(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る多孔質フィルタは、PTFE製の複数の2軸延伸多孔質シートを積層した多孔質積層体を備える多孔質フィルタであって、上記多孔質積層体のガーレー秒G及びバブルポイントB(kPa)が下記式(1)及び(2)を満たす。
logG>3.7×10
−3×B−0.8 ・・・(1)
logG<4.9×10
−3×B+0.45 ・・・(2)
【0012】
当該多孔質フィルタは、多孔質積層体のガーレー秒とバブルポイントとが上記式(1)及び(2)の関係を満たすため、バブルポイントを大きくしてもガーレー秒の上昇が低減される。つまり、当該多孔質フィルタは、必要とされる微粒子捕捉性能を達成するためにバブルポイントを大きくしても、式(2)に基づきガーレー秒を低く維持することができる。その結果、当該多孔質フィルタは、圧力損失の上昇を抑えて濾過コストを低減しつつ、微粒子の捕捉性能を向上することができる。また、当該多孔質フィルタは、式(1)に基づきバブルポイントが大きいほどガーレー秒が増加する従来のバブルポイントとガーレー秒とのトレードオフ関係を一定の範囲で維持している。そのため、当該多孔質フィルタは、従来の多孔質フィルタの材質や設計手法を適用することができるため、低コストで製造することができる。
【0013】
上記多孔質積層体のガーレー秒G及びバブルポイントBが下記式(3)を満たすとよい。このようにガーレー秒とバブルポイントとが上記式(1)よりも傾きの小さい下記式(3)の関係をさらに満たすことで、微粒子捕捉性能を大きくした際のバブルポイントの上昇率をより低減することができ、濾過コストの低減効果をさらに高めることができる。
logG>1.9×10
−3×B ・・・(3)
【0014】
上記多孔質積層体のガーレー秒Gとしては、100秒以下が好ましい。このように多孔質積層体のガーレー秒を100秒以下とすることで、濾過コストの低減効果をより高めることができる。
【0015】
上記多孔質積層体のバブルポイントBとしては、200kPa以上600kPa以下が好ましい。このように多孔質積層体のバブルポイントを上記範囲とすることで、微粒子の捕捉性能の向上と濾過コストの低減との両立をさらに促進することができる。
【0016】
上記多孔質積層体が、最外層に配設される1対の支持層と、この1対の支持層間に配設される1又は複数の捕集層とを有し、上記支持層の平均孔径が上記捕集層の平均孔径よりも大きいとよい。このように多孔質積層体を上記構成とすることで、捕捉性能を向上しつつ、多孔質積層体の機械的強度及び寿命を高めることができる。
【0017】
なお、「ガーレー秒」とは、JIS−P8117(2009)に準拠して測定され、100cm
3の空気が1.22kPaの平均圧力差で6.45cm
2の試料を通過する時間を意味する。「バブルポイント」とは、ASTM−F−316に準拠し、試験液としてイソプロピルアルコールを用いて測定される値である。
【0018】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る多孔質フィルタの一実施形態について図面を参照しつつ詳説する。なお、多孔質フィルタにおける「表裏」は、多孔質フィルタの使用状態における表裏を意味するものではない。
【0019】
図1の当該多孔質フィルタは、PTFE製の複数の2軸延伸多孔質シートを積層した多孔質積層体1を主に備える。この多孔質積層体1は、最外層に配設される1対の支持層2と、この1対の支持層2間に配設される1の捕集層3との合計3層を有する。
【0020】
<支持層>
支持層2は、PTFE製の2軸延伸多孔質シートから構成される。この2軸延伸多孔質シートは、PTFEを主成分とするシートを直交する2方向に延伸して多孔質化したものである。なお、「主成分」とは、最も多く含まれる成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
【0021】
支持層2の平均厚さの上限としては、20μmが好ましく、15μmがより好ましい。一方、支持層2の平均厚さの下限としては、2μmが好ましく、5μmがより好ましい。支持層2の平均厚さが上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの圧損が増大するおそれがある。逆に、支持層2の平均厚さが上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの強度が不十分となるおそれがある。
