特許第6337899号(P6337899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337899
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】1,5−ペンタジアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/86 20060101AFI20180528BHJP
   C07C 211/09 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   C07C209/86
   C07C211/09
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-532881(P2015-532881)
(86)(22)【出願日】2014年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2014071796
(87)【国際公開番号】WO2015025896
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2017年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-173861(P2013-173861)
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日浦 岳大
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 昭文
(72)【発明者】
【氏名】近森 壮彦
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−208646(JP,A)
【文献】 特開2011−225554(JP,A)
【文献】 特開平11−152246(JP,A)
【文献】 特開昭62−080237(JP,A)
【文献】 特開2005−298347(JP,A)
【文献】 米国特許第5863438(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5−ペンタジアミンの塩の溶液を、イオン交換樹脂カラムにダウンフローで通すことにより、1,5−ペンタジアミンのフリー体をイオン交換樹脂カラムに吸着する、吸着工程と、
該1,5−ペンタジアミンのフリー体が吸着したイオン交換樹脂カラムに、溶離剤溶液をアップフローで通すことにより、1,5−ペンタジアミンのフリー体の溶液を該イオン交換樹脂から溶離する、溶離工程と
を含む、1,5−ペンタジアミンの塩から1,5−ペンタジアミンのフリー体を製造する方法であって、
溶離工程で使用される溶離剤が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、
方法。
【請求項2】
イオン交換樹脂が、弱酸性陽イオン交換樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1,5−ペンタンジアミンの塩の溶液のpHが、3〜10である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1,5−ペンタジアミンの塩が、塩酸塩又は硫酸塩である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
1,5−ペンタジアミンの塩の溶液温度が、15〜60℃である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶離剤溶液の温度が、15〜60℃である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
溶離剤溶液の濃度が、0.5N〜4Nである、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
溶離剤溶液が2N以上の水酸化ナトリウムである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5−ペンタジアミン(以下、「1,5−PD」ともいう。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,5−PDは、ポリアミド樹脂などの樹脂原料として、あるいは医薬中間体として需要が見込まれる物質である。1,5−PDは、非石油系原料から製造可能であるため、環境負荷の低減という観点からも工業的に注目されている。
【0003】
従来、精製された1,5−PDの製造方法としては、1,5−PD炭酸塩を熱分解したり、1,5−PD塩酸塩をアルカリ処理したりするなどして製造する方法が知られている(特許文献1〜3)。
特許文献4には、生物学的に生産されたカダベリンを抽出し、相分離し、カダベリン相を適当な樹脂を用いてクロマトグラフィー精製することが記載されている。
【0004】
1,5−PDは、フリー体でないと蒸留できないため、例えば特許文献1では、180℃という非常に高い温度で1,5−PDの塩を分解することを要し、さらにその後、高圧下での粗1,5−PDの精製を必要としていた。
したがって、より簡便に精製された1,5−PDのフリー体を得る方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2010−275516号公報
【特許文献2】日本国特開2013−53080号公報
【特許文献3】日本国特開2011−225554号公報
【特許文献4】日本国特表2013−514069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、簡便に効率よく、1,5−PDのフリー体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねたところ、1,5−PDの塩を、イオン交換樹脂により吸着・溶離することにより、簡便に効率よく1,5−PDのフリー体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
