特許第6337922号(P6337922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6337922銅層およびチタン層を含む多層薄膜をエッチングするためのエッチング液およびこれを用いたエッチング方法、並びに該エッチング方法を用いて得られた基板
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  • 特許6337922-銅層およびチタン層を含む多層薄膜をエッチングするためのエッチング液およびこれを用いたエッチング方法、並びに該エッチング方法を用いて得られた基板 図000021
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337922
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】銅層およびチタン層を含む多層薄膜をエッチングするためのエッチング液およびこれを用いたエッチング方法、並びに該エッチング方法を用いて得られた基板
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/18 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   C23F1/18
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-120440(P2016-120440)
(22)【出願日】2016年6月17日
(65)【公開番号】特開2017-31502(P2017-31502A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-153207(P2015-153207)
(32)【優先日】2015年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋三
(72)【発明者】
【氏名】本望 圭紘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏之
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/093445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/18
C23F 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス、二酸化ケイ素および窒化ケイ素から選択される1種以上を用いた基板上に積層された銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜をエッチングするためのエッチング液であって、
(A)過酸化水素の濃度が4.5〜7.5質量%、
(B)硝酸の濃度が0.8〜6質量%、
(C)フッ素化合物の濃度が0.2〜0.5質量%、
(D)アゾール類の濃度が0.14〜0.3質量%、
(E)メトキシ基で置換されていてもよい直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミン(E1);直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のヒドロキシアルキル基を1つまたは2つ有し、且つ、任意に直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキル基を1つまたは2つ有するアルカノールアミン(E2);直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキレン基を有するジアミン(E3);およびシクロヘキシルアミン(E4)から選択される1種以上であるアミン化合物の濃度が0.4〜10質量%、および
(F)過酸化水素安定剤の濃度が0.005〜0.1質量%
を含む水溶液であり、且つ、pH値が1.5〜2.5であるエッチング液。
【請求項2】
(C)フッ素化合物が、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムから選択される1種以上である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
(D)アゾール類が、5−アミノ−1H−テトラゾールである、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項4】
(E)アミン化合物が、イソプロパノールアミン、3−アミノプロパン−1−オール、N−ブチルエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノプロパン−2−オール、2−メトキシエチルアミン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、ジブチルアミン、t−ブチルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、1,4−ジアミノブタン、2−アミノブタン−1−オール、5−アミノペンタン−1−オール、3−メトキシプロピルアミン、2−ジメチルアミノエタノールおよび2−アミノエタノールから選択される1種以上である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項5】
(F)過酸化水素安定剤が、フェニル尿素およびフェノールスルホン酸から選択される1種以上である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項6】
トップCDロスが2.5μm以下、ボトムCDロスが1.5μm以下およびテイリングが0.4μm以下である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項7】
ガラスの腐食速度が60nm/分以下である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項8】
二酸化ケイ素および窒化ケイ素の腐食速度が60Å/分以下である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項9】
銅を主成分とした銅層およびチタンを主成分としたチタン層を含む多層薄膜のジャスト・エッチング・タイムが80秒〜140秒である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項10】
該エッチング液に銅4000ppmおよびチタン360ppm添加し、50℃で2時間保存した際の該エッチング液中の過酸化水素の安定性が0.075%/hr以下である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項11】
ガラス、二酸化ケイ素および窒化ケイ素から選択される1種以上を用いた基板上に積層された多層薄膜が、チタンを主成分とするチタン層上に銅を主成分とする銅層が積層したものである、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項12】