【0022】
支持層2の平均孔径の上限としては、後述する捕集層3の平均孔径の100倍が好ましく、80倍がより好ましい。一方、支持層2の平均孔径の下限としては、捕集層3の平均孔径の2倍が好ましく、10倍がより好ましい。支持層2の平均孔径が上記上限を超える場合、支持層2の強度が不十分となるおそれがある。逆に、支持層2の平均孔径が上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの圧損が増大するおそれがある。なお、「平均孔径」とは、支持層2の外面の空孔の平均径を意味し、細孔直径分布測定装置(例えばPMI社のパームポロメーター「CFP−1200A」)により測定することができる。
【0023】
支持層2の気孔率の上限としては、後述する捕集層3の気孔率の2.5倍が好ましく、2倍がより好ましい。一方、支持層2の気孔率の下限としては、捕集層3の気孔率の1倍が好ましく、1.2倍がより好ましい。支持層2の気孔率が上記上限を超える場合、支持層2の強度が不十分となるおそれがある。逆に、支持層2の気孔率が上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの圧損が増大するおそれがある。なお、「気孔率」とは、支持層2の体積に対する空孔の総体積の割合をいい、ASTM−D−792に準拠して支持層2の密度を測定することで求めることができる。
【0024】
支持層2を構成する2軸延伸多孔質シートの第1方向(縦方向)の延伸率の下限としては、3倍が好ましく、4倍がより好ましい。一方、支持層2を構成する2軸延伸多孔質シートの第1方向の延伸率の上限としては、15倍が好ましく、6倍がより好ましい。また、支持層2を構成する2軸延伸多孔質シートの第2方向(横方向)の延伸率の下限としては、10倍が好ましく、20倍がより好ましい。一方、支持層2を構成する2軸延伸多孔質シートの第2方向の延伸率の上限としては、50倍が好ましく、30倍がより好ましい。上記2軸延伸多孔質シートの第1方向又は第2方向の延伸率が上記下限未満の場合、支持層2の開孔率が不十分となるおそれや、空孔の形状が円形にならないおそれがある。逆に、上記2軸延伸多孔質シートの第1方向又は第2方向の延伸率が上記上限を超える場合、支持層2に亀裂が発生するおそれや、空孔が必要以上に大きくなるおそれがある。
【0025】
<捕集層>
捕集層3は、上記支持層2と同様に、PTFE製の2軸延伸多孔質シートから構成される。
【0026】
捕集層3の平均厚さは、支持層2の平均厚さよりも大きくすることが好ましい。捕集層3の上限としては、25μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、捕集層3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、8μmがより好ましい。捕集層3の平均厚さが上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの圧損が増大するおそれがある。逆に、捕集層3の平均厚さが上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの濾過能力が不十分となるおそれがある。
【0027】
捕集層3の平均孔径の上限としては、0.45μmが好ましく、0.2μmがより好ましい。一方、捕集層3の平均孔径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.05μmがより好ましい。捕集層3の平均孔径が上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの濾過能力が不十分となるおそれがある。逆に、捕集層3の平均孔径が上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの圧損が増大するおそれがある。
【0028】
