(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、格子状改良体は、格子状に配置された改良壁から構成されていて、地盤の条件によって、隣り合う改良壁の間隔を数m〜10数mとする必要がある。そして、上側に建築される建物(構造物)の建築面積が広い場合、多くの改良壁を必要とするため、格子状改良体の施工に多くの労力が必要となるとともに、コストや工期がかかるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、工期や労力、コストを抑えることができる地盤改良工法および改良地盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る地盤改良工法は、液状化を防止するべき地盤に、下端部が難透水性の下層地盤に達する複数の改良壁を格子状に配置して格子状改良体を構築する格子状改良体構築工程と、前記格子状改良体が構築された地盤に井戸を設置して地下水の揚水を行い、前記格子状改良体が構築された地盤の地下水位を自然水位から所定の地下水位に低下させる揚水工程と、該揚水工程によって低下した地下水位を前記自然水位に回復させて、前記格子状改良体が構築された地盤を気泡が混在した
不飽和地盤にする地盤不飽和化工程と、を有
し、前記格子状改良体構築工程における地盤の改良率は、不飽和化した際の地盤のせん断ひずみ量と不飽和化した際の地盤に生じる過剰間隙水圧比との関係から評価された不飽和地盤の液状化強度に基づいて設計することを特徴とする。
また、本発明に係る地盤改良工法は、前記不飽和化した際の地盤に生じる過剰間隙水圧比Δu/σv´は、以下の数式から算出されるようにしてもよい。
【数1】
【0007】
また、本発明に係る改良地盤は、地盤に構築されて下端部が難透水性の下層地盤に達する複数の改良壁が格子状に配置された格子状改良体と、該格子状改良体が構築された地盤の地下水の揚水可能な井戸と、を備え、前記格子状改良体が構築された地盤は、前記井戸による地下水の揚水が行われると、地下水位が自然水位から所定の地下水位に低下し、前記井戸による地下水の揚水が停止されると、低下した地下水位が前記自然水位に回復し、気泡が混在した
不飽和地盤とな
り、前記格子状改良体が構築された地盤の改良率は、不飽和化した際の地盤のせん断ひずみ量と不飽和化した際の地盤に生じる過剰間隙水圧比との関係から評価された不飽和地盤の液状化強度に基づいて設計されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、格子状改良体が構築された地盤を不飽和化させて不飽和地盤とすることができるため、飽和地盤と比べて地盤の液状化強度を高めることができる。
そして、不飽和地盤は、飽和地盤と比べて地盤の液状化強度が高いことにより、飽和地盤に格子状改良体を構築する場合と比べて、格子状改良体の体積を小さくすることができ、隣り合う改良壁の間隔を大きくしたり、改良壁の厚さを薄くしたりすることができるため、地盤改良にかかる工期や労力、コストを抑えることができる。
【0009】
また、本発明に係る地盤改良工法では、前記改良壁は、前記格子状改良体の外縁部に配置される外側改良壁と、該外側改良壁の内側に格子状に配置される内側改良壁とから構成され、該内側改良壁には、一方の壁面側と他方の壁面側とを連通させ前記地下水が通過可能な通水部が形成されていて、前記揚水工程では、前記内側改良壁によって複数に区画された領域の1ヶ所以上に前記井戸を配置し、該井戸で揚水を行うことが好ましい。
格子状改良体が構築された地盤は、格子状に配置された内側改良壁によって複数の領域に区分されているが、区分された領域の少なくとも1ヶ所に井戸を設置し揚水を行えば、井戸が設置されていない領域の地下水も内側改良壁の通水部を通過させて揚水することができる。