ガラス、二酸化ケイ素および窒化ケイ素から選択される1種以上を用いた基板上に積層された銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜を請求項1〜11のいずれか1項に記載のエッチング液に接触させることを特徴とする銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、ガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板上に積層された銅を主成分とした銅層およびチタンを主成分としたチタン層を含む多層薄膜をエッチングするためのエッチング液、およびこれを用いたエッチング方法に関する。特に本発明のエッチング液は、チタン層上に銅層が設けられた多層薄膜のエッチングに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から、フラットパネルディスプレイ等の表示デバイスの配線材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金が一般に使用されてきた。しかし、ディスプレイの大型化および高解像度化に伴い、このようなアルミニウム系の配線材料では、配線抵抗などの特性に起因した信号遅延の問題が発生し、均一な画面表示が困難な傾向にある。
【0003】
そこで、より抵抗が低い材料として、銅や銅を主成分とする金属配線を採用する例が増加しつつある。しかし、銅は抵抗が低いという利点を有する一方、ゲート配線で用いる場合はガラス等の基板と銅との密着性が十分ではない、またソース・ドレイン配線で用いる場合は、その下地となるシリコン半導体膜への拡散が生じる場合があるといった問題を有する。これを防止するために、ガラス等の基板との密着性が高く、シリコン半導体膜への拡散が生じにくいバリア性をも兼ね備えた金属を配するバリア層の積層が行われており、当該金属としてチタンや窒化チタンといったチタン系金属が多用されている。
【0004】
ところで、銅や銅合金を主成分とする積層膜は、スパッタ法などの成膜プロセスによりガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素等(ガラス等と記述する場合がある)の基板上に積層し、次いでレジストなどをマスクにしてエッチングするエッチング工程を経て電極パターンとなる。そして、このエッチング工程の方式にはエッチング液を用いる湿式(ウェット)法とプラズマ等のエッチングガスを用いる乾式(ドライ)法とがある。ここで、湿式(ウェット)法において用いられるエッチング液は、
(i)高い加工精度、
(ii)エッチング残渣が少ないこと、
(iii)エッチングのムラが少ないこと、
(iv)エッチング対象となる銅を含んだ配線金属材料の溶解に対して、エッチング性能が安定していること
並びに、ディスプレイの大型化および高解像度化に対応するために、
(v)エッチング後の配線形状を所望の範囲とする良好な配線形状を得ること、
が求められる。
より具体的には、図1に示したように銅配線層(2)端部のエッチング面と下層の基板(4)とのなす角度(テーパー角(5))が20°〜60°の順テーパー形状であること、レジスト層(1)端部からレジスト層と接する配線層(2)端部までの距離(トップCDロス、a×2)が2.5μm以下であること、レジスト層(1)端部から配線下に設けられるバリア層(3)と接する配線層(2)端部までの距離(ボトムCDロス、b×2)が1.5μm以下であり、かつバリア層テイリング(c×2)が、0.4μm以下であることが強く求められている。
【0005】
銅や銅を主成分とする銅合金を含む積層膜のエッチング工程で用いられるエッチング液としては、例えば、特許文献1(特開2002−302780号公報)には、中性塩と無機酸と有機酸から選ばれる少なくとも一つと過酸化水素、過酸化水素安定剤を含むエッチング液が記述されている。
特許文献2(米国特許出願公開第2003/0107023号明細書)には、過酸化水素、有機酸、フッ素を含むエッチング溶液が、
特許文献3(国際公開第2011/021860号)には、過酸化水素、フッ素、有機ホスホン化合物を含むエッチング液等が提案されている。
しかし、特許文献1および2に開示されているエッチング液では、エッチング後の配線形状が十分に満足いくものではなく、結果としてディスプレイの大型化および高解像度化に対応できない場合があった。さらに、特許文献2は有機酸として酢酸が含有されているが、チタンの溶解が極めて遅いという欠点を有する(表11、比較例24参照)。
特許文献3はモリブデン合金やチタンをエッチングするため0.01〜1.0質量%のフッ素含有化合物を配合しているが、フッ素は基板下地として多用されるガラスおよび二酸化ケイ素または窒化ケイ素を腐食させ、その結果、光学特性が変化するなど弊害が生じることから、ガラス等へのダメージが小さなエッチング液が望まれる。
加えて、特許文献1〜3は何れも比較的多量の過酸化水素が成分に含まれているが(例えば特許文献3では5.0〜25質量%)、過酸化水素はエッチング操作を繰り返すことにより該エッチング液中に溶解した金属イオンが増えるにつれ、その安定性が低下することが知られている。該エッチング液中の過酸化水素の濃度低下が激しい場合、所望のエッチング性能が得られなくなる他、過酸化水素の補充量が多くなり、経済的に不利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−302780号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0107023号明細書
【特許文献3】国際公開第2011/021860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において過酸化水素、酸、フッ素化合物を配合したエッチング液が銅層およびチタン層を含む多層薄膜用のエッチングに多用されているが、フッ素化合物はガラス等の基板を腐食させる。フッ素化合物を含むエッチング液において、フッ素化合物を含んでいてもガラス等の基板を腐食させない効果を有するエッチング液が強く望まれている。
さらに、該エッチング液のエッチング速度を制御するために、pH値の調整が通常行われる。pH調整にはアルカリ成分が用いられるが、アンモニアや水酸化カリウムを使用した場合、ガラス等の基板に対する腐食が大きく、目標とする特性を有するパネルを効率よく、安定的に生産することが困難であった。
他のアルカリ成分として第四級アンモニウムヒドロキシドがpH調整に用いられる場合もあるが、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドは、毒劇物取締法毒物に該当し、人体に対する危険性が高く、その使用に制約を受けるため好ましくない。
【0008】