捕集層3の気孔率の上限としては、90%が好ましく、80%がより好ましい。一方、捕集層3の気孔率の下限としては、40%が好ましく、50%がより好ましい。捕集層3の気孔率が上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの濾過能力が不十分となるおそれがある。逆に、捕集層3の気孔率が上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの圧損が増大するおそれがある。
【0029】
捕集層3を構成する2軸延伸多孔質シートの第1方向(縦方向)及び第2方向(横方向)の延伸率の範囲は、上記支持層2と同様とすることができる。
【0030】
<多孔質積層体>
多孔質積層体1は、上述のように1対の支持層2と、これらの支持層2の間に配設される1つの捕集層3とを有する。各層の境界面は融着され、支持層2の空孔と捕集層3の空孔とは互いに3次元的に連通している。具体的には、支持層2又は捕集層3を構成する2軸延伸多孔質シートは柔軟な繊維状体を結節部により三次元網目状に連結した繊維状骨格を有し、この繊維状骨格に囲繞される領域に複数の空孔が形成されている。多孔質積層体1において、この複数の空孔が各層を通して三次元的に連通している。
【0031】
多孔質積層体1の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。一方、多孔質積層体1の平均厚さの下限としては、15μmが好ましく、20μmがより好ましい。多孔質積層体1の平均厚さが上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの圧損が増大するおそれがある。逆に、多孔質積層体1の平均厚さが上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの強度が不十分となるおそれがある。
【0032】
多孔質積層体1の第1方向(縦方向)及び第2方向(横方向)の引張強さの下限としては、10Nが好ましく、12Nがより好ましい。一方、多孔質積層体1の第1方向及び第2方向の引張強さの上限としては、20Nが好ましく、18Nがより好ましい。多孔質積層体1の上記引張強さが上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの強度が不十分となるおそれがある。逆に、多孔質積層体1の上記引張強さが上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの製造コストが無用に高くなるおそれがある。なお、「引張強さ」とは、多孔質積層体1を第1方向又は第2方向に引張して破断した時の引張荷重であり、具体的にはシート幅5mmの多孔質積層体1をチャック間隔30mmで1000mm/minの速度で引張を行ったときの破断荷重である。
【0033】
多孔質積層体1の第1方向(縦方向)の引張強さと第2方向(横方向)の引張強さとの差の絶対値の上限としては、2.5Nが好ましく、1Nがより好ましい。上記差の絶対値が上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタが変形し易くなるおそれがある。
【0034】
多孔質積層体1の耐圧強度の下限としては、1200kPaが好ましく、1500kPaがより好ましい。一方、多孔質積層体1の耐圧強度の上限としては、3000kPaが好ましく、2500kPaがより好ましい。多孔質積層体1の耐圧強度が上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの強度が不十分となり、高圧下で使用できないおそれがある。逆に、多孔質積層体1の耐圧強度が上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの製造コストが無用に高くなるおそれがある。なお、「耐圧強度」とは、多孔質積層体1よりも強度の低いゴムで空孔を塞いだ上で半径3mmの領域に空気圧を加え、この領域が通気した時の圧力を意味する。
【0035】
多孔質積層体1のガーレー秒Gの上限としては、100秒が好ましく、80秒がより好ましく、50秒がさらに好ましい。一方、多孔質積層体1のガーレー秒Gの下限としては、1秒が好ましい。多孔質積層体1のガーレー秒Gが上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの濾過コストが十分に低減できないおそれがある。逆に、多孔質積層体1のガーレー秒Gが上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの製造コストが無用に高くなるおそれがある。
