特許第6338034号(P6338034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6338034摩擦材用フェノール樹脂組成物および摩擦材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6338034
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】摩擦材用フェノール樹脂組成物および摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20180528BHJP
   C08F 22/06 20060101ALI20180528BHJP
   C08L 5/14 20060101ALI20180528BHJP
   C08L 61/10 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   C09K3/14 530E
   C09K3/14 530G
   C08F22/06
   C08L5/14
   C08L61/10
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-501391(P2018-501391)
(86)(22)【出願日】2017年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2017031052
【審査請求日】2018年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-189780(P2016-189780)
(32)【優先日】2016年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】穴田 亘平
(72)【発明者】
【氏名】大西 治
(72)【発明者】
【氏名】原田 直幸
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/145594(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/026220(WO,A1)
【文献】 国際公開第98/044039(WO,A1)
【文献】 特開2008−024891(JP,A)
【文献】 特開2016−018168(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/033633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C08F 22/06
C08L 5/14
C08L 61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂と、
下記式(1)で表される繰り返し構造単位を含むポリマーと、
を含む、摩擦材用フェノール樹脂組成物であって、
前記ポリマーが、
下記式(2)で表されるノルボルネン系モノマーに由来する構造単位と、
下記式(3)で表されるスチレン系モノマーに由来する構造単位と、
下記式(7)で表されるインデン系モノマーに由来する構造単位と、
からなる群より選択される少なくとも1種以上の構造単位をさらに含む、摩擦材用フェノール樹脂組成物
【化1】



(式(1)中、Rx、Ryは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基を示す。
式(2)中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素または炭素数1〜30の有機基である。nは0、1または2である。
式(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の有機基である。mは0以上5以下の整数である。
式(7)中、RからR11はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基である。
【請求項2】
前記式(1)で表される繰り返し構造単位の備える酸無水物部位と、前記フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基とがエステル結合を介して結合した化合物を含む、請求項1に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリマーの前記式(1)で表される繰り返し構造単位の備える酸無水物部位と、前記フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基とがエステル結合を構成するエステル化合物を含む、請求項1または2に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項4】
前記エステル化合物は、下記式(5)で表される構造単位を含む、請求項3に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【化2】
(上記式(5)中、Rは、前記フェノール樹脂に由来する原子団である。)
【請求項5】
前記ポリマーの含有量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項6】
前記フェノール樹脂の重量平均分子量が100以上20000以下である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項7】
前記フェノール樹脂の分散度は、1.5以上2.5以下である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物の硬化物を含む、摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材用フェノール樹脂組成物および摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂は、従来から、成形品の基材となる材料同士を結合させるバインダーとして広く用いられており、優れた機械的特性や電気的特性、接着性を有することから、様々な分野で使用されている。近年においては、ブレーキ等の摩擦材用バインダーとしてフェノール樹脂を使用する技術について、数多くの報告がなされている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
しかし、フェノール樹脂の硬化物は、一般に、機械的特性に優れているものの、堅くてもろいことが知られている。こうした事情に鑑みて、摩擦材用バインダーとして使用するフェノール樹脂については、その硬化物の柔軟性を向上させるべく、種々の検討結果が報告されている(たとえば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−084342号公報
【特許文献2】特開平9−59599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、摩擦材用バインダーとして使用する従来のフェノール樹脂、すなわち、従来の摩擦材用フェノール樹脂に対する要求水準は、ますます高くなってきている傾向にある。本発明者らは、従来の摩擦材用フェノール樹脂に関し、以下のような課題を見出した。
すなわち、従来の摩擦材用フェノール樹脂の硬化物の柔軟性を向上させた場合、該硬化物の硬化性が低下するため、結果として、該硬化物を含む摩擦材の耐久性も低下する。一方、従来の摩擦材用フェノール樹脂の硬化物の硬化性を向上させた場合、該硬化物を含む摩擦材の耐久性は向上するものの、該硬化物の柔軟性が低下してしまうため、結果として、該硬化物を含む摩擦材の摩擦性能が低下する。このように、本発明者らは、従来の摩擦材用フェノール樹脂の硬化物に関する柔軟性と耐久性との間には、トレードオフの関係が成り立つことを見出した。
【0006】
そこで、本発明は、柔軟性を維持しつつ、耐久性を向上させた摩擦材を作製するために有用な摩擦材用フェノール樹脂組成物に関する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、フェノール樹脂と、
下記式(1)で表される繰り返し構造単位を含むポリマーと、
を含む、摩擦材用フェノール樹脂組成物であって、
前記ポリマーが、
下記式(2)で表されるノルボルネン系モノマーに由来する構造単位と、
下記式(3)で表されるスチレン系モノマーに由来する構造単位と、
下記式(7)で表されるインデン系モノマーに由来する構造単位と、
からなる群より選択される少なくとも1種以上の構造単位をさらに含む、摩擦材用フェノール樹脂組成物が提供される。
【0008】
【化1】



【0009】
(式(1)中、Rx、Ryは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基を示す。)
式(2)中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素または炭素数1〜30の有機基である。nは0、1または2である。
式(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の有機基である。mは0以上5以下の整数である。
式(7)中、RからR11はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基である。)
【0010】
さらに、本発明によれば、上記摩擦材用フェノール樹脂組成物の硬化物を含む、摩擦材が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟性を維持しつつ、耐久性を向上させた摩擦材を作製するために有用な摩擦材用フェノール樹脂組成物に関する技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<摩擦材用フェノール樹脂組成物>
