(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
皮膚には、外界に対する物質透過や異物侵入を防ぐバリアとしての機能が存在することが知られ、皮膚におけるバリア機能と呼ばれている。
【0003】
皮膚におけるバリア機能として、死んだ角化細胞が細胞外の非極性の脂質層中で埋設されてなる疎水性の層である角層による機能が知られていたが、近年、上皮細胞間における細胞間接着構造の機能が大きく寄与することが知られるようになった。そのような細胞間接着構造として、タイトジャンクション(TJ:Tight-junction)、アドヘレンスジャンクション(AJ:Adherens-junction)などが知られている。タイトジャンクション及びアドヘレンスジャンクションは、角化細胞等の細胞の周囲にベルト状に存在し、隣り合った細胞同士を密着させることにより隙間を防ぐとともに、連続的に細胞を繋ぎ止める。特にタイトジャンクションは、顆粒層の表皮細胞に存在しており、水や物質や異物が細胞間隙に透過するのを防ぎ、皮膚バリア機能の維持に重要な役割を果たしている。また、アドヘレンスジャンクションは、その正常な形成がタイトジャンクションの形成に重要な役割を果たすことが知られている。
【0004】
この皮膚バリア機能に関して重要な遺伝子としてTRPV4が知られている。TRPV4は、非選択性陽イオンチャネルのTRP(Transient receptor potential)チャネルに属する9種類の温度感受性受容体の一つであり、細胞膜貫通型カルシウム流入チャネルとして機能する。TRPV4は、当初、低侵透圧で活性化される浸透圧感受性受容体として発見され、皮膚の表皮細胞のほか、感覚神経、視床下部、腎臓、肺、内耳などの様々な組織で発現し、温度刺激だけでなく、浸透圧刺激、機械刺激による痛みや炎症性の痛みの伝達に重要な役割を果たしている。
【0005】
これまでに、TRPV4と皮膚バリア機能との関連性については、例えば、具体的に以下のことが報告されている。
非特許文献1及び2には、表皮に存在するTRPV4遺伝子が無効化されたマウスは、細胞間接着構造依存性のバリアが損なわれていること、TRPV4はアドヘレンスジャンクションの構成成分であるカドヘリンと複合体を形成し、このことがタイトジャンクション形成促進を含め、細胞間接着構造の形成と関与していると考えられることが記載されている。非特許文献2には、低温におけるアドヘレンスジャンクション及びタイトジャンクションの形成障害がTRPV4活性化剤により治癒されること、TRPV4を活性化することにより細胞間結合の密着性が増すこと、角層の乱れによるバリア機能の低下の回復がTRPV4を刺激することで促進されることが記載されている。非特許文献3には、TRPV4遺伝子が、タイトジャンクションが形成されたヒト表皮角化細胞において発現していること、TRPV4の活性化剤を角化細胞に添加することにより、タイトジャンクション形成に関与するとされるクローディン4等の蛋白質量が増加したり、角化細胞においてタイトジャンクション形成が関与する傍細胞透過性バリアが強化されたりすることなどが記載されている。
【0006】
従って、表皮においてこのTRPV4の遺伝子発現を亢進する物質は、表皮においてTRPV4蛋白質量を増大させ、これにより、TRPV4による皮膚バリア改善機能を強化することができると考えられる。
【0007】
葛はマメ科の植物であり、古くから、食用、漢方薬などの原料として用いられている。 例えば、葛の澱粉は、和菓子の原料に用いられ、葛の根および花は、それぞれ葛根および葛花と称され、解熱、鎮痛、鎮痙、発汗などの症状を改善する漢方薬の原料として用いられている。皮膚に関連して葛花が有する効果としては、例えば、コラゲナーゼ阻害効果、抗酸化作用、エラスターゼ阻害活性、ヒアルロニダーゼ阻害活性などの効果、経口摂取による肌荒れやシワ、タルミといった肌状態の改善効果、血流改善効果、チロシナーゼ活性阻害効果、メラニン生成抑制効果、ニキビの予防及び改善効果等が知られている(特許文献1〜特許文献4)。
しかしながら、外界からの感染に対する防御や、物質透過を防ぐという皮膚バリア機能については、これまで何ら知られていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は皮膚バリア機能改善剤、細胞間接着構造の形成促進剤、タイトジャンクション形成促進剤及びTRPV4遺伝子の発現亢進剤に関するものである。以下、これらの剤を総称して本発明の剤ともいう。以下の説明は、特に断らない限り、本発明の剤のいずれにも当てはまる。
