【実施例1】
【0024】
図3は本発明の実施形態の一例である実施例1に係る半導体装置を示している。本実施形態に係る半導体装置は、直流電圧源029の電気エネルギーをIGBT033とMOS制御ダイオード032を用いて所望の大きさに変換し、誘導性負荷031に供給する電力変換装置の一部として機能するよう構成される。誘導性負荷031は、IGBT033のコレクタに接続され、直流電圧源029―誘導性負荷031―IGBT033の経路で閉回路を形成している。このため、IGBT033がオンすれば直流電圧源029から誘導性負荷031に電力が供給される。MOS制御ダイオード032は、誘導性負荷031と並列に接続され、誘導性負荷031−MOS制御ダイオード032の経路で閉回路を形成している。MOS制御ダイオード032のアノードは、IGBT033のコレクタに接続されている。IGBT033がオフしたとき、誘導性負荷031に蓄えられた磁気エネルギーは、誘導性負荷031−MOS制御ダイオード032の閉回路で電流が流れることによって開放される。IGBT033のオン、オフを高速、かつ適切な時比率で繰り返すことにより、誘導性負荷031に所望の大きさの電力を供給することができる。
【0025】
本実施例に係る半導体装置及びそれを用いた電力変換装置では、スイッチングデバイスとしてIGBTを採用しているが、本発明はスイッチングデバイスとしてIGBTを用いた電力変換装置に限定されるものではなく、MOSFETやパワートランジスタなど、スイッチングデバイスの種類を問わずに適用できるものである。
【0026】
IGBT033をオン、オフさせるための制御信号は、入力端子030に入力される。入力端子030に入力された信号は二つに分岐され、その一方は遅延回路037へ入力される。遅延回路037は、入力された信号の論理レベルを、その内部に設定されている時間(以下、遅延時間と呼ぶ)遅延させて出力する。入力端子030より分岐したもう一方の信号はパルス生成回路036へ入力される。パルス生成回路036は、入力された信号の論理レベルが偽から真へ変化する瞬間に同期し、その内部に設定されている時間幅(以下、パルス幅と呼ぶ)のパルス信号を出力する。
【0027】
遅延回路037が出力した信号はドライブ回路035へ入力される。また、パルス生成回路036が出力した信号はドライブ回路034へ入力される。ドライブ回路034とドライブ回路035は、入力された信号の論理レベルを、駆動する半導体素子に応じて必要な大きさの電圧レベルへ変換し、必要に応じて絶縁して出力する。ドライブ回路035が出力した電圧はIGBT033のゲートへ印加され、IGBT033のオン、オフを制御する。ドライブ回路034が出力した電圧はMOS制御ダイオード032のゲートへ印加され、MOS制御ダイオード032の導通モード、逆回復モードを切り替え制御する。
【0028】
図4に、
図3で示す電力変換装置を動作させたときの回路各部の信号、電圧、電流波形を示す。ここで、本例では信号の論理レベルをLo、Hiの2値で表し、IGBT033はゲートに+15Vが印加されるとオン、0Vが印加されるとオフし、MOS制御ダイオード032はゲートに+15Vが印加されると逆回復モード、0Vが印加されると導通モードで動作するものとする。ただし、本発明は前記した信号の論理レベル、IGBTゲート電圧、MOS制御ダイオードゲート電圧に限るものではない。MOS制御ダイオード032の電圧波形は、MOS制御ダイオード032のアノードに対するカソードの電圧を示し、MOS制御ダイオード032の電流波形は、MOS制御ダイオード032のアノードへ流れ込む向きの電流を正として示している。
【0029】
時刻t
0において、入力信号、遅延回路037の出力信号、パルス生成回路036の出力信号はLoレベルである。また、IGBT033のゲートドライブ回路035、MOS制御ダイオード032のゲートドライブ回路034の出力電圧は0Vであり、IGBT033、MOS制御ダイオード032のゲート電圧は0Vである。IGBT033のゲート電圧が0Vであるため、IGBT033はオフしており、誘導性負荷031に流れる電流はMOS制御ダイオード032を通して還流している。MOS制御ダイオード032のゲート電圧が0Vであるから、MOS制御ダイオード032は導通モードである。時刻t
