【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した金型の汚れは、次のようなメカニズムによると考えられる。
EPDMポリマーが硫黄系加硫剤により加硫される主反応においては、H
2Sガスが発生する。
また、この主反応を促進して加硫時間を短縮するなどの目的で、一般的に、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系、チアゾール系などの加硫促進剤が添加されるが、過剰量の加硫促進剤がブルームしたり、加硫促進剤からCS
2が分解したり、また、ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤から亜鉛イオン等の金属イオンが遊離したりする。
また、硫黄加硫剤の働きを促進させる加硫助剤として、一般的に、無機系の酸化亜鉛や、有機系の脂肪酸であるステアリン酸などが添加されるが、この酸化亜鉛とステアリン酸との副反応が起こり、ステアリン酸亜鉛が中間生成する。
上記の遊離した亜鉛イオン等の金属イオンや添加した酸化亜鉛や中間生成したステアリン酸亜鉛が、上記のH
2Sガスや硫黄加硫剤又は加硫促進剤由来の硫黄と反応して硫化亜鉛(ZnS)等の金属硫化物塩を生成し、この金属硫化物塩が金型の成形面に析出すると考えられる。
【0012】
この考察に基づき、本発明は上述の課題を解決するために、下記の手段A,B,Cを採ったものである。なお、本明細書において、エチレン−αオレフィン−非共役ジエン共重合体ポリマー以外の材料の配合量について記すときは、未加硫のエチレン−αオレフィン−非共役ジエン共重合体ポリマー100質量部に対する質量部である。
【0013】
A.スポンジゴム用組成物
本発明のスポンジゴム用組成物は、エチレン−αオレフィン−非共役ジエン共重合体ポリマー100質量部に対して、ポリエチレン2〜6質量部と、発泡剤としての重曹0.5〜12質量部と、硫黄系加硫剤とを含むスポンジゴム用組成物である。
【0014】
本発明により作用効果が得られるのは、次のようなメカニズムによると考えられる。
発泡剤として配合した重曹(炭酸水素ナトリウム)は、発泡成形時に分解してCO
2ガスとナトリウムイオンを放出する。上述したように、金型の汚れは金属硫化物塩が金型に析出することによると考えられるが、このとき重曹が放出したナトリウムイオンが硫黄系加硫剤や加硫促進剤から発生する酸を中和し、硫化亜鉛等の金属硫化物塩と金属である金型との結合を防止すると考えられる。これにより金型の汚れを防止又は緩和することができる。同作用を実質的に得るために、重曹の配合量は0.5質量部以上とし、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上とする。
一方、重曹の配合量が過剰になると、スポンジゴムの表面にアバタ、ヘコミ、流れキズ等の欠陥が生じるようになり、表面肌が不良となる。そこで、表面肌の不良を防止するために、重曹の配合量は12質量部以下とし、好ましくは11.5質量部以下とする。
【0015】
また、配合したポリエチレンは、エチレン−αオレフィン−非共役ジエン共重合体ポリマーの中に相溶し、スポンジゴム成形体に必要な発泡成長性を確保しつつ、高温時の流動性を確保し、かつ金型からの抜け性を良好にする。同作用を実質的に得るために、ポリエチレンの配合量は2質量部以上とする。
一方、ポリエチレンの配合量が過剰になると、圧縮永久歪が悪化してヘタリ不良が生じるようになる。そこで、表面肌の不良を防止するために、ポリエチレンの配合量は6質量部以下とする。
【0016】
このように、本発明は、ポリエチレンと重曹の最適な配合量によって、金型の汚れを防止してクリーニングの工数を削減するとともに、表面肌、発泡成長、圧縮永久歪(へたり)という各種特性を満足するスポンジゴム用組成物及びスポンジゴム成形体を提供することができる。
【0017】
本発明における各要素の詳細、態様等を以下に説明する。
【0018】
1.エチレン−αオレフィン−非共役ジエン共重合体(以下「EPDM」と記す。)ポリマー
αオレフィンとしては、特に限定されないが、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等を例示でき、このなかでプロピレンが好ましい。
非共役ジエンとしては、特に限定されないが、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等を例示できる。
【0019】
2.ポリエチレン(以下「PE」と記す。)
PEの種類は、用途にもよるので特に限定されないが、用途がウエザストリップの場合、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)又はそれらのブレンドを用いることが好ましい。これらは柔軟性に富み、高温時の流動性を高めるとともに、引裂き強度、引張強度等の物理的強度に優れる。
【0020】
3.硫黄系加硫剤
硫黄系加硫剤は、特に限定されず、硫黄、硫黄化合物、マレイミド類、有機含硫黄加硫剤等を例示することができる。これらの一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0021】
4.加硫促進剤
加硫促進剤は、加硫を促進するために、適宜配合することができる。加硫促進剤としては、下記のものを例示でき、1種又は2種以上を用いることができる。本発明は、特にジチオカルバミン酸塩系、ジチオリン酸系等の金属塩系の加硫促進剤を配合した場合に、それらに由来して析出する金属硫化物塩による金型の汚れを防止することができるので好適である。
【0022】
(1)チ
ウラム系
テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)等を例示できる。
【0023】
(2)ジチオカルバミン酸塩系
ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBDC)、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEPDC)、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaEDC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBDC)、ジメチルジチオカルバミン酸銅(CuMDC)、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄(FeMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル(TeEDC)、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩(PPDC)、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリン塩等を例示できる。
【0024】
(3)チアゾール系
2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩(ZnMBT)、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩(CMBT)、2−(N,N’−ジエチルジチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール(MDB)等を例示できる。
【0025】
(4)スルフェンアミド系
N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等を例示できる。
【0026】
(5)ジチオリン酸系
ジアルキルジチオリン酸亜鉛
【0027】
5.可塑剤
可塑剤は、組成物に可塑性を付与するとともに加工の容易化を図るために、適宜配合することができる。可塑剤としては、特に限定されないが、プロセスオイル(パラフィン系、ナフテン系、芳香族系等)潤滑油、石油アスファルト、ワセリン等の石油系可塑剤や、コールタール、コールタールピッチ等のコールタール系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系可塑剤、蜜ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等のロウ類、リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛等の脂肪酸及び脂肪酸塩、石油樹脂、アタクチックポリプロピレン、クマロンインデン樹脂等の合成高分子物質、トール油、サブ(
ファクチス)等を例示できる。プロセスオイルを配合する場合、その配合量は、加工の容易化の点で12質量部以上であることが好ましく、ブルームを防止する点で60質量部以下であることが好ましい。
【0028】
6.発泡剤
発泡剤は、重曹0.5〜12質量部を含むことが必須であるが、その他の発泡剤を適宜配合して併用することができる。
その他の発泡剤としては、4,4′−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)(OBSH)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p−トルエンスルホニルヒドラジド(TSH)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等を例示できる。
【0029】
7.その他の配合材料
上記の配合材料のほか、充填材、加工助剤、架橋助剤、発泡助剤、老化防止剤、受酸剤、スコーチ防止剤、着色剤等を、適宜配合することができる。
充填剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、焼成クレー等を例示できる。
加工助剤としては、ステアリン酸等の脂肪酸を例示できる。
架橋助剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、酸化亜鉛(ZnO,亜鉛華)、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸塩、酸化マグネシウム等を例示できる。本発明は、特に酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属化合物の架橋助剤を配合した場合に、それらに由来して析出する金属硫化物塩による金型の汚れを防止することができるので好適である。
発泡助剤としては、尿素、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム等を例示できる。
【0030】
B.スポンジゴム成形体
本発明のスポンジゴム成形体は、エチレン−αオレフィン−非共役ジエン共重合体ポリマー100質量部に対して、ポリエチレン2〜6質量部と、発泡剤としての重曹0.5〜12質量部と、硫黄系加硫剤とを含むスポンジゴム用組成物を用いて発泡成形されたスポンジゴム成形体であ
って、スポンジゴム成形体は、自動車等のウエザストリップのシール部や端部間接続部である。
【0031】
ウエザストリップのシール部又は端部間接続部は、樹脂製又は金属製のインサートを含んでもよいし含まなくてもよい。
【0032】
C.スポンジゴム成形体の製造方法
本発明のスポンジゴム成形体の製造方法は、エチレン−αオレフィン−非共役ジエン共重合体ポリマー100質量部に対して、ポリエチレン2〜6質量部と、発泡剤としての重曹0.5〜12質量部と、硫黄系加硫剤とを含むスポンジゴム用組成物を用いて、金型温度を190〜220℃にした金型内で発泡成形するスポンジゴム成形体の製造方法である。上述したように、加硫時間を短縮するために金型温度を190〜220℃にした場合には、通常は金型の汚れが加速するが、本発明はその場合でも上記メカニズムにより金型の汚れを防止できるので好適である。