特許第6338146号(P6338146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338146
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】織成時の耳部利用の繊維材料
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/38 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   D02G3/38
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-98858(P2014-98858)
(22)【出願日】2014年5月12日
(65)【公開番号】特開2015-214776(P2015-214776A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(73)【特許権者】
【識別番号】594134877
【氏名又は名称】宮田布帛有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082832
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 邦章
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】宮田 泰次
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公開第02484912(GB,A)
【文献】 特開2013−091714(JP,A)
【文献】 特開2013−213305(JP,A)
【文献】 特開2006−161184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00− 3/48
D02J 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を用いてシート状の織物を織成するときに発生するその側端部の耳部を切断して耳糸で接続された耳部を利用するもので、
オーバーロックやロックミシンのメローミシンの給糸部に所定径のパイプを設置して上記織成時に切断された耳部を上記パイプに挿通して一連の糸状として給糸して、この一連の糸状とした耳部に熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して複合繊維糸を形成したことを特徴とする織成時の耳部利用の繊維材料。
【請求項2】
炭素繊維を用いてシート状の織物を織成するときに切断された耳部のからみ糸を4本として所定径のパイプに挿通して一連の糸状として複合繊維糸を形成したことを特徴とする請求項1に記載の織成時の耳部利用の炭素繊維材料。
【請求項3】
炭素繊維織成時の耳部利用の一連の糸状の耳部に、耳糸に含まれる炭素繊維材料の含有率に対応して熱可塑性の合成繊維糸の引き揃え糸を所要の本数として引き揃えて熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して複合繊維糸を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の織成時の耳部利用の炭素繊維材料。
【請求項4】
炭素繊維を含むシート状の織物を織成するときに発生するその側端部の耳部を切断して耳糸で接続された耳部を利用するもので、
オーバーロックやロックミシンのメローミシンで一連の糸状とした耳部に熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して形成した複合繊維糸を糸管に巻き取ったことを特徴とする請求項1ないし3に記載の織成時の耳部利用の炭素繊維材料。
【請求項5】
炭素繊維織成時の耳部利用の炭素繊維材料を加熱して熱可塑性の合成繊維糸を溶融して炭素繊維に一体的に接合し、この炭素繊維を一体的に接合した複合繊維糸をペレット状に切断したことを特徴とする請求項ないし4のいずれかに記載の織成時の耳部利用の炭素繊維材料。
【請求項6】