本実施形態に係る摩擦材用フェノール樹脂組成物(以下、本樹脂組成物ともいう。)は、フェノール樹脂と、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を含むポリマーと、を含むものである。
【0013】
【化2】
【0014】
(式(1)中、Rx、Ryは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基を示す。)
【0015】
本樹脂組成物によれば、従来の摩擦材用フェノール樹脂組成物の硬化物が発現する柔軟性を保持しつつ、その硬化性を向上させることができるため、結果として、耐久性と柔軟性のバランスに優れた摩擦材を作製することができる。
この理由として、詳細なメカニズムは定かでないが、例えば、本樹脂組成物は、フェノール樹脂と、上記の式(1)で示される繰り返し構造単位を含むポリマーと、を含むものであるが、フェノール樹脂の備えるフェノール性水酸基が式(1)で示される構造単位に作用し、結果、ポリマーとフェノール樹脂とが、密な連結構造をとることが考えられる。
【0016】
以下、本樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0017】
(フェノール樹脂)
まず、本樹脂組成物に含まれるフェノール樹脂について説明する。
本実施形態に係るフェノール樹脂は従来公知のものを使用することができる。上記フェノール樹脂の具体例としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂などが挙げられる。フェノール樹脂として、これらの中の1種類を単独で用いてよいし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。この中でも、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂を用いるのが好ましい。
【0018】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、無触媒または酸性触媒の存在下で反応させて得られる樹脂であれば、用途に合わせて適宜選択することができる。たとえば、ランダムノボラック型やハイオルソノボラック型のフェノール樹脂も用いることができる。
なお、このノボラック型フェノール樹脂は、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)が0.5以上1.0以下となるように制御した上で、反応させて得ることができる。
【0019】
このノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられるフェノール類の具体例としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシン等が挙げられる。なお、これらのフェノール類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
また、ノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられるアルデヒド類の具体例としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、およびこれらのアルデヒド化合物の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド化合物の溶液等を用いることができる。なお、これらのアルデヒド類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
また、ノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられる酸性触媒の具体例としては、蓚酸、酢酸等の有機カルボン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1'−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等の有機ホスホン酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、塩基性触媒の存在下で反応させて得られる樹脂であれば、用途に合わせて適宜選択することができる。
なお、このレゾール型フェノール樹脂は、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)が1.3以上1.7以下となるように制御した上で、反応させて得ることができる。
【0023】
このレゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられるフェノール類の具体例としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシン等が挙げられる。
なお、これらのフェノール類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
また、レゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられるアルデヒド類の具体例としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、およびこれらのアルデヒド化合物の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド化合物の溶液等を用いることができる。なお、これらのアルデヒド類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
また、レゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられる塩基性触媒の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム、アンモニア水、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミンなどのアミン類、酢酸マグネシウムや酢酸亜鉛などの二価金属塩などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本実施形態のフェノール樹脂の分子量としては、例えば、重量平均分子量(Mw)として100以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましく、200以上であることがさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)が前記下限値以上であることにより、樹脂組成物と、樹脂組成物から得られた樹脂膜との機械的強度及び耐熱性を向上させることができる。
このフェノール樹脂の分子量としては、例えば、重量平均分子量(Mw)として20000以下であることが好ましく、18000以下であることがより好ましく、15000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)が前記上限値以下であることにより、樹脂組成物を製造する際の作業性の向上、樹脂組成物から樹脂膜を得る際の成形性の向上を図ることができる。
また、この重量平均分子量は、後述するポリマー同様、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、ポリスチレン標準物質を用いて作成した検量線をもとに算出することができる。
【0027】
なお、フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂である場合、摩擦材用フェノール樹脂組成物は、硬化剤を更に含んでもよい。硬化剤としては、具体的には、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、イソシアネート樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0028】
(ポリマー)
本実施形態に係るポリマーは、前述の式(1)で示される繰り返し構造単位を含む。すなわち、本実施形態に係るポリマーは、分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物に由来する単位を含む重合体であり、たとえば、不飽和カルボン酸無水物と他のモノマーとの共重合体である。本実施形態において、分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物は、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸またはこれらの誘導体を含む群から選択されてもよく、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸からなる群から選択されてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本実施形態に係るポリマーが有する、分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物に由来する単位としては、例えば、下記式(1)に示す分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物由来の単位を用いてもよく、下記式(6)に示す無水マレイン酸由来の単位を用いてもよい。
【0030】
【化3】
【0031】
(式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基である。)