〔1〕 1,5−ペンタジアミンの塩の溶液を、イオン交換樹脂カラムに通すことにより、1,5−ペンタジアミンのフリー体をイオン交換樹脂カラムに吸着する、吸着工程と、
該1,5−ペンタジアミンのフリー体が吸着したイオン交換樹脂カラムに、溶離剤溶液を通すことにより、1,5−ペンタジアミンのフリー体の溶液を該イオン交換樹脂から溶離する、溶離工程と
を含む、1,5−ペンタジアミンの塩から1,5−ペンタジアミンのフリー体を製造する方法。
〔2〕 溶離工程が、1,5−ペンタジアミンのフリー体が吸着したイオン交換樹脂カラムに、溶離剤溶液をアップフローで通すことにより行われる、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 溶離工程が、1,5−ペンタジアミンのフリー体が吸着したイオン交換樹脂カラムに、溶離剤溶液をダウンフローで通すことにより行われる、〔1〕に記載の方法。
〔4〕 イオン交換樹脂が、弱酸性陽イオン交換樹脂である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 吸着工程が、イオン交換樹脂カラムに、1,5−ペンタジアミンの塩の溶液をダウンフローで通すことにより行われる、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 1,5−ペンタンジアミンの塩の溶液のpHが、3〜10である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 1,5−ペンタジアミンの塩が、塩酸塩又は硫酸塩である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 1,5−ペンタジアミンの塩の溶液温度が、15〜60℃である、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 溶離工程で使用される溶離剤が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕 溶離剤溶液の温度が、15〜60℃である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕 溶離剤溶液の濃度が、0.5N〜4Nである、〔2〕,〔4〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕 溶離剤溶液の濃度が、1N以下である、〔3〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便に効率よく、1,5−PDの塩から、1,5−PDのフリー体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、強酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブである(実施例1)。
図2図2は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブである(実施例1)。
図3図3は、強酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの溶離カーブである(実施例2)。
図4図4は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの溶離カーブである(実施例2)。
図5図5は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、pH5の1,5−PDをダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブである(実施例3)。
図6図6は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、pH7の1,5−PDをダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブである(実施例3)。
図7図7は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブである(実施例4)。
図8図8は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD硫酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブである(実施例4)。
図9図9は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、溶液温度20℃の1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブである(実施例5)。
図10図10は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、溶液温度40℃の1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブである(実施例5)。
図11図11は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の結果を示す吸着カーブである(実施例6)。
図12図12は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をアップフローした場合の結果を示す吸着カーブである(実施例6)。
図13図13は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHを貫流した場合の1,5−PDの溶離カーブである(実施例7)。
図14図14は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、1N−NaOHを貫流した場合の1,5−PDの溶離カーブである(実施例7)。
図15図15は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、0.5N−NaOHを貫流した場合の1,5−PDの溶離カーブである(実施例7)。
図16図16は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHをダウンフローした場合の溶離カーブである(実施例8)。
