは、内部の気体により膨張させられ、そのバブルの直径とダイ口径の比であらわされるブロー比が1.5〜4.5、好ましくは2.0〜3.5の範囲にあり、引き取り速度とダイから押し出された時の平均流速の比で表されるTURが2.0〜200、好ましくは10〜100の範囲にあるような成形条件により成形することができる。このバブルは、冷却固化され、ダイの出口からバブルが固化するまでのフロストライン高さは、製膜速度やフィルム厚みにより変化するが、5〜1800、好ましくは10〜1200mm、さらに好ましくは20〜800mmの範囲にある。
【0103】
本発明のポリエチレン系多層フィルムの厚さは特に限定されないが、通常は、10〜200μm、好ましくは20〜150μmである。また、本発明の多層フィルムの各層の厚さの比は、特に限定はされないが、生産性や物性バランスの観点から外層:芯層:内層=1〜3:1〜8:1〜3の範囲が好ましい。
【0104】
また、本発明のポリエチレン系多層フィルムにおいては、外層と芯層または内層と芯層の間に他の層を介在させてもよい。他の層としては、例えば、水蒸気およびガスバリア性向上のために、バリア層を用いることができる。
【0105】
なお、本発明のポリエチレン系多層フィルムの各層においては、本発明の特徴を損なわない範囲において、必要に応じ、帯電防止剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、核剤、滑剤、防曇剤、有機あるいは無機顔料、紫外線防止剤、分散剤などの公知の添加剤を、添加することが出来る。
【0106】
(4)用途
本発明の多層フィルムは、成形加工に必要な溶融張力を満たし、耐衝撃性と剛性とのバランスに優れ、さらに透明性にも優れるため、食品包装用シーラントフィルム、スタンディングパウチ、BIB、内袋、農業用フィルム等の材料として好適に使用される。
【実施例】
【0107】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料等は、以下の通りである。
【0108】
1.物性測定法
(1)メルトフローレイト(MFR)
MFRはJIS K 7210に準拠して測定した。
(2)密度
試験温度23℃で、JIS K 7112に準拠して測定した。
(3)歪み硬化度(λ)
以下の装置を用いて、前記本明細書記載の方法で測定した。
・装置:Rheometorics社製 Ares
・冶具:ティーエーインスツルメント社製 Extentional Viscosity Fixture
・測定温度:170℃
・歪み速度:2/秒
・試験片の作成:プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作成する。
(4)分岐指数(g’)
以下の装置を用いて、前記本明細書記載の方法で測定した。
示差屈折計(RI)および粘度検出器(Viscometer)を装備したGPC装置として、Waters社のAlliance GPCV2000を用いた。また、光散乱検出器として、多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)Wyatt Technology社のDAWN−Eを用いた。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続した。移動相溶媒は、1,2,4−trichlorobenzene(酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)である。流量は1mL/分である。カラムは、東ソー社 GMHHR−H(S) HTを2本連結して用いた。
(5)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)
以下の装置を用いて、前記本明細書記載の方法で測定した。
装置:ウォーターズ社製GPC
150C型検出器:MIRAN 1A赤外分光光度計(測定波長、3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S 3本
また、カラムの較正は、東ソー製単分散ポリスチレン(A500、A2500、F1、F2、F4、F10、F20、F40、F288の各0.5mg/ml溶液)を用いた。
(6)Wc値
分岐指数(g’)と同様の装置を用いて、前記本明細書記載の方法で測定した。
(7)メルトテンション(溶融張力)
東洋精機製作所製キャピログラフを用い、炉内で190℃で加熱安定された樹脂を内径2.095mm、長さ8mmのオリフィスから1cm/minのピストン速度で押し出し、押し出された溶融樹脂を4m/minの速度で引っ張り、その時に生じた抵抗力を測定し、溶融張力値とした。
【0109】
2.フィルムの評価方法
(1)ヘイズ(Haze)
JIS K7105(1981)「プラスチックの光学的特性試験方法」に規定の方法に準拠して測定した。数値が小さくなれば曇り度が小さくなり、透明性に優れていることを示す。
(2)1%引張弾性率
JIS K 7127(1999)に準拠して、流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)の1%変形したときの引張弾性率を測定した。
(3)エルメンドルフ引裂強度
JIS K7128(1991)に準拠して、流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)の引裂強度(N/mm)を測定した。
(4)ダートドロップインパクト(ダート落下衝撃強度)
JIS K 7124 1 A法に準拠して測定した。
【0110】
3.材料
以下、用いた各材料について説明し、各材料の樹脂物性を表1に示す。
(1)チーグラー・ナッタ系線状低密度ポリエチレン(A)