炭素繊維織成時の耳部利用の炭素繊維材料において、成繊維糸を水溶性樹脂糸としたことを特徴とする請求項ないし4のいずれかに記載の織成時の耳部利用の炭素繊維材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物分野における、特に織物製造工程で生成される織成時の耳部利用の繊維材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維を強化材とし、樹脂と複合化した炭素繊維強化複合材料は、生産性やリサイクル性およびコストの観点から、樹脂にナイロンやポリエステル(PET)およびポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と複合化する材料開発が行われている。
【0003】
このような炭素繊維強化複合材料は、近年、金属代替材料として需要が大きく伸びており、今後一層用途拡大が期待されている。特に、軽量で優れた機械的性質を有することから、航空機のみらず自動車等の輸送機への適用が拡がっている。それらの一次構造部材への適用には、炭素繊維の優れた強度特性を活かすために連続繊維の強化形態とした織物を作成し、樹脂を含浸させることで成形を実施している。たとえば、本出願人らは、下記の特許文献1のように織物の作成技術を利用して炭素繊維強化複合材料を開発している。
【0004】
一般に、織物の作成は、平行に並べられたたて糸を開口し、その開口時によこ糸を挿入することで形成されるが、よこ糸の挿入直後、織物の両端のよこ糸は織機に付属のカッターで切断される。その切断された長さ数cm程度のよこ糸は散乱しないようにからみ糸というポリエステル等の合成繊維糸の耳糸で絡め、連続した形態となって産出される。これらの繊維は、織物の端部から生成されて廃棄処理されるため、捨て耳糸と呼ばれている。この耳部は、からみ糸から外れやすくてハンドリングが容易でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−143482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭素繊維織物の需要が増大しており、したがってその副産物として生成されて廃棄される耳糸で連結された耳部も増大してその処理に困っており、これらの素材の特性を活かし、効率的な利用技術を開発することが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような点に鑑みたもので、上記の課題を解決するために、炭素繊維を用いてシート状の織物を織成するときに発生するその側端部の耳部を切断して耳糸で接続された耳部を利用するもので、オーバーロックやロックミシンのメローミシンの給糸部に所定径のパイプを設置して上記織成時に切断された耳部を上記パイプに挿通して一連の糸状として給糸して、この一連の糸状とした耳部に熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して複合繊維糸を形成したことを特徴とする織成時の耳部利用の繊維材料を提供するにある。
【0008】
また、炭素繊維を用いてシート状の織物を織成するときに切断された耳部のからみ糸を4本として所定径のパイプに挿通して一連の糸状として複合繊維糸を形成したことを特徴とする織成時の耳部利用の炭素繊維材料を提供するにある。
【0009】
また、炭素繊維織成時の耳部利用の一連の糸状の耳部に、耳糸に含まれる炭素繊維材料の含有率に対応して熱可塑性の合成繊維糸の引き揃え糸を所要の本数として引き揃えて熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して複合繊維糸を形成したことを特徴とする織成時の耳部利用の炭素繊維材料を提供するにある。
【0010】
また、炭素繊維を含むシート状の織物を織成するときに発生するその側端部の耳部を切断して耳糸で接続された耳部を利用するもので、オーバーロックやロックミシンのメローミシンで一連の糸状とした耳部に熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して形成した複合繊維糸を糸管に巻き取ったことを特徴とする織成時の耳部利用の炭素繊維材料を提供するにある。
【0011】