【0015】
本発明の剤は、葛花処理物を含有することを特徴の一つとする。好ましくは葛花処理物を有効成分として含有し、より好ましくは葛花抽出物を有効成分として含有する。葛はマメ科の大形蔓性の植物であり、葛花は葛の花部である。葛花は、葛の花弁の他、雌しべ、雄しべ、がく片、花軸、苞葉等を含んでもよい。本発明においては、蕾から全開した花までのいずれの段階で採取した葛花を用いてもよく、複数の段階で採取した葛花を混合して用いてもよい。本発明においては、蕾の段階の葛花を用いることが好ましい。葛の種類としては、プエラリア・トムソニイ(Pueraria thomsonii)、プエラリア・ロバータ(Pueraria lobata)、プエラリア・スンバーギアナ(Pueraria thunbergiana)等を例示でき、これら1種又は2種以上を混合して用いることができる。特に、プエラリア・トムソニイ(Pueraria thomsonii)を用いることが好ましい。
【0016】
本明細書において「葛花処理物」とは、上記葛花の処理物である。葛花処理物は、葛花に乾燥処理、粉砕処理及び抽出処理のうちの少なくとも1種の処理を行って得られる処理物であることが好ましく、葛花の乾燥物、葛花破砕物、葛花の乾燥粉砕物(以下、葛花粉末ともいう)及び葛花抽出物から選ばれる何れか1種以上であることが更に好ましい。ここでいう葛花抽出物には、葛花そのもの、葛花破砕物、葛花乾燥物又は葛花粉末から抽出処理を行って得られる抽出物;該抽出物の濃縮及び/又は精製物が含まれる。本発明においては、使用時の効果の顕著性や品質の安定性の観点から葛花抽出物を用いることが好ましい。葛花抽出物の形状としては、液状、ペースト状、粉状、細粒状、顆粒状等を挙げることができる。
【0017】
以下、葛花処理物の例として葛花乾燥物、葛花粉末、及び葛花抽出物の調製方法について説明する。
【0018】
葛花乾燥物は、葛花を、日干し、熱風乾燥などの方法により乾燥することで得ることができる。水分含有量としては、10質量%以下となるまで乾燥させることが好ましい。
【0019】
葛花粉末(乾燥粉末)は、上記葛花乾燥物を粉砕して得ることができる。粉末化は、当業者が通常用いる方法、例えば、ボールミル、ハンマーミル、ローラーミルなどを用いて行うことができる。あるいは、葛花粉末(乾燥粉末)は、採取した葛花を、マスコロイダー、スライサー、コミトロールなどを用いて破砕して葛花破砕物を得、この葛花破砕物を乾燥することによっても得ることができる。
【0020】
葛花抽出物は、例えば、葛花、葛花破砕物、葛花乾燥物、または葛花粉末(乾燥粉末)に溶媒を添加し、必要に応じて加温して、抽出を行い、遠心分離または濾過により抽出液を回収することによって得ることができる。葛花抽出物は葛花乾燥物又はその粉砕物(葛花粉末)の抽出物であることが好ましい。
【0021】
葛花抽出物を得るために用い得る溶媒としては、水、有機溶媒、含水有機溶媒などが挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどが挙げられる。これらの中で好ましくは極性有機溶媒、より好ましくは水、エタノール、n−ブタノール、メタノール、アセトン、プロピレングリコール、及び酢酸エチルであり、最も好ましくは水及び/又はエタノールである。
【0022】
抽出方法としては、加温抽出法、超臨界抽出法などが挙げられる。これらの抽出方法において、必要に応じて加圧して加温を行ってもよい。加温する場合、葛花に添加した溶媒が揮発するのを防ぐ必要がある。加温する場合、抽出温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、最も好ましくは90℃以上であり、好ましくは130℃以下、より好ましくは100℃以下である。
【0023】
抽出時間は、抽出原料から十分に可溶性成分が抽出される時間であればよく、抽出温度などに応じて適宜設定すればよい。好ましくは30分以上48時間以下である。例えば、抽出温度が50℃未満の場合は、6時間以上48時間以下であることが好ましく、50℃以上の場合は、30分以上24時間以下であることが好ましい。
【0024】