【0032】
【化4】
【0033】
本実施形態において、上記式(1)中、R及びRは、例えば、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜3の有機基であることが好ましく、それぞれ独立して水素又は炭素数1の有機基であることがより好ましく、Rが水素かつRが水素又は炭素数1の有機基であることが更に好ましく、RとRが水素であることが一層好ましい。
【0034】
本実施形態において、上記式(1)中、R及びRを構成する有機基としては、たとえばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、シクロアルキル基、およびヘテロ環基が挙げられる。
アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基が挙げられる。アルケニル基としては、たとえばアリル基、およびビニル基が挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基が挙げられる。アルキリデン基としては、たとえばメチリデン基、およびエチリデン基が挙げられる。シクロアルキル基としては、たとえばシクロプロピル基が挙げられる。ヘテロ環基としては、たとえばエポキシ基、およびオキセタニル基が挙げられる。
【0035】
また、本実施形態に係るポリマーは、分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物の酸無水環がアルコールで開環した第1エステル化物に由来する、下記一般式(a)で示される第1構造単位、を含んでもよい。
【0036】
【化5】
【0037】
(式(a)中、R、Rは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基であり、W、Zは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜30の有機基である。)
【0038】
上記式(a)において、R、Rは、上記(1)と同様のものである。また、上記式(a)において、WおよびZは、いずれか一方または両方、水素または炭素数1〜3の有機基であり、アルコール由来の構造を含むことができる。
【0039】
本実施形態において、アルコールとして、例えば、炭素数1〜30までのアルコールであることが好ましく、炭素数1〜15までのアルコールであることがより好ましく、炭素数1〜10までのアルコールであることが更に好ましく、炭素数1〜7までのアルコールであることが一層好ましい。
【0040】
上述のアルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール、ヘキサノール、ペンタノール、ネオペンタノール、ドデカノールなどの脂肪族アルコール;ベンジルアルコール、フェノール、2,6−ジ−i−プロピルフェノール、4−t−オクチルフェノールなどの芳香族アルコール;シクロヘキサノール、5−ノルボルネン−2−メタノール、などの脂環式アルコールが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上述した分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物と共重合させる他のモノマーは、樹脂組成物を適用する用途に応じ適宜選択することができる。
より具体的な例としては、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン(慣用名:2−ノルボルネン)、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、5−(2−プロペニル)−2−ノルボルネン、5−(1−メチル−4−ペンテニル)−2−ノルボルネン、5−エチニル−2−ノルボルネン、5−ベンジル−2−ノルボルネン、5−フェネチル−2−ノルボルネン等のノルボルネン系モノマー;インデン、2−メチルインデン、3−メチルインデン等のインデン系モノマー;1,5,9−シクロドデカトリエン、シス−トランス−トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、トランス−トランス−トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、トランス−シス−シス−1,5,9−シクロドデカトリエン、シス−シス−シス−1,5,9−シクロドデカトリエン等の脂環系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のビニル系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル系モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化アリル、アリルアルコール等のアリル系モノマー;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド等のN−アルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−ノルボルニルマレイミド、N−シクロヘキシルメチルマレイミド、N−シクロペンチルメチルマレイミド等のN−シクロアルキルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−クロロフェニルマレイミド、N−メチルフェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−カルボキシフェニルマレイミド、N−ニトロフェニルマレイミド等のN−アリールマレイミド;N−アルキルマレイミド、N−シクロアルキルマレイミド、N−アリールマレイミドの他にもN−ヒドロキシマレイミド等のマレイミド系モノマー;等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてよいし、異なる2種類以上を併用してもよい。
【0042】
上記他のモノマーとして、好ましくは脂環系モノマーのうちノルボルネン型モノマー、スチレン系モノマー、インデン系モノマー、マレイミド系モノマーを用いることができる。すなわち、本実施形態のポリマーは、
下記式(2)で表されるノルボルネン型モノマーに由来する構造単位と、
下記式(3)で表されるスチレン系モノマーに由来する構造単位と、
下記式(7)で表されるインデン系モノマーに由来する構造単位と、
下記式(8)で表されるマレイミド系モノマーに由来する構造単位と、
からなる群より選択される少なくとも1種以上の構造単位をさらに含むことが好ましい。これらは1つを単独で含んでもよいし、異なる2つ以上の単位を含んでもよい。
ポリマーがこれらの単位のいずれか1つを少なくとも含むことにより、本樹脂組成物の硬化物を含む摩擦材の耐久性を向上させることができる。
【0043】
【化6】
【0044】
(式(2)中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素または炭素数1〜30の有機基である。nは0、1または2である。)
【0045】
【化7】
【0046】
(式(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の有機基である。mは0以上5以下の整数である。)
【0047】
【化8】
【0048】
(式(7)中、RからR11はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基である。)
【0049】
【化9】
【0050】
(式(8)中、R12は独立して水素または炭素数1〜10の有機基である。)
【0051】
本実施形態において、上記式(2)中、R〜Rは、例えば、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜30の有機基であり、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の有機基であることが好ましく、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜3の有機基であることがより好ましく、それぞれ独立して水素または炭素数1の有機基であることが更に好ましい。また、上記式(2)中、nは、例えば、0、1または2であり、0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0052】
本実施形態において、上記式(3)中、Rは、例えば、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜30の有機基であり、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の有機基であることが好ましく、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜3の有機基であることがより好ましく、それぞれ独立して水素または炭素数1の有機基であることが更に好ましい。また、上記式(3)中、mは、例えば、0以上5以下の整数であり、0以上3以下の整数であることが好ましく、0以上1以下の整数であることがより好ましい。
【0053】
本実施形態において、上記式(7)中、R〜R11は、例えば、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜3の有機基であり、それぞれ独立して水素又は炭素数1の有機基であることが好ましく、それぞれ独立して水素であることが更に好ましい。
【0054】