本発明はこのような状況下になされたもので、銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜を有するガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板をエッチングするためのエッチング液、およびこれを用いた銅層およびチタン層を含む多層薄膜のエッチング方法、並びに該エッチング方法を用いて得られる基板を提供する。さらに具体的には、過酸化水素とフッ素化合物を含むエッチング液でありながら、ガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板への腐食を大幅に減少させたエッチング液、およびこれを用いた銅層およびチタン層を含む多層薄膜のエッチング方法、並びに該エッチング方法を用いて得られる基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、フッ素化合物を含有するエッチング液でありながら、該エッチング液に特定のアミン化合物を添加することにより、銅層およびチタン層を含む多層薄膜を有する配線を、一括でエッチングすることができ、このときガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板に対し腐食が小さいことを見出し、本発明に到達した。
さらに驚くべきことに、エッチング液中に溶解した金属イオンが増加しても過酸化水素の安定性を損ねることなく、かつ当該エッチング方法により高い生産性を保ちつつ、エッチング後に良好な配線形状を保持していることがわかった。
すなわち本願発明は、
(A)過酸化水素を4.5〜7.5質量%、(B)硝酸を0.8〜6質量%、(C)フッ素化合物0.2〜0.5質量%、(D)アゾール類を0.14〜0.3質量%、(E)特定のアミン化合物0.4〜10質量%、および(F)過酸化水素安定剤を0.01〜0.10質量%を含み、残部が水からなる水溶液であり、且つpH値が1.5〜2.5であるエッチング液により銅層およびチタン層を含む多層薄膜を有する配線をエッチングする技術に関するものである。
【0010】
[1]ガラス、二酸化ケイ素および窒化ケイ素から選択される1種以上を用いた基板上に積層された銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜をエッチングするエッチング液であって、(A)過酸化水素の濃度が4.5〜7.5質量%、(B)硝酸の濃度が0.8〜6質量%、(C)フッ素化合物の濃度が0.2〜0.5質量%、(D)アゾール類の濃度が0.14〜0.3質量%、(E)アミン化合物の濃度が0.4〜10質量%、および(F)過酸化水素安定剤の濃度が0.005〜0.1質量%を含む水溶液であり、且つpH値が1.5〜2.5であるエッチング液。前記(E)アミン化合物は、メトキシ基で置換されていてもよい直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミン(E1);直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のヒドロキシアルキル基を1つまたは2つ有し、且つ、任意に直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキル基を1つまたは2つ有するアルカノールアミン(E2);直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキレン基を有するジアミン(E3);およびシクロヘキシルアミン(E4)から選択される1種以上であることが好ましい。ここで「銅を主成分とする」とは、銅を50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上含むことを意味する。「チタンを主成分とする」とは、チタンを50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上含むことを意味する。
[2](C)フッ素化合物が、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化アンモニウムから選択される1種以上である第1項に記載のエッチング液。
[3](D)アゾール類が、5-アミノ−1H−テトラゾールである第1項に記載のエッチング液。
[4](E)アミン化合物が直鎖状または分枝状の炭素数1〜6のアルキル基(ただし、環状ヘキシル基以外の鎖状のヘキシル基を除く)を有するアルキルアミン、アルカノールアミン、ジアミンおよび環状アミン類から選択される1種以上である第1項に記載のエッチング液。
[5](E)アミン化合物が、イソプロパノールアミン、3−アミノプロパン−1−オール、N−ブチルエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノプロパン−2−オール、2−メトキシエチルアミン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、ジブチルアミン、t−ブチルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、1,4−ジアミノブタン、2−アミノブタン−1−オール、5−アミノペンタン−1−オール、3−メトキシプロピルアミン、2−ジメチルアミノエタノールおよび2−アミノエタノールから選択される1種以上である第1項または第4項に記載のエッチング液。
[6](F)過酸化水素安定剤が、フェニル尿素およびフェノールスルホン酸から選択される1種以上である第1項に記載のエッチング液。
[7]トップCDロスが2.5μm以下、ボトムCDロスが1.5μm以下およびテイリングが0.4μm以下である第1項に記載のエッチング液。
[8]ガラスの腐食速度が60nm/分以下である第1項に記載のエッチング液。
「9」二酸化ケイ素および窒化ケイ素の腐食速度が60Å/分以下である第1項に記載のエッチング液。
[10]銅を主成分とした銅層およびチタンを主成分としたチタン層を含む多層薄膜のジャスト・エッチング・タイムが80秒〜140秒である第1項に記載のエッチング液。
[11]該エッチング液に銅4000ppmおよびチタン360ppm添加し、50℃で2時間保存した際の該エッチング液中の過酸化水素の安定性が0.075%/hr以下である第1項に記載のエッチング液。
[12]ガラス、二酸化ケイ素および窒化ケイ素から選択される1種以上を用いた基板上に積層された多層薄膜が、チタンを主成分とするチタン層上に銅を主成分とする銅層が積層したものである第1項に記載のエッチング液。