0からt
1の間、MOS制御ダイオード032に電流が流れ続けるが、MOS制御ダイオード032は導通モードであるため、その順方向電圧降下は小さく、導通損失は小さい。
【0030】
時刻t
1において、入力信号がLoからHiに立ち上がる。これに応じてパルス生成回路036はパルス信号を出力し、パルス生成回路036の出力信号がLoからHiに立ち上がる。これに応じてMOS制御ダイオード032のゲートドライブ回路034の出力電圧は0Vから+15Vに立ち上がり、MOS制御ダイオード032のゲートに+15Vが印加される。このため、MOS制御ダイオード032は導通モードから逆回復モードに切り替わり始める。時刻t
1からt
2の間、MOS制御ダイオード032は導通モードから逆回復モードに切り替わる。このため、MOS制御ダイオード032の内部に蓄積している電荷が減少していき、順方向電圧降下が増大していく。
【0031】
時刻t
2において、MOS制御ダイオード032内部の電荷は十分に減少し、その順方向電圧降下が増大する。ただし、順方向電圧降下の増大は収束値へ漸近して変化するため、ここでは、時刻t
1における値と収束値の差の90%まで増大した時点をt
2と定義し、この時点で、MOS制御ダイオード032は導通モードから逆回復モードへ切り替わったとする。時刻t
2からt
3の間、MOS制御ダイオード032が逆回復モードで誘導性負荷031の電流が還流する。
【0032】
時刻t
3において、遅延回路037の出力信号がLoからHiに立ち上がる。これは、時刻t
1において遅延回路037に入力された入力信号の立ち上がりが、遅延回路037の内部に設定された遅延時間を経て出力されたものである。これに応じてIGBT033のゲートドライブ回路035の出力電圧は0Vから+15Vに立ち上がり、IGBT033のゲートに+15Vが印加される。このため、IGBT033はオンし始める。時刻t
3からt
4の間、IGBT033がオンすることに伴い、MOS制御ダイオード032は逆回復動作をする。このため、MOS制御ダイオード032の内部に蓄積されていた電荷が吐き出されることにより逆回復電流が流れ、MOS制御ダイオード032に逆回復損失が発生する。ただし、このときMOS制御ダイオード032は逆回復モードであるため、その内部に蓄積されている電荷は少なく、逆回復電流は小さくなる。したがって、MOS制御ダイオード032の逆回復損失は小さい。
【0033】
時刻t
4において、MOS制御ダイオード032の内部に蓄積している電荷は全て吐き出され、逆回復電流はゼロになり、逆回復動作を終える。ただし、逆回復電流はゼロへ漸近して変化するため、ここでは、逆回復電流がそのピーク値の10%まで減少した時点をt
4と定義し、この時点で、MOS制御ダイオード032は逆回復動作を終えたとする。同時に、誘導性負荷031に流れる電流は全てIGBT033を流れる。時刻t
4からt
5の間、MOS制御ダイオード032は逆バイアス状態となり、非導通である。このため、MOS制御ダイオード032の内部は空乏化している。
【0034】
時刻t
5において、パルス生成回路036の出力信号がHiからLoに立ち下がる。これは、時刻t
1において入力された入力信号に応じてパルス生成回路036がパルス信号を出力してから、パルス生成回路036の内部に設定されたパルス幅を経て、パルス信号が立ち下がったものである。これに応じてMOS制御ダイオード032のゲートドライブ回路034の出力電圧は+15Vから0Vに立ち下り、MOS制御ダイオード032のゲートに0Vが印加される。このため、MOS制御ダイオード032は逆回復モードから導通モードに切り替わり始める。時刻t
5からt
6の間、MOS制御ダイオード032は逆回復モードから導通モードに切り替わる。このとき、MOS制御ダイオード032は逆バイアス状態であり、MOS制御ダイオード032の内部は空乏化しており、蓄積電荷が存在しない。このため、この切り替えに際しては電荷の増減を伴わない。したがって、MOS制御ダイオード032の逆回復モードから導通モードへの切り替えは速やかに行われる。
【0035】
時刻t
6において、入力信号がHiレベルからLoレベルに立ち下がる。時刻t
6からt
7の間、MOS制御ダイオード032は非導通である。