【0036】
多孔質積層体1のバブルポイントBの上限としては、600kPaが好ましく、550kPaがより好ましく、500kPaがさらに好ましい。一方、多孔質積層体1のバブルポイントBの下限としては、200kPaが好ましい。多孔質積層体1のバブルポイントBが上記上限を超える場合、当該多孔質フィルタの濾過コストが十分に低減できないおそれがある。逆に、多孔質積層体1のバブルポイントBが上記下限未満の場合、当該多孔質フィルタの製造コストが無用に高くなるおそれがある。
【0037】
多孔質積層体1のガーレー秒G及びバブルポイントBは下記式(1)及び(2)を満たす。当該多孔質フィルタは、必要とされる微粒子捕捉性能を達成するためにバブルポイントを大きくしても、式(2)に基づきガーレー秒を低く維持することができる。また、当該多孔質フィルタは、式(1)に基づきバブルポイントが大きいほどガーレー秒が増加する従来のバブルポイントとガーレー秒とのトレードオフ関係を一定の範囲で維持している。なお、ガーレー秒G及びバブルポイントBが上記式(1)及び(2)を満たす範囲を
図3に示す。
logG>3.7×10
−3×B−0.8 ・・・(1)
logG<4.9×10
−3×B+0.45 ・・・(2)
【0038】
上記多孔質積層体1のガーレー秒G及びバブルポイントBは下記式(3)をさらに満たすとよい。このようにガーレー秒とバブルポイントとが上記式(1)よりも傾きの小さい下記式(3)の関係をさらに満たすことで、微粒子捕捉性能を大きくした際のバブルポイントの上昇率をより低減することができ、濾過コストの低減効果をさらに高めることができる。なお、ガーレー秒G及びバブルポイントBが上記式(1)、(2)及び下記式(3)を満たす範囲を
図3にあわせて示す。
logG>1.9×10
−3×B ・・・(3)
【0039】
<多孔質フィルタの製造方法>
当該多孔質フィルタは、例えば支持層2及び捕集層3を形成する工程、並びに上記支持層2及び捕集層3の積層及び加熱により多孔質積層体1を形成する工程を備える製造方法により得ることができる。
【0040】
(支持層及び捕集層形成工程)
支持層及び捕集層形成工程では、支持層2及び捕集層3をそれぞれ形成する。具体的には、PTFE粉末と液状潤滑剤との混練物を押出してシートを成形し、このシートを2軸延伸することで、2軸延伸多孔質シートである支持層2及び捕集層3を形成する。
【0041】
上記PTFE粉末としては、高分子量のものが好ましい。高分子量のPTFE粉末を用いることで、延伸時に空孔が過度に拡がることやシートの開裂を防止しつつ繊維状骨格の成長を促進することができる。また、シート内の結節を減らして、微小な空孔が緻密に形成された多孔質シートを形成することができる。
【0042】
捕集層3を形成するPTFE粉末の数平均分子量の下限としては、400万が好ましく、1000万がより好ましく、1500万がさらに好ましい。一方、捕集層3を形成するPTFE粉末の数平均分子量の上限としては、2500万が好ましい。捕集層3を形成するPTFE粉末の数平均分子量が上記下限未満の場合、捕集層3の空隙率や強度が不十分となるおそれがある。逆に、捕集層3を形成するPTFE粉末の数平均分子量が上記上限を超える場合、シートの成型が困難になるおそれがある。なお、「数平均分子量」とは、ゲル濾過クロマトグラフィーで計測される値である。
【0043】
上記液状潤滑剤としては、従来から押出し法で用いられている各種潤滑剤を使用することができる。この液状潤滑剤としては、例えばソルベントナフサ、ホワイトオイルなどの石油系溶剤、ウンデカンなどの炭化水素油、トルオール、キシロールなどの芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、シリコーンオイル、フルオロクロロカーボンオイル、これらの溶剤にポリイソブチレン、ポリイソプレンなどのポリマーを溶かした溶液、表面活性剤を含む水又は水溶液等が挙げられ、これらを単一で又は2種以上混合して用いることができる。ただし、混合の均一性の観点からは、単一成分の液状潤滑剤を用いることが好ましい。