[13]ガラス、二酸化ケイ素および窒化ケイ素から選択される1種以上を用いた基板上に積層された銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜を第1項〜第12項のいずれか1項に記載のエッチング液に接触させることを特徴とする銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜のエッチング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、ガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素(ガラス等と記載する場合がある)基板上に積層された銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜のエッチング工程において本願発明のエッチング液を用いることにより、エッチング液のバスライフが長く、加工精度が高く、エッチング残渣やむらが少なく、かつエッチング後の良好な配線形状を得ることでディスプレイの大型化および高解像度化に対応しうるガラス等の基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明のエッチング液を用いてエッチングしたときのガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板上に積層された銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜を有する配線断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板上に積層された銅層およびチタン層を含む多層薄膜をエッチングするためのエッチング液
本発明のエッチング液は、ガラス基板上に積層された銅層およびチタン層を含む多層薄膜のエッチングに用いられ、
(A)過酸化水素の濃度が4.5〜7.5質量%、(B)硝酸の濃度が0.8〜6.0質量%、(C)フッ素化合物の濃度が0.2〜0.5質量%、(D)アゾール類の濃度が0.14〜0.30質量%、(E)アミン化合物の濃度が0.4〜10質量%、および(F)過酸化水素安定剤の濃度が0.005〜0.1質量%を含み、残部が水からなる水溶液であり、且つpH値が1.5〜2.5であることを特徴とするものである。
【0014】
(A)過酸化水素
本発明のエッチング液で用いられる過酸化水素は酸化剤として銅金属を酸化する機能を有し、該エッチング液中の含有量は、4.5質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、また、7.5質量%以下が好ましく、7.0質量%以下がより好ましく、6.5質量%以下がさらに好ましい。中でも、本発明のエッチング液中の過酸化水素の含有量は、4.5〜7.5質量%が好ましく、4.5〜7.0質量%がより好ましく、特に5.0〜6.5質量%が好ましい。過酸化水素の含有量が上記の範囲内であれば、適度なエッチング速度が確保でき、エッチング量の制御が容易となり、かつ銅配線の局部腐食を生じることがないので好ましい。
【0015】
(B)硝酸
本発明のエッチング液で用いられる硝酸は、(A)過酸化水素により酸化した銅の溶解を促すものであり、該エッチング液中の硝酸の含有量は、0.8〜6質量%が好ましく、2〜6質量%がより好ましく、特に3.5〜6質量%が好ましい。硝酸の含有量が上記の範囲内であれば、適度なエッチング速度が得られ、かつ良好なエッチング後の配線形状を得ることができる。
【0016】
(C)フッ素化合物
本発明のエッチング液で用いられるフッ素化合物は、チタン系金属からなるバリア層のエッチングに寄与するものであり、該エッチング液中の含有量は、
0.2〜0.5質量%が好ましく、0.2〜0.4質量%がより好ましく、特に0.2〜0.3質量%が好ましい。フッ素化合物の含有量が上記範囲内であれば、チタン系金属なるバリア層の良好なエッチング速度を得ることができる。
【0017】
フッ素化合物としては、エッチング液中でフッ素イオンを発生するものであれば特に制限はないが、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウムなどが好ましく挙げられ、これらを単独で、または複数を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、低毒性である観点から、フッ化アンモニウムと酸性フッ化アンモニウムがより好ましい。
【0018】
(D)アゾール類
本発明のエッチング液で用いられるアゾール類としては、1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベントトリアゾール、3−アミノ−1H−トリアゾールなどのトリアゾール類、1H−テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾールなどのテトラゾール類、1,3−チアゾール、4−メチルチアゾールなどのチアゾール類などが好ましく挙げられる。これらのうち、テトラゾール類が好ましく、なかでも5−アミノ−1H−テトラゾールが好ましい。
【0019】
エッチング液中のアゾール類の含有量は、0.14質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、また、0.3質量%以下が好ましく、0.25質量%以下がより好ましい。中でも、本発明のエッチング液中のアゾール類の含有量は、0.14〜0.3質量%が好ましく、特に0.15〜0.25質量%が好ましい。アゾール類の含有量が上記範囲内であれば、銅配線のエッチング速度を適度に制御することが可能であり、良好なエッチング後の配線形状を得ることができる。
【0020】
(E)アミン化合物
本発明のエッチング液で用いられるアミン化合物は、フッ素化合物によるガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素を用いた基板への腐食を低減させる機能を有すると考えられる。これらの機能を効果的に有するアミン化合物としては、直鎖状または分枝状あるいは環状の炭素数1〜6のアルキル基(ただし、環状ヘキシル基以外の鎖状のヘキシル基を除く)を有するアルキルアミン、アルカノールアミン、ジアミンおよび環状アミンが好ましく挙げられる。炭素数が7以上のアルキル基を有するアミンは、水への溶解度が低く、そのためエッチング液中に溶解させることが困難となり、一部溶解させることが可能であっても著しい泡立ちがおこり、エッチング液として実用が困難な場合がある。
本発明のエッチング液で用いられるアミン化合物としては、メトキシ基で置換されていてもよい直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミン(E1);直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のヒドロキシアルキル基を1つまたは2つ有し、且つ、任意に直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキル基を1つまたは2つ有するアルカノールアミン(E2);直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキレン基を有するジアミン(E3);およびシクロヘキシルアミン(E4)が挙げられる。以下、各アミン化合物について説明する。
<アルキルアミン(E1)>
アルキルアミン(E1)は、次式:
【化1】