【0036】
時刻t
7において、遅延回路037の出力信号はHiレベルからLoレベルに立ち下がる。これは、時刻t
6において遅延回路037に入力された入力信号の立ち下りが、遅延回路037の内部に設定された遅延時間を経て出力されたものである。これに応じてIGBT033のゲートドライブ回路035の出力電圧は+15Vから0Vに立ち下り、IGBT033のゲートに0Vが印加される。このため、IGBT033はオフし始める。時刻t
7からt
8の間、IGBT033がオフすることに伴い、MOS制御ダイオード032が導通する。このとき、MOS制御ダイオード032は導通モードであるため、順方向電圧降下が小さく、導通損失は小さい。
【0037】
時刻t
8において、IGBT033は完全にオフし、誘導性負荷031に流れている電流は全てMOS制御ダイオード032を通して還流する。時刻t
8からt
9において、MOS制御ダイオード032が導通するが、MOS制御ダイオード032は導通モードであるため、順方向電圧降下が小さく、導通損失は小さい。
【0038】
時刻t
9において、入力信号、遅延回路037の出力信号、パルス生成回路036の出力信号はLoレベルである。IGBT033のゲート電圧は0Vであるため、IGBT033はオフしており、誘導性負荷031に流れる電流はMOS制御ダイオード032を通して還流している。MOS制御ダイオード032のゲート電圧は0Vであるから、MOS制御ダイオード032は導通モードである。以上から、時刻t
9において、本電力変換装置の回路各部の状態は、時刻t
0のものと等しい。すなわち、時刻t
0からt
9までを回路動作一周期として、時刻t
9以降、新たな周期として時刻t
0からt
9までの動作が繰り返される。
【0039】
ここで、遅延回路037の遅延時間の設定方法について述べる。遅延時間は時刻t
1からt
3までの時間幅(t
3−t
1)に相当する。このうち、時刻t
1からt
2の時間幅(t
2−t
1)はMOS制御ダイオード032が導通モードから逆回復モードへ切り替わるために必要な時間である。時刻t
3からMOS制御ダイオード032は逆回復を始めるが、この時点でMOS制御ダイオード032は完全に逆回復モードに切り替わっていることが望ましい。さもなければ、時刻t
3からt
4にかけてMOS制御ダイオード032が逆回復するとき、その内部の電荷量が十分に減少していない状態で逆回復を始めるため、逆回復損失が増大する。このことから、遅延時間は(t
2−t
1)と一致するか、それより大きいことが望まれる。
【0040】
一方、遅延時間が(t
2−t
1)より大きいとき、すなわち(t
3−t
2)がゼロ以上のとき、時刻t
2からt
3の期間では、MOS制御ダイオード032は逆回復モードで順方向電流が流れる。よって内部の電荷が少なく順方向電圧降下が大きいため、導通損失が大きい。したがって、この期間に生じる導通損失を最小化するためには、時間幅(t
3−t
2)は可能な限り短いことが望ましい。以上を総合すると、遅延時間はMOS制御ダイオード032が導通モードから逆回復モードへ切り替わるために必要な時間幅(t
2−t
1)と一致することが望ましい。
【0041】
次に、パルス生成回路036のパルス幅の設定方法について述べる。パルス幅は時刻t
1からt
5までの時間幅(t
5−t
1)に相当する。このうち、時刻t
1からt
3までの時間幅(t
3−t
1)は遅延時間であり、上で述べた方法で決定すればよい。時刻t
3からt
4の期間でMOS制御ダイオード032は逆回復動作をするから、この期間MOS制御ダイオード032は逆回復モードに保たれることが望ましい。よってパルス幅は(t
4−t
1)と一致するか、それより大きいことが望まれる。ただし、時刻t
7においてIGBT033がオフし、MOS制御ダイオード032が導通するより前には、再びMOS制御ダイオード032は導通モードとなっていることが望ましい。さもなければ、逆回復モードで電流が流れることなり、導通損失が増大する。このことから、時刻t
4においてMOS制御ダイオード032の逆回復動作が終了すれば、ただちにMOS制御ダイオード032を導通モードへ切り替えれば十分である。したがって、パルス幅は(t
4−t
1)と一致するように設定すればよい。