さらに、炭素繊維織成時の耳部利用の炭素繊維材料を加熱して熱可塑性の合成繊維糸を溶融して炭素繊維に一体的に接合し、この炭素繊維を一体的に接合した複合繊維糸をペレット状に切断したことを特徴とする織成時の耳部利用の炭素繊維材料を提供するにある。
【0012】
さらにまた、炭素繊維織成時の耳部利用の炭素繊維材料において、成繊維糸を水溶性樹脂糸としたことを特徴とする織成時の耳部利用の炭素繊維材料を提供するにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の織成時の耳部利用の炭素繊維材料は、炭素繊維を用いてシート状の織物を織成するときに発生するその側端部の耳部を切断して耳糸で接続された耳部を利用するもので、オーバーロックやロックミシンのメローミシンの給糸部に所定径のパイプを設置して上記織成時に切断された耳部を上記パイプに挿通して一連の糸状として給糸して、この一連の糸状とした耳部に熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して複合繊維糸を形成したことによって、炭素繊維材料の織物の織成時に切断された耳部を一連の糸状としてオーバーロックやロックミシンのメローミシンで巻縫い掛合して複合繊維糸に形成できて、からみ糸から外れやすい耳部のハンドリング性を向上でき、また大量に廃棄される耳部をその素材の特性を活かして安価にシート状の織物やペレット等に再生できて有効活用することができる。
特に、オーバーロックやロックミシンのメローミシンで一連の糸状とした耳部を、縫合糸でループ状に巻縫い掛合するため、耳部の炭素繊維材料の脱落を防止することができてからみ糸から外れやすい耳部のハンドリング性を高められて有効活用できる。
【0014】
また、炭素繊維を用いてシート状の織物を織成するときに切断された耳部のからみ糸を4本として所定径のパイプに挿通して一連の糸状として複合繊維糸を形成したことによって、炭素繊維織成時に切断された耳部を一連の糸状の複合繊維糸に形成する巻き縫いするまでの工程で、耳部のからみ糸が4本なので切断された耳部の強化繊維の脱落を防止することができる。
【0015】
さらに、炭素繊維織成時の耳部利用の一連の糸状の耳部に、耳糸に含まれる炭素繊維材料の含有率に対応して熱可塑性の合成繊維糸の引き揃え糸を所要の本数として引き揃えて熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して複合繊維糸を形成したことによって、耳糸に含まれる強化繊維の単位長さ当たりの重量と樹脂繊維糸の本数の構成要件から強化繊維の含有率を調整、制御することができ、この一連の糸状の複合繊維糸を加熱すると、炭素繊維に熱可塑性の合成繊維糸の引き揃え糸、熱可塑性の合成繊維糸のループ状の縫合糸を溶融して一体的に含浸して接合できて強固な炭素繊維強化材料を得ることができ、大量に廃棄される耳部をその炭素繊維の素材の特性を活かして安価に炭素繊維強化がはかれる織物状のシートやペレット等に再生できて有効活用することができる。
【0016】
またさらに、炭素繊維を含むシート状の織物を織成するときに発生するその側端部の耳部を切断して耳糸で接続された耳部を利用するもので、オーバーロックやロックミシンのメローミシンで一連の糸状とした耳部に熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して形成した複合繊維糸を糸管に巻き取ったことによって、上記したように織物の織成時に切断された耳部を一連の糸状の複合繊維糸に形成できて糸管に巻き取れ、ハンドリング性を向上でき、また大量に廃棄される耳部をその素材の特性を活かして安価にシート状の織物やペレット等に再生できて有効活用することができる。
【0017】
さらに、炭素繊維織成時の耳部利用の炭素繊維材料を加熱して熱可塑性の合成繊維糸を溶融して炭素繊維に一体的に接合し、この炭素繊維を一体的に接合した複合繊維糸をペレット状に切断したことによって、上記のように炭素繊維織成時に切断された耳部を炭素繊維強化複合成形材料のペレットに安価に再生できて、射出成形やプレス成形に混合して有効に再利用することができる。
【0018】