[式中、Rは、メトキシ基で置換されていてもよい直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキル基であり、mは、1、2または3である。]
で示すことができる。
具体的に、アルキルアミン(E1)としては、エチルアミン、2−メトキシエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec−ブチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン、ペンチルアミン、2−アミノペンタン、3−アミノペンタン、1−アミノ−2−メチルブタン、2−アミノ−2−メチルブタン、3−アミノ−2−メチルブタン、4−アミノ−2−メチルブタン、5−アミノ−2−メチルペンタン等の第一級アルキルアミン;ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジペンチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、メチルブチルアミン、メチルイソブチルアミン、メチル-sec-ブチルアミン、メチル-t-ブチルアミン、メチルアミルアミン、メチルイソアミルアミン、エチルプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルブチルアミン、エチルイソブチルアミン、エチル−sec−ブチルアミン、エチルアミルアミン、エチルイソアミルアミン、プロピルブチルアミン、プロピルイソブチルアミン等の第二級アルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、ジメチルエチルアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミン等の第三級アルキルアミン等が挙げられる。
【0021】
<アルカノールアミン(E2)>
アルカノールアミン(E2)は、次式:
【化2】
[式中、ROHは、直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のヒドロキシアルキル基であり、Rは、直鎖状または分枝状の炭素数2〜5のアルキル基であり、pは1または2であり、qは0、1または2であり、p+qは1、2または3である。]
で示すことができる。
具体的に、アルカノールアミン(E2)としては、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−プロパノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、N−エチルイソプロパノールアミン、N−プロピルイソプロパノールアミン、2−アミノプロパン−1−オール、3−アミノプロパン−1−オール、N−メチル−2−アミノプロパン−1−オール、N,N−ジメチルアミノプロパン−2−オール、N−エチル−2−アミノプロパン−1−オール、1−アミノブタン−2−オール、N−メチル−1−アミノブタン−2−オール、N−エチル−1−アミノブタン−2−オール、2−アミノブタン−1−オール、N−メチル−2−アミノブタン−1−オール、N−エチル−2−アミノブタン−1−オール、3−アミノブタン−1−オール、N−エチル−3−アミノブタン−1−オール、1−アミノブタン−4−オール、1−アミノ−2−メチルプロパン−2−オール、2−アミノ−2−メチルプロパン−1−オール、1−アミノペンタン−4−オール、2−アミノ−4−メチルペンタン−1−オール、5−アミノペンタン−1−オール、1−アミノプロパン−2,3−ジオール、2−アミノプロパン−1,3−ジオール、トリス(オキシメチル)アミノメタン、および1,2−ジアミノプロパン−2−オール等が挙げられる。これらに限定されるわけではない。また、本発明においては、これらを単独で、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0022】
ジアミン(E3)としては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ジエチル−1,3−プロパンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミン、2,4−ジアミノペンタン等が挙げられる。
【0023】
また、アミン化合物としては、シクロヘキシルアミン(E4)が挙げられる。
本発明においては、これらのアミン化合物を単独で、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0024】
これらのアミン化合物のうち、好ましくは、イソプロパノールアミン、3−アミノプロパン−1−オール、N−ブチルエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノプロパン−2−オール、2−メトキシエチルアミン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、ジブチルアミン、t−ブチルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、1,4−ジアミノブタン、2−アミノブタン−1−オール、5-アミノペンタン−1−オール、3−メトキシプロピルアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−アミノエタノールがあげられ、特に好ましくは、3−メトキシプロピルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、n-ブチルアミン、2−アミノブタン−1−オール、シクロヘキシルアミン、N−ブチルエタノールアミン、5-アミノペンタン−1−オールである。
【0025】
エッチング液中のアミン化合物の含有量は、0.4質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、また、10質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。中でも、エッチング液中のアミン化合物の含有量は、0.4〜10質量%が好ましく、1〜9質量%がより好ましく、さらに1〜8質量%が好ましく、特に2〜8質量%が好ましい。アミン化合物の含有量が上記範囲内であれば、液中の金属濃度が上昇しても過酸化水素の分解が遅く、硝子基板に対するダメージが小さなエッチング液を得ることができる。
【0026】
(F)過酸化水素安定剤
本発明のエッチング液は、過酸化水素安定剤を含有することが好ましい。過酸化水素安定剤としては、通常過酸化水素安定剤として用いられるものであれば制限なく使用することが可能であるが、フェニル尿素、アリル尿素、1,3−ジメチル尿素、チオ尿素などの尿素系過酸化水素安定剤のほか、フェニル酢酸アミド、フェニルエチレングリコール、フェノールスルホン酸などが好ましく挙げられ、なかでもフェニル尿素、フェノールスルホン酸が好ましい。また、本発明においては、これらを単独で、又は複数を組み合わせて使用することができる。