【0044】
上記液状潤滑剤のPTFE粉末100質量部に対する混合量の下限としては、10質量部が好ましく、16質量部がより好ましい。一方、液状潤滑剤の混合量の上限としては、40質量部が好ましく、25質量部がより好ましい。液状潤滑剤の混合量が上記下限未満の場合、押出が困難になるおそれがある。逆に、液状潤滑剤の混合量が上記上限を超える場合、後述する圧縮成形が困難になるおそれがある。
【0045】
なお、支持層2及び捕集層3の形成材料には、液状潤滑剤の他に目的に応じて、他の添加剤を含ませてもよい。他の添加剤としては、例えば着色のための顔料、耐磨耗性改良、低温流れ防止、気孔生成容易化等のためのカーボンブラック、グラファイト、シリカ粉、ガラス粉、ガラス繊維、ケイ酸塩類や炭酸塩類などの無機充填剤、金属粉、金属酸化物粉、金属硫化物粉等を挙げることができる。また、多孔質構造の生成を助けるために、加熱、抽出、溶解等により除去又は分解される物質、例えば塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、PTFE以外のプラスチック、ゴム等を粉末又は溶液の状態で配合してもよい。
【0046】
本工程では、まず上記PTFE粉末と液状潤滑剤とを混合後に圧縮成形機によりブロック体に圧縮成形する。次に、このブロック体を室温(例えば25℃)以上50℃以下で例えば10mm/min以上30mm/min以下の速度でシート状に押出成形する。さらに、このシート状体をカレンダーロール等で圧延することで、平均厚さが250μm以上350μm以下のPTFEシートを得る。
【0047】
このPTFEシートが含む液状潤滑剤はシートの延伸後に除去してもよいが、延伸前に除去することが好ましい。液状潤滑剤の除去は、加熱、抽出、溶解等により行うことができる。加熱を行う場合、例えば130℃以上220℃以下の熱ロールでPTFEシートをロールすることで液状潤滑剤を除去することができる。液状潤滑剤としてシリコーンオイルやフルオロクロロカーボンオイル等の比較的沸点が高いものを用いる場合は、抽出による除去が好適である。
【0048】
上記PTFEシート形成後、第1方向(縦方向)及び第2方向(横方向)に順次PTFEシートを延伸することで、支持層2を構成する2軸延伸多孔質シート及び捕集層3を構成する2軸延伸多孔質シートをそれぞれ得る。なお、支持層2を構成するPTFEシートと捕集層3を構成するPTFEシートとで延伸率を変更することで、平均孔径等を調整することができる。また、延伸は多段で行ってもよい。
【0049】
PTFEシートの延伸は多孔質構造を緻密にするため高温で行うことが好ましい。延伸時の温度の下限としては、20℃が好ましく、250℃がより好ましい。一方、延伸時の温度の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。延伸時の温度が上記下限未満の場合、孔径が大きくなり過ぎるおそれがある。逆に、延伸時の温度が上記上限を超える場合、孔径が小さくなり過ぎるおそれがある。
【0050】
さらに、2軸延伸多孔質シートは延伸後に熱固定を行うことが好ましい。熱固定を行うことで2軸延伸多孔質シートの主縮を防止し、多孔質構造をより確実に維持することができる。熱固定の具体的な方法としては、例えば2軸延伸多孔質シートの両端を固定し、200℃以上500℃以下の温度下で0.1分以上20分以下保持する方法を用いることができる。なお、延伸を多段で行う場合、各段の後に熱固定を行うことが好ましい。
【0051】
上述の延伸を得て得られた2軸延伸多孔質シートの平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、15μmがより好ましい。一方、2軸延伸多孔質シートの平均厚さの上限としては、40μmが好ましく、35μmがより好ましい。2軸延伸多孔質シートの平均厚さが上記下限未満の場合、又は上記上限を超える場合、所望の厚さの支持層2又は捕集層3が得られないおそれがある。
【0052】
(多孔質積層体形成工程)
多孔質積層体工程において、上記支持層及び捕集層形成工程で得られた支持層2及び捕集層3を積層し、これらを加熱することで多孔質積層体1を形成する。
【0053】