得られた抽出液は、そのまま液状の葛花抽出物としてもよい。また必要に応じ、得られた抽出液を減圧濃縮や凍結乾燥等の当業者が用いる方法により濃縮することにより、液状、ペースト状又は粉末の葛花抽出物としてもよい。なお、粉末状の葛花抽出物を抽出エキス末ということがある。
【0025】
具体的に好ましい態様を挙げれば、葛花、葛花破砕物、葛花乾燥物、または葛花粉末(乾燥粉末)の100質量部(乾燥物換算)に対して、1質量部以上10000質量部以下の熱水を混合して混合物を得、該混合物を、温度を50℃以上130℃以下に維持しつつ30分以上48時間以下で加熱することにより葛花の可溶性成分の抽出を行い、この抽出により得られた抽出液を遠心分離にて濾別した後、噴霧乾燥で乾燥して、粉末状の葛花抽出物を得ることが好ましい。
【0026】
前記のようにして得られた葛花抽出物はそのまま本発明の剤に含有させてもよい。あるいは、この抽出物に、特定の成分の含有量を高めるように、更なる抽出、濃縮、分画、分離及び精製から選ばれる1種以上の処理を施したものを、本発明の剤に含有させても良い。分画あるいは精製処理としては、合成吸着剤(ダイアイオンHP20やセファビースSP825、アンバーライトXAD4、MCIgelCHP20P等)やデキストラン樹脂(セファデックスLH−20など)を用いた処理が挙げられる。このような精製(或いは分画)により、特定成分の濃度が高い葛花抽出物が得られる。
【0027】
本発明の剤は、上記に説明した葛花処理物を含有するものである。
【0028】
前記葛花処理物は、前記で挙げた各特性を生かして、該葛花処理物単独で、或いは、その他の成分と配合して、各種の製品として用いることができる。そのような製品としては、各種の皮膚用の化粧品や経皮用の医薬品若しくは医薬部外品、入浴剤、石ケン・シャンプー等の洗浄剤といった、葛花処理物を経皮摂取する形態;経口用や口腔用組成物といった葛花処理物を経口摂取する形態が挙げられる。ここでいう皮膚用化粧品とは、ヒトを対象としたものであってもよいし、ヒト以外の動物、特に哺乳類を対象としたものであってもよい。前記葛花処理物をこれらの製品として用いることにより、これらの製品に、所望の皮膚バリア機能改善効果を付与することができる。
【0029】
例えば、前記葛花処理物を、前記各種の経皮摂取する形態の製品とする場合の剤形としては、ローション、乳剤、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒、カプセル、シート、気泡、スプレー、エアゾール、ペースト、パック等、液体状、固体状を問わず任意の形態を挙げることができる。
【0030】
前記葛花処理物をこれら経皮摂取する形態の製品とする場合の具体的な利用分野は、例えば、各種の外用製剤類(ヒト以外の動物用に使用する製剤も含む)全般において利用でき、具体的には、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液体、ゲル、気泡、エマルジョン、シート、ミスト、スプレー剤等利用上の適当な形態の1)医薬品類、2)医薬部外品類、3)局所用又は全身用の皮膚用化粧品類(例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パック等の基礎化粧料、洗顔料や皮膚洗浄料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、除毛剤、脱毛剤、髭剃り処理料、アフターシェーブローション、プレショーブローション、シェービングクリーム、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧料、香水類、美爪剤、美爪エナメル、美爪エナメル除去剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、シート剤、貼付剤、エアゾール剤等)、4)頭皮に適用する薬用又は/及び化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス剤、ヘアートリートメント剤、プレヘアートリートメント剤、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、シート剤、貼付剤、エアゾール剤等)、5)浴湯に投じて使用する浴用剤、6)その他、腋臭防止剤や消臭剤、防臭剤、制汗剤、衛生用品、衛生綿類、ウエットティシュ、口中清涼剤、含嗽剤等が挙げられる。
【0031】