本発明のエッチング液中の過酸化水素安定剤の含有量は、その添加効果を十分に得る観点から、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、また、0.1質量%以下が好ましく、0.09質量%以下がより好ましく、0.08質量%以下がさらに好ましい。中でも、本発明のエッチング液中の過酸化水素安定剤の含有量は、0.005〜0.1質量%が好ましく、特に0.01〜0.09質量%が好ましく、特に0.01〜0.08質量%が好ましい。
【0027】
pH値
本発明のエッチング液は、pH値1.5〜2.5の範囲であることを要する。pH値が1.5未満であるとエッチング速度が速くなりすぎるため、銅配線の局部腐食が発生し、銅配線にエッチング斑(むら)を生じることがある。また、pH値が2.5よりも高いと、過酸化水素の安定性が低下し、発熱や分解が起こり、過酸化水素の濃度が低下し、結果として銅配線のエッチング速度が低下する、安定生産ができない等の不都合を引き起こす場合がある。
pH調整は通常、(E)アミン化合物の添加により行われるが、本願発明の効果を損なわない限り他のpH調整剤を添加してもよい。例えば、通常使用される鉱酸、有機酸、無機アルカリおよび有機アルカリ等が使用できる。
【0028】

希釈剤として水が使用されるが、本発明の水は蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーティクル粒子などが除去されたものが好ましく、特に純水または超純水が好ましい。
【0029】
その他の成分
本発明のエッチング液は、上記した(A)〜(F)成分以外にエッチング液に通常用いられる各種添加剤、界面活性剤、着色剤、消泡剤等をエッチング液効果を害しない範囲で含むことができる。
【0030】
ガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板上に積層された銅層およびチタン層を含む多層薄膜のエッチング方法
本発明のエッチング方法は、ガラス基板上に積層された銅層およびチタン層を含む多層薄膜をエッチングする方法であり、本発明のエッチング液、すなわち、(A)過酸化水素の濃度が4.5〜7.5質量%、(B)硝酸の濃度が0.8〜6質量%、(C)フッ素化合物の濃度が0.2〜0.5質量%、(D)アゾール類の濃度が0.14〜0.3質量%、(E)アミン化合物の濃度が0.4〜10質量%、および(F)過酸化水素安定剤の濃度が0.005〜0.1質量%を含み、残部が水からなる水溶液であり、且つpH値が1.5〜2.5であるエッチング液を用いることを特徴とし、エッチング対象物と本発明のエッチング液とを接触させる工程を有するものである。
【0031】
エッチング対象物にエッチング液を接触させる方法には特に制限はなく、例えばエッチング液を滴下(枚葉スピン処理)やスプレーなどの形式により対象物に接触させる方法や、対象物をエッチング液に浸漬させる方法などの湿式(ウェット)エッチング方法を採用することができる。本発明においては、エッチング液に対象物を浸漬したり、スプレーして接触させる方法が好ましく採用される。
【0032】
エッチング液の使用温度としては、10〜70℃が好ましく、特に20〜50℃が好ましい。エッチング液の温度が10℃以上であれば、エッチング速度が遅くなりすぎないので、生産効率が著しく低下することがない。一方、70℃以下の温度であれば、液組成変化を抑制し、エッチング条件を一定に保つことができる。エッチング液の温度を高くすることで、エッチング速度は上昇するが、エッチング液の組成変化を小さく抑えることなども考慮した上で、適宜最適な処理温度を決定すればよい。
また、本発明のエッチング方法により、ガラス基板上に積層された銅層およびチタン層を含む多層薄膜のエッチングを一括で行うことができ、かつエッチング後、図1に示すような良好な配線形状を得ることができる。
【0033】
本発明のエッチング方法において、エッチング液は、例えば図1に示されるようなガラス等の基板上に、チタンまたはチタンを主成分とするチタン系材料からなるバリア層(チタン層)と銅または銅を主成分とする材料(銅層)からなる金属配線とを順に積層してなる銅層およびチタン層を含む多層薄膜上に、さらにレジストを塗布し、所望のパターンマスクを露光転写し、現像して所望のレジストパターン形成したものをエッチング対象物とするものである。ここで、本発明においては、銅層およびチタン層を含む多層薄膜は、図1に示されるようなチタン層の上に銅層が存在する態様をはじめとし、銅層の上にさらにチタン層が存在する三層構造の態様も含まれる。
本発明のエッチング方法においては、図1に示されるようなチタンを主成分とするチタン層の上に銅を主成分とする銅層が存在するエッチング対象物が、本発明のエッチング液の性能が有効に発揮される観点から好ましい。また、このような銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層膜は、フラットパネルディスプレイ等の表示デバイスなどの配線に好ましく用いられるものである。よって、チタン層の上に銅層が存在するエッチング対象物は、利用分野の観点からも好ましい態様である。
銅配線は、銅または銅を主成分とする材料により積層されていれば特に制限はなく、当該バリア層を積層するチタン系材料としては、チタンおよびその窒化物である窒化チタンが挙げられるが、これらチタン化合物に限定されるわけではない。
本発明のエッチング対象物である多層薄膜の厚みは通常20nm〜1500nmであり、好ましくは50nm〜1200nm、より好ましくは100nm〜1000nm、さらに好ましくは150nm〜800nmである。
【0034】
本発明のエッチング方法において、エッチング液に含まれる(A)過酸化水素および(B)硝酸の濃度は、上記したように各々銅配線の酸化剤として消費され、また(B)硝酸は酸化された銅の溶解にも消費されるため使用するエッチング液中の(A)過酸化水素および(B)硝酸の濃度の低下に起因したエッチング性能の低下が生じる場合がある。このような場合には、適宜(A)過酸化水素および(B)硝酸を同時にあるいは別々に添加することによりバスライフを長く使用することができる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
銅層およびチタン層を含む多層薄膜の作製例
ガラス基板にチタンを厚さ25nmでスパッタし、次いで銅を400nmの厚さでスパッタし、配線素材の銅層を積層した。次にレジストを塗布し、パターンマスクを露光転写後、現像して配線パターンを形成し、ガラス基板上に銅層およびチタン層を含む多層薄膜を作製した。
【0037】
エッチング方法と銅およびチタン層のジャスト・エッチング・タイム(JET)
上記方法により銅層およびチタン層が積層されたガラス基板を表1〜6と表10、11に記載のエッチング液を用いて35℃で150秒間浸漬し、その後水洗し、窒素ガスを用いて乾燥させた。
目視観察によるエッチングがガラス基板に到達するまでの時間をジャスト・エッチング・タイムとして、以下に記載の基準により判断した。