さらにまた、炭素繊維織成時の耳部利用の炭素繊維材料において、成繊維糸の縫合糸を水溶性樹脂糸としたことによって、炭素強化複合成形材料のペレットを生コンクリートや軽量壁材等に混合しても、生コンクリートや軽量壁材等との混合時に成繊維糸の水溶性樹脂糸が水分で溶解し、均一状に混合できるとともに、樹脂繊維の絡みなどのトラブルを防止することができて好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例の繊維織成の概要説明用図、
図2】同上の側端部を切断した耳部の説明図、
図3】本発明の切断された耳部から一連の糸状の繊維糸の成形説明図、
図4】同上の切断された耳部の写真(a)と耳糸から外れた状態の写真(b)、
図5】同上の切断された耳部の炭素繊維糸を巻き縫いして複合繊維糸を成形する概要説明図、
図6】同上の切断された耳部の炭素繊維糸に引き揃え糸を供給して巻き縫いして複合繊維糸を成形する概要説明図、
図7】同上の巻き縫いされた複合繊維糸の拡大斜視図、
図8】同上の炭素繊維の織成から切断された耳部の写真(a)と糸管に巻き取った写真(b)、
図9】同上の複合繊維糸の拡大写真、
図10】同上の他の炭素繊維の織成から切断された耳部の写真とその複合繊維糸の写真、
図11】同上の参考用の綿繊維の織成から切断された耳部の写真(a)と複合繊維糸の写真(b)、
図12】同上の複合繊維糸の拡大写真、
図13】同上のさらに他の切断された耳部の炭素繊維糸を組紐機で編成した筒状体に挿通して形成した複合繊維糸の写真(a)とその長く形成した複合繊維糸の写真(b)、
図14】同上の複合繊維糸の拡大写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の織成時の耳部利用の繊維材料は、炭素繊維を用いてシート状の織物を織成するときに発生するその側端部の耳部を切断して耳糸で接続された耳部を利用するもので、
オーバーロックやロックミシンのメローミシンの給糸部に所定径のパイプを設置して上記織成時に切断された耳部を上記パイプに挿通して一連の糸状として給糸して、この一連の糸状とした耳部に熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸をループ状に巻縫い掛合して複合繊維糸を形成したことを特徴としている。
【0021】
織成時の耳部利用の繊維材料1は、図1のように炭素繊維等の繊維2を用いてシート状の織物3を織成するときに発生するその両側端部の耳部4をそれぞれ切断して耳糸5で連結された耳部4を利用するもので、図2のように両側端部の切断された数cm程度の長さの繊維2の耳部4は図3図4(a)のようにそれぞれ耳糸5で連結されており、通常では両側端部の大量に発生する耳部4は廃棄処分される。通常では、耳部4は、図4(a)のように耳糸5から外れやすく、ハンドリングが容易でない。
【0022】
本発明者らは、炭素繊維強化複合材料について研究、開発を行ってきており、炭素繊維織成時の耳部4の利用について試作研究の結果、図3のように耳糸5で接続された耳部4をパイプ6に挿通していくと、一連の糸状となっていくことが判明された。そのため、本発明者らが、従来から研究、開発してきたメローミシンを利用した炭素繊維強化複合材料の成形手段が利用できたものである。
【0023】
すなわち、パイプ6に挿通していって糸状となった耳糸5で接続された耳部4は、図5のようにオーバーロックやロックミシンのメローミシン7に供給し、熱可塑性の合成繊維糸等の縫合糸8をループ状に巻縫い掛合したり、図6のように熱可塑性の合成繊維糸等の引き揃え糸9を引き揃えて給糸して縫合糸8をループ状に巻縫い掛合して耳部利用の繊維材料1の複合繊維糸10を再生することができる。
【0024】
繊維2は、炭素繊維織物、ガラス繊維織物等の無機繊維や、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維などの様々のものが適用できる。炭素繊維は、マルチフィラメントを束ねたポリアクリロニトリルのPAN系の炭素繊維や石油ピッチのピッチ系の炭素繊維などが使用でき、PAN系は樹脂をマトリックスとする複合材料として優れた特性を有するので、特に軽量構造用に適している。上記炭素繊維のフィラメントは、直径が約7〜10μmといった極細であり、これらのフィラメントを上記したように1000〜12000本を束ねて0.数mm〜1mm位の太さとし、その際毛羽の発生を防止するのに少量の樹脂をコーティングするサイジング処理がなされている。