図17図17は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例8)。
図18図18は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例9)。
図19図19は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−KOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例9)。
図20図20は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、4N−NHOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例9)。
図21図21は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、20℃の2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例10)。
図22図22は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、40℃の2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例10)。
図23図23は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、1N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例11)。
図24図24は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例11)。
図25図25は、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、4N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブである(実施例11)。
図26図26は、工業化に適した運転条件時の吸着溶離カーブの一例である(実施例12)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の1,5−ペンタジアミンの塩から1,5−ペンタジアミンのフリー体を製造する方法は、1,5−ペンタジアミンの塩の溶液を、イオン交換樹脂カラムに通すことにより、1,5−ペンタジアミンのフリー体をイオン交換樹脂カラムに吸着する、吸着工程と、該1,5−ペンタジアミンのフリー体が吸着したイオン交換樹脂カラムに、溶離剤溶液を通すことにより、1,5−ペンタジアミンのフリー体の溶液を該イオン交換樹脂から溶離する、溶離工程とを含む。
【0012】
本発明によれば、上記方法を用いることにより、簡便に効率よく、1,5−PDの塩から、1,5−PDのフリー体を製造することができる。
【0013】
1,5−ペンタジアミン〔1,5−PD、1,5−pentadiamine、化学式:HN(CHNH〕は、慣用名として「カダベリン」とも呼ばれる化合物である。
【0014】
「1,5−ペンタジアミンの塩」との用語は、1,5−PDと酸から形成される塩のことをいう。1,5−PDの塩は、1,5−PDを製造する際の中間体として、各種の塩が公知である(例えば、上記特許文献1,2)。1,5−PDの塩の種類に特に制限はない。1,5−PDの塩は1価の塩であっても2価の塩であってもよい。1,5−PDと共に塩を形成する酸の種類は、無機酸でも有機酸でもよく、一価の酸でも二価以上の酸であってもよい。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、カルボン酸、リン酸、及びスルホン酸などが挙げられる。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、及びセバシン酸などが挙げられる。本発明で用いる1,5−PDの塩としては、1,5−PDの塩酸塩又は硫酸塩が好ましい。
【0015】
1,5−PDの塩の製造方法は、特段限定されないが、例えば、1,5−PDの塩酸塩硫酸塩は、以下のように製造できる。
リジンデカルボキシラーゼを用いてLysを脱炭酸する酵素反応において、Lys塩酸塩又はLys硫酸塩を原料として反応を行うことから、当該原料に由来する塩酸又は硫酸が、1,5−PDと塩を形成し、1,5−PDの塩酸塩又は硫酸塩が製造される。
リジンデカルボオキシラーゼを用いてLysを脱炭酸する酵素反応において、反応液に添加される塩酸又は硫酸が1,5−PDと塩を形成し、1,5−PDの塩酸塩又は硫酸塩が製造される。
また、1,5−PDの塩は、発酵法で作られる1,5−PDを塩の状態にしたものであってもよい。
【0016】
「1,5−ペンタジアミンのフリー体」との用語は、1,5−PDの塩から脱塩されて製造された、塩を形成していない1,5−ペンタジアミンを意味する。
【0017】
吸着工程及び溶離工程に用いるイオン交換樹脂は、1,5−PDと塩を形成する酸に応じて選択すればよく、特に限定されない。例えば、1,5−PDの塩酸塩又は硫酸塩の場合、強酸性陽イオン交換樹脂(S−CER)、弱酸性陽イオン交換樹脂(W−CER)を用いることが好ましく、交換容量が大きく高効率にて溶離が可能であることから、W−CERを用いることが特に好ましい。その他の使用可能なイオン交換樹脂として、カルボン酸基を交換基として有する樹脂、スルホン酸基を交換基として有する樹脂が挙げられる。
「強酸性陽イオン交換樹脂」としては、例えば、スルホン酸基などを交換基とする樹脂が挙げられる。
「弱酸性陽イオン交換樹脂」としては、例えば、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、フェノキシド基、亜ヒ酸基などを交換基とする樹脂が挙げられる。
【0018】
本明細書中「アップフロー」とは、樹脂カラム(樹脂塔)を縦乃至斜めに配置し、縦乃至斜めに配置した樹脂カラム(樹脂塔)下部より通液し、配置した樹脂カラム(樹脂塔)の上部より溶液を引き抜き、樹脂カラム(樹脂塔)中を溶液が重力に逆らう方向に流れることを意味する。
【0019】