判定:
E:90秒〜120秒
G:80秒以上〜90秒未満、120秒超〜140秒
B:80秒未満、140秒超
EとGを合格とした。
【0038】
エッチング後の銅層およびチタン層を含む多層薄膜の断面観察
上記エッチング方法で得られた銅層およびチタン層を含む多層薄膜試料を切断し、断面を走査型電子顕微鏡(型番;S5000H型 (株)日立製作所製)を用いて倍率50000倍(加速電圧2kV、加速電流10μA)で観察した。
得られたSEM画像をもとに、図1で示されるテーパー角(5)、トップCDロス(a)、ボトムCDロス(b)およびテイリング(c)を測定した。
エッチング後の形状は、テーパー角(°)、トップCDロス(μm)、ボトムCDロス(μm)、テイリング(μm)を用いて、以下の基準により判定した。
判定;
トップCDロス(=a×2);2.5μm以下を合格
ボトムCDロス(=b×2);1.5μm以下を合格
テイリング(=c×2);0.4μm以下を合格
テーパー角 ; 20°〜60°を合格とした。
【0039】
腐食評価用ガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板の作製例
ガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板にレジストを塗布し、パターンマスクを露光転写後、現像して配線パターンを形成し、評価用の基板とした。
【0040】
ガラス基板への腐食の評価
先に得られた腐食評価用ガラス基板を表6、10、11に記載のエッチング液に20分間浸漬した後、水洗し、窒素ガスを用いて乾燥させた。
腐食部と非腐食部との段差を接触式粗さ計(Contourecord 2700 SD3 (株)東京精密製)で測定し、腐食速度を算出し、以下の判定基準に従い評価した。結果を表7、12および13に示す。
判定:
E:50nm/分以下
G:50nm/分超〜60nm/分以下
B:60nm/分超
EとGを合格とした。
【0041】
二酸化炭化ケイ素または窒化ケイ素基板への腐食の評価
先に得られた腐食評価用二酸化ケイ素または窒化ケイ素基板を表6、10、11に記載のエッチング液に5分間浸漬した後、水洗し、窒素ガスを用いて乾燥させた。
腐食部と非腐食部の断面を走査型電子顕微鏡(型番;S5000H型 (株)日立製作所製)を用いて倍率50000倍(加速電圧2kV、加速電流10μA)で観察した。得られたSEM画像をもとに腐食速度を算出、以下の判定基準に従い評価した。結果を表8、9および14〜17に示す。
判定:
E:50Å/分以下
G:50Å/分超〜60Å/分以下
B:60Å/分超
EとGを合格とした。
【0042】
過酸化水素安定性の評価
銅4000ppmとチタン360ppmとを溶解したエッチング液を50℃水浴中で2時間保管した際の保管前後で過酸化水素濃度を測定し、過酸化水素の分解速度を求めた。過酸化水素濃度の分析は、過マンガン酸カリウムによる酸化還元滴定法により行った。過酸化水素分解速度は次式により求め、以下の判定基準に従い評価した。結果を表6、10、11に示す。
過酸化水素分解速度(%/hr)=(保管前過酸化水素濃度−保管後過酸化水素濃度)/保管時間
判定:
E:0.050%/hr以下
G:0.050%/hr超〜0.075%/hr以下
B:0.075%/hr超
EとGを合格とした。
【0043】
実施例1〜10
過酸化水素5.88質量%、硝酸4.12質量%、酸性フッ化アンモニウム0.25質量%、5−アミノ−1H−テトラゾール0.21質量%、フェニル尿素0.03質量%および水を加えたエッチング液に、pH値を1.5〜2.5になるようにアミン化合物として2−アミノエタノール(実施例1)、2−ジメチルアミノエタノール(実施例2)、3−メトキシプロピルアミン(実施例3)、N−ブチルアミン(実施例4)、N−メチル−n−ブチルアミン(実施例5)、イソプロパノールアミン(実施例6)、3−アミノプロパン−1−オール(実施例7)、N−ブチルエタノールアミン(実施例8)、N,N―ジメチルアミノプロパン−2−オール(実施例9)および2−メトキシエチルアミン(実施例10)を加えた。
先に得られた銅層およびチタン層を含む多層薄膜を有するガラス基板を上記エッチング液中に35℃で150秒間浸漬してエッチングし、エッチング後の銅層およびチタン層を含む多層薄膜試料を得た。得られた試料について、上記の電子顕微鏡観察により、テーパー角(°)、トップCDロス(a、μm)、ボトムCDロス(b、μm)およびテイリング(c、μm)を求め、結果を表1および表2に記した。
実施例1〜10のエッチング液はエッチング形状の優れたエッチングを実施しうるエッチング液であることがわかる。
【0044】
比較例1〜10
実施例4の内、過酸化水素の濃度を3.0質量%(比較例1)と9.0質量%(比較例2)にしたもの、硝酸濃度を0.70質量%(比較例3)と9.00質量%(比較例4)、にしたもの、5−アミノ−1H−テトラゾールを0.08質量%(比較例5)と0.60質量%(比較例6)にしたもの、アミン化合物(N−ブチルアミン)の濃度を0.20質量%(比較例7)と11.0質量%(比較例8)にしたもの、および酸性フッ化アンモニウムを0.08質量%(比較例9)と0.80質量%(比較例10)にしたものは、エッチング形状が測定できない、または、配線が消失する等の不都合が生じた。結果を表3および表4にまとめた。
【0045】
比較例11〜15
実施例1と同様にエッチング液を作成し、アミン化合物のみを添加しないもの(比較例15)、pH値が1.5〜2.5になるようにヘキシルアミン(比較例11)、ジエチレントリアミン(比較例12)、2−(1−ピペラジニル)エチルアミン(比較例13)、またはトリエタノールアミン(比較例14)を加えたもので、エッチングを行ったが、テイリングの発生により所望のエッチング形状を得ることができなかった(表5)。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
本発明のエッチング液を用いた実施例は、目標とする時間内にエッチングすることができ、かつエッチング後の配線形状が何れも良好であった(表1,2)。
一方、過酸化水素濃度が所望の濃度範囲未満である比較例1では、エッチング速度の不足により所定時間内にエッチングすることができなかった。また、過酸化水素濃度が所望の濃度範囲を超える比較例2では、エッチング速度が速くなり過ぎ、CDロスが過大となった。硝酸濃度が所望の濃度範囲未満である比較例3では、エッチング速度の不足により、所定時間内にエッチングすることができなかった。硝酸濃度が所望の濃度範囲を超える比較例4では、エッチング速度が速くなり過ぎ、所定時間エッチングした後には基板上に配線が残らなかった。アゾール濃度が所望の濃度範囲未満である比較例5では、エッチング速度が速くなり過ぎ、CDロスが過大となった(以上、表3)。