本実施形態において、上記式(8)中、R12は、例えば、独立して水素又は炭素数1〜10の有機基であり、独立して水素又は炭素数1〜5の有機基であることが好ましく、独立して水素又は炭素数1〜3の有機基であることがより好ましく、独立して水素または炭素数1の有機基であることが更に好ましい。
【0055】
〜R、Rを構成する炭素数1〜30の有機基は、その構造中にO、N、S、PおよびSiから選択される1以上の原子を含んでいてもよい。また、R5〜R11を構成する炭素数1〜3の有機基は、その構造中にその構造中にO、N、S、PおよびSiから選択される1以上の原子を含んでいてもよい。また、R12を構成する炭素数1〜10の有機基は、その構造中にO、N、S、PおよびSiから選択される1以上の原子を含んでいてもよい。また、R〜R、R、R5〜R11およびR12を構成する有機基は、いずれも酸性官能基を有しないものとすることができる。これにより、ポリマー中における酸価の制御を容易とすることができる。
【0056】
本実施形態において、R〜R、Rを構成する有機基としては、たとえばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、およびヘテロ環基が挙げられる。
アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、およびデシル基が挙げられる。アルケニル基としては、たとえばアリル基、ペンテニル基、およびビニル基が挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基が挙げられる。アルキリデン基としては、たとえばメチリデン基、およびエチリデン基が挙げられる。アリール基としては、たとえばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、およびアントラセニル基が挙げられる。アラルキル基としては、たとえばベンジル基、およびフェネチル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、たとえばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、およびシクロオクチル基が挙げられる。ヘテロ環基としては、たとえばエポキシ基、およびオキセタニル基が挙げられる。
【0057】
本実施形態において、R5〜R11を構成する有機基としては、たとえばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、シクロアルキル基、およびヘテロ環基が挙げられる。
アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基が挙げられる。アルケニル基としては、たとえばアリル基、およびビニル基が挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基が挙げられる。アルキリデン基としては、たとえばメチリデン基、およびエチリデン基が挙げられる。シクロアルキル基としては、たとえばシクロプロピル基が挙げられる。ヘテロ環基としては、たとえばエポキシ基、およびオキセタニル基が挙げられる。
【0058】
本実施形態において、R12を構成する有機基としては、例えば、水素や、上記のR〜R、Rで例示された有機基のうち、炭素数1〜10の有機基を使用できる。
【0059】
さらに、R〜R、R、R〜R11及びR12を構成するアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、およびヘテロ環基は、1以上の水素原子が、ハロゲン原子により置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素が挙げられる。なかでもアルキル基の1以上の水素原子が、ハロゲン原子に置換されたハロアルキル基が好ましい。R〜R、R、R〜R11及びR12の少なくともいずれか1つをハロアルキル基とすることで、本樹脂組成物の硬化物を含む摩擦材について、その硬度という点での耐久性と柔軟性とのバランスを向上させることができる。また、ハロアルキルアルコール基とすることで、本樹脂組成物の硬化物を含む摩擦材について、柔軟性を維持しつつ、その硬度を向上させることができる。
なお、本樹脂組成物の硬化物を含む摩擦材の柔軟性を高める観点からは、R〜R、R、R〜R11及びR12のいずれかが水素であることが好ましく、たとえば、式(2)の構造単位を採用する場合にあっては、R〜Rすべてが水素であることが好ましい。例えば、式(3)の構造単位を採用する場合にあっては、Raが水素であることが好ましい。例えば、式(7)の構造単位を採用する場合にあっては、R〜R11が水素であることが好ましい。
【0060】
ポリマーの分子量を調節するために連鎖移動剤を適宜使用することができる。連鎖移動剤としては、例えば、ステアリル−3−メルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、β−メルカプトプロピオン酸、メトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル−3−メルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート等のβ−メルカプトプロピオン酸類;2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、1,4−ナフトキノン等のナフトキノン類;n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲン類;その他、トリエトキシシラン、ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。
【0061】
本実施形態におけるフェノール樹脂と反応させる前段階にある上記ポリマーは、たとえばGPC(Gel Permeation Chromatography)により得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下におけるピーク面積が、全体の3%以下でもよく、2%以下でもよい。
このように、GPCにより得られる分子量分布曲線の分子量1000以下におけるピーク面積の比率を上記範囲とすることにより、本樹脂組成物の硬化物を含む摩擦材について、その硬度という点での耐久性と柔軟性とのバランスを向上させることができる。
なお、ポリマーにおける低分子量成分の量の下限は、特に限定されない。しかし、本実施形態におけるポリマーは、GPCにより得られる分子量分布曲線において分子量1000以下におけるピーク面積は全体の0.01%以上である場合を許容するものである。
【0062】
本実施形態におけるフェノール樹脂と反応させる前のポリマーは、たとえば、Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)が1.5以上2.5以下であることが好ましい。こうすることで、本樹脂組成物の硬化物を含む摩擦材について、使用時の耐久性能を向上させることができる。なお、Mw/Mnは、分子量分布の幅を示す分散度である。また、上述した効果は、同時に上述のようにポリマーの低分子量成分を低減する場合において特に顕著に表れる。また、ポリマーのMw(重量平均分子量)は、たとえば1,500以上30,000以下である。
【0063】
なお、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布(Mw/Mn)は、たとえばGPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めた、ポリスチレン換算値を用いる。測定条件は、たとえば以下の通りである。
東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC−8320GPC
カラム:東ソー社製TSK−GEL Supermultipore HZ−M
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
測定温度:40℃
溶媒:THF
試料濃度:2.0mg/ミリリットル
また、ポリマー中における低分子量成分量は、たとえばGPC測定により得られた分子量に関するデータに基づき、分子量分布全体の面積に占める、分子量1000以下に該当する成分の面積総和の割合から算出される。
【0064】
(ポリマーの製造方法)
本実施形態に係るポリマーは分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物と他のモノマーとを共重合させることにより得ることができる。この製造方法は従来公知の方法を用いればよい。以下、前述の式(2)で示される繰り返し構造単位を含むポリマーの製造方法を例に挙げて、以下説明する。
【0065】
(重合工程(処理S1))
はじめに以下の式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーと、モノマーとなる無水マレイン酸とを用意する。式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーにおいて、n、R〜Rは、上記式(2)のものと同様とすることができる。
【0066】
【化10】
【0067】
式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーとしては、具体的には、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン(慣用名:2−ノルボルネン)があげられ、さらに、アルキル基を有するものとして、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネンなど、アルケニル基を有するものとしては、5−アリル−2−ノルボルネン、5−(2−プロペニル)−2−ノルボルネン、5−(1−メチル−4−ペンテニル)−2−ノルボルネンなど、アルキニル基を有するものとしては、5−エチニル−2−ノルボルネンなど、アラルキル基を有するものとしては、5−ベンジル−2−ノルボルネン、5−フェネチル−2−ノルボルネンなどがあげられる。