前記葛花処理物を前記の各種の経皮摂取する形態の製品とした場合、これらの前記葛花処理物以外の成分としては、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、水、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、機能性成分、動植物成分、酸化防止剤、キレート剤等、外用剤として使用する任意の成分を制限なく用いることができる。
【0032】
本発明の剤を、経皮摂取する形態で用いる場合、本発明の剤において、上記に説明した葛花処理物の含有量は、使用する葛花処理物の処理方法、剤の用途や剤形、摂取方法の違いや求められる効果のレベル等によっても異なるが、一般に、本発明の剤の固形分中、0.00001質量部以上であることが好ましく、0.0001質量部以上であることがより好ましく、0.0005質量部以上であることが更に好ましく、0.001質量部以上であることが特に好ましい。また本発明の剤中、葛花処理物の含有量が40質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましく、5質量部以下であることが特に好ましい。
【0033】
本発明の剤において、葛花処理物を前記各種の経口摂取する形態の製品とした場合、その製品の剤形としては、例えば、粉末状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、固形状、丸状、液状、ペースト状、クリーム状、ハードカプセルやソフトカプセルのようなカプセル状、カプレット状、タブレット状、ゲル状等の各形態が挙げられる。
【0034】
本発明の剤を前記各種の経口摂取する形態の製品とする場合、前記のその他の成分としては、例えば、前記の葛花処理物以外の各種の皮膚バリア機能改善剤のほか、例えば、ビタミン類(A、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体等)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレン等)等を配合しても良い。また、種々の賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、増粘剤、乳化剤、着色料、添加物等を配合しても良い。
その他の成分の含有量は、本発明の剤の剤形や求められる効果のレベルや内容等に応じて適宜選択することができる。
【0035】
本発明の剤を、経口摂取する形態で用いる場合、本発明の剤において、上記に説明した葛花処理物の含有量は、使用する葛花処理物の処理方法、剤の用途や剤形、摂取方法の違いや求められる効果のレベル等によっても異なるが、一般に、本発明の剤の固形分中、0.001質量部以上であることが好ましく、0.005質量部以上であることがより好ましく、0.01質量部以上であることが更に好ましく、0.1質量部以上であることが特に好ましい。
【0036】
本発明の剤を経口的に摂取する場合、その経口投与量は、上記葛花処理物の乾燥物換算で、成人1日当りおよそ0.01g以上30g以下であることが好ましく、0.1g以上10g以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明の剤は、後述した実施例の記載から明らかなとおり、表皮、特に、皮膚のバリア機能と関係の深い角化細胞におけるTRPV4遺伝子発現を亢進するものである。これにより、本発明の剤は、角化細胞におけるTRPV4蛋白質量を増大させることにより、表皮におけるTRPV4の機能を強化することができ、表皮におけるタイトジャンクション等の細胞間接着構造の形成を促進し、角化細胞における傍細胞透過性バリア等の皮膚バリア機能を高めることができる。特に、本発明の剤が対象とする皮膚バリア機能とは、水分等の物質透過機能だけでなく、病原体が体内に侵入することに対抗し、皮膚感染症等の皮膚障害に対する予防や改善に繋がるものである。上述した非特許文献2では、TRPV4の発現が、タイトジャンクション等の細胞間接着構造の形成だけでなく、角層依存性のバリア機能とも関与することが示されているところ、皮膚の角層が抗菌シールドとして機能することはよく知られているところである(たとえば、「皮膚バリア機能と感染防御」日皮会誌:119(11)2141-2149,2009)。