逆に、本明細書中「ダウンフロー」とは、樹脂カラム(樹脂塔)を縦乃至斜めに配置し、縦乃至斜めに配置した樹脂カラム(樹脂塔)上部より通液し、配置した樹脂カラム(樹脂塔)の下部より溶液を引き抜き、樹脂カラム(樹脂塔)中を溶液が重力方向又は重力に準じた方向に流れることを意味する。
【0020】
本発明における溶離工程は、貫流をアップフローで行っても、ダウンフローで行ってもよいが、アップフローで行うことにより、ダウンフローで行うよりも、1,5−PDを高濃度で回収することが可能となる。また、アップフローで行うことにより、溶離剤との交換効率も劇的に向上し、溶離剤混入の少ない高濃度な1,5−PDのフリー体の溶液を取得することが可能となる。
【0021】
さらに、溶離工程における貫流をアップフローで行うことにより、溶離剤をはじめとする副原料の低減が可能となり、そして、1,5−PDを高濃度で回収できることから、1,5−PDのフリー体を得るために使用するエネルギーを低減することも可能となる。また、1,5−PDのフリー体溶液への溶離剤の混入を防止できることから、1,5−PDのフリー体溶液の純度向上も可能となる。
【0022】
本発明における吸着工程は貫流を、アップフローで行っても、ダウンフローで行ってもよいが、吸着効率の向上の点から、ダウンフローで行うことが好ましい。アップフローと比較して、貫流液への1,5−PDの漏れの開始はダウンフローにおいて大幅に抑制され、より高効率な吸着が可能となる。
【0023】
1,5−ペンタンジアミンの塩の溶液のpHは、通常、3〜10であり、4〜9が好ましく、5〜8がさらに好ましい。溶液の溶媒は、通常、水が用いられる。
【0024】
1,5−ペンタジアミンの塩の溶液温度は、15〜60℃であることが好ましい。
温度を上昇させることにより吸着効率を図ることが可能である。したがって、溶液温度は、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。一方、溶液温度を高温にすると、エネルギー使用量が増加して工業的に不利であり、イオン交換樹脂の寿命も早まることから、溶液温度は、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。
【0025】
溶離工程で使用される溶離剤は、アルカリ物質であれば特に限定されない。溶離剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアが挙げられる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の高いアルカリ度を有する溶離剤を使用すると、溶離効率を向上することができることから、溶離剤の混入が抑制された1,5−PDのフリー体の溶液の取得が可能となる。一方、アンモニアを溶離剤として用いると、1,5−PDのフリー体の溶液中に溶離剤であるアンモニアの混入が起こるものの、当該アンモニアに関しては、後に、例えば、蒸留操作を行うことにより、1,5−PDのフリー体の溶液からの溶離剤の分離は可能であり、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いる場合よりも、エネルギー的に不利ではあるものの、アンモニアを溶離剤として用いることに問題はない。溶離剤溶液の溶媒は、通常、水が用いられる。
【0026】
本発明の方法においては、アップフローで溶離を行う際は、溶離剤の濃度は、0.5N〜4Nであることが好ましく、1N〜4Nであることがより好ましい。アップフローで溶離を行うと、溶離剤濃度の上昇に伴い、溶離液に含まれる1,5−PD濃度の上昇が可能となり、エネルギー的に有利となる。
【0027】
特に、本発明では、アップフローで溶離を行うと、水酸化ナトリウムの濃度を上げても溶離剤の破過が起こらず、溶離されてくる1,5−PDの濃度が水酸化ナトリウムの濃度を上げるにつれて高まるため、2N以上の水酸化ナトリウムを溶離剤として用いることが特に好ましい。
【0028】
本発明の方法においては、ダウンフローで溶離を行う際は、溶離剤の溶液の濃度を1N以下にすることが好ましく、0.5N以下にすることがより好ましい。ダウンフローで溶離を行う際は、溶離剤の濃度を低くすることにより、溶離効率の向上を図ることが可能であり、溶離剤の混入が抑制された1,5−PDのフリー体の溶液の回収が可能となる。
【0029】
溶離剤溶液の温度は、15〜60℃であることが好ましい。溶離剤溶液の温度を上げることにより、より効率的に溶離剤混入のない高純度な1,5−PDのフリー体の溶液を取得することが可能となる。したがって、溶液温度は、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。一方、溶液温度を高温にすると、エネルギー使用量が増加して工業的に不利であり、イオン交換樹脂の寿命も早まることから、溶液温度は、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。
【0030】
本発明の方法は、所望により、溶離に用いる樹脂カラムを連結して、溶離工程を複数回行ってもよい。そうすると、破過した溶離剤成分が次のカラムで溶離剤として使用されるため、高効率での溶離剤利用が可能となる。
【0031】
本発明の方法は、所望により、精製効率を上げるために、イオン交換樹脂カラムによる溶離工程の後に、さらに、イオン交換樹脂カラムによる吸着工程をダウンフローで行ったり、蒸留操作を行ったりしてもよい。上記イオン交換樹脂は、本発明が必須とする吸着工程及び溶離工程に用いるものと同様のものを用いることができる。
【0032】
1,5−PDのフリー体溶液製造において、高効率且つ高精製度を可能にするプロセスを構築した。以下に、工業化に適した運転プロセスの一例を記載する。なお、これは単なる一例であって、本発明の実施形態がこれに限定されるわけではない。
【0033】
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、7.5wt% pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製する。
通常工業的に生産する場合においては、たとえばリジン塩酸塩を溶解したのち、酵素的に脱炭酸した溶液を使用すること等が考えられる。
【0034】