LLDPE−1:エチレン・α−オレフィン共重合体、MFR=1.0g/10分、密度=0.921g/cmのエチレン・ブテン−1共重合体
(2)長鎖分岐を有する低密度ポリエチレン(B)
LCB−1:下記4.に記した製法により得られたエチレン−ヘキセン系共重合体MFR=0.2g/10分、密度=0.917g/cm
LCB−2:住友化学(株)製、商品名CU5001、MFR=0.3g/10分、密度=0.922g/cm
なお、LCB−1は、本発明のエチレン系共重合体(B)の各条件を満たす重合体であり、LCB−2は、エチレン系共重合体(B)の条件を満たさない重合体である。
(3)高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(C)
HPLD−1:日本ポリエチレン(株)製、商品名ノバテックLD、MFR=0.7g/10分、密度=0.924g/cm
【0111】
4.長鎖分岐を有する低密度ポリエチレン(LCB−1)の製造
[メタロセン触媒の調整]
窒素雰囲気化、200ml二口フラスコに600℃で5時間焼成したシリカ5グラムを入れ、150℃のオイルバスで加熱しながら真空ポンプで1時間減圧乾燥した。別途用意した100ml二口フラスコに窒素雰囲気下で、ジメチルシルレン(シクロペンタジニエル)[4−(4−トリメチルシリルフェニル)インデニル]ジルコニウムジクロリド68.7ミリグラムを入れ、脱水トルエン13.4mlで融解した後、更に室温でアルベマール社製の200%メチルアルミノキサン/トルエン溶液8.6mlを加え30分間攪拌した。真空乾燥済みシリカの入った200ml二口フラスコを40℃のオイルバスで加熱および攪拌しながら上記錯体とメチルアルミノキサンの反応物のトルエン溶液を全量加えた。40℃で1時間攪拌した後、40℃に加熱したままトルエン溶媒を減圧留去することで固体触媒を得た。
[LCB−1の製造]
上記固体触媒を使用して、温度75℃、ヘキセン/エチレンモル比0.004、水素/エチレンモル比5.5×10−3、窒素濃度を20mol%、全圧を0.8MPaに準備された気相連続重合装置(内容積100L、流動床直径10cm、流動床種ポリマ−(分散剤)1.8kg)に該固体触媒を0.57g/時間の速さで間欠的に供給しながらガス組成と温度を一定にして重合を行った。また、系内の清浄性を保つためトリエチルアルミニウム(TEA)のヘキサン稀釈溶液0.03mol/Lを12ml/hrでガス循環ラインに供給した。その結果、生成ポリエチレンの平均生成速度は288g/時間となった。累積5kg以上のポリエチレンを生成した後に得られたエチレン系重合体のMFRと密度は各々0.2g/10分、0.917g/cmであった。
【0112】
【表1】
【0113】
6.実施例及び比較例
[実施例1〜6、比較例1〜6]
(1)インフレーションフィルムの成形
前述した各材料を、表2に示す割合で配合し、以下のインフレーションフィルム製膜機(成形装置)を用いて、下記の成形条件で、インフレーションフィルムを成形した。得られたフィルムを評価し、その結果を表2に示す。
【0114】
(3種3層インフレーション成形機)
装置:インフレーション成形装置(トミー機械工業(株)製)
押出機スクリュー径:40mmφ×3
ダイ径:105mmφ
押出量:25kg/hr
ダイリップギャップ:2.5mm
引取速度:12m/分
ブローアップ比:2.0
成形樹脂温度:190℃
フィルム厚み:50μm
冷却リング:2段式風冷リング
【0115】
さらに、実施例1〜3、比較例1〜3のフィルムにおいて、1%引張弾性率とダートとドロップインパクトとの関係を示したグラフを図4に、ヘイズとダートドロップインパクトとの関係を示したグラフを図5に、エルメンドルフ引裂強度とダートドロップインパクトとの関係を示したグラフを図6に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
7.評価
表2に示す結果から、本発明の要件を満たしている実施例1〜6は、ヘイズ、引張弾性率、エルメンドルフ引裂強度、ダートドロップインパクト及びメルトテンションともに優れている。
一方、A層(芯層)として、本発明の要件を満たすエチレン系重合体(B)を含有しない比較例1〜6では、いずれも特に耐衝撃性(ダートドロップインパクト)が実施例と比較して低い。
さらに、本発明の多層フィルムが耐衝撃性と剛性等とのバランスが優れることを示すため、図4〜6において、B層(表面層)としてエチレン・α−オレフィン共重合体(A)及び高圧法低密度ポリエチレン(C)を用いた実施例1〜3(図中、ひし型で示される。
)及び比較例1〜3(図中、それぞれ▲、□、■で示される。)の各特性とダートドロップインパクトとの関係をグラフで示した。
図4〜6から明かなように、本発明の要件を満たしている実施例1〜3は、本発明の要件を満たさない比較例1〜3と比較した場合、引張弾性率及びヘイズについては、ほぼ同等に優れたものでありながら、耐衝撃性(ダートドロップインパクト)がさらに改善されることが示された。特に図6では、耐衝撃性だけでなく、エルメンドルフ引裂強度(MD)が向上することが示されている。
なお、引張弾性率、ヘイズ等の値は維持したまま、特に耐衝撃性に優れる傾向は、B層(表面層)としてエチレン・α−オレフィン共重合体(A)のみを用いた実施例4〜6(比較例4〜6と比較)でも同様に観察された(表2)。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、食品包装用シーラントフィルム、スタンディングパウチ、BIB、内袋、農業用フィルム等に好適に用いることができ、産業上おおいに有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6