【0025】
からみ糸の耳糸5は、一般的にはポリエステルであるが、縫合糸8、引き揃え糸9の素材に対応して、ナイロンやポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンを含む熱可塑性の合成繊維糸が使用でき、織機に据えつけるからみ糸をマトリックス樹脂とする同じ素材の糸を用いて織物を製造できる。ただし、からみ糸の全体に占める割合が少ない場合は、変更する必要はない。また、巻き縫いするまでの工程で、強化繊維の脱落を防止するには、通常からみ糸を4本に増やすことで防ぐことができる。
【0026】
縫合糸8は、上記の繊維2に対応して、ポリプロピレン、ナイロン6、66や、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの汎用プラスチックからスーパーエンプラの熱可塑性の合成繊維糸、天然繊維の縫合糸が使用でき、0.1〜10デニールの極細のものが嵩高とならずに掛合できて蜜な織物に形成できるが、太状や嵩高状の炭素繊維のものでは必要により100〜350デニールの適宜の太さの糸を使用することができる。また、縫合糸8は、メローミシン7に供給して2〜10mmピッチで炭素繊維等の繊維2、引き揃え糸9にループ状に係合していくのが好ましく、炭素繊維等がばらけたり、毛羽だったり、剥がれたりするのを有効に防止できて好ましい。熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸8は圧縮成形時に加熱溶融して複合マトリックスとでき、またループ状の巻縫いのピッチを変えることで、容易に樹脂含有量を調整できて、糸および織物の構造的な特徴を生かした所定の樹脂含有量の繊維強化がはかれる炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0027】
引き揃え糸9は、縫合糸8と同様に繊維2に対応して、ポリプロピレン、ナイロン6、66や、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの汎用プラスチックからスーパーエンプラの熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸が使用できる。太状や嵩高状の炭素繊維のものでは必要により100〜350デニールの適宜の太さの糸を使用することができ、耳糸5に含まれる強化繊維の単位長さ当たりの重量と樹脂繊維糸の太さや本数などの構成要件から強化繊維の含有率を調整、制御することができる。なお、織物の規格(よこ糸の太さ、よこ糸密度)により、耳糸5の単位長さ当たりにおける強化繊維の重量が変化するが、それに応じて樹脂糸の規格を変化して作製できる。
【0028】
綿の繊維2は、先染織物などではその耳糸5にカラフルな色彩を活かした用途も考えられ、縫合糸8、引き揃え糸9に先染の綿糸やレーヨンおよび合成繊維などを利用することで、デザイン性と素材の風合いを活かした用途に適用することができる。
【0029】
上記繊維2の耳部4は、図5図6のように織機の産出と同時給糸したり、糸管に巻き取ってメローミシン7に給糸し、メローミシン7の縫合機構の縫製個所において各糸は複合化されて1本の複合繊維糸10となるが、繊維2、引き揃え糸9、縫合糸8の張力を適宜に調整することにより、繊維2、引き揃え糸9にうねりを与えたりして作製できる。なお、本発明の趣旨の範囲にもとづいて上記したように繊維2、縫合糸8、引き揃え糸9は対象物によって上記した適宜の太さ、適宜の数とすることができる。
【0030】
上記した縫合糸8は、図5図6のようにロックミシンのメローミシン7に上記した繊維2と引き揃え糸9を引き揃えたりしてメローミシン7に供給して掛合し、搖動昇降するミシン針のナイロンやポリプロピレン等の熱可塑性の合成繊維糸の針糸に縫合糸と同一のナイロンやポリプロピレン等の熱可塑性の合成繊維糸の上糸、下糸をかがり縫いして巻縫するなどによって、複合繊維糸10を得ることができる。
【0031】