アゾール類の濃度が所望の濃度範囲を超える比較例6では、エッチング速度の不足により、所定時間内にエッチングすることができなかった。アミン化合物の濃度が所望の濃度範囲未満である比較例7では、エッチング速度が速くなり過ぎ、所定時間エッチングした後には基板上に配線が残らなかった。アミン化合物の濃度が所望の濃度範囲を超える比較例8では、エッチング速度の不足により、所定時間内にエッチングすることができなかった。フッ素化合物の濃度が所望の濃度範囲未満である比較例9では、エッチング速度が不足し、チタン層のエッチング残り(テイリング)が発生、配線形状の計測はできなかった。フッ素化合物の濃度が所望の濃度範囲を超える比較例10では、チタン層のエッチング速度超過によって配線の中に空隙が発生、所望の断面形状が得られなかった(以上、表4)。
本願発明のアミン化合物以外のアミン化合物を使用した比較例11〜14は、チタン層のエッチング遅れに由来するチタン層のテイリング現象が発生、所望の断面形状が得られなかった。アミン化合物を使用しなかった比較例15は、エッチング速度が速くなり過ぎ、所定時間エッチングした後には基板上に配線が残らなかった(以上、表5)。
【0052】
実施例11〜15
過酸化水素5.46質量%、硝酸4.66質量%、酸性フッ化アンモニウム0.34質量%、5−アミノ−1H−テトラゾール0.21質量%、フェニル尿素0.03質量%および水を加えたエッチング液にpH値を1.5〜2.5になるようにアミン化合物として3−メトキシプロピルアミン(実施例11)、メチルブチルアミン(実施例12)、2−アミノ−1−ブタン−1−オール(実施例13)、N−ブチルアミン(実施例14)、シクロヘキシルアミン(実施例15)を加えた。その後、該液に銅粉末を4000ppmとチタン粉末360ppmを加えた以外は実施例1と同様の試験を行い、実施例1と同じ評価に加え、過酸化水素安定性の評価試験を行った。得られた結果を表6にまとめた。
【0053】
実施例16〜30
実施例11〜15と同じエッチング液にガラス、二酸化ケイ素および窒化ケイ素腐食評価用基板を各々浸漬してエッチングし、得られた試料について各基板材料に対する腐食性の評価を行った。得られた結果を表7〜9にまとめた。
【0054】
比較例16、17、19〜22
過酸化水素5.46質量%、硝酸4.66質量%、酸性フッ化アンモニウム0.34質量%、5−アミノ−1H−テトラゾール0.21質量%、フェニル尿素0.03質量%および水を加えたエッチング液にpH値を1.5〜2.5になるようにアルカリ成分として水酸化カリウム(比較例16)、アンモニア(比較例17)、ジエチレントリアミン(比較例19)、2−(2−アミノエトキシ)エタノール(比較例20)、ジメチルアミン(比較例21)、ピペラジン(比較例22)を加えた液に銅粉末を4000ppmとチタン粉末360ppmを加え、実施例11〜15と同様の試験を行った。得られた結果を表10および表11にまとめた。
【0055】
比較例18
比較例16の硝酸を硫酸5.06質量%に代え、N−ブチルアミンをpH値1.5〜2.5になるように加えた液に銅粉末を4000ppmとチタン粉末360ppmを加え、比較例16と同様の試験を行った。得られた結果を表10に掲載した。
【0056】
比較例23、24
比較例16の硝酸をリン酸5.50質量%(比較例23)または酢酸4.66質量%(比較例24)に代え、N−ブチルアミンを0.89質量%加えた液に銅粉末を4000ppmとチタン粉末360ppmを加え、比較例16と同様の試験を行った。得られた結果を表11に掲載した。
【0057】
比較例25
実施例14の酸性フッ化アンモニウム濃度を0.55質量%とした以外は、実施例14と同様の試験を行った。得られた結果を表11に掲載した。
【0058】
比較例26〜35
比較例16〜25と同じエッチング液にガラスの腐食評価用基板を各々浸漬してエッチングし、得られた試料について腐食速度を各々算出し、評価した。得られた結果を表12と13にまとめた。
【0059】
比較例36〜45
比較例16〜25と同じエッチング液に二酸化ケイ素の腐食評価用基板を各々浸漬してエッチングし、得られた試料について腐食速度を各々算出し、評価した。得られた結果を表14と15にまとめた。
【0060】
比較例46〜55
比較例16〜25と同じエッチング液に窒化ケイ素の腐食評価用基板を各々浸漬してエッチングし、得られた試料について腐食速度を各々算出し、評価した。得られた結果を表16と17にまとめた。
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
【表10】
【0066】
【表11】
【0067】
【表12】
【表13】
【0068】
【表14】
【表15】
【0069】
【表16】
【表17】
【0070】
本発明のエッチング液を用いた実施例11〜30(表6〜9)は、所望の時間内にエッチングすることができ、かつエッチング後の配線形状が良好であった。また、ガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素の腐食速度および過酸化水素分解速度共に充分抑制しており、金属濃度が高くなっても使用可能と判断された。
一方、汎用のアルカリ成分である水酸化カリウムやアンモニアを使用した比較例16、17、26、27、36、37、46、47(表10、表12〜17)では、ガラスや二酸化ケイ素の腐食速度および過酸化水素の分解速度共に大きく、使用できないものであった。酸として硫酸を使用した比較例18(表10)では、エッチング速度が速くなり過ぎ、所定時間エッチングした後には基板上の配線が消失していた。
アルカリ成分として本願発明以外のアミン化合物を使用した比較例19、20、21、22では、過酸化水素の安定性が著しく低下し、使用できない。更に比較例19では、チタン層のエッチング残り(テイリング)が発生し、配線形状の測定ができなかった(表10、11)。
酸成分としてリン酸を使用した比較例23、33、43、53(表11〜17)では、チタン粉末がエッチング液に溶解せず、エッチング液としての評価をすることができなかった。
引用文献2に記載の酸性成分として酢酸を使用した比較例24、34、44、54(表11〜14)では、pHを所定の範囲に調整することができず、チタン粉末をエッチング液中に溶解することができなかった。
フッ素化合物の濃度が所望の濃度を超える比較例35、45、55(表12〜17)ではガラス、二酸化ケイ素または窒化ケイ素の腐食速度が著しく速くなり、使用できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のエッチング液は、銅を主成分とする銅層およびチタンを主成分とするチタン層を含む多層薄膜、なかでもチタン層上に銅層が積層した多層薄膜のエッチングに好適に用いることができる。当該エッチング液を用いたエッチング方法は、銅層及びチタン層を含む多層薄膜を有する配線を一括でエッチングすることができ、かつエッチング後の配線形状を良好なものとすることができるので、高い生産性を達成することができる。また、過酸化水素の消費が少なく、経済的に優れている。
【符号の説明】
【0072】
1.レジスト層
2.配線層
3.バリア層
4.基板
5.テーパー角
a;トップCDロス(a)
b;ボトムCDロス(b)
c;テイリング(c)
図1