これにより、格子状改良体が構築された地盤に、内側改良壁によって区分された領域ごとに井戸を設置する必要がないため、井戸の設置にかかる工期や労力、コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、飽和地盤に格子状改良体を構築する場合と比べて、格子状改良体の体積を小さくすることができ、隣り合う改良壁の間隔を大きくしたり、改良壁の厚さを薄くしたりすることができるため、地盤改良にかかる工期や労力、コストを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による地盤改良工法および改良地盤について、
図1乃至
図9に基づいて説明する。
図1および
図2に示すように、本実施形態による地盤改良工法によって改良された改良地盤1には、液状化を防止するべく地盤11に構築された格子状改良体2と、格子状改良体2が構築されている地盤11の地下水を揚水可能なディープウェル(井戸)3と、が設けられている。
この改良地盤1が構築される地盤11は、地表11a(
図2参照)側に透水性の砂質層などで構成された上層地盤12(
図2参照)が配置され、上層地盤12の下側には、難透水性の下層地盤13(
図2参照)が配置されている。
そして、この改良地盤1の上部には建物などの構造物14(
図2参照)が建設されている。
【0013】
格子状改良体2は、地盤11に角筒を形成するように配置された複数の外側改良壁(改良壁)4と、外側改良壁4の内側に格子状に配置された複数の内側改良壁(改良壁)5とから構成されている。このため、改良地盤1は、内側改良壁5によって複数の領域に区分されている。
これらの外側改良壁4および内側改良壁5は、下端部4a,5a(
図2参照)がそれぞれ下層地盤13に達していて、上端部4b,5b(
図2参照)がそれぞれ地表11a近傍に達している。
【0014】
また、複数の内側改良壁5には、一方の壁面側と他方の壁面側とを連通させ、地盤の地下水が通過可能な通水部51がそれぞれ形成されている。
図3に示すように、本実施形態では、通水部51は、内側改良壁5の下端部5aに形成された切欠き部で構成されている。なお、内側改良壁5に形成される通水部51の数や形成される場所は適宜設定されてよい。
また、複数の外側改良壁4には、内側改良壁5のような通水部51が形成されていないが、外側改良壁4の下端部4aと下層地盤13との間は、完全に封水されておらず、外側改良壁4の一方の壁面側と他方の壁面側とは、内側改良壁5と比べて少量ずつであるが、通水している。
【0015】
図2に戻り、ディープウェル3は、下層地盤13のやや上側まで達するように設置されていて、上層地盤12の地下水を揚水可能に構成されている。
ディープウェル3は、改良地盤1のうち、内側改良壁5によって複数に区分された領域の一部(以下、ディープウェル設置地盤15とする)に設置されている。
そして、ディープウェル3で地盤11地下水の揚水を行うと、改良地盤1のうちディープウェル設置地盤15以外の地盤(以下、ディープウェル非設置地盤16とする)の地下水も内側改良壁5の通水部51を通過して、ディープウェル設置地盤15へ移動し、ディープウェル3によって揚水されるように構成されている。
このようにディープウェル3で地盤11の地下水の揚水を行うことで、外側改良壁4の内側の地盤11全体の地下水が揚水されるように構成されている。
【0016】
また、本実施形態のような地盤改良工法を行う場合は、格子状改良体2の上部に建設される構造物14が地下免震構造となることが多く、この構造物14の建設の際に例えば3m程度の掘削工事を行うため、掘削工事の際にディープウェルを使用している。このため、本実施形態による改良地盤1のディープウェル3は、掘削工事の際に使用されたディープウェル3を利用している。
【0017】
次に、本実施形態による地盤改良工法について説明する。
(格子状改良体構築工程)
まず、地盤11に外側改良壁4および内側改良壁5が格子状に配置されるように格子状改良体2を構築する。このとき、内側改良壁5の下端部5aには通水部51を形成する。
外側改良壁4および内側改良壁5は、例えば、セメントやセメント系固化材と原位置の土とを混合撹拌して壁状に形成するなど公知の方法によって構築する。
【0018】
(揚水工程)