また上述したようにTRPV4の活性化により形成促進される皮膚のタイトジャンクションは、角層を通り抜けた抗原が、細胞と細胞の 隙間を通り抜けて体内に侵入してくるのを防いでいると考えられている(www.keio.ac.jp/ja/press_release/2009/...att/091203_1.pdf、2014年9月16日検索)。従って、本発明の剤は、TRPV4の遺伝子発現を亢進、つまり、この蛋白質の発現を亢進し、これにより病原体等や物理的刺激、異物に対する皮膚のバリア機能を強化できるので、体外からの細菌や有害物質の侵入による直接的な障害、アレルギ−反応などを予防でき、皮膚感染症やアトピ−性皮膚炎や皮脂欠乏性湿疹などの皮膚障害の発症に対する予防や改善に用いることが可能でありうる。本発明の剤は、ヒト及びヒト以外の動物(哺乳類等)のいずれを対象にしてもよい。
また、本発明の剤は、後述した実施例の記載から明らかなとおり比較的高濃度で細胞に適用しても毒性がみられないため、経皮摂取及び経口摂取する際の安全性が高い。
【0038】
更に、本発明の剤は、これを経口摂取することにより、上述した各種の効果以外に、解熱、鎮痛、鎮痙、発汗などの症状の改善や、肝障害改善効果、肝中脂質蓄積抑制効果、二日酔い予防効果、尿窒素代謝改善、体脂肪低減効果、抗肥満効果、血流改善効果などの葛花による公知の効果を得ることが可能である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。しかし本発明の範囲はかかる実施例に限定されない。以下、特に断らない場合「%」は質量%、「部」は質量部を表す。なお、以下に説明する培地や試料は、必要に応じ適宜滅菌して用いた。
【0040】
〔実施例1〕
葛花処理物として、粉末状の葛花抽出物を用いた。この葛花抽出物は、蕾の段階で採取した葛花(プエラリア・トムソニイ、部位:花弁)の乾燥粉末の熱水抽出により得たものであった。この葛花抽出物を、濃度が0.4 mg/mLとなるようにDMSOで溶解した後、Keratinocyte Basal Mediumでさらに1000倍希釈し(DMSO終濃度0.1%)、実施例1の被験物質含有培地を得た。なお、Keratinocyte Basal Mediumは、タカラバイオ(Promo Cell)製のKeratinocyte Basal Medium 2 Kit における培地100部に、添付のサプリメントと、Penicillin-Streptomycinとをそれぞれ1部添加したものであり、これを以下「KBM」と略す。
【0041】
〔実施例2〜4〕
葛花抽出物の濃度がそれぞれ2mg/mL、10 mg/mL、及び50 mg/mLであるDMSO溶液をKBMで1000倍希釈した以外は、実施例1と同様にして被験物質含有培地を得た。
【0042】
〔比較例1〕
0.1%DMSO含有KBMを用いた。
【0043】
実施例1〜4及び比較例1で調製した培地を以下の<生存率試験>に供した。
<生存率試験>
(1)細胞培養
正常ヒト表皮角化細胞(成人、プールド、PromoCell製、継代数P7〜9、以下「NHEK細胞」と略す)を以下の手順で培養した。
【0044】
NHEK細胞を、37℃、5%CO
2インキュベーター内で、75 cm
2フラスコ中で、KBMにより培養した。培養後のNHEK細胞を、Trypsin-EDTA処理により浮遊させた。浮遊した細胞入り培地を、24 well plateに5 × 10
4cells/wellとなるように1mlずつ播種した。well中のNHEK細胞を 37℃、5%CO
2インキュベーター内で24時間、前培養した。
【0045】
前培養後、培地を除去した後、実施例1〜4で調製した被験物質含有培地をそれぞれ1 mL/well添加し、37℃、5%CO
2インキュベーターで48時間培養した(n = 3)。陰性Controlとして、比較例1の培地を実施例1の培地の代わりに用い、同様の培養を行った。
【0046】
(2)生存率の測定
細胞培養後の各wellから培地上清を除去した。次いで、well中の細胞をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと略す) 1 mL/wellで2回洗浄した。Cell Counting Kit-8(同仁化学)を無血清Dulbeccoo’s Modified Eagle’s Medium (以下DMEMと略す)で30倍に希釈したものを調製し、これを洗浄後の細胞に500 μL/well添加した。プレートを37℃、5%CO