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生する。
通常工業的に生産する場合においては、運転毎に初期樹脂前処理を行う必要はなく、一度1,5−PDを吸着・溶離した樹脂をそのまま使用することができる。すなわち、各工程における樹脂への吸着物としては、吸着工程においては1,5−PDのフリー体であるが、溶離工程においては溶離剤として用いたアルカリ物質のカチオンイオン、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン等が吸着しており、次サイクルへの移行に当たり、新たに樹脂前処理を実施する必要を有さない。
【0035】
(3)吸着工程;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液をそれぞれ、(2)で前処理した樹脂に、負荷量各257g L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施する。試液貫流後、吸着時と同一貫流方法にて樹脂塔へ約4RV超純水を貫流し、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出する。
本試験においては、樹脂交換容量を最大限使用すべく樹脂交換容量に対して高負荷で運転し、吸着工程後半において1,5−PDの破過を前提としている。
通常工業的に生産する場合においては、交換容量近辺の吸着負荷量となることが一般的である。また、運転方法として、吸着に用いる樹脂塔を連結することで漏れを最小限に低減することが可能となる。
【0036】
(4)溶離工程;(3)で1,5−PDを吸着した樹脂塔に2N−NaOHをアップフロー(樹脂塔下部より通液し、上部より引き抜き)で貫流し、それぞれ1,5−PDの溶出とナトリウムの破過を確認する。
通常工業的に生産する場合においては、溶離剤の破過が始まる直前にて溶離を完了することがある。運転方法として、溶離に用いる樹脂塔を連結することで、破過した溶離剤成分は、次塔で溶離剤として使用されるため、高効率での溶離剤利用が可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1] 1,5−PDカウンターイオン除去に用いるカチオン交換樹脂の選定
吸着工程における強酸性陽イオン交換樹脂と弱酸性陽イオン交換樹脂の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、8wt%、pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製ダイヤイオンSK−1B、交換基:スルホン酸基)、弱酸性陽イオン交換樹脂(LANXESS社製LEWATIT CNP80WS、交換基:カルボン酸基)それぞれの樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV(Resin Volume)、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;それぞれの樹脂に(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を負荷量各216g/L−Resin、250g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。供試液貫流後、樹脂塔へ超純水を貫流することで樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
それぞれの樹脂塔に2N−NaOHを貫流し、1,5−PDの溶出がなくなるまで貫流することで、各樹脂へと吸着した1,5−PD量を確認した。
図1に、強酸性陽イオン交換樹脂を用いた場合の1,5−PDの吸着カーブを示す。
図2に、弱酸性陽イオン交換樹脂を用いた場合の1,5−PDの吸着カーブを示す。
結果、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂ともに1,5−PDの樹脂への吸着は可能であり、その吸着量はそれぞれ56g/L−Resin、200g/L−Resinであった。
一般的にW−CERはS−CERと比較して、吸着力が弱い特性を有するが、1,5−PD吸着においてはS−CERと同様、漏れを低減した吸着が可能であることを見出した。
【0039】
[実施例2] 1,5−PDカウンターイオン除去に用いるカチオン交換樹脂の選定
溶離工程における強酸性陽イオン交換樹脂と弱酸性陽イオン交換樹脂の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、8wt%、pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂それぞれの樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;それぞれの樹脂に(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を負荷量各216g/L−Resin、250g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。供試液貫流後、樹脂塔へ超純水を貫流することで樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
(4)それぞれの樹脂塔に2N−NaOHをダウンフローにて貫流し、1,5−PDの溶出とナトリウムの破過を確認した。
図3に、強酸性陽イオン交換樹脂を用いた場合の1,5−PDの溶離カーブを示す。
図4に、弱酸性陽イオン交換樹脂を用いた場合の1,5−PDの溶離カーブを示す。
結果、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂はともに、1,5−PDの溶離が可能であった。強酸性陽イオン交換樹脂においては、1,5−PDの溶出とともにナトリウムの溶出が始まり、1,5−PDの溶出が終わるまでナトリウムも溶出するのに対し、弱酸性陽イオン交換樹脂においては、ナトリウムの溶出は、1,5−PDの溶出より先に終わることを確認した。