続いて、改良地盤1のうちディープウェル設置地盤15となる領域にディープウェル3を設置する。本実施形態では、ディープウェル3に地盤11の掘削工事に使用されたディープウェルを利用している。
そして、ディープウェル3で改良地盤1の地下水の揚水を行い、改良地盤1の地下水位を自然水位17(
図2参照)から低下させる。そして、地下水位が所定の地下水位18(
図2参照)まで低下したら揚水を停止する。
【0019】
(地盤不飽和化工程)
続いて、低下した所定の地下水位18を自然水位17まで回復させる。低下した所定の地下水位18を自然水位17まで回復させるには、外側改良壁4の外側の地盤11から外側改良壁4の内側の改良地盤1へ地下水が通水することによって行ったり、地表面11aから注水を行って地盤11に浸水させることによって行ったりする。
これにより、地盤11に空気(気泡)が混在して地盤11が不飽和状態となり、地盤11の液状化強度を高めることができる。
【0020】
なお、地盤11の飽和度は、時間とともに変化するため、地盤11が不飽和状態に維持されるように、半年から数年に一度など、定期的または不定期に地盤11の地下水の揚水を行う。
【0021】
ここで、
図4からわかるように、揚水工程および地盤不飽和化工程を行うことによって、改良地盤1の飽和度を約70〜90%とすることができ、改良地盤1を不飽和地盤とすることができる。
また、
図5からわかるように、飽和度が70%の不飽和地盤は、その液状化強度が、飽和度が100%の飽和地盤の約3倍とすることができ、飽和度が90%の不飽和地盤では、その液状化強度が、飽和度が100%の飽和砂の約2倍とすることができる。
このように、揚水工程および地盤不飽和化工程を行い、改良地盤1を不飽和地盤とすることによって改良地盤1の液状化強度を増大させることができる。
【0022】
続いて、本実施形態による改良地盤1の設計法について説明する。
改良地盤1の設計法は、例えば、特許5190655号公報に記載されている「部分改良地盤の変形量の評価法」をもとに行う。
この「部分改良地盤の変形量の評価法」では、改良地盤の初期せん断ひずみと液状化の際に生じる過剰間隙水圧比との関係を下記の式(1)〜(4)から導いている。
【0024】
本実施形態では、地盤が不飽和化しているため、式(2)を下記の式(2)´に変更する。これ以外は、特許5190655号公報に記載されている「部分改良地盤の変形量の評価法」と同様に設計を行う。
【0026】
続いて、改良地盤の格子状改良体2の設計例について説明する。
まず、例えば、せん断波速度V
S=140m/s、湿潤密度ρ=1.8g/cm
3、初期せん断剛性G
0=35MPa、基準せん断ひずみγ
ref=2.9e−4、最大減衰h
max=0.12、定数β=1.46、鉛直有効応力σ´
v=54kPa、等価繰り返しせん断応力比τ
d/σ´
v=0.41、液状化抵抗比R
20=τ
lq/σ´
v=0.15、実験定数k=−0.25、実験定数α
rf=0.7の飽和地盤に対して、せん断波速度V
s=500m/sの格子状改良体2を構築する改良地盤を作成する。
このとき、地盤の改良率R=20%とすると、改良地盤の液状化安全率は1.5となる。なお、未改良時の地盤の液状化安全率は0.37である。
図6に飽和地盤の格子状改良体の設計における初期せん断ひずみと過剰間隙水圧比との関係を示している。
【0027】
これに対し、飽和度S
r=90%の不飽和地盤の液状化強度をR
un(90)=2R
20=2×0.15=
0.3とした場合、地盤の改良率R=5%とすると、改良地盤の液状化安全率は1.4となる。なお、未改良時の地盤の液状化安全率は、0.73である。
図7に不飽和地盤の格子状改良体の設計における初期せん断ひずみと過剰間隙水圧比との関係を示している。
【0028】
以上のことから、飽和地盤において改良率Rを20%とする地盤改良を行った場合と、飽和度S
r=90%の不飽和地盤において改良率を5%とする地盤改良を行った場合とでは、改良地盤の液状化安全率は略等しくなることがわかる。
このため、格子状改良体2を構築する地盤改良において、地盤改良を行う敷地面積、格子状改良体2の外側改良壁4および内側改良壁5の厚さがそれぞれ等しい場合、飽和度S