その他、ノルボルネン型モノマーとしては、式(2a)のR、R、R、Rの基の構造中に、架橋性を有する基、あるいはフッ素等のハロゲン原子を含む基などの官能基を含むものを採用することができる。
ノルボルネン型モノマーとしては、これらのうち、いずれか1種以上を使用できる。なかでも、ポリマーとフェノール樹脂との反応性を制御する観点から、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン(慣用名:2−ノルボルネン)を使用することが好ましい。
【0068】
式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーとしては、具体的には、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン(慣用名:2−ノルボルネン)があげられ、さらに、アルキル基を有するものとして、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネンなど、アルケニル基を有するものとしては、5−アリル−2−ノルボルネン、5−(2−プロペニル)−2−ノルボルネン、5−(1−メチル−4−ペンテニル)−2−ノルボルネンなど、アルキニル基を有するものとしては、5−エチニル−2−ノルボルネンなど、アラルキル基を有するものとしては、5−ベンジル−2−ノルボルネン、5−フェネチル−2−ノルボルネンなどがあげられる。
その他、ノルボルネン型モノマーとしては、式(2a)のR、R、R、Rの基の構造中に、架橋性を有する基、あるいはフッ素等のハロゲン原子を含む基などの官能基を含むものを採用することができる。
ノルボルネン型モノマーとしては、これらのうち、いずれか1種以上を使用できる。なかでも、ポリマーとフェノール樹脂との反応性を制御する観点から、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン(慣用名:2−ノルボルネン)を使用することが好ましい。
【0069】
次いで、式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸とを付加重合する。ここでは、ラジカル重合により、式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸との共重合体(共重合体1)を形成する。
式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸とのモル比(式(2a)で示される化合物のモル数:無水マレイン酸のモル数)は、0.5:1〜1:0.5であることが好ましい。なかでも、分子構造制御の観点から、式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーのモル数:無水マレイン酸のモル数=0.8:1〜1:0.8であることが好ましい。
なお、この付加重合に際しては、上述のノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸以外にも共重合できるモノマーを添加してもよい。このようなモノマーとして、分子内にエチレン性二重結合を有する基を含む化合物が挙げられる。ここで、エチレン性二重結合を有する基の具体例としては、アリル基、アクリル基、メタクリル基、マレイミド基や、スチリル基やインデニル基のような芳香族ビニル基等が挙げられる。
なお、上記無水マレイン酸に代えて、他の分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物を使用してもよい。
【0070】
たとえば、式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸と、重合開始剤とを溶媒に溶解し、その後、所定時間加熱することで、式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸とを溶液重合する。加熱温度は、たとえば、50〜80℃であり、加熱時間は10〜20時間である。
【0071】
重合に使用される溶媒としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等のうち、いずれか1種以上を使用することができる。
【0072】
ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物および有機過酸化物のうちのいずれか1種以上を使用できる。
アゾ化合物としては、たとえばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN)があげられ、これらのうち、いずれか1種以上を使用できる。
また、有機過酸化物としては、たとえば過酸化水素、ジターシャリブチルパーオキサイド(DTBP)、過酸化ベンゾイル(ベンゾイルパーオキサイド,BPO)および、メチルエチルケトンパーオキサイド(MEKP)を挙げることができ、これらのうち、いずれか1種以上を使用できる。
【0073】
ラジカル重合開始剤の量(モル数)は、式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸との合計モル数の1%〜10%とすることが好ましい。重合開始剤の量を前記範囲内で適宜設定し、かつ、反応温度、反応時間、連鎖移動剤の量を適宜設定することで、得られるポリマーの重量平均分子量(Mw)を適切な範囲に調整することができる。
【0074】
この重合工程(処理S1)により、上述の式(1)で示される繰り返し構造単位と、式(2)で示される繰り返し構造単位とを有する共重合体1を重合することができる。
ただし、共重合体1において、式(2)の構造のRは、各繰り返し構造単位において共通であることが好ましいが、それぞれの繰り返し構造単位ごとに異なっていてもよい。R〜Rにおいても同様である。
【0075】
共重合体1は、式(1)で示される繰り返し構造単位と、式(2)で示される繰り返し構造単位とが、ランダムに配置されたものであってもよく、また、交互に配置されたものであってもよい。また、式(2a)で示されるノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸とがブロック共重合したものであってもよい。ただし、本実施形態で製造されるポリマーを用いた樹脂組成物の硬化物の柔軟性と耐久性とのバランスが良好な状態となるように制御する観点からは、式(1)で示される繰り返し構造単位と、式(2)で示される繰り返し構造単位とが交互に配置された構造であることが好ましい。すなわち、共重合体1は、例えば、ノルボルネン型モノマーと、無水マレイン酸が共重合した場合、以下の式(4)で表される繰り返し構造単位を有するものであることが好ましい。
【0076】
【化11】
【0077】
(式(4)において、n、R〜Rは、上記式(2)と同じである。すなわち、nは0、1、2のいずれかである。R〜Rは、水素または炭素数1〜30の有機基である。R〜Rは、同一のものであっても異なっていてもよい。また、aは10以上、200以下の整数である。)
【0078】
ここで、式(4)の構造のRは、各繰り返し構造単位において共通であることが好ましいが、それぞれの繰り返し構造単位ごとに異なっていてもよい。R〜Rにおいても同様である。
【0079】
(低分子量成分除去工程(処理S2))
次に、必要に応じて、共重合体1と、残留モノマーおよびオリゴマー等の低分子量成分とが含まれた有機層に対して、大量の貧溶媒、たとえば、ヘキサンやメタノールに加えて、共重合体1を含むポリマーを凝固沈殿させる。ここで、低分子量成分としては、残留モノマー、オリゴマー、さらには、重合開始剤等が含まれる。次いで、ろ過を行い、得られた凝固物を、乾燥させる。これにより、低分子量成分が除去された共重合体1を主成分(主生成物)とするポリマーを得ることができる。
【0080】
本実施形態の樹脂組成物において、ポリマーの含有量は前述のフェノール樹脂100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましく、20質量部以上であることがとくに好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物において、ポリマーの含有量は前述のフェノール樹脂100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましく、35質量部以下であることがとくに好ましい。
このような範囲に設定することにより、前述のフェノール樹脂との間に適度な相互作用をもたらし、一段と耐熱性の向上に資することができる。
【0081】
例えば、前述のポリマーが、前述の式(7)で示される繰り返し構造単位を含む場合であっても、下記式(7a)で示されるインデン系モノマーを用いることで、式(2)の繰り返し構造単位を含むモノマー及びポリマーと同様の方法で製造することができる。
【0082】
【化12】
(式(7a)中、RからR11は式(7)と同じである。)
【0083】
本樹脂組成物は、前述のフェノール樹脂と、ポリマーとを含むものであるが、ポリマーにおける前述した式(6)で示される構造単位(すなわち、無水マレイン酸単位(酸無水物部位))と、フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基とがエステル結合を介して結合した化合物(エステル化合物)を含むことが好ましい。