一般的にW−CERはS−CERと比較して、吸着力が弱い特性を有する。樹脂に吸着した1,5−PD溶離においては、W−CERは、S−CERと比較して高効率にて溶離を進行させることができることを見出した。
【0040】
[実施例3] 弱酸性陽イオン交換樹脂への1,5−PD吸着時のpH条件選定
樹脂に貫流する1,5−PD溶液pHの選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、i)7.5wt%、pH5、ii)7.5wt%、pH7、の1,5−PD塩酸塩溶液をそれぞれ調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液2種をそれぞれ、(2)で前処理した樹脂に負荷量各250g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。供試液貫流後、樹脂塔へ超純水を貫流することで、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
それぞれの樹脂塔に2N−NaOHを貫流し、1,5−PDの溶出がなくなるまで貫流することで、各樹脂へと吸着した1,5−PD量を確認した。
図5に、弱酸性陽イオン交換樹脂にpH5の1,5−PDを貫流した場合の1,5−PDの吸着カーブを示す。
図6に、弱酸性陽イオン交換樹脂にpH7の1,5−PDを貫流した場合の1,5−PDの吸着カーブを示す。
結果、それぞれの1,5−PD吸着量はpH5〜7においてそれぞれ198g/L−resin、212g/L−resinとほぼ同等であり、pH5〜7の範囲において吸着可能であることを確認した。
W−CERは弱酸性であるため、NaClやNaSO等の中性塩は分解できず、NaOH等の塩基においては交換が可能といった特性を有する。一般的に酸性下よりも、中性付近で1,5−PDを吸着しやすいと考えられる。
【0041】
[実施例4] 1,5−PDカウンター種類の選定
樹脂に貫流する1,5−PD溶液カウンター種の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸並びに98%硫酸を添加し中和することで、それぞれi)7.5wt% pH7の1,5−PD塩酸塩溶液、ii)7.5wt% pH7の1,5−PD硫酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液、1,5−PD硫酸塩溶液をそれぞれ、(2)で前処理した樹脂に負荷量各250g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、樹脂塔へ超純水を貫流することで樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
それぞれの樹脂塔に2N−NaOHを貫流し、1,5−PDの溶出がなくなるまで貫流することで、各樹脂へと吸着した1,5−PD量を確認した。
図7に、弱酸性陽イオン交換樹脂に1,5−PD塩酸塩溶液を貫流した場合の1,5−PDの吸着カーブを示す。
図8に、弱酸性陽イオン交換樹脂に1,5−PD硫酸塩溶液を貫流した場合の1,5−PDの吸着カーブを示す。
結果、1,5−PD塩酸塩溶液、1,5−PD硫酸塩溶液ともに、樹脂への1,5−PD吸着は可能であり、その吸着量はそれぞれ212g/L−Resin、192g/L−Resinであった。
【0042】
[実施例5] 吸着温度の選定
樹脂に貫流する1,5−PD溶液温度の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、8wt% pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を、それぞれ(2)で前処理した樹脂に溶液温度20℃、40℃にて負荷量各250g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、樹脂塔へ超純水を貫流することで樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
それぞれの樹脂塔に2N−NaOHを貫流し、1,5−PDの溶出がなくなるまで貫流することで、各樹脂へと吸着した1,5−PD量を確認した。
図9に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、溶液温度20℃の1,5−PD塩酸塩溶液を貫流した場合の1,5−PDの吸着カーブを示す。
図10に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、溶液温度40℃の1,5−PD塩酸塩溶液を貫流した場合の結果を示す1,5−PDの吸着カーブを示す。
結果、20℃吸着、40℃吸着いずれも、樹脂への1,5−PD吸着は可能であり、その吸着量はそれぞれ195g/L−Resin、212g/L−Resinであった。また、貫流液への1,5−PDの漏れの開始は20℃吸着と比較して40℃吸着において抑制される。
一般的に加温により樹脂への吸着効率は向上する。
【0043】
[実施例6] 吸着貫流方法の選定
樹脂への貫流方法の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、8wt% pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を、それぞれ(2)で前処理した樹脂に負荷量各250g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)、又は、アップフロー(樹脂塔下部より通液し、上部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、吸着時と同一貫流方法にて樹脂塔へ超純水を貫流することで樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
それぞれの樹脂塔に2N−NaOHを貫流し、1,5−PDの溶出がなくなるまで貫流することで、各樹脂へと吸着した1,5−PD量を確認した。
図11に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした場合の吸着カーブを示す。
図12に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をアップフローした場合の吸着カーブを示す。