このようにして作製した複合繊維糸10は、耳糸4の形態では炭素繊維等が脱落して取り扱いが困難であったが、糸状に加工することで、糸管に巻き取ったりできてハンドリング性が大幅に向上できる。また、巻き縫い加工では、縫合糸8が一部切断しても3本の糸で不連続の炭素繊維が保持され、複合繊維糸10の形態を保てる。しかし、撚糸加工などの場合では、一部の切断で繊維2の把持効果を失ってしまうことがある。
【0032】
作製した複合繊維糸10は、織機や編機に供給して、通常の糸のようにして織成したり、編成したりできる。また、上記のように巻縫した複合繊維糸10を織成したり、編成したりした炭素繊維織成材料は、所要の金型を用いて加熱圧縮することで、複合繊維糸10 を構成する熱可塑性樹脂糸の縫合糸8、引き揃え糸9が溶融してシートの織目や繊維間に含浸し、炭素繊維の繊維2に一体的に含浸状態に接合できて、糸および織物、織物の構造的な特徴を生かした繊維強化がはかれ、またうねりによって織物や織物の成形時の伸度を大きくできて、高強度、高弾性率を有する所要の曲面形状の成形品を成形できる。
【0033】
このように炭素繊維の繊維2を織成するときに、両側部を切断して耳糸5で接続された耳部4が大量に産業廃棄物として処分されていたものが、一連の糸状とした炭素繊維等の繊維2に熱可塑性の合成繊維糸の引き揃え糸9を引き揃えたりして、熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸8を巻縫い掛合して一連の糸状の複合繊維糸10を形成することによって、熱可塑性の引き揃え糸9や縫合糸8を繊維2に一体的に含浸状態に溶融接合できて、安価に繊維強化がはかれる繊維強化複合織物材料に再生できるものである。
【0034】
また、作製した炭素繊維の複合繊維糸10は、管状等の加熱炉の加熱管に挿入して加熱処理したりして、合成繊維糸の引き揃え糸9や縫合糸8を炭素繊維2に含浸して一体化することができる。そして、熱可塑性樹脂が固まった炭素繊維強化の複合繊維糸10をストランドカッターなどで数mm〜数mの長さに切断してペレットを作製できる。必要により、数m〜十数mの程度の長さで切断して長尺の材料を作製することもでき、また繊維含有率を調整した複合繊維糸10にできて、安価に所要のペレットの炭素繊維強化複合材料に有効に再生できるものである。
【0035】
上記ペレットは、炭素繊維強化用材料に混入して使用できるもので、たとえば生コンクリート、軽量壁材、タイヤ、ガラス繊維強化材などに混入し、これらの強度を向上するようにできる。この場合、縫合糸8、引き揃え糸9に水溶性樹脂糸を使用すると、生コンクリートや軽量壁材等との混合時に縫合糸8、引き揃え糸9が水分で溶解し、均一状に混合できるもので、樹脂繊維の絡みなどのトラブルを防止することができて好ましい。水溶性樹脂糸としては、水溶性アルギン繊維糸や水溶性ポリビニルアルコール系繊維糸などが利用できる。
【0036】
上記では、パイプ6に挿通していって糸状となった耳糸5で接続された耳部4を、オーバーロックやロックミシンのメローミシン7に供給して巻縫い掛合したが、織成時に切断されてパイプ6に挿通して一連の糸状とした耳部4を、参考用として組紐機や丸編機で編成した筒編体に挿通して複合繊維糸10を形成することもできる。そして、これらの複合繊維糸10をペレット状に切断したり、上記のように成繊維糸を水溶性樹脂糸として生コンクリートや軽量壁材等との混合時に水分で溶解し、均一状に混合するようにもできる。
【0037】
なお、本発明では、炭素素繊維を製織するときに、両側部を切断して耳糸5で接続された耳部4がテーパー状のパイプ6に挿通して一連の糸状としたが、パイプ6の口径は少なくとも切断された耳部4の長さの2分の1以下(好ましくは5〜10mm位)としたり、ラッパ状等のパイプ状として耳糸5で連結された一連の糸状とすることもできるもので、上記した本発明の趣旨にもとづいていろいろな変形態様を実施することができるものである。
【実施例1】
【0038】
図8図9は、本発明の一実施例を示すものである。炭素繊維の繊維2は、表1のように太さ3K、よこ糸密度12〜13本/インチとしてその織成時の製織工程で両端部が切断され、図8(a)のように数cmの炭素繊維の繊維2がぞれぞれ16texのポリエステルの4本のからみ糸の耳糸5で連結されたものである。図3のように耳糸5で接続された耳部4を数mm径のテーパーのついた細状のパイプ6に挿通していくと、長さ方向に配列して一連の糸状とすることができる。