2インキュベーター内に静置後、96 well plateに100 μL移し、450 nmにおける吸光度をプレートリーダ(Thermo electron社製、VARIOSKAN)で測定した。得られた吸光度に基づき、以下の式から陰性コントロールに対する比(%of Control)を算出し、この平均値を細胞生存率とした。得られた細胞生存率を
図1に示す。
%of Control =(Data sample−Data blank) / (Data control−Data blank) × 100
【0047】
図1の結果から、葛花処理物を含有する実施例1〜4の培地は、その濃度にかかわらず、細胞毒性を有しないことがわかる。
【0048】
実施例1及び比較例1の培地により上記(1)で培養したNHEK細胞を以下の<遺伝子発現解析試験>に供した。
【0049】
<遺伝子発現解析試験>
(A)mRNAの抽出(QIAGEN製 RNeasy Mini Kitを使用)
<生存率試験>の(1)の細胞培養の通りに細胞を培養後、各wellより培地上清を除去し、PBS 1 mL/wellで2回洗浄した。次いでBuffer RLTを350 μL/well添加し、室温で5 分間振とうした。振とう後、各wellに70%エタノールを350 μLずつ添加し、ピペッティングにより混和した。その後、各wellの溶液全量をRNeasy spin columnに添加し、2 mL collection tubeにセットした。その後、RNeasy Mini Kitに添付されたプロトコルの通りの手順によりTotal RNAサンプルを得た。
【0050】
(B)cDNAの作製(QIAGEN製Reverse Transcription Kitを使用)
(A)で抽出したRNAサンプルの濃度と純度(260 nm/280 nm)をThermo electron社製のNanoDropを用いて測定した。ゲノムDNAを除去するため、氷上、1.5mLの滅菌チューブ中に300 ngのtemplate RNA、gDNA Wipeout Buffer 2 μL及びRNase free waterを混合し、全量を14 μLとした。42℃にて2分間インキュベート後、氷上へ移した。このチューブに、Quantiscript Reverse Transcriptase:Quantiscript RT Buffer:RT Primer Mix を 1:4:1の割合で混合した混合液を6 μLずつ分注した。42℃にて15分間インキュベートした後、95℃にて3分間インキュベートし、-80℃で保存した。
【0051】
(C)RT-PCRの実施
(B)で作製したcDNAサンプルをRNase free water で10倍希釈し、鋳型とした。また、検量線を作成するため、1つのサンプルを10倍希釈後さらに4倍、16倍希釈した。希釈したcDNAを氷上、0.1 mLチューブに4 μLずつ分注した。このチューブへ、PCR Mix:Primer = 5:1の割合で混合した混合液を6 μLずつ分注した。チューブ中のcDNA について、以下の条件でRT-PCRを実施した。Primerは以下のものを使用した。
【0052】
(RT-PCRの条件)
Hold: 95℃・5分
Cycle:95℃・5 秒 → 60℃・10秒 × 40 cycle
Melt:55 - 99℃
【0053】
(Primer)
・GAPDH:Hs_GAPDH_2_SG (QT01192646)
・TRPV4:Hs_TRPV4_1_SG (QT00077217)
【0054】
1倍(cDNAサンプルの10倍希釈のもの)、4倍、16倍希釈したサンプルから作成した検量線を用いて、各サンプルにおける遺伝子発現量を算出した。GAPDH (ハウスキーピング遺伝子)を内部標準としてmRNA量を補正し、陰性Controlに対する相対的な遺伝子発現量を算出した。その結果を
図2に示す。
図2の*は、実施例1の発現量について、t−testにより危険率p<0.05で比較例1との有意差が示されたことを示す。
【0055】
図2に示す結果から、葛花処理物を用いた実施例1では、葛花処理物を用いていない比較例1に比べて、有意にTRPV4遺伝子の発現量が増加したことがわかる。この結果から、葛花処理物を含有する本発明の剤が、TRPV4遺伝子発現の亢進剤として有用であること、また、TRPV4の発現を亢進する作用により、皮膚バリア機能改善剤、細胞間接着構造の形成促進剤及びタイトジャンクション形成促進剤としても有効であることが明らかである。