本樹脂組成物においては、このフェノール性水酸基が無水マレイン酸に付加することにより、以下の式(5)で示されるようなハーフエステルを与えることが考えられる。この式(5)におけるエステル結合に起因し、本実施形態の樹脂組成物、樹脂膜は高耐熱性を発現することができる。
さらに、式(5)におけるハーフエステルはカルボキシル基を含有し、これにより感光性樹脂組成物を調製した際における感度の向上を図ることができると考えられる。
なお、上記無水マレイン酸に代えて、他の分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物を使用してもよい。
【0084】
【化13】
【0085】
(式(5)中、Rはフェノール樹脂に由来する原子団である。)
【0086】
なお、本実施形態の樹脂組成物は上述のように、式(5)で示されるようなハーフエステルを与えることが考えられる。これにより耐熱性等の効果を発現させることから、各種用途に供する前に、樹脂組成物を加熱等することにより、上述のハーフエステルの含有割合を増加させることもできる。
この加熱の条件としては、たとえば、50〜100℃の範囲である。
また、たとえば、プロセス中において加熱工程を経るような用途に用いる場合は、前述のフェノール樹脂とポリマーとを常温下で混合し、加熱に供することなく用いることもできる。
この加熱においては、反応を促進する観点から適宜触媒を加えることができ、たとえば塩基触媒や酸触媒を加えることができる。
塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のヒドロキシ化合物、ピリジンや、トリエチルアミンなどのアルキルアミン、ジメチルアニリン、ウロトロピン、ジメチルアミノピリジンなどのアミン化合物、酢酸ナトリウム等の金属塩、アンモニア等を用いることができる。これらは一種を単独で用いてよいし、反応性をさらに高めるため、二種類以上の塩基触媒を組み合わせても良い。
また、酸触媒としては、硫酸や塩酸などの鉱酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸、フッ化ホウ素エーテラートなどのルイス酸などを用いることができる。
なお、上記無水マレイン酸に代えて、他の分子内に環状構造を有する不飽和カルボン酸無水物を使用してもよい。
【0087】
また、本樹脂組成物は、上記の式(1)で示される繰り返し構造単位を含むポリマーの酸無水物部位と、フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基とがエステル結合を構成するエステル化合物を含むものであってもよい。この場合、本樹脂組成物中において、当該ポリマーの酸無水物(例えば無水マレイン酸)の全てが開環されていてもよいし、および/または、フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基の全てがエステル結合を有していてもよい。これにより、本樹脂組成物の硬化物について、硬度という観点での耐久性を向上させることができる。
【0088】
また、本樹脂組成物は、その硬化物について、柔軟性を維持しつつ、硬度を向上させる観点から、無機充填剤を含んでいてもよい。かかる無機充填剤の具体例としては、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ等のケイ酸塩、酸化チタン、アルミナ、シリカ、溶融シリカ等の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物及びガラス繊維等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、無機充填剤の含有量は、作業性向上の観点から、本樹脂組成物全量に対し、好ましくは、35重量%以上65重量%以下であり、より好ましくは、40重量%以上60重量%以下である。
【0089】
また、本樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、滑剤、硬化助剤、顔料等の添加剤を含有させることができる。
【0090】
<摩擦材>
本実施形態に係る摩擦材は、上述した本樹脂組成物の硬化物を含むものである。
また、本実施形態に係る摩擦材は、ブレーキ、ディスクパッドなどの乾式摩擦材であってもよいし、クラッチなどの湿式摩擦材であってもよい。
【0091】
ここで、本実施形態に係る摩擦材が上述した乾式摩擦材である場合、かかる摩擦材は、一般に、繊維基材と、充填剤と、上述した本樹脂組成物からなる結合材とを混合し、この混合された原料組成物を熱成形することによって製造される。上記繊維基材の具体例としては、無機繊維であるスチール繊維、銅繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維や、有機繊維であるアラミド繊維などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記充填剤の具体例としては、無機充填材である炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、雲母、アブレーシブ、カリオン、タルク、有機充填材であるカシューダスト、ラバーダストや、潤滑材であるグラファイト、三流化アンチモン、二硫化モリブデン、二硫化亜鉛などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0092】
また、上述した乾式摩擦材の製造方法の一例として、以下の手法がある。
まず、繊維基材と充填材等からなる粉末原料、結合材とを所定の組成割合で計量し、混合機にて混合する。混合機としては、例えば、アイリッヒミキサー等の一般的なものを用いることができる。次に、この混合された原料組成物を所定量取り分け、ブロック体とするために予備成形を行う。その後、予備成形体を金型に投入し熱成形を行う。例えば、温度140℃以上180℃以下に加熱された金型中に、上記の予備成形体を投入して、加圧を1分間以上20分間以下することで、成形体を作製する。その後、本成形工程によって作製された成形体を例えば温度200℃以上で1時間程度熱処理して硬化させることで、所望の乾式摩擦材を作製することができる。
【0093】
一方、本実施形態に係る摩擦材が上述した湿式摩擦材である場合、かかる摩擦材は、一般に、有機溶剤と混合した本樹脂組成物を、基材に含浸または塗布し、これを焼成・硬化することにより製造される。上記基材の具体例としては、天然繊維、金属繊維、炭素繊維、化学繊維などが挙げられる。これらは、1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上が混合されたものであってもよい。また、上記有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素溶媒及びこれらの混合物が挙げられる。
【0094】
また、本実施形態に係る摩擦材が上述した湿式摩擦材の中でも湿式ペーパー摩擦材である場合、かかる摩擦材は、一般に、有機溶剤と混合した本樹脂組成物を、金属繊維や炭素繊維及び化学繊維と、カシューダストなどの摩擦調整剤、珪藻土などを充填した紙基材へ含浸し、これを焼成・硬化することにより製造される。
【0095】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付与する。
1. フェノール樹脂と、
下記式(1)で表される繰り返し構造単位を含むポリマーと、
を含む、摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【化14】
(式(1)中、Rx、Ryは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基を示す。)
2. 前記フェノール樹脂の重量平均分子量が100以上20000以下である、1.に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
3. 前記式(1)で表される繰り返し構造単位の備える酸無水物部位と、前記フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基とがエステル結合を介して結合した化合物を含む、1.または2.に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
4. 前記ポリマーが、
下記式(2)で表されるノルボルネン系モノマーに由来する構造単位と、
下記式(3)で表されるスチレン系モノマーに由来する構造単位と、
下記式(7)で表されるインデン系モノマーに由来する構造単位と、
からなる群より選択される少なくとも1種以上の構造単位をさらに含む、1.乃至3.のいずれか一つに記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【化15】
(式(2)中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素または炭素数1〜30の有機基である。nは0、1または2である。)
【化16】
(式(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の有機基である。mは0以上5以下の整数である。)
【化17】
(式(7)中、RからR11はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基である。)
5. 下記式(1)で表される繰り返し構造単位を含む前記ポリマーの酸無水物部位と、前記フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基とがエステル結合を構成するエステル化合物を含む、1.乃至4.のいずれか一つに記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【化18】