【0039】
表1 複合繊維糸の仕様表
【表1】
【0040】
そして、パイプ6に挿通していって一連の糸状となった耳糸5で接続された耳部4を、図6のようにロックミシンのメローミシン7に供給し、300Dのモノフィラメントのポリエステルの縫合糸8を3本を巻き縫いピッチ2回/インチで、300Dのマルチフィラメントのポリエステルの引き揃え糸9を6本供給し、3本のミシン針に給糸された熱可塑性樹脂糸の縫合糸8を、炭素繊維2と引き揃えられた熱可塑性樹脂の引き揃え糸9の周りを巻縫いし、メローミシン7で炭素繊維の複合繊維糸10を作製した。図8(a)は糸管に巻き取った状態のものである。
【0041】
耳部利用の炭素繊維の複合繊維糸10は、図9のように熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸8をループ状に一定のピッチで巻縫い掛合して炭素繊の繊維2をしっかりと拘束されており、脱落することはないことが分かる。中心部に黒く見えるのが炭素繊維で、その側部の透き通って見える糸がポリエステルの引き揃え糸9、縫合糸8である。繊維2の周囲をポリエステルの引き揃え糸9、縫合糸8が覆うことで、織成時、繊維2が直接に編み針に接触することがなく、また縫合糸8、引き揃え糸9をモノフィラメント糸、マルチフィラメント糸を用いることで摩擦係数を低下させることができて、製織性を向上させられる。
【0042】
炭素繊維の繊維2の曲げ剛性が高いと、ループ形成が困難になる。そこで、引き揃え糸9には、モノフィラメント糸よりもマルチフィラメント糸を用いることで、炭素繊維の繊維2の曲げ剛性の向上を抑えられる。また、メローミシン7での作製時に、炭素繊維の繊維2、引き揃え糸9、縫合糸9の張力を適宜に調整することにより、炭素繊維の繊維2、引き揃え糸9にうねりを与えたりして作製でき、うねりを与えることで、一層曲げ剛性を小さくすることができる。
【0043】
このようにして作製した複合繊維糸10は、織機に供給し、通常の糸のようにして織成できる。そして、たとえば、織成された炭素繊維織の複合繊維糸10やその織物のシートは、所要の金型に装填して所定温度に加熱して加熱プレスで圧縮成形すると、熱可塑性の合成繊維糸の縫合糸8、引き揃え糸9が溶融して炭素繊維束に一体的に含浸状態に接合できて、糸および織物の構造的な特徴を生かした繊維強化がはかれる成形品を成形できる。
【実施例2】
【0044】
図10は、本発明の他の実施例を示すものである。炭素繊維の繊維2は、表2のように太さ12K、よこ糸密度10〜11本/インチの炭素繊維の織成時の製織工程で両端部が切断されて数cmの炭素繊維の繊維2がぞれぞれ60texのポリエステルの4本のからみ糸の耳糸5で連結されている。上記したように耳糸5で接続された耳部4をパイプ6に挿通していくと、長さ方向に配列して一連の糸状とすることができる。
【0045】
表2 複合繊維糸の仕様表
【表2】
【0046】
図6のようにパイプ6に挿通していって糸状となった耳糸5で接続された耳部4を、ロックミシンのメローミシン7に供給し、300Dのモノフィラメントのポリエステルの縫合糸8を3本を巻き縫いピッチ2回/インチで、300Dのマルチフィラメントのポリエステルの引き揃え糸9を6本供給し、3本のミシン針に給糸された熱可塑性樹脂糸の縫合糸8を、炭素繊維2と引き揃えられた熱可塑性樹脂の引き揃え糸9の周りを巻縫いし、メローミシン7で炭素繊維の複合繊維糸10を作製した。図10の上部に示している。作製した炭素繊維の複合繊維糸10は、上記したように利用することができる。
【0047】
上記炭素繊維の複合繊維糸10からペレットを作製して、炭素繊維強化用材料に混入して使用できるもので、たとえば生コンクリート、軽量壁材、タイヤ、ガラス繊維強化材などに混入し、これらの強度を向上することができる。
【0048】