結果、ダウンフロー、アップフローいずれの貫流方法においても、樹脂への1,5−PD吸着は可能であり、その吸着量はそれぞれ195g/L−Resin、107g/L−Resinであった。アップフローにおいては吸着量が低いものの、これは吸着完了前に終了したことに起因する。一方で、貫流液への1,5−PDの漏れの開始はアップフローと比較してダウンフローにおいて大幅に抑制され、より高効率な吸着が可能となる。
【0044】
[実施例7] 溶離剤濃度の選定
溶離工程 溶離剤濃度の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、8wt% pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を、それぞれ(2)で前処理した樹脂に負荷量各250g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、吸着時と同一貫流方法にて樹脂塔へ超純水を貫流し、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
(4)それぞれの樹脂塔に2N、1N、0.5N−NaOHをそれぞれ貫流し、1,5−PDの溶出とナトリウムの破過を確認した。
図13に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHを貫流した場合の1,5−PDの溶離カーブを示す。
図14に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、1N−NaOHを貫流した場合の1,5−PDの溶離カーブを示す。
図15に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、0.5N−NaOHを貫流した場合の1,5−PDの溶離カーブを示す。
結果、いずれの溶離剤濃度においても1,5−PDの溶離は可能であり、溶離剤濃度が高いほど、溶離される1,5−PD濃度の上昇が見込める。一方、溶離剤濃度が低いほど、溶離される1,5−PD濃度は低下するものの、溶離剤であるナトリウムが効率的に使用され、溶離剤であるナトリウムの混入が抑制された1,5−PD取得が可能である。
【0045】
[実施例8] 溶離貫流方法の選定
溶離工程 溶離剤貫流方法の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、12wt% pH5の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を、それぞれ(2)で前処理した樹脂に負荷量各250g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、吸着時と同一貫流方法にて樹脂塔へ超純水を貫流し、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
(4)それぞれの樹脂塔に2N−NaOHをダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)、又は、アップフロー(樹脂塔下部より通液し、上部より引き抜き)で貫流し、それぞれ1,5−PDの溶出とナトリウムの破過を確認した。
図16に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHをダウンフローした場合の溶離カーブを示す。
図17に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
結果、いずれの溶離剤貫流方式においても、イオン結合するカウンターイオンの分離は可能であることから、1,5−PDの溶離は可能である。しかし、ダウンフロー方式においては、1,5−PDの溶離開始とともにナトリウムの破過が始まるのに対し、アップフロー方式においては、1,5−PDの溶離がほぼ完遂したのちにナトリウムの破過が始まることから、アップフロー方式の方が1,5−PDを高濃度且つ溶離剤の混入が抑制された1,5−PDのフリー体溶液の取得可能である。
【0046】
[実施例9] 溶離剤の選定
溶離工程 溶離剤アルカリ種の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、12wt% pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を、それぞれ(2)で前処理した樹脂に負荷量各260g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、吸着時と同一貫流方法にて樹脂塔へ超純水を貫流し、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
(4)それぞれの樹脂塔に2N−NaOH、2N−水酸化カリウム、4N−アンモニア水をそれぞれ20℃にてアップフロー(樹脂塔下部より通液し、上部より引き抜き)で貫流し、それぞれ1,5−PDの溶出とナトリウムの破過を確認した。
図18に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
図19に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−KOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
図20に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、4N−NHOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
結果、いずれの溶離剤においても1,5−PDの溶離は可能である。水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムでの溶離においては、1,5−PDの溶離がほぼ完遂したのちにナトリウム又はカリウムの破過が始まり、1,5−PDを高濃度且つ溶離剤の混入を抑制した1,5−PDのフリー体溶液の取得可能となるのに対して、アンモニア水溶離においては、1,5−PDの溶離開始とともにアンモニアの破過が始まり、1,5−PD溶離液中に溶離剤の混入が起こる。これは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムと比較して、アンモニア水のアルカリ度が低いことに起因すると推察される。