(式(1)中、Rx、Ryは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基を示す。)
6. 1.乃至5.のいずれか一つに記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物の硬化物を含む、摩擦材。
さらに別の参考形態を付記する。
<1>
フェノール樹脂と、
前掲の式(1)で表される繰り返し構造単位を含むポリマーと、
を含む、摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(前掲の式(1)中、Rx、Ryは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基を示す。)
<2>
前掲の式(1)で表される繰り返し構造単位の備える酸無水物部位と、前記フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基とがエステル結合を介して結合した化合物を含む、<1>に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
<3>
前記ポリマーの前掲の式(1)で表される繰り返し構造単位の備える酸無水物部位と、前記フェノール樹脂に備えられるフェノール性水酸基とがエステル結合を構成するエステル化合物を含む、<1>または<2>に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
<4>
前記エステル化合物は、前掲の式(5)で表される構造単位を含む、<3>に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(前掲の式(5)中、Rは、前記フェノール樹脂に由来する原子団である。)
<5>
前記ポリマーが、
前掲の式(2)で表されるノルボルネン系モノマーに由来する構造単位と、
前掲の式(3)で表されるスチレン系モノマーに由来する構造単位と、
前掲の式(7)で表されるインデン系モノマーに由来する構造単位と、
からなる群より選択される少なくとも1種以上の構造単位をさらに含む、<1>乃至<4>のいずれか一つに記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(前掲の式(2)中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素または炭素数1〜30の有機基である。nは0、1または2である。
前掲の式(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の有機基である。mは0以上5以下の整数である。
前掲の式(7)中、RからR11はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基である。)
<6>
前記ポリマーの含有量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下である、<1>乃至<5>のいずれか一つに記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
<7>
前記フェノール樹脂の重量平均分子量が100以上20000以下である、<1>乃至<6>のいずれか一つに記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
<8>
前記フェノール樹脂の分散度は、1.5以上2.5以下である、<1>乃至<7>のいずれか一つに記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
<9>
<1>乃至<8>のいずれか一つに記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物の硬化物を含む、摩擦材。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
<レゾール型フェノール樹脂Aの作製>
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置中に、1000重量部のフェノールと、上記フェノールとのモル比が1となるように、740重量部のホルマリン水溶液(ホルマリン含有量:37重量%)と、20重量部のトリエチルアミンとを添加し、100℃で30分間撹拌しながら反応させた。次に、91kPaの減圧下、脱水を行いながら、系内の温度が65℃に達したところで、1000重量部のメチルエチルケトン(MEK)を加えて反応物を溶解させてから冷却した。こうすることで、2100重量部の液状レゾール型フェノール樹脂A(不揮発分(固形分)含有量:45重量%)を得た。
得られた液状レゾール型フェノール樹脂Aの重量平均分子量(Mw)は200であり、分散度(Mw/Mn)は2.5であった。
【0098】
<レゾール型フェノール樹脂Bの作製>
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置中に、1000重量部のフェノールと、540重量部の桐油と、1重量部のp−トルエンスルホン酸とを添加し、60℃で30分間撹拌しながら反応させた。次に、上記フェノールとのモル比が1.2となるように、770重量部のホルマリン水溶液(ホルマリン含有量:37重量%)と、1重量部のトリエタノールアミンと、20重量部のアンモニア水溶液(アンモニア含有量:25重量%)とを添加し、100℃で2時間撹拌しながら反応させた。次に、91kPaの減圧下、脱水を行いながら、系内の温度が70℃に達したところで、280重量部のトルエンと、670重量部のメタノールとを加えて反応物を溶解させてから冷却した。こうすることで、2100重量部の液状オイル変性レゾール型フェノール樹脂B(不揮発分(固形分)含有量:45重量%)を得た。
得られた液状レゾール型フェノール樹脂Bの重量平均分子量(Mw)は300であり、分散度(Mw/Mn)は3.0であった。
【0099】
<レゾール型フェノール樹脂Cの作製>
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置中に、1000重量部のフェノールと、上記フェノールとのモル比が2となるように、1480重量部のホルマリン水溶液(ホルマリン含有量:37重量%)と、20重量部のトリエチルアミンとを添加し、100℃で30分間撹拌しながら反応させた。次に、91kPaの減圧下、脱水を行いながら、系内の温度が65℃に達したところで、1000重量部のメタノールを加えて反応物を溶解させてから冷却した。こうすることで、2100重量部の高架橋密度な液状レゾール型フェノール樹脂C(不揮発分(固形分)含有量:45重量%)を得た。
得られた液状レゾール型フェノール樹脂Cの重量平均分子量(Mw)は230であり、分散度(Mw/Mn)は2.5であった。
【0100】
<ノボラック型フェノールAの作製>
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置中に、1000重量部のフェノールと、上記フェノールとのモル比が0.8となるように、690重量部のホルマリン水溶液(ホルマリン含有量:37重量%)と、10重量部の蓚酸とを添加し、100℃で2時間間撹拌しながら反応させた。続いて反応混合物の温度が130℃になるまで常圧蒸留で脱水した。その後、未反応フェノールを除去するためにさらに反応物を0.9kPaまで徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が170℃になるまで加熱して減圧蒸留を行った。続いて、圧力を0.9kPaに保ったまま水蒸気を吹き込み、水蒸気蒸留によって、未反応のフェノールを蒸留除去し、ノボラック型フェノール樹脂A930部を得た。
なお、得られた固形ノボラック型フェノール樹脂Aの重量平均分子量(Mw)は5000であり、分散度(Mw/Mn)は6.5であった。
【0101】
<ノボラック型フェノールBの作製>
ノボラック型フェノール樹脂Bとして、カシュー変性したノボラック型フェノール樹脂を準備した。ノボラック型フェノール樹脂Bは、ノボラック型フェノール樹脂Aと比べて、柔軟性が向上するが、耐久性に劣るものである。
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置中に、フェノール1000部、カシューオイル500部を混合し、触媒として96%濃硫酸30部を添加し、150℃で3時間反応を行った。上記フェノールとのモル比が0.7となるように37%ホルマリン水溶液600部を混合し、100℃で2時間反応させた。続いて反応混合物の温度が130℃になるまで常圧蒸留で脱水した。その後、未反応フェノールを除去するために反応混合物の温度が170℃になるまで減圧蒸留を行った。続いて、圧力を0.9kPaに保ったまま水蒸気を吹き込み、水蒸気蒸留によって、未反応のフェノールを蒸留除去し、ノボラック型フェノール樹脂B1300部を得た。
なお、得られた固形ノボラック型フェノール樹脂Bの重量平均分子量(Mw)は4000であり、分散度(Mw/Mn)は5.0であった。
【0102】
<ノボラック型フェノールCの作製>
ノボラック型フェノール樹脂Cとして、ノボラック型フェノール樹脂Aと比べて、低分子量タイプのノボラック型フェノール樹脂を準備した。ノボラック型フェノール樹脂Cは、ノボラック型フェノール樹脂Aと比べて、耐久性が向上するが、柔軟性に劣るものである。