r=90%の不飽和地盤のほうが、飽和地盤と比べて、隣り合う外側改良壁4と内側改良壁5、および隣り合う内側改良壁5の間隔を大きくすることができる。
【0029】
例えば、80m×80mの略正方形敷地に外側改良壁4および内側改良壁5の厚さが1mの格子状改良体2構築する地盤改良を行う場合、
図8(a)に示すように、飽和地盤において隣り合う外側改良壁4Bと内側改良壁5Bまたは隣り合う2つの内側改良壁5Bの間隔を10mとする格子状改良体2Bを構築する場合と、
図8(b)に示すように、飽和度S
r=90%の不飽和地盤において隣り合う外側改良壁4と内側改良壁5、および隣り合う内側改良壁5の間隔を40mとする格子状改良体2を構築する場合とでは、改良地盤1,1Bの液状化強度は、略同じ大きさとなることがわかる。
【0030】
次に、上述した地盤改良工法および改良地盤の作用・効果について説明する。
上述した本実施形態による地盤改良工法および改良地盤では、格子状改良体2が構築された改良地盤1を不飽和化させて不飽和地盤とすることができるため、飽和地盤と比べて改良地盤1の液状化強度を高めることができる。
そして、不飽和地盤は、飽和地盤と比べて改良地盤1の液状化強度が高いことにより、飽和地盤に格子状改良体を構築する場合と比べて、格子状改良体2の体積を小さくすることができ、隣り合う外側改良壁4や内側改良壁5の間隔を大きくすることができるため、地盤改良にかかる工期や労力、コストを抑えることができる。
【0031】
また、内側改良壁5には、通水部51が形成されていることにより、改良地盤1の内側改良壁5によって複数に区分された領域の少なくとも一部のディープウェル設置地盤15にディープウェル3を設置し、このディープウェル3で揚水を行えば、ディープウェル非設置地盤16の地下水も内側改良壁5の通水部51を通過させて揚水することができる。
これにより、改良地盤1に、内側改良壁5によって複数に区分されている領域ごとにディープウェル3を設置する必要がないため、ディープウェル3の設置にかかる工期や労力、コストを抑えることができる。
【0032】
以上、本発明による地盤改良工法および改良地盤の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、地盤改良工法で使用するディープウェル3は、地盤11の掘削工事に使用したディープウェルを利用しているが、地盤11の掘削工事に使用したディープウェルは撤去し、地盤改良工法のために別のディープウェルを設置してもよい。また、設置されるディープウェル3の台数は、適宜設定されてよく、ディープウェル3を複数設置することで、ディープウェル非設置地盤16がなくなる場合は、内側改良壁5に通水部51が形成されていなくてもよい。
また、上記の本実施形態では、通水部51は、内側改良壁5の下端部5aに形成された切欠き部で構成されているが、内側改良壁体5の下端部近傍5aに形成されて内側改良壁体5の一方の壁面側と他方の壁面側とを連通させる孔部で構成されていてもよい。また、通水部51の切欠き部や孔部の数は適宜設定されてよい。
【0033】
また、上記の実施形態では、隣り合う外側改良壁4と内側改良壁5、および隣り合う内側改良壁5の間隔を、飽和地盤に格子状改良体を構築する場合と比べて大きくしているが、隣り合う外側改良壁4と内側改良壁5、および隣り合う内側改良壁5の間隔を飽和地盤に格子状改良体を構築する場合と同じ間隔として、外側改良壁4および内側改良壁5の一方または両方の厚さを飽和地盤に格子状改良体を構築する場合と比べて薄くしてもよい。
また、上記の実施形態では、
図1や
図9(a)に示すように、格子状改良体2は、外側改良壁4と、格子状に配置された複数の内側改良壁5とから構成されているが、平面視において矩形状に形成された外側改良壁4のみで構成されていてもよい。また、格子状改良体2は、平面視において矩形状に形成された外側改良壁4の内部に内側改良壁5が1つだけ設けられている構成としてもよい。また、外側改良壁4は、矩形状以外に形成されていてもよい。