【0047】
[実施例10] 溶離温度の選定
溶離工程 溶離剤温度の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、12wt% pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を、それぞれ(2)で前処理した樹脂に負荷量各260g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、吸着時と同一貫流方法にて樹脂塔へ超純水を貫流し、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
(4)それぞれの樹脂塔に2N−NaOHをそれぞれ20℃、40℃に調温、アップフロー(樹脂塔下部より通液し、上部より引き抜き)で貫流し、それぞれ1,5−PDの溶出とナトリウムの破過を確認した。
図21に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、20℃の2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
図22に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、40℃の2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
結果、いずれの溶離剤温度においても1,5−PDの溶離は可能である。溶離剤温度上昇に伴い、溶離剤と1,5−PDの交換効率が向上し、溶離剤の混入を低減した1,5−PDのフリー体溶液の取得が可能となる。
【0048】
[実施例11] アップフロー貫流方式における溶離剤濃度の選定
溶離工程 アップフロー貫流方式における溶離剤濃度の選定
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、8wt% pH5の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着量調査;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を、それぞれ(2)で前処理した樹脂に負荷量各360g/L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、吸着時と同一貫流方法にて樹脂塔へ超純水を貫流し、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
(4)それぞれの樹脂塔に1N、2N、4N−NaOHをそれぞれアップフロー(樹脂塔下部より通液し、上部より引き抜き)で貫流し、それぞれ1,5−PDの溶出とナトリウムの破過を確認した。
図23に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、1N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
図24に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、2N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
図25に、弱酸性陽イオン交換樹脂に、1,5−PD塩酸塩溶液をダウンフローした後、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔へ超純水を貫流して排出し、4N−NaOHをアップフローした場合の溶離カーブを示す。
結果、いずれの溶離剤温度においても1,5−PDの溶離は可能である。
溶離剤濃度上昇に伴い、回収できる1,5−PD濃度の大幅上昇が可能となり、それぞれ1,5−PD濃度は6wt%、10wt%、18wt%となった。いずれの条件においても、溶離剤と1,5−PDの交換効率は維持可能であり、溶離剤の混入を低減した1,5−PDのフリー体溶液の取得が可能となる。
【0049】
[実施例12] 発明内容の組み合わせによる工業化に適した運転条件の一例
工業化に適した運転方法一例の選定
本発明においては、1,5−PDのフリー体溶液製造において、高効率且つ高精製度を可能にするプロセスを構築した。本実施例においては、各実施例にて選定した吸着・溶離等における樹脂プロセスパラメーターを組み合わせ、工業化に適した運転プロセスの一例を記載した。
(1)供試液調製;蒸留を経て取得した100% 1,5−PD溶液に加水したのち、35%塩酸を添加し中和することで、7.5wt% pH7の1,5−PD塩酸塩溶液を調製した。
(2)樹脂前処理;弱酸性陽イオン交換樹脂を樹脂塔に充填したのち、0.2N−HCl 10RV、超純水 10RV、1N−NaOH 10RV、超純水 10RVを貫流し、Naタイプとして再生した。
(3)吸着工程;(1)で調製した1,5−PD塩酸塩溶液を、それぞれ(2)で前処理した樹脂に負荷量各257g L−Resinにてダウンフロー(樹脂塔上部より通液し、下部より引き抜き)で貫流し、樹脂への1,5−PD吸着を実施した。試液貫流後、吸着時と同一貫流方法にて樹脂塔へ約4RV超純水を貫流し、樹脂に吸着していない1,5−PDを樹脂塔より排出した。
(4)溶離工程;(3)で1,5−PDを吸着した樹脂塔に2N−NaOHをアップフロー(樹脂塔下部より通液し、上部より引き抜き)で貫流し、それぞれ1,5−PDの溶出とナトリウムの破過を確認した。
図26に、工業化に適した運転条件時の吸着溶離カーブの一例を示す。
結果、1,5−PDの樹脂への吸着量は212g/L−Resinであり、また、溶離液として回収できた1,5−PD量は207g/L−Resinと吸着させた1,5−PDの完全回収が可能、且つ、カウンターイオンの淘汰が可能であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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