具体的には、まず支持層2、捕集層3及び支持層2をこの順で積層し、この積層体を加熱することで各層を境界で熱融着させて一体化し、多孔質積層体1を得る。この加熱温度の下限としては、PTFEのガラス転移点である327℃が好ましく、360℃がより好ましい。一方、加熱温度の上限としては、400℃が好ましい。加熱温度が上記下限未満の場合、各層の熱融着が不十分となるおそれがある。逆に、加熱温度が上記上限を超える場合、各層が変形するおそれがある。また、上記加熱時間としては、0.5分以上3分以下が好ましい。
【0054】
(親水化処理)
上述のようにして得られた多孔質積層体1に対し、親水化処理を行ってもよい。この親水化処理は、多孔質積層体1に親水性材料を含浸し、架橋するものである。この親水性材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、アクリレート樹脂等を挙げることができる。この中でも、PTFEの繊維表面に吸着し易く、含浸を均一的に行えるPVAが好ましい。
【0055】
上記親水化処理は、具体的には例えば次の手順で行うことができる。まず、多孔質積層体1をイソプロピルアルコール(IPA)に0.25分以上2分以下浸漬した後、濃度が0.5質量%以上0.8質量%以下のPVA水溶液に5分以上10分以下浸漬する。その後、多孔質積層体1を純水に2分以上5分以下浸漬した後に、架橋剤の添加又は電子線の照射により架橋を行う。この架橋後、多孔質積層体1を純水で水洗し、常温(25℃)以上80℃以下で乾燥することで、多孔質積層体1の表面を親水化できる。なお、上記架橋剤としては、例えばグルタルアルデヒド架橋、テレフタルアルデヒド架橋等を形成するものが用いられる。また、上記電子線としては、例えば6Mradのものを用いることができる。
【0056】
<利点>
当該多孔質フィルタは、多孔質積層体1のガーレー秒とバブルポイントとが上記式(1)及び(2)の関係を満たすため、バブルポイントを大きくしてもガーレー秒の上昇が低減される。つまり、当該多孔質フィルタは、圧力損失の上昇を抑えて濾過コストを低減しつつ、微粒子の捕捉性能を向上することができる。また、当該多孔質フィルタは、従来の多孔質フィルタの材質や設計手法を適用することができるため、低コストで製造することができる。
【0057】
また、当該多孔質フィルタは、上記多孔質積層体1が、最外層に配設される1対の支持層2と、この1対の支持層2間に配設される1の捕集層3とを有する。この支持層2が捕集層3の保護材として機能するため、当該多孔質フィルタは、捕捉性能を向上しつつ、多孔質積層体1の機械的強度及び寿命を高めることができる。
【0058】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0059】
上記実施形態では、多孔質積層体を3層構造としたが、当該多孔質フィルタの多孔質積層体は2層構造でもよく、4層以上の構造としてもよい。例えば、
図2に示すように、最外層の1対の支持層2間に2層の捕集層3を積層し、さらにこの1対の捕集層3の間に支持層2を積層した5層構造の多孔質積層体11を有する多孔質フィルタも本発明の意図する範囲内である。この場合、内層の支持層の孔径等は最外層の支持層と同様とすることが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
上述の製法により
図1に示す3層構造の多孔質積層体、支持層2層とこの1対の支持層間に配設される捕集層2層とを有する4層構造の多孔質積層体、支持層2層とこの1対の支持層間に配設される捕集層2層とこの1対の捕集層間に配設される支持層1層とを有する5層構造の多孔質積層体からなる多孔質フィルタを複数作成した。
【0062】
上記各多孔質フィルタのガーレー秒をJIS−P8117(2009)に準拠し、100cm
3の空気が1.22kPaの平均圧力差で6.45cm
2の試料を通過する時間として測定した。また、各多孔質フィルタのバブルポイントをASTM−F−316に準拠し、試験液としてイソプロピルアルコールを用いて測定した。その結果を
図3のプロットで示す。
【0063】
上記各多孔質フィルタのガーレー秒及びバブルポイントは、上記式(1)、(2)を満たす。これらの多孔質フィルタは、圧力損失の上昇を抑えて濾過コストを低減しつつ、微粒子の捕捉性能を向上することができると共に、低コストで製造することができた。