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置中に、1000重量部のフェノールと、上記フェノールとのモル比が0.65となるように、560重量部のホルマリン水溶液(ホルマリン含有量:37重量%)と、10重量部の蓚酸とを添加し、100℃で2時間間撹拌しながら反応させた。続いて反応混合物の温度が130℃になるまで常圧蒸留で脱水した。その後、未反応フェノールを除去するためにさらに反応物を0.9kPaまで徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が170℃になるまで加熱して減圧蒸留を行った。続いて、圧力を0.9kPaに保ったまま水蒸気を吹き込み、水蒸気蒸留によって、未反応のフェノールを蒸留除去し、ノボラック型フェノール樹脂C850部を得た。
なお、得られた固形ノボラック型フェノール樹脂Cの重量平均分子量(Mw)は1500であり、分散度(Mw/Mn)は2.5であった。
【0103】
<ポリマーA:インデン−無水マレイン酸共重合体の作製>
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置中に、870gのインデン(7.5mol)と、11.5gのジメチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート、0.05mol)とを計量し、メチルエチルケトンに溶解させた。次に、得られた溶解液に対して窒素バブリングを実施することにより、系内の溶存酸素を除去した。次いで、溶解液を撹拌しながら加熱して70℃に到達したことを確認後、メチルエチルケトンに溶解させた735gの無水マレイン酸(7.5mol)と、メチルエチルケトンに溶解させた20.2gのn−ドデシルメルカプタン(0.10mol)とを、それぞれの口から5時間掛けて逐次添加し、添加後さらに2時間熱処理を施した。こうすることで、インデン−無水マレイン酸共重合体を得た。なお、得られたインデン−無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量(Mw)は19,000であり、分散度(Mw/Mn)は2.1であった。
【0104】
<ポリマーB:ノルボルネン−無水マレイン酸共重合体の作製>
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置中に、706gの2−ノルボルネン(7.5mol)と、735gの無水マレイン酸(7.5mol)と、69gのジメチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート、0.3mol)とを計量し、メチルエチルケトンおよびトルエンに溶解させた。次に、得られた溶解液に対して窒素バブリングを実施することにより、系内の溶存酸素を除去してから、60℃、15時間の条件で熱処理を施した。
得られたノルボルネン−無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量(Mw)は10000であり、分散度(Mw/Mn)は2.1であった。
【0105】
<ポリマーC:スチレン−無水マレイン酸共重合体>
スチレン−無水マレイン酸共重合体として、Cray ValleyUSA,LLC社製のSMA−1000−Pを準備した。
かかるスチレン−無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量(Mw)は3600であり、分散度(Mw/Mn)は2.3であった。
【0106】
<ポリマーD:インデン25重量%変性ノボラック型フェノール樹脂の作製>
750重量部のノボラック型フェノール樹脂と、250重量部のインデン−無水マレイン酸共重合体とを、250重量部のメチルエチルケトン溶液に添加し、その後、メチルエチルケトンと、5重量部のピリジンを添加することにより樹脂成分の含有量が50重量%となるように調整し、70℃で2日間加熱した後、溶媒、ピリジンを除去してからフィルター濾過することにより、所望のインデン25重量%変性ノボラック型フェノール樹脂を得た。
【0107】
<ポリマーE:インデン75重量%変性ノボラック型フェノール樹脂の作製>
250重量部のノボラック型フェノール樹脂と、750重量部のインデン−無水マレイン酸共重合体とを、750重量部のメチルエチルケトン溶液に添加し、その後、メチルエチルケトンと、5重量部のピリジンを添加することにより樹脂成分の含有量が50重量%となるように調整し、70℃で2日間加熱した後、溶媒、ピリジンを除去してからフィルター濾過することにより、所望のインデン75重量%変性ノボラック型フェノール樹脂を得た。
【0108】
<摩擦材用フェノール樹脂組成物の作製>
以下の表1、表2に示す配合量に従って各成分を配合し、各実施例および各比較例に係る摩擦材用フェノール樹脂組成物を得た。
【0109】
<湿式摩擦材の作製>
得られた実施例1〜4、比較例1〜3の摩擦材用フェノール樹脂組成物をメチルエチルケトンで樹脂成分の含有量が30重量%となるように調整した樹脂ワニスを、120mm×10mm×厚さ1mmのアラミド繊維基材に含浸させてから、190℃のオーブンで30分間乾燥硬化させることで、湿式摩擦材(含浸紙)を試験片として得た。
【0110】
<乾式摩擦材の作製>
得られた実施例5〜8、比較例4〜6の摩擦材用フェノール樹脂組成物と、アラミド繊維(東レ・デュポン社製、KEVLARドライパルプ)と、硫酸バリウムと、炭酸カルシウムと、を体積分率で8:2:40:40となるようにアイリッヒミキサーを用いて2分間混合し、混合物を得た。次いで、該混合物を予備成形して、ブロック体を作製した。次いで、該ブロック体を用いて、温度150℃、圧力30MPaの条件で、10分間加圧することで成形体を作製した。次いで、該成形体について、オーブンを用いて、温度200℃で5時間熱処理し、硬化させることで、乾式摩擦材を試験片として得た。
【0111】
得られた湿式摩擦材の試験片を用いて以下の評価乃至測定を実施した。評価結果を以下の表1に示す。
【0112】
・引張り破断伸び:得られた湿式摩擦材の試験片の引張り破断伸びを、JIS P 8113に準拠した方法で測定した。なお、単位は、%である。また、測定条件は、精密万能試験機AG−IS 5kN(島津製作所社製)を用いて、常温常圧下、1mm/minの試験速度とした。
また、引張り破断伸びの数値は、高い値であればあるほど柔軟性に優れた試験片であることを示す。
【0113】
・ロックウェル硬度(HRD):得られた湿式摩擦材の試験片の硬度を、JIS Z 2245に準拠した方法により、Mスケールで測定した。
また、ロックウェル硬度(HRD)の数値は、高い値であればあるほど耐久性に優れた試験片であることを示す。
【0114】
【表1】
【0115】
表1にも記載されているように、実施例1〜4の湿式摩擦材(試験片)は、いずれも、比較例1〜3の湿式摩擦材(試験片)と比べて、柔軟性と耐久性とのバランスに優れたものであった。この要因としては、実施例1〜4の湿式摩擦材を作製するために用いたフェノール樹脂組成物中に含まれているフェノール樹脂と、各ポリマー成分とが、上述した式(5)に示すハーフエステルを形成し、エステル結合により強固に架橋していることが要因の1つではないかと推察される。
なお、実施例1〜4の摩擦材用フェノール樹脂組成物を用いた成形体は、オーブンを用いて乾燥硬化する過程で50〜100℃の温度で熱処理される。これにより、実施例1〜4ではハーフエステルが生じたと考えられる。
その根拠としては、ポリマーB〜EそれぞれのFT−IRスペクトルと、各実施例に係る摩擦材用フェノール樹脂組成物をメチルエチルケトンに溶解し、ピリジン存在下、70℃で1日間反応させ、その後溶媒、ピリジンを除去した後に得られた組成物のFT−IRスペクトルとを対比した場合、いずれの組成物に係るFT−IRスペクトルにおいても、エステル結合に特有の1700cm−1付近での吸収ピークが増大していることが確認されている。
【0116】
また、得られた乾式摩擦材の試験片を用いて以下の評価乃至測定を実施した。評価結果を以下の表2に示す。
【0117】
・曲げ強さ:得られた乾式摩擦材の試験片の曲げ強さを、精密万能試験機(島津製作所製、オートグラフAG−IS)を用いて、JIS K 6911に準拠した方法で測定した。なお、曲げ強さの単位はMPaである。
なお、曲げ強さの数値が大きいほど、摩擦材に係る荷重などの負荷への耐久性が高い点で優れた試験片であることを示す。
【0118】
・ロックウェル硬度(HRS):得られた乾式摩擦材の試験片の硬度を、JIS Z 2245に準拠した方法により、Sスケールで測定した。
なお、ロックウェル硬度(HRS)の数値は、ロックウェル硬度(HRS)が小さい値であるほど、柔軟性が向上し、耐久性に優れる試験片であることを示す。
【0119】
【表2】
【0120】
表2より、実施例5〜8の摩擦材用フェノール樹脂組成物を用いた乾式摩擦材は、比較例4〜6の摩擦材用フェノール樹脂組成物を用いた乾式摩擦材と比べて、柔軟性を維持しつつ、耐久性を向上できるものであることが確認された。
詳細な理由は明らかではないが、これは、実施例5〜8の摩擦材用フェノール樹脂組成物中に含まれているノボラック型フェノール樹脂と、ポリマーとが、上述した式(5)で示すハーフエステルを形成し、エステル結合により強固に架橋するためと推測される。
なお、実施例5〜8の摩擦材用フェノール樹脂組成物を用いた成形体は、オーブンを用いて熱処理する過程で50〜100℃の温度で熱処理される。これにより、実施例5〜8ではハーフエステルが生じたと考えられる。
【0121】
この出願は、2016年9月28日に出願された日本出願特願2016−189780号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【要約】
本発明の樹脂組成物は、フェノール樹脂と、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を含むポリマーと、を含む。
【化1】
(式(1)中、Rx、Ryは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3の有機基を示す。)。