上記した炭素繊維の複合繊維糸10において、縫合糸8や引き揃え糸9に水溶性ポリビニルアルコール系繊維糸の水溶性樹脂糸を使用すると、熱水処理したり、生コンクリートや軽量壁材等との混合時に縫合糸8、引き揃え糸9が水分で溶解し、樹脂繊維の絡みなどのトラブルを防止することができて好ましい。なお、引き揃え糸9だけに水溶性樹脂糸を使用すると、溶解すれば、糸内部に空隙ができた複合繊維糸10を成形できて所要の保温性が要求される用途に利用することができる。また、このように複合繊維糸10から織物、編物、組物のプリフォームを作製後、熱水処理すると100%炭素繊維のプリフォームを作製することができる。
【実施例3】
【0049】
図11図12は、参考用を示すものである。繊維2として綿の先染織物である播州織についてのものである。表3のように太さ147.6tex、よこ糸密度72本/インチの織成時の製織工程で両端部が切断され、図13のように数cmの繊維2がぞれぞれ30texのポリエステルの4本のからみ糸の耳糸5で連結されている。上記と同様に、耳糸5で接続された耳部4をパイプ6に挿通して長さ方向に配列して一連の糸状とすることができる。
【0050】
表3 複合繊維糸の仕様表
【表3】
【0051】
そして、パイプ6に挿通していって糸状となった耳糸5で接続された耳部4を、ロックミシンのメローミシン7に供給し、300Dのモノフィラメントのポリエステルの縫合糸8を3本を巻き縫いピッチ2回/インチで、300Dのマルチフィラメントのポリエステルの引き揃え糸9を6本供給し、3本のミシン針に給糸された合成樹脂糸の縫合糸8を、繊維2と引き揃えられた合成樹脂の引き揃え糸9の周りを巻縫いし、メローミシン7で図12のように複合繊維糸10を作製した。
【0052】
参考例では、前記の炭素繊維のものと異なり、縫合糸8の間から表面に綿繊維が多く現れている。これは、炭素繊維と比較して、繊維長が短いことやばらつきのあることで表面に繊維が浮いた状態の個所が多く見られる。先染糸の色彩による意匠性だけでなく、天然繊維の優れた触感を活かした用途にも利用でいる。
【実施例4】
【0053】
図13図14は、さらに他の参考例を示すものである。実施例2と同様に炭素繊維の繊維2は、表4のように太さ12K、よこ糸密度10〜11本/インチの炭素繊維の織成時の製織工程で両端部が切断されて数cmの炭素繊維の繊維2がぞれぞれ60texのポリエステルの4本のからみ糸の耳糸5で連結されている。上記したように耳糸5で接続された耳部4をパイプ6に挿通して一連の糸状とすることができる。
【0054】
表4 複合繊維糸の仕様表
【表4】
【0055】
そして、組紐機で、300Dの熱可塑性樹脂糸のモノフィラメントのポリエステルの組紐糸11を12本供給して筒状に編成し、その中に上記した一連の糸状とした耳部4を挿通して複合繊維糸10を作製したものである。本例についても、上記のようにマトリックス樹脂にできる。
【0056】
なお、組紐機での組紐糸として使用する素材は、上記のような熱可塑性樹脂糸だけでなく、金属繊維などの無機繊維も使用することができる。
【0057】
このように本発明は、炭素素繊維を製織するときに、両側部を切断して耳糸で接続された耳部が大量に産業廃棄物として処分されていたものを、繊維強化がはかれる織物等のシートやペレット等の炭素繊維強化複合材料に有効に再生できたり、特異な意匠性を有する複合繊維糸10にすることができるものであり、上記した本発明の趣旨にもとづいていろいろな変形態様を実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、従来の金属や樹脂の成形品に代替して利用できるもので、機械部品、FRPやCFRPと同様に自動車のボディ、バンパーやそれらの部品、ボートやヨットの船のボディやそれらの部品、列車のボディやそれらの部品、スポーツ分野のテニスラケット、ゴルフのクラブシャフト、ヘッド、スキー板、スノーボート、日用品のヘルメット、安全靴、アタッシュケース、OA分野のパソコンや携帯電話などのケースや部品、土木、建築分野の補強材、TV、医療機器、レーザー装置、軍用のヘルメットや防弾チョッキ、その他の用途の軽量、高い強度を必要とする物品に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…繊維材料 2…繊維 3…織物 4…耳部 5…耳糸 6…パイプ
8…縫合糸 9…引き揃え糸 10…複合繊維糸 11…組紐糸
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14